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パンはパンでも食べられないパン何だ?

A「気付いたら真っ白で、部屋の中央にある一台のテーブルと一脚の椅子、それから天井の照明とそれのスイッチの他は何も無い部屋に居た。するとそこに、何かを持った男が現れた。男は手に持っていたそれをテーブルに置いた。それは竹細工の浅い籠に入った一つの菓子パンだった。なんとも形容し難い形状をしているが、クリームが乗っていて甘い匂いを漂わせていて、とても美味しそうだ。それを見ていると、男がこう言った。
『貴方はこのパンを食べても食べなくても良いです。ただし、十分後にまた来ますが、一口でも食べられた形跡があれば、貴方の身近の大切な人、もし居なければ貴方の内の誰かが凄惨な死を遂げます。一割以上が食べられていた場合、貴方の家族が全員、貴方も含めて悲惨な死を遂げます。二割を超えた場合、一族郎党その目に遭います。ああ、貴方、学生さんでしたか。三割を超えた場合は、クラスメイトと担任の教師も死にます。四割を超えたら、彼らの家族も。五割を超えた場合、現実に貴方を知っている全ての人間が死にます。六割でネット繋がりの人間やその家族も死に、七割でこの国の全ての人間、勿論私も、死にます。八割でアジア全土の人間が死に絶え、九割を超えた時点で、この星は滅びます。……まあ、信じるか信じないかは自由ですが。それでは、また十分後に』と置いていったパン!」
Q「いや重い上にその想像が怖いわ。お前絶対サイコパスだろ」

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或る男達の行程

五人の男が歩いていた。
以下は彼らの末路である。
一人は上を向いて歩いていた。その結果、ほんの少し頭を出していた石ころに気付かず躓いて転んでしまった。
一人は下ばかり向いて歩いていた。その結果、頭の高さにせり出した木の枝に気付かず、頭から突っ込んで驚きのあまり倒れ込んでしまった。
一人は横を向いて他の奴の様子ばかり見ていた。その結果、前の二人が次々と脱落していくのを見てまごついているうちに、はぐれてしまった。
一人は、ただまっすぐ前だけを見て歩いていた。その結果、迷わず歩き続けることができたが、星の美しさも雲の美しさも草花の美しさも知ることは無かった。
一人は、キョロキョロとしてばかりいて、落ち着きが無かった。その結果、様々な美しいものを見ることができた。
以下は彼らを見た人間の言葉である。
一人目は駄目だ。上しか見ていないのでは足を掬われる。
二人目は駄目だ。陰気に下ばかり見ていて、真実は何一つ見えていない。
三人目は駄目だ。一人で歩けないような奴が、どうして歩こうなどと思ったのか。
四人目は素晴らしい。何にも揺らがず真っ直ぐ行くべき道を進む。あれこそ人間のあるべきあり方だ。
五人目は駄目だ。あんな落ち着きの無い奴、社会に適合できるわけが無い。そもそもあんな奴と居るなんて、周りに何か言われたら恥ずかしくってしょうがない。

