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緋い魔女 Act 44

「いやぁ、今回は本当にありがとうございました」
雪がちらつく中、屋敷の主人はグレートヒェンに頭を下げる。
「これで我々も領民も、安心して過ごせます…」
グレートヒェンは早く終わらないものかと屋敷の主人の長話を聞き流していた。
「流石は”緋い魔女”、我らには到底出来なかったことを…」
「ちょっと」
とうとう長い話に耐えられなくなったグレートヒェンは、思わず話を遮った。
「あ、はい?」
屋敷の主人はぽかんとした表情をする。
「”コイツ”、本当に貰って行っても良いのかしら?」
グレートヒェンは親指で背後にいるナツィを指し示した。
「え、えぇ、大丈夫ですけど」
そもそも貴女様が報酬に欲しいと言いましたし…と屋敷の主人は答える。
「むしろ、”アレ”は優秀な貴女様にお似合いだろうと思われます」
屋敷の主人にそう言われて、グレートヒェンは、お似合い、ね…と反芻する。
ちら、とナツィの方を見ると、ナツィは何だか恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「まぁ良いわ」
グレートヒェンは屋敷の主人に向き直る。
「こちらこそ、色々とありがとう」
またどこかで会えると良いわね、とグレートヒェンは屋敷の主人に背を向けて歩き出そうとした。
だがすぐに足を止め、ナツィの方を見やった。

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緋い魔女 Act 43

精霊は光の壁に体当たりして罠から脱出しようとする。
しかし光の壁はびくともしない。
唸りながら悪足掻きを続ける精霊を、グレートヒェンは見上げた。
「お前の負けよ!」
グレートヒェンがそう叫ぶと同時に、精霊の真上からナツィが飛び込んできた。
「はぁぁぁぁぁっ‼」
ナツィは思い切り黒鉄色の大鎌を振りかざす。
精霊は抵抗する間もなく両断され、光の粒子となって消滅していった。
勢いよく飛び込んだナツィは、そのまま雪原に突っ込んだ。
雪煙が立ち込める中、グレートヒェンは思わず駆け寄る。
ナツィは雪の中に突っ伏していた。
「…」
グレートヒェンに気付いたのか、ナツィはむくりと起き上がる。
「濡羽色の羽根」
グレートヒェンはぽつりと呟く。
「さながら悪魔、ね」
グレートヒェンがそう言うと、ナツィの背から羽根が消えた。
グレートヒェンはナツィの頭に付いた雪を手で払う。
ナツィは嫌そうな顔をしたが抵抗はしなかった。
「それにしてもよくやったわ」
グレートヒェンがそう言うと、子ども扱いするなとナツィは返す。
ふふふ、とグレートヒェンは笑った。
「屋敷に戻りましょう」
グレートヒェンはすっとナツィに手を差し伸べる。
「…そうだな」
ナツィはグレートヒェンの手をとって立ち上がった。

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緋い魔女 Act 35

翌朝、日がそれなりに高く昇った頃。
夜の間に雪が降り積もった森の中に、2つの人影があった。
1つは何かが入った袋を持つ赤い髪の少女。
もう1つは外套に付いた頭巾を目深に被った、少年とも少女とも言えない黒い怪物。
2人は無言で足跡一つない雪原を踏み締めて行った。
「…」
ふと、赤い髪の少女ことグレートヒェンが、木の根元で足を止める。
大木を少し見上げ周囲も見回した後、グレートヒェンは手に持っている皮袋から液体の入った瓶を出した。
ぽん、と音を立ててコルク栓を抜くと、グレートヒェンはそれをほら、とナツィに投げ渡した。
ナツィは黙ってそれを受け取る。
さらにグレートヒェンは皮袋から、先に布がきつく巻き付けてある木の棒を取り出した。
そしてそれを瓶の中の液体に浸した。
棒の先に液体を染み込ませると、グレートヒェンはそれで雪原に何やら幾何学模様を描き出した。
曲線や直線、そして文字の様なものを複雑に組み合わせた大きな文様を、グレートヒェンはすらすらと描き出していく。
一通り描き終えると、グレートヒェンは棒を近くの雪原に突き立てた。
一息ついてから、今度は皮袋から何か黒くて小さい石ころの様なものを取り出す。
グレートヒェンはそれを自らが描いたものの上に撒いていった。

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緋い魔女 Act 32

罠、とナツィは反復する。
「あの精霊、私達の前に現れてもすぐに姿を消してしまったでしょう?」
だから逃げないように、人間にも見える状態で捕らえておくの、とグレートヒェンは続ける。
「そして捕まえた所を倒すのよ」
グレートヒェンは得意げにそう言った。
ナツィはふーん、と頷く。
「さすがに1日でかかるとは思ってないけど、罠は複数作るつもりよ」
でも牧羊地なんかに作ると何も知らない一般人に危害を与える可能性があるから、人のいない森にだけ張るわ、とグレートヒェンは言う。
ナツィは黙って聞いていたが、グレートヒェンが話し終えた所でこう尋ねた。
「お前、精霊を見える状態で捕らえておくって言ってたけど…わざわざお前が見えるカタチにする必要ある?」
俺なんて大抵の精霊は普段から見えているし、俺が"アレ"を倒すのならお前に見えなくても問題ないだろ、とナツィは真顔で言う。
「別に良いじゃない」
グレートヒェンはつまらなそうに答えた。
「ちゃんと精霊を倒したか確認する必要だってあるし…それにお前、昼間の時は精霊が姿を現してから気付いてたじゃない」
グレートヒェンにそう指摘され、ナツィはぎくっ、と気まずそうな顔をする。

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