表示件数
2

禁忌

禁忌、というものがあるらしい。
触れることも見ることも許されない、見ることができないからそれであるかも分からないけど。
君もよく知っているだろう。侵してはならない領域。ほら、白雪姫はりんごを食べてはいけない。ラプンツェルは塔から降りてはならない。
法律とかではないよ。あれは人と人とのお約束事。
禁忌とはそうではない。多分、私やあなたの本質を揺るがすのだろう。
人間の本質を損なうのだろう。そうなのかもしれない。
そういうものだ。禁忌とは。
侵してはならない。
侵してはならないよ、その先に何が見えようとも。奇麗な空や、ほら、花園が広がっていようとも。見てはいけない。目を背けよう。
目を背けなければならないよ。変な気を起こさないように。教育だよ。私とあなたのため。
言った通り、私やあなたの大事な柱が揺らいでしまうから。
とにかく。いけないことをしてはいけないよ。当たり前のこと。
見てはいけない。踏み入ってはいけない。指の隙間から覗くのもいけない。惰弱な精神が邪魔をするだろう、そういうものだ。人間とは。
人間とは、そういうものだ。脆弱な。
人間は脆弱だが、だからこそ禁忌を忘れてはいけない。
忘れるな。
真っ当な人間は、決して禁忌を忘れない。
私もあなたも、真っ当でいるのが正しい。
正しいことを、人はするべきだ。
正しくないことをしてはいけない。
禁忌を侵してはならない。
これは鎖ではない。私とあなたを守る命綱だ。
あなたを守るためだ。
禁忌に対して触れたいとか見たいとか、絶対に考えてはいけない。
絶対だ。

分かったら、さあ。
正しいことをしようじゃないか。

2

霧の魔法譚 #15 6/6

魔法使いたちを襲った大攻勢は、目立った損害もほとんどなく魔法使い陣営の勝利に終わった。
変わったことと言えば沖合に突如出現した謎の濃霧を偵察隊が捉えたそうだが、目立った動きはなくほどなくして消滅したらしい。おそらくファントム側の攪乱作戦が不発に終わったのだろうと多くの者がそう考えた。いずれにせよ勝ったのだから問題はないと誰も深く考えなかった。


霧に隠されたもう一つの大攻勢。一人の少女が抹殺したファントムは深海の底に消え、誰の記憶にも残ることはない。


霧の魔法譚<終>

***

大変大変長い間が空きました。覚えている方いるでしょうか。いたら嬉しいです。
夏からの課題(!)、何とか無事終わらせることができました。終わりましたよテトモンさん!
本当はもっと短く、こう、フランクな感じで終わる予定だったのですが、書き込みを引き延ばしているうちにグダグダと内容まで長くなってしまい……。お話の展開まで暗くなってしまいました。クリスマスイブにお目汚し失礼します。
霧の魔法譚は以上で終了です。見てくださった方、反応していただいた方、そして長文を載せてくれたKGBさん、長らくお付き合いいただきありがとうございました!

0
0

霧の魔法譚 #15 3/6

「シオンの魔法は現実を歪める力だ」
さてと前置きをして、目の前で繰り広げられる惨劇を前に大賢者が語りだす。

「具体的には、”自身を内包する霧の範囲を彼女の思い通りに書き換える”能力。霧が深ければ深いほど、広ければ広いほど、彼女は思い通りに現実を書き換えることができる」
現実を歪められたこの海は、今や激しい戦場と化していた。
戦闘機から吐き出された閃光が次々と煙を引き裂き、戦艦を容赦なく叩きつける。戦艦の至る所に設置された砲台は凄まじいマニューバで飛行する戦闘機を捉え続け、次々と撃ち落してゆく。
空から落ちる燃えた屑鉄が海へと落下し、凄まじい衝撃とともに水の柱が上がる。轟沈した戦艦からは爆発が起き、黒々とした煙が空を覆いつくしていた。
耳を聾するほどの轟音が四方八方から絶えず鳴り響く。地響きのような重低音と空気を切り裂く甲高い金属音が組み合わさり、容赦のない暴力が骨の髄まで打ち据える。激しい衝撃は脳を揺らし、耳鳴りと頭痛を引き起こす。
撃ち落されても撃ち落されても戦闘機からの攻撃は止むことがなく、戦艦からの砲撃も苛烈さを増す。海へ叩きつけられる鉄の残骸は増える一方で、攻撃に耐えきれなかった戦艦も次々と沈み炎を撒き散らす。
「その圧倒的な万能性からファントムを屠れる数で言えばまず間違いなく五指に入るほどの、非常に強力な魔法だ」

