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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター①

・“アルベド”
年齢:25歳  性別:男  身長:170㎝
“学会”所属の魔術師。魔法の才能はほぼ無い。「多重立体術式」を唯一の特技としている。性格と実力・実績から“学会”ではあまり良い目では見られておらず、普段は玄龍大学の地下にある研究室で低燃費高効率の魔法術式の開発に勤しんでいる。
ちなみに通り名である“アルベド”は、“学会”から良い目で見られていない自分の立場を察した彼自身が「ちょっとしたユーモア」で『アルベド(ミカンに付いてるちょっと邪魔な白い筋)』と名乗った結果、何故か広まったもの。
※アルベドの魔法【多重立体術式】:アルベドが発明した術式形態。才能の無いアルベドが自分の能力で少しでも高い威力に『見せかける』ための技術。
通常ならば平面の簡単な魔法陣で展開可能な魔術を、敢えて難易度の高い魔術に要求される立体術式に変換し、更にそれを複数個パズルのように組み合わせ、1つの術式として構築するというもの。その複雑な術式の形状は外見的威圧力をもちながら、構成する一つ一つが起こす現象自体は大したものでは無く、しかして立体術式ゆえの魔術容量によって通常の1.3倍程度の出力効率を実現している。
術式構築のためには、各魔術の術式全てを『同時に』構築していかなければならない。立体術式を一つ一つ描いてから組み合わせるのは構造的に不可能なためである。
アルベドは基本的に5種以上の術式を組み合わせるので、1つ製作するだけでほぼノンストップの数十時間を要する(最も使い慣れているものについては、書き慣れて半日もかからないようになった)。やっていることは人間3Dプリンターだが、構築の段階で術式の発動順や発動タイミングも細かく設定する必要があるので、現状手作業以外での構築はできない。
弱点はまず、術式への負担が大きいために、使用の度に最低でも20時間以上のクールタイムが発生する点。アルベドはこれを大量にストックしてあたかも通常攻撃のようにぽこぽこ使うので、クールタイムの弱点については未だにバレていない。次に、1度術式を起動すると一連の流れを完了させるまで中断も終了もできず、発動順も固定されている点。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑪

どす黒い液体をまき散らしながら、悪霊の頭部は地面を転がる。そこに悠然と歩み寄って来た千ユリを悪霊は睨み、口を僅かに開いて舌を伸ばしてきた。
しかしそれは、千ユリが指鉄砲の要領で立てた右手の人差し指に触れると同時に硬直する。
「ふぅーー……だいぶ暴れられたけど、よぉーやくとッ捕まえられる程度に弱ってくれたな? これからアタシの下僕になるわけだけど、どんな名前が欲しい? ぁいやお前の希望なんて聞く気無いんだけどさ。そうだなぁ…………あぁ思いついた。ゴキゴキ伸びてる時の様子やその気持ち悪いツラのヘビっぽさ。今日からお前の名前は」
悪霊の頭部と立ち尽くしたままの胴体が少しずつ煙のように分解され、加速しつつ千ユリの指に吸い込まれていく。
「……“朽縄”だ」
悪霊“朽縄”の身体が完全に消えると同時に、周囲の不浄な雰囲気は消え、代わりに自然な木々のざわめきが静かに響き始めた。
「……終わったぁ…………」
気が抜けたようにその場に座り込んだ千ユリに、青葉が近付いてくる。
「千ユリ、お疲れ」
差し出された右手を取ろうとして、チユリの手が止まる。
「そっちの手ぇ出さないでよ」
「え?」
「なぁーんで好き好んで皮膚ズル剥けた手ぇ取らなきゃなんねーのよ」
「……あー…………あ、マズい……ちょっと身体が痛みを思い出してきた」
「……クソっ。ちょっと悪霊使うけど、抵抗しないでよ?」
“野武士”の刀が、青葉の右手首を通過する。
「…………? 待って何か右手の感覚が無くなったんだけど?」
「アタシの“野武士”は魂のダメージを肉体に誤認させる。あんたの魂は今、右手首より先を切断されてるの。そりゃぁそこより先をどれだけひどく怪我してようが気にならないでしょ。まぁ、しばらく休んで魂の消耗が癒えれば元通りだから、さっさと手当てしてよ?」

