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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑦

カミラとヒトエの脇に、骨を思わせる甲冑を纏った鎧武者〈髑髏〉が現れ、2人を見下ろしていた。
「……ヒトエ? これ、ヒトエの?」
「た、多分……?」
カミラが髑髏の足首に手を伸ばす。
(っ、マズい! 避けて!)
カミラの手が触れる直前、髑髏は大きく飛び退いてその手を逃れた。
「? よけたの?」
ヒトエも転がるようにカミラから離れ、髑髏と共にカミラを挟む位置に陣取る。
(私の魔法で生み出したものだから、何となく分かる……。〈髑髏〉はまだ、私の鎧みたいに完全に固まってるわけじゃない。多分、カミラに掴まったら吸収される)
ヒトエは双剣を再び生成し、片方をカミラに向けて投擲した。カミラが身体を逸らして回避した剣を、髑髏がキャッチする。
(これで、直接触れずに攻撃できる!)
「〈髑髏〉!」
ヒトエの号令で、髑髏が剣を構えて突撃する。ヒトエも同時にカミラに斬り付けるが、カミラはヒトエに向かって飛行し、背後に回り込んで髑髏をやり過ごそうとする。
「っ……そぉー……れっ!」
髑髏が深く前傾し、その背中の上を転がるようにして、ヒトエと髑髏はすれ違う。そのまま態勢を直し、髑髏がカミラに斬りかかった。
「〈髑髏〉!」
カミラが斬撃を回避した瞬間、髑髏はヒトエが投擲したもう1本の剣を後ろ手で受け止め、立て続けに二撃目を放った。カミラは後方に飛び上がって回避したが、刃先が翼を浅く切り裂き、黒い血液が噴き出す。
「んっ……! ヒ、トエぇ……! またとどいたぁ……!」
痛みに顔を歪めながらも、カミラは幸せそうに笑う。
翼を羽ばたかせ、身を翻して髑髏を躱し、ヒトエに飛び掛かる。その時、カミラを横合いから“清姫”の巨体が轢き飛ばした。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑥ Side:玉桜楼

ヒトエがカミラと交戦している間、エイリは少し離れた場所で瞑目し、意識を集中させていた。
「ふぅー……よし」
深呼吸し、目を開く。
「奥義、〈新形三十六怪撰〉。第十一怪、“清姫”」
エイリの魔法【玉桜楼】は本来、九字を切ることにより『5体』の使役存在を召喚するものであり、使役存在の強度は九字切りの完成度に比例する。
対して奥義〈新形三十六怪撰〉は、従来の数のアドバンテージを捨てることと引き換えに、36種の強力な使役存在のうち任意の1体を選択し、召喚できる。
当然ながら九字切りの完成度は術の行使に影響し、一つは使役存在の強度。そしてもう一つは、『実際に召喚される使役存在の種別』。印の完成度が下がるほど、実際に召喚しようとしたものからかけ離れた使役存在が出現する性質を有しているのだ。
「臨」 独鈷印。
「兵」 大金剛輪印。
「闘」 外獅子印。
「者」 内獅子印。
「皆」 外縛印。
「陣」 内縛印。
「列」 智拳印。
「在」 日輪印。
「前」 宝瓶印。
その後、詠唱と同時に、一字毎に右手の刀印で横に、縦に、軌跡を織り重ねるように重ね、最後に右手を左手の中に収める。
これまでの戦いの中で何十、何百と重ねてきた動作であり、それ故にエイリは、その完成度を直感的に掴むことができるようになっていた。
(この感じ…………来た、“クリティカル”!)
戦闘の中での動作を要求される以上、完全な九字切りを成功させることはほぼ不可能に近い。ただ、今この瞬間、敵の注意は完全に前衛のヒトエ一人に集中しており、それ故に叩き出すことのできた『100点満点』。
彼女自身、仲間の庇護を受けた上で、数度しか実現できたことの無い最大威力で、使役存在が召喚される。
下半身を巨大な蛇のそれに置き換えた、和装の鬼女のような怪異“清姫”。エイリを囲うようにとぐろを巻き、鋭い牙の並ぶ口からは、深い淀を思わせる濃い水の香りと、香木が焼ける煙の香りが混ざったような息吹を吐き出している。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑥ Side:閑々子

