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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その⑥

「……案、というべきか…………こういった状況に強い奴には、心当たりがある」
平坂は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「へぇ、誰?」
「…………俺の身内に、少しな。だが……あいつをこんな場に出すのも…………」
平坂が考え込んでいると、突然彼のスマートフォンが着信音を鳴らした。平坂、白神、怪異存在達、その全員がびくりと反応する。
「…………?」
平坂が通話ボタンを押すと、電話口から彼の妹の声が聞こえてきた。
『兄さん。右端と右から3番目、真ん中、左から2番目』
それだけ言ってすぐに通話は切られたが、その頃には既に平坂は動き出していた。伝えられた個体『以外』に札を素早く叩きつけ、そのまま踵を返し、元の位置に戻ろうとする平坂の背中に、札を貼られなかった4体の“おばけ”が飛びかかる。
「ヒラサカさん!」
「問題無い」
平坂が指を鳴らした瞬間、周囲を覆っていた結界が消滅した。それに伴い、怪異たちの動きを妨げる力も無くなり、“おばけ”達の手が彼の背中に届く。
しかし、その手は強烈な反発力に弾かれ、反動で平坂の身体は前方に向けて吹き飛ばされた。
「ふむ、流石に動きの制御は効かんか」
地面に転がる平坂を、白神が助け起こす。
「だいじょーぶ? リーダー」
「ああ。そして」
杭のうち最後の1本を地面に突き立てる。同時に、“おばけ”達の動きがぴたりと止まった。
「準備は成った。失せろ、クズ共が」
5本の杭で囲われた範囲を中心として、強い閃光が広がる。その光は周囲の怪異存在全てを飲み込み、およそ1秒後。光が止んだ後には、紙札を貼られていなかった“おばけ”達だけが消滅していた。

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その⑤

「おい付喪神共。そっちの新入りもだ。手が空いているならついて来い」
平坂は札を貼った怪異たちを呼び、自分の後につかせて歩き出す。数m進んだところで、杭の1本を琵琶の付喪神に手渡した。
「それを持ってそこにいろ」
付喪神は弦を震わせながら杭を受け取った。角度を変えて再び歩き出し、次は琴の付喪神に杭を渡す。更に方向を変え、棒人間に杭を渡す。また進行方向を変え、鳴子の付喪神に杭を渡す。
最後に元の位置に戻ってくると、白神は大量の怪異存在に群がられていた。
「…………」
「あ、ヒラサカさん。準備終わったの?」
「ああ。そっちはどうだ」
「あと9人ってところまでは絞り込めたんだけどね?」
白神が指差した先には、全く同じ姿をした9体の“おばけ”が浮いていた。
白く半透明な身体、濁った瞳、足の無い雫型を上下逆にしたような体型。『如何にも』な外見のそれらは、全く同じ姿勢で等間隔でその場に浮遊している。
「…………これはまた、面倒なことになったな」
白神の周囲の怪異たちに札を貼りながら、平坂が呟く。
「そっくり過ぎて困るよねぇ?」
「……まとめて消し飛ばすか」
「それだけは駄目ぇー」
平坂は舌打ちし、神社の方に目を向けた。
「……どうしたものか……」
「ん? 何か良い案でもあるの?」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介③

・ツファルスツァウル Zufallszahl
身長:145~220㎝  武器:ダイス
ある遊び心に溢れた魔術師の生み出した使い魔。刻まれた術式の効果は『ロールの実行』と『乱数による能力の増減』。ダイスによって『ロール(役割)』を決定し、『ロールプレイ(RP)』によって戦う。「A~C」の3システムそれぞれにスタイルの異なる6つ、計18のスタイルが付随している。実際はダイスを振る必要無くロールセレクトや行動が可能ではあるが、ダイスの出目に従うことで最大出力が更に向上する(下振れもある)。ちなみにRP中に死亡した場合は「システム」の終了として処理され、本体は死なない。同じシステムで『卓』を開くためには、多少のクールタイムが必要。
RP中はロールごとに人格が変わったかのように振舞うが、全てツファルスツァウルが自我それ自体はそのままに『演じて』いるだけであって実際の人格は1つだけなので、はい。
非RP時の外見は銀髪ショートヘアに青目の身長150㎝弱の子ども。服装は白いオーバーサイズのパーカーとショートパンツ。非RP時は引きこもりなので足元は素足。人格はやや希薄だが女性寄り。現マスターが赤ん坊の頃から一緒にいた。
ちなみにマスターの事は「にぃ」と呼ぶ。兄ではない。

・ツファルスツァウルのマスター
年齢:24歳  性別:男  身長:170㎝
ツファルスツァウルを創り出した魔術師の息子であり、現マスター。術式や魔法の使い方も父親から教わった。
生まれた時からツファルスツァウルが傍にいたため、ツファルスツァウルのことを昔は姉だと思っていた。今もその感覚は抜けきっていない。人間ですら無いと知ったのは中学生のころ。流石に姿が変わらなさすぎることに疑問を持ち、本人に尋ねたら教えてもらえた。大層驚いたそうな。
RP中のツファルスツァウルのことは道具として見ている。

・ナツィさん
今回、勝手に射程攻撃を覚えた。【神槍】は「刺突」なので、本来大鎌による行使はとても難しいが、ナハツェーラーさんなので。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介②

