無題
平気なふりをしていたらいつかほんとうに平気になるんだと思っていた。わたしがわたしでいることがむつかしいみたいに、あなたがあなたを生きることもむつかしいんだって、きっとわかっている。わかっている。誰にも会いたくないと泣いている。情けない自分は日に日にずるくなってゆく。卑怯者、と叫ぶ声がする。逃げるつもりか、とささやく声がする。ぜんぶ聞き覚えがあるからまた、逃げる。ほっといてくれなんて幼稚で言えない。かっこつける理由はわからない。やりたいこともやらなければならないことも捨てたつもりで握りしめている。明日が来なければいいのにと、未来があることを心のどこでも疑わずに祈っている。たとえば、いま。わたしをどこでもない何処かへ連れ去ってくれたら、あなたはわたしの、愛すべきひとだわ。偉い先生の人生の指南書なんかより、薄っぺらい三流ファンタジーのほうが、よっぽどいいわ。