双剣を手に、ヒトエはカミラと交戦する。
(カミラも私と一緒に結構な高さから落ちたんだし、ダメージはあるはず……!)
しかし、その予想に反してカミラの動作は極めて軽やかで、爪が頬や首筋の僅かな露出を掠めながら、魔力を奪っていく。
「うぅ……」
「あはは! ヒトエぇ、もっとヒトエたべる!」
(……そういえば、さっきのエイリさんの使い魔、鎧みたいな姿だったよね……)
一度距離を取る。しかし、足首をカミラの尾に絡め取られ、その場に転倒してしまう。
「ヒトエ? かんがえごと?」
「うぅ、痛たた……」
「だめだよ? ヒトエはわたしとたたかってるんだから! わたしだけみて?」
「か、カミラ……」
(……私の魔法、【閑々子】。鎧を生み出す能力……鎧が現れるのは、本当に『私の身体の上だけ』?)
「あー、ヒトエまたわたしいがいのことかんがえてる! だめなんだよ?」
ヒトエの爪がチェストプレートに触れ、魔力を分解し吸収しながら、少しずつ沈み込んでいく。
(……仮に、鎧を生み出せたとして……『空っぽの鎧』に何か意味がある?)
「あ、とどいたぁ」
カミラがにんまりと笑い。ヒトエの胸元を爪の先端でなぞる。その微かな感触に、ヒトエは身震いした。
「ヒトエぇ、わたしのかちなの?」
カミラが首を傾げたその時、ヒトエの頭にケリがべちゃりと落下してきた。
『やぁ、君にアドバイスだ』
「え……ケリ、さん……?」
『私が君達に授けた力は、極めて不安定だ。それ故に、些細なきっかけで“爆発”する』
「爆発……?」
『君の場合、【玉桜楼】のあの子の魔法がその“きっかけ”なんだね。爆発とは、出力或いは特異性の異常な発露。それがどのような形で出力されるかは、君次第だ』
ケリは言い残すと、再びどこかへ消えてしまった。
「……スライムきえた?」
カミラが首を傾げてヒトエの顔を覗き込む。
「……奥義」
半ば無意識に、口と魔力が動く。
「〈自賛・髑髏〉」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑤

「いたたたた……」
カミラに覆い被さっていたヒトエは、落下の衝撃で痛む身体を起こした。
(たしかに痛いけど……3階から落ちた割に、怪我はしてない。魔法少女だから?)
自分の下に倒れているカミラに目を向けようとした時、彼女の腕が素早くヒトエの首に巻き付いた。
「っ⁉」
「ヒトエぇ、たべていーい?」
耳元で甘く響くカミラの囁きに、ヒトエは全身に鳥肌が立つ。
「だ、駄目……!」
「でも、ヒトエにげられないよ?」
カミラはヒトエに頬を寄せ、舌なめずりする。現に、ヒトエは接触によって魔力を吸収され、身体の動きが重くなり始めていた。
(た、助けて……エイリさん……!)
「いただきまーす」
カミラがヒトエの首筋に唇を寄せ、甘噛みする。
「や、やめてー……」
じたばたと藻掻いていると、ようやくエイリが屋外に出てきた。
「ごめん後輩ちゃん! 怪人め……後輩ちゃんから、離れろ!」
甲冑たちが襲い掛かり、体当たりでカミラは弾き飛ばされる。
「いたい! なにするの!」
「そっちこそ後輩ちゃんに何すんの!」
「ヒトエたべるの!」
「させるかぁ!」
2人が言い合っている隙に、ヒトエはカミラの腕から抜け出し、エイリの背中に隠れた。
「助かりました……」
「うん、大丈夫? まったく……ちょっと怒っちゃった。本気出す。30秒くらい耐えてくれる?」
「了解です」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その④

