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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その④

鈴蘭が幻影を引きずっていった先は、専用道路近くを流れる川が海に出る河口付近だった。
幻影を掴んだまま水中に踏み入り、足のつかないほどの深さまで進んでからは触腕の一部を川底に付けながら移動する。
「このまま……広い所に出ようねぇ…………君はおっきいから、喧嘩するならこんな風に誰の邪魔にもならないところでやらなくちゃ。ね?」
海水域まで進出し、ようやく幻影を解放すると、その巨大な水まんじゅうはクラゲのように身体を伸縮させながら水面に浮き上がった。
「よしよし。じゃあこれで……」
左手の中にグレネードランチャーを生成する。射撃しようとしたところで、幻影が突然接近してきて、銃口に吸い付いた。
「ありゃっ。離れろぉーぅ」
幻影化した右腕で押し退けようとするが、幻影の身体は銃と鈴蘭の身体に柔らかく貼り付いていき、彼女の身体を完全に取り込んだ。
「ぐぁぁ……ええい、面倒だ」
引き金を引く。銃口を塞がれていた擲弾銃は暴発し、装填された炸裂弾どうしが誘爆し、大規模な爆発が幻影を引き剥がした。
「うぅ、痛い…………」
破損した銃の破片が処々に突き刺さった顔を拭い、幻影に向き直る。幻影はその体組織の4割程度を吹き飛ばされ、黒々とした核が露出している。
「…………どう? 参った?」
鈴蘭が尋ねると、幻影は核から原油のような黒い液体を垂れ流しながらぶるぶると震えた。
「そっか。それじゃあ、今日はもう帰ろうね? 他の人たちに迷惑かけちゃ駄目だよ? 暴れたくなったら、私が遊んであげるから。今度はちゃんと人のいない場所で会おうね」
幻影は静かに水面を泳いで川を上っていく。それを見送ってから、鈴蘭も地上に向けて触腕を動かし始めた。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その③

「あっ」
体表に僅かに残っていた機械装甲も地面に落ち、黒色の醜い全体像が露わになる。
肩から4本に枝分かれした中央の腕は人骨のそれのような構造、その周囲を囲むように昆虫の肢のようなもの、皮膜の無い蝙蝠の前足のようなもの、更に枝分かれする頭足類の触腕のようなものが生えている。
「うぅんこれは……良くない。人に見られたら怖がられちゃうな。さっさと終わらせなくちゃ」
再び突進してくる幻影を、蝙蝠型の腕で受け止める。先端の4本の鉤爪が幻影自身の勢いもあって深々と突き刺さり、幻影は痛みに苦しむように大きく身体を反らせ震えた。
「そいっ」
射撃を合わせ、爆発で更に態勢を崩し、ひっくり返す。
「……ほらほら、駄目だよ、君。『公共の場』で暴れるのはいけないことなんだから」
鈴蘭の言葉に、幻影は水まんじゅうのような身体を小刻みに震わせる。
「だから駄目なんだって。こら、だーめ。そんなに暴れたいなら、まずは人のいない所に行かなくちゃなんだよ」
グレネードランチャーの銃口で幻影をつつきながら、鈴蘭が説教を続けていると、彼女らのいる場所をバスが通過していった。
「………………ほら。ここはバスが通るんだから、びっくりされちゃうよ」
触腕を絡め、昆虫腕と蝙蝠腕を突き刺し、骨腕で表面を掴んで幻影を引きずり歩き始める。
「まずはここからいなくなろうね。マナーってものがあるんだから」

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花街辻斬り 1

頭が痛い。
身体がとんでもなく重たい。
傷は右腰と左肩。
左肩は脇差が刺さったままなのが唯一の救いだ。
しかし、右足、左腕はもう使い物にならない。
ああ、このままここで死ぬのか。

「お主、ここで何をしていんすか。」

不意に、誰かが顔を覗き込んだ。
化粧をした女の顔をみたところで、ぷつりと意識が途切れた。

(...生きてる...?)

