筋トレの日は慰めあい
晴れの日は励まし合い
休日練の日はバカにして
同じグラウンドで生きてきた
夕焼けも、虹も三年間の「美しい」は全て共有してきた
お互い愚痴も言い合った
声も掠れ、日に焼けた
貴方達の隣で部活してきた日々は幸せだった
どうか、最高の試合ができますように。
絶対勝ってまた一緒に練習できるって信じてる。
応援してるよ。
君はいつも僕にあめをふらす
上手く話せないからいつも僕は濡れちゃう
でもね もしもあの時みたいに君が優しく
僕に数学を教えてくれた
あの夢みたいな時間みたいな日々が
もう一度訪れるなら
僕のもとに降るのは
妖艶なあめ
金曜日になるといつも、なんとなく焦りが出てきて、
今週もなにか美しいものを残せただろうか、なんて
今日もひとことでいいから「おやすみ」を残したいのに、
出てくるのは昔つかったことばだけで
詩に才能なんてものがあるとしたら、とうに遣いきった
からからの絞り滓なんじゃないかって、いつも怖いよ
夜更け、こっそりと画面を覗く。
(創作上の悩み、なんて高尚なものじゃありませんがw)
(もし描けなくなったらふらっといなくなります。)
(みんな心配しないでね、気が向いたらまた現れるので)
(おやすみなさい。また来週!)
夏休みがきたというのに。
君がいるというのに。
スマホ、部活、勉強の繰り返し。
最後の夜
君から届いたメッセージ。
パジャマのままで、がむしゃらにはしる。
終電にのる君に向かって。
揺らしてほしい音。
触れてほしい熱。
映してほしい色。
そうして欲しかったものは
いつだって1人だけだったよ。
いつまでもそばにいられると
勘違いしてた。
そんなこという君、
少しはかっこよくなったじゃない。
少しは強くなったんじゃない。
…なんて
目を閉じても閉じても
昨日見た夢の続きはもうない
君を乞うても乞うても
僕じゃない君は僕のためにと口ずさむだけで、ただ、不敵な笑みを浮かべている
思うのは侵されないのに
表すのは不自由だ
目を閉じても閉じても
昨日見た夢を掴めない
君を乞うても乞うても
君は君で僕のためにと口ずさみながら、ただ、かき集めた夢の切れ端で遊んでいる
声の主は鏑木先生。
「は、はい!」
手招きをしている。
手をかけた鞄を置き、先生のもとへ。一体何だろう。
「これ、家の人に。」
家の人に。渡せ、ということだろうか。
これ、といって渡されたのは封筒。
「わかりました。」
ありがとうございますと伝え戻ろうとすると、呼び止められた。
「慣れそうか?」
慣れそう、とは。
『慣れが早いですね。』
チャールズの声がよみがえる。
意味:いつでも元気でいたい
説明:太陽は24時間必ず何処かの国で昇っているので「いつでも」という意味合いがある。
「ありがとうございました。そろそろ失礼しますね。」
二人は頷いて手を振る。
「うん、また明日ね。気を付けて。」
鞄を持ち、扉に手をかける。
もう一度手を振ろうとして振り返った。
「あ、ねえ瑛瑠ちゃん。」
すると、瑛瑠よりも先に口が開かれる。
「はい?」
輝くような笑みは相変わらず眩しい。
「瑛瑠ちゃんさ、笑った方が断然かわいいよ。」
何を言われているのかわからなかった。
「わたしたちみたいにツボ浅いのもアレだけどさ、笑うと楽しくなるから。少なからず、これからは学校にいる間がほぼ1日を占めるんだからさ、楽しまなきゃ。どうせ同じ時間、みんな与えられてるんだしね。」
「知ってる?表情筋上げるだけで人って明るい気持ちになるらしいよ。」
そう言って頬を指さす。
なんて底無しに明るい子達だろう。これも、楽しくしよう意識しているのだろうか。
「今度こそじゃあね。引き留めてごめん。」
首を振り、微笑む。
「うん、またね、二人とも。」
手を振って教室をあとにした。