「うわぁ……すごいのが召喚された……」
ヒトエの感嘆に、エイリはどや顔を決める。
「どうだ、すごいだろう。これが私の【玉桜楼】の力だよ。使い魔召喚の術。これでもっとしっかりサポートできるよ」
甲冑たちはぞろぞろと前進し、2人を守るように立つ。
「んー……? このこたちはぁ……」
カミラが甲冑の1体の胸元に手を当てるが、甲冑は吸収される事無くその手を振り払った。
「むー…………すえない」
「お前が後輩ちゃんと戯れている隙に、じっくり余裕をもって印を組めたからね。お前の弱点は聞いてる。私と後輩ちゃんの敵じゃないよ!」
エイリの指揮で、甲冑たちがカミラに襲い掛かる。カミラは鬱陶しそうに宙を泳ぎ、甲冑たちの攻撃を回避しながら、ヒトエに突進した。
「ヒトエぇー、やろ?」
ヒトエの目の前で停止し、顔を突き合わせてニタリと笑う。
「は、離れて!」
ヒトエの振るった双剣を回避し、カミラは空中で腹を抱えてけらけらと笑った。再び宙を泳ぎ、ヒトエの背中に隠れて甲冑たちをやり過ごそうとする。
「そうはさせないよ!」
エイリは叫びながらカミラに飛び掛かり、回し蹴りを放った。その足を手で受け止めようとしたカミラの前に、ヒトエが手を伸ばして手甲で掌を受け止める。
「エイリさん、触られないように気を付けなきゃ駄目ですよ!」
「うへぇ、怒られちった」
「……けど、やっぱり狭い……!」
ヒトエが窓の外に目を向ける。それに気付いたエイリは、甲冑の1体を操り、窓の一つを勢い良く開いた。
「助かります!」
ヒトエがカミラの腕を取り、勢い良く窓の外へ投げる。空中で態勢を整えようとしたカミラに、更に飛び掛かり、空中で馬乗りになりながら二人は約6m下方の地面に向けて落下していった。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その③

再びカミラが突進してくる。ヒトエは双剣を床に突き刺し、素手による格闘戦で応戦した。爪による刺突を、相手の手首を払って回避し、そのまま飛びついてくるのを、脇をくぐるように躱し、そのまま後ろから髪を掴んで壁に向けて投げつける。
カミラは空中で姿勢を整え、足から壁に着地し、密かに掠め取っていたヒトエの双剣の片割れを掲げてみせた。
「みてみてー。ヒトエの」
にんまりと笑ってみせるカミラに、ヒトエは思わず自分が剣を突き立てた場所を振り向く。剣の片方が無くなっているのを確認してからカミラに視線を戻すと、奪った剣をヒトエに向けて振り下ろしていた。咄嗟に腕を盾にしたヒトエに刃が直撃する瞬間、マスコットたちが間に割って入り、柔らかい身体で刃を受け止める。
「えっ柔らかっ」
「うさちゃんすごーい!」
カミラは剣を放り捨て、2体を素早く捕まえる。残ったマスコットたちも一瞬で吸収されてしまった。
「ぜんぶたべちゃったぁ」
(やっぱり、カミラのこの力、怖いなぁ……私の鎧は吸えないみたいだけど)
ヒトエはちらりと背後を見やり、エイリの様子を確認する。彼女は臍の前で左手を緩く握り、右手で包み込むような手印を結んでいた。
「……60点ってところかな。おいで」
エイリが呟くと、彼女の周囲に5体の使役存在が現れた。おおよそ彼女と同程度の背丈をした人型のそれらは、体表を日本風甲冑のような装甲に覆われている。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その②

2人が教室中央に意識を向けていると、空気中の微細な塵が渦を形成し、中央から突発的なエネルギーの奔流が溢れ出した。咄嗟に、エイリはヒトエの背中に隠れる。
「あぁー、いたー!」
渦の中央から、明るい声が投げかけられる。ヒトエが目を開くと、カミラがふよふよと浮いていた。
「こんにちはぁ、ヒトエぇ」
「こ、こんにちは、カミラ」
「そのひとだぁれ? おともだち?」
「えっと……先輩です」
「はぇ。まぁいいや。やるよ、ヒトエ」
カミラが爪を伸ばす。
「は、はいっ!」
双剣を構えたヒトエに向けて、カミラが突進する。それを迎え撃とうとヒトエが構えたその時、彼女の背後からウサギを模したマスコットのような生命体が5体飛び出し、カミラに飛び掛かった。
「にぃっ!?」
カミラはその生命体のうち2体を爪で引き裂き、1体を鷲掴みにしてそのまま吸収する。
「びっくりした……なにこれ? おともだちの?」
ヒトエの背中に隠れたまま、エイリがピースサインを示した。
「むぅ、一番弱い形態とはいえ、あっさり吸われるなぁ……。チヒロ先輩が言ってた通りだ」
残ったマスコットたちは弾むようにエイリのもとへ引き返してくる。
「後輩ちゃん。こんな狭い教室の中で大丈夫?」
「あっはい。どうにか」
「じゃ、こっちも折を見てサポートするから、頑張ってね」
「えっあっはい」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その①

