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どしゃぶりのバス停で 〜Episode of Yurika〜 4

「木村?」
登校中、偶然見つけた。返事を言わなきゃ。そういう一心で木村に話しかけた。
「ん?」
木村はこっちを見るなりのけぞった。
「うぉあっ」
「…は?」
「いや、そのびっくりして…おはよ」
「おはよう。んでこないだの話なんだけど…」
「いやちょっとまってまって」
木村は顔が真っ赤になっている。それが面白くて緊張のシーンなのに吹き出してしまった。
「何笑ってるの!」
「いやー、木村顔真っ赤だよ!?」
「うそだ!あ、こないだ海行ったんだよ。そのせいそのせい!」
「いま冬だし」
「…るさい」
あーあ。こういうのって、もっとロマンチックな公園とかで、言うもんじゃないの?
でも、今のやりとりで、自分の中で何かが急激に変わった。
木村のことは、ちょっとかっこよくて、いいやつだとしか思ってなかった。
でも、気がついた。
こいつといると、ちょー楽しいじゃん。
いつまでもこんなバカなやりとりをしてたいよ。
今まで何人か男子に告白されたことはあったけど、木村は今までにないタイプだ。
こんなに一緒にいて楽しい人、いないよ。
好きになった。たった今。
「いい?返事言って」
「聞きたいような聞きたくないようなでも聞きたい!!!」
「どっちなんだよ…言うよ?…私も、木村のこと好きです。よろしくお願いします。」
「ぬぉっ」
木村は言葉にならない声をあげて、さらに耳まで真っ赤になった。
「まじか。まじか。よろしくお願いしますぅ」
かわいいな。

私に彼氏が出来ました。
かっこいいのに、かわいい子供みたいな彼氏です。
これからもよろしくね。

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背伸びの恋と見下した恋

「てかさー、光源氏はヤバいって。まじプレイボーイ。」
纏わりついてくる声に適当な相槌さえも打たずにページを捲った。新刊の単行本ももう半分を過ぎようとしているが、彼に懲りた様子はなかった。
「千年前にロリコンツンデレヤンデレ要素持ってくるとか強くね?! なんていうの、時代が違っても求めるキャラ像はブレねー的な?」
静寂。
エアコンの音が自己主張控えめに聞こえてくるだけだ。がー、がー、じー…。そろそろ新調した方が良いんじゃないかしら。
「てかあいつ、モテ男ぶってるけどやってること犯罪だかんな?! 許せねー。それだったら俺の方が…」
ひょいと髪に伸ばされた手をすんでのところで避けた。いつもはまとめていたが、冷房に油断して降ろしたままだった。私としたことがなんて愚かなことを。
「気安く触らないで。」
睨むのも惜しく吐くと、ぱたんと単行本を閉じた。閉館の時間が近い。
肌に張り付くシャツのうっとおしさもかなりのものだが、それ以上にこの人は厄介だ。どうせまた明日な、なんて私の言い分も聞かずに勝手に、
「ほんじゃ、また明日な!」
容姿とお揃いの派手な音をたてて出て行った。図書室では静かにと注意するのも彼には面倒くさい。
(続)

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は?ローストビーフ?無理です

早くて明日、この世が滅びます。

刻一刻と地球へ向かって来ているという小惑星の映像をバックに、テレビの中のアナウンサーは顔を青くして告げる。可哀想に、原稿を持つその手は震えていた。

それにしてもいきなりな話だな、私はどこか他人事のように思う。ぶっちゃけ午前七時の脳で受け止めるには、事が深刻すぎたのである。

「えっ、今朝は『おめざめジャンケン』のコーナー、ないのかよ」

おれチョキで勝つ気満々だったのに、とかなんとか抜かしながら、ボサボサ頭の彼が起き出して来た。先ほども思ったことなのだが、あの小惑星、彼の寝癖の形に似ている。不可思議なカーブを描いているあたりなんか、特に。

「ねえ、明日、この世が滅ぶんだって」

あんたはどう思う?私の隣に腰かけた彼の髪を撫で付けながら、問う。良く言えばいつも飄々と、悪く言えば所構わずヘラヘラしている彼も、『終わり』は怖かったりするのだろうか。しばしの沈黙の後、彼は言った。

「そんなことよりさあ、今日、海へ行こうよ」

私は目を瞬かせる。地球滅亡を『そんなこと』呼ばわりとは恐れ入るが、話がまったく噛み合っていない。あんたねえ、私の話、聞いていたわけ?詰め寄ろうとする私を制し、彼は続ける。

「とびきりお洒落をして、海へ行こうよ。弁当も持って、車でさあ。海岸で弁当を食べながら、色んな話をしよう。その後は一旦車の中に引っ込んで、日が暮れるまで気持ちいいことをしたいのね。それで、夜が来たら海岸に戻るわけ。そうしたら、おれと、」

ここで一呼吸置き、彼は私に口付け、言う。

―――おれと一緒に、せかいから逃げてください。突然やってきた『終わり』なんかに、きみを、奪われたくない。

それは慈しむような、懇願するような、うつくしい笑顔だった。思わず滲んだ涙を誤魔化すように、私は彼を抱き締める。私は、私の奇跡を、抱き締める。

「ちんたらしていたら、置き去りにしてやるんだからね」

うわあ、怖え、ちゃんと靴紐を結んでおこう。怖いだなんてまったく思っていなさそうな彼の笑い声を聞きながら、私も笑うのだった。きみとであえたこのせかいが、わたしはそうきらいでもなかったよ、って。

そんなことよりさあ、弁当のおかずは何がいい?

3

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ひとつ向こうの山の、静かな村に住む、あの子のお話。

自分の足で立てなくなった
自分の足はある。という事実を認めるのすら怖くなった
立てない自分を責めてしまうもの

自分の声で喋れなくなった
自分の声はある。という事実を認めるのすら怖くなった
喋れない自分を責めてしまうもの

あの子は目を閉じた。
ゆっくりゆっくり、目を閉じた。

ゆっくり、ふわあん
ふわふわぽよん

(
お久しぶりです。と言う程実際にはお久しぶりではないのでしょうが、一日に何度もここに来ていた私にとってはお久しぶりです。
突然自分のことを話して恐縮ですが、以前トラウマティックな出来事に遭い、長期的に体調を崩していました。ここにいる時はみずみずしい空気を感じていられましたが、ここ最近はそれすらも難しい状態です。
こちらに顔を出すようになってからまだ日は浅いですが、私の言葉にレス・スタンプをくれた方、わたしのレスに返事をくれた方、本当に嬉しかったです、ありがとうございました。
数週間、数ヶ月、いかほどになるか自分では見当もつきませんが、少しでも早く、また皆さんに会えることを。

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それでも、
『あの子』は、
せいいっぱい、生きようとしています。
)