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復讐代行〜第15話 不止〜

橘を先頭に4人でゾロゾロと廊下を歩く。
この違和感まみれの様子が周囲に生み出す余波は私たち2人にとっては不快であり、恐怖であった。
「あれ誰?」「なんか釣り合わない」「ブスが際立つ」
「いや、イケメンの引き立て役か」「…」
こんなもの何日も喰らえばノイローゼになるだろう。
味わったことも無い気持ち悪さにこれまでのことを後悔しそうになる。それでも後悔の0コンマ1秒後にはその全てを彼らへの復讐心に変えた。
“私はもう…戻れない…”
「ねぇ、」
気づけば橘に声をかけていた。
「なんだ?青路」
“私”の少し驚いた反応を確認した上で
「さっきなんて言ったの?まさかほんとにあの子を…」
そこまで言いかけたところで小橋が割り込んできた。
「お前な、そんなわけないだろ?それともお前にそういう気があるのか?」
正直、そう返されるとは想像していなかった。
「は、はぁ?お、俺はただ!」
「そう動揺するなよ、蓮にも考えがあるんだろうからさわざわざちゃちゃ入れんなよ」
「青路、俺らは友達だが別に何もかも話さなきゃいけないわけじゃない、お前も俺らに話してないことあるだろ?例えば…」
さすがだ、体のことに気づいているとは思わないがそれをこぼしてしまいそうになる脅迫の目をしている。
“こいつを…私の手で…”
「こういうのはギブアンドテイクってもんだろ?話すならお前も話すことだ」
これで迂闊に踏み込めなくなってしまった。
“どうする…これじゃ…二の舞…”
何事もなかったかのように再び歩を進める橘と小橋について行くことしかできない自分に腹が立つ。
その気持ちをグッと堪え“私”の差し出す手を振り払った。

to be continued…

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沢山を貰った推しへ…いいえ、貰った沢山の教え

今日推しが卒業を発表した
そのことを知ってからタイムフリーで追いかけることしかできない自分に今日ばかりは腹が立つ。
アイドルを好きという人はいるが、よっぽどアイドルを目指していない限り、尊敬していると言う人はそうそういないんじゃなかろうか。
正直、彼女に出会わなければいくらドルオタと言えど、生き方を尊敬するなんてことを思わなかったんじゃないかとさえ思う。
「真ん中だけがアイドルじゃない」
「王道じゃないアイドルが市民権を得るまで」
彼女はいつも惜しみない努力と数え切れない希望を僕らに見せてくれていた。
彼女は功績を自分のものとはついに一言も言わなかった。
感謝を必ず述べ、レギュラー番組の告知は必ず主語を複数形で書かれていた。
求められることに全力で応える。
口にするのは簡単だし、誰だってそのつもりでいるだろう。
でも彼女は誰かが望むこと、それがたとえ少人数でも、手が空けば、可能ならば必ず応える。
「王道じゃないから」
そんな言葉は彼女になかった。
最後までそれを突き通し、メンバーを思い、リスナーを思い、関係者を思い、全ての人を尊重した彼女はかっこよかった。最後までかっこよかったんだ。
こんな感情はなかなか出会えないだろう。
ならば今、僕がすべきことは悲しむことや縋ることじゃない。

はじめて尊敬したアイドル、
彼女の新たな門出を前向きに送り出すこと。
彼女の意志を尊重したい。
彼女の真意を少しでも汲める自分でありたい
そういうファンであることが
彼女を尊敬する者としての礼儀だと思うから

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復讐代行〜第13話 交代〜

「やめてやってくれ」
彼のその一言は荒ぶっていた女子陣を黙らせるには十分だった。
当然彼らは笑っている。
その態度は火に油を注ぐようなものだ。
女子陣は激昂しそうな感情を押さえ込んでいる…がそれも限界に達した。結果矛先は向いてはいけない方向へと…
「どうして!?どうして、そんな女を!そんな…ただの陰キャ…いや…根暗クソ陰キャなんかを!」
女子陣のひとりがそう叫び、橘に向かって拳を振りかざす。橘は避けるでも止めるでもなく、そのまま喰らう。
目の前で起きたまさかの事態に俺は言葉を失った。
そしてその沈黙は数秒続いた。
全員が我に返った瞬間に彼女は泣き崩れる。
嗚咽の中に籠る謝罪の中に“闇子”の影もなかったが、特段気にすることはなかった。
その光景にまた全員が次の言葉を探しながらもそれを見つけられずにいる時間が流れる。
実際の時間はものの数秒なのだが体感はとても耐えられない程に長く感じられた。
「何か言ってよ…ねぇ!蓮!なんか言いなよ!」
嗚咽が落ち着いたのか、さっきよりも聞き取りやすい
それでも橘は何も言わない。
「どうして何も言わないの!」
彼女の怒りは何となく次のフェーズに入ったようだ。
今なら多分この体くらいは逃げられるとも考えたが刺激する可能性は避けるのが妥当だった。
「おい…━━━━━━━」
たまらず小橋が橘に耳打ちをする
橘は少し笑って小橋を制し、そっと彼女の元に歩き出す
グッと顔を近づけ、今度は橘が彼女に耳打ちをする
少し間が空いて、彼女は驚いた顔で飛び退いた。
内容はわからなかったが、彼女の涙が止まった様子からして私に関する何かであろうとは想像が着いた。
「分かったら今日はもう帰ってもいいかな?青路のおかげで“闇子ちゃん”に奢らなきゃいけないからね」
「おいおい」
“俺”はやや反応が遅れながらも愛想笑いを浮かべる。
そうして放課後の第1幕が終わった。
“しかし…あの時彼は一体何を…?”