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我流造物創作:無我と痩せ雀 その⑥

「まぁ……それについちゃどうでも良いんだ。問題はテメエだクソガキ」
アルベドが右手を前方に掲げると、おネコに刻まれていたものに似た形状の立体術式が出現した。
「そっちが先に手ぇ出してきたんだ。やり返されても文句は無ェよな?」
「えっ、い、いや待っ、お、おい! 助け」
「遅せェ」
術式から、細い光線が放たれる。青年が咄嗟に展開した魔法障壁にそれは弾かれるが、アルベドは既に2撃目の射撃準備を整えていた。
「はーいドーン」
先程より太い光線が、再び青年を襲う。先ほどより広く展開した魔法障壁によって防御しようとした青年だったが、その障壁は光線が直撃したのとほぼ同時に粉砕され、そのまま青年に命中した。
「…………死んだか?」
「虚仮威しだったのでは?」
「ここまで細めりゃ威力持たすくらいは出来ンだよ」
ワカバが青年の傍に屈み込み、様子を確認する。
「……あ、呼吸してる。生きてますね」
「そりゃ良かった。ああそうだ」
「はい?」
顔を上げたワカバに、アルベドは紫水晶球を放り投げた。慌てて受け止めたワカバの横をすり抜け、アルベドは自身の研究室に引き返し始めた。
「え、ま、待ってくださいよ! 何なんですかこれ!」
後を追いながらワカバが尋ねる。
「おスズの魔力源」
「えっと、おス……?」
「あの鳥脚」
「! 名前、付けてあげたんですね!」
「違っげーよ。個体識別用の勝手な呼称だ。名前はそっちで勝手に決めろ」

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑩

「っ…………あァおばぁあっ!」
千ユリが呼ぶのと同時に、“野武士”が無事な片手で取り落とした刀を回収し、『青葉に向けて』振るった。
「ッ⁉」
青葉はその攻撃を仕込み杖〈煌炎〉で防ぐが、その勢いに弾き飛ばされる。
「……ごめん、“野武士”。痛いよなァ、辛いよなァ……」
千ユリは口の中でぼそぼそと呟きながら、右の中指を悪霊に向けて立てる。
「こんな目に遭わせるそこのクソを、ブッ殺すしか無いよなぁあ!」
“野武士”の放った斬撃を悪霊は大きく身体を捩じりながら回避し、首元に掴み掛かる。
瞬間、背後から高速で『飛んできた』青葉が、その速度を乗せて抜刀した仕込み杖で悪霊の伸びきった頚部に斬りつけた。
半分千切れた首を折り曲げて青葉を睨みながら、悪霊は彼女にも手を伸ばす。その手が触れる直前、その場に発生した土の柱が青葉を轢き飛ばし、飛ばされた青葉は既存の土柱の壁面に着地した。
そのまま土柱を蹴って、それら同士の隙間を縫うように移動する青葉を、悪霊は顔面を変形させて片目で追い続ける。
「……ッキヒヒヒ、そっちに目ェ奪われてンじゃァねェよ。アタシの悪霊はまだ!」
首の折れた“野武士”が、悪霊の腹部に蹴りを打ち込む。
「テメエを殺せるぞ!」
その脚は悪霊に触れた瞬間からへし折れるように変形しながらも確実にダメージを与え、悪霊が頽れる。
膝をついた悪霊に、真横から土柱を蹴り青葉が迫る。しかし、悪霊はそれを片目で捉え続けており、片腕を伸ばしてきた。その反撃が届くより早く、別の土柱が真横から伸びてきて、更に青葉を弾き飛ばす。
(くそ……さっきからふっ飛ばされてばっかだな、私…………)
そのまま飛ばされた先の土柱を足場に、障害物の隙間を跳び、遂に悪霊の死角、背後に到達する。
「“草分”!」
千ユリが右の親指を下に向けるハンドサインをする。掻き消える武者霊と入れ替わるように無数の青白い腕が津波のように悪霊に向けて押し寄せる。それらを迎撃しようと悪霊が腕を伸ばした瞬間、背後から青葉に斬りつけられ、完全に切断された首から上が宙に舞った。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その④

再び使い魔が姿を現わした。おネコの背後への出現と同時に、おネコの右腕の肘より先が切断される。
「速えェな。まあ問題はない」
アルベドが呟く。おネコは斬り飛ばされた腕が地面に落ちるより早く左手で受け止め、鳥脚使い魔の方に振り向いて再び空中に投げ上げる。
掌が下を向いたのと同時に、その下に添えるように左の掌を上に向ける。すると、両手の間に立方体に近い形状の複雑な術式が出現した。
「吹き飛ばしてやろうぜ、おネコ」
術式が凝縮されるようにして消えるのと同時に、足下からおネコの周囲に旋風が発生した。風は少しずつ勢いを増し、やがてその中に青白い電光が混じり始める。
おネコに刻まれた術式の持つエネルギーは世界に伝播し、大気を震わせ、地響きを起こし、砕けた微小な土片を余波により生じた反重力が舞い上がらせる。
「んゃぁ……消し飛べ」
おネコが左手を前方に伸ばすと、その手の中に全長3mを超える巨大な携行砲が出現した。片手でそれを構えると、砲身にエネルギーが充填され、銃口から少しずつ光が迸る。
「っ!」
射線から外れるように駆け出した鳥脚使い魔に、おネコは身体ごと砲身の向きを変えて対応する。発射の直前、使い魔は大きく跳躍した。
「……んゃぁ、ばーか」
おネコが携行砲を持ち上げ、空中の使い魔に照準を合わせたのと同時に、直径約30mほどの巨大な光線が放たれ、光線は一瞬にして使い魔を飲み込んだ。
数秒間の照射の後、鳥脚使い魔が力無く地面に落下してくる。
「はい、キャッチしました」
結界術を解除して元の研究室に戻り、ワカバは落ちてきた鳥脚使い魔を受け止めた。
「よくやった。おネコもな。腕は後で治してやる」
「んゃぁ」
ワカバが床に転がした使い魔を、アルベドは近くにしゃがみ込んで見下ろす。
「光線直撃しましたけど、この子大丈夫ですかね?」
「大丈夫に決まってんだろ。ただの虚仮威しだぞ」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その③

