musician #4
p
楽譜の中にぽつんと書かれた「p」は、どこか孤独で弱々しい輝きを放っていたが、それはやがて君の音によって堂々たる孤立へと踏み出していった。
「ここってなんでpなんやろう
なんか中途半端じゃない?」
『……』
「あ、ごめんごめん、練習続けて、どぞ」
ちらと時計を見る。練習終了まであと2分。
ゆっくり片付けを始めるかどうするか、悩ましい時間帯に時計を見てしまった自分を悔やむ。
『相対的なp』
幻聴かと思って君の方を向く。君はつんとすました顔で、再び楽器を構えて吹き始める。
「え、小さい」
君の吹いたpは、私の想像よりも遥かに小さかった。
でも、私の理想よりも遥かに曲に合っていた。
『だから、相対的な、p』
「前後よりも小さくするってこと?」
君は小さく頷いた気がした。
そういうことか、と私も楽器を構える。
練習終了のチャイムに溶け込むように、これまでで一番繊細なpが教室を泳ぐ。