次に目覚めたのは、見慣れない座敷だった。

「おや、起きたでありんすか。」

耳慣れない言葉に振り向くと、隣には遊女が煙管を片手に座っていた。

「誰...?」
「わっちは縁野紅(えんのくれ)。昨夜、ここの廓の辺りで倒れていたお主を、わっちが拾いんした。」

どうやら、刺されて彷徨っていたら、花街の辺りまできてしまったらしい。

「...助けてくれてありがとう。でも、もう行かなきゃ。」
「どこへ?」

眉を釣り上げ、若干食い気味に聞いてくる遊女こと紅さん。

「お義父さんのところ...」

と言ってから、少し紅さんを見る。
紅さんは一瞬目を細め、ゆっくりと告げた。

「あの男なら、もういんせん。」
「!...死んだの...?」
「さぁ。生きていても、恐らく当分、花街の辺りにはきんせん。」

そして、紅さんは続けた。

「何故、そんなに帰ろうとしんすか。」

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テーマポエムを作ろうの会 〈企画要項〉(再掲)

予告通り、企画「テーマポエムを作ろうの会」の企画要項の再掲版です。
ナニガシさんが既に紹介してくれてたけど、ぼくの方からもリマインドさせてくださいな。
という訳で以下要項。

どうも、テトモンよ永遠に!です。
超突然ですが企画です。
タイトルは「テーマポエムを作ろうの会」。
皆さんの作った「キャラクター」とその設定から、他の方がテーマソングならぬ「テーマポエム」を作る多分今までにない企画です。

詳しくルールを説明すると、
①自分が今までに作ったキャラクター(ポエム掲示板への投稿の有無は問わない)、ないし新たに創作したキャラクターの設定をタグ「テーマポエムを作ろうの会」とタグ「(キャラ名)の設定」を付けて投稿します(タイトルはなんでもOKです)。
この時、テーマポエムを作る側にとって作りやすいようできるだけ詳しく、分かりやすい設定を投稿してください。
あとテーマポエムを作る人の制作の参考になるかもしれないので、ポエム掲示板で既出のキャラクターであれば登場作品のタイトルや投稿時期を載せておくといいでしょう。
もちろん現在進行形の物語のため、まだ出せない設定があるというキャラクターは無理してその設定を載せる必要はありません。
② 自分がテーマポエムを書けそうな設定を見つけたら、それに沿ってポエムを書いて投稿してみましょう。
この時タイトルは自分の好きなものを付けても構いませんが、タグ「テーマポエムを作ろうの会」とタグ「(キャラ名)のテーマ」を忘れないようにしてください。
ちなみにポエムを書く時は、設定の投稿にレスを付けるか付けないかは自由にします。
また、同じ設定投稿から複数のテーマポエムができることがあると思いますが、それはそれで良しとしましょう。

という訳で、上記のルールを守った上で企画を楽しんでください!
開催期間は6月28日(金)24時までです。
今回開催期間を長めに設定したのは、ここでは遅筆な方が多そうだからな〜という思いと現在開催している企画との連動を考えているためです(詳細は企画「鉄路の魔女」の要項をチェック!)。
開催期間中は定期的に要項の再掲を行うので自然消滅はしないからご安心を!
ぼくも頑張って韻文に挑戦してみようと思うので、皆さんも気軽にご参加下さい!
それではこの辺で、テトモンよ永遠に!でした〜

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20個目のエピソード記念! 作者からのごあいさつ

どうも、「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」の作者です。
この度、「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」は20個目のエピソードが完結いたしました~!
15個目のエピソード完結から約1年…長かったような短かったような。
とにかくあっという間でした。

