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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介③

・ツファルスツァウル Zufallszahl
身長:145~220㎝  武器:ダイス
ある遊び心に溢れた魔術師の生み出した使い魔。刻まれた術式の効果は『ロールの実行』と『乱数による能力の増減』。ダイスによって『ロール(役割)』を決定し、『ロールプレイ(RP)』によって戦う。「A~C」の3システムそれぞれにスタイルの異なる6つ、計18のスタイルが付随している。実際はダイスを振る必要無くロールセレクトや行動が可能ではあるが、ダイスの出目に従うことで最大出力が更に向上する(下振れもある)。ちなみにRP中に死亡した場合は「システム」の終了として処理され、本体は死なない。同じシステムで『卓』を開くためには、多少のクールタイムが必要。
RP中はロールごとに人格が変わったかのように振舞うが、全てツファルスツァウルが自我それ自体はそのままに『演じて』いるだけであって実際の人格は1つだけなので、はい。
非RP時の外見は銀髪ショートヘアに青目の身長150㎝弱の子ども。服装は白いオーバーサイズのパーカーとショートパンツ。非RP時は引きこもりなので足元は素足。人格はやや希薄だが女性寄り。現マスターが赤ん坊の頃から一緒にいた。
ちなみにマスターの事は「にぃ」と呼ぶ。兄ではない。

・ツファルスツァウルのマスター
年齢:24歳  性別:男  身長:170㎝
ツファルスツァウルを創り出した魔術師の息子であり、現マスター。術式や魔法の使い方も父親から教わった。
生まれた時からツファルスツァウルが傍にいたため、ツファルスツァウルのことを昔は姉だと思っていた。今もその感覚は抜けきっていない。人間ですら無いと知ったのは中学生のころ。流石に姿が変わらなさすぎることに疑問を持ち、本人に尋ねたら教えてもらえた。大層驚いたそうな。
RP中のツファルスツァウルのことは道具として見ている。

・ナツィさん
今回、勝手に射程攻撃を覚えた。【神槍】は「刺突」なので、本来大鎌による行使はとても難しいが、ナハツェーラーさんなので。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介②

・河上桐華(カガミ・キリカ)
年齢:17歳  性別:女  身長:169㎝
ツファルスツァウルのロールの1つ。システムBロール2。肩甲骨辺りまでの長さの黒髪をポニーテールにまとめた長身の眼鏡少女。基本的に長袖のセーラー服姿でいる。足元は黒いタイツとスニーカー。全長約1.2mの日本刀〈雨四光〉を用いた剣術で戦うが、最も威力を発揮するのは間合いを取った射程戦。練音ちゃんをフロントに置いて後ろから【神槍】し続ければ多分最強のコンビになれるけど、ツファルスツァウルの身体は一つなので実現はまず不可能。〈雨四光〉の銘の由来は「1足りずとも確かな輝きを放つべし」。ダイスゲー的にとても縁起が悪い。
ナツィさんに対するリスペクトはいまいち足りてない。好戦的な気質なのでまあしゃーない。
ちなみにマスターの事は「ボス」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:鞍馬神流のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《刀術》。習得忍法は【陽炎】【狭霧】【神槍】【先の先】。奥義の【鏡刃・乱影断】の効果は「範囲攻撃」。指定特技は《瞳術》。逆凪上等で先手を取り、-3ペナルティ入り(※1)の回避困難な高火力(※2)の突きを叩き込む。基本的に先手を取るためプロット5~6に貼り付いている人。
※1:【狭霧】は相手の回避に-1ペナルティが入るパッシブスキルみたいなもん。【陽炎】は使うと次の攻撃に対する相手の回避に-2ペナルティが入るアクティブスキルみたいなもん。
※2:【神槍】は『遠距離にしか撃てない』射程技。2点ダメージ。【先の先】は相手より先手を取ると1点追加ダメが入る技。理論上、敵を2手で殺せる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! キャラクター紹介①

・木下練音(キノシタ・ネリネ)
年齢:13歳  性別:女  身長:145㎝
ツファルスツァウルの『ロール』の1つ。システムBロール6。黒髪ロングヘアの華奢な少女。黒い和装には金糸で蜘蛛の巣柄の刺繍が施されており、背中の部分は蜘蛛脚展開のために大きく開いている。
背中から大蜘蛛の脚を展開し、攻撃に利用する。だが、真に得意とする領域は、近接武器でさえ邪魔になるほどの『超』接近戦。自身の周囲極めて狭い範囲にのみ展開される蜘蛛糸の防御結界と攻性結界を駆使して相手の動きを阻害し、相手の動きを封じてからチクチク攻める。実は奥の手として射程攻撃もある。
ちなみにマスターの事は「主殿」と呼ぶ。
※メタ的には『忍術バトルRPG シノビガミ』より流派:土蜘蛛のPC。【接近戦攻撃】の指定特技は《異形化》。習得忍法は【鬼影】【雪蟲】【鎌鼬】【糸砦】。奥義の【外法・御霊縛り】の効果は「判定妨害」。基本的には相手の命中判定に-3ペナルティぶち込んだうえで(※1)判定妨害で強制的に失敗にまで引きずり込む(※2)。練音ちゃんは基本的にずっとプロット値3~4に貼り付いている(ファンブル値が3か4)ので、コンボが決まれば相手は勝手に逆凪(※3)に引きずり込まれる。実は別に攻撃役がいた方が活躍できる。
※1:【鬼影】の効果により、相手は自身に対する命中判定に-2のペナルティが入る。また、【雪蟲】の効果によって、同じプロットにいる他のキャラクターは命中判定と回避判定に-1のペナルティが入る。
※2-A:『シノビガミ』の判定は2d6振って5以上なら成功。「判定妨害」は相手のダイス1つの出目を強制的に「1」にする=最大でも相手の2d6の結果は「7」になる。あとは分かるな?
※2-B:『シノビガミ』のルール上、同じプロットにいる奴らの行動は「同時に」行われている扱いなので、逆凪になってももう1人が行動し終わるまでは逆凪の影響は受けないんですが、そこはまあ、ノリ重視で。はい。
※3:『シノビガミ』では戦闘中ファンブルすると、そのラウンドの間あらゆる判定で自動失敗するようになります。これが「逆凪」。先手を取った奴がうっかり逆凪になると、後手の皆さんにボコボコに狙われても回避できなくなる。怖いね。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑮

「練音ちゃんから見て、どうだった?」
「私の守りの強さが露呈したと思います!」
「うん、自分でカスタムしてて思ったけど、君と戦うの絶対つまらないよね……全然当たらないんだもん」
「ナハツェーラーさん、すごい使い魔だって聞いてたのに……私の防御を抜けないなんて不思議でしたねぇ」
「そりゃそうさ。理論上、君の防御は『絶対』成功するんだもの」
「あ、あといっぱい逆凪させられました!」
「出目が味方したねぇ……。桐華さんとは正反対だ。とにかく、よく戦ってくれたね。……ところで質問なんだけど」
「はい」
「次、ナハツェーラーさんと戦ったとき、勝てると思う?」
「…………感覚としてはなんとも……ってところですかねぇ……」
「ふむ。理由を聞いても?」
「はい。まず、私の得意な間合いがバレました。近距離戦にはもう入ってもらえないでしょう」
「けど、ナハツェーラーさんには射程能力は無かったはずだよ」
「【神槍】です。キリカさんが技を盗まれました。私の術は全部、『蜘蛛』と『呪術』に由来してるので良いんですけど、キリカさんは体術メインですから……。こちらも【鎌鼬】はまだ見せていなかったので、恐らく1回は射程戦に食らいつけるでしょうけど…………あちらの方が間合いでは勝っているので。私が死ぬ前にあちらの『逆凪』を誘発して、あちらが慎重になってくれれば、あるいは」
「……うん。とにかく今日はお疲れ様」
「ごめんなさい、勝てなくて……」
「いや良い。別に本気で勝てるとも思ってなかったし。むしろ予想以上に届いたなって感じだよ。今日はゆっくり休みな、“ツファルスツァウル”。桐華さんと合わせて結構消耗したでしょ」
「はい。それではおやすみなさい、主殿」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑭

「さて」
帰宅後、男は自分の目の前に桐華を正座させた。
「感想戦を、始めます」
「はーい。お説教じゃないんですね」
「お説教じゃなーい。別に叱られるようなことしてないでしょ? まず、実際にやり合ってみてどうだったよ、ナハツェーラーさんは」
「あー……そうだな…………ネリネの方が長く戦ってたし、そっちに訊いた方が良いんじゃ?」
「桐華さんも戦ったでしょうが」
桐華は顎に手を当て、思案する。
「えっとなぁ……これはネリネ側の記憶も混じってるんだけど……そうだな、強いって触れ込みだったにしちゃ、弱かった」
「失礼な。まあ、『最高傑作』であって『最強』とかじゃないからねぇ」
「できることがシンプル過ぎてなー……体術と鎌ブンブンだけじゃん?」
「それに負けかけてたのは桐華さん、どう言い訳するおつもりで?」
「出目が腐った」
「さいで」
「あー、でも【神槍】パクられたのは痛かったなー」
「はい?」
「あいつ、私の【神槍】を見ただけで習得しやがりました。戦いの中で成長するニュータイプだよありゃあ」
「何それ怖い……」
「あとタフすぎる! 私の攻撃だけで1回以上死ねたはずだぞ。何度殺してもあれが死ぬビジョンが見えない!」
「まぁ……それはしゃーない。ナハツェーラーさんだし」
「ナハツェーラーさんだからかぁ……」
「それじゃ……練音ちゃん」
ツファルスツァウルが、『木下練音』に姿を変じる。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑬

桐華が攻撃に入ろうとしたその時だった。
「ふぅ、ようやく追いついた……っと」
「ナツィいたー!」
「げっ……ピスケス、キヲン」
空気を読まないかの如きタイミングで乱入してきた二人に、一瞬場の空気が凍り付く。
「え、お前何やってるの?」
「あれ、ナツィ怪我してる。なんで?」
「……別に何でも良いだろ」
「…………あー、ボス? やっても良い?」
攻撃の態勢を保ったまま、桐華は隣の男に問いかけた。
「えー……じゃあ奇数が出たらね。……3。ゴー」
「了解ぃっ!」
桐華が咥えた眼鏡を宙に放り上げ、回転運動が発生したそれのレンズが数m先のナツィの姿を映したのと同時に、そのレンズに斬り付ける。
「ひっさぁあつ!」
衝撃によってレンズに亀裂が入り、同時にピスケスとキヲンが鏡像に加わる。
「【鏡刃・乱影断】!」
そのまま刀を振り抜き、レンズが粉砕される。鏡像が破壊されたのと同時に、現実の3人にも刀傷が発生した。
「っ⁉」
「なっ……!」
「わぁっ」
「おっ、入った入った! やっぱ死なないかー!」
「桐華さん、満足した?」
「したした!」
「それじゃ、さらばナハツェーラーさん! 対ありでした!」
男は桐華を小脇に抱え、その場を離脱した。
「痛たたた…………ねぇ、あいつら何だったの?」
ピスケスがナツィに尋ねる。
「知らん。……けど」
「けど?」
「何か、疲れた…………」
「あっそう」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑫

『桐華』と呼ばれたその使い魔、ツファルスツァウルは、地面に落ちた刀を辛うじて動く左手で拾い上げた。
「それでぇー……ボス? もしかしてこれ……任務失敗強制帰還の流れですかねー……?」
「んー? まあ、フル残機とはいえ、自分の使い魔に死なれると悲しいからねぇ…………そういうわけで、ナハツェーラーさん。今日のところは失礼させていただきます。もうナハツェーラーさんや周りの人を無暗に襲わないよう、こっちでよぉーっく言い聞かせておきますんで、どうかご容赦ください! それでは!」
「なっ、待て!」
「そうですぜボス」
「えっ」
ナツィと桐華から立て続けに制止の言葉が入る。
「こっちの都合でボコされたナハツェーラーさんは良いとして、なんで桐華さんまで?」
「いやぁ? ネリネの【外法・御霊縛り】は見せたのに、私の奥義だけ見せないのはアンフェアじゃない」
「やるの? ナハツェーラーさん死なない?」
「ここまでやって死なないならもう死なないでしょ。それに万が一にも今度戦うことになった時、不公平じゃん?」
「うーむ……まあ良し。それじゃ、ナハツェーラーさん。あと一撃、お付き合いくださいな」
「は?」
桐華とマスターの動向を警戒しながら見つめるナツィの前で、桐華は左手で刀を構えた。
「へいボス、ちょっと私のポケットからコンパクトミラー出して」
「え、やだ……」
「ちぇっ。じゃ……」
桐華は頭を大きく振り、勢いで外れた眼鏡の縁を口で咥えて受け止めた。
「これで良いや」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑪

ナツィが再び、【神槍】の構えを取る。
(クソッ、断言できる。ナハツェーラーさんの方が速い!)
大鎌が振り下ろされる直前、二者の間に一つの影が飛び込んできた。咄嗟にナツィは動きを止める。
「ちょっ…………と待ったあ!」
「…………誰?」
突如現れたローブ姿の人物にナツィは敵対心を剥き出しにした目を向ける。
「やぁやぁどうもお初にお目にかかります、彼の伝説の大魔術師ヴンダーリッヒの生み出した最高傑作、“夜の蝶”の二つ名を冠するは、異国の吸血鬼の名を戴いた人工精霊にして使い魔ナハツェーラーさん。自分の身内がたいっへんご迷惑をおかけしました!」
その男はフードを脱ぎ、勢い良く頭を下げた。突然の事態に一瞬呆然としたナツィだったが、彼の言葉にすぐに食って掛かる。
「お前が、俺を暗殺するようその使い魔に命じた黒幕か!」
「えっまあそれははい」
平然と頷くその男に、ナツィは大鎌を振り上げて飛びかかった。しかし。
『武器を下ろせ』
男が短く言うと、それに従うかのようにナツィの身体は勝手に動きを止めた。
「⁉」
「うげっごめんなさいつい……けど今は非戦闘イベってことで一つ……」
「……なんでだ」
「ほい?」
「なんで、俺を狙った? 人質まで使って……」
「人質……ってのが何なのかは正直知らないけど…………自分の作ったものが実際どれほどの性能なのかって、確かめてみたくなるもんじゃないっすかね?」
きょとんとした表情で答えたその男に、一瞬呆然としたナツィだったが、すぐに正気を取り戻して食って掛かる。
「……はぁ⁉ そんな下らない理由で!? ってかその使い魔はお前が創ったものじゃないだろ!」
「ん? ぁいや『ツファルスツァウル』じゃなく、『ロール』の方。18個もぶち込んだからなー。結局いくつ使い潰した? 何か桐華さんに姿変わってるけど、練音ちゃんは?」
男がツファルスツァウルに尋ねる。
「まだ1個も死んでないやい。ネリネから選手交代で1発目だよ」
「それは良かった」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑩

街灯の下から外れ暗闇に紛れた少女の眼光だけが、ナツィを鋭く捉える。
(……奴の戦法。『ネリネ』とはまるで反対だけど……ある意味似てるな。『刀』って得物のくせして一番重い間合いは『遠距離』。同一人物ってのも冗談じゃないのかも……姿を変える魔法とかか?)
「……っ!」
ナツィが接近しようとしたその瞬間、遠距離刺突がナツィの脇腹を深く抉った。
「づッ……!」
「おっ! ようやくハマったなぁ!」
「くっ……そぉっ!」
ナツィは足を止めずそのまま接近し、隙のできた少女の鳩尾に、走る勢いを乗せた拳を叩き込んだ。
「あっ」
威力に吹き飛ばされ、少女は土の上を勢い良く転がった。
「ごぅぉぉぉ……っ、痛ってぇえええ……」
大袈裟に騒ぎながらも、少女は素早く立ち上がり、体勢を整える。その目に映ったのは、独特の姿勢で大鎌を構えるナツィの姿だった。
「たしか…………こうだったか?」
(なっ……こいつ!)
少女が対応するより早く、ナツィが鎌を振るう。その切先は数m先、本来届くはずの無い少女の頬を掠めた。
「ッ、『死地』の域かよ……!」
更に距離を詰めたナツィは大鎌を振るい、少女に袈裟斬りを命中させた。
(痛った……それよりも、さぁ……!)
肉体の損傷により握力を失った少女の手から、刀が抜け落ちる。
(ナハツェーラーさん…………私の【神槍】を見様見真似でパクりやがった!)
「これで、得物はもう使えないな」
「っ……へへ、仰る通りで…………」
ナツィの言葉に、少女は冷や汗を流しながらも努めて不敵な笑みを保ちながら答えた。
(……いや、これはマジにマズい。今の攻撃で体術の手が死んだ。…………っつーか何だよアイツ、おかしいだろ。ネリネと私で2回くらい殺せそうなダメージは入れてるはずだろ? せっかく『ネリネ』から継いだってのにさァ……私が決めなきゃ、格好悪いじゃんねぇ……?)

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑨

「どうした、あんた『伝説』なんだろ? この程度で倒れてくれるなよ、ナハツェーラーさん!」
「倒れるかよ、この程度で……!」
ナツィが距離を詰める。それに合わせて、少女は刀を振り下ろした。
「っ……⁉」
ナツィはその攻撃を大鎌の柄で受け止めたが、少女の動作に違和感を覚え、素早く観察する。振り下ろした姿勢のまま、微動だにしない。
(…………この現象……もしかして、あのネリネって奴に散々やられた……?)
「それな……らっ!」
ナツィの放った蹴りは、少女が回避動作を取る間も無く命中し、数mも後退させる。
「『それ』、そっち側もなるんだ?」
「げッ……ほ、ぇほっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……痛ってェー……!」
少女は体勢を整え、上段の構えでその場に制止する。
「来なよ、ナハツェーラーさん。迎え撃ってやる」
「……そんなら、お望み通り!」
ナツィが駆け出す直前、少女は既に動き出していた。刀1本にて、遠距離に届く刺突の技。しかし、その動きはまたも空中で不自然に停止した。その隙を逃さず、ナツィは大鎌の斬撃を命中させる。ダメージによって少女はよろめき、更に後退する。
「ごッ……ふぅっ、はぁっ、っ、ぐぅぅぅ……完璧な騙し討ちだと思ったのにぃ……」
肩から胸にかけて深く残る傷を撫で、掌にべったりと付着した血糊を眺めながら、少女は溢す。
「……まあ良いや」
そう呟き、少女は再び刀を構える。
「どうせ私はこれ以外の戦い方知らないし」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑧

日が沈んだことで視界の悪い公園の中を、ナツィは周囲を警戒しながら進む。中ほどまで入った時、背後でかすかな物音が聞こえた。咄嗟に武器を構えながら振り返ると、暗がりの中のベンチに、1人の人影が腰掛けていた。
「やぁ、ゴスロリ美少女。どうした? こんな良い夜にそんな怒り顔で……綺麗な顔が台無しだぞ?」
ハスキーな女声で、その人影は軽快に話しかけてくる。
「…………」
「おっと、もしかしてゴスロリ美少年だったかな? 顔が良すぎて分からなくってさ。間違ってたらすまないね」
人影はゆらりと立ち上がり、周囲を見渡してから少し離れた街灯の明かりの下に進み入った。
その正体は、腰に1振りの日本刀を佩いた、セーラー服姿の長身の少女だった。艶やかな黒髪をポニーテールにまとめた少女は、丸眼鏡越しにナツィを鋭く見据えている。
「へいゴスロリ美少年……美少女?」
「どっちでも良いよ……それじゃ、俺は行くから」
「待ちなってカワイ子ちゃんや。ひょっとして君さぁ……」
少女はナツィに向けて、1枚の光沢紙を投げた。折り目の1つすら付いていないにも拘わらず真っ直ぐナツィの手の中に納まったそれは、笑顔でピースサインを取る練音の写真だった。
「!」
「この子のこと、探してたりしない?」
「お前……あいつのマスターか!」
「んー? どうだろうねー、ビミョーに外れ」
「は……?」
「私はネリネと『同一人物』だよ。そして……」
言いながら、少女は刀を抜く。次の瞬間、ナツィの肩口が切り裂かれていた。
「ネリネと同一人物である以上、目的は『あんたの暗殺』なんだよ、ナハツェーラーさん!」
「くそっ……ツファルスツァウル……!」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! 幕間

練音:GM、《遁走術》による特殊な回避したいです!
GM:えぇ……一応クライマックスフェイズ扱いなんですが……。
練音:GMの許可があればできると聞きました。
GM:できるけどさぁ……。
練音:現状、私決して不利じゃないと思うんですよ。
GM:遁甲符使い切ったけどな。
練音:向こうには既に3点与えてて、こっちはまだ2点しか削れてないし。このまま逆凪食らわせて叩き続けてれば勝てるわけじゃないですか。最悪【鎌鼬】で射程勝ちして一方的に叩けるし。
GM:それはまあはい。
練音:この高い防御力と優位性を捨てる縛りを結んで、攻撃の得意な他の方に繋ごうかと。GMもせっかく作った他の子使いたいでしょう?
GM:有利と言えるほど有利かは知らんけど……っつーか何ならその2点実質回復できる分余計に有利まであるけどな。まぁ、しょうがないにゃぁ……良いよ。でも《呪術》で縛り結べるか判定してね。
練音:6で成功です。
GM:はいはい…………いや待て何だそのダメージの受け方は。《遁走術》使えないじゃねーか。
練音:なので《鳥獣術》で代用します。
GM:目標値10。無理じゃね?
練音:そこで回想シーンの達成値ボーナスを適用させてもらいます。これで目標値7です!
GM:うーんしゃーない。やって良し。
練音:8で成功! あ、脱落する前に《言霊術》で煽り倒してから逃げても良いですか?
GM:じゃあ今+3修正入れてあげたから-3修正で。
練音:えぇ……あ、出目8。ジャスト成功です。
GM:了解。それではネリネちゃんは脱落したので、同じシステムの子から交代選手選んでください。次は誰が出るかなー。
練音:攻撃力高いキリカちゃんとかエリハさんだと良いなー。
GM:ダイスでランダムに決めようか。6は振り直しで。
練音:2! キリカさん!
GM:まーじか。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑦

(自己紹介か? 悠長な……)
「“木下練音”は、防御能力に秀でたロールでして。主殿は私が行くと決まった時、『練音ちゃんはハマれば誰にも触れられないからね』って、とっても喜んでくださったんです。何故なら……」
それまで伏し目がちに話していた練音が顔を上げ、ナハツェーラーを真っ直ぐ見据える。
「主殿が私に課したのは、ナハツェーラーさん。『あなたを殺すこと』だから!」
「……何?」
「主殿の命の達成こそ、私の存在意義! そして“私”の役目は『威力偵察』。あなたの実力は掴めました。つまり“私”は『次の一手』に繋げたので!」
練音が不意に、ナツィに背中を向けた。
「……1つアドバイスです。私を逃がさない方が良いですよ。私はナハツェーラーさんの大事なひとを知ってるんですから」
「何を……!」
大鎌で斬りかかったものの、僅かに届かず練音は既に駆け出していた。
(逃げた……⁉ どうする、このまま追うか、いや、かすみの下へ向かった方が確実に護衛できるか……?)
「……そういえばあいつ、『俺を殺すこと』を命じられたって言ってたな。それなら」
練音の走り去った方向へ、ナツィも駆け出す。
(無理に近くにいて危険に晒すより、俺1人で全部片付けた方が良い!)
ひと気の無い宵の入りの街を、ナツィは練音の気配を探りながら駆け続ける。
とある児童公園の前まで走り続けたところで一度立ち止まり、周囲を見渡した。ここまで、練音のものに近い気配は感じられなかったが、目の前の公園の奥から、注意を引く気配を感じるのだ。
「…………ここか。誘ってるのか?」
いつでも大鎌を振り抜けるよう肩に担ぎ、ナツィは公園敷地内に足を踏み入れた。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑥

「なん……で……⁉」
「あ、危なかった…………まさか、いきなりリソース全部出し切ることになるなんて……」
ナツィの時間が鈍化する。ナツィは攻撃に備え意識を練音に向けたが、反撃が来ることは無く、鈍化は終了する。
(何だ? 攻撃が来なかった……。あの【御霊縛り】って術が大分しつこかったし、その影響か?)
「うぅ……どうしよう……」
目を伏せる練音に釣られて、ナツィが彼女の足下に目をやると、大部分が焼き切れた紙製の札の燃えさしのようなものが2枚落ちていた。
(……2枚? もしかして……)
「さっきの【御霊縛り】、『それ』で当てたな?」
「はい、お察しの通りで……残念ながら、手持ちは全て使い切ってしまいましたけど」
「へぇ? じゃ、もう【御霊縛り】は使えないと思って良いんだ?」
「使いますよ。ナハツェーラーさんなら簡単に凌いじゃうと思いますけど…………」
そして練音は黙り込み、しばらく瞑目してから意を決してゆっくりと話し始めた。
「……ナハツェーラーさん。私、木下練音と名乗りましたね。本当は違うんです」
(……何だ、いきなり?)
練音の行動の意味を理解できず、ナツィは武器を構えたまま練音の言葉の続きを待つ。
「いえ、『私』は木下練音なんですよ? それは間違いなく。けど、“木下練音”は飽くまで、数ある私の『ロール』の1つでして…………。純粋な『使い魔としての私』の名前を教えますね。私は“ツファルスツァウル”。生まれは30年と4か月と14日前。刻まれた術式は、『ロールの実行』と『乱数による能力の上下』。現在の主殿は、私を創った魔術師のお子さんです」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その⑤

再び、ナツィは約1.5mの距離を取り、大鎌を構える。
(…………当たり前だけど……長物の強みは『射程』。これを忘れるな。こいつの蜘蛛脚はたしかに見た目こそ恐ろしいが、実際はかなり軽量で打撃の威力も大した事無い。むしろ素手での格闘の方が重いまである。糸の防御、糸の攻撃はどちらも踏み込んだ時のカウンター用らしい。『超』近距離の範囲じゃ、あの武器として使われている蜘蛛脚ですら、こいつにとっては邪魔なんだ。…………頑なに、この距離を保って、大鎌を当て続ける!)
薙ぎ払い。石突近くを持って放たれたその攻撃は、練音を深く捉え、実体に到達した。
「わぁっ!」
「届いたな」
練音は直撃の瞬間、辛うじて刃と身体の間に蜘蛛脚を滑り込ませ、盾代わりにした。しかし、威力を完全には殺せず、薙ぐ勢いのまま弾き飛ばされる。
「うぅっ……けほっ、あぅぅっ…………参ったな…………うん」
蜘蛛脚を利用して立ち上がり、練音は懐を探る。やがて目当てのものを発見し、若干手間取りながらも取り出した。
「あのぉ…………最初に私、本気でやるって言ったじゃないですか」
「……? 何だ突然……」
「あれは嘘でした。まだ出せます。ちょっとここから、本当の本当に本気で、全力で、あるものとできる事100%ぶち込んで、戦おうと思います!」
「……何なんだ突然」
練音が先程ポケットから取り出した小さな物体を真上に放り投げ、蜘蛛脚による攻撃を放つ。ナツィはそれを大鎌の柄で受け流し、カウンターとして斬り上げる。
「っ! 【外法・御霊縛り】!」
「その術、やっぱり技名言わなきゃ駄目なんだ?」
ナツィは背後から迫る腕を視線も向けずに回避し、そのまま攻撃を続ける。しかし。
「…………ッ⁉」
回避したはずの腕は更に追いすがる。攻撃の軌道を僅かに変え、自身の周囲をまとめて斬り払うようにして腕に対処し、勢いのままに練音を狙った。はずだった。
「ぐぁっ……⁉」
刃が練音の首に届く寸前、その動きが止まる。先ほど振り払ったはずの腕の呪いが、いつの間にかナツィの全身に絡みついていたのだ。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その③

「っ…………」
「ナハツェーラーさんっ、どうですか? 痛いですか?」
表情を輝かせて問いかける練音に、ナツィは不敵な笑みを返した。
「いいや、全然。始めようか、第4ラウンド」
「! ……はい、胸をお借りする気持ちで、行かせてもらいます!」
ある種の武術のそれに近い構えを取った練音に、ナツィは1歩ずつゆったりと接近し、およそ2m弱離れた地点で立ち止まり、大鎌を構えた。
「……!」
「流石にあれだけ打ち合えば分かるよ。ここだろ、『お前の1番苦手な距離』。その蜘蛛脚の見た目で騙されてたけど……お前の『糸の防御』、あれは超近距離にしか張れないんだろ」
「……正解です」
「だから、この距離。俺の刃は、お前に届くぞ」
「……私の武器も、十分届きますよ!」
ナツィが斬撃を放つ。
「っ! 【外法・御霊縛り】!」
「その魔法も、もう知ってる!」
ナツィは大きく踏み込み、無数の腕の拘束を回避しながら練音に斬りつけた。
「きゃぁっ」
「ようやく入ったか……どうだ? 俺の強さは」
「お、思った通りです。とってもお強い…………ところでナハツェーラーさん。ご存じですか?」
「…………?」
練音の言葉の意味を察するより早く、ナツィの手足に多数の切り傷が開いた。
「なっ……⁉」
「『糸』、って…………ぴんっと張ると『刃物』になるんですよ? 懐に飛び込んできてくれて助かりました」
「つくづく……近距離型か……!」

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その③

(何だ……? 急に、身体が動かなく……どんな魔法だ……?)
練音は悠然とナツィに接近し、蜘蛛脚でナツィを殴りつけた。地面に叩きつけられるのと同時に、ナツィの身体も動き始める。
(ぐっ……やっと動くようになった……! あいつの攻撃、そこまで強くは無いけど、まるでこっちの時間の流れが遅くなったみたいに反応できなかった…………!)
「さぁナハツェーラーさん、第2ラウンドですよ!」
練音の言葉に、ナツィは大鎌を構え直し、再び距離を詰めた。練音も更に踏み込み、近距離の戦闘に持ち込む。ナツィは石突側による打撃を仕掛けたが、その攻撃も幻影を貫くだけで終わり、再び時間の鈍化が発生する。
(マズいっ、また……!)
「せやぁっ!」
ナツィの鳩尾に、練音の掌底が突き刺さる。
「ぐっ……また…………この感覚……」
「どうですか、ナハツェーラーさん! 私の実力、ナハツェーラーさんの足下くらいには届いてますか?」
「…………っはは、一撃が軽すぎる。3倍強くなってから出直せ」
「あらら手厳しい。それじゃ、届くまで続けましょう。第3ラウンド!」
ナツィが再び突進する。練音がそれに合わせようとした時、ナツィは急ブレーキをかけ、完全には詰め切らないままに大鎌で薙ぎ払った。斬撃は無防備な練音の首に迫り、直撃をナツィが確信した瞬間であった。
「……【外法・御霊縛り】」
練音の詠唱と共に、ナツィの身体を複数の冷たい腕が背後から引き、攻撃が逸れる。
(外れた⁉ マズい、それよりも……!)
再び発生する時間感覚の鈍化。身動きの取れなくなったナツィに、蜘蛛脚が打ち込まれた。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター③