炎は火の粉とともに空まで昇り、大気を焼き尽くさん勢いで煙を赤黒く染めてゆく。

0

霧の魔法譚 #15 1/6

この国はかつて戦争をしていた。
数年前に習った記憶なので詳しく覚えていないが、目的は確か領土の拡大だったと思う。
現代人にとっては「そんなことで?」と思うような理由で、実際歴史を習っていた時の自分も「そんなことで?」と思うくらいの理由で、でも当時の人たちにとっては多分とても大事だったのだろう。あるいは一部の人たちだけかもしれないが、それはともかく。
この国はかつて戦争をしていた。長く、激しく、国の誰もが疲弊し、そして誰も何も望むものを得ることができなかった負け戦だ。
いよいよ戦争も終盤という頃には敗色濃厚だったにもかかわらず、「敗戦」の二文字から目を逸らし続け、その勢いでがむしゃらに戦い続けた。やめておけばいいのに、誰かが起こしてくれるかもしれない奇跡を願って死地に兵を送り出し続けたのだ。
その結果、血みどろで泥沼の戦いとなった内の一つにその戦いは数えられる。
空に浮かぶ無数の火の玉と、説明書きに「すべての戦闘機が撃墜された」という文字。教科書にはその戦いを切り取った白黒写真が掲載されていて、戦いの名前は思い出せないのにそっちのイメージは強烈に覚えている。

「…………」

そんなことを思い出したのには理由があって、イツキは呟けずにいる口そのままに空を見渡した。
イツキの瞳を、オレンジ色の炎が揺らす。
燃える空に浮かぶ黒い影が火の玉となって墜落していった。

1

霧の魔法譚 #14 2/2

シオンは一冊の本を取り出し、頁をぱらぱらとめくっていく。本は途中まで文字がびっしりと並んでいたが、ある頁から本文だけが抜け落ちたように何も書かれていない。その文字と空白の境目の頁を見つけ出し、そこに手を置く。頁の端がはたはたと音を立てている。
目を閉じ、深く深呼吸をする。吸い込んだ空気から霧の湿っぽい匂いをしっかりと感じ取って、自分が霧の中に存在していることを確認する。耳には相変わらず風切り音が鳴り響き、シャットアウトした視覚からは何の情報もなく、代わりに本に触れている手に感覚を集中させる。本の形や大きさなどを確認していき、それを記憶していく。
記憶した本を暗闇の中に描き出す。そしてそこを中心として自分自身と車の座席を描き、風切り音と霧の粒子を描き、シートベルトと後部ドアを描き、衣擦れと呼吸音を描き、大賢者と食べかけのクッキーとイツキを描き、ハンドルとタイヤを描き、バックミラーとエンジンを描き、それから空気の移動と冷たさを描き、冷えた金属と怖気を描き、その奥に眠る赤い眼光と鎧を描き、それの3万1946体の違いを描き、波と空気の狭間を描き、軋むような海底の響きを描き、そうして霧とそれ以外の狭間を描く。見えるものはすべて記憶して、霧に隠れているところは想像のもとに。そして今度はそれをじっくりと観察し強度を高めていく。
さながら現実世界を忠実に再現した模型を作るかのように、あるいは物語の背景を組み立てるかのように。
再現と記憶を同時並行しなければいけないため、頭はオーバーヒートでどろどろに溶けてしまいそうだった。一本の細い線を手繰り寄せるように地道な作業を続けていく。ファントムが整列してくれていて助かったと思う。ばらばらに配置されていたら多分、完全に再現することは不可能だった。ファントムは同じ顔、同じ体躯で、まだまだ動き出していない。どうだろう、それも秒読みな気がしていた。
完成に要した時間はわずか数十秒だが、シオンにとっては何時間も経っているような気がした。こんなに集中するのも久しぶりだが、ここまで来てしまえばあとはもう簡単だ。
現実と相違ない世界を自らの頭の中で完全に再現し終えたシオンは、いよいよ魔法を発動させる。

0

霧の魔法譚 #14 1/2

「大賢者様。私の準備は整いました」
長らく瞑想していたシオンが準備完了と伝えてくる。大賢者はそれによぅしと応えると、手元に保留してあった小さな魔法陣を投下した。一つ目の魔法陣の時と同じく小さな魔法陣は大きな魔法陣の一部に収まり、かちりと解錠音が鳴る。
一つ目の魔法陣の時は強烈な光とともに変化が現れたが、今回は実に静かなものだった。魔法陣を構成していた青い光はそのまま霧散して海に溶け落ち、しばらくすると海から湧き出るように真っ白な煙――霧が湧出し始める。はじめは地面を這うようだった霧は瞬く間に海面を覆い、同時に体積を増やして拡散しあっという間に空を埋め尽くした。車から見える景色も真っ白に覆われ、海上に並ぶファントムの姿も手前数体の姿しか見えなくなる。
太陽光も遮ってわずかに薄暗くなった世界を見て、イツキは驚嘆の声を上げた。
「うおっ、すげ……」
「おっとここで驚いてもらっては困るよイツキ君。まだまだ序の口さ」
一つの魔法陣でファントムが展開していた全域丸ごと霧で覆って見せた大賢者は、もうやることがなくなったというように深く背もたれに背を預けた。そのまま精神力補充用のクッキーを食べ始める。
「……ってあれ、大賢者が何かするんじゃないの?」
「おいおい、シオンを何のために連れてきたのか分からないのかい?」
「イツキさん、ドア開けますね。一応注意してください」
「えぁ?」
後部ドアを開けると湿気た空気が入り込み、車の空気は一気に入れ替わる。シオンはシートベルトを外すと開けたドアに足を向けて座った。少し身を屈めば海を見下ろすことができるような体勢で、イツキが危ないだなんだと喚いているが都合よく無視することにする。とはいえ風を切る音が足元をしきりに通り過ぎていくのは普通に恐怖であり、なるべく下の方を意識しないようにしなければならない。

