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魔法譚 ~エンドレスライフ、エンドレスジャーニィ Ⅲ

「…そうかい? でもこの歳になっても魔法使いとして生きられるなんてすごいと思うよ? だって…」
「…ほとんどの魔法使いは、大人になる前に死んでしまうから」
大賢者が先に言う前に私が答えると、…そうね、と少し悲しげに答えた。
「みんな、幸せになるために魔法使いになったのに、みんな、悲劇の死を遂げてしまう…」
大賢者は悲しそうにうつむいた。
「そんな風に悲しむのなら、魔法使いなんて生み出さなきゃいいのに」
どうして生み出し続けるのよ、と私は言った。
それを聞いた大賢者は、私の目を見つめながら答えた。
「…だって、この世で魔法を使えるのが、わたし1人だけじゃ寂しいじゃないか…」
もちろん、魔法を持たないキミ達に魔法を与えて、どんなことをするのか眺めて楽しむってのもあるけど、と彼女は付け足す。
「…わがままね」
私は少しだけため息をついた。
「…でも、どんな願いもわがままと変わらないじゃないか」
「私のはちょっと違うと思いますけど」
大賢者のツッコミに、わたしはさらっと反論した。
「…オカルトなんて、基本信じてなかったから。だからあの時は、適当に『空を飛びたい』と願ったのよ」
私は彼女から目をそらしながら呟いた。
「…まぁ、いいわ」
そう言って、大賢者はふわりと飛翔した。
「わたしはこれからも、誰かのわがままを、自分のわがままを、叶えるために世界を巡るわ」
あなたも頑張るのよ、そう笑って、大賢者は夜空へと消えていった。

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魔法譚 死にたくない魔法使い5

「アトは、お前ダけカ」
『クククククク……。よくぞあれだけの数を倒したものよ。褒めてくれる』
「じゃあ、ツイでにあんたモ消エテくれまセンカねェ?」
『ああ……。そうだな……』
〈ケットシー〉が塀に飛び乗り、捨て台詞を吐く。
『ええい、今回だけは見逃してくれる!次は気付かせる間もなく一瞬のうちに始末してくれるから覚悟しな!アバヨ!』
そう言って向こう側へ飛び降りた。しかし、
「オット、ドコへ行くンだ?」
その壁をすり抜けて、『死神』が追いかけてきた。
『な、馬鹿なッ!』
「今ノ言い方、まるでマタやっテ来るみたいジャあないカ。そんなコトは僕が許さナイヨ?」
『グッ……、ま、魔法は一人に一つ、そうじゃなかったのか!』
「知らなかったのか?『死』からは誰も、逃げられない」
ただの人間には聞こえない断末魔が、周囲に響いた。その日、ほんの一部の人間にしか分からないことだが、その周辺に大量のネコの死骸が目撃された。その数は、数千から数万匹にものぼったという。
「……一つ。死は、命あるものを等しく殺す。一つ。死を留める障害などこの世には存在しない。一つ。『死』、その正体は、自身である。以上がこの魔法のルール。……おお、怖い怖い。この世はまったく、怖いものばかりだ。そうだな、今は冷たい麦茶が1杯と安らぎのひと時が怖い、なんてね」

『死』そのものになること。それがこの少年の魔法である。

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魔法譚 死にたくない魔法使い4

本文を始める前に、レスにあったことについて補足をば一つ。本作の主人公の少年の『死神』モードについてですが、これはマジックアイテムの変身機能とは別物です。変身による変化は飽くまでもローブだけで、骸骨姿は彼の魔法によるものです。追加で変身魔法を使ってるんだと思っていただければ大体合ってます。そんな訳で本編再開。