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世にも不思議な人々73 殴る人その7

疲れ果てて座り込んでいる那由多の前に現れたのは、残念、安芸華世ではなく、キタこと嵐山斎六であった。
「やあやあお疲れ様、全部見てたよ。いやあ、すごかったじゃあないか。あんな化け物相手に素の身体能力だけであそこまで渡り合って最後には能力生命体でやっつけるたぁ、ってぬぐふっ!」
那由多がキタの服の腹の辺りに取り付き、胸の辺りまで這い上がり、そのまま顔面を真っ直ぐ殴りつけた。
「はあっ!?ふざけんなよ!ボク死にかけてたからな!見てたんなら助けてよ!」
「うぅ…、いたたたた……。だって君、絶対勝てたじゃない?それなら助けなんかいらぐっふぅ」
那由多が身体を振り回し乱暴に蹴りを入れる。
「お前万が一って言葉知ってる!?ちょっとでもミスったら詰みだったからね!……ところでキタさん、今身体中ボロボロなんだけど、治せる?」
「いやー、ちょっと無理かなー」
「使えないな……」
「ひどいなー…、ところでこいつどうする?」
キタが側に転がっている男を指差して訊ねた。
「別次元に飛ばす?バラバラにしちゃう?それとも……」
「おっとその男、我々に任せてもらおうか」
そこに唐突に現れたのは、男女二人ずつの四人組だった。そのいずれも、あまり歳は行っていないように見える。
「……誰?」
那由多がポカンとしながらも尋ねる。
「そいつのような社会不適合者の能力者の居場所を作る組織の者だ」
「まあ要するに、不良の集まりの代表だね」
リーダーらしき男の発言に、一人の少女が突っ込みを入れる。
「身も蓋も無えな」
「まあ事実だからねえ」
「しかしそんなことなら歓迎だ。是非ともこの少年をまともな奴にしてやってくれ。正直僕の手に余る」
キタが快諾した。
「承知した。きっとそうしよう」
「あ、そうだ、そこのちっちゃいお嬢さん?」
「あぁ?」
リーダーではない方の男に言われて那由多が不機嫌そうに答える。
「お疲れ様。良くこれを相手にやり切ったね。褒美をくれてやろう。ベホイミ!」
不思議なことに、その呪文の直後、那由多の全身の痛みがひいた。
「うお、あ、ありがとうございます」
「ではさらば」
「よろしく頼んだよ」

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世にも不思議な人々72 殴る人その6

那由多の体重と運動エネルギーを乗せた一撃は、その衝撃を余す所なく男に伝え、
「ぐふっ……」
男の肺から、空気が漏れ出した。
「まだまだぁッ!!!」
その拳を引き、すぐさま掌底、両の掌底と続け、男の身体を空中に打ち上げた。
スピードを技量でパワーに変換する那由多にかかれば、精々85kg程度しかない男の身体を宙に打ち上げることなど容易いのである。
その身体より更に高く跳び上がり、次は回転しながらの踵落としを食らわせる。
男が地面に落ち切る前に回転を利用して強引に着地し、反動で今度は膝蹴りを繰り出し、再び宙に打ち上げる。それを両手の手刀で無理やり止め、とどめとばかりに貫手を鳩尾の辺りに命中させ、男を1mほど吹っ飛ばした。
「ハァッ!どうだ!ボクの怨嗟と憎悪と嫌悪を存分に込めた怒りの七連撃は!……しかしまあ、一回どこかで見ただけの技だけど、案外と上手く行くもんだな。さて、こいつをどうするか、ぬぉわっ」
突然那由多の膝から力が抜け、耐え切れずがくっと座り込む。これまでの動きをまるで疲労の色を見せずにやり切ったというのだから是非も無い。アドレナリンと気合で無理に動いていたのが、緊張の糸が切れたのだろう。
「うあぁ……いったぁ……。やっぱ貫手は駄目だな、もう脚も痛くて動かないし。あーあ、ここらで都合良く安芸ちゃんが通りかかってくれて治してくれたりしないかなー」

