服を濡らした雲が去り、青空に浮かぶ太陽がずぶ濡れの私をあざ笑う。重いままの服を脱ぐこともできずに立ち尽くしている。
「私が必ずレスをする」という企画に参加してくださった皆様、ありがとうございました。気づいたら「レス333」が週間人気タグランキングで1位を取っていました。スクショしました。 ご期待に沿えたかは分かりませんが、私なりに精一杯詩を書かせていただきました。お楽しみいただけていれば幸いです。 またいつかふらっと現れるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。 ※レス333はあくまで5/5,23:59までの投稿作品にレスをするものですのでこれ以降の投稿は受け付けません※
激しい光を放つ度に ボヤけて見えるんだ 僕らに心が無かったなら 偶然じゃなくて運命なのなら 上手くいったかもしれないけど 仰向けになった僕の心臓が 君を感じようと寝返り打った でもうつ伏せだと苦しくて 結局諦めてまた早く脈を打つ 君の脈の速さと僕の脈の速さ どっちが早いんだろう 別にどっちでもいいんだけど できれば同じがいいんだよ もし君が僕だったなら もし僕が君だったなら どうするんだろう どう思うんだろう 何を感じるんだろう もし君と僕が 別々じゃなく1つなら そんな心配も無かったのかな 教えてよ 美しく磨き上げる度に 曇りはどんどん重なってゆく 君だけの世界、僕だけの世界なら 誰かを求めるなんて あり得なかったのかな 君の方が少なかったはずの歩幅は 別に今も変わりはないけど 大股で忙いで歩くもんだから 追いつけなくなっちゃって 血液を赤くするアレの 正体は実はソレだったんだよ アレとかソレとかばっかりで悪いけど この温もりだけで分かるんだよ もし僕が僕でなければ もし君が君でなければ どうなっていたんだろう どうだろう 出会うことも無かっただろう もし僕が君の 半分のうちの片方なら 君は僕を探したんだろう 教えてよ
悲しみに手を振った 優しさが逃げてった 痛みを忘れようとした 傷をつけるようになった その弱さは君の強さ 貴方も私も紙一重
届くことは無き一通の手紙 色褪せぬお菓子の箱の装飾 気持ちが詰まりすぎた日記 英語のノートのコメント欄 排出できなかった言葉たち 体言止めを独り撫でつけて 全部ぜんぶ抱き締めたから 大丈夫だよ、根拠無き呟き
嬉しいなら 優しく甘く 哀しいなら 少ししょっぱい 苦しいなら ほろ苦く 恋しいなら 甘酸っぱい あなたの気持ちは七変化 あなたに合わせて七変化 不思議で楽しいドロップス おひとついかが?
雨が上がって 晴れた空 色とりどりな 夕焼けを 同じ服を着た貴女と見よう 邪魔するものは 何もない 貴女と私 帰る道 貴女の話を 聞きながら 夜になっていく その空の 色が消えたら手を繋ごうよ 離れ離れに ならないように そんなこと できたらよかった でももうそれは 叶わないけど 繋いでいてよ 私の手 強く優しく 離れぬように 行かないでいてよ もっと遠く 近くて遠い あの場所に 送り出した ばかりでしょ? 我慢しなきゃじゃん わかってる もうここには いないでしょ? 甘えちゃだめじゃん わかってる いつになったら また会える? その時がいつか 来るまでに 成長するから 見ててほしいな かわいくなるから 褒めてほしいな
馬が走る 「何か」を探し求めて、ただ走る 満開の桜を見ながら 美しい湖の横を 果てしなく広い草原を 険しい雪山を 探し求めている「何か」がはっきり分からない それでも馬は走り続けている ずっとずっとずっと…