さて、今回のごあいさつでは超重大発表があります。
それは…
小説「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」は27個目のエピソードを以って「完結」することです。
投稿開始から約5年、2年程の投稿休止を経て続いてきたこの物語ですが、とうとう終わりが見えてまいりました。
これもひとえに皆さんのお陰です。
一応打ち切りとかそういうのじゃなくて、早い内から27個目のエピソードを以って終わりにしようと決めていました。
本当は25個目のエピソード(ストーリーの内容的にキリがいい所)が終わってから発表しようと思っていたのですが、あまりギリギリで発表するのもよくないよなということでここで発表することにしました。
ビックリされる方もいると思いますが、異能力者たちの物語はそこで一旦おしまいにしようと思ってます。
…まぁ、まだぼくの学生生活は続きますし、「造物茶会シリーズ」の投稿も続くので当分ぼくはここにいます。
だから「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」が終わっても、すぐにはここからいなくならないのでご安心を。
まだまだ先は長いですが、いつか来る終わりへ向かって歩いていきたいと思います。

という訳で、今回のごあいさつはここまで。
21個目のエピソードはまだ作ってないけど、造物茶会シリーズの次のエピソードがかなり長い(1万字超え)のでそのエピソードを投稿している内に書ければいいなぁと思ってます。
あと現在開催中の企画「鉄路の魔女」に参加する作品も絶賛制作中です。
ぼく主催の最後の企画になりそうなので、よかったらみんな参加してね~
ではこの辺で。
何か質問とかあったらレスちょうだいね。
テトモンよ永遠に!でした~

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その②

“鉄路の魔女”は基本的に、子どもにしか感知できない。鈴蘭が腕を失う原因にもなった大災害の頃、少年期にあった人間でも、十数年を超えた現在、社会人になった者も少なくない。ただ不老不死の魔女である鈴蘭には、時間経過による変化が理解しきれず、かつて交流し共に遊んだその人間が自分を無視している理由が理解できなかった。
専用道路の上をぽてぽてと歩き、2駅分ほど歩き続けたところでふと足を止める。
「………………や」
目の前の黒い影に、右手を挙げながら声を掛ける。人間の赤子の頭部程度の大きさだったそれは、鈴蘭の声に反応して全高数mほどにまで膨れ上がった。
「駄目だよ。こんな風に道を塞いじゃ。迷惑になるんだよ」
幻影は首を傾げるように変形し、目の前の魔女に突進を仕掛けた。
鈴蘭は右手だけでそれを受け取める。幻影の質量と速度が生み出すエネルギーは破壊力として機械腕を軋ませ、装甲の随所からは損傷によって火花が飛び散る。
「む…………」
空いた左手を大きく後ろに引き、軽く握った形に固定する。その手の中に、六連装グレネードランチャーが生成される。
「そー……りゃっ」
射撃では無く、銃器そのものの質量を利用し、幻影を殴りつける。
幻影を引き剥がし、煙の上がる右手を開閉する。
「まだ……動くかな。よし」
その手を強く握りしめ、それと同時に機械腕が爆発し、装甲が弾け飛んだ。

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鉄路の魔女:夢破れてなんちゃら その①

電信柱の上で蹲るように眠っていた鈴蘭は、朝の眩しさに目を覚ました。
凝り固まった手足を解すために大きく伸ばし、そのままバランスを崩し地面に落下する。
「ぶげっ…………いたい……」
強かに打ち付けた後頭部をさすりながら立ち上がり、鈴蘭は歩き出した。ガードレールをひょいと跳び越え、未だ始発も動かない早朝のBRT専用道路の上を進む。
目的地は、とある踏切跡。最近は毎朝通う、ある種『お気に入り』となったそのスポット。その遮断機の上に腰を下ろし、右手首を見る。
普段はポンチョ風の衣装の下に隠れている機械の右腕。その装甲の下は、部分的な廃線によって不完全に幻影化している。BRTへの移行が無ければ、影響はこの程度では済まなかっただろう。
そう考えながら右腕をしばらく眺め、鈴蘭は再びその腕を衣装の下にしまった。これまで生きてきて、人間を観察して得た知識によると、彼らは時間を知りたい時に手首を見るらしい。それが『腕時計』という外部装置を必要とするところまでは気付けないまま、小首を傾げてただ時が過ぎるのを待つ。
数十分後、始発バスが真横を通り過ぎた。
「や」
短く呼びかけつつ右手を挙げる。当然答えが返ってくるはずは無く、鈴蘭は周囲を眺め始めた。
時間の経過とともに、少しずつ、本当に少しずつではあるが、人通りも増えてくる。
そして、1つの軽いエンジン音が近付いて来るのに気付き、鈴蘭は表情を輝かせてそちらに目を向けた。
そちらからは1台の原動機付自転車が近付いて来て、1度減速してから踏切跡を通過する。
「やぁ、少年!」
その運転手に、先ほどよりも明るく呼びかけ、右手をひらひらと振る。気付かず去っていく後ろ姿を見送り、一瞬の思案の後、鈴蘭は遮断機から飛び降りた。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑨

「ああクサビラさん、最期にお友達とおしゃべりする時間をもらうよ?」
「……好きにしろ」
白神さんの問いかけに答え、種枚さんが1歩退いた。一息ついて、白神さんの方に向き直る。
「ねえ千葉さんや。1個だけ、正直に答えてほしいんだ」
「……何でしょう」
白神さんの質問が何なのかは、既に察しがついていた。深い藍色の虹彩に縦長の瞳。微笑を浮かべた口から伸びる鋭い牙、さっき攻撃を受けた際に身体を庇ったのか、上着の袖の破れた穴から覗く、滑らかな栗毛の毛皮。パチパチと音を立てて、彼女の身体の周りに目視できるほどはっきりと流れている放電。
「千葉さんや。わたしのこと、怖いと思う? 正直に答えてほしいんだ。『怖い』って、そう言ってくれたら、わたしは人間に混じっているべきじゃない。大人しくクサビラさんに殺されるよ。それが正しいことなんだから、わたしは気にしない」
「…………」
正直に答えるとしたら、たしかに『怖い』と言わなくちゃいけない。ヒトじゃない存在の恐ろしさは、実体験として知っている。友人として接していた人が、『人』ではなかった。その事実に戦慄するなという方が無茶な話だ。
「…………全く怖くない、とは言いませんよ。妖怪だっていうなら」
「そっかー」
「でも、それでも白神さんは自分にとっては大事な友人です。そんな白神さんを失いたくない。……それに」
種枚さんに目を向ける。
「白神さんなんかよりよっぽど恐ろしいモノ、自分は見慣れてますから。だから大丈夫、白神さんは怖くなんかありません。可愛い可愛い私の友人ですよ」
「ち、千葉さぁん……!」
種枚さんがどんな反応を示すのか、注意を向けてみると、種枚さんは後方の自身の足跡を眺めていた。少しずつ火の手が広がりつつある落葉に向けて適当に腕を振るうと、落葉が大きく舞い上がり、火もかき消された。

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鉄路の魔女 〈設定〉

この書き込みは企画「鉄路の魔女」の〈設定〉書き込みです。

〈設定〉
・鉄路の魔女
鉄道路線へ対する人々のイメージから生まれる少女の姿をした“なにか”。
大抵子どもにしか認識・接触できないが、稀に大人でも認識・接触できる者がいる。
自らのイメージ元の路線へ対する人間のイマジネーションが少しでもあればその姿を保つことができる。
同じく人間のイマジネーションを糧とする“幻影”には敵対的。
自らのイメージ元の路線に対する人間のイマジネーションを消費することで様々な行動が可能で、戦闘時には固有の武器の生成が可能。
名前としてイメージ元の実在・現存する鉄道路線のラインカラー/車体カラー名を名乗り、二つ名として「〇〇(モチーフとなる実在・現存する路線名)の魔女」を名乗る。
イメージ元の路線のラインカラー/車体カラーにちなんだ華やかな衣装・容姿を持つ。
イメージ元の路線が同じ会社の“魔女”は互いのことを“姉妹”と認識する。
イメージ元の路線が通る街に出現することが多い。
人間のイマジネーションが尽きない限り不老不死。
なぜ少女の姿をしているのかなど謎が多いが、彼女たちはほとんど語ろうとはしない。

