表示件数
0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 10

「ご機嫌はいかがかい」
僕はまぁまぁなんだけど、と少女は首を傾げる。ビーストは唸り声を上げるが、少女はこう言った。
「…残念だけど君にはここで退場してもらおうか」
青緑色の髪の少女はそう言うと、ビーストの目の前から消えた。ビーストは目の前の少女がどこへ行ったのか困惑するが、突然背後に気配を感じた。ビーストが身をよじって後ろを見ると、翡翠色の長剣を持った少女が斬りかかってきていた。
「“{”{$‼︎」
ビーストは咄嗟に光壁を張って少女の攻撃を弾く。しかし少女は即座に姿を消して今度はビーストの頭部の右側に現れた。
ビーストはそちらに顔を向けて火球を吐くが相手は手に持つ長剣で火球を弾く。そしてまた瞬間移動してビーストの右目に長剣を突き立てた。
「€|${‘|*$]$\>\^]$\‼︎」
ビーストの右目からはドス黒い血が溢れ、ビーストは悲鳴を上げた。そのまま少女は瞬間移動し今度は左目に長剣を突き立てる。先程以上にビーストは絶叫し、その場でじたばたと暴れた。
「君には街を破壊したお仕置きが必要だね」
不意にビーストの目の前で少女の声が聞こえる。ビーストは火球を吐こうとするが、青緑色の髪の少女はすぐに高く飛び上がった。
そして少女は数十メートルの高所から長剣を構え、ビーストの目の前に来た所で長剣を振り下ろした。
ビーストの脳天は斬り裂かれ、ビーストはその場に崩れ落ちた。

0
0

Flowering Dolly:釣り人の日常 その②

「全然釣れないのも、ビーストの影響ですかねぇ?」
少女の方を見ると、ニタニタと意地の悪そうな表情でこちらを見上げている。
「何だお前」
「釣り人です」
「なら釣りしてろ」
「でも魚いないし……」
「それはそうだけども……」
取り敢えずウミヘビの方には注意を向けつつも、釣りを再開した。30分ほど、隣にすり寄ろうとしてくる少女を片手で牽制しながら釣り糸を垂らしていると、沖合の巨大ウミヘビが急に仰け反った。
「お、ようやくドーリィが来たな……」
「来ましたねぇ。今回も追い払うだけになるんですかねぇ」
「あのウミヘビ、無駄にタフだからな……。頑張ってほしいけどなぁ……」
「あの子のお陰で上陸してまで大暴れしたりはしないですから、それだけでも十分助かりますよね。まあアレのせいでこの町の漁業関係者は大体職を失っちゃいましたけど。海に出たら沈められちゃう」
「こうして堤防釣りしてる分には平気だから良いんだけど……いや全然良くねーか」
「んひひ…………あっ」
少女の声に海面を見ると、彼女の竿から伸びる糸が引かれている。
「かかったけど……雑魚ですねぇ……」
そう言いながら、少女はしばらく釣竿を上下させていたが、急に糸が引かれなくなった。
「逃げられちゃいました」
「そうか」
ウミヘビの方から爆発音が響いてきた。
「やったか?」
「やってないんじゃないですかね」
そっちを見てみると、巨大ウミヘビはまだ生きているようだった。
「ほらぁ」
「マジか……」