皆様、はじめまして。もしくはお久しぶりです。 やりたい企画が出来たので心優しい方、ぜひご協力お願いします。 やりたい企画とは「投稿された作品に対して必ずレスをする」というものです。 今から5/5の23:59までにポエム部掲示板において「レス333」タグをつけて投稿された「詩(ポエム)」に対して必ずレスをします。(過去作も可。受けつけるのは「詩(ポエム)」のみ) レスの内容は作品の感想or作品に対しての返歌的な詩です。ほぼ後者だと思われます。 協力してやってもいいぜという方募集中です。 質問があればこの投稿にレスをください。 たくさんの作品に出会えることを祈っています。
暖かさを喰らいたい。 体温を喰らいたい。 冷めた心に愛を注いで溶かされるなら なんて幸せなことでしょう。 抱き枕のように抱きしめられたい。 あなたが羨ましい。 だってあなたには遠くに抱きしめてくれる人がいる。 私にはいない。もういない。 どこにもいない。 僕に愛をください。 暖かさをください。 この終わりのない寒気から僕を救って
パクりと言われそうな作品は「落書き」だったことにして胸の底にしまった
つくった覚えのない傷が 動いてもないのに沁みる
歩くたびに傷が痛むように 動くたびに心に何かがしみる。 ジュクジュクしている
偶ニ僕ハ 真ノ優シサトハ 何ダラウトイフ 気持ニナルノダ
LINEのトークルームを消した。 友情が失われていったのが目に見えたみたいだった。 自分でしたことなのにちょっと傷が出来た。
一人で居たい時ほど 一人で生きていけない
何もかも無視できるほどバカではないし、 何もかも見通せるほど賢くもないんだ
それは線香花火みたいなわずかな光だった。 でも、久しぶりに思い出したその熱と光は、夢だと分かっていても愛おしいものだった。 だから、ありがとう。 もう打上花火は上がらないと知っていても、そのわずかな煌めきは希望になってくれたよ。
夢の世界から大人の事情が垣間見えた。 その期待外れの現実に壊されそうになった。 だけど、あなたが全力で叫んでいた。 そのバカみたいな泥くさい音に惚れた。
あの日、あなたと、あなたたちと、勝手に約束をしました。 夜22:00にラジオをつけると。そこが僕らの待ち合わせ場所でした。 これからも、この学び舎は続いていくのでしょう。 いつまでも生徒を受け入れ、時に見送り、出会いと別れを繰り返しながら。 今日、私たちはあなたを見送ります。 明日、私たちは新学期に入ります。 そこに、あなたはいません。 でも、いつまでもずっと、ここにいます。 あなたが私たちに僕たちにしてくれたことは決して消えてなくなったりしません。あなたはいつまでも校長です。ずっと、味方でいてくれると信じています。 さあ、始めましょう。未来の鍵を握るために。
暗さも黒さも全部内側に包んで隠しておいてあげるから。明るさで固めて輝いておくから。 心から思うことじゃなくても許してよ。 何も悪いことはしないから離れないでよ。 正しくなくても間違ってないことをするから。 嫌いにならないで?
「バカって言ったほうがバカ」ってあの言葉。 『相手のことを何も知らないでバカにしているやつが本当のバカだ』って意味なんだって今気づいた
自分の感情は悲しいくらいに自分にしかわからなくて。言語化したって100%ではなくて。 じゃあ同じ苦しみを味わって欲しいのかと言ったらそうじゃない。 理解してほしい、だけなのに。
今日の空はなんだかすごく綺麗だなあ、と思えたから、きっと今日は幸せ
自分の指が鉤爪になってさ、 牙が生えてきてさ、 血肉を求めるみたいに吠えるんだよ。 自分が求めるほどの凶暴性を満たしてくれる世界でもないのに。
たまにあるんだよ。 正論をふりかざして心をズタズタにしていくキャラクター性に憧れを憶えているせいかもしれないけれど。 誰かの心を無差別に抉り取りたくなるような瞬間が──。 こんなこと人には言えないかなあ
生きてるだけで幸せなわけねーじゃん!! てめぇの物差しで人のこと測ってんじゃねーよ 生きてるだけで当たり前に生きてると思うなよ!