・幻影
“鉄路の魔女”たちの敵。
そのどれもが禍々しい姿をした巨大な怪物。
“魔女”たちと同じく人間のイマジネーションを糧にするが、それを欲するあまり人間のイマジネーションを根こそぎ奪ってしまい、彼らを廃人化させてしまうことがある。
そのため“魔女”たちからはよく思われておらず、討伐の対象となっている。
多くの人間が住む都市部に集まりがち。
その正体は、廃線になった路線のイメージから生まれた“鉄路の魔女”の成れの果て。
廃線になったことで人々から忘れ去られ、自らのイメージ元へ対する人間のイマジネーションを失うことで姿を維持できなくなると彼女たちは“幻影”化する。
幻影になってしまえば元の人格は失われるし、本能の赴くままに人間のイマジネーションを何へ対するものなのか見境なく喰らうようになる。
これに対抗できるのは“魔女”のみである。

という訳で設定集は以上になります。
何か質問などあればレスをください。
では、皆さんのご参加楽しみにしております。

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夢シリーズ、「江戸で叱られた夜」パート1

私は大学二年の者だ。
ここのところ、大学の授業でうまくいかないことがあり悩んでいた。
「自分に足りないものは何なのか?」「何が不安なのか?」
そう考えるうちに、自分が苦しくなっていた。
そんな日を繰り返していた時のことだ。

その夜、早めに寝ることにした。まずは、日ごろの生活リズムから整えようと思い、
二三時に寝ることにしたのだ。
寝床に入り目を閉じた。

すると、こんな夢を見た。ここからは、夢の中での話だ。

なんと私は、江戸に帰っていた。夢では、今までもたまに江戸に帰っていたのだがこの日は違った。
時の治世者は、8代将軍、徳川吉宗公であった。江戸では、たまに「徳田新之助」
として会うことが多いのだが、この日は、会わなかった。
私は、武士の姿で江戸の町を歩いていた。刻限は、子(ね)の刻(現在の夜11時)
だった。
考えていることは、ただ一つ。己の大学生活のことだった。好きな事だけ取り組み、苦手なことは、後回し。自分の将来を必死で考えているつもりが、結局行動に移さず、考えただけで満足していた。そして大学に入ったときの志を忘れかけていた。
ただただ、悔しい気持ちで学生新聞を見ていた。この時間ということもあり、
人は誰も出歩いておらず、歩いていたのは私一人だった...(続く)

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑥

種枚さんと白神さんは、自分が鎌鼬くんと出会ったあの場所まで入っていき、そこでしばらく何か言葉を交わしていたようだった。
いつ入っていったものか、そもそも割り込んで良いものか。そんなことを考えていると、突然種枚さんの姿が消えた。
そして一瞬の後、白神さんの斜め後ろに倒れ込むようにして現れた。普段の種枚さんからは想像もできない、まるで走っている途中で躓いて転んだみたいな……。
「……ああクソ、キツいなコレ……。熱なら平気なんだが、電気か?」
「いやぁ、実はわたし、静電気を結構溜め込みやすい体質でして」
「へえ、特異体質どうし、お前が人間なら仲良くできそうだったものを」
「メイさんとしては人間じゃなくても仲良くしてほしいなー、って」
「ハハ、ほざけ」
種枚さんがよろよろと立ち上がり、右手を大きく振りかぶる。以前見せてもらった、遠距離から幽霊を吹き飛ばしたあの技だ。
「触れちゃマズい、ってんならさァ……距離とって殺す技も、揃えてあンのよこっちはァ!」
種枚さんが右腕を振り下ろし、技の余波で白神さんが吹き飛ばされる。
流石に目に見えて問題が起きている以上、もう放ってはおけない。足が半ば勝手に動き出し、自分は二人の方へ駆け寄っていた。
「ちょっと待ってください種枚さん!」
2人の間に割り込むようにして、次の攻撃を放とうと右手を振り上げた種枚さんを制止した。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その⑤

