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×烏の微笑み×

今日から各クラスで授業が始まる。
僕のクラスの担任はちょっと強面の男性教師だ。

「このクラスの担任になった大倉 淕だ。よろしくな」

顔は怖いが話を聞いている限り、優しそうだ。
教科は数学。頭はいいらしい。

「よし、一時間目は自己紹介といこうか。出席番号順で名前と一言。じゃ、一番から」

先生のその合図で出席番号一番の人から、自己紹介が始まった。
このクラスは総員36名。
今時の高校にしては多い方だ。

「よし、次。9番!」

(僕だ……)

ガタリと椅子をならしてゆっくりと立ち上がった。

「…枝斎 洋汰です。えっ……と、趣味は読書です」

というと、クラス内がざわざわとし出した。(それもそうだ。ピアスつけてて茶髪の男が“趣味は読書です”なんていったら、びっくりするよ)

髪が茶色なのは母からの遺伝だそうだ。(父から聞いた)

「よろしくお願いします」

できるだけ深く頭を下げる。
面倒なことにならないように。

頭をゆっくり上げて席に座ろうとすると、

「なんでピアスなんかつけてんの?お前」

出席番号一番、えっと名前は……たしか“アラタケ”だ。
早速突っかかってきた。

「ああ、アラタケ。それには深い意味があってだな……」

先生が弁解し出した。
(先生、知ってるのか?)

「枝斎のお父さんが魔除けのためだと言ってたよ。枝斎は魔物に憑かれやすい体質なんだそうだ」

あ、やっぱり嘘ついたんだ。
ありえない!と思われるかもしれないが真実味のある嘘を。

「……なんだよそれ。甘やかされ過ぎじゃね?お坊っちゃんかよ」

嫌われたな。完全に嫌われた。
そして、たぶん彼はこのクラスで一番権力のある人物になる。(いじめられるな)

高校生にもなっていじめなんて……とも思うが彼、脳ミソは意外と幼稚そうだ。(このピアスが魔除けのためだって部分を信じるあたり、そんな気がする)
勝手な予想だが、彼ならやりかねないだろう。

(いじめられまくってなんとなく人間の心理がわかるようになっちゃった……)

とりあえず何も言わない方がいいだろう。
僕はそのまま席に座った。(今の僕にはそんなことより大事なことがあるから)それは………

To be continued……

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×烏の微笑み×

今日から高校生。
嬉しいはずの入学式。
でも僕、枝斎 洋汰は浮かない顔だ。
昨日父に言われた言葉が頭から離れなかったから。

「わ……あの人、ピアスしてる」

「入学早々、校則違反かよ」

そんな悪口も一切耳に入らないぐらいに呆然としていた。

_____「……どういうことだよ…普通の人間じゃないって?」

昨日の父との会話だ。
このピアスについて父に思いきって聞いてみた。
そうしたら予想もしていなかった言葉が返ってきた。

“お前は普通の人間じゃないんだ”

「お前だけじゃない。俺もだ」

父は落ち着いて話し出した。

「俺は…俺は吸血鬼なんだ。だからお前は吸血鬼の血が入ってる。母さんは人間だから、お前は混血なんだよ」

“吸血鬼”?
“混血”…?

「そのピアスはお前の中に眠ってる吸血鬼の本能を抑えるためのものだ。だから決して外すなと言ったんだ」____________

(吸血鬼ってなんなんだよ。そんなの空想の中の生き物だと思ってたのに……)

訳がわからない。
なんだよ、吸血鬼と人間の混血って。

「ああぁ…もう!」

つい、声に出して叫んでしまった。
周りの人が恐がっているような顔をした。
あぁ、入学早々恐がられちゃったよ…。

(父さんのせいだ!)

「はぁ……」

大きなため息を一つ。

(しょうがない。また一人で三年過ごすか…)

そう思っている僕を睨んでる奴がいることはあえて気付かないふりをしよう……

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×烏の微笑み×

小さい頃からよくいじめられていた。
僕が耳にピアスをしているから。
チャラ男チャラ男!と罵ってくる。
別にチャラい訳ではない。
物心ついたときからこのピアスをつけていた。
自分の意思ではなく勝手につけられた。
そして、決して外すなと言われた。
父に。

「なぁ、父さん。このピアスなんなの?」

夕御飯のとき、思いきって父に聞いてみた。
明日から僕は高校生だ。
せっかくの高校でまたいじめられないように、理由をしっかりと知りたい。
父の顔をじっと見つめて待っていると、父はため息をついてからこう言った。

「洋汰、そんなこと知ってどうする?知ったって何の得もないぞ?」

「知りたいんだ!知らなきゃまたいじめられるんだよ!!」

そう言うと父は目を見開いて驚いた。
あっ、いじめられてるって言ってないんだった。
うちは父子家庭だ。
だからか、父はすごく僕に対して甘い。
いじめられてるなんて知ったら学校に乗り込んでくるだろうと思ったから言わなかった。

「ほう。いじめられてたのか…そうか。だったら言うしかないか……」

父が悩んでいる。
これは至って珍しいことだ。
うちの父、枝斎 朱治郎は非常に頭が切れる。
だから、悩むなんて一切ない。
何事もズバッと言う。
そこがたまに傷だが。

「実はな…お前は普通の人間じゃないんだ」

「……えっ……?」

“普通の人間じゃない”………?!

