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七月時雨 #2

その洋館のある丘の麓に小さな家がありました
赤い屋根の、小さな小さな家でした
その家には昨日、ある少年が引っ越してきました
この町では、15歳になった少年少女は独り立ちを、と新しい家に一人で住まわせる慣例がありました
少年は、昨日で15歳。つまり、その慣例に従った一人なのでした
とはいえ、ここは丘を囲む小さな町。少年にとっては洋館が近くなったくらいで大した実感もありません
無人の洋館は本当に神殿のようでしたが、少年少女はその洋館が神殿であったとは思わなくなってしまっていました
本来の慣例では、彼らは夜の神殿で洗礼を受けるのですが……


彼らにとっては、それは、“肝試し”へと成り下がっていたのです


銀色の髪の少年は、微塵の曇りもなく鋭い輝きを放つ短刀―それは魔除けとして実家から持ってきた代物でした―を帯に挟み、夕暮れの真紅の空を見上げて、ひとつ、息を細く長く吐きました
背後で、新築の家の扉が、小気味いい音を立てて閉まり。
そして、少年の閉じていた眼がゆっくり開いて、夕焼けの空と同じ真紅の双眸が現れたのでした

「さぁ、今夜、何が変わるかな……?」

自嘲気味に、低く笑って、ぽつりと
段々と暗くなっていく町は、やや荒んだ少年の心を、映すかのようでした

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×烏の微笑み×

「ふん、なら話が早い。君を護るようにと朱治郎殿に頼まれたのだ」

僕にいきなり話しかけてきた三人の内、一番背の低い女の子が喋り出した。

「僕を護る?………なぜ?」

「君はいじめられているそうじゃないか。それを聞いた朱治郎殿に頼まれたのさ。私達に任せろ」

三人組の中の一人の男がそう言った。
(こいつら、どこまで知ってるんだ?)

「全てだよ」

一番後ろに影のようになっていた最後の一人の女が言った。

「この二人はただの吸血鬼だけど、僕は吸血鬼じゃないから」

「……じゃあ、何者なんです?」

その女は口元だけでふっ、と不気味に笑い、こう言った。

「簡単に言うなれば魔女だね。万能の。だから心も読めるんだ、僕は」

(………魔女……)
これも架空の世界の生き物だと思ってたのに……。(というかこの人、女なのに一人称が僕……)

「女が僕って言って何が悪い!!僕は僕なんだ!」

怒らせてしまった。
(………あ)
よく見ると怒ったその人のまわりに風が起きている。
本当に魔女のようだ。

「だからそう言ったじゃないか!!」

(アハハハ………汗)
ヤバイ人を怒らせてしまったな……。
…………と…とりあえずそれは置いといて……っと。

「ということは、お二人が吸血鬼、あなたは魔女、ということですか?」

三人が満足げに頷いた。
(………あり得ない…。何が起きているんだ……?!)
最近は、僕の頭を混乱させることばかりだ……………。

To be continued……………

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×烏の微笑み×

(ああ。やっと、終わった……)
一日目の授業が終了。
なかなか長かった……。
若干いじめられてた気がしたが、まぁどうってことない“嫌がらせ”だった。

(僕の予想通り、荒岳はクラスの権力を握ったよ。初日から)
やっぱり中身は子供だった。見た目はがっしりした体格のいい感じなのに中身がアレではモテないだろう。(なんて思ってるのばれたら殴られるなぁ)

そんなことを思いながら帰り道を歩いていたが、ふと、足が止まった。
(誰かつけてきてる……?)
そんな気がしたので後ろを振り向くも誰もいなかった。
(………気のせい…か)
嫌な予感がする。
理由はないが、なんとなくそんな気がしている……。
そのまま、駅まで走っていった。
駅につくとそんな気はしなくなっていた。

「あっれぇ??あれ、枝斎くんじゃねぇ??」

汚い声が突然耳に入ってきた。
荒岳の仲間か。
波瑠、だったかな。

「へぇぇー、まさか一緒の電車とはなぁー」

わざとらしい………
やっぱりただの付き人だ。
本当のいじめっ子はあんなことしない。(なに語ってんだろ、僕)でも、実際そうなのだ。荒岳も影から言ったりするだけであんな風に直接的には言わない。(波瑠の方が幼稚なのか)

