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ここから,また伝説が始まる

10月のある日の午後9時,1人の青年は俗に言う肉体労働のアルバイト勤務を終えて疲れた身体に鞭打ち,都会のドーム球場を目指しておよそ7キロの道を地下鉄と己の脚力に頼って駆け抜けた。
なぜなら,彼が幼少期から応援し続けているプロ野球チームが4年ぶり39度めのリーグ優勝を果たし、上位三チームがぶつかり合うポストシーズンの勝ち抜き戦の最終試合がそのチームの本拠地であるドーム球場で行われていたからだ。
この試合で勝ったチームだけがその後,その年1年間で最も強かった野球チーム一つにしか贈られない名誉ある座に相応しいチームを決める決勝の舞台への参加資格を得られるからだ。
しかし,その優勝チームは残念ながらリーグ3位から勝ち上がったチームに接戦で勝ち切ることができずに逆転を許し,シーズンに別れを告げて長くてつらい冬のオフシーズンへと入った。
その青年もまた,胸に悲しみと負けた悔しさを秘め,数々の場所を巡って新たな人生の1ページを求めて悶々とした日々を過ごした。
しかし,花曇りの空の下で満開の桜が舞う3月下旬,彼や彼と同じチームを愛し,応援するファン仲間やチャンピオンの座を目指して全力を尽くして敗れ去っていった他チームのファンにとっても長くてつらい5ヶ月とは別れを告げ,この国のプロ野球最古の伝統球団として,40回めの優勝と13年越しの日本一という悲願成就に向けた創設91周年という節目のシーズンが今,始まろうとしている。

球場で固唾を飲んで見守る人,事情があって出先からラジオ中継やテレビ中継・ネットの速報で試合の様子を知ろうとする人,野球選手に憧れる若い世代の人,愛するパートナーや家族と共に試合を見守ろうとする人,この国で大衆娯楽の一つとして愛される野球を愛する全ての人が待ち望んだこの瞬間,それぞれの球場でそれぞれの試合開始時刻になり審判から試合開始という意味の「プレイボール!」のコールがかかりました!

さあ,野球の時間です!

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 12

「……それが、ボクの信条だから」
そして彼女は再度刀を構えた。
ラパエは暫く黙っていたが、やがて「……先輩」と呟く。その言葉にサルペが振り向くと、ラパエはお願いがありますとサルペの目を見た。
「あたしも、先輩と一緒に戦いたいです」
ラパエがそう言うと、サルペは「えっ」と驚く。
「でもキミはここに来たばかりでまだメディウムを持ってないじゃないか」
「どうするっていうんだい?」とサルペは尋ねる。するとラパエは「先輩って、刀を作る魔法を使えるんですよね?」と続ける。それに「まぁ、メディウムの効果で使えるんだけど」とサルペが答えると、ラパエは「じゃあそれをいっぱい作ってください!」と言った。
「あとはあたしがなんとかするんで!」
ラパエがそう明るく言うと、少しの沈黙ののちサルペは分かったと頷いた。
「あと、シーア先輩とぐっちゃんも、一緒に戦って欲しいです!」
さらにラパエがシーアとグッタータに目を向けて言うと、グッタータこそ驚いたもののシーアは「お、おうよ!」とサムズアップをしてみせた。
「とにかく皆さん、行きましょう!」
あたしたちの平穏を守るために!とラパエがいうと、サルペはうんと大きく頷いた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 11