・向田ワカバ
年齢::22歳  性別:女  身長:166㎝
玄龍大学4年生。“アルベド”の研究内容に感銘を受け、「助手」を自称して日々研究室を冷やかしている。魔術師としての腕は極めて優秀で、「仮想の無限空間を展開する」という、所謂結界術を最も得意としている。この術式はアルベドの研究の際にとても役立っているので、アルベドは結構感謝している。
どうでも良いけど、卒論のテーマは『工業史におけるエネルギー効率の変化の経緯』。
※ワカバの魔法:「無限空間」とはいうが、厳密には完全な無限では無い。デフォルトの結界の内装は電脳的ポリゴン空間のようであり、範囲はおおよそ3000㎞立方程度。手帳のページ1枚1枚に刻んだ術式それぞれに、外観の追加要素と無限遠(これも厳密には無限ではなく、デフォルトと同じ3000㎞立方程度)が付与されており、結界の展開時に同時に消費することで、要素を無限空間に追加できる。ちなみに空間範囲は何故か乗算される。つまり追加要素1つごとに1辺当たり「×3000㎞」される。空間内のどのポイントに出現するかは対象1つごとに個別で選択できる。「全対象の現在の相対位置を保持したまま転移させる」のが一番楽で低コストではある。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その②

ナツィの振り抜いた大鎌の刃を、練音は後方に跳んで回避する。
「良かったぁ、どう脅そうかって悩んでたんですよねぇ。私だったらお友達を人質に取られるの嫌だなぁ、って思ったから試してみたら大成功! 反応からしてクリティカル引いちゃいましたかね? まぁとにかく。せっかくナハツェーラーさんが本気を出してくれたようなので」
練音の背中から、2対4本の大蜘蛛の脚が展開される。
「こっちもしっかり、『本気で』いかせてもらいますよ!」
「……やっぱり、どこかの使い魔か」
先に動き出したのはナツィだった。背中に蝙蝠の翼を展開し、超高速で距離を詰めて大鎌を振るう。しかし、その攻撃は空中で一瞬減速し、僅かに練音に届かない。
(何だ? 今の感覚……何かに引っかかったみたいな)
練音が蜘蛛脚で放った反撃を飛び上がって回避し、ナツィは目を凝らす。そして、空中で光を反射した細い糸のようなものを確認し、鎌を投擲する。
「うわぁっ」
「……なるほど。蜘蛛脚に蜘蛛糸。タネが割れれば何の面白みも無い……」
「え、えへへ……バレちゃいましたか。クモさんですよぉ……」
ナツィは再び大鎌を生成し、距離を詰める。空間内に展開された極めて細い蜘蛛糸は回転斬りによって切断され、ナツィを拘束するには至らない。
(これで……)
「終わりっ」
大鎌が練音を捉え、斬り裂いた。その姿は幻影のように溶けて消える。
「っ⁉」
「そいっ」
再び放たれた蜘蛛脚の攻撃を、ナツィは大鎌の柄で受け止めた。
「……なんで生きてる?」
「そりゃまぁ……まだ殺されてないからじゃないですかね?」
「それなら……死ぬまで殺すだけだ!」
蜘蛛脚が離れた瞬間、ナツィはカウンターの斬撃を放つ。その攻撃は再び幻影を切り裂き、それと同時にナツィの動きが不自然に停止した。

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我流造物創作:ロール・アンド・ロール! その①

喫茶店の閉店からおよそ10分、ナハツェーラーは静かに店舗出入り口から店外へ姿を現わした。
「あー、やっと出てきたー」
そこに声を掛けたのは、ナツィ本人より小柄な、腰まである長い黒髪と蜘蛛の巣柄の金糸の刺繍が施された和装が特徴的な少女。
「……そりゃ、当然でしょ。こんな明らかに不審者な格好の奴がジロジロ見てきて。で、何の用だ?」
「何ってそりゃ……あ、ごめんなさい! 先に名乗った方が良いですよね?」
「勝手にしろ」
「えー、名乗らせていただきます。私は木下練音(キノシタ・ネリネ)。ネリネちゃんって呼んでいただければ幸いです。本日ナハツェーラーさんに相見えましたのは……」
ナツィは名前を呼ばれ、ぴくりと反応する。
「あれ? わざわざナハツェーラーさんを訪ねておいてナハツェーラーさんを知らないわけないですよね? そんな大げさに反応しなくても……」
(……大袈裟、だって? ほんの数㎜肩が上下しただけだろ)
ナツィの視線を無視して、練音は言葉を続ける。
「あ、それで御用なんですけど、とっても強くてすごいナハツェーラーさんと、1度本気で喧嘩してみたかったんです! 伝説のナントカって魔術師が創り出した、史上最高の使い魔! 泣く子も黙る“黒き蝶”! 魔術に関わる者なら、誰でも1回くらい見てみたいと思うのは当然でしょう? せっかくなら、その実力を1度この目で見てみたい!」
「……はぁー、そんな下らない動機で来たわけ? 帰って良い?」
踵を返したナツィの背後から、練音は更に声を掛ける。
「……かすみちゃん、でしたっけ?」
名前が出た瞬間、ナツィの動きが止まる。
「可愛い子ですよねぇ。ナハツェーラーさんもあの子のことが随分大好きみたいですね。仲良きことは美しきこと……」
練音が口を噤む。一瞬で距離を詰めたナツィが、喉元に大鎌を突き付けたためだ。
「……何が言いたい?」
「言ったじゃないですか。戦りましょう、って」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター②

・おネコ
身長:130㎝  人格:ネコ寄り  武器:艦載光子砲
アルベドの製作した使い魔。外見は耳がネコのものになりネコの尾が生えた栗毛のショートヘアの子ども。言動はネコ寄り。ワカバさんは『娘』扱いしているので、女性寄りなのかもしれない。アルベドが得意とする多重立体術式を使うことができる。というかそれ以外能が無い。使用する武器も飽くまで術式の『演出』の範疇であり、一連の全ては1つのプログラムの一部でしかない。燃費が悪いので、普段は日の当たる場所か涼しい場所か親しい人間の頭の上で丸くなって寝ている。才能ナメクジのアルベドが創り出した唯一の使い魔。
※おネコに刻まれた多重立体術式:「術者を中心とした旋風の発生」「術者を中心とした電光の発生」「魔力の全方位への放出」「重力と逆ベクトルのエネルギーの発生」「武器の展開」「武器の強化の実行権獲得」「光線の射出」「光線の集光率に対する操作権獲得」「光線に対する破壊力付与権限獲得」「破壊力付与の偏向性に対する操作権獲得」という10種類の魔法を実行するための術式を組み合わせたもの。これらが上から順番に発動し、起動から実行完了まで15秒ほどかかる。