不思議な場所である。不思議な人たち。
思い返せば、瑛瑠には友人らしい友人はいなかった。
よく、この経験したこともない大人数との交流に、不安らしい不安を抱かなかったな自分。
妙なことに感心しながら情報を整理する。
「何かあったとか?」
「鏑木先生に限ってないでしょ。」
「ウチらのクラスに問題児いるとか?」
「えー、初日早々やめてよ。」
「ごめ。まあ、こんなことは聞けないしね。」
肩を竦める女子。
話題を変えようとする。
「あとはね、笑うとかわいい!」
切り替えのはやさが凄まじい。
「あ、わかるー。少年みたいだよね。」
「50のおじさんにかわいいはいかがなものかとも思うけどね。」
ここは瑛瑠も笑う。
「私も、先生の笑顔は素敵だと思います。」
そう言うと、
「立派なファンじゃん。」
「同士だね。」
と微笑む二人。
色々、収穫があった。
「え、長くない?」
「10年前ここにいて、どっかの学校いってまた戻ってきたとか?」
「なんで誰も何年いるか聞かなかったんだろ。」
迂闊だったと言って笑う二人。瑛瑠は黙って聞いていた。
「そういえばさ、今年から担任らしいね。何年ぶりかで。鏑木先生担任とかずるいって、先輩方言ってるの聞いた。」
「おー、恐っ!女子人気高いしなー。」
脱線は続くよどこまでも。
「今年からなんですか?担任職。」
瑛瑠技師の軌道修正。
「そうそう。まあ、年齢的に管理職だしね。副主任とか学年主任とかさ、生徒指導部とかでも全然アリなのに。」
「去年なんだっけ。わー、覚えてない。」
瑛瑠はこんなやりとりを見るのも初めてだ。ここまで話は拡大するのか。
鏑木先生が好かれる理由を聞こうとして、思わぬ情報が沢山はいるものだ。
「じゃあ、どうして今年担任なんだろ。」
「鏑木先生、なぜあそこまで人気なのかと。
お二人は、どんなところが好きなんですか?」
二人は再び顔を見合わせる。
「瑛瑠ちゃんておもしろい子…。」
「超直球じゃん。」
目を丸くしてから答える。
「なんだろ、先生っぽくないところかな。」
「基本生徒は放置だよね。放置っていうか、任せてるのかな。」
「うんうん。ひとりの人間として見てくれてるよね、子どもとか高校生とかの前に。」
「ほら!さっきもさ、勉強でもしとけって言ってたじゃん?鏑木先生なら、勉強しろとは言わないんだよねー。」
「でもさ、鏑木先生に勉強しろって言われたらやる。」
「言えてる。やっぱ鏑木先生担任でよかったよねー。」
よほど好かれているようだ。
「ずっと人気なんですか?」
「うん。先輩から代々受け継いできてるの、鏑木先生の評判は。」
代々……。
「どれくらいここにいらっしゃるんですか?」
「んー……10年は確実にいるはずだよ。10年前の写真に載ってたの見たもん。」
「初めまして。ちょっといいですか?」
2人は驚いたように顔を見合わせる。
そして、笑った。
「初めまして。」
「大丈夫だよ。」
楽しそうに笑う2人を、瑛瑠は首をかしげることで笑う理由を問う。
ひとりの子がにっこりする。
「初めましてって、使い道あるんだね。
そうやって話しかけられたの初めて。」
そういうことか。では、何と言うのだろう。
尋ねると、ちょっと考えるようにしてもうひとりが答える。
「ねえねえ、とか?」
そう言いながらまた2人は笑う。
声をあげて笑うことが、今までにあっただろうか。はしたないと言われたか。はたまた、そもそもそこまで楽しいこともなかったか。
なんだか、羨ましいと思ってしまう。
「ごめんね。で、どうしたの?」
顔を向けてくれた。
「鏑木先生のことなんですけど……。
お二人は、中等部からの方ですか?」
「うん、そうだよ。」
「あ、瑛瑠ちゃんもファン入り?」
にこにこする彼女たちに瑛瑠は驚く。
「どうして私の名前……」
