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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑧

「あの子、思ったよりタフだよ。…………いやしかし、下手とは言ったが案外悪くないぜ、あの子のやり方」
「え」
「あの滅茶苦茶な振り回し方、ロクに刃を入れられてないモンだから全然斬れてないが……」
「刀使ってるのに斬れないんじゃ意味無いんじゃ?」
「お前想像してみろ。たしか真剣の重さは1㎏くらいって聞いたことがあるが、それだけの重量がある金属の塊を叩きつけられるのを」
鎌鼬は顎に手を当てて少し考え、得心したように手を打った。
「当たっても硬度で弾かれる可能性のある斬撃と違って、打撃は当たりさえすれば絶対に、中身を揺さぶって影響を残すんだ。最低限得物を振り回せるだけのパワー、最大威力の先端をぶつけられるだけのテクニック、相手に捉えさせないだけのスピード、相手が死ぬまで戦い続けられるだけのスタミナ。全部あれば『無い』戦法じゃあないのよ」
種枚の言葉を聞きながら、鎌鼬は少女の方を見下ろす。少女は両膝をつき、肩で息をしていた。
「……全部あります?」
「……少なくともスタミナには不安があるかな」
種枚がのろのろと立ち上がる。
「おい馬鹿息子」
「……何すか」
「ちょいと転ばしてやって来な」
「師匠はどうするんです?」
「何、殺しゃあしないよ。あの子の獲物だ」
鎌鼬に目を向ける事も無く指示を出し、種枚は屋根から飛び降りた。

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その⑥

(さッ……すがに、難しいよなァ…………アイツのやり方ってのは)
援護射撃を送りながら、タマモは相棒たるロキのことを思い出していた。
(アイツの才能『展開の演出』。たしか『より面白い物語を演出するために、持ってるもの全部使って場の全体を都合良く操る』みたいに言ってたか。……面白い展開って何だ?)
弾幕が腕を更に1本吹き飛ばす。
「やッべ、テンポ狂うじゃん」
呟き、弾速を僅かに下げる。
「向かって左、1本減ったぞ!」
「ん、了解です!」
短く答え、敵の攻撃をいなしながら、隙を見て理宇は横から来る拳を両手で受け止めた。その腕に組み付くと、エベルソルは振り解かんとその腕を大きく振り上げ振り回す。放り出されまいと歯を強く食い縛りながらも、理宇の口角は、にっ、と吊り上がっていた。
(私がトドメをお願いしたのに……当然だ。私が前にいれば、タマモ先輩は誤射の危険から敵の芯は狙えない。だけど今なら!)
理宇の取り付いている腕を振り下ろそうとしたエベルソルの身体が大きく傾ぐ。理宇は素早く離脱し、タマモの目の前に回転しながら着地した。
「見事な着地、10点満点」
「ありがとうございます……っと」
2人に向けて伸びてきたエベルソルの腕を、理宇は片手で受け流した。続いて伸びてくる腕の攻撃を、次々捌いて行く。
「うッわァ……これ、近くで守られてると圧がすげェな」
苦笑しながらガラスペンを取り出し、巨大なインキの塊を空中に生成する。
「せっかく後輩がカッコイイところ見せてくれたわけだし、こっちも1発大技決めてやらねーとなァ……」
10秒以上インキを垂れ流し続けて完成させた巨大な砲弾で、エベルソルに対して照準を定める。
「おいリウ! 隙見て躱せ!」
「え、無理です!」
「……分かった。隙はこっちで用意する」