夕暮れ時に鳴き出した歯車が僕たちに別れを告げる。 また君に会えるのはいつになるだろう。いつだっていいけれど、だけどこの胸の中に疼くこれはそれを許してはくれないみたいだ。 衝動のままに歩き出せばきっと君を傷つける。だから僕はこのままでいい。胸の中を走り回る獣を見ないフリして後ろ向きに歩く。 どうせそう遠くはないのだから、日が昇ればまた会えるのだから、煙にまけ、現を抜かせ。 知らないふりをしていれば、きっと傷つくのは僕一人で済む。
叶わない恋空で泳ぐ星たちの 涙がとてもきれいに見えて 思わず手を伸ばしたけれど、 その空を泳ぐ覚悟のない私に月が微笑むはずはなかった。
棲みよい水で生きたかった。ただ、棲みよい水には魚がたくさんいるもので、群れがあればルールがあるもので、その群れはどうも私には生きにくいらしかった。 かといって濁った水に棲むのはごめんだった。単純に気持ちが悪い。一生吐き気を伴うのであればとても生きていけそうに無い。 彷徨い泳ぐうちに小さな群れを発見した。 とても小さな群れだ。強さは無い。けれど生きていくには充分な絆があるらしかった。 その群れはとても棲みやすかった。生きるのが楽しいと初めて感じられた。 群れの中の1人が言った。「夢が出来た」と。彼は群れから出て遠いところへ泳いでいった。 時が流れると別の仲間も何処かへ泳いで行った。つがいになったらしかった。 気がつけば、私はまた1人になっていた。 未来を追って泳がなければいけないのだと、私は初めて気がついた。
たこ焼きって・・・ たこが無かったら、焼きなんだぜ・・・
この世界は酷く汚れている。 しかし、大人たちはそれを子供に教えようとはしない。子供に見せるのは夢に守られた世界だ。 着ぐるみなんてないし、おもちゃたちはおしゃべりできるし、誰だって何にだってなれる。 子供たちは純粋で、それ故に大人に問いかける。しかし、都合の悪いことがあると 「大人になればわかるよ」 と話を逸らされる。 私はあの言葉が嫌いだった。子供扱いをされているようで。 だけれど、今ならその意味がわかるよ。ああ、本当だ。大人になったらわかったね。 だけれど、僕はこんな汚れた世界、大人になっても知りたくなかった。
「人の不幸を願っている時点でお前は地獄に落ちている。なぜなら、人の不幸を願うということは人の不幸を喜べる人間であるということだからだ。 人を攻撃してくるような人間は人の気持ちや立場のわからない不幸な人間なのだ。やり返してしまったらそいつと同じ、人の気持ちや立場のわからない不幸な人間ということになってしまう」 「ただ金持ちであり続けるためだけに、この世の地獄を作り出している人たちがいる。きれいごとを言うつもりはないが、自分は人間としての一線を越えてまで金が欲しいとは思わない」 「頭で考えた論理だけではカバーできない問題はたくさんある。俺はただ、人間の作り出した問題は人間が解決するしかないと思っている」 「人間とほかの動物の違いは欲望に果てがないことだ」 「 」
「死ね!」 嫌です。僕にはまだクリアしてないゲームも読んでない本もある。もう少しヲタライフをエンジョイする。 「殺すぞ!」 やってみろ!全力で逃げんぞ! 「バーカ!」 馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞバーカ(思いっ切りブーメラン)!