「キミたちはボクが守るんだ」
「でもあたしに原因があるみたいですから!」
「だから先輩はもういいんです!」とラパエはサルペの手を握る。
「あたしが、あの人たちの元へ行けばいいんです」
「それはダメだ!」
ラパエの言葉に、サルペは語気を強める。ラパエ、シーア、グッタータは驚いて目を見開く。
「サイアたち……リーリアメティヘンシューラっていう学園は、このレピドプテラで他の有力な学園と覇権争いをしているような学園だ」
サルペは自らの左手を握るラパエの手に右手を重ねる。
「あの学園は、自分たちの邪魔をしかねない存在は徹底して叩き潰そうとするから、きっとなんらかの理由でキミが自分たちの邪魔になると思って襲撃してきたんだと思う」
でも、とサルペは続ける。
「ボクはそんなリーリアが許せない」
自分たちの邪魔になると思ったら、平気で相手を叩き潰しにかかるような学園だからねとサルペは呟く。
「そういう所があるから、ボクはあの学園で諜報員だったけどそれを抜けて、レピドプテラの闇と関わりの薄いような櫻女学院にやって来たんだ」
でも、とサルペは続ける。
「ボクやその周りの人の平穏を壊そうとする人がいるのなら、例え相手が魔法少女であってもボクは立ち向かう!」
そう言ってサルペはよろよろと立ち上がる。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 10

「有力な学園同士だと小競り合いがあるってことは聞いたことあるけど、うちみたいに大した力もない無名の学園が急に襲われるなんて聞いたことないよ……」
グッタータは不安げに身を震わせた。
一方ラパエは困惑しているような顔をしている。それに気付いたシーアは、大丈夫かラパエと声をかけた。
「あ、ごめんなさい」
多分あたしのせいでこんなことになっちゃったんですよね……とラパエは俯く。シーアは「アンタは悪くないよ」と肩に手を置くが、ラパエは違うんですと首を横に振る。
「あたし、実はここに来る前は外の世界のテロ組織みたいな所で、大人たちのいいように使われてたんです」
あたしの魔法は人を傷つけるのに向いているから、それで目をつけられてずっと……とラパエは続ける。シーアとグッタータは何も言えないまま話を聞いていた。
「だけど、魔法が使える女の子はみんな“魔法少女学園都市”っていう魔法少女の街に行けるって聞いてたから、いつかそこに行けると信じて生きてきたんです」
それでひと月前、組織が国際警察に壊滅させられた時にあたしは保護されて、それでここへやって来たんですよ、とラパエは言う。
「あたし、レピドプテラに憧れてたから、とっても素敵な楽園みたいな所だと思ってたけど、ここでもあたしのせいで人が傷ついて……」
どうしてこんなことに……とラパエは声を震わせる。その様子を見てシーアとグッタータはかける言葉を見つけられなかった。
「ぐっ!」
ラパエたちが黙り込んでいると、不意に玄関口にサルペが転がり込んでくる。それを見てラパエは、サルペ先輩!と思わず駆け寄る。シーアとグッタータも駆け寄ってきた。
サルペはみんな……と呟きながら立ち上がろうとするが、魔力弾でつけられた脚の傷が痛んで思うように立ち上がれない。ラパエは「先輩無理しないで!」と声をかけるが、サルペはいいやと拒否する。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑪

ロノミアが追撃を狙い、ササキア達に向かう。その瞬間、ニファンダの魔法が彼女を捉えた。
(っ……時空干渉! マズい、モリ子の『糸』と違って、こんな単純な結界術でどうこうできる代物じゃない……!)
体勢を立て直したササキアが、盾で殴りつけようと踏み込んだその時、ロノミアの身体が自由を取り戻し、逆にササキアの動作が一瞬停止する。
(この『絡みつく魔力』……ニファンダの『時空支配』の中でもここまで妨害してくるのか)
ササキアとロノミアの攻撃が衝突し、再び空間が震える。
「……へぇ? 会長」
ニファンダに呼ばれ、ササキアは後退した。
「この『時空間を縛る糸』、犯人はあの双子ちゃんたちみたいだね。私の支配する領域内で、ここまで張り合ってくるなんてびっくりしちゃった」
「ふむ、そうか。なら、そちらから倒そう」
ササキアが注意を双子に向けると、それを庇うようにロノミアが移動する。
「くぁちゃん……どうしよう。あいつの時空間操作、すっごい強いよ」
ボンビクスが不安げに、ロノミアの背中に呼びかける。
「あん? そうかい。で? 駄目ならそこまでだぞ?」
「うっ……だ、大丈夫! だと、思う……」
「ふーん……モリ子、ヤマ子」
「「?」」
「何にせよ、私はお前ら信じるしか無いんだ。……だから、お前らに良いものを見せてやる」
ロノミアが、手にしていた“チゴモリ”と“ヒナギク”を消滅させた。代わりに、一振りの刀が出現する。
その刀は、『刀』と直接形容するには、些か歪であった。
刃渡り75㎝ほどの異常に幅広の刀身は先端に向かう程太く拡大しており、断面は五芒星を膨らませたような奇妙な形状をしている。外見に違わぬ質量のためか、ロノミアは柄こそ握っているものの、刀身の先端は設置させたままでいる。
「ブチカマすぞ、“癖馬”。……なぁ生徒会長、禅問答しようぜぃ。お題は、『制御できない力は“強さ”たり得るか』で」