「んー……こうなったらもう仕方ないですねぇ……」
ワカバは徐に立ち上がり、先程荷物を置いた机に近寄り、リュックサックを漁り始めた。
「私が何とかしますね。もう少し頑張ってくださいアルベド先生」
「おう頼んだ」
アルベドの返答を聞いた辺りで、ワカバは1冊の手帳を取り出した。
「それでは…………」
手帳を開き、その中の数ページを重ねたまま破り取る。
「【展開】」
ワカバの手の中でページが燃え上がり、直後、研究室内の全員が月夜の平原上空に転移された。空中に投げ出されたことで、使い魔はアルベドから離れ翼を広げてゆっくりと落下し始める。
「流石に助けろおネコォッ!」
「んゃぁ」
一瞬早く着地していたおネコは一言鳴き、再び跳躍してアルベドとワカバを受け止めた。
「助かった……」
「ありがとうね、おネコちゃん」
「んゃぁ」
3人の着地からやや遅れて、鳥脚の使い魔も地面に下り立つ。
「ねぇ君、名前は何ていうの?」
ワカバの問いかけに、使い魔は何も言わず首を傾げた。
「……名無しか。作ったモンには呼び名くらいつけるだろ普通。命令する時どうするんだよ」
アルベドが呟く。
「じゃ、名前つけてあげたらどうです?」
ワカバが反応する。
「あー? 俺の使い魔じゃねえんだぞ」
「じゃあ、うちの子にしちゃいましょう」
「面倒くせえ。勝手にやってろ。……おネコ!」
アルベドの命令でおネコが駆け出すのと同時に、鳥脚使い魔の姿が消えた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑧

悪霊の攻撃は、離脱しきれていない青葉と犬神に向かった。青葉は杖を盾代わりに構えたが、悪霊の腕は直角に折れ曲がりながら回避して2人に迫る。
「……あぁクソ、何やってんだノロマ共が!」
千ユリが叫ぶのと同時に、2人は無数の腕の霊“草分”に突き飛ばされる。悪霊の攻撃は代わりに“草分”の1本を捉え、命中と同時にぐしゃぐしゃに変形させた。
「ごめん……助かった千ユリ」
「うっさいさっさと立て馬鹿。そこのアホが攻撃に参加できないなら、攻め手がアタシの“野武士”とあんたの仕込み杖だけなんだからね」
「ああうん」
千ユリが出現させた武士の霊“野武士”と、再び立ち上がった青葉が並び立つ。相対する悪霊の全身は、それまで以上に醜く悍ましく捻じ曲がり、上下逆に向いた顔で3人を見つめ返していた。
「青葉、カウントダウン3からで突っ込むぞ」
「りょーかい」
「3(スリー)……2(ツー)……」
犬神が土の柱を数本、周囲に展開する。
「1(ワン)……行け!」
千ユリの合図と同時に、低い姿勢で青葉が駆け出す。“野武士”はその全身を煙状に分解して土柱の間を進む。青葉の振り抜いた杖は、悪霊の交差した腕に阻まれた。
(…………なんで? 攻撃が通ってない?)
青葉の頭の中で、カオルが呟く。
(カオル、どういうこと?)
(〈煌炎〉は『怪異を殺す刀』なんだよ。相手が霊的存在なら、まず間違いなく押し勝てるはずなんだけど…………あ、分かった)
その時、悪霊の背後に回っていた“野武士”が人型に再構築され、悪霊に斬りかかった。それも身体を折りたたむように回避される。青葉の攻撃を防いだままの両腕が変形伸長し、青葉と“野武士”に襲い掛かる。“野武士”は再び煙状に変化しながら躱し、青葉は“草分”に突き飛ばされることで回避した。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その②

視線に気づき、使い魔は無感情に見開かれた眼をワカバに向けた。
「こんにちは。どこの子かな?」
ワカバの問いかけに、使い魔は忙しなく目を泳がせ、数秒の思案の末に口を開いた。
「創ってくれた人は死にました。マスターの命令で、“アルベド”という魔術師を殺しに来ました。“アルベド”という方はどこにいますかと魔術師のひとたちに訊いて、ここまで来ました」
はきはきとした答えに、ワカバは苦笑して更に問い返す。
「そっかー。今のマスターさんって誰だか分かるかな?」
「名前は分からないです」
「見た目は? 男の人? 女の人? 若い? お年寄り?」
「えっと、若い男の人です」
「そっかぁ」
「アルベド、殺して良いですか?」
かくり、と小首を傾げて尋ねる使い魔に、ワカバは何も言わず苦笑いを返した。
「……先生、駄目みたいですね」
「諦めんなや仮にも師と仰ぐ人間をお前なー。っつーかおネコォッ!」
アルベドに呼ばれ、おネコは片目だけを開いて彼の方を見やった。
「仮にも親かつ主の命の危機に何のんびり寝てやがる!」
「んゃぁ……」
おネコは欠伸をして、再び眠ろうとした。
「おぉい!」
「……んゃぁ…………」
「クソッ、あれでも俺の最高傑作だってのに……」
「最高傑作カッコ唯一」
「そこうるせえ」
軽口を叩くワカバに、アルベドは素早く釘を刺した。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑦

青葉と“野武士”がそれぞれの武器で同時に襲い掛かるのを、悪霊は明らかに不自然に身体を折りたたみながら回避し、腕を2人に伸ばす。青葉は跳躍によって回避し、“野武士”は無数の腕の霊“草分”に引きずられてその場を離脱する。
更に2人が正面から外れたのと同時に、犬神が自身の能力で土壁の破片を射出し、悪霊に直撃させた。土塊は着弾と同時に粉砕し、悪霊の周囲に土煙が上がる。
土煙の中から高速で伸びてきた2本の腕が3人を狙って暴れ回るが、その攻撃は犬神の展開していた土壁に防がれた。
「……うーん、ちょっと困ったな」
犬神の呟きに、あとの2人が視線を向ける。
「どした?」
千ユリが訊き返す。
「……いやさぁ。私のこの土を操る力はさ、私に憑いてる犬神にお願いして使ってるんだけどね? この子、どうも臆病なところがあってね? だから私が手綱握ってあげないとなんだけど……多分、あの悪霊のせいでこの一帯が穢れてるんだろうね。普段ほど自由に力が使えない。防御用の障害物を展開するくらいが限界だから、攻撃は2人に任せるね」
「へェ……役立たねぇヤツだなー」
「いやぁごめんね。あ、来る」
犬神の警告とほぼ同時に、土壁が悪霊に殴り砕かれる。千ユリはエイト・フィートに自身を引き寄せさせ、青葉は犬神を巻き込んでその場に倒れ込み、その攻撃を回避した。

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ハルク帝国建国神話 2

旧帝国の誕生よりおよそ200年。
帝国は最西の最強として名を馳せる。
しかしその実情は、独裁体制が敷かれ、言論の統制などの悪政が横行していた。

そんな中、少年ミツクは教会で獅子王の啓示を受ける。
「皇帝は龍に乗っ取られておる。儂の力を貸してやろう。お主の先祖、サヌオスの様に龍を打ち破り、再びこの地に平穏をもたらすのだ。」と。
ミツクは、例え獅子王のご加護があったとしても、子供一人では無理だと考え、再び五人の聖騎士を集めることにした。
幸いにも、五人の聖騎士の子孫は居場所が知れていた。
一人一人の家を訪ね、事情を説明し、丁寧に頭を下げてまわった。
その結果、全員の協力を得る事に成功した。
ミツクは王宮へ忍び込み、塔に幽閉されている本物の皇帝と皇太子を救出した。
皇帝と皇太子を仲間に託すと、ミツクは玉座の間へと進んだ。
玉座には偽物の皇帝が座っており、いびきをかいていた。
ミツクはここぞとばかりに、サヌオス将軍の槍を突き立てた。
偽物の皇帝に成りすましていた邪龍は、大きく一声鳴き、再び姿を消した。
助け出された皇帝と皇太子はミツクと五人の仲間に感謝した。
その後、自身の不甲斐なさを恥じた皇帝がミツクへと皇位を継承した。
かくして、「新ハルク帝国」が誕生したのである。

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我流造物茶会:邪魔者と痩せ雀 その①

「せんせぇー、アルベド先生ぇー。ワカバが来ましたよー」
研究室に続く階段を下りながら、ワカバは室内にいるであろう“アルベド”に声を掛けた。
(……返事ないな。いつもみたいに術式構築の最中かな? それなら静かにしなくっちゃ)
そう考えながら、防音加工された扉を静かに開き、隙間から顔を覗かせる。
研究室の中央では、“アルベド”と呼ばれる魔術師の青年が、見知らぬ少女に組み伏せられていた。薄汚れた簡素な衣服を身に纏った痩身の少女は、両脚の膝より下が猛禽のそれを思わせる鱗に覆われ鋭い爪を具えたものに置き換わっており、背中ではところどころ羽根の抜け落ちた、痩せた茶色の小さな翼が生えていることから、人外存在であることは明白だった。
「あれ、先生。新しい娘さんですか? かわいいですねー」
言いながら、ワカバはデスクの上に荷物を下ろした。
「あぁっ⁉ ンなわけ無ェだろうが見て察せ!」
アルベドの言葉は無視して、ワカバは壁際の薬品棚を見上げ、その上に丸まっていた猫の特徴を表出した子供に声を掛ける。
「こんにちは、おネコちゃん」
「……んゃぁ…………」
“おネコ”と呼ばれたその使い魔は、小さく鳴き尾を軽く振って応えた。
「おーい向田ワカバァ、挨拶が済んだら助けてくれ頼む!」
「ん、どうしました先生?」
「見て分かんねーかなぁ⁉ 現在絶賛暗殺されかけてる真っ最中なんだよ!」
猛禽風の使い魔は鋭く伸びた足の爪をアルベドの喉元に突き刺さんと踏みつけを試みており、対するアルベドはその足を下から押し返し、残り数㎝のところで持ち堪えている。
「アルベド先生、結構恨み買ってますもんねぇ……」
「それは否定できねェけどさァ……」
「うーん……ちょっと待っててくださいね」
ワカバは格闘する二人の傍にしゃがみ込み、使い魔の顔を覗き込んだ。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑥

