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Tell us terrible Terrors:あけて その⑦

「吉坊や、お友達は外に出たんだね?」
吉継が居間に向かうと、祖母が声をかけてきた。
「うん、2人は自分の目で村を見て回りたいんだって」
「そうかい、お菓子でも出してやろうと思ったんだがねぇ……」
「そうだ祖母ちゃん。もしかしたら日ぃ跨ぐことになっちゃうかもしれないんだけど、先輩たち泊めても良い?」
「もちろんさ。それじゃぁ晩ご飯は腕によりをかけないとだねぇ」
「ははは、お構いなく……」
雑談を交わしながらも祖母の向かいに座り、吉継は本題を切り出すことにした。
「そういえば祖母ちゃん、聞きたいことがあるんだよ」
「何だい、実習に関わるのかい?」
「うん。ねえ祖母ちゃん、“八尺様”って知ってる?」
祖母は僅かに目を見開くと、背筋を伸ばして吉継の目を見つめ返した。
「…………吉継や、お前、学校でどんな勉強をしてるんだい?」
「普通の勉強だよ……まぁ、ちょっと特殊な事情はあるんだけど……」
「…………そうかい。お祖母ちゃんにはその“事情”っての、教えてくれないのかい?」
吉継は数秒思案してから口を開いた。
「……祖母ちゃん。俺が“八尺様”の名前を挙げた瞬間雰囲気変わったけどさ。『実在する』って前提で良い?」
祖母は静かに頷いた。
「……そっか。祖母ちゃん、俺たちは“八尺様”を倒しに来たんだ……あるいは封印。だから、少しでも情報が欲しい」
その言葉に、祖母は天を仰いで溜め息を吐いた。
「……吉継や、お前の学校じゃ子供を危険に晒すのかい?」
「大丈夫だって、祖母ちゃん。大丈夫だからこそ、俺たちが来れたんだから。本当に駄目なやつなら、学生にこの話下りてこなかったはずだもん」
「……そうは言ってもねぇ…………自分の孫が危険なものに近づこうとしてるなんて、飲み込めないものなんだよ」
「でも祖母ちゃん。情報が無きゃ、避けられる危険も避けられないよ。頼むよ、先輩たちのためにも、知ってることがあるなら教えてほしいんだ。どんな奴なのか、何ができるのか、弱点なんかはあるのか、そういうの」
力説する吉継に目を細めると、祖母は立ち上がって台所に向かった。
「話せることはそりゃ、たくさんあるさ。長くなるし、お茶でも飲みながら話そうか」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑥

吉継の祖母宅は、村内でもやや標高の高い、奥まった場所にあった。左右を畑に挟まれた道を抜け、上り坂を越えた先に、平屋建ての民家が横たわっている。吉継は慣れた様子で敷地内に踏み入り、引き戸の玄関扉を叩いた。
「祖母ちゃーん、俺だよ吉継だよー」
数秒と経たずに屋内から足音が近づき、引き戸が開かれた。
「おやおや吉坊久しぶりだねぇ。最後に会ったのはいつだったか……」
「村出たのが小6だから、3年前くらいかな?」
「もう夏休みかい?」
「まだだけど、学校の実習でこの村に用があってさ。学校の先輩もいるの」
その言葉で、祖母は吉継の後ろに立つ二人に気付いた。
「あれまぁあれまぁ、とにかく上がりなさいな、長旅だったでしょ?」
「うん。ってわけで先輩方、上がってください。祖母ちゃんちょっと俺の部屋使うね。ってか空いてる?」
「勿論さ。出てった時のまんまだよ」
「よっしゃお邪魔しまーす」
「お邪魔します」
3人は玄関を入って左手の部屋に入る。
「取り敢えずここを拠点にするってことで、やってきましょう」
「おー」
「助かるよ」
王蕗は持っていたオリコンを床に下ろし、腕を軽く振った。
「これ地味に重かったからさぁ……とにかくこれで、何も気にせず調査に踏み出せる。さて、何からしようか。足で探すか、聞き込みか……」
潮は荷物を床に下ろすと、ストレッチをして竹刀袋に入ったままの“霊凛”を一振り肩に担ぐ。
「私は能力もあるし、直で足使って探すよ。小さい村とはいえ、手分けした方が速いでしょ」
「じゃ、俺は祖母ちゃんが何か知ってないか聞いてみますね」
「僕も村をぐるっと見て回るよ。戦うにしても地形は掴んでおきたいし、村の人と会えたら聞き込みもできるかもしれない」
「よっしゃ、3人とも初動は決まった。さぁ散開! 打倒“八尺様”!」
潮の掛け声で、3人は各々動き出した。潮は先頭を切って家を出て、男子二人が部屋に残される。
「……菅原先輩は行かないんですか?」
「行くよー、ただ一応、準備は固めておかないとかなと思って」
「はぁ……」
王蕗は部屋の四隅に盛り塩を設置してから出発した。
「……俺も動くかぁ」
王蕗が玄関を出る気配を聞きながら、吉継は祖母の下へ向かった。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その③

通信で聞いた座標を頼りに二人が辿り着いたのは、某駅付近のスクランブル交差点だった。休日午前中ともあり、多くの歩行者が行き交っている。
「後輩」
「見えてる。吐き気がするほどにな……」
「ってこたァ、ホシはこの辺にいるわけだ……」
陸斗の目には、歩行者一人一人に色濃く貼り付いた『死相』が、鮮明に映っていた。目を逸らしたくなる悍ましい光景に顔を顰めながらも、陸斗は一人一人の顔を検める。探すのは、この渦中にあって唯一『死相が浮かんでいない者』――つまり、『死の元凶となる者』の姿。
「…………ッ! いた。11時の方向、こっちに背を向けてる禿頭背広姿の中年」
「……アイツか。怪異ならどうせ周りから見えねェんだ、手荒に扱うぞ」
「この場で戦うわけにもいかないからな」
加奈は髪留めにしていた黒いリボンを解くと、ふわりと投げ上げた。彼女の能力【ポルターガイスト】、その異聞能力が支配するリボンは空中で1本の繊維へとほどけ、歩行者の隙間を縫って男に向けて射出された。そして一瞬にして全身を絡め取ると、空中へと持ち上げる。一連の展開に周囲が気付くことは無い。既に怪異へと変貌していたその男は、霊感の無い一般人には認識不可能だったためだ。
二人は信号の点滅し始めた交差点を渡り切り、空中に拘束した男を連れて人通りの多いその場を後にする。
「さて……こいつどこで殺そっかな。その辺の川原?」
「少なくとも人のいる場所はマズいよな」
「まぁ、しばらく適当に連れ歩いて、良い感じに物が多くて人の少ないところが見つかったらそこで始末ってことで。あたしに『死相』が出ないか見てろよ?」
「さっきからずと浮かびっぱなしだわ。めちゃくちゃ睨まれてんぞ」
「そりゃいきなりとっ捕まったら恨むだろ。ほらさっさか歩く」

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Tell us terrible Terrors:あけて その⑤