なんてことを思いながら鞄から本を取り出そうとすると、

「ハハッ!ヤンキーが本読んでやがる!!」

“ヤンキー”……ねぇ。

「……フッ…」

つい吹き出してしまった。(ヤンキーなんて……ねぇ笑笑)
不良、というならまだ許せた。ふぅん、で終わった。でも、ヤンキーってひさびさに聞いたなぁ………

「………?お前今笑ったな?!何に笑ってんだよ!」

波瑠があせっている。ん?困ってんのか?状況が読めなくて??それこそ笑える。(僕って実は腹黒なのかも)

「いや…別に」

極力笑いを抑えて平常心で言ってみた。が、やっぱり駄目だった。(だってさぁ…笑)

波瑠は何が何だかわからず、諦めたようだ。
すねた子供のように口を尖らせている。
波瑠の方がやっぱり子供のようだ。

そうやって波瑠を観察しているうちに家の最寄り駅に着いた。

To be continued…………

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×烏の微笑み×

今日から各クラスで授業が始まる。
僕のクラスの担任はちょっと強面の男性教師だ。

「このクラスの担任になった大倉 淕だ。よろしくな」

顔は怖いが話を聞いている限り、優しそうだ。
教科は数学。頭はいいらしい。

「よし、一時間目は自己紹介といこうか。出席番号順で名前と一言。じゃ、一番から」

先生のその合図で出席番号一番の人から、自己紹介が始まった。
このクラスは総員36名。
今時の高校にしては多い方だ。

「よし、次。9番!」

(僕だ……)

ガタリと椅子をならしてゆっくりと立ち上がった。

「…枝斎 洋汰です。えっ……と、趣味は読書です」

というと、クラス内がざわざわとし出した。(それもそうだ。ピアスつけてて茶髪の男が“趣味は読書です”なんていったら、びっくりするよ)

髪が茶色なのは母からの遺伝だそうだ。(父から聞いた)

「よろしくお願いします」

できるだけ深く頭を下げる。
面倒なことにならないように。

頭をゆっくり上げて席に座ろうとすると、

「なんでピアスなんかつけてんの?お前」

出席番号一番、えっと名前は……たしか“アラタケ”だ。
早速突っかかってきた。

「ああ、アラタケ。それには深い意味があってだな……」

先生が弁解し出した。
(先生、知ってるのか?)

「枝斎のお父さんが魔除けのためだと言ってたよ。枝斎は魔物に憑かれやすい体質なんだそうだ」

あ、やっぱり嘘ついたんだ。
ありえない!と思われるかもしれないが真実味のある嘘を。

「……なんだよそれ。甘やかされ過ぎじゃね?お坊っちゃんかよ」

嫌われたな。完全に嫌われた。
そして、たぶん彼はこのクラスで一番権力のある人物になる。(いじめられるな)

高校生にもなっていじめなんて……とも思うが彼、脳ミソは意外と幼稚そうだ。(このピアスが魔除けのためだって部分を信じるあたり、そんな気がする)
勝手な予想だが、彼ならやりかねないだろう。

(いじめられまくってなんとなく人間の心理がわかるようになっちゃった……)

とりあえず何も言わない方がいいだろう。
僕はそのまま席に座った。(今の僕にはそんなことより大事なことがあるから)それは………

To be continued……

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×烏の微笑み×

今日から高校生。
嬉しいはずの入学式。
でも僕、枝斎 洋汰は浮かない顔だ。
昨日父に言われた言葉が頭から離れなかったから。

「わ……あの人、ピアスしてる」

「入学早々、校則違反かよ」

そんな悪口も一切耳に入らないぐらいに呆然としていた。

_____「……どういうことだよ…普通の人間じゃないって?」

昨日の父との会話だ。
このピアスについて父に思いきって聞いてみた。
そうしたら予想もしていなかった言葉が返ってきた。

“お前は普通の人間じゃないんだ”

「お前だけじゃない。俺もだ」

父は落ち着いて話し出した。

「俺は…俺は吸血鬼なんだ。だからお前は吸血鬼の血が入ってる。母さんは人間だから、お前は混血なんだよ」

“吸血鬼”?
“混血”…?