・おスズ
身長:128㎝  人格:ほぼ無い  武器:なし
アルベドを襲撃してきた使い魔。極度の痩身で、両脚の膝から下は猛禽のそれに変じており、背中からは痩せた茶色の鳥の翼が生えている。服装は白いノースリーブのワンピース。微妙に薄汚い。生み出した魔術師は既に死亡しており、アルベドに恨みを持つ魔術師が魔力供給を担う魔道具(紫水晶球)を所持し、暗殺命令を出していた。自我が希薄で、命令を実行するために都合の良い人格を演じることには長けているが、『素』を出そうとすると『本当の自分』を表出する経験の不足から、情緒が幼児以下になる。刻み込まれた術式は「物質の変形」。肉体の一部(多くは足の爪)を変形させ、武器とする。
ちなみに名前はアルベドが付けた。スズメのスズ。
※おスズの魔法:自身の肉体のみを対象とする制限はあるものの、極めて精密に自身の形状や性質を変形させる。分子単位で変形操作を適用し、振動数を調整することで、高温化・低温化も可能。なお、肉体の総量は変わらないので、大きくなったり小さくなったりということは基本的に不可能。密度を調節すれば出来ないことも無い。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 キャラクター①

・“アルベド”
年齢:25歳  性別:男  身長:170㎝
“学会”所属の魔術師。魔法の才能はほぼ無い。「多重立体術式」を唯一の特技としている。性格と実力・実績から“学会”ではあまり良い目では見られておらず、普段は玄龍大学の地下にある研究室で低燃費高効率の魔法術式の開発に勤しんでいる。
ちなみに通り名である“アルベド”は、“学会”から良い目で見られていない自分の立場を察した彼自身が「ちょっとしたユーモア」で『アルベド(ミカンに付いてるちょっと邪魔な白い筋)』と名乗った結果、何故か広まったもの。
※アルベドの魔法【多重立体術式】:アルベドが発明した術式形態。才能の無いアルベドが自分の能力で少しでも高い威力に『見せかける』ための技術。
通常ならば平面の簡単な魔法陣で展開可能な魔術を、敢えて難易度の高い魔術に要求される立体術式に変換し、更にそれを複数個パズルのように組み合わせ、1つの術式として構築するというもの。その複雑な術式の形状は外見的威圧力をもちながら、構成する一つ一つが起こす現象自体は大したものでは無く、しかして立体術式ゆえの魔術容量によって通常の1.3倍程度の出力効率を実現している。
術式構築のためには、各魔術の術式全てを『同時に』構築していかなければならない。立体術式を一つ一つ描いてから組み合わせるのは構造的に不可能なためである。
アルベドは基本的に5種以上の術式を組み合わせるので、1つ製作するだけでほぼノンストップの数十時間を要する(最も使い慣れているものについては、書き慣れて半日もかからないようになった)。やっていることは人間3Dプリンターだが、構築の段階で術式の発動順や発動タイミングも細かく設定する必要があるので、現状手作業以外での構築はできない。
弱点はまず、術式への負担が大きいために、使用の度に最低でも20時間以上のクールタイムが発生する点。アルベドはこれを大量にストックしてあたかも通常攻撃のようにぽこぽこ使うので、クールタイムの弱点については未だにバレていない。次に、1度術式を起動すると一連の流れを完了させるまで中断も終了もできず、発動順も固定されている点。

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我流造物創作:無我と痩せ雀 その⑥

「まぁ……それについちゃどうでも良いんだ。問題はテメエだクソガキ」
アルベドが右手を前方に掲げると、おネコに刻まれていたものに似た形状の立体術式が出現した。
「そっちが先に手ぇ出してきたんだ。やり返されても文句は無ェよな?」
「えっ、い、いや待っ、お、おい! 助け」
「遅せェ」
術式から、細い光線が放たれる。青年が咄嗟に展開した魔法障壁にそれは弾かれるが、アルベドは既に2撃目の射撃準備を整えていた。
「はーいドーン」
先程より太い光線が、再び青年を襲う。先ほどより広く展開した魔法障壁によって防御しようとした青年だったが、その障壁は光線が直撃したのとほぼ同時に粉砕され、そのまま青年に命中した。
「…………死んだか?」
「虚仮威しだったのでは?」
「ここまで細めりゃ威力持たすくらいは出来ンだよ」
ワカバが青年の傍に屈み込み、様子を確認する。
「……あ、呼吸してる。生きてますね」
「そりゃ良かった。ああそうだ」
「はい?」
顔を上げたワカバに、アルベドは紫水晶球を放り投げた。慌てて受け止めたワカバの横をすり抜け、アルベドは自身の研究室に引き返し始めた。
「え、ま、待ってくださいよ! 何なんですかこれ!」
後を追いながらワカバが尋ねる。
「おスズの魔力源」
「えっと、おス……?」
「あの鳥脚」
「! 名前、付けてあげたんですね!」
「違っげーよ。個体識別用の勝手な呼称だ。名前はそっちで勝手に決めろ」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その④

再び使い魔が姿を現わした。おネコの背後への出現と同時に、おネコの右腕の肘より先が切断される。
「速えェな。まあ問題はない」
アルベドが呟く。おネコは斬り飛ばされた腕が地面に落ちるより早く左手で受け止め、鳥脚使い魔の方に振り向いて再び空中に投げ上げる。
掌が下を向いたのと同時に、その下に添えるように左の掌を上に向ける。すると、両手の間に立方体に近い形状の複雑な術式が出現した。
「吹き飛ばしてやろうぜ、おネコ」
術式が凝縮されるようにして消えるのと同時に、足下からおネコの周囲に旋風が発生した。風は少しずつ勢いを増し、やがてその中に青白い電光が混じり始める。
おネコに刻まれた術式の持つエネルギーは世界に伝播し、大気を震わせ、地響きを起こし、砕けた微小な土片を余波により生じた反重力が舞い上がらせる。
「んゃぁ……消し飛べ」
おネコが左手を前方に伸ばすと、その手の中に全長3mを超える巨大な携行砲が出現した。片手でそれを構えると、砲身にエネルギーが充填され、銃口から少しずつ光が迸る。
「っ!」
射線から外れるように駆け出した鳥脚使い魔に、おネコは身体ごと砲身の向きを変えて対応する。発射の直前、使い魔は大きく跳躍した。
「……んゃぁ、ばーか」
おネコが携行砲を持ち上げ、空中の使い魔に照準を合わせたのと同時に、直径約30mほどの巨大な光線が放たれ、光線は一瞬にして使い魔を飲み込んだ。
数秒間の照射の後、鳥脚使い魔が力無く地面に落下してくる。
「はい、キャッチしました」
結界術を解除して元の研究室に戻り、ワカバは落ちてきた鳥脚使い魔を受け止めた。
「よくやった。おネコもな。腕は後で治してやる」
「んゃぁ」
ワカバが床に転がした使い魔を、アルベドは近くにしゃがみ込んで見下ろす。
「光線直撃しましたけど、この子大丈夫ですかね?」
「大丈夫に決まってんだろ。ただの虚仮威しだぞ」

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その③

「んー……こうなったらもう仕方ないですねぇ……」
ワカバは徐に立ち上がり、先程荷物を置いた机に近寄り、リュックサックを漁り始めた。
「私が何とかしますね。もう少し頑張ってくださいアルベド先生」
「おう頼んだ」
アルベドの返答を聞いた辺りで、ワカバは1冊の手帳を取り出した。
「それでは…………」
手帳を開き、その中の数ページを重ねたまま破り取る。
「【展開】」
ワカバの手の中でページが燃え上がり、直後、研究室内の全員が月夜の平原上空に転移された。空中に投げ出されたことで、使い魔はアルベドから離れ翼を広げてゆっくりと落下し始める。
「流石に助けろおネコォッ!」
「んゃぁ」
一瞬早く着地していたおネコは一言鳴き、再び跳躍してアルベドとワカバを受け止めた。
「助かった……」
「ありがとうね、おネコちゃん」
「んゃぁ」
3人の着地からやや遅れて、鳥脚の使い魔も地面に下り立つ。
「ねぇ君、名前は何ていうの?」
ワカバの問いかけに、使い魔は何も言わず首を傾げた。
「……名無しか。作ったモンには呼び名くらいつけるだろ普通。命令する時どうするんだよ」
アルベドが呟く。
「じゃ、名前つけてあげたらどうです?」
ワカバが反応する。
「あー? 俺の使い魔じゃねえんだぞ」
「じゃあ、うちの子にしちゃいましょう」
「面倒くせえ。勝手にやってろ。……おネコ!」
アルベドの命令でおネコが駆け出すのと同時に、鳥脚使い魔の姿が消えた。