太陽が天頂に達する頃、ワゴンは山道を越えて小さな農村の入り口に停車した。スライドドアが開き、最初に潮が転げ出るように降車する。
「うげぇ……悪路過ぎぃ……」
「秋津さん、乗り物弱いのかい?」
後から降りてきた王蕗がその背中をさする。
「むしろ私以外の三半規管屈強過ぎない……?」
「まぁ……昔取った杵柄といいますか……慣れた道なんで……」
最後に降りた吉継が言う。
「僕は酔い止め飲んでたからねぇ」
王蕗も酔い止め薬の箱をポケットから出して答える。
「あっズルい! 帰りは私にも分けて!」
「了解」
助手席側の窓が開き、運転手の男が三人に声をかける。
「それじゃ、俺は少し下りた所で待機してるから、事が済むか手に負えないレベルで悪化したら、連絡してくれ。すぐ迎えに行くからよ」
「えー、おじさん一緒に戦ってくれないのー?」
潮が窓枠に掴まって口を尖らせる。
「俺は“語部”じゃねえの。怪異相手にゃ無力の一般人でしかないんだ、荒事は本職に任せるぜ」
「私らもアマなのに……」
「金貰って働く以上、お前らもプロさ。さあ頑張ってこい」
3人を置いて、ハイエース・ワゴンは元来た道を下りて木立の奥へと消えていった。
「……さて、やるかぁ」
王蕗が封印装備のオリコンを抱えて言う。
「っても何からする? “八尺様”ってこんな真昼間から出てくるの?」
潮が“霊火”のホルスターベルトを巻きながら問う。
「まずは探索拠点からかなぁ。いざって時の集合場所を決めておかないと。山の中だからスマホの電波が届くとも限らないし」
「あっ、それなら……」
吉継が手を挙げる。
「どうした永江くん」
「俺の祖母ちゃん家に行きませんか。祖母ちゃん今一人暮らしだから部屋余ってるし、場所的にも結構目立つ位置なんで」
「おー後輩の実家ぁ。見てみたーい」
「それじゃ永江くん、案内頼んだ」
「了解っす」
吉継の先導で、3人は村に足を踏み入れた。道中、道端に古びた人型の石像が目に留まる。
「おっ道祖神。お祈りでもしていく?」
「道祖神ってそういうものでしたっけ……」
「まぁ見守っていてくださいってことで」
3人は軽い会釈をしながら、道祖神の前を通り過ぎた。

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その②

人気の無い地下道に入ったところで、青年が口を開く。
「……今回のホシは」
「“アッチ側”に行っちゃったあたしらの先輩。残念だよなァ~」
「把握してんならさっさと動けよ……」
「やる気無いのに動くわけ無えだろ常識でもの言えよ。モチベ0で命なんか張れるかってんだ」
「俺らが動かなきゃ大勢死ぬんだぞ?」
「うるせえうるせえこんな声響く場所で言うことじゃねえだろTPO弁えろカス!」
「所構わず説教しなきゃならないこっちの身にもなれってんだ!」
「無能の世話しなきゃなんねえこっちの身にはなったのかよあァ!?」
男が足を止める。その気配に気づき、女性も立ち止まり正面から向き合った。
「……誰が『無能』だって?」
「あたしと組んだ奴で1人だって“有能”な奴なんざいなかった。だから全員死んだんだろうが」
「てめッ……! 失礼だとは思わねえのかよ……!」
「あいつらに口無しだバーカ。外ならぬバディのあたしの評価に外野から口出される覚え無ェんだよ」
「このッ……!」
その時、通信インカムに着信が入った。二人は同時に通信態勢に入る。
『“騒霊”、“二重身”、ターゲットを発見した。ヤツの現在地は――』
「……喧嘩は後だ後輩。さっさと行ってさっさと終わらせんぞ」
「分かってる」
“騒霊”と呼ばれた女性・茂木加奈と、“二重身”と呼ばれた青年・慈雲寺陸斗は、先ほどまでの口論が嘘であったかのように目つきを変え、歩き出した。
「おい後輩、“略霊”回し続けろ。『死相』が突然増え出したら敵前だ」
「言われるまでも無え」
今回二人が臨んでいる任務は、暴走した“語部”の討伐だ。陸斗の【ドッペルゲンガー】、その略霊能力は、対象の“死相”――『死に近づいている運命』を相貌として感知する。『暴走した“語部”』などという殺傷と破壊の権化が傍にいれば、死のリスクに近づいた事実が彼の目に掛かるのは明白だった。

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Tell us terrible Terrors:あけて その④

オリエンテーションから数日後の日曜日午前7時50分。養成校高等部校舎前に、3人は集合していた。
「おはようございます、秋津先輩、菅原先輩」
「よっす後輩くん~」
「おはよう永江くん。10分前行動とはしっかりしているねぇ」
「はい……で、ここで合ってますよね?」
「そだね~、8時出発って話だけど……車移動?」
「らしいね。“妖記廊”の人が車出してくれるってさ……と、噂をすれば」
エンジン音に3人が顔を上げると、1台の紺色のハイエース・ワゴンが最徐行で近づいてくるのが見えた。
「あのナンバー……うん、あれだね」
「おー、でっかい車だ~」
潮が先んじてワゴンに向けて駆け出し、後の二人も続く。停車したワゴンの運転席側の窓が開き、30代ほどの男性が顔を出した。
「お、全員揃ってるな。5分前集合とは感心感心。それじゃ、みんな後ろに乗りな」
3人が乗車してシートベルトを締めると、ワゴンはゆっくりと発進して校門を抜けた。
「さて、依頼内容については理解できてるかな?」
運転手の男が尋ねてくる。
「はーい、“八尺様”を倒す!」
「または封印する」
潮と王蕗の答えに、男は頷いた。
「そう。封印用装備については一番後ろのシートにオリコン(折り畳みコンテナ)があるだろ? そこに入ってるから。それから、全員分の“霊凛”と“霊火”もあるぞ。みんな講習は受けてるか?」
「もちろん!」「はい」
潮はサムズアップを示し、王蕗も首肯する。
「自分も行く前に受けとけって言われて受けました」
吉継も答えると、男は目を細めて頷いた。
「真面目な学生たちで何よりだ。目的地までは3時間くらいかかるから、好きに過ごしていてくれ」
車が赤信号で停止したタイミングで、王蕗は席から手を伸ばし、後部座席に載っていたオリコンを引き寄せた。
「おっ、流石王蕗先輩腕長~い」
「こういうところは背が高い強みだよねぇ」
王蕗はオリコンを膝に乗せると、封印装備を確認し始めた。潮はスマートフォンをいじりながら時間を潰し、吉継は再発進したワゴンの車窓から、流れる景色を眺めていた。

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Tell us terrible Terrors:あけて その③

