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視える世界を超えて エピソード2:鎌鼬 その④

種枚さんに指示されて、一人で通りを歩く。時間がまだ早いせいか、自動車や歩行者もまだ少なくて、人通りが完全に途切れた一瞬なんか、いやに不気味な空気が流れる。
彼女が言うことには、適当なタイミングを見計らって、人目につかなさそうな場所に入り込めば良いということだったけれど……。
そこでふと思い出し、足を止める。ちょうどその位置から横道が伸びていて、この道に入って少し歩くと、そこそこ大きな公園がある。まだ時間も早いし、あそこがちょうど良いんじゃないか。
そう決心して、すぐ足早に公園に向かった。

公園までは早歩きで行けば5分もかからない。すぐに到着して、更に人目を避けるように奥へ奥へと入っていく。
外縁に遊具が立ち並ぶ広場を通り抜け、整備された遊歩道を踏み越え、落葉樹や灌木で敷地外からは殆ど中の見えないエリアにまで入り込み、そこで立ち止まる。
種枚さんの言う通りなら、あの少年が現れる筈……。
その時、背後から突風が吹いてきて、堪らず倒れ込んでしまった。
落葉の積もった地面に咄嗟に両手をついたお陰で、完全な転倒とはならずに四つん這いになるような姿勢になったが、そこに人型の影が被る。誰かが自分を見下ろしているような形だ。
顔を上げると、種枚さんに見せてもらった写真に写っていたあの少年が、無表情で立っていた。

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冬宴造物準備 下

「そういうのめんどくさい」
ナツィがそっぽを向きながら呟くと、キヲンはえー!と声を上げる。
「みんなでケーキ食べたりするんだよー!」
嫌なのー?とキヲンは首を傾げる。
「嫌だ」
「えー」
ナツィの言葉に対しキヲンは何でー?と尋ねる。
「なんでって言われても…」
ナツィは顔をしかめる。
「むー」
ナツィのケチ〜とキヲンは頬を膨らませると、ナツィから離れて物置のテーブルを囲む椅子に座る青髪のコドモ、ピスケスや赤髪のコドモ、露夏の方へ行ってしまった。
「ナツィ」
かすみがそう言いながらナツィに近付く。
「どうして嫌なの?」
かすみが尋ねるとナツィは、お前には関係ないとまたそっぽを向く。
「きーちゃんはすごくやりたがってたよ」
クリスマスは寧依(ねい)が忙しくて構ってあげられないみたいだから…とかすみは続ける。
「ナツィだって、“保護者”が構ってくれないと嫌でしょ?」
かすみのその言葉にナツィは別に、と答える。
「ただ俺はかすみと2人きりで過ごしたいだけで…」
「?」
ナツィがそこまで言った所で、かすみはつい首を傾げる。
ナツィは己が言いかけたことに気付いてハッとした。
「あ、あ、いや、今のはナシ…」
ナツィは思わず顔を赤らめる。
かすみは暫くの沈黙の後、ふふと微笑んだ。

〈冬宴造物準備 おわり〉

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冬宴造物準備 前

とある喫茶店の2階の物置にて。
物置ではちょっと不思議な雰囲気のコドモたちがそれぞれ違う飲み物を片手に談笑している。
…と、ガチャリと物置の扉が開いた。
「あ」
物置の中のコドモの1人、金髪で額に角の生えたキヲンが扉を開けた人物に気付き声を上げる。
「ナツィ!」
キヲンはそのまま立ち上がるとナツィと呼んだゴスファッションのコドモに飛び付いた。
「ちょっ」
ナツィは急に抱きつかれてよろけるが、すぐに体勢を立て直す。
「テメェなにすんだよ」
ナツィは嫌そうに呟くが、キヲンはえへへ〜とナツィにすりすりする。
「ちょうどいい所に来てくれたねナツィ」
物置のテーブルを囲む椅子に座っていたエプロン姿のコドモ、かすみが立ち上がりながらそう言う。
「?」
ちょうどいい所って…とナツィは不思議そうな顔をする。
「あのね、今度ここで“くりすますぱーてぃー”ってのをやろうと思ってるの!」
キヲンの言葉に対し、ナツィははぁ、と答える。
「こうしてきーちゃんたちがここに集まるようになってから初めてのクリスマスでしょ」
だからせっかくだからパーティーしようよって、きーちゃんがとかすみは微笑む。
「ね、いーでしょ?」
ピスケスや露夏ちゃんもやりたいって言ってるし、とキヲンはナツィに顔を近付ける。
「みんなでわいわい…」
「断る」
キヲンの言葉を遮るようなナツィの声に、キヲンはへ?と拍子抜けする。