「ふう、終わったか」
『死神』はローブだけを残して、その姿を少年のものに戻した。しかし、
『……とでも思っていたのか?』
「何!?」
死んだはずの〈ケットシー〉の声が聞こえてきて、少年は慌てて『死神』の姿に戻る。声のした方を見ると、そこには三毛猫が二本足で立ち上がろうとしていた。
『フフフフフ……。ただ殺すだけで頭の足りない馬鹿に教えてやろう。我らファントム〈ケットシー〉は、一にして全!全にして一!言うなればこの猫の群れ、猫の治める国そのもの全てが〈ケットシー〉なのだ!お前にこれまで話しかけていたのは、代表として動いていた、たった一匹に過ぎないのだ!そして我々は既に半径にして500m単位で貴様を包囲している!逃げ場など無い!さあもう一度、【人を殺す歌】を!仲間の仇を討つのだ!全体、歌い方、始め!』
しかしネコ達は、たった一息吐くほどの間も与えられずに、ある者は首の骨を折られ、またある者は八つ裂きにされ、別のある者は訳も分からず心臓を止められ、皆、様々な方法で死んでいった。半径500m圏内、殆ど全てのネコがだ。
(何……だと……。まさかここまで恐ろしい魔法使いだったとは。連れていたネコ達も、9割方殺されてしまった)
〈ケットシー〉も焦りを隠せない。
(クソ、こうなったら最後の手段だ)

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無幻の月-宿痾-

「哭羅(コクラ)...そんなものまで出てくるなんてねぇ...」
桜は戦場から少し離れたところにワープさせられてた。
「賢者...なぜ助ける...」
「緊急事態なんでね。本来はこんなことはしないけど哭羅が出てきちゃったからねぇ...絶対にキミにはヤツを倒してもらいたい」
コクラ...あのでかいヤツのことか?
「だからキミの腕は魔術的に繋げさせてもらった」
なるほど、まだ変身状態なのはそういうことか
「賢者、二つ聞かせろ」
「なんだい?今さら降りるとかは無しだよ?」
「一つ、コクラとか言うあの怪物はなんだ、あれを放置すると何が起こる」
「あれはファントムの上位種。いわば支配者、王様みたいなものだ。この世界では...なんだっけ...あーそうそう、ダゴンって呼ばれてる」
ダゴン...昔何かで読んだな...どっかの宗教の神様だったか?なるほど、それであんなに強いわけだ
「そして、あれを放っておくとこちらの世界がメチャクチャになる」
さした影響は無さそうだな
「では二つ、私があの指輪を取り込んだらどうなる」
一緒にワープさせられた右腕を手に取りながら言う。
これは前々から考えていたことだ
取り込めれば恐らく指輪のリミッターを外せる
もっともこれが危険な賭けなのがわからないほど私も馬鹿ではないのだが
「...あなた正気?」
いつも飄々してた大賢者の顔が険しくなる。
「正気だ。お前が私の前に現れた時と同じくらいにはには」
「...そもそもマジックアイテムの力にその肉体が耐えきれない。仮にそこをクリアしたとしてもキミは常に変身状態でいるここと同じになる。人の精神がそれに耐えられるはずがない」
「なるほど...面白い!」
聞き終わった後、指ごと指輪を飲み込んだ。
体内で力が駆け巡る。耐えきれないというのは納得だった。
だが...これなら...
暴れだしそうな魔力を精神力でねじ伏せる。
それはもう、人に非らざる魔なる者だった。
「あなた...何を...!?」
「...いい気分だ...」
「この魔力...ファントム!?まさかあなた、アレも取り込んだの!?」
どうやら、あれは禁じ手だったらしい
持ってかれた右腕を魔術で生やし、焦る大賢者を尻目に再び戦場へ飛び去った。