教員はスクリーンを下ろし、プロジェクターを起動した。そこには依頼内容をまとめたスライドが映し出される。
「今回の事案は、県外某村への派遣依頼です。この中だと、おそらく君は知っていますね? 永江くん」
突然指名され、吉継は背筋を伸ばす。
「は、はいっ。俺の故郷っす」
「そうですね。土地勘のある君が参加してくれて、我々としても嬉しいですよ。さて本題ですが、皆さんにお願いしたいのは、準擬神格級怪異“八尺様”の討伐あるいは封印です」
“準擬神格級”――怪異存在の脅威度を測る指標段階の一つである。怪異存在の中でも強力で、一般人から畏怖と信仰を集める類の段階だ。これより上には、ほぼ神格存在と同列視されて伝えられる“擬神格級”がある。畢竟、“準擬神格級”は『上から二番目の強さ』なのである。
「“八尺様”はこの村で約470年前から存在が確認されている怪異存在であり、強力な妖力の持ち主です。しかし特殊な封印措置がされているようで、行動能力が大きく制限されています。そのため、皆さんでも十分に対処可能だと判断しました。幸いにも地元民の永江くんに経験豊富な秋津さん、専門的に学んでいる菅原くんが集まってくれたのですから、きっと解決できるでしょう。皆さんにはこの怪異の討伐または、より高度な封印措置を行ってほしいのです」
そこまで聞いて、王蕗が手を挙げた。
「はい菅原くん」
「“討伐”の方は良いとして……封印用の装備は?」
「それはこちらで用意しています。あとで菅原くんに預けておきますね。多分一番うまく使えるでしょうから」
「ってことは“道満式”か……? まぁ分かりました」
「ねー王蕗先輩、その“どーまん式”ってどういうやつなの?」
「えっと、雑に言うと『結界に閉じ込める』タイプの封印だね」
「はぇー。丁寧に言うと?」
潮と王蕗の会話が盛り上がりかけたところで、教員が手を叩いて制止する。
「話は後にしていただけると助かりまーす。続いて日程についてですが……」
その後、日程や持ち物、任務中の休校処理などについての説明が為され、オリエンテーションは30分ほどで終了した。

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Tell us terrible Terrors:あけて その②

吉継が会議室に入ると、並べられた長テーブルには既に一人、小柄な少女が着いていた。
「おっ生徒~。ってことは今回の“演習”の参加者?」
「あ、うん」
「よろしく~。私は秋津潮、高2だよ。気軽に潮先輩と呼んでくれぃ」
「えっ」
潮の自己紹介に、吉継は硬直する。男女で体格差があるとはいえ、ともすれば小学生にも見えるほど小柄な目の前の少女が、自分より年上とは考えつきもしなかったのだ。
「す、すいませんタメ口聞いて……永江吉継、1年です」
「気にすんなよぅ。ほれ座りな?」
「あっはい」
吉継がパイプ椅子の一つに腰掛けて間もなく、再び会議室の扉が開き、女性教員が入室してきた。
「あ、高校生組はもう来てますね」
「“高校生組”? ってことは中学生も誰かいるんです?」
潮の言葉に、教員は首を横に振った。
「もう一人は大学生の人ですよー。時間的にまだ講義があるのかな……」
その時、入り口扉がノックされた。
「あ、来ましたね。どうぞー」
扉が半分ほど開き、青年が顔を覗かせた。しかしその位置が異様に高い。扉の上枠に頭頂を擦るほどの高さに頭が浮いている。
「あの……? 入って良いですよ……?」
教員に勧められて、青年は半開きになった扉の隙間に身体を滑り込ませるようにして入室してきた。改めて現れた彼は、想定より遥かに長身であった。先ほどは身を屈めていたようで、背筋を伸ばすと身の丈は2mを越している。なるほど屈まなければ部屋に入るのもままならないわけだ。
青年を見た吉継と潮の感想は、まったく同じだった。
「「……長ぇ!」」
「……君ら仲良いね」
「あ、いや初対面っす……」「うんうん」
「そう……仲良くなれそうだね君ら。僕は菅原王蕗。よろしく」
二人と握手をして、王蕗もまたパイプ椅子の一つに腰掛け、窮屈そうに身体を丸める。
「それでは、本事案の参加者が全員集まったので、説明を始めますね」

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Tell us terrible Terrors:死にゆくお前に中指を! その①

駅前のゲームセンターからほくほく顔で出てきた女性が一人。所謂“地雷系”と呼ばれる出で立ちで、クレーンゲームで勝ち取ったのであろう巨大なクマのぬいぐるみを抱える姿は可愛らしいとさえ評されよう。そんな彼女の前に立ち塞がるのは、黒服姿の青年。
「……こんな所で何をしている?」
「あ? 見りゃ分かんでしょ、今日発売の『ててまるくん』巨大ぬいぐるみ取ってたのよ。500円で取れたんだかんね。あたし天才」
「……問い直そうか。『業務時間中に』『ゲームセンターで』何をしている?」
「……サボり?」
男は溜め息を吐き、口調に苛立ちを隠すことなく続けた。
「ふざけてんの?」
「うるっせェなァ~~~! 別に良いだろうがよどうせ時間は腐るほどあんだからァ~!」
「腐るほどは無ぇわ! 猶予がどれだけあるかも分かんねえんだぞ!」
「お前こそ業務絡みの内容不用意にくっちゃべてんじゃねェよクソガキがよォ~!」
「この程度で規定に引っかかるかよバーカ! テメェの勤務態度の方が万倍引っかかるわボケが!」
女性は答えず、手にしていた『ててまるくん』を青年に叩き付けた。
「あーやめやめ! お前と話すと喧嘩しか起きねェ!」
「そっちが真面目にやってりゃ起きるはずの無い喧嘩なんだよなぁ!」
「るっせ、先輩サマに説教なんざ1年早いんだよォ」
女性は肩にかけていたポシェットから通信インカムを取り出し、耳に装着した。
「あたしはあたしのペースでやっから良いんだよ別に。どーせお上は全部現場に任せるっきゃ無ぇんだからァ……」
二人は駅前のコインロッカーにぬいぐるみを押し込むと、その場を後にした。

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Tell us terrible Terrors:あけて その①

「これは、俺が生まれ故郷にいた頃の話なんだけどさぁ」
放課後の教室に、一人の男子生徒の囁くような声が響く。彼の周囲には、クラスメイトの男子生徒が数名。
「俺、県外出身で、山の中のド田舎の村で生まれたんだよね。小学校まではそこで育ってさ。中学上がるタイミングで親の転勤でこっち引っ越してきたのよ。で、村での話なんだけど、村に『めっちゃ背の高いお姉さん』がいたの」
「へぇー、どんくらい? 175? 180?」
クラスメイトの野次に、少年はニタリと笑う。
「推定2m以上」
「マジで!?」「やっば!」「それもう半分妖怪だろ!」「いやそれは2m級の女性に失礼やろ」
口々に盛り上がるクラスメイトたちを制止し、少年は話を続ける。
「で、そのお姉さん、俺が出かけるといつもいつの間にか付き纏ってたんだよね。身体がデカい分、とんでもない大股でさ、俺がどんだけ走っても引き離せねえの。で、そのお姉さん、『あけて、あけて』って言いながら俺のこと追いかけてきてたんだよね」
「何を開けるんだよ……」
「それが俺にも謎でさぁ。いろいろ試したよ? 目、口、ペットボトル、ノート、虫かご、ジッパー……でも、お姉さんが反応することは無かったんだよなぁ……」
「普通扉とかじゃねえの?」
「……その手があったか」
「え嘘本気で気付いてなかったん?」
「それでな。そのお姉さんの不思議なところが、お姉さんいつも、途中で追いかけるの止めちゃうんだよな。突然ぴたっと止まって、そこからじっと俺のこと見送ってくれんの」
「……ってのが、お前の『イマジナリー・フレンド』かー」
先ほどまでの怪談大会のような空気から一転、空気が一気に和らぐ。
「へぇ~、でも人型なの良いなー。俺のIF(イマジナリー・フレンド)なんかパンタグラフだぜパンタグラフ」
「電車の上に付いてるアレとお友達やってたお前の神経が信じられねえよ俺ァ」
「俺は黒猫だったからまだ普通だな」
能力者養成校の教室の一室で繰り広げられていたそれは、どうやら『自分のイマジナリー・フレンドについて語る会』だったようだ。
「やっべ、俺この後用事あるんだった。じゃあなみんな、楽しかったよ」
最後に語り役になった少年、永江吉継は鞄を手に取ると、急ぎ足で教室を後にした。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介④