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 9

しかし逆に頭部分の皮膚はあまり硬くないため頭部を狙えば勝ち目がありそうだったが、このビーストは火球を口から吐くため簡単には攻略できなかった。
「アガパンサス」
不意にリコリスが名前を呼んだので、アガパンサスはどうしたのリコリス?と彼女の方を見る。
「貴女…ビーストを囲うようにバリアを張ることってできるかしら⁇」
急に聞かれてアガパンサスはえっと…と少し考える。
「多分できるわ」
「ならお願い!」
そう言うとリコリスはゼフィランサス!と声をかける。ゼフィランサスははいっ!と返した。
「貴女はアテクシと共にアガパンサスからビーストの気を逸らすわよ!」
「あ、はい!」
リコリスはビーストの後ろへ回り込むように走り出す。ゼフィランサスもそれに続く。
ビーストは2人を追いかけ始めたが、突然目の前の何かにぶつかった。アガパンサスがビーストの周りに光壁を張ったのだ。
「$~€|+{£|>|*{£_€_>‼︎」
ビーストは光壁を破壊しようと体当たりするが、光壁はびくともしない。
「今よ!」
2人共‼︎とアガパンサスが叫ぶと、リコリスは高く飛び上がって赤い2振りの刀を構える。そしてビーストがいる光壁の中に飛び込んでいった。
ビーストは口から火球を吐いて応戦するが、リコリスは火球を刀で弾く。そのまま彼女はビーストの脳天目がけて斬りかかった。
しかしリコリスはビーストの目の前で見えない壁のようなものに弾かれた。
「⁈」
何が起きているか分からないままリコリスは地面に落下する。ビーストがバリアを張った、そのことに彼女が気付いた頃には、ビーストが自らが生成した光壁でアガパンサスの光壁を破壊していた。
「…嘘でしょ」
ゼフィランサスが慌ててキャッチしたことでリコリスは無事地上に着地できたが、ビーストは逃げ出してしまった。
リコリスは思わず呆然とするが、不意にビーストは通りの真ん中で立ち止まった。ドーリィたちが見ると、ビーストの目の前には青緑色の髪で翡翠色のジャケットとスラックス、白いブラウスの少女が立っていた。その左手には青緑色の花の紋様が浮かび上がっている。
「貴女…まさか‼︎」
あの少年と!とリコリスは驚く。ゼフィランサスとアガパンサスも目を丸くした。
青緑色の髪の少女はビーストを見上げてやぁと微笑む。

0
0

Flowering Dolly:アダウチシャッフル その⑤

「相棒ぉっ!」
体外に続く穴に向けて、キリが呼びかける。
「はいはーい……っと!」
ヴィスクムは体外からビーストに接続された左腕に転移術で接近し、その掌を『キリの左手で』叩く。
「スワップ」
魔法が発動し、『ヴィスクムの左腕』と『キリの左腕』の位置が入れ替わる。
(よし、これで私の腕は取り戻せた)
そのまま己の下に戻ってきた左腕で、ビーストの胴体に軽く触れる。『ヴィスクムの左腕』と『ビーストの左前腕』が入れ替わり、竜の腕がヴィスクムに移動する。
「っはは、でっかいだけあって腕も重いね! これで……そおりゃっ!」
そのまま、竜の腕でビーストの頭部の1つを殴り潰した。残り8つの頭部は同時に咆哮をあげ、一斉にヴィスクムに襲い掛かる。その1本は、彼女のかざした竜の腕を噛みちぎった。
「あぁららー、自爆だね?」
挑発的に笑ったのと同時に、ヴィスクムの身体はビーストの体内に転移した。キリが自身に移動していたヴィスクムの左腕で、2人の位置を入れ替えたのだ。
「そしてぇ……ぽいっと」
短距離転移術で体外に移動し、毒霧の範囲外に出現してからキリと入れ替わる。
「キリちゃん、身体は大丈夫? 毒霧はまだ収まってないけど……」
隣に転移してきたヴィスクムに、キリは親指を立ててみせた。
「息止めてたから大丈夫」
「それなら良かった。……さぁて。お腹に大穴、片腕欠損、頭も1つ取った。一気に決めちゃおうか!」
「うん。手ぇ貸してもらうぞ、相棒」
キリは立ち上がり、左隣のヴィスクムと手を叩き合わせた。

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 8

「どうせ戦えないし戦う気もないのだから、ここで全部終わらせるのが1番いい」
そうすれば、あの子の所にと青緑色の髪の少女は空を見上げる。少年は思わず俯いた。
「…そんなの、間違ってる」
間違ってるよ!と少年は叫ぶ。その言葉に青緑色の髪の少女はちらと少年の方を見た。
「大切な人を失ったからって、自分もいなくなっていい訳がないよ!」
なんで諦めちゃうんだよ!と少年は言う。青緑色の髪の少女はだってと呟く。
「もう僕には戦う意味なんて」
「意味はあるよ‼︎」
少年は彼女の言葉を遮るように声を上げる。
「…ぼくは、知ってる人に死んでほしくない」
例えあなたであっても、と少年は続ける。
「あなただって、知ってる人に死んでほしくないんじゃないんですか⁇」
だからぼくに逃げろって言うんでしょ、と少年はしゃがみ込む。
「なら、一緒に生きましょう」
せっかくならぼくはあなたと契約したって構わない、と少年は青緑色の髪の少女の目を見る。青緑色の髪の少女は思わず目を逸らす。
「で、でも、僕のマスターになったら君は」
「大丈夫です、ぼくは死にません」
ビーストなんかにやられないから、と少年は真剣な面持ちで言う。青緑色の髪の少女は目をぱちくりさせた。
「…本当にいいのかい、少年」
君は、もしかしたら過酷な目に遭うかもしれないよと青緑色の髪の少女は訊く。少年は分かってますと頷く。青緑色の髪の少女は暫くの沈黙ののち、ため息をついた。
「分かった」
そう言って青緑色の髪の少女は立ち上がる。
「君と契約しよう」
「うん」
少年がそう頷くと、少年と青緑色の髪の少女の左手の甲に青緑色の花の紋様が浮かび上がった。
「じゃ、行ってくる」
彼女がそう言って右手の指を鳴らすとパッとその場から消えた。