カミラの襲撃から一週間後の放課後、ヒトエは教室に居残ってそわそわと待ち構えていた。
(あのハイジャックって女の人は、1週間後にカミラを寄越すって言ってた。つまり今日だ。まだ来ないみたいだけど……一体いつ来るんだろう……)
落ち着きなく教室内を歩き回っていると、教室の扉が静かに開いた。
「っ、カミラ!?」
咄嗟に振り返ったが、そこに立っていたのは制服姿の少女だった。
「ざんねん、カミラではない。あなたが、エリカ先輩たちが言ってた新入りの子?」
「えっと……あ、もしかして、2年生の?」
「そうだよー。私は望月エイリ。好きに呼んで良いよ」
「はい、よろしくお願いします、エイリさん。私は亀戸ヒトエです」
ヒトエが頭を下げると、エイリも軽く会釈して応えた。
「それで、たしか後輩ちゃんの魔法って……カカシ?」
『【閑々子】、だよ』
突然二人の中間に出現した黒い流体のような生物、ケリが訂正した。
「ふーん? 私の魔法は【玉桜楼】っていってね、すっごい強いんだよ。後輩ちゃんが今日、怪人と戦うらしいからね。私が手伝ってあげる」
「やったぁ、ありがとうございます」
2人が握手を交わす。時刻はちょうど16時を過ぎたところだった。
『……二人とも、変身した方が良い』
不意に、ケリが口を開いた。
『魔力が膨らんでいる感覚……間も無く、この部屋の中央に出現するよ』
「分かった、ケリちゃん!」
エイリの周囲に旋風が巻き起こり、彼女の衣装は制服の上から羽織とマフラーを纏ったようなものに変わっていた。一瞬遅れて、ヒトエも急いで赤備えのアーマーに変身する。

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終末を巡る_13

琥珀はそのまま落下した。…が、途中で落下が止まり、尻あたりに痛みが走る。
「きゃんっ!!」
_林檎、林檎をあのまま落とすわけには…!
振り向くと、蜘蛛がその脚で尻尾を掴んでいた。蜘蛛の背中の上で背中合わせになって脱力している人間を見て琥珀はぞわぞわした感覚に陥る。
「ガルルルルッ!!」
琥珀が思い切り威嚇をすると、人間は意識を取り戻したように飛び起きた。その反動で蜘蛛の顔が上へ上がり、尻尾を掴んでいた脚が離れる。


できるだけ風の抵抗を受けようと努力する林檎の首根っこを、琥珀はぎりぎり甘噛みすることに成功した。琥珀はそのままかなり無茶な体勢で林檎を庇いながら地面に墜落する。
『こはく』
『……すまん…しばらくは、動けそうにない…』
『んーん、あやまることない。こちらこそごめん、ありがとう』
たどたどしくも林檎はそれだけ言って、琥珀の顔や身体を舐めてやった。
『…更に下に来ちまったな…』
『あんぜんならいい、やすもう』
『…ああ』
林檎の温かみを感じながら琥珀はゆっくり尻尾を振りつつ目を閉じる。
林檎も目を閉じて琥珀のお腹に頭を乗せた。

誰も入りたがらないような真っ暗な穴の中、世界の真相に触れかけた狼と兎は、寄り添って寝ていた。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 キャラクター②

・ケリ
魔法少女を生み出す力を持った異界の存在。手のひらサイズの黒いスライム球みたいな外見。名前の由来は「テケリ・リ」。
ケリさんが生み出した魔法少女たちは《慈雲》というユニットを結成して協力し合っている。
この世界では魔法少女たちは何らかの共通点とか(基本的には自分たちを魔法少女にしてくれた異界の存在が同じ者どうし)でユニットを組んでおり、協力して怪人から世界を守っているのです。

・カミラ
怪人結社【ロスト・ファンタジア】に所属する上位怪人。身長1.6m程度の夢魔型の怪人で、紫色の皮膚と黒いロングヘア、腰から生えた蝙蝠の翼が特徴。細長い尻尾も生えている。瞳は金色で、白目の部分が黒い。
触れた魔力エネルギーを吸収してしまう能力がある。その魔力の形態が「エネルギー体」に近いほど吸収効率は高く、安定して物質化したものに対しては上手く吸収できない。魔法少女に直に触れると直接ドレイン可能。一気に吸い尽くせる。ヒトエはアーマーのおかげで助かった。
その他、エネルギーを放出したり、翼でふよふよと飛んだり(最高時速30㎞程度)、両手両足の爪を長く鋭く伸ばして攻撃に利用することが可能。
生後数週間なためか、情緒が幼い。

・“戦妃”ハイ・ジャック
外見性別:女  外見年齢:20歳  身長:170㎝
【ロスト・ファンタジア】の上級幹部の1人。武闘家風の衣装を身に付けた女性。異空間に武器をストックし、自由に収納・展開が可能。シンプルに高い身体能力を有しており、圧倒的な『強さ』によって怪人たちを制御し、戦闘技能訓練を担当している。

