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七月時雨 #11  ―最終話―

ヴァレットが返した拒絶に、ユーリは耐えることができませんでした
フラッシュバックの、逆サイドの再現に

そして、ユーリは、結論を出しました
帯に挟んでいた破魔の短剣を抜き、一閃したのでした
銀色の鋭い光が空を斬って、空を斬って―

ヴァレットを、斬り裂きました

それは、姿を消してしまったヴァレットとは違った形の結論でした
しかし、ヴァレットを斬ったはずの手に、一切手応えはなかったのです
気づけば、彼の姿は霧散したかのように、そこにはありませんでした
「幻影……?洗礼……?」



ユーリは、洋館を見上げていました
どしゃ降りの雨に打たれながら
洋館の扉は、軋みながら、ひとりでに閉まっていきました
まるでユーリがヴァレットを拒絶したのと同じように、ユーリを内部から拒絶するかのようでした
悪友達はユーリがなかなか戻らないうちに雨に降られて帰ったようです
ただ、握りしめた白銀の刃から、ぽたぽたと、雨露が滴っていました
いつまでも いつまでも



その夜、町は突然の雷雨に襲われました
一晩中雷鳴は轟いて、町から静寂を奪っていました
洋館が真っ黒な雲の下、悪魔の棲む館と思われるような不気味さで、麓を威圧していました

次の朝、雷雨が嘘のように晴れわたる空の下、洋館は跡形も無く消えていたのでした
雷に打たれて、木っ端微塵になってしまったのだと、人々は思いました
ひとりの、少年を除いて
ひとりの、自分を受け入れない世界を拒絶した、少年を除いて
少年は、“洋館”が自らを、世界を拒んだのだと……これがその成れの果てだと考えました
つまりは……。


そして、
曇ひとつない、青空の下で
少年は、全てを負って生きていくのでした


これが、ある夏の、拒絶の物語の全て

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七月時雨 #3

少年は、すっかり日の落ちた丘の頂上に立っていました
そこからは、見下ろせば夜の闇に抗うかのような僅かな灯りが、点々と見えました
空を仰ぐと手が届きそうなほど近くに星屑が散りばめられていて、いかにも神秘的な夜なのでした
「……ユーリ、さっさと行くぞ」
少年は夜に溶け込むような銀髪を揺らし、振り向きます
彼の“悪友”の方へ
「あぁ、今行くよ」
ユーリと呼ばれた少年は、手近な石を二つと木の枝を拾い上げ、易々と火を点けました
妙なくらい静まり返っている丘の上で、カキッと石が小さく鳴り、麓を見下ろすと見えるような僅かな灯りが生まれました
目の前には、無人の洋館
さながら神殿のような洋館は、昼間家の窓から見上げたそれよりも遥かに大きく、彼らを待ち受けています


「何も怖くない」


誰かがそう、言い聞かせるように言ったかのように聞こえました

少年の白い腕が、重厚な、紋様のあしらわれた木製の扉の真鍮の取っ手へと伸びていきます

鍵は、案の定掛かっていませんでした
ギィィイイと扉が耳障りな音を立てて開いていきます

そして、ぶわっと微かに埃っぽい冷気が溢れ出て……

少年は、一歩、その昏い昏い洋館の内部へと足を踏み出したのでした

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七月時雨 #2

その洋館のある丘の麓に小さな家がありました
赤い屋根の、小さな小さな家でした
その家には昨日、ある少年が引っ越してきました
この町では、15歳になった少年少女は独り立ちを、と新しい家に一人で住まわせる慣例がありました
少年は、昨日で15歳。つまり、その慣例に従った一人なのでした
とはいえ、ここは丘を囲む小さな町。少年にとっては洋館が近くなったくらいで大した実感もありません
無人の洋館は本当に神殿のようでしたが、少年少女はその洋館が神殿であったとは思わなくなってしまっていました
本来の慣例では、彼らは夜の神殿で洗礼を受けるのですが……


彼らにとっては、それは、“肝試し”へと成り下がっていたのです


銀色の髪の少年は、微塵の曇りもなく鋭い輝きを放つ短刀―それは魔除けとして実家から持ってきた代物でした―を帯に挟み、夕暮れの真紅の空を見上げて、ひとつ、息を細く長く吐きました
背後で、新築の家の扉が、小気味いい音を立てて閉まり。
そして、少年の閉じていた眼がゆっくり開いて、夕焼けの空と同じ真紅の双眸が現れたのでした

「さぁ、今夜、何が変わるかな……?」

自嘲気味に、低く笑って、ぽつりと
段々と暗くなっていく町は、やや荒んだ少年の心を、映すかのようでした