避難所となっている小学校近くの通りにて。
大型爬虫類のような姿のビーストが、3人のドーリィと戦っている。ドーリィたちはそれぞれ武器を携えて果敢に攻めるがビーストは周囲の建物を崩したり火球を吐いたりして応戦していた。
「…このままじゃラチが空かないわね」
2本の赤い刀でビーストに斬りかかったリコリスがふと呟く。相手のビーストの胴体の皮膚は鱗に覆われている訳でもないのに硬質で、魔力による強化をしても中々刃が通らなかった。

0

Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう キャラクター紹介

・ハルパ
モチーフ:Harpagophytum procumbens(ライオンゴロシ)
身長:160㎝  紋様の位置:左前腕  紋様の意匠:猛獣の横顔
民族風の露出の多い衣装を身に纏った、茶髪のドーリィ。髪の毛はボブヘアだが、一部が垂れた獣の耳のように跳ねている。歯は全体的に長く鋭く尖っている。
固有武器は黒い槍。標準の長さは2m弱だが、その質量は明らかに槍の体積と不釣り合いなほど異様に大きい。推定適正サイズは全体が鋼鉄でできていると仮定した場合、全長約85m。
得意とする魔法は、固有武器の変形。槍の全体を自由に変形させ、主に投擲によって攻撃する。敵に突き刺せば穂先が無数の棘として分裂し、投げれば分裂した棘が無数の散弾のごとく広範囲を埋め尽くすように飛んでいく。それ以外にもマジックハンド代わりに使ったりもする。
野良ネコのような生き方をしており、マスターはいるが、それがどこの誰なのかを知っている人間はかなり少ない。
人語を解するらしいのだが、彼女が言葉を発しているところをみたことがある者はあまりいない。

・リク
年齢:37歳  性別:男  身長:180㎝
ハルパの“マスター”。ハルパを置いて離れた土地でビーストから人々を守るために活動している。ちなみに契約は10年ほど前。離別は契約の約3年後。せっかく契約してくれた唯一無二の相棒を捨てて(語弊)遠い土地に逃げた(語弊)人間のクズ(語弊)。いや実際はかなりの聖人なんですよ? ほんとほんと。
Q,何故ハルパを置いていった。
A,契約さえしておけばハルパは強いので1人でもやっていけるから。町には彼女の強さが必要だった。
ハルパの長く鋭い牙で頸動脈スレスレを噛まれても「寂しかったんだねよしよし」で済ませる胆力の持ち主。あの時はハルパに血管の表面を牙の側面でぷにぷにされていました。少しでも回避しようとしていた場合、出血多量で死んでいた。
ハルパの「ハルパ」呼びを始めたのは彼だし、ハルパが今住んでいる町で馴染めているのも3割くらい彼のおかげだったりする。残り1割はSSABの尽力、あとの6割はハルパちゃん自身の愛嬌と人望と人徳。