・河上桐華(カガミ・キリカ)
年齢:17歳  性別:女  身長:169㎝
ツファルスツァウルのロールの1つ。システムBロール2。肩甲骨辺りまでの長さの黒髪をポニーテールにまとめた長身の眼鏡少女。基本的に長袖のセーラー服姿でいる。足元は黒いタイツとスニーカー。全長約1.2mの日本刀〈雨四光〉を用いた剣術で戦うが、最も威力を発揮するのは間合いを取った射程戦。練音ちゃんをフロントに置いて後ろから【神槍】し続ければ多分最強のコンビになれるけど、ツファルスツァウルの身体は一つなので実現はまず不可能。〈雨四光〉の銘の由来は「1足りずとも確かな輝きを放つべし」。ダイスゲー的にとても縁起が悪い。
ナツィさんに対するリスペクトはいまいち足りてない。好戦的な気質なのでまあしゃーない。
ちなみにマスターの事は「ボス」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:鞍馬神流のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《刀術》。習得忍法は【陽炎】【狭霧】【神槍】【先の先】。奥義の【鏡刃・乱影断】の効果は「範囲攻撃」。指定特技は《瞳術》。逆凪上等で先手を取り、-3ペナルティ入り(※1)の回避困難な高火力(※2)の突きを叩き込む。基本的に先手を取るためプロット5~6に貼り付いている人。
※1:【狭霧】は相手の回避に-1ペナルティが入るパッシブスキルみたいなもん。【陽炎】は使うと次の攻撃に対する相手の回避に-2ペナルティが入るアクティブスキルみたいなもん。
※2:【神槍】は『遠距離にしか撃てない』射程技。2点ダメージ。【先の先】は相手より先手を取ると1点追加ダメが入る技。理論上、敵を2手で殺せる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介①

・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳  性別:女  身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑮

「練音ちゃんから見て、どうだった?」
「私の守りの強さが露呈したと思います!」
「うん、自分でカスタムしてて思ったけど、君と戦うの絶対つまらないよね……全然当たらないんだもん」
「ナハツェーラーさん、すごい使い魔だって聞いてたのに……私の防御を抜けないなんて不思議でしたねぇ」
「そりゃそうさ。理論上、君の防御は『絶対』成功するんだもの」
「あ、あといっぱい逆凪させられました!」
「出目が味方したねぇ……。桐華さんとは正反対だ。とにかく、よく戦ってくれたね。……ところで質問なんだけど」
「はい」
「次、ナハツェーラーさんと戦ったとき、勝てると思う?」
「…………感覚としてはなんとも……ってところですかねぇ……」
「ふむ。理由を聞いても?」
「はい。まず、私の得意な間合いがバレました。近距離戦にはもう入ってもらえないでしょう」
「けど、ナハツェーラーさんには射程能力は無かったはずだよ」
「【神槍】です。キリカさんが技を盗まれました。私の術は全部、『蜘蛛』と『呪術』に由来してるので良いんですけど、キリカさんは体術メインですから……。こちらも【鎌鼬】はまだ見せていなかったので、恐らく1回は射程戦に食らいつけるでしょうけど…………あちらの方が間合いでは勝っているので。私が死ぬ前にあちらの『逆凪』を誘発して、あちらが慎重になってくれれば、あるいは」
「……うん。とにかく今日はお疲れ様」
「ごめんなさい、勝てなくて……」
「いや良い。別に本気で勝てるとも思ってなかったし。むしろ予想以上に届いたなって感じだよ。今日はゆっくり休みな、“ツファルスツァウル”。桐華さんと合わせて結構消耗したでしょ」
「はい。それではおやすみなさい、主殿」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑭

「さて」
帰宅後、男は自分の目の前に桐華を正座させた。
「感想戦を、始めます」
「はーい。お説教じゃないんですね」
「お説教じゃなーい。別に叱られるようなことしてないでしょ? まず、実際にやり合ってみてどうだったよ、ナハツェーラーさんは」
「あー……そうだな…………ネリネの方が長く戦ってたし、そっちに訊いた方が良いんじゃ?」
「桐華さんも戦ったでしょうが」
桐華は顎に手を当て、思案する。
「えっとなぁ……これはネリネ側の記憶も混じってるんだけど……そうだな、強いって触れ込みだったにしちゃ、弱かった」
「失礼な。まあ、『最高傑作』であって『最強』とかじゃないからねぇ」
「できることがシンプル過ぎてなー……体術と鎌ブンブンだけじゃん?」
「それに負けかけてたのは桐華さん、どう言い訳するおつもりで?」
「出目が腐った」
「さいで」
「あー、でも【神槍】パクられたのは痛かったなー」
「はい?」
「あいつ、私の【神槍】を見ただけで習得しやがりました。戦いの中で成長するニュータイプだよありゃあ」
「何それ怖い……」
「あとタフすぎる! 私の攻撃だけで1回以上死ねたはずだぞ。何度殺してもあれが死ぬビジョンが見えない!」
「まぁ……それはしゃーない。ナハツェーラーさんだし」
「ナハツェーラーさんだからかぁ……」
「それじゃ……練音ちゃん」
ツファルスツァウルが、『木下練音』に姿を変じる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑬

桐華が攻撃に入ろうとしたその時だった。
「ふぅ、ようやく追いついた……っと」
「ナツィいたー!」
「げっ……ピスケス、キヲン」
空気を読まないかの如きタイミングで乱入してきた二人に、一瞬場の空気が凍り付く。
「え、お前何やってるの?」
「あれ、ナツィ怪我してる。なんで?」
「……別に何でも良いだろ」
「…………あー、ボス? やっても良い?」
攻撃の態勢を保ったまま、桐華は隣の男に問いかけた。
「えー……じゃあ奇数が出たらね。……3。ゴー」
「了解ぃっ!」
桐華が咥えた眼鏡を宙に放り上げ、回転運動が発生したそれのレンズが数m先のナツィの姿を映したのと同時に、そのレンズに斬り付ける。
「ひっさぁあつ!」
衝撃によってレンズに亀裂が入り、同時にピスケスとキヲンが鏡像に加わる。
「【鏡刃・乱影断】!」
そのまま刀を振り抜き、レンズが粉砕される。鏡像が破壊されたのと同時に、現実の3人にも刀傷が発生した。
「っ⁉」
「なっ……!」
「わぁっ」
「おっ、入った入った! やっぱ死なないかー!」
「桐華さん、満足した?」
「したした!」
「それじゃ、さらばナハツェーラーさん! 対ありでした!」
男は桐華を小脇に抱え、その場を離脱した。
「痛たたた…………ねぇ、あいつら何だったの?」
ピスケスがナツィに尋ねる。
「知らん。……けど」
「けど?」
「何か、疲れた…………」
「あっそう」

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五行怪異世巡『百鬼夜行』 その③

「……とにかくだ」
平坂は空中に4枚の紙片を投げ上げた。それらは不自然な軌道で四方に飛び散る。
「この中に、白神。貴様の許しを得ていない怪異が紛れ込んでいる。何が狙いか知らんが……“潜龍”の膝元で無法を働こうというなら、容赦はせん」
「う、うおぉ……何これ、力が抜け……」
白神は結界の効力によって膝をついた。
「……む、そうか、貴様も妖怪の類だったな。少し待て」
平坂が懐から1枚の紙製の札を取り出し、白神の額に貼り付ける。
「あだっ」
「本来は人間用だが……霊的現象を遮断する守護の札だ。痛むだろうが動けるようにはなっただろう」
「うん……さてと」
ゆっくりと立ち上がり、白神は膝についた汚れを払った。
「おぉーい、みぃーんなー」
白神が目の前の怪異存在の群れに呼びかける。結界の効力によって地面に這い蹲っていた怪異たちは、各々顔に相当する部位を彼女に向けた。
「今日集まってくれたの、わたしはすっごく嬉しいんだけどね? この中にまだ挨拶が済んでない子がいるみたいなの。怒らないから出ておいでー?」
白神の呼びかけに、怪異たちは蠢いて反応を示す。そのうちの1体、黒い棒人間の頭に1対の白く丸い目がついたような子供程度の背丈の妖怪が這いながら近付いてきた。
「ん? 君、どうしたのかな?」
屈み込んで目線の高さを近付けた白神に、棒人間は蚊の鳴くような声で返答した。
『ゴメ……ァィ……ゥアァ……』
「んー……あ、もしかして君、挨拶がまだ済んでなかった子かな?」
『ゥン……タノシソダタ……』
「そっか。じゃ、今お友達になろ? これでもうわたし達の仲間だね。ヒラサカさん、それで良いよね?」
白神に顔を向けられた平坂は答えを返さず、代わりにその棒人間の頭部に雑に紙の札を貼り付けた。
『アキャァ』

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑫

『桐華』と呼ばれたその使い魔、ツファルスツァウルは、地面に落ちた刀を辛うじて動く左手で拾い上げた。
「それでぇー……ボス? もしかしてこれ……任務失敗強制帰還の流れですかねー……?」
「んー? まあ、フル残機とはいえ、自分の使い魔に死なれると悲しいからねぇ…………そういうわけで、ナハツェーラーさん。今日のところは失礼させていただきます。もうナハツェーラーさんや周りの人を無暗に襲わないよう、こっちでよぉーっく言い聞かせておきますんで、どうかご容赦ください! それでは!」
「なっ、待て!」
「そうですぜボス」
「えっ」
ナツィと桐華から立て続けに制止の言葉が入る。
「こっちの都合でボコされたナハツェーラーさんは良いとして、なんで桐華さんまで?」
「いやぁ? ネリネの【外法・御霊縛り】は見せたのに、私の奥義だけ見せないのはアンフェアじゃない」
「やるの? ナハツェーラーさん死なない?」
「ここまでやって死なないならもう死なないでしょ。それに万が一にも今度戦うことになった時、不公平じゃん?」
「うーむ……まあ良し。それじゃ、ナハツェーラーさん。あと一撃、お付き合いくださいな」
「は?」
桐華とマスターの動向を警戒しながら見つめるナツィの前で、桐華は左手で刀を構えた。
「へいボス、ちょっと私のポケットからコンパクトミラー出して」
「え、やだ……」
「ちぇっ。じゃ……」
桐華は頭を大きく振り、勢いで外れた眼鏡の縁を口で咥えて受け止めた。
「これで良いや」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑪

ナツィが再び、【神槍】の構えを取る。
(クソッ、断言できる。ナハツェーラーさんの方が速い!)
大鎌が振り下ろされる直前、二者の間に一つの影が飛び込んできた。咄嗟にナツィは動きを止める。
「ちょっ…………と待ったあ!」
「…………誰?」
突如現れたローブ姿の人物にナツィは敵対心を剥き出しにした目を向ける。
「やぁやぁどうもお初にお目にかかります、彼の伝説の大魔術師ヴンダーリッヒの生み出した最高傑作、“夜の蝶”の二つ名を冠するは、異国の吸血鬼の名を戴いた人工精霊にして使い魔ナハツェーラーさん。自分の身内がたいっへんご迷惑をおかけしました!」
その男はフードを脱ぎ、勢い良く頭を下げた。突然の事態に一瞬呆然としたナツィだったが、彼の言葉にすぐに食って掛かる。
「お前が、俺を暗殺するようその使い魔に命じた黒幕か!」
「えっまあそれははい」
平然と頷くその男に、ナツィは大鎌を振り上げて飛びかかった。しかし。
『武器を下ろせ』
男が短く言うと、それに従うかのようにナツィの身体は勝手に動きを止めた。
「⁉」
「うげっごめんなさいつい……けど今は非戦闘イベってことで一つ……」
「……なんでだ」
「ほい?」
「なんで、俺を狙った? 人質まで使って……」
「人質……ってのが何なのかは正直知らないけど…………自分の作ったものが実際どれほどの性能なのかって、確かめてみたくなるもんじゃないっすかね?」
きょとんとした表情で答えたその男に、一瞬呆然としたナツィだったが、すぐに正気を取り戻して食って掛かる。
「……はぁ⁉ そんな下らない理由で!? ってかその使い魔はお前が創ったものじゃないだろ!」
「ん? ぁいや『ツファルスツァウル』じゃなく、『ロール』の方。18個もぶち込んだからなー。結局いくつ使い潰した? 何か桐華さんに姿変わってるけど、練音ちゃんは?」
男がツファルスツァウルに尋ねる。
「まだ1個も死んでないやい。ネリネから選手交代で1発目だよ」
「それは良かった」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑩

街灯の下から外れ暗闇に紛れた少女の眼光だけが、ナツィを鋭く捉える。
(……奴の戦法。『ネリネ』とはまるで反対だけど……ある意味似てるな。『刀』って得物のくせして一番重い間合いは『遠距離』。同一人物ってのも冗談じゃないのかも……姿を変える魔法とかか?)
「……っ!」
ナツィが接近しようとしたその瞬間、遠距離刺突がナツィの脇腹を深く抉った。
「づッ……!」
「おっ! ようやくハマったなぁ!」
「くっ……そぉっ!」
ナツィは足を止めずそのまま接近し、隙のできた少女の鳩尾に、走る勢いを乗せた拳を叩き込んだ。
「あっ」
威力に吹き飛ばされ、少女は土の上を勢い良く転がった。
「ごぅぉぉぉ……っ、痛ってぇえええ……」
大袈裟に騒ぎながらも、少女は素早く立ち上がり、体勢を整える。その目に映ったのは、独特の姿勢で大鎌を構えるナツィの姿だった。
「たしか…………こうだったか?」
(なっ……こいつ!)
少女が対応するより早く、ナツィが鎌を振るう。その切先は数m先、本来届くはずの無い少女の頬を掠めた。
「ッ、『死地』の域かよ……!」
更に距離を詰めたナツィは大鎌を振るい、少女に袈裟斬りを命中させた。
(痛った……それよりも、さぁ……!)
肉体の損傷により握力を失った少女の手から、刀が抜け落ちる。
(ナハツェーラーさん…………私の【神槍】を見様見真似でパクりやがった!)
「これで、得物はもう使えないな」
「っ……へへ、仰る通りで…………」
ナツィの言葉に、少女は冷や汗を流しながらも努めて不敵な笑みを保ちながら答えた。
(……いや、これはマジにマズい。今の攻撃で体術の手が死んだ。…………っつーか何だよアイツ、おかしいだろ。ネリネと私で2回くらい殺せそうなダメージは入れてるはずだろ? せっかく『ネリネ』から継いだってのにさァ……私が決めなきゃ、格好悪いじゃんねぇ……?)

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑨

「どうした、あんた『伝説』なんだろ? この程度で倒れてくれるなよ、ナハツェーラーさん!」
「倒れるかよ、この程度で……!」
ナツィが距離を詰める。それに合わせて、少女は刀を振り下ろした。
「っ……⁉」
ナツィはその攻撃を大鎌の柄で受け止めたが、少女の動作に違和感を覚え、素早く観察する。振り下ろした姿勢のまま、微動だにしない。
(…………この現象……もしかして、あのネリネって奴に散々やられた……?)
「それな……らっ!」
ナツィの放った蹴りは、少女が回避動作を取る間も無く命中し、数mも後退させる。
「『それ』、そっち側もなるんだ?」
「げッ……ほ、ぇほっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……痛ってェー……!」
少女は体勢を整え、上段の構えでその場に制止する。
「来なよ、ナハツェーラーさん。迎え撃ってやる」
「……そんなら、お望み通り!」
ナツィが駆け出す直前、少女は既に動き出していた。刀1本にて、遠距離に届く刺突の技。しかし、その動きはまたも空中で不自然に停止した。その隙を逃さず、ナツィは大鎌の斬撃を命中させる。ダメージによって少女はよろめき、更に後退する。
「ごッ……ふぅっ、はぁっ、っ、ぐぅぅぅ……完璧な騙し討ちだと思ったのにぃ……」
肩から胸にかけて深く残る傷を撫で、掌にべったりと付着した血糊を眺めながら、少女は溢す。
「……まあ良いや」
そう呟き、少女は再び刀を構える。
「どうせ私はこれ以外の戦い方知らないし」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑧

日が沈んだことで視界の悪い公園の中を、ナツィは周囲を警戒しながら進む。中ほどまで入った時、背後でかすかな物音が聞こえた。咄嗟に武器を構えながら振り返ると、暗がりの中のベンチに、1人の人影が腰掛けていた。
「やぁ、ゴスロリ美少女。どうした? こんな良い夜にそんな怒り顔で……綺麗な顔が台無しだぞ?」
ハスキーな女声で、その人影は軽快に話しかけてくる。
「…………」
「おっと、もしかしてゴスロリ美少年だったかな? 顔が良すぎて分からなくってさ。間違ってたらすまないね」
人影はゆらりと立ち上がり、周囲を見渡してから少し離れた街灯の明かりの下に進み入った。
その正体は、腰に1振りの日本刀を佩いた、セーラー服姿の長身の少女だった。艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた少女は、丸眼鏡越しにナツィを鋭く見据えている。
「へいゴスロリ美少年……美少女?」
「どっちでも良いよ……それじゃ、俺は行くから」
「待ちなってカワイ子ちゃんや。ひょっとして君さぁ……」
少女はナツィに向けて、1枚の光沢紙を投げた。折り目の1つすら付いていないにも拘わらず真っ直ぐナツィの手の中に納まったそれは、笑顔でピースサインを取る練音の写真だった。
「!」
「この子のこと、探してたりしない?」
「お前……あいつのマスターか!」
「んー? どうだろうねー、ビミョーに外れ」
「は……?」
「私はネリネと『同一人物』だよ。そして……」
言いながら、少女は刀を抜く。次の瞬間、ナツィの肩口が切り裂かれていた。
「ネリネと同一人物である以上、目的は『あんたの暗殺』なんだよ、ナハツェーラーさん!」
「くそっ……ツファルスツァウル……!」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! 幕間

練音:GM、《遁走術》による特殊な回避したいです!
GM:えぇ……一応クライマックスフェイズ扱いなんですが……。
練音:GMの許可があればできると聞きました。
GM:できるけどさぁ……。
練音:現状、私決して不利じゃないと思うんですよ。
GM:遁甲符使い切ったけどな。
練音:向こうには既に3点与えてて、こっちはまだ2点しか削れてないし。このまま逆凪食らわせて叩き続けてれば勝てるわけじゃないですか。最悪【鎌鼬】で射程勝ちして一方的に叩けるし。
GM:それはまあはい。
練音:この高い防御力と優位性を捨てる縛りを結んで、攻撃の得意な他の方に繋ごうかと。GMもせっかく作った他の子使いたいでしょう?
GM:有利と言えるほど有利かは知らんけど……っつーか何ならその2点実質回復できる分余計に有利まであるけどな。まぁ、しょうがないにゃぁ……良いよ。でも《呪術》で縛り結べるか判定してね。
練音:6で成功です。
GM:はいはい…………いや待て何だそのダメージの受け方は。《遁走術》使えないじゃねーか。
練音:なので《鳥獣術》で代用します。
GM:目標値10。無理じゃね?
練音:そこで回想シーンの達成値ボーナスを適用させてもらいます。これで目標値7です!
GM:うーんしゃーない。やって良し。
練音:8で成功! あ、脱落する前に《言霊術》で煽り倒してから逃げても良いですか?
GM:じゃあ今+3修正入れてあげたから-3修正で。
練音:えぇ……あ、出目8。ジャスト成功です。
GM:了解。それではネリネちゃんは脱落したので、同じシステムの子から交代選手選んでください。次は誰が出るかなー。
練音:攻撃力高いキリカちゃんとかエリハさんだと良いなー。
GM:ダイスでランダムに決めようか。6は振り直しで。
練音:2! キリカさん!
GM:まーじか。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑦

(自己紹介か? 悠長な……)
「“木下練音”は、防御能力に秀でたロールでして。主殿は私が行くと決まった時、『練音ちゃんはハマれば誰にも触れられないからね』って、とっても喜んでくださったんです。何故なら……」
それまで伏し目がちに話していた練音が顔を上げ、ナハツェーラーを真っ直ぐ見据える。
「主殿が私に課したのは、ナハツェーラーさん。『あなたを殺すこと』だから!」
「……何?」
「主殿の命の達成こそ、私の存在意義! そして“私”の役目は『威力偵察』。あなたの実力は掴めました。つまり“私”は『次の一手』に繋げたので!」
練音が不意に、ナツィに背中を向けた。
「……1つアドバイスです。私を逃がさない方が良いですよ。私はナハツェーラーさんの大事なひとを知ってるんですから」
「何を……!」
大鎌で斬りかかったものの、僅かに届かず練音は既に駆け出していた。
(逃げた……⁉ どうする、このまま追うか、いや、かすみの下へ向かった方が確実に護衛できるか……?)
「……そういえばあいつ、『俺を殺すこと』を命じられたって言ってたな。それなら」
練音の走り去った方向へ、ナツィも駆け出す。
(無理に近くにいて危険に晒すより、俺1人で全部片付けた方が良い!)
ひと気の無い宵の入りの街を、ナツィは練音の気配を探りながら駆け続ける。
とある児童公園の前まで走り続けたところで一度立ち止まり、周囲を見渡した。ここまで、練音のものに近い気配は感じられなかったが、目の前の公園の奥から、注意を引く気配を感じるのだ。
「…………ここか。誘ってるのか?」
いつでも大鎌を振り抜けるよう肩に担ぎ、ナツィは公園敷地内に足を踏み入れた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑥

