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赤い蝶が舞う

「ねみぃなぁ」
思わず漏れた感想を紛らわすように携帯をつつく手のスピードを上げた
朝は嫌いだ
日光に全てを吸い取られる感覚がするしこれから長い時間集団生活に拘束されるのだと思うと気が重い
「おっはー.....って眠そうだね何時に寝たの?昨日」
正直初瀬の挨拶が若干目覚まし代わりになりつつある
「4時」
「寝てなすぎっしょ」
寝ないのは明日が来る事への抵抗かもしれない
日付が変わっても寝ない限り自分の中では1日が終わっていない気になれるから
でも結局日付は変わるし次の日眠いしで良いことは1つも無い
「じゃ行くか」
「おっす」
正直学校へ着いた後からは
放課後を迎えるまでほぼ記憶が無い
大体寝てたからだろうか
重い身体を起こし目を擦りながら文研部の部室へ歩みを進めていると
「どこだっけなぁ、えーんと」
僕の目の前で
見慣れた制服を来た見慣れない女の人がキョロキョロしていた
見慣れないという事は恐らくは上級生だと思うが
「おっ、人居た」
げっ、見つかった
と正直思ってしまった
関わらずに通り過ぎるつもりだったからだ
「キミ、キミ、キミ、特殊工作室ってこの棟の所にあるって聞いたんだけど知らんかな?」
「えっと、それなら外に見えるあのボロ小屋ですけど」
「えっ、外なの?マジかーミスったなこりゃ
ありがとう。じゃ、またねー」
そういうと見慣れない上級生は走り去って行った
廊下ダッシュ禁止
生徒指導部がこれでもかと貼っているポスターが如何に仕事をしていないか
「変な奴多いなここ」
ちなみに僕はこの後もっと変な奴らと出会う事になるがそれはまた次の機会に

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赤い蝶が舞う

「とりあえず今日はここまでということで」
やっと解放される。何故ここで2時間近くも俺は時間を使ってしまったのだろうか
「葉山帰ろ」
「あぁ、帰ろう疲れた」
「そりゃこっちのセリフだ全く、私は顧問を探してから帰るじゃあな」
本当に強烈な女だ折紙は
今まで出会って来た誰よりも....
「敵に回したくないな」
「ん?なんてなんて?」
「なんでもない帰ろう」

季節は少しづつ春を置いて夏へと向かって確実に歩みを始めている
初瀬と初めて言葉を交わした時美しく舞っていた桜の花びら達
今は僕達がこの足で踏みしめている
「ごめんごめん教室に筆箱忘れてたよ、はは」
「取りに行くか?」
「そだね」
春は出会いの季節とはよく言ったものだ
入学から1ヶ月と経たずに高カロリーな出会いが2件もあった特に今日のは別格だ
「葉山明日何時に出るの?」
「そうだな多分7:00までには駅に居るよ」
「なら私は6:55までに」
「何故そこで張り合う」
「だっていつも先に居て暇そうな顔して待ってるでしょ?だから今度はこっちが暇そうな顔して待ってやろうと思ってね」
コイツいい笑顔してなんて地味な嫌がらせを
しかも5分の差ってコイツ絶対朝弱いな
「でも難しいね文化祭の展示考えるって」
「まぁ文研って話聞く限りじゃかなり特殊な部だしなそれに折紙じゃないが多分活動記録なんて大した物残ってないと思うぞ」
「やっぱそうなのかな」
「顧問が門田先生だ、記録なんてしてないだろ多分」
「確かにしてなそう、『記録?そんなもんお前らで適当にやれ俺は寝る』とか言いそうだし」
可愛らしい女の子から発せられたとは到底思えないくらいモッサりとした低い声で門田先生の口調を真似て初瀬が喋った
「すげぇ声」
「ふふっ、似てた?」
無邪気に笑いながらそう僕に問いかけて来た初瀬は皆んなに好かれている初瀬紗夜だった

