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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑦

時々考えるように虚空に目を泳がせながら、キュクロプスは2分ほどかけてメモを完成させたようだった。
「これくーださい」
メモ帳のページを破り、こちらに差し出してくる。ページを受け取り、内容を確かめる。
『牛革3頭分、鋼鉄400㎏、合成ゴムロール10m、プラスチック75㎏、和紙1m四方、アルミニウム10㎏、銅線200m、インバーダの硬質な外皮または甲殻用意できるだけ、インバーダの羽毛用意できるだけ、インバーダの爪または牙用意できるだけ、米5㎏、鶏胸肉300g程度、キャベツ1玉、醤油1L、食器用洗剤1本、歯ブラシ2本、ペット用ウサギ1羽』
後ろの方は食品や日用品だ。1人でこんな場所に暮らしているわけだから、生活支援に必要なのは分かる。しかし、前半の大量の素材の要求は、キュクロプス1人の需要にしてはあまりに多すぎる。まるで工場か業者の発注ではないか。
1度、自分の手帳を確認する。

・キュクロプスが欲しがった物は可能な限り提供すること
・特に工業素材やインバーダの遺骸は絶対に入手すること
・ペットの要求は断ること(長期間作業にかかりきりになることが多いキュクロプスには面倒を見られない)

「……ウサギ以外は次来た時に」
「ざんねん」

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その⑥

キュクロプスは迷いない足取りで村落の中を突き進み、一軒の民家に扉をノックすることも無く入っていった。
キュクロプスの後を追ったものか、しかし不法侵入するわけにもいかないと逡巡していると、数分ほどしてまたキュクロプスが出てきた。
「あ、キュク……」
キュクロプスは、まるで私のことが見えていないかのように横を素通りして、またどこかへ歩き出した。
目的地はまた別の民家のようだった。そこからも数分ほどして出てくる。そしてまた別の民家へ。
それを何軒か繰り返し、また島民と交流して、作業場のある丘陵に引き返していった。
帰りは、行きで通ったのとは反対の斜面を登る。そちら側は、一面に何かの果樹が植えられていた。
住居に帰ってから、キュクロプスはまず小屋の方に入っていった。一瞬迷ったものの、後を追って中に入る。
扉を閉じて振り返ると、目の前にキュクロプスが立っていた。手には紐状の道具を持っている。
「おじさん、動かないで」
「は、はい」
いやに重い声色に、身体が強張る。
キュクロプスが持っていたのは、巻き尺だった。それを私の身体の至る所に当て、どうやら私の身体の採寸をしているらしい。
「…………ん」
終わったようで、キュクロプスは一度私から離れ、テーブルの上のメモ帳に何かを書き始めた。

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CHILDish Monstrum 参加作品の誕生秘話やコンセプトその他①

〈アウトロウ・レプタイルス〉
誕生秘話
大昔、何かにアウトプットするという発想も無かった時代、ナニガシさんが脳内に設定だけ考えていたキャラクターが、今回の企画にめちゃくちゃ合致していたので使ってあげようと思いまして。
Q,サラマンダーってレプタイル(爬虫類)じゃなくね?
A,細けえ事ァ良いんだよ。
Q,ラムちゃん不死身すぎない?
A,ちゃんと死ぬよ。外的要因で殺すのはちょっと難しいけど、魂や生命を直接抜き出せば死ぬんじゃない? 不死身なのは肉体だけだし。
Q,ククルカン(ケツァルコアトル)って神様じゃ……。
A,外見は翼のあるヘビさんだしセーフセーフ。

〈水底に眠る悪夢〉
誕生秘話
カナロアって神様がいるんですよ。ハワイの神様で、魔術が得意で、外見はタコさんなの。「タコ」「魔術」「神様」何かを思い出す特徴ですね。
そう、偉大なるクトゥルフですね。神様が条件的にセーフかは分からなかったんですが、クトゥルフはどうも、一神話生物がアホほど高齢になった結果神格扱いされるレベルになった個体という説があるらしいのです。じゃあカナロアもセーフやろ()ってことで。
そんな感じでできたお話です。
Q,何故カナロアが“ロード”?
A,龍王。ググれ。
Q,何故クトゥルーが“リトル”?
A,ク・リトル・リトル。

