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復讐代行〜第19話 帰宅〜

断り方が分からず、連絡先をの交換を丸め込まれてしまった。これで先の件を早急に解決する理由を失った橘達は時間を置くことを提案してきた。
クラスでの不協和音を思えば正しい判断だ。
“俺”は抵抗しようとしたが、さすがに言い出せなかった様子だ。
2人に送られる形で帰路についた。
闇子の家に着くなり、俺は体を布団に投げ出した。
昨日見た母親はいなかった。
未だ慣れないサテン生地でフリルだらけのベット
落ち着かない…
赤黒く統一された禍々しい部屋は昨日見たよりも闇子の心の闇を感じさせた。
このベットで寝る気にもなれないが、スマホを見るのも余計なことを考えそうで避けた。
いつ彼からメールが来るか、正直怖いのだ。
メールの何がまずいって、客観的に自分が闇子であることを意識できないことだ。
もっと詳しく言えばメール上の「闇子らしさ」を俺は知らないからボロが出かねない…
いや、この部屋のイメージに沿えば「闇子らしさ」は出るのかもしれないが…
「しかし…」
世に言う地雷系というものなのか、ゴスロリなのか、細かい定義が分からないがこのインテリアを見ているだけで闇子の闇に心を喰われそうだ…
肌に擦れるサテンの違和感だけが自分が闇子じゃないと証明してくれた。

しかしなぜ…?“俺”は初日にしてこんな鬼門を選んだのだろうか、いや、理屈では理解できるが…
理解できる故に、信じたくなかった。
最も恐れていた、そして最も有り得ないと高を括っていたこと…

『闇子を餌に「崩壊」という結果を得る』
その切り札を切られたとしたら…それは同時に体を取り返す手段が無くなったことを意味する。
「ハナから闇子はこの体の精算も果たすつもりだったんだろうな」
そう思うとなぜかサテンのベットで寝るのも悪くは感じなかった。

寝てどれくらい時間が経っただろうか…
思えばこの体になってからきちんと休まることはなかったっけ…
そう思いながら癖でスマホを探した。
スマホの画面は19:28分を示していた。
思ったほど時間が経っていないことにはさほど驚かない。
何せ、通知画面のメールの方が驚きだからだ。
「なぁ青路、お前は今何を企んでる?」

to be continued…

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禁断の契約

私は悪魔、
と言っても今の姿は人間だ
契約で人間から奪った半分の寿命を使って擬態している
別に悪魔の姿でもいいのだが
それでまかり通るほど現代の人間界は優しくない
悪魔の姿じゃセキュリティを越えられないのだ

「ただいま」
「おかえり」

家主は人間、
言わば私の契約者だ
契約のせいでもあるが、家主の命はせいぜいあと数日といったところだろう。
なのに家主はやけに元気だ
「だって悪魔と一緒の家だよ?もうあの世と変わらないようなもんだよ」
縁起でもないことだって言う。
でもそれが痩せ我慢なのはとっくにわかっている
だから付き合うのだ。
家主が最後まで笑顔でいることが私の幸せだから。
でもその幸せも長くはないのが悪魔という宿命…

家主にその時が来たのだ

私は急いで駆け寄った。
もう起き上がることもできないのに家主は笑顔を見せた。
「よかった、ちゃんと契約守ってくれたね」
「こんな時に何言って…」
家主の表情が安心したような笑顔に変わり、そして家主の元から私は消えた。

「私が死ぬまで一緒にいてって契約はあり?」
なぜ君と出会った時のことを思い出したんだろう
どうして悪魔は寿命を奪うことしかできないのか…与えることができないのか…永遠なんていらないから…少しでも一緒に…生きて…

悪魔は初めて恋をした。
それは契約の終了を意味していた。

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思い出

電車の扉際で1人再生ボタンを押す
頬を伝うのはなに?
あぁ、また逆方向に乗っちゃった
脳裏にはあの日のこと
「そっちで用事があるから」って
嘘ついてまで電車に乗ってさ
君の最寄り駅まで20分
いちばん長い帰り道なのに、いちばんはやく感じた
『さんぶんのいちじかん』

ハンバーガーを手に持って1人
手を震わせるのはなに?
あぁ、またこれ買っちゃった
脳裏にはあの日のこと
「今日はハンバーガー食べよ」って
君が珍しく誘ってくれてさ
食べ終わるまで20分
いちばんはやく食べたのに、いちばん味を覚えてる
『さんぶんのいちじかん』

あの街には
数え切れない位の思い出があって
どれにも必ず「君」がいて
笑ってるんだ 勘弁してよ
全部忘れたつもりだったのに
全部置いてきてただけだった
この街のあらゆる所がドッグイヤーみたいに欠けてる
綺麗なままの本だと思ったのに 勘弁してよ