0

五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その⑨

3人は駅のホームから線路へ飛び下り、元来た方向に向けて歩き始めていた。
「カオル、質問良い?」
線路上を歩きながら、青葉が尋ねる。
「んー? ワタシの可愛い青葉、もちろん良いよ」
「さっき言ってた『一番薄いところ』って?」
「そうだなぁ、ワタシ達はどうやってこの駅に来たっけ?」
「そりゃ、電車に乗って……」
「なら普通に考えて、線路を辿れば元の場所に帰れるはずだよね」
「これがオカルトな異次元だったりしたら、そう上手くはいかないけどねー」
水を差す白神を鋭く睨み、カオルは言葉を続ける。
「『辿ってやって来た道』。その事実自体が『外』との繋がりなんだよ。ついでだから、もう一つくらい条件が揃ってくれれば嬉しいんだけどねぇ……」
そのまま数十分ほど歩き続けていると、線路の先にトンネルが見えてきた。
「見つけた。トンネル、良いね。隔たりを越えるための道。彼我を繋ぐ穴。最高に近い」
歩みを速め、3人はトンネルの目の前で立ち止まった。
「さっさと終わらせようか。おい妖怪、あの電撃、こっちに撃ってきて」
「りょーかい。アオバちゃん、離れてた方が良いんじゃない?」
「平気。ワタシが守ってるんだから、ほんのぴりっとだって痛みやしないよ」
「それじゃあ……それっ」
白神が腕を振るい、電撃を青葉とカオルに向けて飛ばした。青白いその電光はカオルが翳した右手に吸い込まれ、刀剣のような形状に固定される。
「……失せろ、怪異。ワタシの可愛い青葉を、解放してもらうぞ」
そう呟きながら、カオルが雷の刃で虚空を切り裂く。その軌道に沿って空間上に亀裂が走り、3人の姿は強い光に包まれた。

0

Flowering Dolly:アダウチシャッフル その④

少し離れた建物の屋根の上から、毒霧を眺めていたキリの隣に、ヴィスクムが転移魔法で現れた。
「ヴィス、倒した?」
「ごめんまだぁー」
「じゃあなんで戻って来たの……」
「いやぁあはは……。あ、そうそうキリちゃん。1個お願いがあってね?」
そう言いながら、ヴィスクムは右手の小指を立ててウインクしてみせた。
「指1本で良いんだけど、貸してくれない?」
「それくらいは別に」
キリの差し出した右手に、ヴィスクムは左手を叩きつけた。
「ありがと、キリちゃん。それじゃあ行ってくるね」
「ん」
ヴィスクムは短距離転移によって再びビーストの頭上に移動する。
「お待たせ、モンスター! さーぁかかって来い!」
首の1本が大口を開き、ヴィスクムを食い殺さんと迫る。ヴィスクムは空中で身体を丸め、その口腔に自ら飛び込んだ。食道を通り抜け、胃袋の中に落下する。
「うへっ、胃液でべしゃべしゃする…………それじゃ、溶けちゃう前に片付けようか」
キリとスワップした右手の小指で、左の掌を軽く叩く。2人の身体は大部分が入れ替わり、ヴィスクムの代わりにキリが内臓の中に現れた。
「うおっ、ヒリヒリする…………さて」
キリは素早く周囲と自身の肉体の状態を確認する。左腕の肘から先は、どうやらヴィスクムのものになっているらしい。
「………………」
左手を胃壁に当てて数秒。ビーストの肉体が大きく揺れた。ビーストの左前肢とスワップされていた左腕が入れ替わったのだ。更に、ビーストの巨体を支えていた長く太い脚部が突然体内に出現したことで、それは勢い良くビーストの身体を突き破る。

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 7

「彼女は積極的に僕の“マスター”であろうとした」
学生ながら僕の戦いのサポートをしてくれてたし、僕も彼女に寂しい思いをさせないようにしてた、と青緑色の髪の少女は呟く。
「…だけどある日、僕らがいた町にビーストの群れが襲来した」
僕は町で数少ないドーリィだったから本気で戦ったし、マスターは住民の避難を手伝ってたと青緑色の髪の少女は言う。
「なのに」
マスターは、僕を置いて自分だけ逃げたくなかったのか、町に戻ろうとして…と青緑色の髪の少女は顔を手で覆う。
「ビーストに殺されてしまった」
青緑色の髪の少女は震える声で言う。
「僕が、どうにかビーストを倒し切って、マスターを探しに町の外の避難所へ行ったけど見つからなくて、それで町に戻ったら…」
青緑色の髪の少女の声に嗚咽が混じった。
「…僕のせいだ」
ドーリィにとってマスターは守らなきゃいけないものなのに、守りきれなかったと青緑色の髪の少女は肩を震わせる。
「こんな僕に戦う資格も、マスターを得る資格もないと思ったよ」
それなのに、と青緑色の髪の少女は続ける。
「僕の、ドーリィとしての“本能”が、僕自身を新たなマスターに適した人間の元へ引き寄せてしまうんだ!」
僕の“本能”が、戦えと言っているんだと青緑色の髪の少女は声を上げた。
「なんで、なんでなんだよ」
なんで僕は人間と違って、悲しむ余裕も与えられないんだよと青緑色の髪の少女は拳を膝に打ちつけた。少年はただ黙ってその様子を見下ろしていた。
「大変だ‼︎」
不意に、2人の耳に体育館の正面入り口の方から騒ぎ声が聞こえた。
「ビーストが、ビーストが、避難所に向かってきてる‼︎」
なんだって⁈やそんなぁと避難所の人々に動揺が広がる。少年は思わず避難所内の方を見て呆然とした。
「…少年」
不意に青緑色の髪の少女が呟いたので、少年は彼女の方を見る。
「今すぐここから逃げた方がいい」
じきにビーストがここを破壊する、と青緑色の髪の少女はこぼす。
「…あなたは、どうするんですか?」
少年がそう尋ねると、青緑色の髪の少女はどうするも何もと返す。
「僕は、ここに残るだけさ」
その言葉に少年は言葉を失う。

