嵐
人魚がいた。女の人魚だ。男の人魚というのはいるのだろうか。そりゃいるのだろう。なにかで見たことがあるような気がするが、印象にない。男の人魚なんてあまり絵にならんな。
とにかく女の人魚がいた。人魚の仕事は昼は美容室、夜はキャバクラ。人魚は自分の店(もちろん美容室のほう)を持つのが夢なのだ。忙しくて恋愛する暇などない。今日は久々の休日。
月の光を浴びながら波に揺られていると、でかい客船が近づいてくる。デッキから、男が海に飛び込む。悲鳴があがる、かと思いきや誰もかまう者はなく。客船は行ってしまう。
人魚は仕方なく、男を助ける。いい男だな、と思ったが、恋に落ちたりはしない。人魚は忙しいのだ。
波打ちぎわ、夏の太陽に照らされて、男は目覚める。立ち上がり、二日酔いの頭を抱え、よろよろと歩き出す。独身さよならパーティーでやりすぎてしまったことを悔やみながら。