燿子の能力
【コックリさん】
・略霊:『儀式』による占術。儀式は「共に儀式を行う1名以上の参加者」「外部と接続されていない任意の文字出力手段」「火のついた蝋燭」を必要とする。まず、参加者以外から観測されていない状態で火のついた蝋燭を立てる。次に、参加者全員が文字出力手段に指を置く。この状態で「コックリさん、コックリさん」と文頭に加えて口頭で質問を行うことで、文字出力で回答が返ってくる。『コックリさん』は未来について回答することはできないが、現在以前に由来するあらゆる情報にアクセスすることができる。また、1度質問した参加者は、他の参加者全員が1度ずつ質問するまで再度質問することはできない。
文字出力手段は必ずしも”10円玉と紙”である必要は無く、文字さえ出力できるなら鉛筆を握るだけでも良いしタイプライターでも構わない。ちなみにインターネットに接続された機器では儀式に必須の『閉塞状態』に穴が開くため、儀式を実施できない。
・異聞:対象1名以上と自身を、黒い霧を練り固めたような球状結界に幽閉する。結界内で1度攻撃行動を行った者は、自分以外の全員が1度ずつ攻撃行動を行うまで再度の攻撃行動を取ることができなくなる。また、結界内でこの”語部”は、『コックリさん』と同様現在以前のあらゆる情報を獲得することができる。『こっくりさん』の儀式を、戦闘に適した形式に昇華したような形態。
・剰霊:『自分以外の参加者』を用意せずに略霊儀式を行うことで発動する。動物霊に憑依されることで、獣の如き敏捷性と高い知覚能力を得る。憑依されている間も自我は残ったままだが、動物霊の気分次第では肉体の主導権を乗っ取られることもある。また、剰霊能力発動中は、狐耳と尻尾が肉体に現れる。動物霊と”語部”双方の合意が取れなければ解除はされず、動物霊が許さない限り出ていってもらえないのは勿論、逆に動物霊が飽きても”語部”が引き留めるなら憑依は終わらない。
『こっくりさんの禁忌』を自らの手で引き起こす形態。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介③

清嘉の能力
【メリーさん】
・略霊:召喚体の使役。召喚体は身長60㎝程度の、ロリータ衣装の少女のような姿をしている。また、本質的に”人形”であるため、破壊されても駆動可能な関節が繋がっている限り、バラバラになった部位の一つ一つが独立して動き続けることができる。最大召喚数は1体。
召喚体は”語部”が直接的(肉眼で見る、声を聞く等)または間接的(映像や録画録音越しに認識する等)に認識したことのある相手を対象として、その背後に瞬間移動することができる。対象が移動した場合、召喚体は徒歩で追跡する。
召喚体は対象の位置を常に把握できる。
”語部”は召喚体の位置を常に把握できる。
・異聞:召喚体の使役。召喚体は身長1m程度の、ロリータ衣装の少女のような姿をしている。
召喚体は両手の指を鉤爪に変化させることが可能で、高いパワーとスピードを発揮することができる。
また、召喚体が放つ『私メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』というメッセージを対象に聞かせることで、対象の背後に瞬間移動することができる。この時、メッセージは直接声にするのでも、電話や録音による間接的なものでも効果を発動できる。
対象の背後に障害物がある場合、対象の背後で出現に十分な空間がある最も近い位置に出現した上で、物理攻撃によって障害物を破壊しながら対象に接近する。
・浄霊:召喚体の使役。召喚体は身長160㎝程度の、ロリータ衣装の女性のような姿をしている。手足の関節は人形のような球体関節であり、体表は木材のような硬質性を具えている。
召喚体は”語部”の背中から生えるように負ぶさって現れ、その背から決して離れようとはしない。両手の指を鉤爪のように変化させることが可能で、高いパワーとスピードを発揮できる。この高い能力は攻撃に用いても勿論高い効果をもたらすが、真価は『防御』の際にこそ発揮される。
召喚体は自律行動し、”語部”への攻撃を防ぐために振るわれる破壊力と速度は通常時の数倍に至る。
『捨てられた人形の恨み』である”メリーさん”の望みであった「所有され、所有者に愛されること」を叶え、その愛にメリーさんが応えた形態。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介②

名前:清瀬愛弥(きよせ・まなみ)
性別:女 年齢:15歳(高校1年生) 身長:163㎝
説明:能力者養成校への転入を固辞したことで“妖記廊”の目から外れている、野良の“語部”の少女。自分の能力の強さから全能感に支配されており、日頃から気に入らない相手は略霊能力を悪用して正面からボコボコにしたり、異聞能力で破壊行為を働いたりしていた。要するに不良。
イマジナリーフレンドである「なぜか顔を思い出せないお姉さん」は今も健在で、よく虚空に視線を投げたり何か独り言をしている姿が目撃されている。

能力:【ジャック・ザ・リッパー女性説】
・略霊:自身の人相を他者に認識させない幻惑効果を纏う。略霊能力使用中の”語部”は、他者から認識されこそすれど、その容貌が印象に残ることは無く、『そこに人がいた』という記憶は残っても『どんな人だったか』はまったく思い出せなくなる。
『切り裂きジャック』の正体不明性を現出したような能力。
・異聞:空間上に直線軌道で不可視の斬撃を走らせる。発動前に自身を起点として斬撃の向かう方向を指定することで、その上を斬撃が通過する。斬撃の移動速度は最大で約300㎞/h。最大射程は約40m。一度に出せる本数に限度は無いが、軌道をイメージするための”語部”側の思考力には限界があるため、基本的には数本ずつ用いる。
また、斬撃は軌道上の物体に接触するまでは『存在しない』ため、実体をぶつける以外の手段では干渉できない。
『切り裂きジャック』の殺傷性を現出したような能力。

備考:『切り裂きジャック』自体は歴史上の実在する未解決事件であって、厳密には『都市伝説』ではない。しかし『切り裂きジャック女性説』という派生説の物語性を借りたことで、『都市伝説の怪異』の領域に上ることが可能となり、能力として昇華されたのである。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介①