「クソが……あの悪霊……おい青葉、犬神。悪霊の専門家として、アタシから言っておくぞ」
「うん?」
「なになに?」
「悪霊の及ぼす『霊障』には、いくつか種類がある。直接の影響力だけじゃない、障る『条件』もだ。……奴は『触れるだけで』霊障を発生させる。しかも、物理干渉ができるレベルの格だ」
千ユリが左手を軽く持ち上げると、虚空に”エイト・フィート”の片腕が出現した。その腕は無残にも複雑に捻じ曲がり、ところどころ体内から骨が突き出ている。
「アイツに触るなよ? 死ぬから。多分、青葉の霊障耐性があってもシンプルに殴り殺される」
その言葉に、青葉は息を飲む。
不意に、悪霊の姿が揺らいだ。ふらふらと覚束ない足取りではあるが、ある程度の速度で3人に向かってきている。
「来る……ッ、いや、違う!」
そう叫び、青葉が前に出る。それと同時に、悪霊の足取りも速まる。
「コイツ……『逃げたみんなを追おうとしている』!」
言いながら杖で殴りつけるのを、悪霊は身体を大きく折り曲げるように回避し、すれ違いざま青葉の顔面に掴み掛かろうとする。その攻撃は武者霊“野武士”が地面に突き立てた刀に阻まれ、悪霊本体の突進は突如せり上がった土の壁に激突して停止した。
悪霊が緩慢な動作で身体を起こし、3人に顔を向ける。穴だけの鼻。耳まで裂けた口とそこからこぼれる長い舌。白目の無い薄汚れた黄色の眼と縦長の瞳孔。その顔は、人間のものとはまるで異なり、むしろ蛇や蜥蜴のような爬虫類のようだった。
「……ヒヒ、コイツぅ…………最初思ってたよかよっぽど異形のバケモノじゃん?」
ごきりごきりと音を立てながら悪霊の首と腕が捻じれ伸びていく、その様子を見ながら、千ユリが溢す。
「こんなのが何、外に出ようとしてるの? キノコちゃんの縄張りからも離れてるし……」
自然と崩れていく土壁と悪霊を交互に見ながら、犬神が言う。
「それだけは絶対に許しちゃいけない。……放置することだってできない。だから……」
3人の思いは一つだった。
「「「今ここで…………殺すしか無い!」」」

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ハルク帝国建国神話 1

昔むかし、六百年以上昔。
帝国が、まだ名もない小国だった時のこと。
当時の皇帝は、何故帝国が弱いのか、と、ある占星術師に尋ねた。
占星術師は、「どうも、帝国より東の、ワルプルギス島がいけない」と言った。
「その島の邪気に当てられているからだ」と。
皇帝はすぐさま調査を命じた。
調査を命じられたのは、帝国最強と名高いサヌオス将軍と、将軍の部下である5人の騎士だった。
将軍一向は調査に出向き、帝国へ文を送り続けた。
その内容は酷いもので、
「島には邪悪な龍、ホムラが居り、島民たちはその邪龍を神として崇め奉っている。また、恐ろしい魔法を操る」と記されていた。
皇帝はすぐさま将軍一向を呼び戻し、島への出兵を命じた。
海に一千の軍艦を浮かべ、五十万以上の兵が島へ向かった。
その後、島へ着くや否や島民たちが襲いかかってきた。
島の内部に進むにつれ、老人や女子供までが襲ってきたという。
魔法が飛び交い、瞬く間に島は炎に包まれた。
将軍一向が何とか島の中心に辿り着くと、そこには神殿があった。
神殿の祭壇には宝珠があり、一人の少女がいた。
その少女の名はリム。
少女は龍を呼び出し、百の厄災と千の魔物で襲いかかってきた。
将軍たちは必死に戦ったが、どんどん限界が近づいてくる。
もう駄目か、と将軍たちが目を伏せたとき。
天からまばゆい光が降り注ぎ、獅子王ハルク・ド・リゼルが現れた。
獅子王ハルクは、聖なる光を放ち、百の厄災を打ち破り、将軍たちの傷を癒した。
傷の癒えた将軍たちは、千の魔物を破り、遂に邪龍と少女に迫った。
すると少女が宝珠に呪詛を呟いた。
それに応えるように邪龍が一声鳴くと、たちまち、島が沈み始めた。
将軍たちは仲間を連れて、慌てて船へ乗り込んだ。
一千あった軍艦は、たったの五つになっていた。
最後の一人が乗り込み、船が出航した瞬間に、島は海底へと姿を消した。