※怪人結社【ロスト・ファンタジア】
6年前から突如出現し始めた怪人集団。力こそ弱いが数が多く連携能力に秀でた「下位怪人」、大柄で身体能力の高い「上位怪人」、特異な能力を有する人型の怪人(怪人なのか人間なのかは不明。便宜上、「怪人」と呼ぶ)である「上級幹部」から構成されている。その全てを統べる「魔王」の存在が噂されているが、真偽は定かでは無い。活動目的は『怪人たちに相応の”最期”を与え、物語を閉じること』らしい。早い話が彼らは敗北を求めている。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 キャラクター①

・亀戸ヒトエ
年齢:12  身長:148㎝
魔法名:【閑々子】
甲羅あるモノを模したアーマーを装備する。
奥義名:〈自賛・髑髏〉
自律稼働する、骸骨を模した鎧を召喚し、同時に行動する。
説明:カミラに気に入られてしまった中1の少女。まだ誕生日が来ていない。何故気に入られてしまったのかは不明。変なフェロモンでも出てるんじゃないだろうか。衣装はアーマーの下に着ている黒いアンダーウェア部分のみで、鎧は魔法で生成しているもの。アーマーはいせえび、かにさん、かめさんの3種類。

・那珂川チヒロ
年齢:14  身長:157㎝
魔法名:【雪城】
白銀色の流体を操る。
奥義名:〈菱湖流・静嘉〉
雪の降る結界に対象を閉じ込める。自身及び対象は、雪中で他の者に認識されない。
説明:中3の魔法少女。エリカとは同級生。エリカが魔法少女にされそうになった時、ケリさんに無理を言って自分も魔法少女になった。多分マブなんだと思う。衣装は真っ白な和装風。髪も白くなる。書道パフォーマンスで使われるようなあの両手持ちの特大筆で雪のような粒子状の流体をズァッて描く。

・小金井エリカ
年齢:15  身長:150㎝
魔法名:【恋川春町】
幻影を描く。
奥義名:〈栄花夢〉
幻影が与える影響を現出させる。
説明:中3の魔法少女。チヒロとは同級生。異界の存在ケリさんから力を授かった魔法少女たちで構成された魔法少女ユニット《慈雲》のリーダー役を担っている。衣装は桜色と水色の和装風。髪も桜色になる。桜の髪飾りも附属する。薙刀も持ってる。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑧

「……⁉ 何が起きて……⁉」
ヒトエが周囲を見回すと、5mほど離れた場所に、長身の女性がカミラを小脇に抱えて立っていた。
「お嬢さん、うちのカミラがごめんなさいね」
「だ、誰⁉」
女性はヒトエの問いかけを気にも留めず、慈愛に満ちた眼差しをカミラに向ける。
「カミラ、楽しかった?」
「たのしかった!」
「満足した?」
「んーん、もっとヒトエとあそぶの!」
「そう……それなら、今日はもう帰りましょう?」
「やーだー!」
「こーら、我儘言わないの」
「むくぅ……」
「ほら、お友達にご挨拶なさい?」
むくれ顔のカミラは、ヒトエの方に振り向き、手を振った。
「ばいばい、ヒトエ。またあそぼ?」
「え……って、いや待って!」
「また一週間後くらいにカミラを寄越すから、その時はまた遊んであげてね?」
女性がヒトエの双剣を、彼女の足下に放り投げる。
「それでは、さようならー」
「いや待っ……!」
追い縋ろうとしたヒトエを、エリカが背後から取り押さえる。
「っ⁉ え、エリカさん⁉」
「駄目。あれは、下手に追っちゃ駄目」
「え……あの人は一体……?」
ヒトエがカミラ達の方に目を向けると、2人の姿は既に跡形も無く消えていた。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑦

「た、助けてくださいぃ……」
ヒトエはチヒロとエリカに目を向ける。
「分かった、ちょっと待っててね」
エリカが頷き、手にしていた薙刀を構えて駆け寄る。しかし。
「だめぇ」
カミラが尻尾を操り、ヒトエのバランスを崩す。ヒトエはよろめき、カミラの盾になるような位置取りを強いられた。
「だ、駄目だぁ……ヒトエちゃん、ごめん、頑張って!」
「そんなぁ……」
カミラは剣が身体を傷つけるのにも構わず身を捩り、ヒトエと向かい合う。
「ヒトエぇ、ヒトエぇ」
カミラの細い手足がヒトエを絡め取り抱き締める。ヒトエは抵抗しようと藻掻くが、存外強い膂力から抜け出すことができない。
「ヒトエぇ、きるといいんだよ?」
「え、うぇ……?」
「ずばぁーって、きるの。わたしを。わかる?」
「いや、それは……」
「でねぇ、きらないとねぇ……」
カミラが右手を上げ、長く鋭い爪をかしゃかしゃと擦り合わせる。
「わたしがヒトエをきるの」
「っ……!」
ヒトエは一度、瞑目して長く深く息を吐き、再び目を開いた。
「ヒトエ、できる?」
「……や、やる」
「うん、おいで?」
ヒトエが剣を握る手に力を込めたその時、突風が吹き抜け、ヒトエの手から突き刺されたカミラごと、双剣が奪い取られた。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑥

「ヒトエぇっ!」
ヒトエに向けて、カミラが爪を突き刺す。しかし、その姿は直撃と同時に掻き消える。
「ヒトエ……じゃない……?」
カミラの動きが硬直したその瞬間、姿を消していたヒトエが、背後から心臓を貫いた。
「あうっ……⁉」
カミラは刃から抜け出そうと藻掻くが、ヒトエはもう1本の剣を角度を付けてさらに突き刺す。
「にゃああああっ、ヒトエぇ、ヒトエぇ……!」
悲鳴のような声をあげるカミラは、その声色に反して喜色満面の表情で振り向こうとしていた。
不意に、周囲を覆っていた吹雪の結界が消滅する。
「チヒロちゃん!」
地面に座り込んでいたチヒロに、桜色の和装の魔法少女が駆け寄る。
(あっ知らない人)
ヒトエの意識が一瞬そちらに向かう。
「あっ新入りの子? チヒロちゃんのこと助けてくれてありがとうね?」
「えっあっはい。さっきは幻影での囮、ありがとうございます」
「どういたしましてー。私はエリカ。小金井エリカだよ」
「亀戸ヒトエですどうも」
「とにかく、そいつに早くとどめを!」
「は、はい!」
ヒトエがカミラに視線を戻す。
「あ、ヒトエぇ。やっとこっちむいたぁ」
カミラは身体を反らして、ヒトエの顔を覗き込んでいた。ヒトエは咄嗟に身じろぎしようとして、違和感に気付いた。彼女の手首と双剣に、何か細長いものが巻き付いており、離れなくなっているのだ。
「わたしのしっぽだよぉ?」
「な、なんで……?」

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その⑤

「ねーぇー、どーこー? ヒトエぇー」
ヒトエを呼びながら、カミラはふよふよと吹雪の中を飛び回る。
「ヒトエぇー? ……ん」
不意に首筋に悪寒が走り、宙返りするように身を翻す。直後、カミラの首があった場所を、不可視の刃が通り抜けた。
「ヒトエぇ! ……いない? なんでぇ…………ヒトエぇー、ヒトエぇー」
カミラの背後で息を潜めながら、ヒトエは攻撃を回避されたことに驚愕していた。
(な、なんで……? 見えないはずじゃ……? と、取り敢えずもう1回!)
再び接近し、2本の剣で立て続けに斬りつける。しかし、それらもカミラは宙を泳ぐように回避する。
「やっぱりいる! ヒトエぇー、ヒトエぇー」
カミラは右手の爪を伸ばし、いつでも振れるように構えながら、ヒトエを探して雪の中を飛び回る。しかしヒトエはチヒロの力によって気配を消しているため、姿を認識されることは無い。
「ヒトエぇ……? いない……なんでぇ……?」
カミラの声が震え、弱々しくなっていく。
(どうしよ……何か、小さい子をいじめてるみたいな気分になる……でも、向こうも結構本気みたいだし……)
カミラの右手の先に揺れる長く鋭い爪を遠巻きに眺めながら、ヒトエは生唾を飲み込む。
「ヒトエぇ…………出てきてぇ……?」
カミラは少しずつ高度を落とし、そのまま雪上に落下して蹲った。
(………………心が痛むけど……やるなら、今!)
ヒトエが駆け出す。
「っ! ヒトエ!」
気配に気付いたカミラが振り返ると、姿を現わしたヒトエが双剣を振り下ろす姿があった。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その④