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 9

「フン、逃げるつもりか……撃てぇ‼︎」
サイアがそう声を上げると、彼女が従えている少女たちは一斉に銃器のトリガーを引く。サルペは咄嗟に展開している光壁を横方向に広げ、攻撃の飛んでこない上方向へ飛び上がった。光壁は少女たちが撃った光る弾丸を弾き飛ばす。
空中に飛び上がったサルペは右手に持つ水色の刀と同じ刀を周囲に生成し、地上にいる少女たちに向けて放つ。刀はそのまま少女たちが持つ武器目がけて飛んでいき、銃器を弾き飛ばす。しかしそれを避け切った少女もおり、そういった少女たちは塀から飛び降りて銃口をサルペに向けた。
サルペはそれに気付くと、飛行魔法を使って地上のサイア目がけて飛んでいく。サルペは飛びながら刀を構え、サイアも自身が持つマシンガンを向けてトリガーを引く。しかしサルペはサイアが放つ魔力弾を易々と避け、サイアの懐に入ろうとする。
だがサイアはサルペが自身まで3メートルほどの所まで近付いた時に魔力でできたバリアを展開する。サルペはバリアに弾かれ、小さくうめき声を上げてその場に転がった。
「……やっぱり、そう来るよねぇ」
サルペは立ち上がりながらそう呟く。当たり前だ、とサイアは答えた。
「私とお前は何年同じ学園にいたと思っている」
お前の作戦くらい簡単に分かる、とサイアはサルペにマシンガンを向ける。サルペは咄嗟に空中に飛び上がってそれを避けるが、すぐにサイアは銃口を空に向けて飛び回るサルペを追いかける。サイアが従える少女たちも各々の持つ銃器を空中のサルペに向けた。
「これは……だいぶマズくね⁇」
校門の前から校舎内に退避したシーアは、建物の柱の陰から外の様子を見て思わずこぼす。それに対し、グッタータもうん……と頷く。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 8

「我々はかつて同じ学園の仲間だったじゃないか」
恩を仇で返すとでも?とサイアはサルペに尋ねる。サルペは「……そうだね」と目を逸らす。
「ボクたちはかつて仲間だった」
だけど、とサルペは右手に青い刀身の刀を生成する。
「今のボクはキミたちと同じ諜報員ではない」
だからキミに従う理由はないよ、とサルペはサイアを睨む。
「……それに」
サルペは続ける。
「ボクの友達たちに武器を向ける人の言うことなんて、聞けるわけがないじゃん」
その言葉に驚いてラパエはサルペの方を見る。その視線に気付いたサルペはラパエを見てにこりと笑い、またサイアの方を見た。
「と、いう訳で、マイセリア サイアニス」
キミやその仲間たちにはお引き取り願いたいんだけど、とサルペは笑いかけた。
それを聞いて、サイアは「……そうか」と呟く。
「それなら我々は実力を行使するしかないな」
そう言うと、誰もいなかった学園の敷地を囲む塀の上に黒い軍服のような制服姿で、銃器を構えた少女たちが一斉に現れた。その光景を見たラパエ、シーア、グッタータは思わず身構えるが、サルペはそうかいと答える。
「キミたちが本気を出すというのなら、ボクもそうするしかないね」
そう言うと、サルペは背後にいるラパエたちに目を向けた。
「3人とも、危ないからどこかに隠れてて」
今からちょっと手荒なことをするから、とサルペは言う。それを聞いたラパエたちは頷いて校舎内へ戻り始めた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 7