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 6

ビーストが出現した場所から1kmほどの場所にある小学校にて。
ビーストの急襲により小学校は多くの人が集まる避難所となっていた。
「少年」
体育館と体育館の裏手を繋ぐ出入り口に座り込む少年に、青緑色の髪の少女は体育館の外壁にもたれながら話しかける。
「そんな顔してどうしたんだい?」
もしや同級生のドーリィを心配しているのかい?と青緑色の髪の少女は微笑む。少年はちらと彼女の方を見て、それはそうだけどと答える。
「…あなたのことを考えてたんです」
あなたがなぜぼくに絡んでくるのか、と少年は続ける。青緑色の髪の少女は目をぱちくりさせる。
「それって」
青緑色の髪の少女はそう言いかけるが、少年は遮るように続ける。
「最初は偶然だと思ったんです」
あなたが何かとぼくの前に現れるのは、と少年は淡々と言う。
「でも喰田(しょくだ)さんが…リコリスのマスターが“あの人はドーリィだ”って言ってきて、気付いたんです」
あなたがぼくの前に現れる理由が、と少年は青緑色の髪の少女を見上げる。青緑色の髪の少女は気まずそうな顔をしていた。
「…ぼくは、“あなたと契約できる資格のある人間”なんでしょ」
少年が静かに尋ねると、青緑色の髪の少女の目が泳いでいた。
「…そ、それはね、少年」
「ごまかさないでください」
あなたにとって、ぼくは“適正のある人間”なんですよね?と少年は立ち上がる。青緑色の髪の少女はうぐぐ…とたじろぐ。
「もう嘘はつかないでください」
全部バレてるんですよ、と少年は青緑色の髪の少女に詰め寄る。
「なんで黙ってたんですか」
言ってもよかったのに、と少年は呟く。青緑色の髪の少女は俯いたまま暫く黙っていたが、やがてため息をついた。
「…嫌だったんだ」
青緑色の髪の少女はそう言って地面に座り込む。
「“大事な人”を失うのが」
彼女はポツリとこぼした。少年は黙ってその様子を見つめる。
「…僕には、半年くらい前までマスターがいたんだ」
君より少し年上くらいのね、と青緑色の髪の少女は付け足す。
「彼女はビーストのせいで身寄りを失って、独りぼっちだったんだ」
そんな所に僕が現れた、と青緑色の髪の少女は続ける。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 キャラクター紹介

・アリー
モチーフ:Allium fistulosum(ナガネギ)
身長:149㎝  紋様の位置:右の手の甲  紋様の意匠:ネギ坊主
ブロンドヘアをツインテールにまとめた、やや幼い外見のドーリィ。本作開始時点では誰とも契約していなかった。
固有武器はフィスタロッサム(先端が二股に分かれた片手杖。中が空洞になっており、振ることで音を鳴らすことができる管楽器としても使える)。フィスタロッサムの演奏によって万物の「魂」を震わせ、曲目に応じた変化を発生させる。音色の届く範囲であればすべて射程圏内でありすべて対象内。回避方法は音楽に『ノる』こと。好みに合わなかった場合は防御不可の攻撃を食らうことになる。対象に音楽を解する知能が無かった場合(たとえば無生物には魂はあっても知能がないので確定で命中)は必中です。
ちなみに自称が「アリウム」じゃないのは名前感が薄くて可愛くないから。縮めたことでより人名っぽく、可愛らしくなったので気に入っている。