目の前で突然姿を消したヒトエを探し、カミラは周囲をきょろきょろと見回す。
その様子を、雪の中に倒れ込んだまま、ヒトエは眺めていた。目の前に無防備に転がっているはずの自分を、カミラは何故か認識できていない。
「……私の力。奴は今、私とあなたを知覚できない」
彼女を引き倒し、今はその下敷きになっているチヒロが、耳元で囁く。
「みゃっ……⁉ え、あ、その、ケリに言われて助けに来ました! 初めまして亀戸ヒトエです!」
「うんありがとう私は那珂川チヒロ初めましてよろしく。……ケリさん、また新しい仲間増やしたんだ」
「他にもいるんですか?」
「あと2人ね。まぁ……今の状況で助けになってはくれなさそうだけど……」
「え、どうしてです?」
「とりあえず退いて」
「あっはいごめんなさい」
2人は起き上がり、カミラから距離を取りつつ向かい合った。
「あのカミラって怪人、こっちの魔法が吸われる。多分、直に触れられたら1発アウト。そのまま動けなくなるまで吸い尽くされる、と思う」
「えぇ……あんなに可愛いのに、こっわぁ……」
「かわ……いい……? まぁ良いや。……あんたの力なら、通用しそう」
チヒロがヒトエの手の中の双剣を指差す。
「なんで? 私、これしか武器がないなら近付くしか無くて危険だと思うんだけど……」
ヒトエが持ち上げた剣の刃の側面を、チヒロは指で軽く叩く。
「このくらい『固まってる』と、吸いにくいだろうから」
「あんまり分かんないです……」
「あなたなら勝てる。それだけ分かれば大丈夫。今のあなたはあいつからは見えないから、行っておいで」

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その③

吹雪の結界の中、【雪城】を操る魔法少女、チヒロは雪の中に息を潜めていた。
(……あの“カミラ”って怪人……『上位怪人』だ。しかも、マズいな……魔法が『喰われる』)
彼女のすぐ横を、カミラが通り抜ける。カミラが彼女に気付くことは無かったが、チヒロは慌てて距離を取る。
(あいつに触れると、魔法が吸収される。私は殴り合いは下手だし……となると、背後から奇襲とか?)
ふと、チヒロの感覚が結界への何者かの侵入を感知した。
(……誰だ?)
カミラもまた、その気配に気付いたようで、気配のする方に向けて飛んでいく。
気配の正体が目視可能なほどに接近したところで、カミラはニタリと微笑み、その相手に声を掛けた。
「あぁー、ひさしぶりぃ」
「あっ、怪人! いた!」
「カミラだよぉ」
「えっ、あっ、私はヒトエっていいます」
「よろしくねぇ」
「あっはい……」
ヒトエが答えるより早く、カミラは接敵し、右手の爪を振るう。ヒトエは積雪に足を取られながらも、転がるようにして回避した。
「危ないでしょぉ!?」
カミラは悲鳴をあげるヒトエを見て、腹を抱えてきゃっきゃと笑う。
「すごぉ……よけるじゃん」
「そりゃ避けるでしょ……」
再びカミラが襲い掛かる。防御しようと双剣を構えたヒトエを、魔法によって気配を消していたチヒロが背後から抱きかかえ、そのまま倒れ込むように姿を消した。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その②

カミラが立ち去った後も呆然としていた、襲撃を受けた女子生徒の頭に、墨汁の塊のような黒い流体が飛び乗った。
「!?」
『ふむ……怪人がわざわざ狙ったのだから何かあるのではと思ったけど……極めて一般的な人間だな?』
脳内に直接響いてきたその声を、少女は流体のものだと直感した。
『おっと、挨拶が遅れたね。こんにちは、初めまして、ヒトエちゃん。ワタシのことは“ケリ”とでも呼んでくれ』
「なんで名前を!? と、とにかく、そのケリが一体、何の用……?」
『何があったか知らないが、どうも君には素質があるようだ。君には“怪人”を引き寄せる才能がある』
「え、さ、才能? でも、私、怪人なんて実物は今日初めて見たくらいだし、そんなの……」
『間違いなく、その才は「ある」。そんな君に、ワタシからプレゼントだ』
「ぷ、プレ……?」
『この“力”を受け入れれば、君は怪人たちから身を守れる。便利だろう?』
「それはたしかに…………?」
『君はただ、頷くだけで良い。恐れず受け入れろ。大丈夫、使い方は君の身体が覚えているから』
ケリの言葉に、少女ヒトエは恐る恐る頷いた。その瞬間、ケリの身体が弾け、流体が彼女の全身を包み込む。流体が彼女から離れ、元の塊に戻ると、ヒトエは元の体勢のまま、紅色のアーマーを纏っていた。
「な、何これ、鎧!?」
『そう出力されたのか。その力の名は【閑々子】。さぁ、行っておいで。まずは初陣に、君の仲間を救うんだ』
「え、わ、分かっぬまぁっ!?」
立ち上がり、駆け出そうとして、ヒトエは大きく姿勢を崩した。後方へと倒れる途中で不自然に動きが止まる。
「え、な、何なに」
ヒトエがどうにか目だけを動かして探ると、彼女のツインテールを覆うアーマーの先端が床に突き刺さっている。
「髪が刺さってる⁉ ちょ、学校壊しちゃったんだけど⁉」
『焦らないで。使い方は君自身がよく知っているはずだ。落ち着いて、力に身を任せて』
「うぅー……ていっ!」
ツインテールの装甲に手をかけ、姿勢を直す。その部分のアーマーが変形・パージし、彼女の手の中には1組の双剣が残った。
「お、おぉ……」
『もう使いこなせるね? それじゃ、行ってらっしゃい』