遠い宇宙の果て、輝く星は一等星。 じゃない。 大きな星座の一部の星、 本当のなまえも知らない。 星の影に隠れて全ては知らない。 でも煌々と輝くその星が、 皆に愛されている ということは分かるんだ。 そんなあなたの星誕祭。 僕だって 喜ばずにはいられぬさ。 僕はほら、 遠く隔たりがあるけれど、 現代文明のおかげで 言葉だけは届けられるから。 稀なる出会いをしたあなたへ、 エレクトリカル·スターバース お誕生日おめでとう
なんの反響も感じられないのが虚しくて「自己満足」と嘘をついた。 わからなくて正解だから、でも何か言って欲しかった。それも一つの在り方なのだと知ってほしかった。 けれど伝わらなかった。たぶん。 魅力的でない話じゃ伝わらない。魅力的な主人公じゃなきゃ気にならない。ただ言いたいことをわかってもらうためだけに、脚色を加える必要がある。 表現の矛盾。矛と盾の間で心臓が潰れる。
自己満足のための連載が終わりを迎えました、333とかいてささみです。 4月から始めた連載が11月に終わりました。最初から最後まで読んでくれた方はいらっしゃいますでしょうか。オール0かもなのが怖くてスタンプを見てない私です。(スタンプ押してくださってる方がいらっしゃったらごめんなさい。いらっしゃる場合はレスをくれると反応できます) 桜木ノアのお話は元々文芸部の部誌に載っけたものを連載の形にしているので、まあ色々と無茶なことしてます。辻褄があってない。結局主人公は全てが終わった地点にいるのか、進行形で語っているのか最後まで謎。文章力の低さがうかがえる。まあ作品自体に大きな影響はありませんが。 私が伝えたいこと、というかぶちまけたかったことは8月、9月、10月(?)らへんに集中していると思うのでそこだけでも読んでいただけると嬉しいです。まとめも作ります。 どうか、桜木ノアという1人の女の子の生活がより多くの人に認知されますように。
「私はここでどうにか生きてやるつもりだから」 4月。彼女は自己紹介の際に、そんな決意表明をしていた。 あの時はまるで理解出来なかったそのセリフも、今なら分かる気がする。 彼女は今も戦っている。 人から理解されにくいあれこれと。 けれど、電話越しに聞こえる彼女の声は、文化祭前後と比べれば随分柔らかくなっていて、安心した。 ……さて、白状しよう。 俺は、桜木ノアのことが、好きになっていた。 そんなはずない、と自分の心の中を何度も確かめたのだが、桜木の存在が俺から離れることはなかった。『無理だ、勝てない』そう思って俺はこの気持ちを素直に認めることにした。 まぁ、そんなことはどうでもいい。 大事なのは桜木ノアという女子生徒が、今も、そしてこれからも、自分の中に折り合いがつくまで戦っているということだ。 そしてそれを、ほんの少しであろうと知っている人がいるということだ。 桜木ノアという女子の存在が、心の中に残っていることを切に願う。 (終)
それはあなたでした。 絶望の淵から私を救い出し、光の世界を見せてくれたのは。 光の世界でもなお、私の手を引き、共に歌い踊り喜びを分かち合ってくれたのは。 独りだった私に溢れんばかりの愛を注ぎ、暖かさで満たしてくれたのは。 あなたでした。 あなたは何かを隠しているみたいでした。 時折、無理をして笑う時があるのに気づいたのです。 聞き出してみると、やはりあなたは困っているようでした。 できる限りのことをしたいと思いました。私を救ってくれたのはあなたですから。 私が頑張っていることを、あなたは喜んでくれました。 けれど、私はあなたのことを何も知らないのだと今更気づきました。 名前も年齢も職業も住所も全てでたらめでした。 光の世界に出たはずの私を、もう一度絶望の中へ突き落としたのは、 それは、あなたでした。 それでも、あの暖かさが忘れられないのです。