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魔法譚 死にたくない魔法使い3

『なっ、何だオメェ、そのけったいな姿は!?くッ、お前ら、怯むな、歌い続けろォッ!』
『死神』が歌い続けるネコ達に向かって、何ということもなし、といった風に腕を振るった。勿論ネコ達にはかすりもしない。しかし、その腕の軌道の延長線上にいた数匹のネコの首が、何か見えない力によって斬り飛ばされた。
『馬鹿なッ!くそ、ええい、こうなったら!後方の部隊を歌唱に集中させ、前方のものは奴に突撃!あのくだらん骸骨マスクを引っ剥がし、喉笛に喰らいついてやれ!』
それに従い、前の方に居たネコ達が一斉に『死神』に飛び掛かる。しかし、『死神』にひと睨みされたその瞬間、また首を刎ね飛ばされて絶命した。
『グッ………。何て野郎だ。しかァし!今ので全て理解したぜ!どんな恐ろしい力かと思えば、所詮相手の首を刎ねるだけのくだらない魔法じゃあないか!そんなことなら何でもねえ!』
〈ケットシー〉が後方宙返りを決める。その技の終わりには、〈ケットシー〉の首から下は何処かに消え、ニタニタ笑うネコの頭だけが空中に浮かんでいた。
『イイィィイイイッハァアハハハハハ!首しか無いネコの首が刎ね飛ばせるか!?首と胴が最初っから離れてる奴にギロチンが効くか!?オラどうなんだよハートのクイーン様ヨォ!?答えてみろやァハハハハハ!』
「……うるさいナ」
驚く程冷たい、生命力を感じさせない声で『死神』が〈ケットシー〉の挑発を遮った。黒猫もその圧力に気圧され、口をつぐむ。
「僕がアイツラの首をハネたノハ、あいつらがソレで死ぬカラだヨ。お前の言っテルことの意味ハよく分からンが、一つダケ分かるコトガある。お前らは『等しく死ぬ存在』だよ」
そう言って首だけの〈ケットシー〉に手を翳すと、〈ケットシー〉の脳天に撃ち抜いたような穴が開いた。
『ばッ馬鹿なアアアアア………』
首だけのネコは地面にポトリと落ち、他のネコと等しく死んだ。

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魔法譚 死にたくない魔法使い2

突然、身体を丸めるようにして苦しんでいた少年が、耳を塞ぐのを止めて姿勢を正した。
「僕はさ……、ただ願っただけなんだよ。『死ぬのが怖い、死ぬのは嫌だ』って。それだけなんだ。そしたらあの人は、僕に言ったんだよ……」
少年の頭に、『大賢者』と出会ったときの会話が思い出される。

『少年、死ぬのが怖いと言ったな?』
「うん、言った」
『そうか、ところでお前さん、自分を怖いと思うか?』
「いや、思わない」
『そうか、それは幸せなことだ』
「そうなのです?」
『ああ、世の中には、自分自身が怖いなんてことを言う奴だって居る』
「それはまた奇妙な。どんなに怖がったって自分からは逃げられないでしょう?」
『死もまた、決して逃げられないことさ』
「そりゃあ、運命による死はそうでしょう。けど、何か悪いものが僕を害して、そのせいで勝手に死なされる、それが怖いのです」
『ふむ、……それなら少し……、いや、よそう。結局はお前が決めることだ』
「何の話です?」
『いや、「お前は幸せ者だ」という話だよ。さあ、これをくれてやろう。後はお前と、お前の願いが決めることさ』

少年は懐から小さな白い何かを取り出した。それは、『骨片』。何かの生き物のどこかの部位の、ほんの小さな、少年の指の長さほどの骨の欠片。
「つまりはさ、何も分からないから怖いんだ。いつ来るのか、そもそも何なのか。未知こそが恐怖の正体なんだよ。なるほど確かに僕は僕を怖がらない。その答えが『自分』ならさ……」
少年の姿と服装がが少しずつ、変化していく。
「少しハ、マシなんじャア、無いカナ?」
あまり高くなかった背丈は、いつの間にか大の大人さえ軽く見下ろせるほどのものになっていて。ボロボロの黒いローブから覗くは、骨だけの腕と顔面。トレードマークの大鎌こそ持ってはいないが、その姿は確かに『死神』だった。