もちろん瑛瑠は彼女たちの名前は知らない。
「珍しい名前だったから、黒板のあの張り紙見て覚えちゃった。かわいくていい名前だよね。」
今日はたいそう名前が褒められる日のようだ。
「鏑木先生の何を知りたいの?さっき十分質問に答えてたと思ったけど。」
面白そうに彼女たちは聞いてきた。
応えあぐねていると、
「高校。」
と返ってくる。チャールズがよくわからないことを言うから、普通の質問にさえおかしな反応をしてしまうではないか。
チャールズを心の中で睨み、先生に応える。
「はい、楽しそうなクラスだと思いました。」
「そうか。」
初めて先生が笑うのを見た。
この先生が好かれていることが、なんとなくわかるような気がした。
「いい奴らばかりだから、すぐ馴染めるさ。
じゃあ、気を付けて帰れよ。」
「はい。また明日、先生。」
大人とは。先生とは。学校とは。
鏑木先生とは。
また明日,と、そう言ってしまった。また明日も自分は来ると、みんなと会うと。
自然に出てきたその言葉に、何より自分が驚いている。
そして、今日のクラスメートと先生のやりとりを思い出す。出来ないと思っていたこと。もう少し時間がたてば、もしかするともしかするかもしれない。
敬服すべきは鏑木先生の人柄なのだろう。難しいこの年齢に対応できるだけの力量が、彼にはあるのだと瑛瑠は思う。
クラスには、まだ数人残っていた。
そのうちの、瑛瑠の近くの席で話している女の子2人に声をかけてみた。
声の主は鏑木先生。
「は、はい!」
手招きをしている。
手をかけた鞄を置き、先生のもとへ。一体何だろう。
「これ、家の人に。」
家の人に。渡せ、ということだろうか。
これ、といって渡されたのは封筒。
「わかりました。」
ありがとうございますと伝え戻ろうとすると、呼び止められた。
「慣れそうか?」
慣れそう、とは。
『慣れが早いですね。』
チャールズの声がよみがえる。
なんかやだなって思った 大人が言うこと
先生も 親も 未来のこと 将来のこと って言う
今が良ければいい なんて聞こえが悪いけど
今が良くなかったら未来なんて考えられないし
今さえ良ければいいって例えそうだったとしても きっと未来なんて 将来なんて どうになってなるだろう
死ぬような思いなんてしたことなくて
明日死ぬかもよって毎日大切にしなよって言われても
明日に死ぬより生きてる確率の方が高いんだし
忘れちゃうことの方が多いし
10年先なんて想像もつかないし
歳をとるなんて怖いし
やっぱり、今だけでいい
毎日LINEをしてる人がいて
話すことがなくてもおはよう、とかおやすみをくり返して
つながってる
寂しさ吹き飛ぶ
それが好きな人だったら尚更
そんな毎日が続くといいな.
家に帰ろうと
自転車を精一杯こぐ
ただ、一本道
惰性に少し身を任せ
ふと空を見上げる
ああ、ただ青い空に
夕日を浴びた無窮の空に
影を纏わせた雲が
それもまた夕日を浴びて
連なっている、どこを見ても
思い思いに浮いている
もう一度、力いっぱい漕ぎ始める
そうしたら、まるで
あの空を渡っていくようで
あの雲をすり抜けていくようで
前方に広がる夕景に
自由落下する、重力加速度が増していく
ああ、その時の心臓の高鳴りと言ったら
その時の、えも言えぬ爽快感ときたら
風を一身に受け、それでもなお追いつかない
深淵の、切り裂くような蒼さの宙ときたら
しかしその時、気づいたのだ
自由落下の旅はもう終わり
壮大な、荘厳な夕に
浮かぶ、私の家を見つけたのだ
振り返れば、遠く燃える斜陽が
私の目をも真っ赤に燃やさんと、その咢を開けている
夏の暮は、こんなもんじゃあないぞと、威嚇している
下校中の旅人は、しっかりと目に焼き付けて
決して忘れは致しませんと言ってから、自転車を泊め
そして、家の戸に入るのだった