表示件数
2
4
0
0

赤黒造物書店 前

大きな駅に直結する大規模商業施設の片隅にて。
1人の赤髪にキャップ帽のコドモが鼻歌交じりに通路を歩いている。
赤いスタジャンのポケットに両手を突っ込みながら歩くコドモは、ふと何かに気付いたように書店の前で足を止めた。
書店に入ってすぐの料理本売り場で、見覚えのある人影が本の立ち読みをしている。
外套に付いている頭巾を被っているものの、赤髪のコドモには誰だかすぐに分かった。
「おい」
赤髪のコドモがその人物に近寄って声をかける。
頭巾の人物はビクッと飛び跳ねて立ち読みしていた本を閉じ、平置きされている本の上に置く。
「なーにやってんだよ」
ナハツェーラー、と赤髪のコドモはにやける。
「…」
ナハツェーラー、もといナツィは頭巾を外しつつ赤髪のコドモの方をちらと見た。
「お前か」
「そうだぜ」
露夏だぜと赤髪のコドモは笑う。
「それにしても珍しいな、お前が本屋になんて」
何読んでたんだ、と露夏がナツィの方を覗き見ると、平置きされている本の中に先程まで読んでいたと思しき本が無造作に置かれていた。
「えーと、なになに…“初めてでも簡単☆チョコレート菓子”ってなに、お前こういうの読むのかよ」
露夏がタイトルを読み上げると、ナツィはちょっ、やめろテメェと恥ずかしそうにする。

6

少年少女色彩都市 act 11

叶絵は和湯姉から受け取ったガラスペンを構えエベルソルに相対したまま動きを止めていた。
(……そういえば、空中に絵を描くってどうやるの? あの魔法陣みたいなのとか……そもそも、あれを倒すって、何を描けば良いの……?)
叶絵が実際にインプットしたリプリゼントルの戦闘状況のサンプルは極めて少ない。そこに慣れ親しんだ現代科学とかけ離れた戦闘技術と、非日常へのパニックが加わり、思うように手が動かない。
ふと、エベルソルが一切自分たちに攻撃してこないことに気付き、敵の方を見る。その頭部には、先ほどのリプリゼントルの少女が胡坐をかいて3人を、否、叶絵を見下ろしていた。
「……あ、私のことは気にしなくて良いよ。君たちの戦いには手を出さないから」
にかっ、と笑い、少女が叶絵に言う。
「けどそのお姉さんもひどいよねぇ。何も知らない女の子を無理くり戦場に引きずり出すなんて……君が何の才能も無い無産なら詰んでたよ、ねー?」
蛾のエベルソルに同意を促すが、エベルソルは何も反応せず脚をばたつかせるだけであった。
「……まぁ、せっかく才能と道具、両方あるんだ。頑張れ若者、くりえいてぃびてぃに任せて好きに暴れな」
少女にサムズアップを示され、叶絵は一度瞑目して深呼吸をしてから、再び目を開いた。
ガラスペンを目の前の虚空に置く。ペン先の溝を無から生み出されたインキが満たし、目の前に同心円と曲線が組み合わさったような魔法陣が、殆ど無意識的に描き出された。
意を決してそれを通り抜けると、寝間着姿から一変してピンクと白のパステルチックなワンピース風の衣装を纏った姿に変身していた。
更にガラスペンをエベルソルに向けると、空間を暗闇に塗り替えるようにどす黒いインキの奔流が周囲を覆い尽くす。
「うっわマガマガしー。どんな生き方してたら『可愛い』と『邪悪』があの同居の仕方するんだろうね? まあ新入りちゃんの『芸術』、見せてもらおうじゃないの」
けらけらと笑いながら、少女はエベルソルから飛び退いた。

3

少年少女色彩都市 Act10

女性は叶絵と典礼に曖昧に微笑むと、懐からガラスペンを取り出す。蛾のエベルソルは耳をつんざくような奇声をあげてその無数の足を動かし、こちらにすごい勢いで迫ってきた。
「ひっ…」
後ずさる叶絵の腕を引いて、典礼が場を離れる。女性は幾何学模様を書きあげた。
「んと…和湯、くん?」
「典礼でいい。立って」
蛾は女性の書いた幾何学模様の盾に突っ込み、煩わしそうに暴れて、10秒と経たない内に盾を壊してしまった。女性は典礼たちのもとに駆け寄る。そのまま三人で逃げ出す。
「やっぱりだめ…昔はできたのに」
「え、あの」
混乱する叶絵が困った顔で女性を見つめると、彼女は寂し気に微笑んだ。
「私、リプリゼントルの才能が消えかけてるの。昔は典礼よりも強かったのに」
「ちょっと!余計なこと言うなよ!」
「だってあんた燃費悪いじゃない!すぐ疲れるし、一日に何回も変身できないでしょ」
両脇で姉弟喧嘩が始まってしまい、気まずくなって叶絵は俯いた。
「あ、そうだ!あなた、私のお古で良ければ使ってみない?」
「…えっ!?わた、私ですか!?」
「そう!得意なことはある?」
「得意なこと…」
叶絵の得意なこと。
「…絵、を描くこと…」
女性は満足気に笑った。