「えっ、なに⁈」
真っ白な煙の中、ラパエは慌てて周囲を見回す。グッタータとシーアもなにが起きたのか分からず立ちすくむが、サルペだけは冷静に首のペンダントについた水色で六角柱の宝石のようなアイテム……メディウムを握りしめる。その次の瞬間、煙の外から光る弾丸が飛んでくると共にサルペの周囲から光が放たれた。
「⁈」
光が止んでからラパエ、グッタータ、シーアの3人は恐る恐る顔を上げる。彼女らの目の前では黒と水色のサイバーパンク風ファッションに身を包んだサルペが手を前に出して光の壁を展開していた。
そして彼女の数メートル前方の校門の前には、青紫の軍服のような服装に身を包むボブカットの少女がマシンガンを携えて立っていた。
「久しぶりだね」
サイア、とサルペは相手を睨みつける。サイアと呼ばれた少女はああ、そうだなと淡々と答える。
「まさかお前がこんな所にいるとは思わなかったが」
我々の邪魔か?とサイアは尋ねる。サルペは「いや、ボクはなにも知らないね」と返す。
「あの学園を去ったボクにとって、キミたち諜報員の動向は最早無関係だよ」
サルペはそう続けるが、サイアはそうかと呟く。
「……なら、そのバリアを解除してほしい」
我々はそこのピエリス ラパエに用があるんだ、とサイアはラパエに目をやる。ラパエは驚いて目を見開いた。
「あ、あたし……?」
なんで……⁇とラパエは困惑する。その言葉に驚いてグッタータとシーアもラパエに目を向けた。
「理由は今ここで言えないが、ピエリスさんには我々についてきてもらいたいのだ」
だから頼むとサイアはサルペの目を見る。暫くの間その場に沈黙が降りたが、やがてサルペが口を開く。
「……残念ながら、ボクにはそれができない」
その言葉を聞いてサイアはなぜ?と聞き返す。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 6

「えーどうして〜?」
シーアが口を尖らせると、ピレタはどうしてってと腕を組む。
「ポリゴニアさんはよくやらかすからよ」
「そ〜う〜?」
シーアは笑いながら首を傾げる。ピレタは呆れたようにため息をついた。
「…とにかく、私はここで留守番してるわ」
やることあるし、とピレタは組んでいる腕を解いた。
それを見てシーアはつまんないの、と呟くが、すぐにサルペとラパエに向き直り「…じゃ、行こうか!」とイスから勢いよく立ち上がる。ラパエも行きましょ〜とイスから立ち、サルペも黄土色の髪の少女も立ち上がって荷物をまとめると、教室から去っていった。