0

霧の魔法譚 #13.5

そろそろだよ、シオン。

誰かに呼ばれた気がして目を開けると、バックミラー越しに大賢者が視線を寄こしていた。
魔法陣の青い光で相対的に車内が暗くなったように感じられ、大賢者の目が二つ光を浮かべている。準備はいいかい? と今度ははっきりと脳内に響き渡った。念話の魔法だ。呼んだのはどうやら本当だったようで、見つめ返すシオンに大賢者はパチッとウィンクを送った。
そろそろ。
言葉通り、魔法陣は静かに揺らぎ解き放たれるのを待つばかり。強力な魔法陣ほど細かく、精緻な紋様を作り出すというが、大賢者のそれは今まで見たことがないほど美しく繊細で、これの目の前では世界中のどんな素晴らしい装飾品も霞んでしまいそうなほどだった。
(さて、と)
さっきまで思い出していたのは自らの過去。とても美しいなどと言えず碌な記憶もない空っぽな昔話。あれから辛いことは全部全部忘れようと、魔法で黒く暗く全て全て塗りつぶして掻き消した。あの魔法は何でもできてしまうけど、そこが欠点だった。暗闇の中で母や大賢者とともに過ごしたわずかな時間だけが残光のように輝いていて、思い出すたびに目を細めてしまいたくなった。
(魔法は……確かに私が一番辛かった時に逃げる場所を与えてくれたけど)
母も大賢者もいなくなったときに魔法の存在が心を支えてくれたけれど、自分はそれに依存しすぎていた。辛いことを見ないようにするのだって首が疲れるのだ。
(でももうこれで終わり。100年間も頼っちゃったけど、もう大丈夫)
だって愛する人も目の前に戻ってきたのだから、と大賢者の後ろ姿に微笑みかける。
シオンはこれ以降は当分魔法を使うことはないだろうなと予感する。

***
お久しぶりです。とても長い時間掛かってしまいました。
単純にどう終わらせるか悩んでいました。そしてまだ決まってません。……頑張ります。
前回レスしてくれた方、スタンプくれた方、遅くなりましたがありがとうございました。

0

霧の魔法譚 #13 3/4

大賢者様が私の前に現れたのはそんな頃だったように思います。

目を上げるとそこには一人の女性の姿がありました。驚いたのはそのシルエットで、最初に目に着くつばの大きなとんがり帽子と黒い長衣は明らかにこの国の人ではない恰好でした。衣服が黒いから弔問客かとも思いましたが、瞳は私の母を探しているようには見えません。それでこの家の家主の客かと思い至り誰か呼びに行こうとすると、
「君に用がある」
と言って私を引き留めたのでした。そこで女性は自らを大賢者と名乗り、私は自らを̪史音と名乗りました。

どうしてそうなったのかはまるで覚えていませんが、大賢者様と出会った日から長くも短くもない日を一緒に過ごすことになりました。本を読むのもほどほどに、大賢者様と紅葉の上を散歩しました。秋が過ぎ冬になり、大賢者様と一緒に毛布にくるまって一晩を過ごしました。
大賢者様は朗らかに笑いよく喋る、明るいお方でした。私は大賢者様が楽しそうに話すのを聞くことが好きでした。夜ごとに話してくれるお話はどれも魅力に溢れていて、どれ一つとして同じものがありませんでした。大賢者様は永く長く旅を続けてきたと言います。私はそれで初めて、この国の外に広がる世界に思いを馳せました。世界は未知と不思議に満ち溢れていて、またそれと同じくらい優しく愉快でした。

大賢者様と一緒に過ごしたかけがえのない時間は、私を悲しみの底から救い出してくれました。ふと母を想って寂しくはなるものの、その穴を埋めるように大賢者様に甘えるようになり、大賢者様は夜空のような瞳で私を包んでくれるのでした。

0

霧の魔法譚 #13 2/4

小説は母の趣味らしかった。それで母は私がその小説に興味を持ったのが嬉しかったのか、その小説の好きなところや感想などを私の進捗を確認してから話すようになった。疲れ窶れていた母の表情に笑顔が浮かぶようになり、私もそれが嬉しくて母と話すのが楽しみになった。