落葉の厚く降り積もった地面を踏みながら、種枚は人の目の届かない公園の最奥で立ち止まった。
「……私、この場所好きなんだ。落葉って踏んでると楽しいだろ?」
「わぁ感性が幼児」
「うっさい」
「まあ、わたしもこのガサガサの感触は好きだけども」
「お前もじゃねーかシラカミメイ」
2人の会話は、何でも無い雑談から始まった。
「あ、そういやシラカミィ」
「何だいねクサビラさん」
「お前、歳はいくつだい?」
2人の周囲の空気が張り詰める。
「んー? メイさんは大学1年生だから、お酒も飲めないピチピチの19歳ですよー」
「嘘が下手糞だな」
2人の放つ殺気が一層色濃くなる。
「……ウソとは?」
「人に化けられる『妖怪』が、たった2桁の年齢なわけ無エだろうがよ。なァ、“雷獣”?」
「ありゃりゃ…………バレちゃってましたかー」
「ああ、一目見て分かった。なんでそんな奴がただの人間の『お友達』なんかやってンだ?」
「……人外は人間と友情を育んじゃ駄目だと思ってる派の人?」
「まあ、そうだね。人間の居場所に踏み込んだ奴らは全員死んじまえと思ってるよ」
「荒っぽいなぁ……。じゃあわたしも?」
「察しが良くて助かるよ」
種枚の姿が消えた。

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悪霊の指揮者

榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)
年齢:青葉とタメ  性別:女性  身長:145㎝前後
好きなもの:家族、自分、悪霊、飴
嫌いなもの:反抗的な無能、調子に乗ってる無能、身の程を弁えない無能、果汁入りの飴
悪霊遣いの少女。両手の十指に1体ずつ悪霊を封じ、その霊体と霊障を自在に操る能力を持っている。当然霊感もある。現在の手持ちは右手親指に封じた無数の手の霊“草分”、右手中指に封じた大鎧と刀で武装した武者の霊“野武士”、右手小指に封じた暗紫色の炎を纏った左眼だけ嵌まった頭蓋骨の霊“邪視”、左手薬指に封じた身長約2.4mの女性霊“私の愛しいエイト・フィート”の4体。
家族が大好きで心の底から尊敬している。特に名付け親でもあり、霊感があることから経験してきた様々な怪異の話を寝物語として語ってくれた母方のお祖母ちゃんには滅茶苦茶懐いている。“私の愛しいエイト・フィート”もお祖母ちゃんの因縁から受け継いだもの。
家族が大好きなので、家族から血や縁や名や才や姿やその他様々なものを受け継いで生まれ育ってきた自分の事も大好き。
そこまでは良いのだが、家族愛が過ぎて自分の認めた相手以外のことは見下しているところがある。
以上の理由で性格はきわめて悪い。他人と会話する時高確率で罵倒か軽蔑か軽視が含まれてる。教師や大人相手でも態度が変わらねえってんだから大したものです。
普段から身に付けているウエストポーチには、飴ちゃんが大量に入っている。その理由については彼女曰く「アタシは軍師だから頭たくさん使うの」とのこと。他人に分けてくれることはほぼ無い。
ちなみに名前の「ユリ」の部分だけ片仮名なのは「千百合」だと「せんひゃくごう」と区別がつきにくいと思ったお祖母ちゃんの意思。千ユリ本人はちょっと変わっているので気に入っている。

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少年少女色彩都市・某Edit. Outlaw Girls Duet その③