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視える世界を超えて エピソード5:犬神 その⑦

「犬神ってモグラみたいな姿してたんですね」
「まあ、名前からは想像しにくいよねェ」
「……そういえば、なんで犬神が憑いてると土が操れるようになるんです?」
そう問うと、種枚さんは足を止め、顎に手をやってしばらく考え込んだ。
「……これは完全な私の想像なんだけど、それで良ければ」
「お願いします」
種枚さんは再び歩き出し、話し始めた。
「まず君、そもそも犬神がどうやって作られるのかは知っているかい?」
「知りません。そもそも作れるものなんですか?」
「ああ。犬神は呪術的な方法で人工的に生み出すことのできる怪異だ。その製法にはいくつか伝承があるんだけど……その一つが、生きた犬の首から下を地面に埋めて、飢えさせるってものなんだよ。その後ももう少し工程が挟まるけど、そこは大して問題じゃない」
「はあ」
「犬神は生前、土の中で身動きを取れず死に向かう苦痛を味わう訳なんだ。つまり、あの生き物はあらゆる怪異の中で、実体験として最も『土壌の恐ろしさ』を知っているんだよ。それが関係しているんじゃあないかな、って」
「なるほど……?」
話しているうちに、駅に着いた。
「ああ、君は返ってくれて良いよ。私は徒歩で帰るから」
「……さいですか。では、失礼します」
当然のようにとんでもないことを言う種枚さんに会釈して、改札を通った。

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CHILDish Monstrum:迦陵頻伽

モンストルム”ヨグ=ソトース”の肉体生成がようやく終了した。
管理モニタから目を離し、大きく伸びをして凝り固まった身体を解してから腕時計を見る。午前7時過ぎ。これで三徹目か。
流石に一度仮眠を取ろうとデスクを立つと、部屋の外からアコースティックギターの音が近付いてきた。
「……む、カリョウビンガか。ちょうど良い」
そう呟くのとほぼ同時に、モンストルム”カリョウビンガ”が研究室に入ってきた。
カリョウビンガ。仏教上の霊鳥の名を持つモンストルム。私の『研究室長』という立場と権力を濫用……もといほんの少し活用して作成した、非戦闘用モンストルム。『あらゆる楽器と音楽技法を扱う』能力を持つ、華奢で小柄な少女のような人間態の、可愛らしい演奏人形だ。別に外見は私の趣味では断じて無い。ただ単に生成コストが低く見た目に圧迫感が無いからそうしているだけだ。現在は『研究室の護衛』の名目で自由に歩き回らせている。
と、カリョウビンガが部屋に入ってきた。
「おはようございます、作者さん」
「やあ、カリョウビンガ。今日はギターかい?」
「はい。……作者さん」
「何だい?」
カリョウビンガは何も言わずにこちらをじっと見つめ返している。
「カリョウビンガ?」
「…………」
「どうしたんだ、私の可愛いカリョウビンガ?」
「何でも無いです。そうだ、新曲を作ったのです。子守歌にどうですか?」
「良いね、ちょうど仮眠を取ろうとしていたんだ」
カリョウビンガと連れ立って、仮眠室に移動する。カリョウビンガがプレイヤーにCDを入れて、再生ボタンを押した。流れてきたのは、アップテンポでロック調の音楽だった。2分半ほどでその曲は終了した。
「……うん、良い曲だったよ。しかし驚いたな、デスク・トップ・ミュージックと歌声合成ソフトまで使いこなすとは」
「作者さんが創ったカリョウビンガですから。それでは、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
カリョウビンガはぺこりと頭を下げ、仮眠室を後にした。