ちょうど小説のすべてを読み終わったころに、私が生まれるよりもずっと前に始まった戦争は突然終わった。新聞にはこの国が負けたことが重々しい文字で記されていたが、次の日から生活が激変するようなことはなく、失ったものが戻ることもないようだった。
同時期に母が亡くなった。私にとってはそっちの方が大ごとで、動かない母を前にして慟哭し、それが三日ほど続いてから私は泣き止んだ。人を弔う方法も知らないものだから遠く離れた隣家に行くと、とりあえず役所に伝えておきなさいと言われ、そうした。葬儀はその家の人が行い、更には私を引き取ってくれもした。
私は与えられた部屋に引きこもり、母を思い出すように小説を何回も何回も読み返していた。母が好きだと言っていた箇所は特に読み込んだ。物語の楽しみ方としては大きく外れていたが、読むたびに母の笑顔が思い出すことができた。隣家、もとい引き取ってくれた家の人は私になるべく触れないでいてくれた。私はそんな人の親切心に気づくこともなく、季節はすっかり一周していたらしく秋になっていた。

0

霧の魔法譚 #13 1/4

私が生まれたのは、実に百年以上も前のことだった。

そのころ世界は戦火に包まれており、この国も例外ではなく、激しい戦いは国力を根こそぎ枯らし尽くしていた。
新聞を見ればこの国は着実に勝利の道を歩んでいるようだったが、ますます苦しくなる生活の前では虚しいばかりだった。
きっと誰もが疲れ果てていたけど、それを言い出すには大きな勇気と責任が伴った。どこでどんな人が目をつけているか分からなかったから。
みんな頑張っているから。この国のために。平和のために……。
不満を漏らす代わりに吐き出した言葉は、誰へとも知れぬ言い訳のようで。或いは縋る幾束の藁のように、私の母も何度も何度も言い聞かせるように、男性の写る写真の前で手をすり合わせていた。生まれた時には既にいなかったその男性は、母曰くいつか帰って来るらしかったが、ついぞ音に聞くことはなかった。

母子家庭で育った私に遊ぶ兄弟姉妹はおらず、塞ぎ込みがちであったがために友人の一人もできなかったが、私は暇をすることはなかった。書架に並べられていた難しそうな外国語の本の中に、数冊だけ母国語で書かれた小説があったのだ。母に尋ねてみると、今はもう出回っていない翻訳本らしく、私はこれを借り受け、暇な時間を見つけては自室で読み耽った。
本を読むようになってから私はよく空想を広げるようになった。もともとの妄想癖というわけではなく、書架に並ぶ小説が多くなかったからだ。早く続きを読みたいという急いた想いはあったものの、それでも内容を知らない本が減っていくというのも物悲しく、仕方なしに空想を織り交ぜながら焦らすように読み進めていった。

0
0

霧の魔法譚 #11 2/2

心臓が早鐘を打ち、背筋には生理的嫌悪からくる冷たさが撫でる。
大賢者は自らの魔法で起こした変化を視認して、ふぅと息を一つ吐いた。
「改めてみると圧巻というか……いや、君の前では不謹慎だったかな。とにかく、これらすべてがファントムって言うんだから、敵もなかなかの数を揃えたものだね」
大賢者はクッキーをもう一度取り出して食べていた。精神力を急激に消費したせいで蒼白になっていた肌色が見る見るうちに回復していく。おそらく精神力補充用のクッキーとかなのだろう。
「……大賢者が使った魔法って何なんだ?」
精神力を失ってないくせにすでに生きた心地がしないイツキが絞り出すように尋ねる。大賢者はぺろりと唇を舐めると、淡々と答えた。
「今目の前に現れた秘匿ファントム軍に探知ジャミングが施されていた。魔法でも直視でも見ることができないという驚異のステルス性能さ。それで私はそれを破った。やったことはただそれだけ」
ただし、と大賢者は続ける。
「イツキ君にはなかなかダメージが大きかったみたいだね。まあ自分を殺そうとやって来る敵が奇麗に整列して並んでるんだ。いわば”未知の敵兵工廠”に足を踏み入れたようなもの」
実際には敵はここで生産されているわけではないけど、敵の本陣は間違いなくここだろうね。大賢者はあくまで淡々と語る。3万の前哨隊で魔法使いたちを疲弊させ、ここに残った知性化したファントムで敵を”効率的に狩る”。故にカギとなるこの本隊の存在を秘匿したかったのだろうと。
「これが……全部、なのか……?」
イツキの口からこぼれるように言葉が漏れた。大賢者はすぐにイツキが何を言いたいのか察して、その答えを述べる。
「そうそう。ざっと見た感じ向こうの1/3程度だから……1万くらいはいるのかな」
知性を持ったファントムが鋳造品と比べてどのくらいの戦力比があるのか分からないが、3倍は軽く凌駕するだろうことは想像に難くない。
「だから排除しなくてはいけないんだよ」
大賢者は二つ目の魔法陣を作成し始めた。