エベルソルが口を開く。するとその奥から、無数のぬらぬらとした質感の触手が伸びてきた。理宇はスティックでそれらを叩き落としながら、少しずつ距離を詰めていく。
(ロキ先輩の弾幕は、タマモ先輩のと違って自由に曲がるから、私が壁になってても大丈夫なはず。こいつの意識を、私だけに集中させるんだ!)
僅か2mほどの位置まで接近し、両足を踏ん張って触手の撃墜を続ける。その隙に、ロキが生成したインキの光弾が回り込むようにしてエベルソルの胴体に命中していく。
光弾のうち1発が深くエベルソルに突き刺さり、体内に到達した。
その穴を押し広げるようにして、体内から更に大量の細い触手が伸び上がり、理宇に襲い掛かる。
「えっ、待っ」
突然倍化した攻撃に動揺しながらも、理宇は冷静に防御を続ける。
「……リウ」
不意に、ロキが呼びかけた。
「えっ、先ぱ、うわぁっ⁉」
そちらに一瞬意識が割かれたためか、あるいは単純な注意不足のためか、足下に忍び寄っていた1本の触手に対応できず、左足首を絡め取られ高く逆さ吊りにされてしまった。
「わあぁっ⁉ ろ、ロキ先輩、助けっあああああ⁉」
エベルソルは理宇を大きく振り回し、レースゲームの筐体に向けて投げつけた。
「リウ、無事?」
「っ……がっ、はぁっ……はぁっ……! ど、どうにか……って、うわあっ!」
理宇に再び向かってきた無数の触手を転がりながら回避し、ゲームの筐体の隙間を駆け抜けた。

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視える世界を超えて エピソード8:雷獣 その④

昼休みの種枚さんと白神さんの様子、何というか、違和感があるように思えた。2人がかち合った瞬間、空気が重くなったような、嫌な感じだった。
結局あの場のストレスを引きずっていたのか、4限の講義もあまり集中して受けられなかったし……。
そういえば白神さんも、たしか今日は4限までだったっけ。
「…………5限、サボるか」
そう決心し、講義棟から急ぎ足で出て、まっすぐ正門に向かった。
どうやらタイミングとしては完璧だったみたいで、少し先を歩く白神さんの後ろ姿が見えた。
歩調を早めて、追いつこうと試みる。そして、彼女に続いて正門をくぐろうとして、自然と足が止まった。
白神さんの目の前に、種枚さんが立っている。種枚さんはフードを深く被っていて表情は分からないけれど、何か話しているらしい。
何となく近づけずに距離を取って見ていると、いくらか言葉を交わしてから二人は連れ立って歩きだした。見失ってはいけない気がして、距離を取ったまま後を追う。

2人が向かった先は、自分が鎌鼬くんと初めて遭遇したあの公園だった。その敷地内には日没直前とはいえまだ少し人が残っている。いくら種枚さんといえど、まさか白神さん相手に荒っぽい真似をすることは無いだろう。
きっと大丈夫だと心の中で自分に言い聞かせ、どんどん奥の人目に付かない場所に入っていく二人の尾行を再開した。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 20.エインセル ⑫

しかし目の前の十字路にさしかかった所でわたしはぴたと足を止める。
視線を感じてハッと右手側を見ると、路地の奥に”わたしと瓜二つの人物”が立っていた。
「え」
わたしが思わずそう呟くと、先を歩く耀平達も足を止めた。
「どうした?」
耀平がそう尋ねてきたので、わたしはあそこ!と路地の奥を指さす。
しかし耀平達が路地の奥を覗き見た頃には、そこに誰もいなかった。
「誰もいねーぞ」
「さっきから多いよな、そう言うの」
耀平と師郎がそれぞれ呟く。
「またそっくりさんって奴かい?」
師郎がそう聞くので、わたしはうんとうなずく。
「…そっくりさん、か」
不意に雪葉がポツリと呟いたので、わたし達は彼女に目を向ける。
雪葉はわたし達の視線を感じて、あぁこっちの話と手を振る。
「何、心当たりでもあるのか?」
耀平がそう尋ねると、雪葉はまぁねと答える。
「心当たりがあると言うか、そういう事ができる人を知っていると言うか」
雪葉がそう言うと、穂積はそれって…と言いかける。
雪葉は穂積に目を向けるとこう笑いかけた。
「…まぁ、そういう事さ」
雪葉はそう言って上着のポケットからスマホを取り出した。