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LOST MEMORIES~番外編Ⅲ~

放課後の教室。机に、コトンとあったかい缶コーヒーが置かれた。
「休憩しましょう。お疲れ様です。」
凄まじい勢いで動かしていたペンを一旦置いた英人は、瑛瑠を見上げた。
「お砂糖は要りませんでしたよね。」
そう言って瑛瑠は向かいに座る。『Dandelion』で注文したコーヒーには、砂糖は入れなかったから、そのことを言っているのだろう。
ありがとう。そう微笑んだ英人は、コーヒーに口をつける。瑛瑠も同じものを手にしている。聞けば、瑛瑠も砂糖は使わないと言う。しかし、続きがあった。
「ただ、角砂糖なら入れたくなります。」
「……何故?」
「魅力的な形じゃないですか。立方体って美しいと思いません?」
英人は呆れたように笑った。広げている数学の問題集に目をやる。瑛瑠が数学が得意だということで、教えを乞うていたのだ。別段、数学が不得手というわけでもないのだが、始業早々のテストで点数負けをしたことの悔しさから、こうした待ち時間に付き合ってもらっていた。
瑛瑠の言葉を思い、改めて苦笑する。自分が好きな分野が文学や哲学だから、数学好きはどうにも理解できない。
「待っててくれたの!?遅くなってごめんね!」
教室に飛び込んできた望と歌名。今日はいつもより会議が長引いたようで、外もだいぶ暗くなり、夜が顔を見せ始めている。
缶コーヒーはまだ温かかった。

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LOST MEMORIES ⅡCⅡⅩⅣ

「クッキーありがとう。」
寝る前、ふと思い出してチャールズに声をかける。例にならって、チャールズは眼鏡をかけて本を読んでいた。
「使うべき時が、ちゃんと来たでしょう?」
顔をあげてこちらを見るその碧は柔らかく優しい。
察してくれて良かったですと微笑む彼は、ついでに、さすがに持ち帰ってこられたらふたりの立ち居振舞いを疑ってしまいますからね,なんて辛辣な言葉も添えて寄越したのだが。
「でも、どうして?」
野暮な質問であることに気付くべきだった。お嬢さま,とたしなめるような声の調子に、困ったような呆れたような笑みを貼り付けるも、チャールズは答えてくれる。
「きっと払わせてくれないと思ったから。そう言って、渡されたことがあるんです。」
チャールズは続ける。
「こちら側としては相手に払わせる選択肢は存在しないのですが、さすがに当たり前のような顔をされてしまうのは癪でしょう?」
さも可笑しそうに言う。
経験があると見た。
「だから、それが嬉しかったんですよね。
まあ、彼がどう思ったかは図りかねますが、嫌だと受け取られることはないでしょう。」
思い起こすが、嫌悪感はなかったはずだ。
「10年の差って大きいのね……。」
チャールズの話を聞き、違いを分かりやすく突きつけられ、改めて感心する瑛瑠だった。

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LOST MEMORIES ⅡC

「さて、可愛いお顔が台無しのお嬢さま。」
はっと顔を上げるも、言葉の意味を飲み込んでむっとする瑛瑠。
「どうせ私はあなたほど女性を絆すような顔はできませんよ。」
「こら。」
そう言いつつも、チャールズは輝き割り増しの微笑みで続ける。
「その事に関しては心配無用です。お嬢さまは自覚がない分さらにたちが悪いので。
――それよか、明日のデートは何を着ていくんです?」
すごく失礼なことを言われた気がするが、流しておこう。
デートではないけれど。
立派なデートです。
不毛なやり取りを交わして瑛瑠は尋ねる。
「誰かと出掛けるときは、どんな服を着たらいいの?」
さて、万能人チャールズの出番である。
「お任せください。」
恭しくお辞儀をしたかと思えば、リビングから出ていってしまった。
瑛瑠は考える。
コーディネートしてくれるのだろう。クローゼットを開けるのは必須。とすると、部屋に入るのも必須。
何もないけれど。何も、ないけれど。
「ちょっとチャールズ!?待って!」
看病時は特例だ。慌てて瑛瑠も立ち上がるが、チャールズは既に姿を消している。
顔を赤くした瑛瑠が部屋に入り、仕事の早いコーディネーターの並べる服を見て驚くという一連の流れまで、あと5秒。