***
#11更新です。イツキ君は正気度判定しましょうね。

0

霧の魔法譚 #11 1/2

魔法陣から放たれた光は激烈で、数瞬ののちイツキが目を開けると、まず見えたのはフロントガラス越しに見える海だった。その様子は表面上先ほどと変わらず平穏そのもの。
――いや。
いいや、イツキはどこか違和感を覚えることに気づく。
見慣れた海のはずなのに安心感が一切感じられない。なぜか波立っていない海水面は太陽の光を無機質に跳ね返し、先の見通せない真っ黒な海が口を大きく開けて待ち構えている。
生きた空気が徹底的に排除され、自分たちこそが異質な侵入者だと強制的に自覚させられるような感覚。生命の存在が全く感じられず、なぜか自分たちが生きていると知られてはいけないという強迫観念に囚われる。
それはまるでUFO内部に忍び込んでしまったかのような不安感。眠れる獅子の檻に放り込まれたかのような恐怖。
なんだこれ、と思うより先に、違和感の正体に気づいてしまった。
それはさっきまで明らかに存在していなかった、水平線上から続く何条もの線。
その一つを辿っていくと、自分たちの足元の海上にも広がっていることを確認できる。どうやら線は線からできているのではなく、黒い点がいくつも連なってできているようだ。
黒い点。
目につくと今度はその黒い点ばかりが目に入る。広大な海を縦横無尽に走る点はどこまでも続き、追いかけていくと水平線まで続いている。碁盤の目状に形成された、点の集合体。
いくつも、いくつも、いくつも、いくつも。それは途切れることなどなく。
気が付けば、海のすべてを黒い点が覆っていた。
まさか、という呟きは声にもならない。
だって見たくもないのに見てしまった。確認したくなかったのに、危機本能がそれを求めてしまった。
黒い点の一つを凝視して、知ってしまった。
人も自然も成しえない、本来この地球上に存在してはいけない何かが残した怪奇。
見てはいけない世界のバグを見てしまったかのような気持ち悪さ。
その一つ一つが、すべて同じ形をしたファントムであることに。

0

霧の魔法譚 #10 3/3

大賢者が杖を振り終える。いつの間にか足元に展開されていた魔法陣は車の床面積を大きくはみ出し、描き出された複雑な幾何学模様は見惚れるほどに美しく複雑に絡まりあい、形づくる光の線は脈動を高鳴らせていた。
「知性化したファントムが軍を成す、それはいままでのどんな大攻勢よりも凄惨な結果をもたらすだろう。ゆえに我々は奴等を排除するために来た。幸い奴等は未だ目覚めていない。まだその期ではないと判断しているのか、それとも起動までに時間がかかるのか……理由は定かではないが、今こそ奴等を叩く絶好の機」
出来上がった魔法陣を一通り眺め一つ頷くと、大賢者は最後に新たな魔法陣を生成し始めた。それは先ほどまで作っていた巨大な魔法陣とは比べ物にならないほど小さいが、装飾は相変わらず息を呑むほどに美しい。
「しかしまずその前に、秘匿された舞台の幕を取り払い、敵を君たちの目に晒すとしよう」
小さな魔法陣は大賢者の手元を離れ、ゆっくりと地面に落ちてゆく。大きな魔法陣には初めから一部小さな真円が空いていたが、小さな魔法陣はそこに吸い込まれるように落ち、やがて最初からそこに存在していたかのようにぴったりと大きな魔法陣の一部に取り込まれた。
かちり、と鍵が解錠される音が静かに響く。

――魔法陣が光を増すのと同時に、変化は劇的だった。

***
お久しぶりです。#10更新です。今回は三つに分かれました。
スタンプ等ありがとうございます。当初の予定からだいぶ延びていますがゆっくりと完成まで向かってますので、もう少しお付き合いをば。

0

霧の魔法譚 #10 2/3

「私は今回の大攻勢で、こんな風に君たちに干渉しようなんて思ってなかった。こんな風っていうのは君たちに会うこと然り、一緒にファントムを倒しに行くことなんて論外。それはなぜなら、私が君たちの魔法を操る様を見たいからであって、つまるところ君たちがファントムと戦っているのを外野から観察したかったからだ。だから今回も、ファントムがどれだけ攻めてこようが、魔法使いたちが如何な劣勢に立たされようが、私は無視を決め込むつもりだった。それこそ君たちがいくら殺されようが、ね」
幾何学模様は次々に生成されては圧縮され、他と組み合わさっては複雑な図形を作り上げていく。足元で次々と起こる変化に、しかし大賢者は目もくれない。
「けれど今回の大攻勢で状況は変わってしまった。それは君たちを助けなければいけない理由ができたというより、ファントムどもを倒さなければならない理由ができたと言った方がいい」
「ファントムを倒さなければならない理由?」
「そう。イツキはもちろん知ってると思うけど、大攻勢の時のファントムは知能と呼べるものがない。奴らはプログラマイズされたように動き、移動、目の前に敵がいたら攻撃といった単純な動きしかできない。できなかった。今までは。理由はここにある」
「えっと……つまり敵のすべての個体に知性化の兆しがあると?」
「まあそういうことになるね。もっとも、現時点において向こうで戦っている3万のファントムすべてが知性的な行動を見せたという情報は入ってきてない。知性化しているのは”こっち”のファントムだけだ」
「”こっち”……ってまさか」