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世にも不思議な人々71 殴る人その5

前回の続きだが、能力に頼ることにした那由多。すぐに変化が現れた。
彼女の両腕、二の腕の真ん中より先の方全体を覆うように、西洋の鎧に付属する手甲が出現した。ただ一つ奇妙な点があるとすれば、手首より先、本来手の甲を守る金属板やグローブになっているであろう部分が、手の全体を覆うようについた内側にやや湾曲した長さ50cmほどの刃になっていた点だろう。
『ホラ、刃ハ提供シタシ、彼奴ニ勝ツ力ハ君自身ガ持ッテル。後ハ君ノ好キニシナ』
彼女の能力が楽しそうに言う。
(ありがとう。今一番欲しかったものをくれた。……しかし、これじゃあ蝗(グラスホッパー)というより、蟷螂(マンティス)だよなぁ……)
「んん?何だァそれは?武器か?何もない所から出しちゃうの。うわすげ。しかし無意味だな。今の俺にはどんな攻撃も通らない!」
そう言って男は猛スピードで突っ込んできた。がしかし、那由多は、
「ああ、確かに『無意味だ』という意見に対しては賛成だよ……。しかし、『お前の防御力が』という意味だけどな」
跳ね飛ばされたアスファルトの欠片を弾き返し、更に男が繰り出した拳を懐に入り込むようにして躱し、両手の刃で思い切り斬りつけた。
「ボクの刃は身体を斬らない。お前の『記憶』だけを斬る!」
「ガッ……!」
「うおおおおぉぉおおらあぁぁああぁあ!!!」
能力生命体の具現化によるブラッシュアップを果たした彼女の能力による幾度もの斬撃は、プラスマイナスに拘らず男の記憶を切り裂き引き裂き掻き回し、その精神的ショックは男を気絶させるには充分過ぎた。
勢いを失い倒れ込んでくる男の身体の前で、那由多はしかし攻撃の手を休めなかった。
両腕の変形手甲を消し、両足を前後に配置し爪先を右に向け深く腰を落とし右手を固く握りその手を左手で包み込み、ぐん、と男に背中を向けるように上半身を捻り、
「ダメ押し、だぁッ!!!」
上半身を戻す勢いで男の胸部に拳を叩き込んだ。

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世にも不思議な人々70 殴る人その4

那由多の小さく軽い身体から繰出された、しかし強烈な一撃は、確かに男の顔面中央に命中し、男を仰け反らせた。しかしそこまでだった。
「んなっ……馬鹿な、確かに思いっきしど真ん中に命中させたのに……」
那由多が呆然とするのも無理無い話である。
「……人間のステータスって、大きく分けて3つに分かれるんだわ」
男が仰け反った姿勢を直しながら話し始める。
「一つはパワー。攻撃力だ。一つはスピード。俊敏性だ。そしてもう一つは、防御力だ。どんなにパワーとスピードがあっても、それに耐えうる身体が無いと意味が無い。そして俺の能力は!パワー!スピード!それらに耐えうる耐久力!それらを扱う感覚機能!その全てを強化する!そこに死角など無い!」
「嘘……だろ……」
「しかし、まさか俺の攻撃をあれだけ躱し、更に一撃を返すたあ、やるじゃないか。俺の本気、思う存分食らえ!」
そう言って男は、地面を思い切り殴った。小さなクレーターができる。そしてその場で回し蹴りを繰り出した。しかし少し距離を置いている那由多には届かない。
(一体何をやって……)
その瞬間、背筋に嫌な寒気を感じ、咄嗟に那由多は左に身体をずらす。その瞬間、アスファルトの欠片が先程まで彼女の眉間があった位置を弾丸もかくやというスピードで通過した。
(はぁっ!?アスファルトを殴って飛んだ欠片を蹴り飛ばしたってのか!?そんなん運でしか避けらんないじゃん!)
次々繰り出されるその遠距離攻撃を、男の動きと直感から全て躱し切る那由多。しかしそこに先程までの余裕は微塵も感じられない。ただひたすらに回避に全身全霊を注ぐのみである。
(ぐっ……せめて何か刃物があれば、弾くなり防ぐなり出来そうなものなのに……。全部あいつのせいで取り出せなくなってるし、これじゃあまるで詰みじゃないか!)
そんな彼女の耳に、何者かの声が聞こえてきた。
『ヤアナッチャン。苦労シテンネエ。言ウテワチキモアイツ嫌イヤワア』
(む、『グラスホッパー物語』。こんなときに何だ一体?今死にそうなんだが。ダイイングなんだが!)
『マアマア、力、借リタイ?』
(借りるったって、刃物が無いじゃん!)
『ソウ焦ラナイノ。君ニハアイツニ勝テルダケノ力ガ既ニアル。ワチキガ後ハソレヲ活カシタゲル』
(そこまで言うならやってみろ!)