「なん……で……⁉」
「あ、危なかった…………まさか、いきなりリソース全部出し切ることになるなんて……」
ナツィの時間が鈍化する。ナツィは攻撃に備え意識を練音に向けたが、反撃が来ることは無く、鈍化は終了する。
(何だ? 攻撃が来なかった……。あの【御霊縛り】って術が大分しつこかったし、その影響か?)
「うぅ……どうしよう……」
目を伏せる練音に釣られて、ナツィが彼女の足下に目をやると、大部分が焼き切れた紙製の札の燃えさしのようなものが2枚落ちていた。
(……2枚? もしかして……)
「さっきの【御霊縛り】、『それ』で当てたな?」
「はい、お察しの通りで……残念ながら、手持ちは全て使い切ってしまいましたけど」
「へぇ? じゃ、もう【御霊縛り】は使えないと思って良いんだ?」
「使いますよ。ナハツェーラーさんなら簡単に凌いじゃうと思いますけど…………」
そして練音は黙り込み、しばらく瞑目してから意を決してゆっくりと話し始めた。
「……ナハツェーラーさん。私、木下練音と名乗りましたね。本当は違うんです」
(……何だ、いきなり?)
練音の行動の意味を理解できず、ナツィは武器を構えたまま練音の言葉の続きを待つ。
「いえ、『私』は木下練音なんですよ? それは間違いなく。けど、“木下練音”は飽くまで、数ある私の『ロール』の1つでして…………。純粋な『使い魔としての私』の名前を教えますね。私は“ツファルスツァウル”。生まれは30年と4か月と14日前。刻まれた術式は、『ロールの実行』と『乱数による能力の上下』。現在の主殿は、私を創った魔術師のお子さんです」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑤

再び、ナツィは約1.5mの距離を取り、大鎌を構える。
(…………当たり前だけど……長物の強みは『射程』。これを忘れるな。こいつの蜘蛛脚はたしかに見た目こそ恐ろしいが、実際はかなり軽量で打撃の威力も大した事無い。むしろ素手での格闘の方が重いまである。糸の防御、糸の攻撃はどちらも踏み込んだ時のカウンター用らしい。『超』近距離の範囲じゃ、あの武器として使われている蜘蛛脚ですら、こいつにとっては邪魔なんだ。…………頑なに、この距離を保って、大鎌を当て続ける!)
薙ぎ払い。石突近くを持って放たれたその攻撃は、練音を深く捉え、実体に到達した。
「わぁっ!」
「届いたな」
練音は直撃の瞬間、辛うじて刃と身体の間に蜘蛛脚を滑り込ませ、盾代わりにした。しかし、威力を完全には殺せず、薙ぐ勢いのまま弾き飛ばされる。
「うぅっ……けほっ、あぅぅっ…………参ったな…………うん」
蜘蛛脚を利用して立ち上がり、練音は懐を探る。やがて目当てのものを発見し、若干手間取りながらも取り出した。
「あのぉ…………最初に私、本気でやるって言ったじゃないですか」
「……? 何だ突然……」
「あれは嘘でした。まだ出せます。ちょっとここから、本当の本当に本気で、全力で、あるものとできる事100%ぶち込んで、戦おうと思います!」
「……何なんだ突然」
練音が先程ポケットから取り出した小さな物体を真上に放り投げ、蜘蛛脚による攻撃を放つ。ナツィはそれを大鎌の柄で受け流し、カウンターとして斬り上げる。
「っ! 【外法・御霊縛り】!」
「その術、やっぱり技名言わなきゃ駄目なんだ?」
ナツィは背後から迫る腕を視線も向けずに回避し、そのまま攻撃を続ける。しかし。
「…………ッ⁉」
回避したはずの腕は更に追いすがる。攻撃の軌道を僅かに変え、自身の周囲をまとめて斬り払うようにして腕に対処し、勢いのままに練音を狙った。はずだった。
「ぐぁっ……⁉」
刃が練音の首に届く寸前、その動きが止まる。先ほど振り払ったはずの腕の呪いが、いつの間にかナツィの全身に絡みついていたのだ。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その③

「っ…………」
「ナハツェーラーさんっ、どうですか? 痛いですか?」
表情を輝かせて問いかける練音に、ナツィは不敵な笑みを返した。
「いいや、全然。始めようか、第4ラウンド」
「! ……はい、胸をお借りする気持ちで、行かせてもらいます!」
ある種の武術のそれに近い構えを取った練音に、ナツィは1歩ずつゆったりと接近し、およそ2m弱離れた地点で立ち止まり、大鎌を構えた。
「……!」
「流石にあれだけ打ち合えば分かるよ。ここだろ、『お前の1番苦手な距離』。その蜘蛛脚の見た目で騙されてたけど……お前の『糸の防御』、あれは超近距離にしか張れないんだろ」
「……正解です」
「だから、この距離。俺の刃は、お前に届くぞ」
「……私の武器も、十分届きますよ!」
ナツィが斬撃を放つ。
「っ! 【外法・御霊縛り】!」
「その魔法も、もう知ってる!」
ナツィは大きく踏み込み、無数の腕の拘束を回避しながら練音に斬りつけた。
「きゃぁっ」
「ようやく入ったか……どうだ? 俺の強さは」
「お、思った通りです。とってもお強い…………ところでナハツェーラーさん。ご存じですか?」
「…………?」
練音の言葉の意味を察するより早く、ナツィの手足に多数の切り傷が開いた。
「なっ……⁉」
「『糸』、って…………ぴんっと張ると『刃物』になるんですよ? 懐に飛び込んできてくれて助かりました」
「つくづく……近距離型か……!」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その③