to be continued…

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復讐代行〜第12話 接触〜

4人で揃って教室に入る。
どう考えても男子3人がサボっていることを示しているがこの教室ではその光景はサボりなんかよりもずっと大きな違和感を意味していた。
「橘、小橋、桐谷、お前らまさかサボってたんじゃないだろうな」
「まさか!ちゃんと保健室まで送ってましたよ」
「その割に喪黒も元気そうだが?」
「そりゃあ、僕らが頑張って…なぁ」
「そうなんです!先生!ただ誤解を解いてただけなんです!」
多分これはやらかしている
完全に私だけが浮いている
しかしもはや後には引けなかった
同じように“私”も覚悟を決めた目をしていた。
「そこに少し仲裁で入ってたんですよ、なので勘弁してくださいよ先生」
口を開きかけた“私”を制止して橘がそこをまとめる。
この瞬間、教室がざわついた。
正体不明の違和感はこの授業が終わるまで続いた。
一部の女子ではその日中その話題で持ち切りになっていたようだが。
「あんたさぁ、何なの?さっきの態度」
予想通り彼女達は“私”に突っかかる。
傍から見ているとセリフも何もかもが典型的すぎてもはや笑みすらこぼれる。なぜならこの後、
「やめてやってくれ」
そう言って橘が現れるのだから
何の冗談だろうか、いつもは私をいじめていた女子共が味方だと思っていた男に裏切られる。
しかもそれによって守られるのが“私”だなんて
しかし同時に私もかつてないほど滑稽だった。
自ら望んで体を入れ替え、復讐の機会を伺って
そのうちにあろうことか“私”が救われてしまう
それも自分が復讐しようとしていた相手に救われたというのだからどうしようもない。
思わず笑みがこぼれてしまう。
“これで復讐が終わっていいのか?”
体が私に問いかける。
“受けた屈辱は1度救われたくらいで報われるのか?”
かつて私の体にあった傷の位置が痛む。
いや違う、これは彼の傷だ…
『桐谷君の…復讐心だ…』
頬を伝う涙に禍々しい熱がこもる。

to be continued…

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復讐代行〜第11話 死角〜

“この男はわかっていないのか?自分もこの復讐の対象者だと、それともわかったうえで…”
無意識の感動と裏腹に理性は疑うことをやめない。
「いいよ、そんなの」
“私”が当然断る、少しでも話を引き伸ばすためだろう
「そんなこと言わないでよ、せっかくの橘の誘いだよ?」
それに合わせて私はあえて逆を言う
“橘の誘いに何の価値があるのか”
その疑問が頭をよぎる。今までと違うのは何か価値があるのかもしれないと思い始めている自分がいることだ。
これは…まさか…彼の体の影響…?
「だって、そんなことしたら…」
“私”の演技はかなりいい所をついていた。
このままついて行けば彼に群がる女子陣に後で何をされるかわかったもんじゃない、かと言って行かなければ彼らにとって都合がよく、完全な泣き寝入りだ。
今回の目的のためにもここはいくべきである。
それを見事に表情で語っていた。
とはいえ、まさか自分の顔に対してそんな評価をするようになるなんて…
どこかおかしかった。
「そんなことしたら、またいじめられるのか?」
「そりゃ陰キャじゃしょうがないだろ、見ててムカつく」
小橋はうんざりしたかのように悪態をつく。
「どっちにするんだよ、来るのか来ないのか」
“私”はいつの間にか涙を滲ませていて、それを拭い強く私に目線を送る。不自然にならないように橘、そして小橋と順番に睨みをいれた。
「…行く」
「え?」
3人が3人とも身構えたうえで聞き直した。
「行くよ、私」
「そう来なくっちゃ」
橘は表情を崩し、口角をあげた。
「もしもの時は守ってもらうから」
「調子に乗るな、陰キャが」
いつもの悪口もどこか朗らかだ。
明らかに“私”が全てを持っていった…
私にはできない芸当だ…
私は“私”に体が奪われる気がして
嫉妬のような視線を“私”を送っていた。
「桐谷君、どうかした?」
「いや、なんでもない少し驚いただけだ」

to be continued…