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世にも不思議な人々69 殴る人その3

いくら攻撃しても那由多に攻撃が当たらないためか、男の方にも焦りが見え始めた。
「うぅわ、こんな攻撃も避けちゃうんだ。すげぇやぁ。だがくたばれっ」
次々繰り出される殴打や蹴りを全てギリギリで避け切る那由多。それもそのはず、元来彼女の身体能力は、速度と技術について常人を遥かに凌駕するものなのである。その能力の全てを回避に費やしているのだから、たとえ能力無しでも、身体強化能力者にも引けを取らないのである。いわゆる『誠刀防衛』だ。それに気付いた那由多はギリギリながらも挑発することにした。
「ッ……どうしたっ、通り魔っ。どうやら、身体能力、の、強化が、お前の能力みたいだけど、まだ能力を、使ってない、ボクに、一撃だって、当てられて、ないじゃあ、ないか!」
男も攻撃の手を緩めずに答える。
「ほお……お前も能力者なのか。しかし、俺を止められないようじゃあ、所詮はゴミだなあ!」
「………あ?今お前、何つった?」
突然、那由多の持つ雰囲気が変化する。
「お前らみたいな人種は、力も無くて現場じゃ何の役にも立たないから、ゴミみたいなもんだっつったんだよ」
その言葉と共に飛んできた拳を那由多は紙一重で躱し、男の勢いを利用してその顔面に飛び蹴りを叩き込んだ。
「ああ…確かに『男尊女卑』ってものはあるし無くならないと思うよ。単純な力は男の方が上なんだから、表じゃそっちの方が重宝はされるさ…。けど真の『男尊女卑』とは!男女の身体的な格差を役割の分担によって補い合うものであり!お前が言うような差別的なものでは断じて無い!お前みたいな奴は今ここで!ボクが裁く!」

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世にも不思議な人々68 殴る人その2

その日の帰り。
(ふむ、通り魔、か……。凶器は鈍器の類なんだろうな、殴り殺されてたって話だし。ってかあいつはなんで分かってたんだ?あ、あいつなら何もおかしくないや)
そんなことを考えながら、那由多がある街灯の下を通ったとき、向こう側から一人の男が歩いてくるのが見えた。背丈190cmほどの長身だ。
二人がすれ違いそうになったその瞬間、男が殆どノーモーションで殴りかかってきた。
「なっ……!」
那由多は咄嗟に持っていたギターケースを盾のように構え(那由多は普段能力発動のための刃物を全てギターケースに入れて持ち運んでいる)、更に後方に跳ぶことで衝撃を和らげた。しかしその威力は恐ろしく高く、数メートル吹き飛ばされ、ギターケースはひしゃげてしまった。
「誰だお前!まさか!お前が例の通り魔か!」
那由多が何とか停止して叫ぶ。
「何だ、もう広まってたのか?すげすげ」
対する長身の男は楽しそうに応える。そのまま一瞬にして距離を詰めてきた。那由多はその拳を相手の懐に飛び込むようにして回避し、そのまま相手の背後5m程まで滑り込み、再び男に向き直る。しかしそのときには既に、男もすぐ側まで拳を迫らせていた。
「ぬわっ!」
それを仰け反ることでギリギリで躱し、後転しながら距離を取る。しかしそこに男の踵落としが降ってくる。それを横に跳んで回避するも、次は回し蹴りが飛んでくる。
「うおああああああああああ!!!!」
 その回し蹴りを跳んで躱し、続けて飛んできた右ストレートに回し蹴りを合わせ蹴りの勢いで回避する。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ㉔