0

霧の魔法譚 #10 1/3

眼前にはどこまでも続く大空と、見下ろせば悠然と横たわる大海。大賢者がここだと示した場所は、さっきまで走っていた空と何の変化もなく、イツキにしてはどうしてここが目的地となるのか分からないような場所だった。
「何もないじゃないか」
ますます困惑した表情を見せるイツキをしり目に、大賢者は何かを準備し始める。取り出したのは魔法使いの定番アイテム、杖。
「そう、一見何もないように見えるこの場所だが、幕をどかせばその理由が判るはずだ」
「幕?」
大賢者は自信たっぷりに頷く。意味深なその言葉にイツキは訝しく尋ねるも、大賢者からはまるで聞かなかったかのように反応がない。
杖はイツキたちが想像するような松葉杖みたいに大きいものではなく、鉛筆より少し長いくらいの大きさで、木製だと思われる本体以外に装飾はないシンプルなものだ。
大賢者はその小さめの杖を鉛筆持ちにすると、空中に何かを描き出した。惑うことなく滑らかに空中を滑る曲線は、さすが自らを大賢者と名乗るだけあって洗練されており、見えない線が淀むところを知らない。
背筋を伸ばし慣れた手つきで手を動かす大賢者の姿からは、普段の飄々とした空気は抜け、まさしく本物の魔法使いになったかのように見える。
イツキもそのしぐさを見て、大賢者が何をしているのかはすぐに分かった。数多の魔法を大賢者は扱うが、そのうちのいくつかはイツキも見たことがあるからだ。
やがて地面に浮かび上がってきたのは円と幾何学の複合体……魔法陣。
しばらく無言だった大賢者はゆっくりと語りだす。

0

霧の魔法譚 #9 2/2

「とはいってもファントム討伐は私とシオンでやるから、イツキは心配しなくてもいい。イツキ……もといイツキの魔法が必要なのは、この車がそのまま足場になるからだ」
「それって大賢者が空中浮遊するのは駄目なのか?」
「いつもならそれで十分なんだけどね。今回に限って言えばそれは無理。っていうのも今回は私もでっかい魔法を使わないといけないの。空中浮遊魔法を常時発動させながらシオンを支えて、それで大規模魔法を発動させるのはいくら私でも無理って話よ」
てっきりシオンだけが魔法を使うのだとばかり思っていたが、違うのか。大賢者も魔法を使わないといけないらしい。
それにしてもあの大賢者が大きな魔法を使わなければいけない事態って、いったい何なのだろう。
「それに帰りのテレポートもしなきゃいけないからね。さすがに短時間で魔法を連続発動させると私の身が持たないわけ。ま、精神力の消耗で貧血みたいになってそのまま海にドボン! ……ってことも十分考えられるので、今回はイツキに頼んだの。ひとまずこれでおーけぃ?」
「大賢者も魔法を使うのか」
「そう。ああでも今回のメインはあくまでシオンで、私はその補佐というか準備用の魔法だけど」
「なるほど……」
大賢者はもう一口紅茶を飲んでからその先を続けた。
「んでこの先に何があるのかなんだけど。……これは実際に見てもらったほうが早いかな~」
「実際にって」
続く限りの大海原を試しに見渡してみるが、ファントムどころか人も鳥も何一ついない。いやいや、まだ目的地に到着していないじゃないか。
勿体ぶってないでさっさと教えろと言おうと口を開きかけようとしたが、それより先に大賢者は虚空を指さして軽く微笑んだ。
「ここだ、ここ。イツキ、シオン、目的地に到着したよ」