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我流造物創作:邪魔者と痩せ雀 その②

視線に気づき、使い魔は無感情に見開かれた眼をワカバに向けた。
「こんにちは。どこの子かな?」
ワカバの問いかけに、使い魔は忙しなく目を泳がせ、数秒の思案の末に口を開いた。
「創ってくれた人は死にました。マスターの命令で、“アルベド”という魔術師を殺しに来ました。“アルベド”という方はどこにいますかと魔術師のひとたちに訊いて、ここまで来ました」
はきはきとした答えに、ワカバは苦笑して更に問い返す。
「そっかー。今のマスターさんって誰だか分かるかな?」
「名前は分からないです」
「見た目は? 男の人? 女の人? 若い? お年寄り?」
「えっと、若い男の人です」
「そっかぁ」
「アルベド、殺して良いですか?」
かくり、と小首を傾げて尋ねる使い魔に、ワカバは何も言わず苦笑いを返した。
「……先生、駄目みたいですね」
「諦めんなや仮にも師と仰ぐ人間をお前なー。っつーかおネコォッ!」
アルベドに呼ばれ、おネコは片目だけを開いて彼の方を見やった。
「仮にも親かつ主の命の危機に何のんびり寝てやがる!」
「んゃぁ……」
おネコは欠伸をして、再び眠ろうとした。
「おぉい!」
「……んゃぁ…………」
「クソッ、あれでも俺の最高傑作だってのに……」
「最高傑作カッコ唯一」
「そこうるせえ」
軽口を叩くワカバに、アルベドは素早く釘を刺した。

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我流造物茶会:邪魔者と痩せ雀 その①

「せんせぇー、アルベド先生ぇー。ワカバが来ましたよー」
研究室に続く階段を下りながら、ワカバは室内にいるであろう“アルベド”に声を掛けた。
(……返事ないな。いつもみたいに術式構築の最中かな? それなら静かにしなくっちゃ)
そう考えながら、防音加工された扉を静かに開き、隙間から顔を覗かせる。
研究室の中央では、“アルベド”と呼ばれる魔術師の青年が、見知らぬ少女に組み伏せられていた。薄汚れた簡素な衣服を身に纏った痩身の少女は、両脚の膝より下が猛禽のそれを思わせる鱗に覆われ鋭い爪を具えたものに置き換わっており、背中ではところどころ羽根の抜け落ちた、痩せた茶色の小さな翼が生えていることから、人外存在であることは明白だった。
「あれ、先生。新しい娘さんですか? かわいいですねー」
言いながら、ワカバはデスクの上に荷物を下ろした。
「あぁっ⁉ ンなわけ無ェだろうが見て察せ!」
アルベドの言葉は無視して、ワカバは壁際の薬品棚を見上げ、その上に丸まっていた猫の特徴を表出した子供に声を掛ける。
「こんにちは、おネコちゃん」
「……んゃぁ…………」
“おネコ”と呼ばれたその使い魔は、小さく鳴き尾を軽く振って応えた。
「おーい向田ワカバァ、挨拶が済んだら助けてくれ頼む!」
「ん、どうしました先生?」
「見て分かんねーかなぁ⁉ 現在絶賛暗殺されかけてる真っ最中なんだよ!」
猛禽風の使い魔は鋭く伸びた足の爪をアルベドの喉元に突き刺さんと踏みつけを試みており、対するアルベドはその足を下から押し返し、残り数㎝のところで持ち堪えている。
「アルベド先生、結構恨み買ってますもんねぇ……」
「それは否定できねェけどさァ……」
「うーん……ちょっと待っててくださいね」
ワカバは格闘する二人の傍にしゃがみ込み、使い魔の顔を覗き込んだ。

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皇帝の目・回復魔法のご利用は適切に_設定

前回のやってないですね。やってないのでどっちもまとめて書きます。

回復魔法のご利用は適切に
シオン:中学1年生、13歳。魔法はほぼ無知、あんまり頭はよろしくなく、ちょっと(かなり)脳筋な女の子。とにかくでかい。運動神経は全校一で回復魔法の持ち主。怪我を治したり壊れたものを直したり結構幅広い能力。一部の人に看護師呼びされている。出てきてないけどお兄ちゃんがいる。かっこいいので慕っている。

エリザベス:中学1年生、14歳。良家のお嬢様なので魔法に詳しく勉強もできるが残念ながら変人。ドリルな縦ロールでハーフツイン、しかもゴスロリでかなり目立つが上品な性格でもある。爆発魔法の持ち主。「シルバーバレット」と詠唱することで爆弾を銃弾のように打ち出せる。家族が過保護で面倒。

レオン:28歳教員。生徒との距離が近い。(物理精神ともに)重力・引力操作魔法の持ち主。

皇帝の目
梓:人付き合いの下手な中学2年生。自由人だが環境は大事にしたいタイプ。面倒事は嫌いで結構ズボラなところがあるため家族に呆れられている。小さくて貧弱で、ある日ビーストの襲撃に巻き込まれてなんか目も悪くなったので生きづらさを感じている。チトニアのことは好きなので彼女に対しては愛想が良く、可愛がっている。

チトニア:とにかく喧しくてよく叫ぶ元気なドーリィ。テンションが高く物理的距離も近く若干束縛気味なのでマスターになる人がいなかった。皇帝ひまわりのドーリィで、皇帝という名にふさわしく蝶や蜂の眷属がおり、ひまわりらしい明るい金髪と黄色の服が目立つ背の高い少女。武器などもいろいろ持っている。今は梓にべったり。

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Trans Far East Travelogue89

嫁と2人,昼下がりの済州島西部の砂浜を歩いていると嫁がポツリ「あんたはうちんことどう思うと?本音ば教えてや〜うち、あんたん理想ん妻になれとるかなぁ」と切り出すので嫁と目線を合わせながら「正直言って,君と結ばれて幸せだよ。元カノと比べるようでアレだが,アイツは口では『大好き』とは言ってくれたけど行動では全く俺のこと大切にしてくれなくて2度目のデートの時点で別れる覚悟をしていた。でも,君は積極的に愛情表現してくれるだけかと思いきや,ほぼ毎日試合があるプロ野球のその日の試合次第でメンタルがブレまくる俺に君はずっと寄り添ってくれるでしょ?その対応が嬉しいし、おかげで君のこともっと好きになるし、もっと大切にしたいと思うんだ」と笑って返すと、嫁は堰を切ったように泣きはじめ,俺は反射的に嫁を抱きしめる。そして,暫くして落ち着いた嫁が「うち、元カレと付き合うとった頃に散々酷かこと言われてキツから頑張って彼ん好みに合わせようと色々頑張ったと。ただ,結局短期間でん努力では彼ん期待に応えきらんで見限られてフラれちゃったけん、次ん彼氏は優しか人が良かて思うとった矢先、傷心旅行んつもりん旅であんたに出会うたと。そしたら,今はほんなこつ幸せやけん、どげん大変な時も自殺なんかしぇず生きとってくれてありがとう」と言うので流石に照れるが,「俺、1人でアレを乗り越えることなんかできなかった。でも,最初の希望をくれたのがプロ野球の巨人なんよ。『今年も日本一になれなかった。でも,来年こそは勝つからその時までは信じて生きていよう』の繰り返しでずっと足掻いてきて,10年目に例のオープンチャットで君と知り合って恋に落ちた。そしたら,その時から辛い出来事をを乗り越える大義名分が『巨人の日本一を見届けるため』というのと『九州の想い人に会うため』の2つになったんだよね。それから2年後に入った大学では上手くいかなかったけど巨人は12年越しの悲願を叶えたし,そこから更に2年後に君と結ばれたからな。こんな俺を選んでくれて本当にありがとう。これからもよろしくな、俺だけの女神様」と伝えると嫁が「生涯バッテリー宣言したけん,支え合うのは当たり前や」と笑い、その後真面目な顔で向き直り,「改めて,こちらこそ不束者ですが末永くよろしくお願いします」と言ってお辞儀している。
そして,気付いたら巨人交流戦優勝のニュースが入っていた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その②