名前:足立清嘉(あだち・すみよし)
性別:男 年齢:16歳(高校1年生) 身長:170㎝
説明:東京の能力者養成校の1つに通う少年。能力の覚醒自体は13歳とかなり遅かったが、元となったイマジナリーフレンドとの付き合いはかなり長く、3歳の頃から『自分にしか見えないお人形の“ハナちゃん”』が一番の友達だった。名前の由来は、『お洋服にたくさんついてるヒラヒラ(フリル)がお花みたいだったから』。
能力覚醒後、進学による多忙などもあり長らくハナちゃんのことは存在すら忘れていたが、“メリーさん”と交流することで、小さい頃の一番の友達を思い出し“浄霊”の才能を開花させた。

名前:野火止燿子(のびどめ・ようこ)
性別:女 年齢:13歳(中学2年生) 身長:150㎝
説明:東京の能力者養成校の1つに通う少女。通っているのは清嘉とは別の学校。
能力に目覚めたのは5歳の頃。幼稚園で平仮名を覚えてすぐ、当時既に覚醒しかけていた“コックリさん”の使い方を理解した。イマジナリーフレンド時代の“コックリさん”は、よく分からないひょろ長い獣の姿をしていた。今思えばイタチ系の動物だったかもしれない。
“語部”としての経験値は同年代と比べてもかなり高く、将来有望なルーキーとして“妖記廊”からも注目されている。
よその学校の生徒と協力して依頼に臨むと聞き、最初は「えーなんでー。同じ学校の子どうしでやれば良いじゃん」と思っていたが、別に嫌ってわけではないので素直に推薦に応じた。

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【再掲】Tell us terrible Terrors:設定 能力者の組織

・”妖記廊”
日本の”語部”支援機構。公的文書に名前が挙がることは無いが、政府や皇室にも存在を認可されている公的秘密組織。日本各地への能力者養成校設置、組合運営、国家規模での対怪異防衛戦略などを一手に担う、日本の”語部”のトップ。ちなみに日本の能力者支援の手厚さは世界トップクラス。2位が中国で3位がイギリスらしい。

・能力者養成校
各都道府県に最低1つ以上設置されている私立学校。ほとんどの都道府県には1校設置されており、例外として人口の多い東京と歴史のある京都には3校、面積のある北海道と妖怪伝承が多い岩手には4校、出雲大社のある島根と伊勢神宮のある三重には2校設置されている。日本全国で合計59か所。
いずれも幼稚園から大学までのエスカレーター式。中途編入や進学時に学園外に出ることは可能だし、一応“語部”と無関係の外部生も入学できる。最大の特徴として、文部科学省が定める通常の学習課程に加えて、『怪異学』と『能力制御』のカリキュラムが組み込まれていることがある。通常教育でカモフラージュされているため、一般人からは普通の私立校として見られている。
日本国内で新たに誕生した”語部”は”妖記廊”所属のある”語部”の能力によって即座に存在を把握され、進路を養成校に誘導される。
”語部”を取り逃さないために、入学者及び家族には手厚い支援が為される。

能力設定
【チェンジリング】
略霊:『赤子の誕生』を感知する能力。『赤子』の定義を『特定概念に新規に該当するようになった存在』と再解釈することで、日本国内における新たな”語部”の出現を察知することができるようになった。
備考:”妖記廊”所属のとある”語部”の能力。この力によって国内における能力者の誕生を感知し、即座に保護工作を講じることができる。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい 補記&テキスト外設定

・実は『召喚系能力』は語部全体で見ても比較的レアな能力です。特殊能力は本来、『怪異の性質を独自に昇華して武器とする』ものなので、怪異そのものの存在性を保ったまま実体として使役する召喚能力は、結構レアなのです。その中でも、清嘉の”メリーさん”はかなり自我が強く、召喚体自身の意思で形態を変えたりもするため、本当に異質な存在です。

・本来、怪異存在とイマジナリー・フレンドは別存在です。何故か清嘉の”メリーさん”はイマジナリー・フレンドとしての自認がかなり強いようですが、原因は不明です。いろいろな要素が噛み合った結果の奇跡の産物としか言いようがない。

・燿子の”コックリさん”も語部の能力としては珍しく、『異聞形態でも殺傷能力がほぼ皆無である』という性質をもっています。剰霊形態でようやくまともな戦闘能力(それですら攻撃力は燿子のフィジカルに依存してかなり低い)を獲得するという、あまりにひ弱な語部が燿子。

・実は一番ベーシックな語部は、3人の中だと愛弥(攻撃能力の無い補助用の略霊・攻撃能力の高い異聞・剰霊/浄霊未到達)。その愛弥ですら、一般的な怪異が元となった語部ではない。全員が全員特殊事例。

・能力の各形態(略霊/異聞/剰霊/浄霊)の併用可否は、各人によって異なります。たとえば清嘉の場合、1体の召喚体が段階ごとに形態変化しているため、同時使用はできません。清嘉のようなパターン以外だと、『略霊能力の使用をトリガーとして異聞能力以上が発動する』ものや『一形態の使用に集中しなければならないほど負担の大きい』といったパターンの能力がこれに当たります。燿子や愛弥は、各形態の効果が競合していないため、同時使用も可能です。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑱

清瀬愛弥の捕縛成功から数日後。清嘉のスマートフォンにビデオ通話が着信した。
「もしもし?」
『もしもーし、足立センパイ。お疲れ様です燿子ですー』
「野火止さん……あ、腕は繋がったんだ……良かった」
『いやぁ、友人にすごい“語部”がおりまして』
何事も無く繋がっている左手をひらひらと振りながら、燿子はカメラ越しに笑顔を見せた。
『センパイ、お給金は振り込まれましたか?』
「うん……何か、すごい額だった……」
『中高生がいきなり6桁のお金もらったら、金銭感覚壊れちゃいますよね~』
けらけらと笑う燿子に、清嘉も苦笑して頷く。
『そういやマナミちゃんってどうなったんですっけ? そっちの校長に引き渡してからのこと、私知らないんですよねぇ』
「何か、うちに転入することになったらしいよ」
『ふーん。周りに強い能力者がたくさんいる環境で鼻っ柱へし折られちゃえば、マナミちゃんも大人しくなりますかね?』
「だと良いなぁ……」
『あ、センパイセンパイ。私、“メリーさん”にご挨拶したいですー』
「えー……まぁ良いけど……」
略霊形態の召喚体を呼び出すと、“メリーさん”は物珍しそうに画面に顔を寄せた。その様子に、燿子は黄色い声を上げる。
『きゃーメリーさん画面越しでももちもち可愛い~! メリーさんこんにちはぁ』
『こんにちはぁ?』
『ご挨拶出来て良い子ですねぇ……』
「……もう良い?」
『あっはい、ありがとうございました』
“メリーさん”を膝の上に乗せ、清嘉は会話を再開する。
「それで、用事はそれだけ?」
『んー……腕が治ったのは見せたし……』
「あ、やっぱりそれも目的だったんだ……」
『ま、私相当な深手負ってたらしいですからねー。“コックリさん”から解放してもらったの、あれから三日後だったんですよ? あとそれから、マナミちゃんのその後も聞いたし……あっそうだセンパイ。打ち上げしましょう打ち上げ。祝勝会ですよ。私がそっちにお出かけするんで、一緒に遊びましょう』
「えー…………まぁ良いけど……」
『なんで女の子が遊びのお誘いしてるのにそんな微妙な反応してるんですか。まあ了承してくれるならそれで構いません。日程決めちゃいましょう。スケジュールは私が組みますから』
燿子の勢いに押されながらも、清嘉は休日の予定を確認し始めた。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑰

「ふむ……小僧、成長したのう……その呪い人形もな」
清嘉の背中に負ぶさるように抱き着いた“メリーさん”は、その背丈が160㎝ほどにまで伸びており、体つきも幼い少女のそれから成人女性と同等の頭身にまで成長している。
「うん……って“コックリさん”腕ぇ!? そ、もげ、取れてる!?」
「案ずるな、接ぐ宛てはある」
「そ、そうなんだ……?」
「燿子の自我は沈めておるから、あの娘がこの痛みを感じることも無いぞ」
「あ、やっぱ痛いんすね……」
「そんなことよりもほれ、敵前じゃぞ」
“コックリさん”の言葉に、清嘉は改めて愛弥に向き直る。
「ふーん……何か強くなったっぽいけど……木偶人形如き、私の斬撃の敵じゃないんだよッ!」
愛弥は同時に十数本の斬撃軌道を展開した。一斉に迫り来るそれらを、“メリーさん”は背負われた態勢のまま身を乗り出し、材木質を思わせる両腕を振り回して次々と捌いていく。斬撃がその両腕に触れる度に硬質な衝撃音が響くが、それらの一つとして召喚体表面に傷をつけることは無く、受け流されたり弾かれて周囲の地面や壁を切り刻むに終わってしまう。
「あー……“メリーさん”曰く……」
斬撃の弾幕に冷や汗を流しながらも、清嘉は不敵に笑って言い返す。
「『クソガキの刃物遊び如き、メリーさんの敵じゃない』ってさ」
(煽りでめっちゃ脚色したけど……)
その言葉に、愛弥の殺気が更に燃え上がる。
「ブッ殺す!」
激情のままに無数の斬撃を雪崩の如く撃ち出し続けるが、“メリーさん”の両腕がそれらを全て叩き落とすため、清嘉たちより後方にその破壊が及ぶことは無い。
「あと……“メリーさん”、滅茶苦茶硬いってだけでさ……」
次の瞬間、清嘉と“メリーさん”は5m近く開いていた愛弥との距離を一瞬にして詰め切り、愛弥の顔面を人形の掌で掴むように捉えた。
「パワーも割と、あるんだわ!」
そのまま渾身の力で振り下ろしたことで、愛弥は押し倒され後頭部を地面に衝突させた。
「がッ……っ……」
愛弥の身体から力が抜け、動かなくなる。
「……一瞬、じゃったのぅ。流石じゃな、小僧」
「“メリーさん”がすごいんだよ。それに、野火止さんと“コックリさん”も足止めしてくれてありがとう」
「うむ。燿子には妾から伝えておいてやろう」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑯

【コックリさん】の異聞能力によって張られた結界の中、燿子は少しずつ押され出していた。
「せやっ!」
獣の速度を乗せた、鋭い前蹴りを躱される。カウンターで放たれた愛弥の拳をどうにか腕を盾に受け止め、反動を利用して距離を取る。
「クカッ……お主、能力頼りかと思うたが、案外と空手もイケるクチじゃのう?」
「はッ、こちとら喧嘩慣れしてんのよ。雑魚がケモ耳生えた程度でイキんなよ?」
(ふむ……腹立たしいが事実。燿子の肉体は決して殴り合いに適した体格ではない。妾が速度と感覚を補ったところで、小さく、短く、軽い肉体は如何ともし難い……が!)
「それがどうしたァ!」
再び弾丸のように飛び出し、跳び蹴りを放つ。しかし――
「馬鹿じゃないの? 素手でカウンター取れるってことは……」
回避しながら愛弥の放った斬撃に身を捩るも、宙に置かれた身では行動能力に限界があった。斬撃を躱しきれずに左腕が飛ぶ。
「能力でも同じことができるってことなのよ」
「……クカカッ。面白くなってきよった」
(この損傷……身を裂かれる激痛如き、妾は慣れ腐っておるが、ただの人の身たる燿子には耐えられんじゃろう。悪いが眠っていてもらう他あるまいて……)
傷口を押さえながら、燿子――否、“コックリさん”は呼吸を整える。現在は彼女の手番であり、少なくとも自ら攻めない限り相手からの攻撃を受けることも無い。
(……それにしても『切り札』が『過去』になるのはいつじゃ! 随分と遅いではないか!)
“コックリさん”は愛弥との殴り合いの最中も、常に思考の隅で『再検索』を繰り返していた。求めていた情報が彼女の収集可能な『過去』となる瞬間を待っていたのである。そして、遂にその時が訪れる。
「ッ…………! ク、ククッ、クカカッ……!」
「……あ? 何がおかしいの? 痛みで気でも触れた?」
「クククッ……案ずるな小童よ。貴様を狩る『鬼札』が、最高速度でこの場へ迫っておる。最早この結界も不要じゃろて」
(小僧……! 出来るとは信じとったが……やはり“浄霊”を身に付けて戻ってきおった!)
結界をかき消すと同時、“コックリさん”の隣に一つの――正確には『一つに見えるほど密着した二つの』影が着地した。
「ごめん“コックリさん”! 遅くなった!」
『私メリーさん……今、所有者(あなた)の後ろにいるの!』

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑮

『ん~……じゃぁ所有者ぁ、昔話して?』
「えっ何突然。さ、猿蟹合戦とか?」
『ん~んっ。メリーさん、所有者ぁのむかしのはなし、ききたいの』
「……俺の昔話? 俺が小さい頃のことを話せと?」
『うん。10ねんくらいまえの、むかしばなし』
「覚えてねえよ……ギリ小学校上がるかどうかの頃合いだろ?」
『……じゃぁもっとまえ?』
「余計覚えてねえよ…………」
『所有者ぁ、ちっちゃいとき、おにんぎょうあそび、したでしょ?』
「え……」
抱かれたまま清嘉を見上げる“メリーさん”を、まじまじと見つめる。彼の召喚体はただ、感情の読めない曖昧な微笑みを浮かべているばかりである。
「…………これは“メリーさん”の話じゃないんだけどさ」
『うん。きかせて?』
「俺、三人兄弟の真ん中っ子なんだよ。兄貴一人、弟が一人いてさ、そういうわけで家で遊ぶにも玩具の取り合いになるわけよ……そんな中、唯一俺以外の誰も持ってかない玩具があったんだ」
『……うん。どんなの?』
「女の子の人形。そう……“メリーさん”みたいに赤いフリルがたくさん付いたドレスを着てて……長い金髪で……」
『うん……うん』
「幼稚園時代は、比喩抜きに毎日それで遊んでたと思う。別に、可動部があるとか光るとか鳴るとか、そういう機能は一個も無かったんだけどさ……お喋りしたり、ごっこ遊びに使ったり……」
『それから?』
「小学校上がってからは勉強とかあってさ。毎日遊ぶって感じではなくなったんだけど……たまに偶然見つけた時には抱っこしたり眺めたりしたっけな」
『うん。そうだね』
「そういや、中学で【メリーさん】の力を使えるようになって、能力者養成校に転入した辺りかな……転校とか、勉強や部活で忙しくなって、あの人形で遊ぶことも無くなったなぁ……なんで今まで忘れてたんだろ。俺、あだ名も付けてたんだぜ?」
『うん……どんなの?』
清嘉は“メリーさん”を抱き上げると、目の高さを合わせて見つめ合った。
「……今思えば、あの人形は俺の頭の中にしか無かったから、俺だけの人形だったんだろうな……。……“メリーさん”、あれは“メリーさん”じゃない。それは承知の上で……」
『うん、メリーさん、またそうよんでほしいの』
「――“ハナちゃん”。ドレスのヒラヒラ……あの沢山のフリルが花みたいだって思ったんだ」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑭

燿子が愛弥との戦闘を開始したその頃、清嘉は両脚片腕を失った“メリーさん”を抱えて、ビル街を離れて住宅街を走っていた。
(デートっつったって……何しろってんだよ……?)
『うぅ~……私メリーさん……もうダメかも……』
「ごめんって、一回仕切り直そう」
『やだ~』
「なんでぇ?」
清嘉は道中に倉庫を見つけ、裏手に回りブロック塀との隙間に潜り込んだ。その場に腰を下ろして息を整え、膝の上に召喚体を乗せる。その姿は、『略霊』形態の最も小さなものに変化していた。
『私メリーさん……いっぱいがんばったから、所有者ぁからごほうびほしいの』
「ご褒美?」
『ぎゅーってしてほしいの……メリーさん今、片手がないから、その分ぎゅーってつよく……おねがい?』
「はいはい……」
“メリーさん”の姿勢を調整して、抱きしめる。“メリーさん”はくるくると喉を鳴らして、頬擦りをした。
『メリーさん、頭もなでてほしいの……わしゃわしゃー、ってしてほしいの……』
「なんでそんなに甘えんぼさんなの……」
苦言を呈しながらも、言われた通りに頭を撫でる清嘉。
『んゃ~……メリーさん、今よわってるからあまえたさんなの……』
「そっかぁ……」
『あとあとぉ……えらいねーってほめてほしいの』
「あぁうん、よく頑張ってくれたな、“メリーさん”。ありがとう、マジで助かった」
(庇ってもらわなきゃ俺らが真っ二つになってたし)
しかし、“メリーさん”は清嘉の腕の中でいやいやと首を横に振る。
『そっちの名前じゃなくて、所有者ぁのつけてくれた名前でよんで?』
「……俺のつけた名前?」
『私メリーさん……“メリーさん”じゃなくて、所有者ぁが私のためだけにつけてくれた、あっちの名前でよんでほしいの……おねがい?』
「どっちのことだよ……?」
(俺、“メリーさん”のこと『メリーさん』としか読んだこと無いよな……?)
『……むぅ……所有者ぁがにぶちん……』
「えぇ……?」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑬

(……“野火止さんの身体は”、か……。お主、なかなか悪くない男と組んだものじゃのぅ。のう、燿子や?)
(ちょっと頼りない人ですけどねー)
精神下で燿子の魂と話しながら、彼女の身体を奪った“コックリさん”は愛弥と相対する。愛弥は雰囲気の変わった燿子に怪訝な目を向けた。
「何だお前、そのケモ耳……それがアンタの力?」
「えぇまぁ、そんなところで……あれ」
(コックリさん、身体返してくれたんですか?)
(動物霊は気紛れなのじゃよ。ほれ、敵前でぼさっとするでない)
(はいはいありがとうございます)
「さて……マナミちゃん」
「誰がマナミちゃんだコラ。気安く呼ぶな」
「まぁまぁ。あなたに勝てる人が戻ってくるまで、私に足止めされといてくださいよ。あなたの力じゃ今の私は殺せないので」
「あー?」
愛弥が1本の斬撃を飛ばす。燿子は膝の力を抜き地面にへばりつくようにして、その攻撃を回避した。
(ククッ、素人め。殺意が丸見えじゃ。これでは力を使うまでも無く狙いが見えるぞ)
(コックリさんの知覚能力とスピードが無かったら普通に私食らってたと思いますけど……)
(ええい煩い! 今はそれらが揃っておるのじゃから良いのじゃ! ぐちぐち言う童には仕置きじゃ!)
(あっ)
燿子の目が一瞬据わり、直後怪しげな金色の輝きを湛えて見開かれる。
「クカカッ! では始めようかの……“コックリさん”をなァ!」
燿子の『異聞』能力が発動する。両者を取り巻くように黒煙の渦が現れ、やがてそれは半球状の結界へと変化した。
「……何よこれ。こんなもので閉じ込めたつもり?」
「『つもり』も何も、もう貴様には抜け出せんよ」
燿子は滑るような動きで距離を詰め、愛弥の頬に裏拳を当てながら駆け抜けた。
「ぐッ……クソガキがァッ!」
愛弥の放った斬撃の軌道を、燿子は軽く身を捩るだけで回避する。
「クカカッ、鈍い鈍い!」
「クソッ、ならもう一発……!」
愛弥は再び能力を使おうとした。しかし、斬撃は発生しない。
「は? なんで……」
「決まっておろうが」
再び燿子が詰め寄り、跳び回し蹴りを放ちながら反動でそのまま飛び退いた。
「“コックリさん”は『順繰り回し』じゃぞ?」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑫

(マジかよ!? いや近くに適当に逃げ込んだわけだし、偶然か探してきたのかまた来る可能性は十分あったと思うけどさぁ!?)
咄嗟に燿子が隠れている黒布に目をやると、それは地面にくしゃりと落ちていた。燿子がいなくなっていることに動揺しながら周囲を見回すと、彼女の姿は清嘉の背後にあった。
「いた……何かイメチェンした?」
清嘉の視線は、彼女の頭に生えた1対の狐耳に注がれている。
「気にするな小僧。禁を犯した者への当然の制裁じゃ」
燿子の返答は、先ほどまでの軽いながらも敬語を使おうとする態度とはまるで異なる、尊大で古風な口調だった。
「えっ、あっ、はい、何、コックリさん?」
「ま、そんなところじゃの。それよりも……」
燿子が愛弥の方を指差す。彼女も二人に気付いたようで、殺意が立ち上る。
「あー? さっきの奴らじゃんか。ちょうど不完全燃焼でイラついてたとこなんだよ……ブチ転がしてやる……!」
「ッ……“メリーさん”!」
『異聞』形態の“メリーさん”を呼び出し、構えさせる。しかし次の瞬間、飛来した斬撃がその右腕を刎ね飛ばした。
「くははッ、先手必勝ォーッ!」
『ぬム……』
その時、冷や汗を流す清嘉の肩に、燿子が手を置いた。
「おい小僧。コックリさんからありがたーいお言葉じゃ。確と聞け」
「え、何すか」
「この場は妾に任せて“でーと”してこい」
「……は? なんで? 誰と?」
「決まっておろうが」
燿子が指差したのは、残った左腕で二人を庇おうと立ち塞がっている“メリーさん”だった。
「…………マジでなんで?」
「えぇい煩い煩い! 妾の宣託に逆らうか小童風情が!」
「ひぇっ、すんません……め、“メリーさん”! 俺らは一回退くよ!」
『! メリーさん逃げるのっ』
「逃がすかァッ!」
振り返った“メリーさん”の両脚が飛んできた斬撃に叩き斬られ、小さな身体が地面に転がる。
「ええい鈍間共め! さっさと行かんか!」
燿子が素早く前に出て、倒れ伏した“メリーさん”を片手で清嘉に投げつける。それを何とか抱き留めると、清嘉は躊躇いながらも逃走の態勢に入った。
「ごめんコックリさん! この場と野火止さんの身体は任せた!」
「……おう任せい!」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑪

考え込んでいる清嘉をしばらく見つめていた燿子は、不意にリュックサックから蝋燭を1本取り出し、ライターで火をつけた。
「……ん? どしたの野火止さん」
「いえ別に……試してみますか? “コックリさん”が何か教えてくれないか」
「未来の情報は掴めないんだろ?」
「はい、なので“過去”に“フラグ”が無いかなって。向こうの弱みでも、こっちの強みでも……何かヒントくらいはもらえないかなと」
「良いけど……またタイプライター出すの?」
「いえ、流石にもうちょっとコンパクトにやりますよ」
そう言って、燿子はリュックサックから黒い布を引っ張り出した。
「ちょうど良い閉鎖空間が無いんで、これで代用します」
「……どうやって?」
「頭から被ります」
「暑そうだなぁ……」
「大丈夫ですよ、私一人でやるんで」
「えっ」
『“コックリさん”を一人で行ってはいけない』。有名な禁忌である。当然それを知っている清嘉は、疑問の声を上げた。しかし、燿子はにんまりと口角を上げ、親指を立ててみせる。
「大丈夫ですよ、私の力なんですから。それじゃ、ちょっと聞いてきますね」
燿子は黒布をばさりと持ち上げ、その下に素早く潜り込んだ。清嘉は所在なくその近くに立ち尽くしていたが、暇を持て余して地面に崩れ落ちている召喚体を呼び戻す。召喚体は“略霊”形態の小さな姿に変化しており、切り離された上半身と下半身が別々に地面の上でごろごろと転げ回っている。
『私メリーさん~……もう戦えないかも~』
「でも今の面子的に無理してもらわないとならないからなぁ……」
『んぇ~……』
「一回消してから再召喚すればまた元気になるからさ。我慢してくれよ」
『やぁ~……やる~……』
清嘉は消失・再召喚を行い、損傷の無い“メリーさん”を出現させた。
『私メリーさん。もっかいがんばる~』
「うん頑張って」
『……あ』
「どしたの“メリーさん”」
『所有者ぁ、たーげっと』
「えっ」
召喚体が指差した先を清嘉が見ると、ちょうどその路地に入ってくる愛弥の姿があった。

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑩

数ブロック先のビル陰に駆け込み、2人は息をついた。
「マジかぁ……あの人平気で殺しに来るじゃん……」
その場に座り込み、ため息交じりに清嘉が吐き出す。
「いやはや……とんだお転婆でしたねぇ……」
燿子も膝に手を付いて咳き込み、苦笑しながら言う。
「っつーかなんでさっきいきなりエアガン撃ったんだよ……そりゃ向こうも怒るって」
「え? あれ、センパイ知らないんですか、これ?」
燿子は再び、ホルスターからエアガンを取り出す。
「対怪異汎用射撃装備“霊火”。学校で貸し出してる武器ですよ。講習受けなかったんですか?」
「受けてないけど……武器? ただのエアガンが?」
「何でも、怪異相手には普通にダメージ出るらしいですよ?」
「そりゃ人間相手じゃ普通にキレさせるだけになるよなぁ……」
「新たな発見です……」
2人が“霊火”を見ながら話していると、何かを引きずるような音と軽い足音が近づいてきた。
「ん、戻ってきた」
2人が顔を上げると、そこには左肩から腰に抜けるように両断された状態の“メリーさん”が立っていた。下半身側に残った左手と上半身側に残った右手を繋ぎ、切断されたパーツをその場に残すことなく足を回して離脱し、2人との合流に成功したのである。
『私メリーさん。真っ二つになったけど逃げてきたの~』
「よく頑張った、“メリーさん”。…………しかしまぁ……どうすっかなぁ…………」
「どうしますかねぇ…………」
「コックリさんに聞いたら何か教えてくんねーの?」
「無理ですよぅ。“コックリさん”が教えてくれるのは『過去の情報』だけです。霊たちに文字通り『持ってきてもらう』のが“コックリさん”なので、まだ存在しない未来の話は教えてくれないっていうかできません」
「……そう都合よくはいかないかぁ……」

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Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑨

(いやぁ……実際に見てみると結構ヤバい火力してますね? 人間くらい余裕で真っ二つになっちゃいそう)
(そんな威力を平気で人に向けてんのあの人!?)
(こーれヤバい感じですよぅセンパーイ)
二人は不可視の斬撃を捌き続ける“メリーさん”の陰に隠れつつ、声を潜めて話し合う。
(で。『これ』が効き目薄なのは分かったんで、火力レートでこっちの不利が確定しちゃったんですけど……どうします?)
エアガンを軽く掲げながら、燿子が尋ねる。
(……一度仕切り直して良い?)
(モーマンタイでっす)
「それじゃ……頼むよ、“メリーさん”」
『ん~。すぅ……』
召喚体が何かしようとしている気配に、愛弥は一旦攻撃の手を緩める。
(何かする気だな? ま、何してこようが斬り払ってやるけど)
『……もしもーし! 私ぃ、メリーさーん!』
召喚体は口の前で手をメガホン代わりにし、大声で愛弥に呼びかけ始めた。
『今ぁ、あなたの後ろにいるのー!』
次の瞬間、愛弥の視界から召喚体の姿が消え、同時に背後から羽交い絞めにされる。
(ッ……『背後への瞬間移動』、ってな感じか!?)
「この程度ッ!」
背後に向けて放った斬撃が、“メリーさん”を袈裟斬りの要領で両断する。拘束を逃れて愛弥が正面に視界を戻したその時、清嘉と燿子は既に路地から姿を消していた。
「何だったのよアイツら……」
そう毒づきながら、愛弥は振り返り己の背後に転がっているはずの“メリーさん”の残骸に向き直ろうとする。しかし、そこには端切れの一片すら無く、交戦の痕跡は彼女自身が刻んだ斬撃痕の他に何も残っていなかった。
「だからなんッで消えてんだよ真っ二つに叩ッ斬ったろうがよォッ!」
苛立ちに満ちた怒鳴り声とゴミバケツを蹴り倒す音が、路地裏に響き渡った。