文化祭当日。 2日間の文化祭で、俺たちの発表があるのは1日目だ。(ちなみにクラスでは展示をやっているため、特に仕事はない) 桜木は『自分の体力を温存するため』と言って休憩所からほとんど動かなかった。俺はそれに付き合っていた。付き合っていた、というか、ただ桜木の望む物を買いに行っては帰ってきてを繰り返していたので、パシリと言えなくもない。まぁ、最初から最後までずっと一緒にいたわけではないので、付き合っていた、というよりは、様子を見ていた、と言った方が正しいかもしれない。 桜木が文化祭を楽しめたのかは謎だが、ひとまず部活の発表は無事に成功した。 そして、この文化祭を機に、桜木は行動を開始した。部活のメンバー、担任、家族に自分の現状を打ち明けたのだ。 頑なに隠していた苦しさを打ち明けるのは、桜木にとって簡単なことではなかった。本人が言うには家族に言うのが一番難しかったらしい。 けれど桜木はその試練を乗り越え、自分にとって一番やりやすい環境を手に入れた。 4月から半年ほど綴ってきた桜木ノアの物語も、次でフィナーレだ。
泣いている女子をさらに泣かせる趣味はないと言いつつ、結果的に桜木を泣かせてしまった俺だが、後悔はなかった。 桜木が、「泣いてもいい?」と言ってくれたから。 とっくのとうに泣いていた桜木に改めて許可を出すと、彼女は今までで一番の号泣を始めた。そんな彼女にどんな言葉をかけていたか、細かいことまでは覚えていないが、「今まで辛かったよな」とか「可哀想なんて思ってねーよ」とか、そんなことを言った気がする。 俺の声か、桜木の泣き声か……多分後者だろうが、それが教師を呼ぶ形になり、俺たちは怒られた。教師側からすれば、下校時刻もとっくに過ぎた後に、密室で男子生徒が女子生徒を泣かせているように見えなくもないのだから、まあ仕方ないだろう。 ただ、この時何と怒られたのかはまるで覚えていない。桜木に至っては「あの先生怒ってる時ずーっと眉がピクピク動いてて面白かったね」と言ってのけた。メンタルの切り替えが早すぎる。 ともあれ、桜木失踪事件はこうして幕を降ろした。
「きっと、みんなにとっては大したことじゃないんだよね。宿題は人によるところがあるとしても、歯磨きとか。歯磨きするまでに1時間以上かかったりしないでしょ? やっぱりそういうのは、煩わしいよね。毎日だし。余計に睡眠時間削られるし。そんなときにさ、『めんどくせー』なんて声聞いちゃうとさ……腹立つよね」 「わかってるよ。そりゃ。みんなにとってはこんなの悩むようなことじゃないし、ていうか言えないし。歯磨きができないんだけどどうしたらいいと思う?なんて、頭おかしいじゃない。……いや、頭おかしいんだけどさ。頭っていうか、たぶん、心が。精神が。でも、理解されないじゃない。言っても分かる人がいないじゃない。だったら……言っても意味がないじゃない」 あぁ、なぜだろう。申し訳ないことこの上ないのだが、しかし、これが俺の本心である以上、偽るわけにはいかない。 俺は、桜木ノアに対して、怒っている。
桜木ノアが抱えてきたもの全て聞きたいと、聞きたいというよりは外に出してほしいと思ったのだが、桜木は戸惑ってしまった。 「えっ……と、正直なことって言われても、よくわからないかな」 「……何もお前は嘘ついてきたわけじゃねーだろ。他にも何か、隠してきたことがあるんじゃねーかと思ってさ」 「隠してきたこと、か」 心当たりがあったのだろう。桜木は俺から目を逸らし、一呼吸の間の後に言った。 「みんなのことが、羨ましい」 そこからは、堰を切ったように言葉が溢れ出した。 「みんなさ、朝起きて、学校行って、帰ったら、めんどくせーなーなんて言いながら宿題したり……とかさ。そんな何気ないことを、何気ないものとして出来るのが、すごく羨ましい」 その意味を、完全に理解することはきっとできていなかった。だってそれは、桜木も当たり前にやっていることだと思ったから。