(何だ……? 急に、身体が動かなく……どんな魔法だ……?)
練音は悠然とナツィに接近し、蜘蛛脚でナツィを殴りつけた。地面に叩きつけられるのと同時に、ナツィの身体も動き始める。
(ぐっ……やっと動くようになった……! あいつの攻撃、そこまで強くは無いけど、まるでこっちの時間の流れが遅くなったみたいに反応できなかった…………!)
「さぁナハツェーラーさん、第2ラウンドですよ!」
練音の言葉に、ナツィは大鎌を構え直し、再び距離を詰めた。練音も更に踏み込み、近距離の戦闘に持ち込む。ナツィは石突側による打撃を仕掛けたが、その攻撃も幻影を貫くだけで終わり、再び時間の鈍化が発生する。
(マズいっ、また……!)
「せやぁっ!」
ナツィの鳩尾に、練音の掌底が突き刺さる。
「ぐっ……また…………この感覚……」
「どうですか、ナハツェーラーさん! 私の実力、ナハツェーラーさんの足下くらいには届いてますか?」
「…………っはは、一撃が軽すぎる。3倍強くなってから出直せ」
「あらら手厳しい。それじゃ、届くまで続けましょう。第3ラウンド!」
ナツィが再び突進する。練音がそれに合わせようとした時、ナツィは急ブレーキをかけ、完全には詰め切らないままに大鎌で薙ぎ払った。斬撃は無防備な練音の首に迫り、直撃をナツィが確信した瞬間であった。
「……【外法・御霊縛り】」
練音の詠唱と共に、ナツィの身体を複数の冷たい腕が背後から引き、攻撃が逸れる。
(外れた⁉ マズい、それよりも……!)
再び発生する時間感覚の鈍化。身動きの取れなくなったナツィに、蜘蛛脚が打ち込まれた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑬

(そうか、そういえばカオルの姿を見せたのってメイさんくらいか……今出れる?)
(力不足かなぁ)
カオルの返答に青葉はしばらく考え込み、千ユリに手招きした。
「あン?」
「千ユリ。適当に攻撃くれる?」
「…………“野武士”」
武者の霊の放った斬撃を、青葉の背後から伸びてきた機械人形風の左腕が受け止める。
「えっと……紹介します。〈薫風〉の付喪神、カオルです」
「ワタシの可愛い青葉ぁ……こういう呼び方はあんまり感心しないなぁ……」
背中から覆い被さるように出現したカオルの上半身に、他3人の注目が集まる。
「彼女は私に降りかかる霊障などを吸収してくれるようでして……」
「へェ?」
青葉の説明に、種枚が楽しそうに反応した。
「……何さ。あんたは『ただの人間』みたいだから良いけど……じろじろ見られるのってあんまり気持ちの良いものじゃないんだけど?」
「あン? そりゃ失敬。しかしまァ、私が人間と分かってくれるたァ嬉しいねェ」
からからと笑いながら近付き、種枚は青葉の両肩に手を置いた。
「しかしまァ、君も随分と面白くなってきてるじゃないか。身内に引き込んだのは正解だったよ。これからも精進しタマエ」
「え? えっと、まあ、はい……」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター③

・向田ワカバ
年齢::22歳  性別:女  身長:166㎝
玄龍大学4年生。“アルベド”の研究内容に感銘を受け、「助手」を自称して日々研究室を冷やかしている。魔術師としての腕は極めて優秀で、「仮想の無限空間を展開する」という、所謂結界術を最も得意としている。この術式はアルベドの研究の際にとても役立っているので、アルベドは結構感謝している。
どうでも良いけど、卒論のテーマは『工業史におけるエネルギー効率の変化の経緯』。
※ワカバの魔法:「無限空間」とはいうが、厳密には完全な無限では無い。デフォルトの結界の内装は電脳的ポリゴン空間のようであり、範囲はおおよそ3000㎞立方程度。手帳のページ1枚1枚に刻んだ術式それぞれに、外観の追加要素と無限遠(これも厳密には無限ではなく、デフォルトと同じ3000㎞立方程度)が付与されており、結界の展開時に同時に消費することで、要素を無限空間に追加できる。ちなみに空間範囲は何故か乗算される。つまり追加要素1つごとに1辺当たり「×3000㎞」される。空間内のどのポイントに出現するかは対象1つごとに個別で選択できる。「全対象の現在の相対位置を保持したまま転移させる」のが一番楽で低コストではある。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その②

ナツィの振り抜いた大鎌の刃を、練音は後方に跳んで回避する。
「良かったぁ、どう脅そうかって悩んでたんですよねぇ。私だったらお友達を人質に取られるの嫌だなぁ、って思ったから試してみたら大成功! 反応からしてクリティカル引いちゃいましたかね? まぁとにかく。せっかくナハツェーラーさんが本気を出してくれたようなので」
練音の背中から、2対4本の大蜘蛛の脚が展開される。
「こっちもしっかり、『本気で』いかせてもらいますよ!」
「……やっぱり、どこかの使い魔か」
先に動き出したのはナツィだった。背中に蝙蝠の翼を展開し、超高速で距離を詰めて大鎌を振るう。しかし、その攻撃は空中で一瞬減速し、僅かに練音に届かない。
(何だ? 今の感覚……何かに引っかかったみたいな)
練音が蜘蛛脚で放った反撃を飛び上がって回避し、ナツィは目を凝らす。そして、空中で光を反射した細い糸のようなものを確認し、鎌を投擲する。
「うわぁっ」
「……なるほど。蜘蛛脚に蜘蛛糸。タネが割れれば何の面白みも無い……」
「え、えへへ……バレちゃいましたか。クモさんですよぉ……」
ナツィは再び大鎌を生成し、距離を詰める。空間内に展開された極めて細い蜘蛛糸は回転斬りによって切断され、ナツィを拘束するには至らない。
(これで……)
「終わりっ」
大鎌が練音を捉え、斬り裂いた。その姿は幻影のように溶けて消える。
「っ⁉」
「そいっ」
再び放たれた蜘蛛脚の攻撃を、ナツィは大鎌の柄で受け止めた。
「……なんで生きてる?」
「そりゃまぁ……まだ殺されてないからじゃないですかね?」
「それなら……死ぬまで殺すだけだ!」
蜘蛛脚が離れた瞬間、ナツィはカウンターの斬撃を放つ。その攻撃は再び幻影を切り裂き、それと同時にナツィの動きが不自然に停止した。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その①