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魔法譚 死にたくない魔法使い

ある時ある場所にて。その少年は、友人数名と学校からの帰り道にいた。
少年がふと気付くと、道の脇に一匹の黒猫がいた。
「あ、ネコ……」
「ネコ?どこに?」
「ねこはいます?」
「ミームか?」
どうやら少年以外には見えなかったらしい。その黒猫が、とても不自然なことなのだが、ニタリと笑った。さながら、童話に書かれたチェシャ猫のように。
「……ごめん。今ちょっと急に用事ができた」
「お、また用事か」
「お前よく用事召喚するよな」
「なに、今更止めやしねーよ。さっさと行ってきな」
「うん、ありがとう。それじゃ、また明日」
少年は友人達と別れて、黒猫とは反対側に、体力不足故にときどき歩きつつも、走りに走った。そして、三方を塀に囲まれた行き止まりに行き着いた。
『クックックックックッ………。わざわざこんな始末しやすい場所に来てくれるとは、何とも親切じゃあないか、魔法使い様ヨォ?』
先程の黒猫が現れ、話しかけてきた。しかも、人間のように二本足で器用に歩きながら。
「うう、何なんだよお前ら……。確か、ファンタズムとか何とか……」
『阿呆。ファントムだ。お前らはそう呼んでるんだろう?え?』
「そうそれ。何で僕ばっかり虐めるのさ……。せっかく人間からのいじめも無くなって友達もだんだんできてきたっていうのに……」
『そんなこと知ったことか。さて……』
いつの間にか周りの塀の上には、何匹ものネコが集まっていた。
『冥土の土産に名乗ってくれよう。我こそは猫を統べる〈ケットシー〉!闇に生きる王、不可解の魔獣!これから貴様を殺す者なり!』
ケットシーが周りのネコに呼びかける。
『さあお前達!歌え、【人を殺す歌】!死肉は好きにくれてやる!』
その合図と共に、ネコ達が一斉にニャアニャアと鳴き出した。何十、何百と重なり、不快なハーモニーを生み出すその鳴き声に、少年もたまらず耳を塞ぐ。
「うう、頭痛がする……吐き気もだ……。何だよこの鳴き声……。一体何匹居るんだよ、このネコ共は」
『お前には知る必要の無いことよ!しかしこれだけは教えてやる!この歌は音の重なり合いによって特殊な周波数を生み出し、貴様らのような人間の脳味噌と肉体を直接に殺す、必殺技なのだ!魔法を使うといったところで、所詮は人間!このままくたばりやがれェッ!』

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魔法譚 〜用語解説 Ⅲ

企画「魔法譚」の用語解説、Ⅱの続きです。
企画概要はタグ「魔法譚」から。

〈魔法使い〉
大賢者からマジックアイテムを受け取って魔法を使えるようになった人のこと。
マジックアイテムを使うことで魔法を使用できるが、1つのマジックアイテムで使える魔法は1種類までなので、実質1種類しか魔法を使えない。
異方からやってくる“ファントム”に命を狙われる運命にあるが、マジックアイテムの変身機能を使うことで戦うことが可能。
変身後の姿は人によって様々である。

基本的に大賢者からマジックアイテムをもらって魔法使いになれるのは子供のうち(10代くらい)である。
だが世の中には少数だが大人の魔法使いもいる。
それでもコドモの魔法使いが多い。
なぜならほとんどの魔法使いは、大人になる前にファントムに命を奪われるからだ。

〈ファントム〉
異方からやってくるバケモノ。
理由は不明だが魔法使いの命を奪いにやってくる。
実在する生物っぽい姿から、なんとも言えない異形の姿まで、様々な姿形をしている。
普通の人には見えない。
そのくせして魔法使い達に物理攻撃や精神攻撃などを仕掛けてくる。
魔法使い達にできる唯一の対処法は、マジックアイテムの変身機能を使って戦うことのみである。

たまに大賢者に手を出すことがあるが、チート級に強いので一撃でやられる。

これで用語解説は終了っと…
何か分からないことがあったら、レスで質問してくださいね。

企画「魔法譚」は7月7日21時よりスタート!

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口裂け女4

あれから逃げに逃げて、ある月極駐車場に辿り着いた。これ幸いとそこに停まっていたトラックの下に滑り込み、やり過ごすことにした。
その直後、『奴』が駐車場に現れた。少しきょろきょろとしながらも、何故かこちらに真っ直ぐ進んでくる。どうしてこういう『追いかけてくる怪異』って奴らは、逃げる奴の場所が分かるんだろうか。
そして隠れていたトラックの前で止まり、その下をバッ、と見た。
しかし、そこに既にこちらの姿は無かった。こうなることを見越して、トラックの陰を利用して、こっそりと移動していたのだ。
『奴』がこちらを探しているうちに、フェンスを乗り越えて逃げようとする。
しかし、うっかり音を立ててしまった。もちろん『奴』はすぐそれに気付く。急いでフェンスを越えるも、バランスを崩して転んでしまった。
これは詰んだか、と半ば諦めながら『奴』を睨みつけていると、不思議なことに『奴』は憎々しげに睨んでくるだけで、こちらに来ようとはしなかった。まあ、それも僅かの間のことで、すぐにフェンスを回り込んで追おうとしてきたが。
(しかし、なぜ奴はフェンスを越えてこなかったんだ?そうすれば簡単に捕まえられただろうに。……まさか、いや、それより早く逃げよう。奴が来てしまう。それに、攻略法も思い付いた。)
そんなことを考えながら、まだ少し遠い我が家に向けて、逃走を再開した。