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赤い蝶が舞う

「なんで僕がこんな目に」
「葉山ドンマイでも意外と楽しいから部長も面白いよ」
初瀬にフォローされながら僕は重い足取りで階段を上がりとある教室へ足を踏み入れる
旧校舎の4階で1番右隅にある名前の無い空き教室で文化研究部の部室である
なぜ僕がここに居るかはまた別の機会に
何故かと言うとそろそろ会議の時間なのだ

「よしそれでは今年の文化祭の展示内容を決めたいと思う何か意見のある者」
声の主は 折紙 舞姫
女性にしては低いが通りの良い声が教卓から放たれる
首元辺りでバッサリ切られた髪に小柄な見た目は活発そうな女の子という感じの風貌なのだが
全身から近寄り難いオーラを放っているのがなんとも言えない
僕と同じ1年で隣のクラスの要注意人物というのが
彼女に対する男共の認識だ
「おい 葉山聞いているのか」
「あぁ、展示ね展示、聞いてる聞いてる」
「はぁ 適当で良いと言ったがやる気ある奴で頼むとお願いしたはずなんだが....」
辺りを見渡しお探しの人物が居ないことを確認し
ため息をひとつ
「顧問は」
「部員探しの続きらしいよ」
「アレに任せていたら碌な人材が入らんな部員の方もこっちで考えないと小規模な展示しか出来ないな」
折紙の肝の据わり方も大概だが門田先生の信用の薄さの方も大概である
しかし折紙 舞姫という人間は
誰にでもぶっきらぼうな上
中学時代は空手で全国1位で戦闘力も抜群ときた
彼女に近寄るだけでもハードルがかなり高い(心理的に)
「それで過去にどんな展示をやったとか活動資料みたいなのは無い訳?」
「知らん、何せ顧問の私情で無理やり動かされ始めるような部活だ過去の活動記録なんてあっても役に立たないのは目に見えている」
「先代の部員が可哀想になるから止めろ」
「姫ちゃん毒舌だねぇ」
顧問 門田 善次郎
部長 折紙 舞姫、副部長 初瀬 紗夜、補欠 葉山 健也
というのが現 文化研究部の部員の面々である

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赤い蝶が舞う

大概人が持っている物は輝いて見える
私以外の世界は全て眩しい
葉山 健也
彼はきっと私と同じ世界の人間だと思う
そうあって欲しい
「ねぇ、葉山は誰かを羨ましいと思う事ある?」
「恥ずかし話俺は皆んなが羨ましいよ初瀬が居なきゃ3年間ぼっち確定だったしな感謝してるよ」
葉山は畏まってそう言った
「いやいや、私だって危うくぼっちコースだったんだよここ(泉西)に来たの私だけだもん」
「そうなんだ、まぁでも初瀬ならどこに行っても大丈夫なタイプだよ」
違うそれは私でなく私が作った私だ
全ては私が私を嫌いが故に作り出した偽物に過ぎない
「そんな事ないよ へへ」
笑っている私はどんな顔をしているだろう
綺麗な笑顔だろうか不自然でないだろうか
私はありとあらゆる事を気にして生きている
それ故に損をして来ている事を自覚しながら
私は恐怖の殻に包まれている
「じゃ俺そろそろ帰るけど初瀬はどうする?」
「委員会の仕事あるから今日は残るよ」
「そっかじゃあまた明日な」
「うん、では少年また明日も学校来いよコノヤロー」
「あぁ 少年は明日もきっちり登校してやるよコノヤロー」
笑顔で私のおふざけに付き合ってくれる彼を見て最近思う事がある
多分彼は笑顔でいる事が増えたはずだと
これは勘で出来る事なら当たって欲しくない
彼の殻を破ったもしくはヒビを入れたのが私であるという、いや正しくは偽物の私が彼の殻を破ったもしくは破る助けになったという事実
廊下を歩く彼に夕日が差し込んでいる
今の葉山は私にとって少し眩しい、と思う