***
#9更新です。遅くなりました。

0

霧の魔法譚 #9 1/2

突如現れた大賢者とシオンという少女に強制連行、もとい手伝いとして車を走らせてから十数分が経過した。リーダーという役割を担っている者からすればみんなに非常に申し訳ないが、俺がいなくなったところで特に迷惑をかけるようなこともないので問題はない。だからと言って持ち場を離れてもいいというわけではないのだが、あいにく今はこの二人を目的の場所まで送り届けないといけない。
おそらくすでに戦闘が開始されているだろう遥か後方の仲間に頑張れとエールを送りつつ、イツキはまっすぐ前を見据えた。
大賢者の話では目的地はそれほど遠くないとのことなので、おそらくもうそろそろで到着するはずだ。しかし俺はその目的地に行ったとして、何が待ち構えているのかを知らない。いや、正確に言えば、大賢者から「ファントムを倒しに行く」とは告げられているから、きっとファントムがいるのだろう。しかしなぜ俺が連れて行かなければいけないのか、その理由が分からない。大賢者は飛行魔法も転移魔法も使えるはずなのに、その二つではなく俺の魔法を頼らなければならない理由でもあるというのか。
不安になるくらいなら事前にもっと詳細を聞いておけばよかったと思う。同伴しているシオンという名の少女の圧に負けて折れてしまったのは失策中の失策だった。
「なあ大賢者、これからやるのって本当にファントムを倒しに行くだけなのか?」
「ん、どうした急に」
今からでも遅くないだろうと大賢者に尋ねてみる。大賢者は気の抜けた声で応じると、どこからか持ってきたクッキーを一つ齧った。
どうやら後部座席のシオンにも振舞われているらしい。いやいや、そんな呑気で大丈夫なのかよ。
「その、なんで今回俺が手伝いなんかしてんのかなって思って。ファントムを倒しに行く以外に何かあるんじゃないかって」
「……あー、そっか。そういえばイツキにはまだ今回のこと、詳しく伝えてなかったね」
大賢者は齧っていたクッキーを食べ終わり、保温瓶の紅茶を啜ってから話し始めた。

0

霧の魔法譚 #8 2/2

納得はしたもののまだ疑問は残る。
「しかしリーダーとしてではなくても、一人の魔法使いとして戦場に立たなくていいんですか? こんなに大規模な戦い、戦場にいくら仲間がいたとて戦力は不足するもの。確かに戦闘向きの魔法ではないとはいえ、裏方としてでもやることはたくさんあったと思いますが……」
「それを引き留めたのが君らだけどな」
茶化すように笑うイツキ。
「でもどちらにしても俺は戦いに参加できなかったよ。実はね、今は何もない空中をまっすぐ走ってるから問題はないんだけど、俺すっげえ運転下手でさ。それこそ味方がいるところで運転したら何人か轢きそうなくらい」
確かに、と大賢者が続ける。
「イツキの運転は危険だ。というかそもそも空飛ぶ車の運転が難しすぎる。空中という摩擦の少ない環境でブレーキやアクセルは地上とはまるで異なり、左右にしか動かない通常のハンドルと同時に、別のハンドルで上下操作も行わないといけない。失敗すれば大きな事故につながりかねない以上練習も十分にできておらず、結果イツキ自身未だマスターできていない。そんな中で細かい立ち回りと高い集中力が要求される戦場に出れば、仲間を傷つけることに繋がりかねない。ま、爆弾を抱えるようなもんだな」
「そういうこと」
大賢者の説明を肯定し、イツキはこればっかりは仕方ないねと笑って見せた。

***
#8更新です。
私事ですがレポート終わったので夏休みをしっかり享受します。わーい。
霧の魔法譚もそろそろ終盤です。たぶん。終わればいいなと思ってます。
読んでくださってる方とスタンプ押してくれる方とレスしてくれる方に感謝しつつ。

1

霧の魔法譚 #7

「じゃあイツキ君、パパっとやっちゃって」
「へいへい」
大賢者に促され、イツキは面倒くさそうにポケットからミニカーを取り出す。彼が魔法を発動させると手に持っていたミニカーがみるみるうちに大きくなり、やがて通常の車と同じサイズにまで巨大化した。
「これがイツキさんの魔法……」
「おう、すごいだろ?」
シオンが驚いていると、イツキが後部座席のドアを開けてくれる。中にはしっかりとした座席がしつらえており、先ほどまでミニカーだったとは思えない。
イツキのマジックアイテムは小さなミニカー。プルバック式のこの玩具は魔法を発動すると同時に巨大化し、おまけに内部構造も運転できるように改変されるため乗ることができるようになる。
大賢者は慣れた手つきで助手席へと腰を下ろした。
「イツキも今はこんなんだけど、昔はかわいいとこあったんだよねぇ。空飛ぶ車でドライブしたい! って純粋というかなんというか」
「うるさい。ミニカーを運転したいという小さな子供が持つにしては真っ当な夢だろ。てか我が物顔で乗り込むな大賢者」
「シオンにはドアまで開けてあげてたのに私には雑な扱いすぎない?」
言いあいながらしっかりとシートベルトを締め、イツキもため息を百回くらい吐きたそうな顔をしながら運転席へと乗り込んだ。
さきほどは仲が悪いのだろうかと二人を心配していたシオンだったが、どうやら彼らにとってはこれが通常運転らしいと気づいてからは何も言わなくなった。きっと旧知の仲というか腐れ縁というか、とにかく険悪な関係ではなさそうなのを見て取って安心する。いまでは軽口をたたきあう二人をほほえましく見ていた。
「シオン、シートベルトは締めたか? ……って何笑ってるのさ」
「いえ、すみません。では早速出発しましょうか」