「…鷲尾さん、それはちょっとやりすぎなんじゃ…」
わたしが諫めようとすると、”ハルピュイア”はぴしゃりと返した。
「やりすぎって言ったって一応正当防衛になるから別にいいのよ。こうやって他の能力者が抑えていかないと、みんな大変なことになるし…」
そう言いながら、彼女はネロの腕をちょっと乱雑に離す。
”ハルピュイア”の能力から解放されたネロは何も言わずに相手を睨みつけた。
「…抑止力、か」
ぽつり、と黎が呟いた。
「…”抑止力”?」
わたしが思わず聞き返すと、さっきまで黙って場を見ていた亜理那が話し出した。
「他の能力者の暴走を抑える異能力者のことよ。まぁ、どの異能力者も、他の能力者の抑止力であることには違いないんだけどね。世界の秩序とかを崩さないようにするために」
「特に”ネクロ”なんかの強力極まりないのとかは、おれらとかで抑えてかないとダメだ。ついでに言うとコイツは感情任せになりやすくて危なっかしいし」
耀平も亜理那の言葉にうなずく。
「―秩序や秘密を守るためなら、最悪の場合自ら手を下すことだって構わねえよ」
くすりと笑う耀平に、わたしは背筋が凍り付いた。だが少し引っかかるものがあった。
「…でも、」
でも、最悪の場合、自ら手を下すのなら―とわたしは彼に浮かんだ疑問を投げかける。
「それでも友達?」
ネロがぴく、と反応したような気がした。

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世にも不思議な人々55 ヌエ

ヌエはどうやら、別次元に飛ばされたようだ。
「おお、飛んだ飛んだ。さて、ここは一体何処なんでしょうね?」
そこに現れたのは、皆さんご存知キタさんだ!どうやら、というよりやはり、ヨニヒト次元だったようだ。
「お、能力者。……?けどちょっと毛色が違う?何だか分からんが、まあ色々見せてもらいましょうかね」
と、彼がヌエに対して能力を行使した瞬間、彼の目に、通常の人間ならば有り得ない量の情報が、『可視化』された。
「うおっ、う、うおぇぇ……。何だ今の。吐き気したぞ。君、本当に人間か?」
「んあ?ええそりゃーもう、太陽が東から昇って西に沈むのと同じくらい確かに、あっしは人間ですぜ」
今度は『あっし』か。
「よっしゃ、もっかいやってみよう」
再び能力が行使された。しかし、今度は何故か何も『可視化』されなかった。
「あれぇ?おっかしーなー。君、何かした?」
ニタニタしながらヌエが答えた。
「あ、また『アレ』が出てましたか。何をしようとしてたのかは分かりませんが申し訳無い。いやね、このヌエ、『より不可解な方向に行く』という能力でして、多分貴方のやろうとしたことが不可解にねじ曲がったんでしょうねぇ」
「ふーん、道理で。しかしヌエ、もしかして他の次元から吹っ飛ばされたクチだったり?」
「しますな」
「ほう。実はつい最近君と同じ出自の奴がこっちに来てさ、まあ君ならきっとこっちでも上手くやっていけるだろう。なかなか良い性格をしているからな」
「そいつは有り難いお言葉。しかし生憎とこちらの能力者事情は全く知りませんゆえ、色々教えてもらいとうございます」
「ああ、喜んで」

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世にも不思議な人々52 一つ目小僧その5

「さあ、さっき言ってた『あの双子』について聞かせてもらおうか」
「えぇー、嫌だね、たとえ負けてもお前らのことなんか嫌いだから教えてやんねー」
「安芸ちゃん、ゴー」
「了解!」
安芸がゆらりゆらりと一つ目小僧君に近付いていく。
「え、何、え、ちょっ、待っ、止め、ぎゃあああああああああああああああああ!!!」

「……さて、教えてもらうよ」
「う、うぐぅぅ……、だ、誰が教え」
「安芸ちゃん」
「りょうかーい」
「え、いや、止め、止めて!分かった!話すからさ!あれだけは!あれだけは許せ!」
「さあ話せ」
「あれは今日の昼間のことだった。突然変な二人組が出てきて、『お前の能力はこの次元じゃ異端過ぎる。悪いが消えてもらう』的な発言をしてきて、で、気付いたら周りは夜で知らない場所に居たと。それが事の次第だ」
「わーお語彙力の低さよ」
伏見がからかうように言う。
「うっせ」
「ところで、君のいたところじゃ、能力ってどんな感じだったんだ?」
「異能力者は能力発動時に目が光って異能力者としての別の名前になるんだ。俺のは『ヒトツメコゾウ』。『自分の身体のパーツを増やしたり減らしたりする』能力だ。あと前の異能力者の記憶も受け継ぐ。確かに異端だわな。ってあれ、そう考えると俺をこっちに飛ばしたあいつらはどうなるんだ?」
「気にするなよ。まあ、この次元じゃあ全てを受け入れるから。こっちで楽しくやるが良いさ」