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赤い蝶が舞う

入部希望期間が締め切られた
結局僕はどこにも所属しなかった
初瀬はというと
「えっ?私?私はね、文化研究部ってのに入ったよ」
いつもの笑顔はとっくに戻って来ていた
それに何となく安心した僕は文化研究部なる存在を知らなかったので聞いてみた
「何それ、そんなんあったの?」
「あるある、まぁ私も勧誘受けるまで全然知らなったけどね、へへ」
僕達が知らなかった訳は
僕らが入学するまで休部していたらしく
現在部員は初瀬含め1年2人だけの部らしい
「で、そんな限界集落みたいな部にどうやって勧誘された訳?」
「顧問の門田先生がね文研が動かないと野球部の顧問にされるから助けてくれってプラカード作って校舎を徘徊しててそれに捕まったの」
「シュールな話だな」
門田 善次郎
2年C組の担任で担当教科は国語
陽気さにかけては泉西校教員の中でもトップクラス
一応初瀬の話じゃ文化研究部の顧問らしい
見た目は完全に用務員の先生なのだが格好がスーツなので実に不自然で男女問わずそれをイジれるくらい気さくな人で生徒からの人気も男女問わず集めており多分教師の人気投票でもあれば1位は堅いのではと密かに思っている
大方野球部の顧問にされて試合や遠征とかで休みを潰されるのが嫌だったとかそんなとこだろう
疲れたと休みをくれが口癖なくらいの人だし
「門田先生入部希望者が2人居るって分かったら泣いてたって聞いたよ」
「なんて大人だよ....」
「はは、まぁまぁ人間っぽくて好きだけどね」

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赤い蝶が舞う

「困ったなぁ」
教室の扉を開けるとわざとらしく話しかけて欲しそうな雰囲気を醸し出しつつ
横目でこちらを見ている初瀬がいた
ちなみに僕の席は彼女の斜め前だ
それもあって朝はだいたい僕は後ろを向きっぱなしなんだがどうやら今日はHRまで座れなそうだ
「どしたの朝から」
「おっ、おーはー」
「何今気づいたフリしてんだ入室直後から気づいてたろ」
「ありゃま気づいてたのか流石だね」
初瀬の机に紙が置いてあった
この時期に紙を置いて悩む
何となく悩みの種が見えたが一応聞いてみる
「で、朝からどしたの」
「んーとねコレさ」
差し出された紙を見て僕の推測が間違いで無いことが確認された
入部届けと書かれている
「なるほどね、それで悩んでると」
「そーなんだよ何かなーい?」
「僕に聞くなよ部活何かまともにやって来なかったような奴だぞ」
実際中学時代は帰宅部だ一応文化研究部なる場所に席は置いていたが活動に参加した覚えがないのでなんの部活かと聞かれても困る
「初瀬そういうのサッと決めてそうなタイプだけどな」
「おやおや、決めつけは良くないぞ」
「中学の時何やってたの?」
「・・・・・」
ややあってその返事は返ってきた
「ご想像にお任せする」
なんとなく彼女の顔が
それを踏むなと言っている気がした

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赤い蝶が舞う

いつだったか彼女 初瀬 紗夜(はつせ さや)
を好きになった瞬間から
アレが全ての始まりだったのだと
最後まで・・・・・・
なんだかんだで初瀬 紗夜は僕にとって初恋の人のままらしい.......


私立泉西高校
絶望的な偏差値の僕(葉山 健也)
に合格の可能性があった唯一の学校
電車通学の僕がここの立地は最悪だと思うほどだから泉西高の制服でその辺を走りまくっているチャリ通勢の気持ちはお察しします
と言っておこう
どこぞのマラソンコースのようなこの坂は入学から数ヶ月で慣れられるほどレベルの低いものではない
だから僕はかなり早く登校を開始してまずは駅で一休み
次の坂の中腹で一休み
そして校門を通過し速やかに上履きに履き替え教室で力尽きる
というのが朝のルーティンだった
だったという事はつまり今は少し違う
入学から2週間後友達が出来た
初瀬 紗夜
女の子から来るとはという予想外の驚きで言葉が上手く出てこない僕をよそに
半ば強制的に僕と友達になった初瀬
気づいたらそれにうなづいている自分が居た事は僕の人生でも上位に位置する不思議だ
そして万年陰キャ道まっしぐらだった僕にとって人生で初めての陽キャらしい友達が出来た
その陽キャらしい初瀬 紗夜によって僕の人生は大きな転換点を向かえるのだが
それはまだ少し先の話である