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視える世界を超えて キャラクター紹介①

・千葉(チバ)
年齢:19  性別:未定  身長:種枚さんより少し高い
薄味だけど多分主人公。大学生。昔から霊が見えたが、霊感持ちではなかったために対抗手段がなく、正直とてもしんどかったそうです。ちなみに一人称は「自分」。

・種枚(クサビラ)
年齢:不明  性別:女  身長:160㎝
この物語を主軸になって動かしてくれる人。人。生まれた頃から歯が生えていた所謂『鬼子』(ぜひお手元の国語辞典で「鬼子」を調べてみてください。10代20代の皆さんなら持ってると思うので)。
ちなみに名前は偽名なんですが、由来は「鬼子→鬼の子→きのこ→クサビラ」の連想ゲーム。
手足の爪は通常の人間より長く硬く鋭いものになっており、筋繊維も常人より遥かに頑丈なので、身体能力もちょっと度を越して高い。
また感情の起伏がそのまま体温に直結する体質(熱くなれば熱くなるし冷めれば冷たくなる)の上に気性がかなり荒いので物理的に熱くなりやすい。
あと興奮すると何か角も生える。牙も鋭くなる。口も裂ける。瞳も金色に人外めく。
本人は祖先のどこかに鬼の血でも混じっていたのではないかと考えているが、現実はもう少しすごくすごい。少なくとも純血のホモサピ。
高い身体能力、鋭く頑丈な爪、超高温・超低温になる体質、霊感、あと色々を生かして、怪異を屠りまくっている。得意戦法はパワー・スピード・スタミナのうち相手の得意は更に上回って上から押し潰し、苦手分野は徹底的に叩く脳筋の極みみたいなやり方。持てる全てをフル活用した数々の必殺技には全部きちんと名前がついている。今回使った技で技名を口にしてないのを含めると名有りの必殺技は【垂爪】【推火爪】の2つ。

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視える世界を超えて エピソード1:鬼子 その⑧

「多分これで本当に終わりだと思うよ」
声がした自分の隣に目を向けると、種枚さんがそこに立って腰に巻いたパーカーを着直していた。
「流石に体組織が燃え尽きて生きてられる生き物はいないと思うから」
「え?」
もう一度、人影の方を見る。まるでタイミングを見計らったかのように倒れた身体の随所から発火し、みるみるうちに灰の塊へと変わっていった。
「な、何が起きて……」
「知りたい?」
「それはまあ、はい……」
種枚さんが自分の額に指先を当ててくる。するとまるで針でも突き刺されたような痛み、いや高温が襲ってきた。
「熱っつ⁉」
「どうよ、熱いでしょ」
「何ですかこれ⁉」
「やァー、私興奮すると体温上がるタチでさァ」
「限度があるでしょう⁉」
「生命の神秘だよ」
とりあえず指は放してもらって、一度落ち着く時間をもらう。
「落ち着いたかい?」
「はい、ありがとうございます……助けてもらったことも含めて」
「それは気にしないでおくれ。人間を人外共から守るのは私みたいな力ある奴の義務みたいなモンだからさ」
最後に一度、こちらの肩を軽く叩き、種枚さんはどこかへ歩き去って行ってしまった。

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