To be continued……

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-季節 21-

「黒いよなー、女って。かわいい顔して内心何思っとるか、想像するだけで怖いわ」
彩生さんが苦笑いしながら言った。
そしてこうも言った。
「巳汐はそれが見えてまうんよね。大変だよなー」
確かに……
だからこそ嫌いなのかもしれない。
(人の黒い部分が見えてしまうのか……)
“特殊な能力”って、いいことばかりではないのだなと思った。

「白帆さんは心が綺麗だ。だから、心を許せたのかも」
“心が綺麗”か…
初めて言われた。すごく嬉しい。
「純粋ですよね、白帆さん。変に暗い部分がないから、話してて楽です」
夏川くんもそう言った。

「………ってことだよ。要するに、未来は見えても何も出来ひんから、いいことはないよ」
彩生さんは“未来が見える”能力を持っている。
でも見えても変えることはそうそう出来ないらしい。
例えば前を歩いていた人がもうすぐ死ぬという未来が見えても救うことは出来ない。それが辛い。ということだ。
“特殊な能力”を持っていいことがあったとしても、いいことばかりではないということだ。
桜尾さんとはその悩みも共通していたのですぐに仲良くなれたらしい。
(でも桜尾さんは彩生さんのテンションについていけず大変だったとか)
だから彩生さんが入ってきたとき、迷惑そうな顔をしたのか。
「そういうことだね」
桜尾さんが私と目を合わせて言ってきた。
「確かにいい奴だけど、付き合いにくいというか。いちいちテンションが高いから面倒くさいんだよね。いじめの原因はリュウの能力のせいもあるけど、その性格のせいもあると思うよ」
ズバッと言った。
彩生さんが苦い顔をした。
「ひどいなぁ。ま、確かにそうなんやろうけど」
二人が静かに笑いあった。


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-季節 ⅩⅦ-

「白帆さん、夏川くん。二人はそういう'特殊な能力'とかあったりする?」
桜尾さんが唐突に聞いてきた。
'特殊な能力'…
彼は“人の心が読める”という特殊な能力を持っている。

「いや…僕はないと思います……よ?」
夏川くんが少し悩みながら言った。
私も
「……ないと思います、たぶん」
と答えた。
でも、そんなこと聞かれても…
「……今はないだけかもしれない…よね」
桜尾さんが苦笑いしながら言った。
やっぱりわかってて聞いたんだ。
(……?どうして聞いたんだろう?)
「じゃあ、あったらいいなって思うことは?」
なんだか楽しそう、桜尾さん。
元々人と話すのは好きなのかな?
「あったらいいなとは思います。'予知能力'とか。未来が予知できたらもっとこう………」
夏川くんがやけに真面目に答えた。

彼と知り合ってからもう二ヶ月ほどか。
初めて会ったときからちょっと変わった人だなとは思っていたのだが、時々変わったところで真面目になる。
(それも一種の魅力なのかも)
最近はそう思うようになった。

「'予知能力'ねぇ……」
桜尾さんがなんだか考え込んでいる。

短い沈黙。

「欲しいな。'予知能力'」
そう桜尾さんが言った瞬間、いつもは叫び声のような音をたててゆっくりと開く店の扉が、勢いよく開いた。

そこに立っていたのは髪を明るい色に染めた一人の青年だった。
(桜尾さんと同い年ぐらい?)
私がそう思って彼と桜尾さんを交互に見ていたら
二人の表情がいきなり変わった。
そして、扉の前に仁王立ちしていた彼が嬉しそうにこう叫んだ。

「巳汐!!」

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-季節 番外編②-

「はい、またまた始まりました。番外編!」
「あっ…また……」
「……えっ?」

Q.1 夏川くんに質問です。
  私のイメージの花はありますか?
A. 唯さんの……マーガレットとかかな?

「ほう。花言葉は?」
「……えっと…覚えてない(汗」
「あっ、そうなの(笑」
「ごめんなさい」
「次!」

Q.2 桜尾さんに質問します。
「えっ?また僕?」
  人の心が読めるって言ってましたよね?
「う……うん」
  いつから読めるんですか?
A. いつから……うーん…物心ついたときから…か  な。

「へぇー」
「生まれたときからなんだろうけど、言葉がわかるようになるまでわかんないかなー、と思って」
「なるほどー」
「今度は僕から」
「…えっ?」 

Q.3 白帆さんに僕、夏川から質問です。
「は…はい」
  茜さんとは仲が悪いんですか?
A. いや、仲は悪くありませんよ。ちょっと気が  合わないんです。

「自分より優れた兄弟姉妹って比べられたりするから嫌だよね」
「本当にそうなんです」
「桜尾さんも兄弟姉妹が?」
「いるよ。下に3人」
「夏川くんは?」
「僕は一人っ子です」
「ほう。私は茜だけかな」
「へぇ。で、またこれも暇潰し?」
「また?」
「はい。また暇潰しです」
「やっぱり(苦笑」

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-季節 ⅩⅥ-

「ありがとう」
いつも以上に素直に笑えた気がする。
その瞬間、

ババババンッッッ!

