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小説的鏡

これは高校の頃、ある日の話

次の倫理の授業で「アイデンティティの確立」というテーマでディベートを行うことになった。
それに先だってヒントとして
「他者は自分を映す鏡だ」
と教師は言った。
「自分は他者を映す、他者は自分を映す」
そういうことらしい…

課題とはいえ、家に帰ってもなかなかその言葉が頭から離れなかった。
だって理解が出来なかったから…
他人は何を考えられるかわかったものじゃない…
いつ自分を攻撃してくるかわからない…
他者という言葉にそう怯えることしかできない自分も嫌で仕方なかった。
考えることをやめたかったけど課題だから丸っきり考えるのを辞めるわけにもいかず考えはグルグルと同じような所をめぐり始めた。

ピコンッ

そんな時にインスタの通知がなった。
ストーリーがいい加減溜まってきたらしい、
さっさと見ろという例の通知だ。
課題に追われていたとはいえ久しぶりにこんな通知に出会った。それでも見る余裕はないのですぐにスマホの電源を切った。

その一瞬、スマホの黒い画面から目が離せなくなった。

電源を切ったスマホは鏡同然だ…
自分がよく打つ文字の形に指紋がベッタリと付き
上部には醜い自分の顔が映る。
スマホがいつもレンズとフィルターを通して自分を美化してくれていたことに改めて気づいた。
美化された写真にいいねがついていく様は
この写真が自分の現実から離れていっていることをいつも雄弁に伝える。
所詮他人は他人でしかない
私の1面しか見てないけど褒めたり貶したりする
けどそれでいいんだ…
他人は歪んだ鏡だ
その歪みは自分を美しくも醜くも映す
スマホよりもよっぽど人間らしい
でもそこに誰の意思もない
だから私は集団の中で私でいられる

初めてわかった
これがアイデンティティなんだ!

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次の倫理の授業はこんなみんなの承認欲求と自己嫌悪がおぞましく渦巻いたディベートとなり、私がポエムを始めるきっかけになったのはまた別のお話…

初めて書いたポエムのアレンジです
良ければそっちも読んで

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Daemonium Bellum : 用語解説

創作企画「Daemonium Bellum」の用語解説です。

〈天使:Angelus〉
秩序を以って地上に平和をもたらそうとする勢力。
基本的に人型で背中に羽根がある。
地上に巣食う悪魔とは敵対している。
少し前に全天使の三分の一が反乱、地上に逃亡・追放される事件が起きたせいで人手不足気味。
集団行動が多い。
人間からは崇められたり、迷惑な存在とされたりとさまざまな扱いを受けている。
悪魔と繋がっている者や人間に協力する者、悪魔に宥和的な者もいるらしい。
首と心臓が弱点で、これらを破壊すれば倒せる。
逆に弱点以外に攻撃しても怪我はその場で治ってしまう。

〈悪魔:Diabolus〉
混沌を好む地上の勢力。
本来は異形の姿をしているが、普段はほとんどが人間に近い姿をとっている。
天界に住む天使とは敵対している。
天使のように1つの勢力で動いているのではなく、個人個人で戦っている者がほとんどである。
人間からは崇められたり、迷惑な存在とされていたりと様々な扱いを受けている。
天使と繋がっている者や人間に協力する者、天使に宥和的な者もいるらしい。
首と心臓が弱点で、これらを破壊すれば倒せる。
逆に弱点以外を攻撃しても怪我はその場で治ってしまう。

〈堕天使:Angelus Lapsus〉
天界から諸事情で追放された/逃亡した天使のこと。
追放された者は大抵片方の羽根を切り落とされいる。
天使や悪魔に協力する者、第三勢力として動く者、人間に溶け込む者など様々な者がいる。

〈人間:Human〉
地上に住む無力な存在。
数だけが取り柄。
文明レベルは中途半端で停滞気味。
よく天使と悪魔の戦いに巻き込まれている。
天使や悪魔を崇める者、利用する者、協力する者と様々な者がいる。

以上です。
創作企画「Daemonium Bellum」は5月2日からスタートです!
どうぞお楽しみに。

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いい後輩

いつか先輩に聞いたことがある
「僕はいい後輩になれましたか?」
答えは返ってこなかった
別に答えを求めてたわけではなかったが、それ以来その質問は答えのない問いとして自分の中で膨らんで行った

その問いを抱えながら自分も後輩を迎え、先輩と呼ばれるようになったが、先輩と呼ばれるのはどうも慣れなかった。おそらくどこかに後輩気分が抜けてなかったんだろう。それでも後輩と過ごす時間はあまりにも楽しく、そしてあっという間だった。
引退まで来ても抱えた問いに答えは出なかった。
先輩として後輩を見ることで確信したのはこの問いに明確な答え、正解がないということだけ、肝心の答えはモヤがかかったみたいで全然見える気配がない。いつしか部活の記憶とこの問いは1括りになっていた。

後輩が先輩として活躍する姿を見る立場になりその活躍に刺激を受けるというよりも心躍ることが多くなった。おそらくようやく真の意味で先輩になれたのだろう。
そうしてついに後輩の引退を見守る日を迎えた。
別に先輩ヅラするつもりなんてないけど後輩の演奏を見てると何故か彼らが入部した頃の姿が重なる。この感動は今この場の自分以外の誰にもできないものだろう。
そんな感慨を感じながら彼らの演奏は盛り上がりを見せ展開されていく。曲の情景、後輩たちの顔がありありと目に焼き付いてく。曲間、目が潤んでいることに気がつき、思わず目を瞑る。その視界の先で先輩が待ってたような気がした。
先輩にこの感覚を話したい、そう思った。
自慢とかじゃなくて自分を見守ってくれた感謝を示すにはこれが1番な気がしたし、先輩としか共有できない何かが胸に溢れているのを感じていた。

しばらく時間が経って
“あれがずっと抱えてた答えだったんだ”
ふとそんな気がした。
あの時、初めてその領域に達したような
「2年もかかったけどようやく答えが出たよ」
誰にともなくそう呟いた。