そんなこんなで、ラパエとサルペはピレタ以外の都市伝説同好会の面々と広い校舎内から外へ向かった。
この学園に前々から所属しているシーアと黄土色の髪の少女は複雑な校舎の構造がしっかり頭に入っているらしく、あっという間にラパエとサルペは校舎を抜けて校門の手前まで辿り着いた。
「へー、“グッタータ”だからぐっちゃんなんだ〜」
「はい、その方が呼びやすいとシーア先輩が言ってくれたので」
ラパエの言葉に黄土色の髪の少女は答える。
「先輩はこんな気弱でできないことの方が多いわたしに最初からすっごく優しくしてくれたんです」
だから先輩と同じ同好会に入ったんです、とグッタータは恥ずかしげに言う。それを聞いてシーアは「照れるよぐっちゃ〜ん」と頭を掻いた。
「あたいは困ってる奴を放っとけないだけなんだよー」
ピレタみたいに冷たくないんだし、とシーアは笑う。
…とここでサルペが不意に足を止めた。
「あれ、どうしたんですサルペ先輩」
ラパエが気になって尋ねると、サルペは「……ねぇ」と周囲の少女たちに話しかける。
「あそこ、何かいる」
サルペは学園の敷地を囲む柵の上を指さす。
しかしそこに目を向けるラパエたちには何も見えない。
「なにも……見えないですよ」
「そうですね」
ラパエとグッタータはそれぞれそう答える。シーアも「なにが見えるんだ?」とサルペの方を向いた。
サルペは「いや、それは……」と口ごもるが、その瞬間缶のようなものが投げ込まれる音がした。4人がハッと音のした方を見た瞬間、辺りに煙が立ち込め始めた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 5

「……なるほど」
アンタたちは転入生で、それで校舎の中で迷子になってたんだねとサイドテールの少女は教室のイスに座りつつ腕を組む。「うん、そうなの」とサイドテールの少女が座るイスの、目の前の席に座るラパエは頷く。
それを聞いてサイドテールの少女は「まーそうだよね〜」と笑う。
「この学園は生徒数の割に敷地が広くて校舎デカいから初見は迷子になりやすいんだよ〜」
あたいも初めてここに来た頃はよく迷子になったし、とサイドテールの少女は頷く。
「ぐっちゃんなんか迷子になり過ぎて泣いてたもんな」
「ちょ、ちょっとシーア先輩〜」
わたし1回しか泣いてないですよーと、サイドテールの少女の隣に座るぐっちゃんと呼ばれた黄土色の髪の少女は恥ずかしそうにする。それに対しシーアと呼ばれたサイドテールの少女は「泣いたこと認めてるじゃん」と笑う。
「……まぁとにかく、グラフィウムさんとピエリスさんは仲良く迷子してる内にこの都市伝説同好会の溜まり場に辿り着いてしまった、と」
話を切り替えるように、少女たちの近くに立つ三つ編みお下げの少女は腕を組んだ。その言葉にシーアは「おいおいピレタ、言葉に棘があるぞぅ」と三つ編みお下げの少女をからかう。ピレタと呼ばれた三つ編みお下げの少女は「そのつもりはありませんよポリゴニアさん」とシーアから目を逸らした。
「……まぁともかく、ボクたちはこの校舎内で迷子になっちゃったんだ」
という訳でここから出るためにキミたちの力を借りたいんだけど、いいかな?とサルペは笑いかける。
それに対しシーアは「いいよ〜」と威勢よく答えた。
「あたいたち暇してたし」
ね、ぐっちゃん?とシーアが黄土色の髪の少女に目をやると、彼女はあ、うんと頷く。しかし不意に私は行かないわとピレタは冷たく答えた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 4

「いや、そこの教室に誰かいるみたいでさ」
気になるんだよね、とサルペは教室の窓を睨む。ラパエは「えっ」と驚く。
「そこの教室に誰かいるんですか?」
全然分かんないけど……とラパエは教室の方を見ながら目をこする。
サルペは足音を殺してそっと教室の扉に近付くと、勢いよく扉を開けた。
「わぁっ‼︎」
サルペが開いた扉の向こうからは、3人の少女が転がり出てきた。サルペは軽い身のこなしでそれを避ける。
「ぐえー、ぐっちゃん重い〜」
「そ、そんなこと言わないでくださいよシーア先輩〜」
「あぁもう、アンタたちねぇ……」
廊下の床に倒れる3人を見ながらサルペは微笑み、ラパエはポカンとする。3人の少女たちは暫くうだうだ話していたが、その内の黄土色の髪の少女はが顔を上げてラパエとサルペに気付くと「ひぇっ」と声を上げた。黄土色の髪の少女の下敷きになっていたサイドテールの少女は不思議そうに顔を上げ、そのそばで手と膝をついていた三つ編みお下げの少女は顔を上げてラパエとサルペに気付くと顔をしかめた。
「あなた……」
三つ編みお下げの少女がそう呟くと、サルペは「よっ」と手を小さく上げるとこう尋ねた。
「ちょっとキミたちに訊きたいことがあるんだけどさ」
「いいかな?」とサルペは笑いかける。3人の少女は顔を見合わせた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ:天蟲の弔い合戦 その⑩