とてつもなく大きな破裂音がした。
「えっ…?」
ピカピカッとくすんだ窓の外が光った。
なんだろう……?
「花火…だね、今日」
桜尾さんが窓の外を見ながら言った。
そうだった。
今日はこの夏最後の花火大会。
「見に行くかい?」
私と夏川くんは顔を見合わせて、そして頷きあった。
桜尾さんがずっと座っていたカウンターから立ち上がって
「よし。もう店も閉めるしね。行こうか」

重い扉を開けると外では花火が大量に打ち上がっていた。
この辺りは田舎なので建物の背が低いため、どこからでもよく見える。
「人と一緒に花火見るって、初めてです」
夏川くんがそう言って私に笑い掛けてきた。
桜尾さんも
「僕も初めてだな。一人ではよく見てたけど」
と苦笑いした。
綺麗だ。
そういえば私もこんな風に誰かと一緒に話しながら見たことはなかった。
いつも見ているより一段と綺麗に見える。

「もう夏が終わるね」
桜尾さんが呟くように言った。
「そうですね」
私と夏川くんが同時に答えた。
今年も夏が終わる。いつもと違う夏だった。
濃い夏だった。
「たーまやーーー!!」
桜尾さんが叫んだ。
とても楽しそうに。
「たーまやーーーー!」

ー暑さが和らぎ出した夏の終わりの物語ー

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-季節 ⅩⅠ-

“人と比べて自分は劣ってるからって、気にすることない”

桜尾さんはいつも私の心を見透かしたようにアドバイスをしてくれる。不思議な人だ。

「…はい。そうですね」
私は笑って桜尾さんに返した。
桜尾さんもいつものようにふわりと笑い返してくれた。
(この人はどうしてこんなに優しい笑顔が出来るんだろう…)


「よし、そろそろ閉める時間だ。白帆さん、夏川くん、また明日ね」
かなり話し込んだ。
人と関わることが苦手な私だが、夏川くんとは同じ本好きということで話が合ったので、すぐに仲良くなれた。
また明日 と桜尾さんが言ったのは明日、夏川くんも手伝いに来てくれるということだからだ。
彼もここが、桜尾さんのことが気に入ったらしい。
また一人、常連客が増えましたね。
このまま、順調に増えていくといいですね。
と、心の中で桜尾さんに話しかけた。
すると桜尾さんは、ゆっくりとこちらを見て優しく笑った。まるで私が心の中で言った言葉に喜んでいるかのように。
桜尾さんは、人の心が読めるのだろうか。でも、問い詰めたりはしない。彼が話してくれるまで待とう。話したくないならそれはそれで、別にいいから。

「さよなら。また明日」
夏川くんがそう言って私たちに背を向け帰っていった。
「僕はまだちょっと仕事が残ってるから」
桜尾さんは店内から手を降りながらそう言った。

「じゃあ、また明日」
「うん。また、明日もよろしくね」

最近は退屈だと感じることが少なくなってきた気がする…。

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-季節 Ⅹ-

『骨董屋』の古びた扉がゆっくりと開かれた。

ギギィ…

「あなたは確か…?」
「君って…」

「夏目くん?!」
夏目 阿栗くん。最近大学で噂されている花と本が大好きな男子。
まさかこんなところでお目にかかれるとは....。

「えっ.....僕のこと、知ってるんですか?」
夏目くんは驚いた顔をした。
自分が噂されていることを知らないらしい。
「結構有名ですよ、夏目くん」
「そうなんですか?!」
意外だ…って顔をしてる。

「ん?知り合いなの?白帆さん」
桜尾さんが、空気が読めなかったらしく直接聞いてきた。
「知り合いというか、同じ大学なんです」
話したこともないのに知り合いだなんて言えないし。
「白帆…もしかして茜さんですか?」
えっ?アカネ?あぁ、茜ね…。
「私は茜じゃないです。茜は私の姉です」
白帆 茜は私の双子の姉。
生まれつき天才肌で楽器は弾ける、勉強は完璧、人もいい、人気者だ。そりゃあ、夏目くんも知ってるだろう。
「あっ、妹さん…。双子ですか?」
「はい」
姉の話題になるとつい素っ気なくなってしまう。
別に姉が嫌いな訳ではない。ただ、比べられるのが嫌なだけで。

「人と比べて自分が劣ってるからって、気にすることないと思うよ」

会計をするために作ったカウンターに座り、頬杖をつき外を見ながら桜尾さんが言った。