ホームに降りてため息ひとつ
この心の痛みはなに?
あぁ、昨日からこんな感じだ
脳裏には昨日のこと
「僕の方が」「私の方が」って
下手にいつもより冷静で
話終わるまで60分
いちばん長いのに、いちばん泣かせた
『こんないちじかんなんて、、』

きっと何かが違ったんだろう
でもいつずれちゃったんだろう
この街にいる頃の僕たちは
こんなにも青くて痛いのにね

あの街には
読みきれない程の思い出があって
どれにも必ず「幸せ」があって
つらいんだよ 近づけないよ
ほんとはわかってるんだよ
どうすべきかわかってるんだけど…

いっそドッグイヤーを全部直して
1本のテープにでも出来たらいいのに

久しぶりに降りたこの街で君がいない場所を探した
いつか2人で行きたいと言ってた喫茶店
カセットのオートリバースをかき消すみたいに
カランコロン、カララン。

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思い出

駅のホームに伸びる影は一本
頬に光るのはなに?
あぁ、また思い出しちゃったな
脳裏にはあの日のこと
「今日は一緒に帰ろうか」って
逆方面なのに電車に乗ってさ
私の最寄り駅まで20分
いちばん濃くて いちばん甘かった
『さんぶんのいちじかん』

ハンバーガーを食べてるのは一人
喉につっかえているのはなに?
あぁ、また考えちゃったな
脳裏にはあの日のこと
「今日はハンバーガー食べよ」って
珍しく私から提案してさ
食べ終わるまで20分
いちばんの味で いちばんゆっくり食べた
『さんぶんのいちじかん』

この街には
数え切れない位の思い出があって
どれにも必ず「君」がいて
笑ってるんだ 勘弁してよ
何も覚えてないようで
何もかも覚えてたみたいだ
この街のあらゆる所に栞が挟んである
続かない物語なのにね 勘弁してよ

椅子に座ってため息ひとつ。
この心の痛みはなに?
あぁ、昨日からこんな感じだ
脳裏には昨日のこと
「私の方が」「僕の方が」って
いつもより感情的でさ
話し終わるまで60分
いちばん長くて いちばん泣いた
『こんないちじかんなんて、、』

何が悪かったんだろうね
どこでずれちゃったんだろうね
この街で見つける私たちは
どれも青くて澄んでるのにさ

この街には
背負えない程の思い出があって
どれにも必ず「幸せ」があって
つらいんだよ 居られないよ
何も忘れたくないよ
何もかも忘れられないよ
栞を全部集めて
始まらなかった物語に出来ないかな


初めて入ったこの街の珈琲店
私だけの思い出の栞を挟んで
からんころん、かららん。

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復讐代行〜第17話 刺激〜

「はぁ?離せよ!」
手は振りほどかれたが、今回は痛くなかった。
「随分気に入られたんだな」
小橋が煽る。しかし本当の意味が知られていないならそんなことどうだってよかった。
「ふっ、ふざけんな!そんなんじゃ…なぁ?」
これだけ動転しても口調は戻らない、随分気に入ったんだな俺の体を
「私は…」
もはやここまできたら小橋に乗ってやるよ、そうすれば復讐へのきっかけは強くなる。いや強く見えると言った方が正しいか
「もう2人でカフェ行くか?金は後で言ってくれれば払うから」
橘よ、それじゃ意味ないんだよ
「いやいやいや!俺が嫌だよ!」
間髪入れずに小橋は煽る。ここまで来るともはや才能だ。
「お似合いだろ」
「私は…桐谷君が嫌なら…」
あとは“俺”に救いを与えるだけでこの場は…
「そう言うなら仕方ないな、無理強いをしたら元も子もない」
やはり橘がまとめてくれた。小橋は少し残念そうだ。
あとは…
「橘、ちょっといいか?」
“俺”の行動はあまりに突然だった。
驚きを隠せない。
動揺が顔に出てやしないか、2人に変な視線を送ってはいないか、小橋に疑われてはいないか、
一瞬にして不安が押し寄せた。
これだこれだ、二重スパイのスリル…
「なるほどね…」
“俺”の話を聞いて橘が何かを考え出した。
これが果たして自分にとってどう出るのか、先程までより多くの目線から考えねばならない。
「ねぇ、闇子ちゃん連絡先交換しようよ」
橘は今までにない笑顔、でも嘘を感じさせない笑顔で言った。その言葉、表情に逡巡していた多くの思考は余裕で越えられてしまった。

to be continued…