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その④

「まあ良いや。朝ごはん食べるから外で待ってて。作業場には入らないでね、蒸し死んじゃうから」
キュクロプスに言われて、ひとまず小屋の前で待機することにする。
手帳の内容を復習しながら待つことおよそ30分。扉が僅かに開き、キュクロプスが顔だけを覗かせてきた。
周囲に注意を払うキュクロプスと目が合う。
「いた」
「やあ」
キュクロプスが屋外に出てきた。そのまま丘陵を下り、麓の村落の方へ歩いて行く。とりあえず後をついて行くことにする。
道中、私は手帳に書いたとある項を思い返していた。

・散歩には、手も口も出さないこと
・散歩には、必ず同行すること

黙ってついて行け、か。たしかに過干渉はストレスになるだろうが、モンストルムはあんな外見でいても所詮は“兵器”だ。手出しすらしてはいけないというのは奇妙な……。
考えながら歩いていると、いつの間にか村落に到着していた。
既に活動を開始していた島民たちは、キュクロプスの姿を見ると親し気に近寄っていって挨拶を交わしていた。意外にも、キュクロプスはこの島ではかなり親しまれているらしい。
キュクロプスは島民の1人と随分話し込んでいて時間がかかりそうだったので、近くにいた別の島民に話を聞くことにした。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス キャラクター紹介

・フェンリル
性別:男  外見年齢:16歳  身長:160㎝
特殊能力:行動の全てが破壊に帰結する
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「破壊力」は「強さ」。無数の拘束具でガッチガチに拘束されているものの、ほぼ無意味。何なら彼の能力で全滅していてもおかしくないので、気を遣っているまである。自分に邪魔な錘を付けて閉じ込める人間は嫌いだが、暴れた分だけ喜んでくれるから人間を守ることは好き。拘束具は邪魔だから嫌いだが、武器になるから好き。正直脱走しようとすれば余裕で出られるし嫌いな人間たちに迷惑かけられるからアリだとも思っているけど、今の生活も好きなので別に逃げない。

・スレイプニル
性別:女  外見年齢:16歳  身長:166㎝
特殊能力:超高速で移動する
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「速度」は「強さ」。無数の拘束具でガッチガチに拘束されていたものの、フェンリルに解放された。好きなことは走ること。普段は隔離施設の廊下を爆走している。できることなら永遠に走り続けていたいのだが、速度があり過ぎて周囲への被害が尋常でないので、あまり走らせてもらえない。そういうわけで人間は嫌い。恩人であるフェンリルが脱走しないので自分も我慢しているが、脱走派が多数派になった瞬間脱出する準備はできている。

・デーモン
性別:男  外見年齢:15歳  身長:155㎝
特殊能力:人間の望みを叶える
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「実行力」は「強さ」。人間大好き派で能力も対人間のものだが、「受けた望みをどう叶えるか」にちょっとした問題があってあまり表には出せない。別に脱出しても構わないとは思っているけど、それをして嫌な気分になる人間もいることは理解しているので逃げたくない。

・ベヒモス
性別:女  外見年齢:14歳  身長:150㎝
特殊能力:自身の質量を変える
DEM社の地下深くに幽閉されているモンストルム。「質量」は「強さ」。初めて戦場に出た際、ちょっとやらかし過ぎて閉じ込められた。そのせいで人間は大嫌いだし逃げ出したい。それはそれとして一般人が危ない目に合ってるのを放っておけない程度には良識と正義感ある、良い意味で普通の子。割とタフいけど、もう二度と戦いたくないです。守ってもらう側になりたい。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑭

「……何?」
「私、モンストルムやめて人間になる」
「生物学的に無理じゃね?」
フェンリルの茶々を無視して続ける。
「人間側になる。それで、まともなモンストルムの子たちに守ってもらう」
「良いんじゃない? じゃ、あと2人脱走派を引き入れようか」
「……なんで2人?」
「俺の意向だよ」
フェンリルが答える。
「俺は別にどっちでも良いから留まっとく派だったんだが……いや脱走して人間ども困らせるのもナシじゃねーんだけど、スレイプニルが俺とじゃなきゃ出ないっつーから決めたんだ。俺らの集まりが偶数の時、票が偏った方に決めるって。今はデーモン合わせて2対2だな」
「そういうこと。まあ、ここに不満持ってる奴はそれなりにいるし、すぐ出られるんじゃない?」
スレイプニルはそう言って、自分の独房に引き返していった。
「デーモン、私のことも運んでくれる?」
「勿論」
私もデーモンに自分の独房まで連れて行ってもらった。何も無い硬い床に寝転がったけど、これまでの壁に括られた状態よりもずっと身体が楽だ。
ここでは最低限の食事は貰えるし、“メンテナンス”も受けられるから、この怪我もきっと良くなる。そしたら、フェンリルやスレイプニル達と一緒に脱走したいってモンストルム達を集めて、外に出るんだ。何だか希望が出てきた。
まずは戦いで失った体力を回復させなきゃ。私は再び、気絶するように眠りに就いた。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 7日目

時、14時12分。場所、インバーダ対策課のメンテナンスルーム。
ダキニの『協力』のおかげで、私はあの漁村に留まれることに決まった。と言っても、外傷の治療のため、一度古巣の大都市に戻る必要はあったわけだが。
老人にしばしの別れを告げ、スーツの男の乗って来た自動車で帰還し、現在はメンテナンスを受けている。
全体的な治療を済ませ、寝台の上で安静にしていると、ダキニが軽やかな足取りで枕元にやって来た。
彼女曰く、相棒である私について、あの漁村まで来てくれるとのこと。私には恩義があるが、ダキニにとっては何の思い入れも無いはずだろう。それについて問うと、彼女は私を救った恩をあの村に覚えているのだとか。
私の愛しい荼枳尼天の異能は、『人間の守護』に主眼を置いている。あの小さな村を守るためには有用だろう。
彼女の申し出に感謝して、私はひとまず眠りに就くことにした。傷は癒えた。体力の消耗も明日まで眠れば回復するだろう。
明日目覚めたら、朝一番であの村に帰ろう。道は覚えているし、足はダキニに頼めば良い。対策課の人間に頼めば、もしかしたら車ぐらい出してもらえるかもしれない。
あの漁村でも、きっと私は戦いに身を投じることになるだろう。しかし私の心は不思議と、これまでの淡泊な義務感とは違う、奇妙で幸福な高揚感で満たされていた。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑬

次に目覚めたのは、あの地上と地下隔離施設を繋ぐエレベータの中だった。周りを見回してみると、怪物態のデーモンが私を肩に担いでいる。
「デーモン、ありがとう」
「気にしないでよ、フェンリルの頼みだ。彼がやると君、死んじゃうからねぇ」
「……そういえばフェンリル、さっきも言ってたけどどういう能力なの?」
「あ? 俺の能力か。『行動全てが破壊に変換される』、そういう能力。手足を軽く曲げるだけでも、呼吸をするだけでも、心臓が打つそれだけでも、全部周りをぶっ壊す。耐久力も硬度も全部無視してな。そういう能力。頑張れば止めておくこともできるんだけどな」
彼が言い終わった辺りで、エレベータが地下に到着した。そこから出て、スレイプニルが向かったあの地下空洞の方を見る。2体の馬のインバーダはどちらも舌を出して地面に倒れていて、代わりに8本脚の灰色の馬が立っていた。灰色と言っても、まるで光り輝くような艶やかな毛並みで、灰というより銀って感じだ。
「よ、スレイプニル。どうだった?」
「楽しかった」
言いながら、その馬はスレイプニル(人型)に戻った。
「ベヒモス。戦いの感想は?」
「……今回は周りに普通の人も居たから、みんなを守らなきゃって思って、最初より頑張れた。……みんなを守れてよかったと思う」
「そう。それじゃ、これからも人間を守るために戦い続けたい?」
「いや」
驚くほど即答できた。
「ずっと精神擦り減りっぱなしだったし、身体痛いししんどいし、もうやりたくない。……ああ、スレイプニル」
「何?」
「私、外に出てやりたい事決まった」