※この話の設定は、一部こちらで作っている部分があります。そうしないとポマードが唱えられない状況じゃちょっと勝てないので。(『メリーさん』の防御と瞬間移動と流し雛も同じです)万が一口裂け女に遭遇しても、ここに書かれているような方法を試そうとは決して思わないように。素直にポマードするかべっこう飴を差し出しましょう。

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口裂け女

ある日の夕方の事だった。
外出先からの帰り、ちょうど進行方向が西向きだったので、夕日の光を避けるために、地面に目をやりながら歩いていた。
ふと気付くと、目の前の地面に人の影が差していた。どうやら誰かが目の前に立ち止まっているようだ。そして、目を上げてしまった。今思えば、なぜあんな事をしてしまったのだろうか。ほんのちょっとだけ、進路を右か左にずらすだけで、それ以降の出来事を全て回避できたかもしれないのに。
そこには、一人の女性が立っていた。今の季節には合わない、真っ赤なコートを着て、顔の下半分をマスクで覆っている、やけに背の高い女性が。自分も決して背が高い方ではないが、それを鑑みても、185cm以上はあった。
『私、キレイ?』
「ポマ……」
しかし、そこより先を言うことはできなかった。『奴』の隠し持っていた草刈鎌の冷たい刃が、首筋にぴたりと当てられたのだ。
『私、キレイ?』
『奴』が再び訊いてきた。その笑っているようにも怒り狂っているようにも、はたまた泣きそうにも見える不気味で狂気的な目つきは、『普通』だの『まあまあです』だの、そういう中途半端な答えは一切受け付けない、という強い意志を感じさせた。
『私、キレイ?』
『奴』が少しいらいらしたように、再び訊いてきた。先程より首筋に当てられた鎌を持つ手に力が入る。どうやらよく手入れされているらしく、このまますっと刃を引けば、流血沙汰は避けられないだろう。
もはや猶予は無い。
「………答えは『NO』だ」
そう言いながら、『奴』が動き出す前に、持っていた鞄を『奴』の顔面目がけて、思い切り投げつけた。『奴』が咄嗟に空いている左手で顔を覆ったそのタイミングで、首に当てられた鎌の刃を避けて、元来た方向に全力で駆け出した。

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メリーさん4

あれからまた、しばらく走った。もうすっかり疲れ切って、足の感覚も鈍くなってきている。その上、今走っている場所は足元の状態も悪くて走りにくくて、『奴』との距離が離したくても離せない。まあどちらにしても『奴』は一瞬で距離を詰める術を持っているわけだが。
「もしもし、私メリーさん。」
来た。ここまで来てようやく『奴』をどうにかする作戦の準備が整った。この作戦のためにわざわざこんな場所を走っていたのだ。
「今、あなたの」
それと同時に最後の力を振り絞って、前に向かって跳びながら、『奴』のいる背後を振り向く。
「後ろに居るの」
『奴』がその『台詞』こちらの背後に移動する。『奴』と自分が着地したとき、「バシャッ」と水が跳ねる音がした。
そう、今、自分と『奴』が居るのは、川の水際ぎりぎりの場所だったのだ。
「モシ、モシ……、私、メリーさん……」
『奴』が攻撃をしようとするが、足を取られて上手く動けないようだ。
「なあ、『メリーさん』。『流し雛』ってものを知ってるかい?雛人形に厄を乗せて厄払いに川に流して廃棄する、日本に古来から伝わる反エコロジーな伝統文化だよ」
『奴』は川の流れに負けて少しずつ下流の方に流されていく。
「『メリーさん』ってのは、元が『人形』な上に捨てられた怨念で動くというまさに『厄の塊』だろう?川に流すにはぴったりだと思うんだよ」
「今、あな…タノ……アアアァァァァァ………」
「それに貧乏神を川に流して祓うのは毎月晦日でなければいけないって話だ。『メリーさん』を川に流すのにこうもパーフェクトな日はそうそう無いだろう」
『奴』、『メリーさん』は、力尽きたのか倒れ込み、そのまま流されていった。
それを見届けた後、川に飛び込む前に咄嗟に掴んでおいた皮技師に生えていた葦の茎を手繰り寄せながら川を上がる。
(……ふぅ、危ないところだった。これ掴んでなきゃ僕も流されてたな。腰までしか無いとはいえ川の流れ馬鹿にできんな。しかし、ほとんどこじつけの理論で撃退したものの、どうにかなるもんなんだな)
その後は疲れた体に鞭打って、どうにか家に帰った。目下考えなければいけないことは、割ってしまった窓ガラスの修理についてだ。