(何だ? この子供たちは……こいつの仲間か? しかし、言い分が奇妙だった。『助けに来た』といった直後に、『守って』だと? 不自然だ……)
ササキアが、ニファンダを庇うように前に出る。それと対になるように、ロノミアも双子を後方へ押しやりながら前進した。
「クキキッ、何となーく察してるとは思うがよぉ……生徒会長さんよ?」
「どんな魔法を使おうが、勝つのは“甜花学園”だ」
「どうだろうなァ? あんたなら知ってると思うが……」
ロノミアとササキアが、同時に攻めに入る。ササキアの盾とロノミアの“チゴモリ”がぶつかり合い、静止した空間に火花が飛び散る。
(この威力……これまでの打ち合いと比べて、明らかに『重い』)
「クカハハッ! びっくりしてんな? 生徒会長さんよぉっ!」
ロノミアが“チゴモリ”を振り抜き、ササキアを押し返す。
「あんたなら知ってるはずだ。『守るものがある奴は強い』ってな。そういう能力」
ロノミアの構えた“チゴモリ”の赤い刀身が、どこか神聖さすら感じさせる清らかな輝きを放つ。
「異称刀、“稚児守”」
ニタリと笑い、ロノミアが更に斬撃を叩き込む。ササキアはそれを大盾で受け止めた。その衝撃の余波で、ボンビクスとニファンダによって縛められているはずの空間がビリビリと震える。
「なっ……これも防ぐのかよ!」
「『この程度』で……私は折れん!」
ササキアの啖呵に、ロノミアは再び口角を吊り上げる。
「へェ? そんなら……こっちはどうだ?」
大盾に向けて、ロノミアは更に“ヒナギク”を叩きつける。
(両手で打たれようが……待て、何故『変形効果』で直接狙わない?)
「敵に届くまで、この『生きた刃』は止まらねぇ」
“ヒナギク”の一閃は大盾に衝突して尚停止する事無く、少しずつ前進していく。少しずつ、その一撃の成立を目指して振り抜かれていく。
「異称刀ぉっ!」
遂に、その斬撃は完了した。防御技術により、直接的な殺傷こそ起きなかったものの、ササキアは弾き飛ばされ、後方に控えていたニファンダに受け止められる。
「“否凪駆”」

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 3

「……キミも迷子?」
ポニーテールの少女の言葉に、ラパエはついずっこける。
「き、キミ“も”?」
ラパエが聞き返すと、ポニーテールの少女はうんと頷く。
「だってボクも迷子だし」
「えええ⁈」
そう、なんですか……?とラパエが近付くと、ポニーテールの少女は苦笑いする。
「実はボク、今日からこの学園に所属することになってさ、まだ校舎の構造が頭に入ってないんだよね」
「だから迷子に……」とポニーテールの少女は言いかけるが、ラパエは「えっ、あなたも転入生なんですか⁈」と驚く。ポニーテールの少女はあぁ、うん……と答える。
「もしかしてキミも転入生なの?」
「はい! 中等部2年1組のピエリス ラパエですっ‼︎」
ポニーテールの少女の質問に、ラパエは姿勢を正して明るく答える。その様子を見てポニーテールの少女はそんなにかしこまらなくていいよと笑ったが、ラパエは「いえ! 先輩相手に失礼なので‼︎」と背筋を伸ばしたままだ。それを見てポニーテールの少女はふふと微笑む。
「……ボクはグラフィウム サルペドン、高等部2年3組だ」
ボクのことはサルぺと呼んでとポニーテールの少女が言うと、ラパエは「じゃーサルぺ先輩!」と声をかけた。
「一緒にこの校舎から脱出しましょう!」
ラパエは元気よくサルペの両手を取る。サルペはあぁ、そうだねと言ってちらと真横にある教室の扉に目をやった。それに気付いたラパエは「……どうしたんです?」と首を傾げた。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 2