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視える世界を越えて エピソード5:犬神 その⑥

土煙が止んで数分、固唾を飲んで見守っていると、種枚さんがあの少女を背負って穴の外まで跳び上がってきた。
「まけたぁー」
種枚さんの背中で満足げにそう言う少女……犬神ちゃんだったか。
「勝ったー」
口調を合わせるように言う種枚さん。
「でも思いっきりぶつかり合えて楽しかったー。まんぞく」
「私もだよ犬神ちゃん。良いガス抜きになった」
自分達の前まで和やかな雰囲気で歩いて来てから、犬神ちゃんが自分から種枚さんの背中を下りた。そのまま種枚さんの正面に回り、右手の人差し指を突き付ける。
「今日はありがとね、キノコちゃん。次は負けないから、覚悟しておいてね?」
「ああ、期待してるよ」
種枚さんはニタリと笑って答え、犬神ちゃんの指に彼女自身の人差し指を軽く突き合わせた。

「なァ、君、あの子に何を見た?」
駅までの帰り道、不意に種枚さんが話しかけてきた。
「はい?」
「『視えて』いたろ? 何が憑いていた?」
「…………ああ」
そう言われてようやく思い出した。鎌鼬くんにも聞いたが、あの子に憑いていたものはとても「犬神」とは思えなかった。
「そうですね…………何か、何て言うんでしょう……。肩に、その……モグラ? みたいなのが」
「それが『犬神』だよ。あの子は犬神憑きなんだ。土や岩を操るあの力も、どうもそれ由来みたいだ」
鎌鼬くんから既に聞いている、というのは言わないでおく。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 6日目-2

ダキニに支えてもらい、居間に入る。スーツの男に老人が掴みかかっていた。ダキニと協力して二人を引き離し、話を聞くことにする。
スーツの男曰く、私を迎えに来たとのこと。老人には、私を保護していた謝礼も払うつもりでいるとか。なるほど何もおかしくない。
老人曰く、私のような子供を死にかねない大怪我をするような戦場に駆り出す所業が許せないとのこと。これは分からない。私は兵器だと、彼には既に言ったはずだが。
しかし私の意思としては、再び戦場に戻れるのは喜ばしいことだし、対策課やDEM社の預かりになった方が修復も早いだろうから、スーツの男の側につきたいところだが。
老人は善人である。この村の人間たちもまた、善人である。無知ながらも、然して逞しい善人たちだ。
そして私は、彼らに生命を救われた恩がある。インバーダの魔の手から守られない、哀れなこの村を捨てるように別れるというのも、あまりに不義理ではないか。
そこで私から、スーツの男に申し出た。私にこの村の守護を任せてほしいと。
スーツの男曰く、大都市の防衛にはより戦力を割く必要があり、元の担当区域とこの漁村の距離が数十㎞もあることから私が抜けた穴を埋めるのも簡単な話では無いとのこと。早い話が、彼は私の申し出に反対しているわけだ。
全く理解できないことである。たかが人間如きが、何故モンストルムに逆らおうとするのか。『生み出した側』である。ただそれだけの理由で、自分たちが決戦兵器の意思を操れるとでも思っているのだろうか。
私が手を出す前に、ダキニが動いてくれた。彼女が怪物態に変化し、巨大な白狐の牙をスーツの男の喉元に宛がったのだ。