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メリーさん3

あれから『奴』の攻撃をぎりぎりで躱しながら、夜の町を素足で逃げ回り続けていた。驚いたことに、『奴』は先程自分が投げ捨てた包丁を拾い、それで斬りかかってくるのだ。
「今、あなたの、後ろに居るの」
その『台詞』を聞くと同時に、転がるように避けてそのまま走る。足裏に感じるじっとりと気持ち悪い湿り気は冷や汗か、はたまたついに出血しだしたか。
しかし、いくら命がかかっていると言っても、体力には限界がある。一度立ち止まり、息を整えながらそこで『奴』を迎え撃つことにした。
「もしもし、私メリーさん。今、あなたの」
タイミングを合わせて自分の後ろに向けて回し蹴りを放つ。
「後ろに居るの」
『奴』は自分に向けて振るわれる蹴りを防ごうと腕を出した。しかし、その腕の出し方が以前とは若干異なるように見えた。
(ま、まずいッ!)
こちらが足を引っ込めてしまった。その直後、『奴』の手がそのままなら確かに『奴』に当たっていたであろう脚を掴むように空を切った。
慌てて距離を取る。
(何故だ……、包丁の攻撃は二撃とも腕を直撃した。逆に言えばそれらは『受けるしかなかった』攻撃なんだ。……まさか!)
今度は右手で殴るふりをして、当たる前にさっと引っ込める。やはり、この攻撃も『奴』は捕らえにきた。今度は道端に落ちていた石ころを投げると、また腕でガードした。
(なるほど。どうやらその攻撃が『人間の』、いや、恐らく『標的の体を直接使ったものの場合』はこちらを積極的に捕らえにくるが、それ以外は防御するだけなのか。避けたりはしないのか。しかし……)
それが分かったところで、今の自分にできることはひたすら逃げることだけである。

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メリーさん

ある日の夜、電話がかかってきた。
『もしもし、私メリーさん。今、あなたの家の近くの墓地に居るの』
どうやら先日捨てた人形が化けて出たらしい。供養の仕方が足りなかったか。素直に神社に頼めばよかった。今更後悔しても仕方が無いので、包丁と電話を手に、壁を背にして次の電話を待った。
『もしもし、私メリーさん。今、あなたの家の前に居るの』
いよいよ来た。さあ、次の電話が来た、その瞬間が勝負どころだ。
『もしもし、私メリーさん』
しかし、壁を背にして陣取る自分に、負けは無かった。無いはずだった。しかし、
「今、あなたの、後ろに居るの」
その声は受話器ではなく、確かに自分の後ろから聞こえてきた。
咄嗟に前に跳びながら背後に向けて持っていた包丁で斬りつけた。何か硬いものに当たる感触があった。
そこには、壁を通り抜けるようにして、何か人の形をしたものの腕が突き出ていた。腕には、包丁が当たったと思われる場所に欠けたような傷跡が見える。あと少し長くそこに居たら、恐らくあれに掴まれ、想像もしたくないような恐ろしい目に遭っていたのだろう。
「もしもし私メリーさん。今、あなたの」
『それ』が再びあの台詞を吐きながら、こちらに進み出てきた。そして、
「後ろに居るの。」
そこで『それ』の姿が消え、声は背後すぐ近くに移った。これにも後ろに向けて斬りつけながら回避。『それ』はまた腕で防御したらしく、先程と同じ感触が腕に伝わった。

