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"ルンルンBOY”

「ラ~ルラ~リル~ラリ~ルルラ~ン~~」
僕はこの商店街が好きだ。八百屋さんや服屋さん、写真屋さん、ケーキ屋さん…。色んなお店が集まって、色んな人がいる。
八百屋のおじちゃんは「これ、持っていき」ってトマトをくれるし、その隣のおばちゃんはお菓子をくれる。
だから僕はこの商店街の真ん中で、踊り歌っているのだ。
「ラ~ルラ~リル~ラリ~ルルラ~ン~~」
今日もそうしていると、声をかけられた。
「君、何をしているの?」
「え?踊ったり歌ったり?」
「へぇ~。元気だね」
「う、うん。…おにいさん、誰?」
「あ、僕はそこの新しくできた本屋の店長だよ。初めまして」
「初めまして」
その人は20代後半くらいで、優しそうだった。
「君、『ルンルンBOY』って知ってる?」
「『ルンルンBOY』?」
「そう。ドイツの絵本なんだけどね、ある町の少年が商店街の真ん中で踊ったり、歌ったりしていたんだ。そしたら、たまたまそこに王が来て、その王に気に入れられてパーティーに招待されたんだ。そのパーティーでパフォーマンスをすると、一気に有名人になった。そういう話」
「それが…?」
「うん。すごく君に似ていたから」
おにいさんは僕を本屋に誘ってその本を見せてくれた。

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笑わない世界、笑えない世界 No.3

学校に行く。「いってきます」と言って外に出た。じりじりと暑い。太陽に照らされたまちは、夏だ。セミはまだ鳴いていない。でも、十分夏。
「おはよう」
「おはよう」
ナツミと一緒に行く。この季節にピッタリの名前。だけど、本人は気に入っていないらしい。
「課題終わった?」
「あともうちょっと。英語のワークがあと5ページくらいかな」
「ふ~ん。そうなんだ。私終わった」
「いいな」
テストや課題のことを話していたら早くも学校に着いた。
時計の針は8時15分。いつも通りの時間だ。
教室に入ると、10人ほどいた。机をくっつけて勉強している者や1人でしている者、その他。様々だ。
私は机の上にリュックを一旦置いて、チャックを開けた。教科書やノート、ワークなどを机の中に入れていく。
そして、まだ終わっていない英語のワークを出した。17ページからだ。そこを開いて早速取り掛かった。
「一緒にやろうよ」
1文字目を書いたところでナツミに声をかけられた。
「いいよ」
「私自習するから」
「うん」と言って、それぞれ勉強を始めた。
もう習ったところだから簡単だ。スラスラと解いていった。
『キーンコーンカーンコーン…』
チャイムが鳴った。早いものだ。ワークはまだ2ページも進んでいない。
本鈴まであと5分。
「じゃ、そろそろ行くわ」
ナツミが椅子と一緒に席に戻った。

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黄色いおにいちゃん No.3

「ただいま」
「おかえり。…ねぇ、いっつもどこで遊んでんの。誰と遊んでんの。ケンくんママが大学生くらいの男の人と遊んでるって言ってたんだけど」
ママは僕の答えを待たずに言った。
「…うん。カズにいちゃん!優しいよ!」
「正気?学校で習わなかった?『知らない人と遊んではいけない』って」
「でも、本当に優しいもん。不審者なんかじゃないもん!」
「ふ~ん。どうなっても知らんからな」
知ってたまるか!もう、こんな家出てってやる!
靴を履いて家を飛び出した。
さっきより空は暗くなっていた。こんな時間に1人で外に出たことはない。自分から出てきたくせに弱音を心の中で思った。

「…カズにいちゃん」
「…」
カズにいちゃんはなぜだか知らないけど、そこにいて、抱きしめてくれた。
「もう、カズにいちゃんと遊んじゃダメなんだって」
「…」
「僕、もっと遊びたいよ」
「…そうか。…もし俺が今、君を連れていくって言ったらどうする?」
「えっ。…分からない」
「じゃあ、少しは怪しんでるってことか」
そうじゃない。そうじゃない。
「そうじゃない!」
「じゃあどうなんだ」
僕は答えられなかった。これは算数のテストなんかよりもずっとずっと難しい問題だった。でもカズにいちゃんはぎゅっと抱きしめてくれて、僕が答えるのを待っていてくれた。

どのくらい経ったろうか。
僕は見たことのある景色を眺めていた。

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笑わない世界、笑えない世界 No.2

私は空を見上げた。雲のすきまから見える太陽は美しい。少し向こうに天使のはしごが見える。いいな。私もああいう風に照らされてみたいな。
「クルミ!早く来なさい!」
母だ。
「何でしょうか」
「何でしょうか、じゃないでしょう!早くこれを片付けなさい」
「はい」
机に置いていた食器を台所へ運ぶ。カチャンカチャンという音を立てて流し台に置いて行った。
「できました」
「よろしい。勉強をしなさい」
「はい、分かりました」
私は2階にある自分の部屋へ行くため階段を駆け上った。
机に教科書やワークを出して早速取り掛かった。来週テストだからこのワークを終わらさなければならない。
「クルミ!こっち来て!」
また母の声がした。私は急いで階段を降りて母のもとへ行く。
「今日はやっぱり勉強しなくてもいい」
「えっ、でも。来週…」
「黙りなさい!今日はいいと言っているの」
「は、はい。分かりました。片付けてきます」
再び私は階段を上って部屋のドアを開けた。出していた物を棚や引き出しに片付けた。
「これ、観よ」
「え?あ、はい」
降りてきて言われた。今日の母はどうしたものか。変に優しい。
言われて観たテレビ番組は、相変わらずつまらないものだった。
バラエティー番組なのに、ニュース番組を観るかのように黙りこくってジッとしていた。

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笑わない世界、笑えない世界 No.1

ここは笑わない世界…いや、笑えない世界です。
まずはこの世界のご説明をいたしします。少し長くなるかもしれません。少々お付き合いください。
その前に、自己紹介をしておきましょうか。
ワタクシは渡辺と申します。28歳です。趣味はギターを弾くことですかね。
まぁ、ワタクシのことは置いといて。
早速説明に入ります。

先ほども言いましたがここは、笑えない世界です。笑うのが禁止の世界です。
それは昔、ある王がいました。
その王は、少し短気な人でした。
ある日、王が間違いをしたんです。それはすごく簡単なものだったのに、大きな間違い、失敗をしてしまったものですから、噂はすぐに行き渡りました。
そして、王はこの世界の笑い者になりました。
それに怒った王は近くの者を殺してしまいました。
そして言いました。
「これ以上俺のことを笑うとこんな風になるぞ」
と。
それから人々は、笑えなくなりました。
王のことで笑っていなくても、「王のことを笑っていた」と言う悪者がいるんです。それもあって、何でも笑えなくなりました。
王が亡くなった後も、「笑わない」という文化は受け継がれていきました。そして、その頃のことを誰も知らなくなって「歴史」になった今でもそれは受け継がれています。

お付き合いいただきありがとうございました。ざっと説明しましたが分かりましたかね?また、何か分からないことがありましたらご連絡ください。
では、ワタクシはこの辺で。

次回からはクルミという14歳の少女の話が始まります。
時々ワタクシが出てくるかもしれません。その時は…。
では、またいつか。