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その③

恐る恐るといった感じで、屋内を覗く。入口から右側の壁は、一面の本棚に埋め尽くされており、それが入り口と反対側の壁の方まで侵食している。入り口扉の正面には簡素な台所があり、入って右には細長いテーブルが置いてある。椅子は無い。家具はそれだけだった。
無意識に小屋の中に1歩踏み入り、中の様子を見ていると、奥の方で何か物音が聞こえた。本棚で埋め尽くされた角の所だ。
そちらに目をやったのとほぼ同時に、本棚の上からだらり、と腕が垂れ下がった。棒切れのように細く、小麦色に日焼けした、柔い子どもの腕だ。どうやら、本棚の上に小さなロフトのようなスペースがあるらしい。
その腕をじっと見つめていると、子どもの全身が蛇のように床にずり落ちてきた。
もう11時を過ぎているが、まだ寝ぼけているのだろうか。うつ伏せのまま動かなかったその子どもは、突然がばっと身を起こし、こちらを睨みつけた。
「……おじさん、だれ?」
まだ“おじさん”なんて年齢では無いと思っていたんだが……。
「えっと、勝手に入ってきて悪かったね。私は見沼といって、前任の浦和さんに代わってインバーダ対策課から来た者だ」
「…………?」
「君が、モンストルム“キュクロプス”だね?」
「ん」
私が名乗ったのには微妙な反応をしたが、向こうの名前を確認すると、短く頷いて再びロフトに潜り込んでいった。
そして数分ほどして、寝間着から着替えてまた下りてきた。
「ねーおじさん、おじいちゃんは?」
キュクロプスが尋ねてくる。“おじいちゃん”というのはおそらく、前任の浦和さんのことだろう。
「浦和さんは、定年ということで退職したよ。それで今年から、私がこの島を担当することになったんだ」
「…………?」
キュクロプスはピンと来ていないようだった。

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我流もの書きスタイル:世界改造論

このポエム掲示板では、時折生徒の皆さんが何かしらの企画を用意してくださることがあります。僕も現在『ピッタリ十数字』という企画を打ち出しておりますね。詳しくはナニガシの過去の投稿を漁っていただければ。

閑話休題。
生徒主催の企画の中には、大きく分けて
・ポエム企画
・小説企画
・ジャンル不問企画
があります。
ところでナニガシさんの主観では、ポエム企画に寄るほどそれなりに人が集まり、小説企画に寄るほど人の集まり方が微妙になる傾向があるっぽいのです。ナニガシさんの場合は企画ってだけで反射的に首突っ込んじゃうんですが。

小説企画に人が集まりにくくて、ナニガシさんが躊躇無く参加しているその違いって何なんやろなー、と考えていて1つ思いついたのが、「他人様の用意した世界の中で好き勝手暴れることができるか否か」じゃないかね、と。そう思った次第。
だってほら、他人様の創り出した世界で下手こいて致命的な解釈違い起きたりしたら何かあれじゃないですか……。(創造主側で経験あり)
ナニガシさんはアマチュアTRPGプレイヤーなので、与えられた世界の中でルールを守りながら、時には穴を探しながら、ある程度好き勝手やるってことに慣れているんじゃないかと。

というわけでポエム掲示板のみんな! TRPGやろうぜ! 意外とライブ感で物語書くのに役立つぞ!