「そのピアスはお前の中に眠ってる吸血鬼の本能を抑えるためのものだ。だから決して外すなと言ったんだ」____________

(吸血鬼ってなんなんだよ。そんなの空想の中の生き物だと思ってたのに……)

訳がわからない。
なんだよ、吸血鬼と人間の混血って。

「ああぁ…もう!」

つい、声に出して叫んでしまった。
周りの人が恐がっているような顔をした。
あぁ、入学早々恐がられちゃったよ…。

(父さんのせいだ!)

「はぁ……」

大きなため息を一つ。

(しょうがない。また一人で三年過ごすか…)

そう思っている僕を睨んでる奴がいることはあえて気付かないふりをしよう……

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×烏の微笑み×

小さい頃からよくいじめられていた。
僕が耳にピアスをしているから。
チャラ男チャラ男!と罵ってくる。
別にチャラい訳ではない。
物心ついたときからこのピアスをつけていた。
自分の意思ではなく勝手につけられた。
そして、決して外すなと言われた。
父に。

「なぁ、父さん。このピアスなんなの?」

夕御飯のとき、思いきって父に聞いてみた。
明日から僕は高校生だ。
せっかくの高校でまたいじめられないように、理由をしっかりと知りたい。
父の顔をじっと見つめて待っていると、父はため息をついてからこう言った。

「洋汰、そんなこと知ってどうする?知ったって何の得もないぞ?」

「知りたいんだ!知らなきゃまたいじめられるんだよ!!」

そう言うと父は目を見開いて驚いた。
あっ、いじめられてるって言ってないんだった。
うちは父子家庭だ。
だからか、父はすごく僕に対して甘い。
いじめられてるなんて知ったら学校に乗り込んでくるだろうと思ったから言わなかった。

「ほう。いじめられてたのか…そうか。だったら言うしかないか……」

父が悩んでいる。
これは至って珍しいことだ。
うちの父、枝斎 朱治郎は非常に頭が切れる。
だから、悩むなんて一切ない。
何事もズバッと言う。
そこがたまに傷だが。

「実はな…お前は普通の人間じゃないんだ」

「……えっ……?」

“普通の人間じゃない”………?!

To be continued……

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-季節 21-

「黒いよなー、女って。かわいい顔して内心何思っとるか、想像するだけで怖いわ」
彩生さんが苦笑いしながら言った。
そしてこうも言った。
「巳汐はそれが見えてまうんよね。大変だよなー」
確かに……
だからこそ嫌いなのかもしれない。
(人の黒い部分が見えてしまうのか……)
“特殊な能力”って、いいことばかりではないのだなと思った。

「白帆さんは心が綺麗だ。だから、心を許せたのかも」
“心が綺麗”か…
初めて言われた。すごく嬉しい。
「純粋ですよね、白帆さん。変に暗い部分がないから、話してて楽です」
夏川くんもそう言った。

「………ってことだよ。要するに、未来は見えても何も出来ひんから、いいことはないよ」
彩生さんは“未来が見える”能力を持っている。
でも見えても変えることはそうそう出来ないらしい。
例えば前を歩いていた人がもうすぐ死ぬという未来が見えても救うことは出来ない。それが辛い。ということだ。
“特殊な能力”を持っていいことがあったとしても、いいことばかりではないということだ。
桜尾さんとはその悩みも共通していたのですぐに仲良くなれたらしい。
(でも桜尾さんは彩生さんのテンションについていけず大変だったとか)
だから彩生さんが入ってきたとき、迷惑そうな顔をしたのか。
「そういうことだね」
桜尾さんが私と目を合わせて言ってきた。
「確かにいい奴だけど、付き合いにくいというか。いちいちテンションが高いから面倒くさいんだよね。いじめの原因はリュウの能力のせいもあるけど、その性格のせいもあると思うよ」
ズバッと言った。
彩生さんが苦い顔をした。
「ひどいなぁ。ま、確かにそうなんやろうけど」
二人が静かに笑いあった。


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-季節 ⅩⅦ-

「白帆さん、夏川くん。二人はそういう'特殊な能力'とかあったりする?」
桜尾さんが唐突に聞いてきた。
'特殊な能力'…
彼は“人の心が読める”という特殊な能力を持っている。