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その②

「ここ、は……」
今目覚めた方の男性は、周りを見渡し、室内にいる唯一自由な存在にすぐ目を付け、食ってかかった。
「おい貴様! 誰に向かってこんなことをしている! さっさと解放しろ! 無礼な片羽根の罪人が、殺してくれる!」
「おーこっわ。こんな風に言われて解放するひと居るわけ無いじゃないですかぁ、ねー?」
「ネー」
長髪の青年は、先に起きていた男性と意気投合したように同意し合った。
「貴様、舐め腐りやがって……!」
パチパチと奇妙な音が鳴る。さっき起きた方の男性を見ると、彼の身体の周囲を青白い電流が走っていた。そういえばこの人、背中に白くて長い鳥の翼が1対揃って生えている。まるで……。
「『天使』に楯突くことの意味、とくと知れ!」
彼が叫ぶと同時に、電流が長髪の青年に向けて飛んで行った。青年は冷静に長剣で電流を弾き、流れ弾が私の足下にぶつかり焦げ跡を残す。
「あー、いけないんだー。地上に平和をもたらす天使さまが人間殺しかけたー」
「ウッワドン引くわー。地上の先住民たる俺ら『悪魔』を虐めるのはまァ良いとしても? だって迷惑するのは俺らだけだし? けどこんな無力でか弱い生き物イジめるのはさすがに最低だろー」
2人が揶揄うように言う。天使氏は悔しそうに歯ぎしりしながらも大人しくなった。

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厄祓い荒正し ep.1:でぃすがいず  その⑤

(角度ヨシ! 振り抜け!)
「はい!」
勢い良く泥の刀剣を振ると、それに従って刀身が勢い良く伸長し、地上の一点、雑木の下を貫いた。
「手応えあり、刺さりました」
(よっしゃ、引けィ!)
「はい!」
刀剣をぐい、と引っ張ると、鉤状に変化した刃が縮みながら、突き刺さった対象を引っ張り上げた。
「…………妖獣? ですかね」
(トゲトゲした鼠……にしちゃあデケエな)
油色の毛皮に身を包み、背中にはさっきまで飛ばしてきていたためか、少し禿げてはいるけれど棘状の体毛が並んでいる、大きめのネズミみたいな生き物が、泥刀の鉤に引っかかっていた。
(体毛を飛ばしていたわけか。にしたってあの速度はブッ飛んでるよなァ)
「気を付けましょう。また撃ってくるかも」
(いやァー……させねーよィ)
泥刀を神様の泥の余剰が伝い、瞬く間に妖獣を覆い尽くしてしまった。
(毛針も抑えた。コレで捕獲完了ってェわけよ)
「……流石神様」
(もっと褒めてくれても良いぜィ? お前は唯一の我が信徒だ。信仰と尊敬はいくらあってもあり過ぎることにはならねェ)
「はいはい。とりあえずコレの処理は後で決めるとして、この辺りに他に厄介な人外はいるでしょうか」
(雑魚の幽霊ならいくらか気配があるが……お前には分からねェのかァ?)
「残念ながら……。私、気配を感じるとかそういうのはあんまり得意じゃなくて」
(マ、追々鍛えていきゃァ良いだろうよ。そら、地上戦に行こうぜ)
「了解です」
神様が泥の足場を解き、私の身体は重力に従って落下していった。

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その⑤

理宇は持っていた2本の棒を地面に放り、ガラスペンを取り出した。輝くインキを無造作に垂らし、形成された大きなインキ溜まりの中に両手を突っ込む。一瞬待って引き抜いた両手には、インキと同様に輝く1双のガントレットが履かれていた。
「これだからバチは駄目なんだ。ちょっとラグができちゃうから。素手なら最速だ…………仕返ししてやる!」
口に溜まった血を吐き捨て、理宇は再びエベルソルに向かった。
敵から繰り出された3本の腕のうち2本を沈み込むように躱し、1本を手の甲で受け流し、空いた片手で顔面を殴りつけた。
続けて側頭を狙うエベルソルの攻撃を後退りながら躱し、再び始まった連撃もガントレットで防ぎ、受け流し躱していく。
エベルソルは連撃を続けていたが、突如その手を止め、再び背中を丸め身体を震わせた。
(! また腕を増やす気か!)
変化が起きる前に、理宇は素早くエベルソルの頭頂を殴り付け、地面に沈める。更にタマモの放った大型光弾2発が、腕型器官1対を吹き飛ばした。
「オーケイこのサイズが有効打な。160までなら上げてやる」
「タマモ先輩! 了解です!」
タマモは大型光弾を生成し、空中に十数発待機させてから射撃を開始した。正確に等間隔で発射しつつ、新たな弾丸を生成する。それを繰り返しながら、エベルソルの腕を重点的に狙い、理宇に向かう攻撃の数を減らしていく。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その①