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑫

「っ! 危ない!」
体重をほぼ0にして少しでも足を速め、大蜥蜴の前に飛び出す。奴は私に噛みつこうとしてきたけど、全身の質量増加で受け止める。
「モンストルムが外に1人いるはずです! 彼に指示を仰いでください!」
蜥蜴との押し比べに集中している中、辛うじて背後の人たちに向けて叫んだ。あの人たちが慌てて逃げ出す足音が聞こえてくる。彼らがいなくなれば、少しは安心できる。フェンリルは強いから、きっと彼らを守ってくれるだろう。
「がっ…………!」
突然、下腹に強い衝撃を受けた。大蜥蜴が高速で舌を伸ばそうとしたのだ。けれど、その程度で私の質量を動かせるわけが無い。衝撃で呼吸が止まりそうになりながらも、少しずつ大蜥蜴を押し返していく。
少しずつ、勢いを増しながら。少しずつ、速度を上げながら。少しずつ、エネルギーを増しながら大蜥蜴を押し返し、壁際まで追い詰める。加速を止める事無くそのまま壁に衝突する。建物の壁と私の質量で挟むようにして、大蜥蜴を押し潰す。鱗と筋肉と骨と内臓が潰れていく嫌な感触を感じながら、そのまま完全に潰してやった。
大蜥蜴の口が力無く開き、解放される。奴がもう死んでいることを目視で確認すると、私の身体は糸が切れたように勝手に倒れた。受け身もできず身体を床に打ち付ける。
そりゃあそうだ。あれだけダメージを受けたんだし、長いこと人間を庇いながら戦っていたせいで精神もずっと張り詰めっ放しで消耗しきっていたんだから。
「おーい無事かー?」
フェンリルが入ってきて、私に尋ねてきた。
「……フェン、リル…………、あの人たちは……?」
「あー? 死にたくなきゃ勝手に逃げろっつっといた。俺の近くにいるだけで能力に巻き込まれて死にかねないからな」
「……大丈夫かな…………」
「大丈夫だろ。インバーダはほぼ全滅状態だったしな。お前の時間稼ぎの賜物だな。お前が目立ってたお陰で、他のモンストルムもこの辺にはあまり近付かなかった。マジでお前、よくやったよ」
「…………そっか」
そこで私の意識は途切れた。

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視える世界を越えて エピソード5:犬神 その⑤

時間を僅かに遡り、大穴の底。
犬神の力によって突如発生した落下に、種枚は即座に対応し、受け身を取ることで無傷で着地していた。
「じゃあキノコちゃん! いつも通りのルールね!」
「あァ、互いに全力で1発ずつ。押し通せた方の勝ち」
犬神に答えながら、種枚はパーカーを脱いで腰に巻き直した。
「さあ来な、犬神ちゃん。真ッ正面からブチ抜いてやる」
ファイティングポーズをとる種枚に対し、犬神はニィ、と笑って煽り返した。
「キノコちゃんみたいなパワーのある子はさぁ、こんな簡単な事実をついつい忘れちゃうんだ」
2人の頭上を覆っていた土砂の塊が、より密度を増して凝縮される。
「良い? キノコちゃん。……『重い』は『強い』なんだよ」
上空の土砂塊を制御するため上空に向けていた手を、勢い良く振り下ろす。
それに従って、土砂塊も種枚の頭上に向けて高速で落下し始めた。
「……分かってるさ、そのくらい」
対する種枚は呟き、体勢を変えた。左脚を前、右脚を後ろに半身に立ち腰を落とし、五指を僅かに曲げた右腕を大きく引き、左腕は身体の前方で肘を直角に曲げ、地面に対して水平に構える。
「【惨輪爪】」
そして土砂塊との距離が1mを切ったのとほぼ同時に、右足で強く踏み切り、左足を軸に高速で回転し始めた。
回転の速度と形状は、遠心力で自然と伸びた両手の先、計10本の鋭く伸びた爪を起点として、破壊力を生じた。更に彼女の放つ純粋な殺意が乗ることで攻撃の威力は遠心力に乗って周囲広範に伝播し、範囲的な破壊を瞬時に発生させ、その余波で頭上に迫っていた土砂塊をも砕き飛ばした。

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CHILDish Monstrum:或る離島の業務日誌 その②

港からの道中、時折遭遇する島民に挨拶しながら、キュクロプスの住居に向かう。
実際に近くまで来てみると、それは思っていた以上に巨大だった。
1辺当たり30m以上はありそうな巨大な立方体。壁に触れてみると、どうやら何かの金属でできているようだった。
ふと思い出し、スーツのポケットから手帳を取り出す。前任者から聞いていた、キュクロプスについての情報やアドバイスをまとめているものだ。