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十二支のお話

神様が動物たちにこう言いました。
「元日の朝に最初に挨拶に来た動物十二種類を一年に一種類、十二年周期でその年のボスとする」
牛は歩くのが遅いので、前日の夜から家を出ました。鼠はその背中にこっそり乗りました。
まだ日の昇らない薄暗い頃にに牛が神様の家へ着くと、既に家の前には多くの動物が並んでいました。
牛が前に居た動物に尋ねると、
「俺も驚いたよ。だって四時起きしたのに既にこの行列だぜ?」
その前に居た動物に聞くと、
「俺なんか徹夜で日付が変わった瞬間にダッシュしたってのにこの順位だぜ。全く、家が遠くなきゃもう二十は上の順位だったぜ」
その更に五つか六つ前の動物に聞くと、
「馬鹿だなあ、いや、牛か。こうゆーのは前日から並んどくに決まってんだろ?」
そこに神様が現れ、言いました。
「徹夜組は駄目。そこより前は全員退場。」
大方の動物は残念そうに去っていきました。
「え、俺が一番っすか?恥ずかしいなー……。そうだ兎!お前に前譲ってやんよ!」
虎が言いました。
「いやいや、アジアン百獣の王様の先を行くなんてとてもとても」
兎がやんわり断りました。
「いや……すぐ後ろにドラゴン連れといてそりゃあねーだろ……」
「それは許したって。我も怖い」
すると前から四番目に居た蛇が叫びました。
「げえっ、このままだとわちき四番目!?嫌だ嫌だ。四って数は縁起が悪いんだ。そうだ牛、せっかくだし俺の前行って良いぞ。それでも俺ランクインするし」
「四が無理な割に四時起きだったのか……」
「げえっ、そういえばそうだった」
「何ならわしの前もドゾ」
「マジすか。あざっす龍の旦那」
「ああ、虎さん、ちょうど良い奴がやって来ましたよ」
「おお、牛よ!俺の前に行ってくれないか?流石に一番は……」
「あ、ありがとうございます」
そして牛が緊張子ながら門をくぐろうとすると。
「グズグズしてんなら先行かせてもらうよ」
鼠がその背中から飛び降り一位になりました。

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なんか書けたお話。

そんな昔でもない、むしろ最近のある時、某所山奥に化け物が住んでおりました。化け物と言っても、姿は殆ど人間と変わりません。ただ指先や目や肌や纏っている雰囲気の僅かな違和感が、それを人間ではないと感じさせる程度のものです。
そんな化け物の住んでいる山奥の小屋に、一人の人間が迷い込んで来ました。化け物は名状しがたい不思議空間に住んでいるので、普通なら人間は入って来ないのです。そういうわけで、化け物は何世紀かぶりに会った人間と接触することにしました。
「もし」
「……何でしょう」
「あなたは何をしにこんな山奥まで来たのです」
「死にに来ました」
「何故」
「将来というものに希望が見出だせなくなりましたゆえ。……あなた何者?」
「見て想像がつく通りの者ですよ。まあ、こんな所で立ち話もアレですし、もうすぐここらは暗くなります。私の家へ案内しませう。といっても目の前のあばら家がそうですが」
化け物は人間を家へ招き入れました。
「……さて、先程将来に云々と言ってましたな」
「言いましたな」
「何があったので?」
「最近職を失いまして」
「また探せば良かろうて」
「今の時期家の外に出るのは、私のような日陰者にはとてもとても」
「なんだ。ただの意志薄弱か」
「言わないでくれ。自覚はしている」
「だからって死ぬほどのことかね?」
「私にとってはね」
「ふむ。質問を変えよう。もしあなたが一度だけ苦しまず安らかに死ねる権利を得た時」
「そりゃあ死ぬのは一回きりでしょ」
「お黙る。権利を得た時、あなたはそれを今使いますか?」
「・・・・・・別に今じゃなくても…?」
「ならそれで良いじゃないか。今夜はうちに置いてやるから明日になったら帰んなさい。それでもし、また死にたくなった時は……またうちに来なさい。悩み事をする時間くらいはあげるから」