目を覚ますと、私は知らない部屋の中にいた。どうやら硬い椅子に座らされ、縄と鎖で身動きが取れないよう拘束されているらしい。
「あ、起きました? おはようございます。そんな状態じゃ難しいとは思いますが、どうぞ寛いでもらって」
声の方に目をやると、長い銀髪の青年が長剣の刃の手入れをしていた。
何故こんなことになっているのだろう。起きる前のことを思い返してみても、普段通りの生活を送り、普段と変わらない時間に床に就いた、その記憶しか無い。
状況を整理するために部屋の中を見渡してみると、自分以外にも2人、同じように椅子に拘束されているのが見えた。項垂れているところを見るに、まだ目覚めてはいないのだろう。
「わ……私達をこんな風にして、あなたはいったい何をする気なんですか」
あの青年に、震える声で、それでもできるだけ毅然と、尋ねてみる。
「……そーだそーだー。そっちの羽根持ちならいざ知らず、俺がこんな目に遭わされるような恨み買った覚え無ェよォー」
自分の右側に拘束されている男性が、便乗するように口にした。どうやら意識はあったらしい。
「なァ、“片羽根”?」
その男性が、長髪の青年に言う。よく見ると、青年の腰の辺りから、真っ白な鳥の翼が右側だけ生えていた。
「そーいう『如何にも差別してます』みたいな言い方、良くないと思うなー」
「バァーカ、挑発でンな丁寧に呼ぶわけ無ェだろーが」
「それもそっか。……けど、今回の俺の目当ては、どっちかというとおたくなんですよ」
「マジで? 何それ気色悪りィ」
2人の言い合う声のせいか、最後の1人もようやく目を覚ました。

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その④

エベルソルが突進してくる。理宇はすぐにエベルソルに向けて駆け出し、敵の目前で跳び上がり、頭部に2本の棒を叩きつけた。
彼女の攻撃によってエベルソルの突進は止まり、攻撃してきた理宇に反撃しようと、背中から生えた腕のような器官を立て続けに叩きつける。理宇はそれを棒を用いて受け流し身を守る。
(……うん、このくらいの速度なら普通に見える。思ったより重いけど、まあ2分くらいは頑張れるかな?)
エベルソルの猛攻が止まり、背中を大きく曲げる。すると、元の腕型器官の付け根から、更に2対の腕が生えた。
「……わぁ。一度に2発までがルールだよね?」
震える声でおどける理宇に、エベルソルはこれまで以上の密度の連撃を叩き込む。引き続き受け流しを続けるが、少しずつ対応しきれない攻撃の比率が増え、遂に鳩尾に化け物の拳が突き刺さった。
「ぐぇっ……」
殴り飛ばされた理宇が、タマモの足下に転がって来る。
「ぅ……タマモ、先輩……敵のダメージは、どう、ですか……」
「撃ってはいるがどうもダメージになってないっぽいな……硬てェ。攻撃を止めるにしたって、もうちょっと大口径の弾じゃねえと足りない。当然描くにも時間がかかるし……これ俺ら二人でどうにかできる相手じゃないくせェぞ」
「うぁー……マジですか……」
理宇がよろよろと立ち上がる。
「いやお前無理すンなよ?」
「いえいえこの程度…………私の初陣ですよ? しかも、タマモ先輩のサポートなんて、無様に転がってられないじゃないですか。大丈夫、一度見たんで、対応はできます」
「ええ……」

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Daemonium Bellum RE 設定 Ⅱ

この書き込みは企画「Daemonium Bellum RE」の設定その2です。

・堕天使 Angelus Lapsus
天界から追放/逃亡した天使のこと。
追放された個体は大抵片方の羽根を切り落とされている。
羽根を切り落とされたことにより“権能”を一部失っていることがある。
弱点は相変わらず首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒せる。
天使に協力する者、悪魔に協力する者、第三勢力として動く者、人間に溶け込む者と立場は様々である。

・人間 Human
地上の主な住民。
数だけが取り柄で、文明レベルは古代オリエント世界みたいなイメージ。
天使と悪魔の抗争によく巻き込まれている。
天使や悪魔を崇めたり、彼らに協力したり、邪魔がったりと様々な立場の者がいる。