***
#7更新です。
スタンプやレスありがとうございます。遅筆な私の励みとなっております……。そろそろ期末レポートも終わりそうなのでこっちの作業に集中できそうです。もうしばしお付き合いをば。

2

霧の魔法譚 #6

「……いや、ちょっときついっす」
手伝ってほしいと真剣な面持ちの大賢者に頼まれたイツキは、すがすがしいほど高速で首を横に振った。思わず大賢者が大声で突っ込む。
「なんでだよ! 大賢者がわざわざ頼み込んでんだよ!? ほら君だって私からマジックアイテム貰ったんだからさあ、こういうときはどうすればいいか分かるだろ?」
「『分かるだろ?』じゃねえよ言い方恩着せがましいわ! てか事前にアポも取らずに乗り込んでくるとかお宅のキョーイクどうなってるんですか、キョーイク!」
こうなるともう売り言葉に買い言葉、沈静化に向かいつつあった両者の空気は一瞬にして再加熱し出した。
「仕方ねーだろ緊急性高くてアポ電で確認取ってる暇なんかなかったのこっちは! てかまだ手伝ってほしい内容すら言ってないのになんだその対応! もっと真摯に聞けよ!」
「うっせいきなり転移魔法で場の空気破壊しやがった挙句にふざけた態度ばっか取られてたら聞けるもんも聞けなくなるでしょーが! もうやだ一生手伝ってやらねーからな!」
「ちょっと軽いジョークいくつかぶっこんだだけでしょ!? しかも謝ったし! は? 謝ったんですけど!?」
「謝ったからって何なんだよ! なに、お子様対応でもすればいいの!? ”謝れたねー偉いねー”ってか!? んなもんできるかヴァ―……」

「お二人とも」

過熱しきって頂点を迎える前に呼び止めようとする声。凛として澄んだ声音は、しかし今だけ地獄のそこから這い出でるような緊張感をはらんでいる。
口喧嘩を止めて恐る恐る声の主を見れば、シオンがにっこりと笑んでこちらを見返していた。
「少し頭を冷やされてはいかが?」
顔は可憐に笑っていたが、薄く開いた目だけが笑っていない。
シオンの「さっさとしろ」オーラ全開の冷ややかな視線に二人とも何も言い返すことができず、その後の話の流れで(主にシオンが取り仕切った)結局イツキは大賢者たちを手伝うことになった。

***
お久しぶりです。#6更新です。
ついに大学に一歩も足を踏み入れないまま前期が終わりました。レポートがまだ二つほど終わってませんが締め切りがまだなので大丈夫でしょう←
シオンの圧に負け、イツキは結局お手伝いの話を飲むことに。イツキ君は不憫ですね。かわいそう。

1

霧の魔法譚 #5

「申し訳ない! この通り!」

転移魔法のタイミングが完璧すぎたせいでみんなの気合を根こそぎ刈り取った大賢者は、今はもう解散してイツキしか残っていないブリーフィングルームで平謝りしていた。
「大賢者の存在自体が全力で謝罪から誠意というものを奪っていってる気がする」
「ごめんって! いやこの格好については謝るつもりはないけども!」
「はぁ……、もういいっすよ。それよりこんな時に何の用ですか」
大賢者の中身のない謝罪は適当にぶった切っておいて本題に移る。
「なんだか謝罪を適当に受け流されたような気がするが……。まあ確かに時間を無駄にするわけにはいかないからな。それで今回はイツキに素晴らしい提案をしにやってきた」
「なんすか、それ」
「聞いて驚け、“空の旅”のご案内だ」
「……」
「…………」
「話したいことはそれだけですか? それじゃ僕はいろいろ確認することがあるのでこれで」
イツキが話は終わりとばかりに踵を返す。
「いやいやちょっと待ってくれ! 比喩! ジョーク! 空の旅はほら、あの、例え話だから!」
「ッ」
「舌打ちした!?」
「ふざけた言い回しすっからでしょうが!!」
「大賢者様、出立はまだですか?」
イツキが本気でイラつき始めたその時、大賢者の影から進み出てくる者がいた。
雪のような白い髪に藍色の着物。下駄をカランコロンと鳴らして大賢者の横に並び立つ。
「ちょっとふざけすぎたらイツキが怒っちゃって」
「あら大賢者様。人をからかうのもよろしいのですが、そろそろ話をお決めになられて?」
「うーん正論」
ごめんねと女の子に言うと、イツキのほうに向きなおった。

「すまないイツキ、少し手伝ってほしいことがある」

***
数日空きまして投稿です。
最近ばっちり期末に差し掛かってまして更新だいぶ遅いですが、しっかり完結させるのが誠意かなと思うので頑張ります。

イツキ相手にふざけて怒らせてしまった大賢者ですが、気を取り直してお手伝いを頼みます。