ーーーこの事件は、後に「ワルプルギスの悪夢」と呼ばれることになる。ーーー

その後、帝国は不思議と栄えてゆき、獅子王の加護、将軍を筆頭とした騎士、兵士たちへの感謝を込めて、国の名を「ハルク帝国」とした。

かくして、「旧ハルク帝国」は誕生した。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑤

「……上って来た石段、結構高かったような……?」
青葉の呟きに、千ユリが視線を向ける。
「まあそれなりに? それが何?」
「あの勢いでうっかり転げ落ちたら、怪我じゃ済まないんじゃ……」
「ア・タ・シ・が・知ったことかよォぉぉ……」
「気にしてよ……一応基本方針は『人間を守る』ことなんだから」
言い合う2人の肩を、犬神が1度叩く。
「二人とも、出てくるみたいだよ」
犬神の言葉に、2人は素早く本殿の方を見た。半分ほど木材の腐ったその建物の前に、夜闇の中で尚浮き上がる漆黒の靄の塊が蠢いている。
「……多分、ここじゃぁ『神様』として扱われてたンだろーなァ…………けど、所詮正体は『悪霊』だ。アタシの戦力として、コキ使ってやるよ」
咥えていたロリ・ポップを噛み砕き、2本目を取り出しながら、千ユリが1歩前に出る。左の手を開き、靄から少しずつ姿を現わそうとしているその『悪霊』に向ける。
「“アタシの愛しいエイト・フィート”!」
異常に長身の女性霊が出現し、靄から現れた霊に組み付こうとする。その悪霊は”エイト・フィート”の両手を自身の両手で受け止めた。
「ッ……⁉ 退け!」
千ユリの合図に応じて、”エイト・フィート”は彼女の目の前にまで後退った。
「千ユリ? 何があった?」
青葉の問いには答えず、千ユリはその悪霊を睨みながら”エイト・フィート”を消滅させた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その③

3人が追い付いた頃には、他の面々は既に石段を上り切り、朽ちかけた鳥居の前でやや緊張した様子で立ち尽くしていたところだった。
「うっわぁ夜なのもあって不気味じゃん?」
千ユリがけらけらと笑いながら言う。彼女の口調は緊張を和らげ、彼女の言葉は彼らの足を重くした。
「……な、なあ、入らないのかよ?」
先頭の少年に、一人が声を掛ける。
「い、言われなくたって……!」
少年が、深呼吸の後、1歩を踏み出す。瞬間、空気が更に張り詰める。1人「きっかけ」が動いたことで、また一人、更に一人と境内へ踏み入っていく。
不意に、一人の少女がポケットからスマートフォンを取り出し、カメラのシャッターを切った。
「わっ、何だよびっくりした……」
「あはは、心霊写真でも、撮れない、かな……って…………」
撮影した画像を確認しようと画面に目をやった少女の表情が青ざめる。その時、素早く千ユリがスマートフォンをひったくり、わざとらしく口を開いた。
「んぁー? 何これ滅茶苦茶ブレてんじゃーん写真撮るのヘタクソかぁ? 良い? 写真ってのは……こう撮るの」
1枚写真を撮り、画像を表示した状態でスマートフォンを返却する。画面には、何の異常も無く境内の様子を写した画像が表示されていた。
「え、あれ? あ、うん……」
その少女から離れた千ユリに、青葉と犬神が近付く。
「千ユリ? 何が写ってた?」
声を潜めて尋ねる青葉に、千ユリは呆れたように頭を掻きながら小声で答える。
「アイツが撮ったのは消したけど……まあヤバいやつ。平たく言えば……悪霊?」

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皇帝の目・回復魔法のご利用は適切に_設定

前回のやってないですね。やってないのでどっちもまとめて書きます。

回復魔法のご利用は適切に
シオン:中学1年生、13歳。魔法はほぼ無知、あんまり頭はよろしくなく、ちょっと(かなり)脳筋な女の子。とにかくでかい。運動神経は全校一で回復魔法の持ち主。怪我を治したり壊れたものを直したり結構幅広い能力。一部の人に看護師呼びされている。出てきてないけどお兄ちゃんがいる。かっこいいので慕っている。

エリザベス:中学1年生、14歳。良家のお嬢様なので魔法に詳しく勉強もできるが残念ながら変人。ドリルな縦ロールでハーフツイン、しかもゴスロリでかなり目立つが上品な性格でもある。爆発魔法の持ち主。「シルバーバレット」と詠唱することで爆弾を銃弾のように打ち出せる。家族が過保護で面倒。