日常的に日常生活ができない。 それは、どういうことなのだろう。 「なんかさ、身体が、動かなくて。いや、動くはずなんだけど、動かなくて。家に帰った後とか、うずくまったまんま動かなかったりする。1時間……とか。ご飯も食べずにお風呂にも入らずに、なんならイスにも座らないで、床にうずくまって膝抱えて」 桜木は、どこかここではない別の場所を見ているかのように見えた。 「声が、するときもあるんだよね。心の声が。『痛い、苦しい、嫌だ』って。ずーっと。いや、まあ3時間もすれば無くなるけどね。でも、その間はずーっと。言われるだけで結構苦しいんだよね。それで、いつもはそんなことないんだけど、部活中にそんな風になっちゃったから、つい……。まさか部室でいきなり泣くわけにもいかないしさ」 あはは、と言って。桜木は、またどこかを見る。 俺にはきっとその言葉の半分も理解できていないけれど、彼女が色んなものをこらえてきたのは分かった。 だから。 「言いたいこと、正直なこと、全部言ってみろよ」 その全てを、吐き出して欲しいと思った。
社会資料室に篭っていた桜木は涙を流していた。 目の前で女子が涙を流しているというのに俺は何もできない。しばらくお互いに固まったままだった。 「……ごめん」 沈黙を破ったのは震え声の謝罪だった。 「……みんな心配してたぞ」 「……あ」 桜木は一段と申し訳なさそうな顔をして 「みんなのこと、忘れてた」 と言った。 正直、怒りたくもなったが、泣いている女子をさらに泣かせる趣味はない。ここはノータッチでいくことにした。いや、俺にはノータッチにしておくことしかできない。桜木がなぜここに逃げ込んできたのか、なぜ泣いていたのか、なんと声をかけていいのか、何も知らないのだから。 「ごめんね。自分のことでいっぱいいっぱいで」 啜り泣き程度に落ち着いてきたらしい桜木は、どこから話したものかと思案する表情を見せた。 「……聞いてくれる?」 「この状況で人を見捨てるほど薄情じゃない」 あはは、と笑うよりはそう言って。 桜木ノアは打ち明けた。 意味わからないかもしれないけど、と前置きして。 「私はね、日常的に日常生活ができないの」
その一文でどこまでも行こう
砂漠。宇宙。大海。森林。都市。氷上。蒼天。 僕がこんな風に単語を羅列すれば、君たちの頭は自由にそこへ舞うのだろう。 けれど僕はここに張り付いたままで動けない。 媒体の上でただ待っているしか出来ないんだよ。
空が激しくフラッシュを焚いた。 木々は狂ったように踊り、風は狂喜を歌う。 雨粒は散弾銃のように弾け飛んだ。
桜木ノアが、姿を消した。 唐突なことだった。部活の合間、休憩中に部室から駆け出していったのには違和感があったが、まさかそのまま帰ってこないとは思わなかった。下校時刻数分前。桜木はカバンを置いたままだ。俺は桜木を探すためにほんの数分ではあるが、部活を早退していた。 学校中を駆け回っていたのだが、桜木ノアは見つからない。もう下校時刻のチャイムは鳴っている。まさかカバンを置いたまま外に出たのだろうかと思ったところで、着信音が鳴った。 桜木からだった。 メッセージは簡潔。 「社会資料室に来て」 社会資料室へ向かいながら感心してしまう。確かにそこは盲点だった。資料室なんて普通の生徒は行かない。完全に見逃していた。 校舎の隅っこの資料室に着くと、桜木がドアを開けてくれた。内側から鍵をかけていたらしい。問い詰めたいことも怒りたいこともあったが、俺はそれをぶつけることは出来なかった。 桜木の頬を、涙が伝っているのを見てしまった。
桜木ノアを怒らせてしまった夏休みが明け、平然と学校が再開した。 夏休みの思い出を話す生徒や、宿題が終わっていないと半笑いで嘆く生徒たち。 その中に、桜木ノアの姿はなかった。 連絡は事前にもらっていた。部活のグループラインで『ごめん。体調崩しちゃって、しばらく休むかも』と言われていたのだ。 朝香と平田のいないこのクラスの中で、桜木が休みだと知っているのは俺だけだったのだが、しかし、クラスメイトたちは桜木の姿がないことなど気にも留めていなかった。そのことに不快感がなかったと言えば嘘になるのだが、俺は俺で普段関わりのない相手が休んだところで大して心配はしないため、人のことは言えない。 まぁ、実際のところ桜木はそれほど休んでいたわけでもないし、学校に来たときにはとっくに元気になっていたようなので、俺は安心した。 安心していた。 安心してしまった。 桜木らしくもなく成績を落としていたにも関わらず。 文化祭一週間前の部活の日、俺は桜木のことなんて何も分かっていなかったのだと知ることになる。