・天界
天使たちの本拠地。
雲の上に中世ヨーロッパ的な都市が広がっている。
“神”がいる場所でもあるのだが、“神”自身は姿を隠してしまって出てこない(らしい)。
少し前に地上の悪魔も巻き込んだ、天界の天使の3分の1による反乱のせいで人手不足気味。

・地上
悪魔と人間が住まう場所。
人間は古代オリエント世界みたいな文明を築いているが、その中やそこから離れた所に悪魔が住んでいる。

リメイク元の企画に参加した方なら分かると思うけど、だいぶ設定をパワーアップさせました。

相変わらず難しいだろうけど…参加したい人は頑張って!
何か質問などあればレスください。

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Daemonium Bellum RE 設定 Ⅰ

この書き込みは企画「Daemonium Bellum RE」の設定その1です。

〈設定〉
・天使 Angelus
秩序を以って地上に平和をもたらそうとする勢力。
この世界を支配する唯一絶対の“神”によって創造された、“神の使い“。
悪魔が存在することによって地上が混乱状態にあると考えており、悪魔を敵視している。
姿は人型で、背中に白い翼が生えている。
それぞれが特殊能力“権能”を持つ。
白系統の制服のようなものが存在する。
基本的に集団行動が多い。
文明レベルは中世ヨーロッパくらい。
性別はない。
弱点は首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒せる。
たまに悪魔に宥和的な者、悪魔に協力する者などがいる。
実は異方からやってきた“神”がこの世界を支配するために悪魔を模して創った存在。
所々悪魔と同じ部分があるのはこれが原因。
なおこの事実に気付いている者は少数派。
ちなみに“天使”という名前は自称だが、だんだん地上の住民たちも使うようになった。

・悪魔 Diabolus
地上に巣食う混沌を好む勢力。
元々地上は自分たちが暮らしている所のため、それを脅かそうとする天使を敵視している。
本来の姿は異形だが、普段は人間に近い姿をとっていることが多い(獣耳や角などがある人間態を持つ者もいる)。
それぞれが特殊能力“権能”を持っている。
服装は個体によってバラバラ。
基本的に個人行動が多い。
文明レベルは中世ヨーロッパくらい。
性別はない。
弱点は首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒すことができる。
たまに天使に宥和的な者、天使に協力的な者などがいる。
“神”が天使を創造する際に元にした、言わば天使の“アーキタイプ”。
元々は“神”がこの世界にやって来る前に地上に住んでいた神霊の一種である。
所々天使と同じ部分があるのはこれが原因。
なおこの事実に気付いている者は少数派。
ちなみに“悪魔”という名前は天使からの通称だったが、だんだん悪魔たちも使うようになった名前である。

「設定 Ⅱ」に続く。

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その③

「そうだ、今日はどこに行くんです?」
街を歩きながら、理宇が尋ねた。
「んー……そうだなー……あ、思いついた。CD屋行こうぜ」
「了解ッス」
目的地に向かう近道となる細い路地に入ったその時、路地の奥から爆発音が響いてきた。
「お、ビンゴ。行くぞ、先行け」
「はい!」
ホルスターから武器となる2本の棒を抜き、両手に構えながら理宇が駆け出した。いち早く路地を抜けた彼女の目に映ったのは、CDショップの自動ドアを破壊し、内部への侵入を試みる体高4mほどのエベルソルの姿だった。
「タマモ先輩、敵です! 見える範囲では1体、2階にも余裕で届くサイズの大きさです!」
「なるほど分かりやすい状況報告感謝」
弾丸を描きながらタマモも理宇に追いつき、射撃をエベルソルに命中させて注意を引いた。
「あークソ、なんだってこうも人間の多い場所に湧くかなァコイツは。これだけ周りに障害物があると思ったように弾が撃てねェ」
「……厄介なところ申し訳無いんですが、タマモ先輩」
「ん、何だ?」
「2つほどお願いしたいんですけど」
「何だ、言ってみろ」
「一つはフィニッシャー。あれだけ大きい相手だと私は足止めに専念した方がやりやすいので、ダメージは先輩に積んでもらいたいです。あともう一つ、向こうのリズムをできるだけ一定にコントロールしてもらえると、受けやすいので……」
「……そういうのはウチの相棒の方が得意なんだけどなァ……。まあ、やれるだけやってみるが、多分上手く行かないからお前も頑張れよ」
「はい、お任せください!」
「オーケイ、来るぜ」