レオン:28歳教員。生徒との距離が近い。(物理精神ともに)重力・引力操作魔法の持ち主。

皇帝の目
梓:人付き合いの下手な中学2年生。自由人だが環境は大事にしたいタイプ。面倒事は嫌いで結構ズボラなところがあるため家族に呆れられている。小さくて貧弱で、ある日ビーストの襲撃に巻き込まれてなんか目も悪くなったので生きづらさを感じている。チトニアのことは好きなので彼女に対しては愛想が良く、可愛がっている。

チトニア:とにかく喧しくてよく叫ぶ元気なドーリィ。テンションが高く物理的距離も近く若干束縛気味なのでマスターになる人がいなかった。皇帝ひまわりのドーリィで、皇帝という名にふさわしく蝶や蜂の眷属がおり、ひまわりらしい明るい金髪と黄色の服が目立つ背の高い少女。武器などもいろいろ持っている。今は梓にべったり。

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五行怪異世巡『肝試し』 その②

集団の最後尾を歩いていた青葉は、背後から肩を叩かれ、立ち止まって持っていた杖を強く握りしめながら振り返った。
「…………あれ」
「や。青葉ちゃん、だっけ?」
「どうも、こんばんはです、犬神さん」
彼女の背後には、犬神が笑顔で立っていた。
「花火大会に来たら偶然見かけちゃったもんだから、ついて来ちゃった」
「そうですか」
「どしたの?」
「……クラスの馬鹿な連中が肝試しするって話してたんで。ここがガチのスポットってことは知ってたので、〈五行会〉として護衛につこうと同行している次第です。……あ」
青葉は不意に思い出したように声を上げ、同じくほぼ最後尾を歩いていた少女を呼んだ。
「犬神さん、ちょうど良い機会なので紹介します。彼女は最近〈五行会〉に入った……」
「特別幹部《陰相》。“霊障遣”の榛名千ユリ。あんたは?」
自ら名乗った千ユリに、犬神は握手を求めるように右手を差し出しながら答えた。
「や、私は《土行》の犬神だよ。キノコちゃんが言ってたのはあなただったんだね」
「キノコ?」
「あれ、会ってないの?」
「……千ユリ。多分種枚さんのことだと思う」
青葉に言われ、千ユリはしばし考え込んでから手を打った。
「あぁ、アイツか」
「ところで2人とも、ここで話してて良いの? 他の子たち、かなり上まで行っちゃったけど」
「あっしまった」
すぐに振り返り、急ぎ足で上り出す青葉を、千ユリと犬神は焦ることも無く悠々と追った。

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五行怪異世巡『肝試し』 その①

8月某日。世間の子供たちが夏休みの只中にあるとある日の夕方ごろ。
数人の中学生の男女が連れ立って、河原への道を歩いていた。
その河原は、この日19時から始まる花火大会を眺めるには絶好のスポットであり、夜店なども多く出店し、ある種の祭りのような様相を呈していた。
しかし、彼らの主目的はそこには無い。出店の隙間を埋める人ごみの中を彼らは迷い無く通り抜け、上流の方向へ、ひと気の少ない方へ只管歩き続ける。
土手を上がり、まばらな街灯の下を進み、深い木々の中に埋もれた石段の前に辿り着き、そこで一度立ち止まる。
先頭に立っていた少年が腕時計を確認し、残りの面々に向き直る。
「現在午後6時40分、花火大会が終わるまでは1時間以上余裕である…………それじゃ、行くぞ! 肝試し!」
少年の言葉に歓声を上げ、子供たちは石段を上り始めた。

“廃神社”と呼ばれるその心霊スポットは、その呼称の通り数十年前に放棄された廃神社である。
周辺をオフィス街や住宅地、幹線道路などに囲まれている中、不自然に小高く盛り上がった丘の上に建っており、丘陵全体は雑多な木や雑草に覆われ、辛うじて名残を見せる石段と境内も、処々に荒廃や劣化が現れ、不気味な雰囲気を演出している。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑯

「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑮

「潜龍さん? 何をしているんですか?」
短刀の刃を掴み、青葉が低い声で尋ねる。
「……こいつの異能は危険だ。その根源たる十指を、切断する」
平坂は平然と答えた。
「……そうですか。なら、私の手諸共、斬ってみますか?」
「……離せ」
「離しません」
平坂が短刀に込める力を強め、それと同時に青葉の握る力も強まる。
「こいつの遣う霊障によって、既に人が死んでいる。こいつの異能は封じられなければならない」
「だとしても、私はその手段を許しません」
青葉の掌と刃の隙間から、血が滲み出る。
「……ほう。ならば、何か他の手段があるとでも? こいつの力を、確実に封印できる手立てが」
「はい。『私達』が手段です」

翌日。
少女の手を引いて街中を歩く青葉の前に、種枚が現れた。
「あ、クサビラさん。ちょうど探してたところだったんですよ」
「そりゃちょうど良かった。で、その娘は何者だい?」
少女に顔をずい、と寄せながら、種枚が青葉に尋ねる。
「えっと、最近悪霊について騒ぎが起きていたことについては、御存じで?」
「そりゃあ、ここいらで起きる怪異絡みの出来事に関しちゃ大体把握はしてるがね」
「その犯人です」
「……へェ? お前、何て名だい?」
種枚に臆する事無く睨み返しながら、少女は答えた。
「榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)。霊障遣い」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑬

(カオル)
武者霊と打ち合いながら、青葉は自身に宿る霊体に心中で呼びかける。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(ちょっと作戦を思いついたんだけど。防御は捨ててあの子に直接突っ込む。霊障はカオルが吸ってくれるんでしょ?)
(ふーむ……あまりおすすめは……あ)
(何?)
(……いや、ワタシの可愛い青葉が傷つくのは……)
(五体が残るなら多少の怪我は気にしないから。勝てる方法、教えて)
(それじゃあ…………)
カオルの言葉に従い、仕込み杖〈煌炎〉の持ち手近くを握る。軽く捻るようにしながら力を込め、内部に仕込まれていた刀身を一気に引き抜いた。
「……おいクソ雑魚。何なの、それ?」
少女が強く睨みながら、青葉に問う。
40㎝にも満たない短い刀身は、夜闇の中であっても奇妙な金属質の輝きを見せ、霊感に干渉する不気味な雰囲気を纏っていた。
「その気持ち悪い刀で……何するつもりだ!」
「……お前に勝つ」
短く言い放ち、青葉は駆け出した。2体の悪霊が少女との間に立ち塞がるが、青葉が回転しながらその隙間をすり抜けると、無数の刀傷を受けその場に崩れ落ちた。
「なっ……! “アタシの……」
唖然とする少女に詰め寄りながら仕込み杖を納刀し、振り下ろすように打撃を放つ。仰け反るように回避した少女の下顎に、更に打ち上げるように放った二打目が掠める。その攻撃による振動は少女の脳を揺さぶり、意識を奪うに至らしめた。
その場に膝をつき倒れる少女を前に、青葉が構えていた杖を下ろしたその時だった。
「っ……が、っは…………! ぁ、がぁぁあああああ!」
地面に両手をつき、少女が呻き声を上げる。
「なん……で、だ…………! お前みたいな、無能の雑魚、が……!」
「……まだ意識あったんだ」
少女は朦朧とする意識を気力で繋ぎ止め、己を見下ろす青葉を睨み返した。
「ッぅぁぁぁぁ……! 逆、じゃんかよ……ええ⁉ アタシの……身体も! 名前も! 異能も! 霊障も! アタシを作る全部! 『血』から受け継いできたんだ! アタシは……、何百年の『血』の歴史の……終着点だ! 跪くべきは…………っ、そっちだろうが!」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑫

武者霊の振り下ろした刀を大きく沈み込むように回避しながら前進し、更に伸びてくる女性霊の腕を跳躍して躱し、少女との距離を詰めて青葉は杖を相手の顔面に向けて突き出す。女性霊が少女の首の後ろを掴んで後方へ引くことで、少女はそれを回避し、反撃に伸びてきた無数の腕は、平坂の鳴らした鈴に消し飛ばされる。
一連の攻防を終え、2人の間に一瞬の静寂が流れる。
(……あのお兄ィさんの鈴、鬱陶しかったけど大分性質が分かってきた。あいつからの『距離』と悪霊の『格』で威力が変化するっぽいな。まあ“草分”はたしかに数だけ揃ったやつだけどさァ……っと)
青葉が振り下ろした杖の打撃を、女性霊の左腕で受け止める。青葉の小さく貧弱な身体から放たれたにもかかわらず、その威力は女性霊の腕を折るのには十分だった。
「クソ……鬱陶しい!」
ウエストポーチから取り出した個包装のキャンディ数粒をまとめて口に放り込み、少女が右手を頬に当て、小指でこめかみを叩く。それによるものか、青紫色の炎が少女の右眼から燃え上がった。
「……ん?」
「無能のくせに生意気なンだよ……! アタシの全力ブチ込んで、テメエは絶対殺す!」
後退すると同時に女性霊を前進させ、武者霊と同時に青葉に差し向ける。青葉はそれを後退りしながら回避するが、それを読んだように、斬撃から刺突に攻撃を切り替える。
「っ……!」
身を捩りながらその刃を辛うじて回避したところに、女性霊の拳が突き刺さる。
(…………動きが変わった? さっきより受けにくい……というより)
杖で拳を防いだものの地面に組み伏せられた青葉に、武者霊の斬撃が迫る。転がるようにしてそれを躱した青葉の首が一瞬前まであった場所を、刃が通り抜けた。
(……カオル)
(うん、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉で当たって力の減衰しない悪霊なんて在り得ないのに……奴らの格からして、あそこまで押されるわけ無いのに)
再び距離を取り、青葉は平坂のいる場所まで下がった。
「おい、押されているようだが……手を貸すか?」
「いえ、そこまででは。突破口探すので、引き続きあの腕たちの牽制だけしていただければ」
「ふむ……だいぶ疲れてきているようだが」
「大丈夫……です、はい」
自分に言い聞かせるように言い、青葉は再び悪霊たちに向かって行った。

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