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 その①

教室の窓ガラスが、内側から爆ぜ砕ける。
終業式後のホームルームの時間、教室の1つが『爆発』した。その原因は、教室の中央で悠然と周囲を見回していた。
背丈は決して高くは無く、およそ1.6m程度。概ね少女のように見える『それ』は、しかし明らかに人外の存在であった。体表は暗紫色に染まり、両の側頭部からは黒く長い捻じれた角が生えている。腰から伸びる蝙蝠のそれのような皮膜の翼のためか、足下は僅かに床を離れ、ふよふよと上下している。鋼線のように細い尾をふわふわと振り回しながら、『それ』は楽しそうに周囲で怯えている生徒たちを品定めするように眺めていた。
「どーれーにーしーよーおーかーなー……」
『それ』が周りの生徒を1人1人指差しながら、歌うように呟く。
「……きーめた」
少女は宙を泳ぐように、1人の女子生徒に近付いた。右手の爪が長く鋭く変形し、女子生徒の喉元に触れる。
爪の先端が皮膚を突き破る直前、『それ』の鼻先に雪の結晶が舞い落ちた。
「にゃっ……?」
『それ』が周囲を見回すと、教室の入口に一人の少女が立っていた。
“白銀”という語を擬人化したかのようなその少女は、『それ』に向かって手を振ってみせた。
「はろー、怪人」
「……? はろぉー?」
『それ』も手を振り返す。
「あんた、名前は?」
「“カミラ”」
「へぇ。それじゃ、さよならカミラ」
少女が背中に隠していた特大筆を振るうと、白い流体が斬撃となってカミラに向かって行った。カミラはそれを回避し、一瞬で距離を詰める。
「……なまえは?」
「怪人に名乗る名前は持ち合わせてなくてね。あんたを殺す“力”の名だけ覚えて逝け」
少女が特大筆を振るうと、周囲に吹雪が舞い、カミラの視界を封じた。
「この力の名は……【雪城】」

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サンタクロースは突然に

今日はクリスマス。
といっても、私にとってはただの平日だけど。

サンタさんが来なくなってから、もう何年も経つ。
別にクリスマスが嫌いなわけじゃない。
ケーキもチキンも大好物だし、クリスマス前の浮かれた空気だってなんだかんだ楽しんでる。

でも、今年はなんかそんな気分にはなれないんだ。
理由はわからない。
ただ、恋しいだけなのかもしれない。
もう二度と戻れない、幼い日のあのときめき…
サンタさんにプレゼントをもらえるように、ちゃんとお利口にしてたよ。
クリスマスツリーがとてつもなく大きく見えた。
ホールケーキを1人で食べるのが夢だった。
そんなことを考えていたら無性に寂しくなった。

でも私はぼっちじゃない!
なぜなら学校があるからね!
電車の中でクリスマスソング、聴いちゃうもんね。
そのまま浮き足だってスキップしながら学校に向かっちゃったりして。

一限は数学か…めんどくさいな…
急に現実に引き戻され、ため息をつきながらロッカーを開ける。





……⁉︎





一瞬何が起こったのか理解できなかった。

私の目の前には、ロッカーからこぼれ落ちた大量のお菓子。

後ろを振り返ると、したり顔を浮かべた親友の姿が。

「メリークリスマス!」

その笑顔を見て、ずっと抱えてきたモヤモヤが晴れたような気がした。

ああ、そうか…

ありがとう。

君が私のサンタクロースだったんだね。