表示件数
1
0

横暴狩り その⑥

「小人くん。小人くん? いるかな?」
路地から大通りに出て、歩きながら人通りの減ったタイミングを見計らって湊音が呼びかけると、足下に土くれ小人が駆け寄ってきた。
「次の子のところまで案内してくれるね?」
小人は敬礼を返し、飛び跳ねるように湊音を先導し始めた。
(二人目は……何だっけ、何かの爬虫類が異能の対象だったと思うんだけど……。何か、随分珍しい生き物『だけ』が対象だったせいで、その印象しか頭に残ってないや)
土くれ小人が通りを外れ、2棟のあまり高くないビルの隙間に入り込んでいった。湊音はそれを一度は見逃したものの、姿が消えたことに気付いてからすぐに異能を発動して過去に遡るように捜索し、どうにか小人に追いついた。
(いやぁ危なかった、考え事しながら歩くのは危険だね。…………たしか干渉者級の異能者だったはず。どんな問題を起こしているのか、ひーちゃんは教えてくれなかったけど……まあ、さっきの子より恐ろしくは無いかな……)
考えながら歩いていると、頭上に重量物が落下、衝突してきた。気絶する直前に過去干渉を使い、回避しつつ落ちてきたものを両手で受け止める。
「…………あぁー、なるほどね」
黄緑色の鱗、縞模様のある長い尾、太く頑丈な肉体、背中に並ぶ独特の棘状のクレスト、若いながらも既に全長約1mはある大型爬虫類、グリーンイグアナだった。
「思い出した。次の子は『イグアナの干渉者』か」

0

白蛾造物昼下 後

ピスケスはうふふ、と笑う。
「“黒い蝶”が、最近“保護者”の元に帰ってないんですって」
ピスケスは身体の後ろに両手を回す。
「アイツ、“保護者”があんなにいい人なのに、どうして家に帰ろうとしないのかしらね」
あの人だって独りは寂しいだろうに、とピスケスは首を傾げる。
「…なんだい」
そんなことでアタシの所へ来たのかい、と老女は呆れる。
「てっきりもっと大事を持って来るかと思ってたのに…」
老女がそう言うと、ピスケスは別にいいじゃないと微笑む。
「アイツの“監視”をすることも、私が歳乃(としの)から与えられた役目なのだから」
こういう日常の報告もたまには必要よ、とピスケスは歳乃と呼んだ老女の顔を覗き込む。
「そうでしょ、“マスター”」
ピスケスがそう言うと歳乃は、その呼び方はやめなさいと顔をしかめる。
「アタシは、アンタのことは使い魔じゃなくて古い友人みたいに思ってるんだ」
だからマスター呼びはやめてくれ、と歳乃はピスケスから目を逸らした。
「うふふ」
まぁいいわ、とピスケスは歳乃に向き直る。
「それじゃ、私はかすみの元へ行ってくる」
あの子たちとのお茶会が待ってるからね、とピスケスはくるりと歳乃に背を向けると、長い髪をなびかせながら部屋を出て行った。
「…全く」
ウチの使い魔はおかしな奴と歳乃は呟くと、また手元の書類に目を通し始めた。

〈白蛾造物昼下 おわり〉

0

横暴狩り その⑤

「…………ふむ」
湊音はしばらく考え込んでから、膝をついて青年と視線を合わせた。
「どう? 怖い?」
「な……が……」
「動けないでしょ。膝をついたその瞬間から、君の時間はもう進まない。『その過去』を固定したから。そういう能力。たしかに君の異能はかなり強かったけど、君はそんなに強くなかったね。3回やり直すだけで抑え込めた」
「ッ……! 俺、が……弱い……だと……⁉」
小刻みに震えながら言葉を絞り出す青年を、湊音は少し驚いたように眺めていた。
「ん……たしかに僕の異能は干渉者級だからそこまで拘束力は強くないけど……前言撤回、君自身も決して弱くはな」
青年の両腕が振るわれ、湊音の胴体が輪切りにされる。
しかし、再び異能が発動し、湊音は青年の背後に回り羽交い絞めを決めていた。
「4回目かぁ……しかし、君も分からない人だなぁ」
青年の耳元に顔を近付け、湊音は囁くように語り掛ける。
「僕は『時間の干渉者』だ。たしかに直接君を傷つけることはできないけれど、君の身体の自由は既に僕の手にある。わずかな擦り傷でも負ってみろ、僕の異能でその瞬間を『固定』すれば……どうなるか、予想できるね?」
数秒遅れて、青年の顔が青ざめた。
「ふふ、分かってくれて嬉しいよ。これに懲りて、あまりお痛をしなくなってくれると嬉しいな。僕が仕える“無命女王”は、僕なんかより何倍も強いし、僕よりもずっと容赦無いからね」
既に異能を解除しているにも拘らず動けないでいる青年の頭を一度優しく撫で、湊音はその場を後にした。

0

手にしている缶コーヒーはまだ温かい。その温もりはいつまで続くだろう。冷めちゃうね、と呟くが返事は軽い頷きだけで、この人との間は詰められない。詰めてはいけないような隙間がある。その隙間を風は容赦なく通り抜けていく。この缶コーヒーを買った自販機はどこだっただろう、一体どれくらいの距離を歩いたか。何も話さずに二人が黙々と歩いているのが不気味だと思われないだろうか。今はそんなことも気にならない。ただ目の前にある背中を頼もしいなぁと眺めながらも、冷やかしてくる夕陽に目を細める。今日も良い一日になった。明日も晴れだといいな。そんな視線も気にせずに目の前の背中は遠ざかっていく。小走りで追いかける。この日々がいつまでも続くと思うのは間違いだろうが、そう願うのはきっと素敵なことだ。あの人の背中に手を伸ばす。まだ触れる勇気は出ない。缶コーヒーが冷めた。飲まずにポケットにしまう。家に帰って温めよう、と思ったそのとき手の冷たさに気づく。思わずあの人の手を見る、指先が微かに揺れている。この寒さが共有できた気がして、心がすこし温まる。まだ冷たい風が耳を撫でていく、背中に向けていた視線を足元に落として、少しひとりで笑みを浮かべる。

0
0
1

櫻夜造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
毎度お馴染み「造物茶会シリーズ」のあとがきです。
…とは言ったものの、今回は書くことがないんですよね〜
なので突然ですがキャラ紹介します。
今回はこの物語の主役、ナツィことナハツェーラーの紹介です。

・ナハツェーラー   Nachzehrer
通称ナツィ。
「造物茶会シリーズ」の(多分)主役、アイコン的存在。
一人称は「俺」だが、ゴスファッションばかり着ている少年とも少女ともつかない容姿の“人工精霊”。
魔術でどこからともなく蝶が象られた大鎌を出すことができる。
口は悪いがなんだかんだ言ってかすみやキヲンには優しい、ていうかツンデレ。
ピスケスや露夏のことが気に食わない節がある。
どうやら寝ないと身が保たないらしい。
作った人間の通称は“ヴンダーリッヒ”。
「造物茶会シリーズ」の前日譚である「緋い魔女」「緋い魔女と黒い蝶」での“マスター”は“グレートヒェン”という少女である。
二つ名は「黒い蝶」(当人はあまり気に入ってはいない)。

今現在物語中で分かっていることを中心に紹介しましたのでちょっと分量少なめです。
まぁその内分かることも多いのでお楽しみに。
という訳で今回はここまで。
キャラ紹介コーナーは今後もあとがきで語ることがない時にやると思います。
何か質問などあったらよろしくね!
テトモンよ永遠に!でした〜

1