・ケーパ
年齢:18歳  性別:男  身長:170㎝
アリーの飼い主というか何というかなあれ。本作開始時点では約8か月も半同棲状態にあったにも拘わらず別にアリーと契約していたりしているわけでは無かった。好きなものは料理と音楽。DEXが低いのでクオリティは何とも言えない(悪いわけでは無い)。アリーの音楽性と奇跡的なレベルで高い親和性を持っており、如何なる状況でどのジャンルが奏でられようと問題無くノれる。ただの節操無しともいう。
ちなみに住所は辛うじて街の外。今は亡き両親が建てた家だけど今回ビーストに壊されてしまった。父親はビーストと無関係の事故死、母親は病死というちょっとコメントしにくい過去を抱えてはいるけれど、今日も元気に生きています。
Q,なんで頑なに「フィスタ」呼びしてたの?
A,『ソード・ワールド2.0』ってゲームがあってぇ…
 〈フィスタロッサム〉っていう武器としても使える楽器があってぇ…
 見た目が完全にネギでぇ…
 魔動機文明時代(SFな時代)のとある女性吟遊詩人が使った楽器の模造品でぇ…
 要するにTRPG楽しいよって話です。
 けーちゃん視点でいうと多分最初に「Allium fistulosum」って名乗られたんだと思う。

0

Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 5

だがゼフィランサスが走りながら自身の周囲に緑の短槍をいくつも生成して、ビーストに向かって放つ。槍はビーストの頭部に次々と突き刺さり、ビーストは思わず悲鳴を上げて体勢を崩した。
「よし、このまま…」
ゼフィランサスはそう呟いて右手に槍を生成するが、ビーストは突然口から赤い火球を吐いた。
「⁈」
ゼフィランサスは驚きのあまり動けなくなってしまう。しかしそこへ赤髪をツインテールにした少女が両手に赤い刀を携えて飛び込む。
そして彼女は刀で火球を切り捨てた。
「リコリス‼︎」
ゼフィランサスが思わず名前を呼ぶと、リコリスは貴女、と振り向く。
「ビーストを前にして動けなくなるなんて全然ダメじゃない」
もっと攻めていかないと、とリコリスはゼフィランサスに詰め寄る。ゼフィランサスはご、ごめん…と申し訳なさそうにした。
「ま、いいですわ」
ここからはアテクシに任せなさいとリコリスは後ろを見る。しかしビーストは既にそこにいなかった。
「あ、あれ⁇」
ビーストは…?とリコリスは思わずポカンとする。ゼフィランサスも慌てて周囲を見回す。周りには人気のなくなった街が広がっており、先程まで光壁を張っていたアガパンサスの姿も見えない。
『リコリス、ゼフィランサス‼︎』
するとここで2人の頭の中に響くように声が聞こえた。アガパンサスからのテレパシーだ。
「どうしましたのアガパンサス」
『さっきビーストが移動し始めたから追いかけてるんだけど、あのビースト、避難所の小学校の方向に向かってるみたい!』
「なんですって‼︎」
リコリスは思わず声を上げる。
「避難所って…あの少年と戦う気のないドーリィが逃げている所じゃない!」
『ええそうなの』
アガパンサスは落ち着いた口調で答える。
『だから…私があのビーストを足止めするから、リコリスとゼフィランサスは急いで来て!』
「分かったわ」
リコリスはそう答えるとゼフィランサスの顔を見る。ゼフィランサスが静かに頷くと、2人の姿が一瞬にしてその場から消えた。

0

Flowering Dolly:アダウチシャッフル その③

ビーストに向けて突撃しながら、キリは自身の左腕をちらと見る。己の小麦色に焼けた傷だらけの肌とは明らかに異なる白く滑らかな皮膚と、掌に色濃く刻まれた、蔦草の絡み合った輪のような紋様。
「…………」
ビーストに視線を戻す。首の内の1本が、彼女の頭部目掛けて大口を開けて迫っていた。
「……ヴィス!」
そう言い、右手の剣を捨てて手を叩く。直後、鼻から上をビーストの顎が噛みちぎっていった。
「……………………ざぁんねぇんでぇしたぁ」
下半分だけ残った頭部をじわじわと再生させながら、口から挑発的な言葉を漏らす。完全に再生したその顔は、ヴィスクムのものだった。
「もうスワップ済み」
にぃ、と笑い、ヴィスクムは短距離転移によってビーストの上空に移動する。手を叩き、地上のキリと入れ替わって地面に突き立てていたままの剣のうち2本を、上空に移動したキリに向けて投擲した。それらをキャッチしたキリが首の1本を、ヴィスクムが別の剣2本を手に心臓を狙い斬りかかる。
2人の攻撃が届く直前、ビーストの頸の1つが口から黒紫色の霧を吐き出した。
(っ!)
それを見たヴィスクムは転移魔法によって距離を取り、スワップでキリと入れ替わる。
「ふぅ……毒吐くなんてズルいじゃん。キリちゃんはただの人間なんだから死んじゃうよ」
先程生成していた固有武器を1度消し、再び手元に生成する。
「それじゃ、ここからは私だけでお相手するね」
ビーストの頭部の1つが口を開けてヴィスクムを飲み込もうと迫る。ヴィスクムはそこに剣の1本を投げ、軟口蓋に深く突き立てた。その首は滅茶苦茶に振り回され、喉からは苦痛の咆哮があがる。続いて2本の頸が叩きつけられたが、それは跳躍によって回避し、ヴィスクムは頭部の一つに着地した。