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世にも不思議な人々㊾ 一つ目小僧その2

「つーかーまーえーたァッ!」
伏見は一つ目小僧のほぼ真上から首と右腕を、安芸は地面を這うような低い姿勢で両脚を捉えた。
「よーし捕まえた……ってあれ?何だこれ?」
しかし、彼らが捕まえたのは、一つ目小僧のものらしき右腕と両脚の膝から下、そして生首だけだった。
「うわっ、気持ち悪っ」
伏見がそう言っている間に、それらは消えてしまった。
「……お華さんや、どう思う?」
「これがあの一つ目小僧の能力なんでしょうね」
「もう一度だ。今度は声を出さないようにしなくっちゃね」
「やっぱりあれが原因でしたかね?」
再び追跡開始。今度は無事に組み伏せた。
「ぐああ、離せー」
既に人間の顔に戻ってしまった一つ目小僧が抵抗する。
「いいや、駄目だね」
「一体何が目的だ!?金なら無いぞ!」
「いや、別にそういうんじゃあ無いんだ。ただ君さ、能力者なんだろ?僕らも同類だからさ」
「え!じゃあお前達も異能力者なのか!?」
一つ目小僧を組み伏せたまま、会話が始まった。
「ああ、その通りだ」
「へえ、じゃあいつその能力に気付いたんだ?」
「いや、別に、手に入った時に自覚したんだが」
「ん?じゃあそっちの子は?」
「んー、気付くっていうのはちょっと変な言い方ですね」
「思い出した、の方が正確か?」
「いや、後天的に身に着いた能力だし」
「……は?」
一つ目小僧が倒されたまま、右手を軽く握った。その瞬間、伏見の腕と言わず、脚と言わず、頭と言わず、首と言わず、肩と言わず、腹と言わず、体中に人間の右手のようなものが取り付いた。
「うわ、何だこれ」
「お前ら一体何なんだ!?少なくとも俺の仲間でだけは無いね!」
そう言って軽く右手首を上げると、その動きに対応するように取り付いた右手が一斉に伏見の身体を引っ張り、引き剥がした。
「後天的、だぁ?何ふざけたこと言ってるんだ、能力は前世から引き継がれるもんだと相場が決まってんだぜ!」
そして一つ目小僧はまた逃げ出してしまった。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ⑧

「…確かに」
ただわたしから”異能力を知るキッカケになった人達”を紹介してもらうなら、わざわざ鷲尾さんを呼ぶ必要はない。じゃあなぜ…
「あ~、それはね」
亜理那は少し間をとって答える。
「わたし1人だとサヤカから情報引き出せる自信がないから! あとハルカにその事教えたら絶対それが誰か知りたがっていい圧力になると思ったし」
え、とわたしと鷲尾さんは軽く凍り付く。
「あ、圧力…」
内容も内容だけど、いつもの彼女からは考えられないような言葉を繰り出した亜理那に、わたしは唖然としてしまった。
鷲尾さんもあきれたように下を向く。
「そう! 圧力! あとわたしよりもハルカのほうがそういうの得意だし…」
「いやそんなワケねーわ」
あきれ切っているわたし達を気にせず、いつも通りに話を続ける彼女に鷲尾さんは軽く反論した。
そんな突っ込むも気にせず、亜理那はわたしに向き直る。
「と、いうワケでさ~サヤカ、その人達の事教えてくれない? お願いっ!」
そう言って、彼女はぺこりと頭を下げた。
「お、お願いって…」
一生のお願いと言わんばかりに頭を下げる亜理那に、わたしは戸惑った。