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その②

「失礼します! さっきの大きい音、何があったンスか!」
ノックも無く扉が勢い良く開き、学校制服風の衣装に身を包んだ背の低い少女が飛び込んできた。
「んぃや、椅子をひっくり返しただけだ。何も問題は起きてねェ。……お前が臨時のバディか」
椅子を立て直しながら尋ねるタマモに対し、少女は背筋を伸ばしはきはきと答える。
「はい! 自分、魚沼理宇といいます! 大晦日のタマモ先輩の戦い、胸を打たれました! 先輩に憧れてこの世界に入りたいと思い、それで先日、遂にリプリゼントルと相成りまして……まだまだ新米ではありますが、先輩を守るフロントとして精一杯努めますので、どうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
「元気だねェ…………あン? 前衛なんだよな?」
「え、はい」
「『俺の戦い方に憧れて』リプリゼントルを目指したんだよな?」
「はい! タマモ先輩の正確なテンポ取りとソフラン操って相手のペースを崩すテクニック、惚れ惚れしました!」
「そうかい。……ア? どこで見たんだ?」
「え、ネットに流れてましたよ? 監視カメラ映像でしたね」
「そッかー……」
改めて椅子に座ったタマモに促され、理宇も向かいの席に恐る恐る腰掛ける。
「そうだ、これはどうでも良い雑談なんだがよォ」
「ハイ何でしょう」
「お前は、何の才でリプリゼントルになった?」
「ハイ! 音ゲーです!」
「……音ゲー? スマホか? ゲーセンか?」
「後者ですね。音ゲープレイは演奏であり、舞踊であり、たった一つ肉体動作の最適効率を求めるパズルであり、ネタと電波を昇華する前衛芸術でもある、ギークとストリートが生み出した複合芸術なんですよ!」
「へェ……。お前とはなかなか気が合いそうだ」
「やったー! 光栄です!」
「うん。まあ前衛やってくれるんなら助かる。さっさと行こうぜ。芸術が飽和したこの街じゃ、あの文化破壊者共はすぐ湧いてくるからな」
「了解です!」

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少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その①

「……あー、マイクテス、マイクテス。タマモノマエのー、アジテイションレイディオー。わーぱちぱちぱちぱち」
椅子に掛けてテーブルに足を掛け、後ろの二脚を支点に椅子を揺らしながら、タマモは無感情に虚空に向けて独り言を放っていた。
「俺はぶっちゃけサポーターの方が楽なんだよ。だから相棒……ロキがいねえとエベルソルとの戦闘に当たってそこそこ困るわけなんだけどさァ……いやロキもサポート向きだから相性自体は微妙なんだけど」
向かいの席に目をやる。普段ならロキがいるはずのその場所は空席だった。
「えー……ロキの奴は現在、高校入試に向けて受験勉強が佳境に入っているので任務には参加できないそうです。俺が中3の頃なんて、ろくに勉強してなかったぜ? 勉強しなくて良いように行く高校のレベル調整してたから。……閑話休題。だからフォールムの偉い人にさ、俺1人じゃただの役立たずのクソ雑魚なんで誰か臨時のバディくださいって頼んだわけよ。ガノ以外で。俺あいつのこと嫌いだし」
言葉を切り、ドアの方に目をやり、すぐに天井に視線を戻す。
「まァ…………一応俺の提案は認めてもらえてさ。何か、前衛向きの奴寄越してくれるって話だったんだけどさ」
壁掛け時計に目をやり、溜め息を吐く。
「……まだ来ねェ…………んがッ」
バランスを崩して椅子をひっくり返し、床に投げ出される。
身を起こそうとしていると、慌ただしく駆ける音が扉の向こうから近付いてきた。
「ん、やっとか」