・作業場(箱形の建造物)から作業音が聞こえてこなかった場合、東側に隣接した小屋(居住スペース)を尋ねること

“作業場”の扉に近付くが、中からは何も聞こえない。壁に手を付きながら東側に回ると、木材と煉瓦でできた、どこかメルヘンチックな雰囲気の小屋があった。
西側の壁は“作業場”にぴったりと接しており、扉のあるのと同じ側の壁には、遮光ガラスの窓が1つ。周囲を1周したところ、他に窓は無いようだった。
とりあえず扉の前に立ち、再び手帳を確認する。

・小屋に入る際は、扉に設置されたノッカーを叩くこと

扉には、日本では珍しい金属製のノッカーが取り付けられていた。重い金属環を握り、3度扉を叩く。反応は無い。ドアノブに手をかけると、施錠はされていなかったらしくあっさりと開いた。

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CHILDish Monstrum:怪物報恩日記 6日目-1

時、9時30分。場所、老人の家の廊下。
運動能力の回復のため、今日も廊下を往復しようと部屋を出た時、玄関の方であの老人が怒鳴る声が聞こえた。
あの老人と共に過ごした時間は決して長かったわけでは無いが、あの善人が怒鳴るなんて何があったのか、疑問に思いそちらに歩いていくと、老人は客人と相対していた。
客人は2人。1人は、ひょろ長い体格の、背の高いスーツ姿の若い男。もう1人は、薄着の和装に身を包んだ、どこか軽薄そうな雰囲気の少女。男の方は知らないが、こちらはよく知っている。我が愛しの相棒、荼枳尼天、ダキニだった。
その姿を見とめた瞬間、ほとんど反射的に駆け出していた。十分に回復していなかったせいで転びそうになったが、ダキニが素早く抱き留めてくれた。
何故ダキニがここにいるのか、彼女に尋ねた。彼女によると、どうやらわたしやダキニの体内には、位置情報の発信機が埋め込まれているらしい。それならもっと早く迎えを寄越すこともできたと思うけれど。
ダキニとこの1週間弱、何があったのか話しているうちに、老人はあのスーツの男を家に上げていた。とりあえずダキニと連れ立って、彼らが入っていった居間に向かう。
その短い道中、再びあの老人が怒鳴る声が聞こえてきた。

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CHILDish Monstrum:カミグライ・レジスタンス その⑪

少しずつ意識が薄れてきた頃、遠くから私に向けて声がかけられた。
「おい、そこの化け物! お前、ベヒモスだろ!」
そちらに目だけを向けると、相変わらず拘束具まみれのままのフェンリルが立っていた。
「やっぱりそうだな、やけに大人しいと思ってたんだ。お前の性格っぽい。ちょっと待ってろすぐ片付ける」
「っ……!」
建物だけは巻き込まないでくれ、そう言う前に彼は片手を振るった。その余波で、周りにいたインバーダ達は塵と化した。
「…………⁉」
今起きた状況に驚愕しながらも、人型に戻る。身体の至る所に鈍痛や痣、切り傷が残っていた。
「その建物、守ってたんだろ? 流石に壊さねえだけの良識はあるさ」
駆け寄ってきたフェンリルはそう言いながら、民間人が入っていったあの建物を指した。
「……そうだ、あの人たち!」
無事だろうか、中で崩落でも起きていないだろうか、そう思って、急いで中に入る。
痛む身体に鞭打ち、中に入っていくと、奥の方であの人たちは一塊で蹲って震えていた。どうやら怪我などは無いみたいだ。
「大丈夫ですか、皆さん! 外のインバーダはもう倒しました!」
民間人の1人が顔を上げる。セーラー服姿の女の子だった。中学生だろうか、高校生だろうか。
そんなことより、彼女は目に見えて怯えた表情で私を見返していたのだ。
「……皆さん今のうちに外へ、早くここを離れ……」
彼女の表情は気にしないようにしながら言おうとして、建物の奥、民間人たちの死角から、1体のインバーダが迫っていることに気付いた。大きな蜥蜴のような姿のインバーダが、音も無く壁を這い、みんなに迫っている。