喫茶店の閉店からおよそ10分、ナハツェーラーは静かに店舗出入り口から店外へ姿を現わした。
「あー、やっと出てきたー」
そこに声を掛けたのは、ナツィ本人より小柄な、腰まである長い黒髪と蜘蛛の巣柄の金糸の刺繍が施された和装が特徴的な少女。
「……そりゃ、当然でしょ。こんな明らかに不審者な格好の奴がジロジロ見てきて。で、何の用だ?」
「何ってそりゃ……あ、ごめんなさい! 先に名乗った方が良いですよね?」
「勝手にしろ」
「えー、名乗らせていただきます。私は木下練音(キノシタ・ネリネ)。ネリネちゃんって呼んでいただければ幸いです。本日ナハツェーラーさんに相見えましたのは……」
ナツィは名前を呼ばれ、ぴくりと反応する。
「あれ? わざわざナハツェーラーさんを訪ねておいてナハツェーラーさんを知らないわけないですよね? そんな大げさに反応しなくても……」
(……大袈裟、だって? ほんの数㎜肩が上下しただけだろ)
ナツィの視線を無視して、練音は言葉を続ける。
「あ、それで御用なんですけど、とっても強くてすごいナハツェーラーさんと、1度本気で喧嘩してみたかったんです! 伝説のナントカって魔術師が創り出した、史上最高の使い魔! 泣く子も黙る“黒き蝶”! 魔術に関わる者なら、誰でも1回くらい見てみたいと思うのは当然でしょう? せっかくなら、その実力を1度この目で見てみたい!」
「……はぁー、そんな下らない動機で来たわけ? 帰って良い?」
踵を返したナツィの背後から、練音は更に声を掛ける。
「……かすみちゃん、でしたっけ?」
名前が出た瞬間、ナツィの動きが止まる。
「可愛い子ですよねぇ。ナハツェーラーさんもあの子のことが随分大好きみたいですね。仲良きことは美しきこと……」
練音が口を噤む。一瞬で距離を詰めたナツィが、喉元に大鎌を突き付けたためだ。
「……何が言いたい?」
「言ったじゃないですか。戦りましょう、って」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター②

・おネコ
身長:130㎝  人格:ネコ寄り  武器:艦載光子砲
アルベドの製作した使い魔。外見は耳がネコのものになりネコの尾が生えた栗毛のショートヘアの子ども。言動はネコ寄り。ワカバさんは『娘』扱いしているので、女性寄りなのかもしれない。アルベドが得意とする多重立体術式を使うことができる。というかそれ以外能が無い。使用する武器も飽くまで術式の『演出』の範疇であり、一連の全ては1つのプログラムの一部でしかない。燃費が悪いので、普段は日の当たる場所か涼しい場所か親しい人間の頭の上で丸くなって寝ている。才能ナメクジのアルベドが創り出した唯一の使い魔。
※おネコに刻まれた多重立体術式:「術者を中心とした旋風の発生」「術者を中心とした電光の発生」「魔力の全方位への放出」「重力と逆ベクトルのエネルギーの発生」「武器の展開」「武器の強化の実行権獲得」「光線の射出」「光線の集光率に対する操作権獲得」「光線に対する破壊力付与権限獲得」「破壊力付与の偏向性に対する操作権獲得」という10種類の魔法を実行するための術式を組み合わせたもの。これらが上から順番に発動し、起動から実行完了まで15秒ほどかかる。

・おスズ
身長:128㎝  人格:ほぼ無い  武器:なし
アルベドを襲撃してきた使い魔。極度の痩身で、両脚の膝から下は猛禽のそれに変じており、背中からは痩せた茶色の鳥の翼が生えている。服装は白いノースリーブのワンピース。微妙に薄汚い。生み出した魔術師は既に死亡しており、アルベドに恨みを持つ魔術師が魔力供給を担う魔道具(紫水晶球)を所持し、暗殺命令を出していた。自我が希薄で、命令を実行するために都合の良い人格を演じることには長けているが、『素』を出そうとすると『本当の自分』を表出する経験の不足から、情緒が幼児以下になる。刻み込まれた術式は「物質の変形」。肉体の一部(多くは足の爪)を変形させ、武器とする。
ちなみに名前はアルベドが付けた。スズメのスズ。
※おスズの魔法:自身の肉体のみを対象とする制限はあるものの、極めて精密に自身の形状や性質を変形させる。分子単位で変形操作を適用し、振動数を調整することで、高温化・低温化も可能。なお、肉体の総量は変わらないので、大きくなったり小さくなったりということは基本的に不可能。密度を調節すれば出来ないことも無い。