0
0

Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑪

「ただいまァー、おタケちゃーん」
SSABに帰還したフィロは、真っ先に机上の籠の中で眠る赤子に駆け寄った。赤子タケはそれに気付き、彼女に両手を伸ばす。
「無事に帰って来たよぉおタケ、お前がいてくれたお陰さ。お前は生きているだけで偉いし可愛いねぇ。人間の子どもってのは本当に素敵な生き物だ……」
タケを抱き上げるフィロの背後で、ササとサヤは興味津々の様子で2人の様子を眺めていた。
「ああそうだ、サヤちゃんとササちゃんにも紹介してやろうね。この赤子が私の“マスター”可愛い可愛いおタケちゃんさ」
「ふおぉ……」
「あかちゃん……」
「赤ん坊ってマスターになれるんだ?」
「なってるってことはなれるんだねぇ」
2人が赤子をつついていると、SSABの入口扉が開き、事務員が入ってきた。
「ぴひゃあ⁉」
裏返った悲鳴をあげ、ササはサヤの背中に隠れる。
「あ、フィロスタチスさん。お疲れ様です……その双子は?」
「ん。今日拾ったドーリィとそのマスターだよ。どうも孤児の宿無しらしくってさ、私のところで引き取るが構わないね?」
「え、ええまあ、はい……それじゃあ色々と手続きするから君達もちょっと協力してくれるかな?」
事務員に手招きされ、サヤは臆さず、ササはその背中に貼り付いてびくびくとしながら、それに応じた。

0

Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑮

結局、SSABに相談したらケーパは仮住居を支給してもらえたので、あいつと二人してその住居に入り、私はベッドで休憩、あいつは台所の確認を始めた。
「けーちゃんどーぉー?」
「んー、結構良い感じだな。地味にコンロが3口だ。すげぇ」
「へー……3口だとどうすごいのさ」
「数は力だぞ。無限に料理作れる」
「なにそれ最高じゃん!」
「……しっかしさぁ」
あいつが私の方に振り向いた。
「お前、めっちゃ怒られてたな」
「あー……うん……」
SSABの破片回収のために近隣住民はしばらく町の外に出ていたから、私の魔法で人間が捻じ曲がることは無かったけど、流石に町一つねじねじ前衛アートの瓦礫山に変えてしまったのはやり過ぎだって偉い人に怒られたんだよね。地面もボコボコぐちゃぐちゃのクレーターまみれにしちゃったから……。やってることだけで言えば私も十分人類の敵といえるかもしれない。
「まぁ、代わりにSSAB就職すれば許してくれるってんだからねぇ……破格破格」
「ついでに給金も出るんだから助かるよなぁ……」
「ねー。けーちゃん何もしないのに」
「お? 俺が契約したからそのパワーに目覚めた奴が何か言ってんな?」
「うひひ、大丈夫大丈夫。感謝はしっかりしてるから……」
「それは知ってる」
言いながら、ケーパが台所から出てきた。
「どしたのけーちゃん」
「あん? 設備の確認は終わったからな。買い物行くんだよ。1曲分の対価をまだ出せてないからなー」
「ぃよっしゃぁ、引っ越し祝いも兼ねて派手にやろうよ。私もサービスで何曲かつけてあげる」
「やったぜ」
ぐいっ、と身体を起こし、早足で出て行こうとするあいつの隣に並び立つ。
互いの手の甲を打ち合わせ、2人して晩ご飯の買い出しに出かけた。