「いや…僕はないと思います……よ?」
夏川くんが少し悩みながら言った。
私も
「……ないと思います、たぶん」
と答えた。
でも、そんなこと聞かれても…
「……今はないだけかもしれない…よね」
桜尾さんが苦笑いしながら言った。
やっぱりわかってて聞いたんだ。
(……?どうして聞いたんだろう?)
「じゃあ、あったらいいなって思うことは?」
なんだか楽しそう、桜尾さん。
元々人と話すのは好きなのかな?
「あったらいいなとは思います。'予知能力'とか。未来が予知できたらもっとこう………」
夏川くんがやけに真面目に答えた。

彼と知り合ってからもう二ヶ月ほどか。
初めて会ったときからちょっと変わった人だなとは思っていたのだが、時々変わったところで真面目になる。
(それも一種の魅力なのかも)
最近はそう思うようになった。

「'予知能力'ねぇ……」
桜尾さんがなんだか考え込んでいる。

短い沈黙。

「欲しいな。'予知能力'」
そう桜尾さんが言った瞬間、いつもは叫び声のような音をたててゆっくりと開く店の扉が、勢いよく開いた。

そこに立っていたのは髪を明るい色に染めた一人の青年だった。
(桜尾さんと同い年ぐらい?)
私がそう思って彼と桜尾さんを交互に見ていたら
二人の表情がいきなり変わった。
そして、扉の前に仁王立ちしていた彼が嬉しそうにこう叫んだ。

「巳汐!!」

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-季節 番外編②-

「はい、またまた始まりました。番外編!」
「あっ…また……」
「……えっ?」

Q.1 夏川くんに質問です。
  私のイメージの花はありますか?
A. 唯さんの……マーガレットとかかな?

「ほう。花言葉は?」
「……えっと…覚えてない(汗」
「あっ、そうなの(笑」
「ごめんなさい」
「次!」

Q.2 桜尾さんに質問します。
「えっ?また僕?」
  人の心が読めるって言ってましたよね?
「う……うん」
  いつから読めるんですか?
A. いつから……うーん…物心ついたときから…か  な。

「へぇー」
「生まれたときからなんだろうけど、言葉がわかるようになるまでわかんないかなー、と思って」
「なるほどー」
「今度は僕から」
「…えっ?」 

Q.3 白帆さんに僕、夏川から質問です。
「は…はい」
  茜さんとは仲が悪いんですか?
A. いや、仲は悪くありませんよ。ちょっと気が  合わないんです。

「自分より優れた兄弟姉妹って比べられたりするから嫌だよね」
「本当にそうなんです」
「桜尾さんも兄弟姉妹が?」
「いるよ。下に3人」
「夏川くんは?」
「僕は一人っ子です」
「ほう。私は茜だけかな」
「へぇ。で、またこれも暇潰し?」
「また?」
「はい。また暇潰しです」
「やっぱり(苦笑」

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-季節 ⅩⅥ-

「ありがとう」
いつも以上に素直に笑えた気がする。
その瞬間、

ババババンッッッ!

とてつもなく大きな破裂音がした。
「えっ…?」
ピカピカッとくすんだ窓の外が光った。
なんだろう……?
「花火…だね、今日」
桜尾さんが窓の外を見ながら言った。
そうだった。
今日はこの夏最後の花火大会。
「見に行くかい?」
私と夏川くんは顔を見合わせて、そして頷きあった。
桜尾さんがずっと座っていたカウンターから立ち上がって
「よし。もう店も閉めるしね。行こうか」

重い扉を開けると外では花火が大量に打ち上がっていた。
この辺りは田舎なので建物の背が低いため、どこからでもよく見える。
「人と一緒に花火見るって、初めてです」
夏川くんがそう言って私に笑い掛けてきた。
桜尾さんも
「僕も初めてだな。一人ではよく見てたけど」
と苦笑いした。
綺麗だ。
そういえば私もこんな風に誰かと一緒に話しながら見たことはなかった。
いつも見ているより一段と綺麗に見える。

「もう夏が終わるね」
桜尾さんが呟くように言った。
「そうですね」
私と夏川くんが同時に答えた。
今年も夏が終わる。いつもと違う夏だった。
濃い夏だった。
「たーまやーーー!!」
桜尾さんが叫んだ。
とても楽しそうに。
「たーまやーーーー!」

ー暑さが和らぎ出した夏の終わりの物語ー