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夜中11:55の二人

「ねぇ。」
「やぁ、なんだい。こんな遅くに。」
「今日は、どうだった。」
「楽しかったよ。」
「何したの。」
「体育でソフトボールしたり、地理の先生がくだらないこと言ってるのを見て嘲笑したり、隣のクラスの嫌いなやつを見ていらいらしたり、数学の公式のテストを受けて、一問だけまちがってたり。いろいろあったよ。」
「全部、楽しかったの。」
「全部じゃないさ。」
「?」
「楽しかったし、呆れたし、いらいらしたし、悔しかったりしたよ。」
「それやってて恥ずかしくないの。」
「これが、今日の感情だから、恥ずかしいなんてないさ。」
「明日もそうなるのかな。」
「それは、そうとも限らないよ。」
「え?」
「今日はなかったけど、怒ったり、悲しかったり、うれしかったりするかもしれないね。」
「ぼくは、明日が怖いんだ。君は、楽しく過ごせたかもしれないけど、ぼくは、わからない。明日がわからない。」
「明日がわからないのは、みんな同じさ。みんな、明日のことがわからない臆病者なのだよ。」
「でも、」
「だいじょうぶ。君はいきていけるよ。」
「・・・ほんと?」
「ああ。現に、ぼくがここにいるじゃないか。」
「あしたは、くる?」
「くるよ。未来のために。」
「でも、明日がきたら、きみは、」
「ぼくは、今日だけのぼく。だから、明日一日は、きみが生きるのだ。そろそろ君と入れ替わるときだね。」
「いやだ。やだよ・・・!まだ聞きたいことがあ」
「思ったこと、感情を、臆病者に伝えるんだよ。君に伝えられてよかったよ。」
「また、あえる・・・?」
「わからない。感情しだいだね。」
「うん。・・・またいつか。」
「ああ。さようなら。」
あしたのぼく。

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コーヒーブレイク②

こっちに越して3日目の時。
だいぶ部屋が片付いたから近所を散策してると
雰囲気のある喫茶店にたどり着いた。

ドアを開けると鳴り響く鐘の音。

それに気づいた店主がメガネ越しに僕を見つめる
70代くらいの痩せた老人。頭は綺麗な白髪。
それが僕の第一印象。

店内を見渡す僕にいらっしゃいと細い声で言ってすぐ珈琲をひくためうつむいた。

何か注文しなければ。そう思いメニューを見つめる。とりあえず店内で1番安い珈琲を注文する。
珈琲を知らない僕でも解る。ここの珈琲は昔ながらの方法でつくってる。

暫くするとカチャカチャと音をたて僕の前に珈琲カップを差し出す。ひと口飲む。思いのほかに苦い。何の意地なのかブラックが飲めないのかと思われたくないから平気そうな顔を意識した。

そして暫く僕が珈琲と格闘してると今にもパンから飛び出そうな程の量のタマゴを挟んだサンドイッチが出てきた。
驚いて店主の顔を見ると店主は笑っていた。

「おめー最近こっちに来たろ?見ねー顔だ。
ここ近くの大学生とみた。若けーうちはたんと食いな」

とうつむいて珈琲をひきながら僕に言う。
僕は嬉しくてすぐにかぶりつく。タマゴは皿にポトポトと落ちていく。
美味しすぎたサンドイッチ。また明日も来るよとそう言って勘定を済ます。

サンドイッチの衝撃的美味さと
それの代金をしっかりとられたことは
いつまで経っても忘れないだろう。

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そして彼女の口角があがるのを僕は見た。

「なんで僕と付き合ってくれたの?」
そう聞くと彼女は一瞥もくれずに、すんか、と言った。付き合って一年と半年になる日曜の昼下がりだ。
「すんか?」僕は聞き返す。すんか……寸暇? それとも何かと間違えてるのかな。す、す、す……すし……あーお寿司食べたい……じゃなくって!
「どういう意味?」
「メールで。変換ミスして」
聞くところによると、彼女を初めてデートに誘った時の僕のメールが、「もし良かったら今度一緒にご飯行きますんか」だったらしい。あんまり記憶にないけれど恥ずかしい。当時気付いていたら二度と顔も合わせられなかったくらいの恥ずかしさだ。ちなみに交際の申し込みを切り出せたのは、それから3ヶ月は経っていた気がする。
「じゃあそこで変換ミスしてなかったら付き合ってなかったの?」とこれは冗談だったのだけど、「うん」と真顔で彼女。
「ええぇ! そんな! 僕ってそこだけなの?!」
「でもそんなもんでしょ」
「そんなもん?」
「そんなもん」
強引にまるめこまれたような。釈然としないままごろんと体を床に投げ出す。この会話の流れなら今度は彼女があの質問をしてくるべきではないか。そう思ったけれど一向に彼女が口を開く気配がない。畜生、聞かなくたってお見通しだって? そりゃ確かに僕の方はベタ惚れだけどさ。悔しいから向こうが聞いてくるまでは黙ってやろう。そんな、報復になるのか分からない報復を試みる。
と、その時彼女がこちらを向いた。やっぱり? 参った? 僕は少し鼻高々に待ち構えた。
「好きよ」
勝者、彼女。