午後3時半、今日の授業が終わって多くの生徒たちが教室を去る頃。
櫻女学院の中等部2年1組の教室もまた、今日の授業を終えた生徒たちが去ってがらんとしている。そんな中、髪を二つ結びした少女・ラパエはリュックサックを背負って教室をあとにした。
「“学園”ってこんな感じなんだ〜」
「広いし綺麗だし、すごーい」と独り言を言いながら、ラパエは校舎の階段を下り、下の階の廊下を歩いていく。
「きっと素敵な魔法少女がいっぱいいて、賑やかな環境なんだろうな〜」
ラパエはそうスキップしながら進むが、不意に立ち止まり辺りを見回した。
「…あれっ?」
「ここ、どこ…?」とラパエは不安げな顔をする。自分は校舎の玄関に向かっていたはずなのに、今は同じような教室がいくつも並ぶ廊下に立っている。1階まで下りたはずなのに、別のフロアで下りてしまったのだろうか。
ラパエはここがどこか分かる手がかりはないかと辺りを見回す。しかし壁に貼ってある掲示物や教室の入り口に下がっている教室名が書かれた看板を見ても、ここが何階なのかは分からなかった。
「わたし、迷子になっちゃったのかな…?」
ラパエは不安そうに俯くが、ここで不意に背後から「おや?」と誰かの声が聞こえてきた。ラパエが振り向くと、そこには黒いパーカーを羽織り髪をポニーテールにした、スポーティーな印象で高校生くらいの少女が立っていた。
救世主が現れた、と言わんばかりにラパエの顔は明るくなる。

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魔法少女学園都市レピドプテラ -small cabbage white- 1

よく晴れた春の朝。
白い外壁が特徴的な校舎の学園・櫻女学院の中等部2年1組の教室では、転入生の紹介が行われている。教室の前には桜色のセーラーワンピースの制服を着て、髪を二つ結びにした少女が担任の教師の隣に立っていた。
「えー、今日からうちのクラスで勉強することになったピエリス ラパエさんだ」
みんな仲良くするようにと言ってから、女教師は少女に目くばせして自己紹介するよう促す。少女は「ピエリス ラパエです!」と明るく名乗り、こう続けた。
「あたし、ずっと魔法少女学園都市に憧れてたので、ここに来れてすっごく嬉しいんです‼︎」
「だからよろしくお願いします!」とラパエはおじぎをする。それを見てクラスの生徒たちはどよめいた。
というのも、この櫻女学院がある人工島・レピドプテラは“魔法少女学園都市”とも呼ばれるように、世界各地から“魔法”と呼ばれる一種の特殊能力を発現させた少女たちが集められ、魔法を失うまで隔離される場所なのだ。魔法を失うまで、一度レピドプテラに隔離された魔法少女はまず出ることはできないため、大抵の人間にとってはあまりいいイメージのある場所ではないし、ここにいる魔法少女の多くは自ら望んでここに来た訳ではない。
しかしこのラパエという少女は“魔法少女学園都市に憧れていた”と言うのである。自らの意思でレピドプテラに来た訳ではない多くの魔法少女たちにとって、違和感でしかない発言だった。
「はいはい、騒ぐのはあとにして」
教師は手を叩き、「ピエリス、あなたの席は窓際の1番後ろだからな」とラパエに声をかける。ラパエははーいと返事をして言われた座席に向かった。