集団の最後尾を歩いていた青葉は、背後から肩を叩かれ、立ち止まって持っていた杖を強く握りしめながら振り返った。
「…………あれ」
「や。青葉ちゃん、だっけ?」
「どうも、こんばんはです、犬神さん」
彼女の背後には、犬神が笑顔で立っていた。
「花火大会に来たら偶然見かけちゃったもんだから、ついて来ちゃった」
「そうですか」
「どしたの?」
「……クラスの馬鹿な連中が肝試しするって話してたんで。ここがガチのスポットってことは知ってたので、〈五行会〉として護衛につこうと同行している次第です。……あ」
青葉は不意に思い出したように声を上げ、同じくほぼ最後尾を歩いていた少女を呼んだ。
「犬神さん、ちょうど良い機会なので紹介します。彼女は最近〈五行会〉に入った……」
「特別幹部《陰相》。“霊障遣”の榛名千ユリ。あんたは?」
自ら名乗った千ユリに、犬神は握手を求めるように右手を差し出しながら答えた。
「や、私は《土行》の犬神だよ。キノコちゃんが言ってたのはあなただったんだね」
「キノコ?」
「あれ、会ってないの?」
「……千ユリ。多分種枚さんのことだと思う」
青葉に言われ、千ユリはしばし考え込んでから手を打った。
「あぁ、アイツか」
「ところで2人とも、ここで話してて良いの? 他の子たち、かなり上まで行っちゃったけど」
「あっしまった」
すぐに振り返り、急ぎ足で上り出す青葉を、千ユリと犬神は焦ることも無く悠々と追った。

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五行怪異世巡『肝試し』 その①

8月某日。世間の子供たちが夏休みの只中にあるとある日の夕方ごろ。
数人の中学生の男女が連れ立って、河原への道を歩いていた。
その河原は、この日19時から始まる花火大会を眺めるには絶好のスポットであり、夜店なども多く出店し、ある種の祭りのような様相を呈していた。
しかし、彼らの主目的はそこには無い。出店の隙間を埋める人ごみの中を彼らは迷い無く通り抜け、上流の方向へ、ひと気の少ない方へ只管歩き続ける。
土手を上がり、まばらな街灯の下を進み、深い木々の中に埋もれた石段の前に辿り着き、そこで一度立ち止まる。
先頭に立っていた少年が腕時計を確認し、残りの面々に向き直る。
「現在午後6時40分、花火大会が終わるまでは1時間以上余裕である…………それじゃ、行くぞ! 肝試し!」
少年の言葉に歓声を上げ、子供たちは石段を上り始めた。

“廃神社”と呼ばれるその心霊スポットは、その呼称の通り数十年前に放棄された廃神社である。
周辺をオフィス街や住宅地、幹線道路などに囲まれている中、不自然に小高く盛り上がった丘の上に建っており、丘陵全体は雑多な木や雑草に覆われ、辛うじて名残を見せる石段と境内も、処々に荒廃や劣化が現れ、不気味な雰囲気を演出している。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑯

「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑮

「潜龍さん? 何をしているんですか?」
短刀の刃を掴み、青葉が低い声で尋ねる。
「……こいつの異能は危険だ。その根源たる十指を、切断する」
平坂は平然と答えた。
「……そうですか。なら、私の手諸共、斬ってみますか?」
「……離せ」
「離しません」
平坂が短刀に込める力を強め、それと同時に青葉の握る力も強まる。
「こいつの遣う霊障によって、既に人が死んでいる。こいつの異能は封じられなければならない」
「だとしても、私はその手段を許しません」
青葉の掌と刃の隙間から、血が滲み出る。
「……ほう。ならば、何か他の手段があるとでも? こいつの力を、確実に封印できる手立てが」
「はい。『私達』が手段です」

翌日。
少女の手を引いて街中を歩く青葉の前に、種枚が現れた。
「あ、クサビラさん。ちょうど探してたところだったんですよ」
「そりゃちょうど良かった。で、その娘は何者だい?」
少女に顔をずい、と寄せながら、種枚が青葉に尋ねる。
「えっと、最近悪霊について騒ぎが起きていたことについては、御存じで?」
「そりゃあ、ここいらで起きる怪異絡みの出来事に関しちゃ大体把握はしてるがね」
「その犯人です」
「……へェ? お前、何て名だい?」
種枚に臆する事無く睨み返しながら、少女は答えた。
「榛名千ユリ(ハルナ・チユリ)。霊障遣い」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑬

(カオル)
武者霊と打ち合いながら、青葉は自身に宿る霊体に心中で呼びかける。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(ちょっと作戦を思いついたんだけど。防御は捨ててあの子に直接突っ込む。霊障はカオルが吸ってくれるんでしょ?)
(ふーむ……あまりおすすめは……あ)
(何?)
(……いや、ワタシの可愛い青葉が傷つくのは……)
(五体が残るなら多少の怪我は気にしないから。勝てる方法、教えて)
(それじゃあ…………)
カオルの言葉に従い、仕込み杖〈煌炎〉の持ち手近くを握る。軽く捻るようにしながら力を込め、内部に仕込まれていた刀身を一気に引き抜いた。
「……おいクソ雑魚。何なの、それ?」
少女が強く睨みながら、青葉に問う。
40㎝にも満たない短い刀身は、夜闇の中であっても奇妙な金属質の輝きを見せ、霊感に干渉する不気味な雰囲気を纏っていた。
「その気持ち悪い刀で……何するつもりだ!」
「……お前に勝つ」
短く言い放ち、青葉は駆け出した。2体の悪霊が少女との間に立ち塞がるが、青葉が回転しながらその隙間をすり抜けると、無数の刀傷を受けその場に崩れ落ちた。
「なっ……! “アタシの……」
唖然とする少女に詰め寄りながら仕込み杖を納刀し、振り下ろすように打撃を放つ。仰け反るように回避した少女の下顎に、更に打ち上げるように放った二打目が掠める。その攻撃による振動は少女の脳を揺さぶり、意識を奪うに至らしめた。
その場に膝をつき倒れる少女を前に、青葉が構えていた杖を下ろしたその時だった。
「っ……が、っは…………! ぁ、がぁぁあああああ!」
地面に両手をつき、少女が呻き声を上げる。
「なん……で、だ…………! お前みたいな、無能の雑魚、が……!」
「……まだ意識あったんだ」
少女は朦朧とする意識を気力で繋ぎ止め、己を見下ろす青葉を睨み返した。
「ッぅぁぁぁぁ……! 逆、じゃんかよ……ええ⁉ アタシの……身体も! 名前も! 異能も! 霊障も! アタシを作る全部! 『血』から受け継いできたんだ! アタシは……、何百年の『血』の歴史の……終着点だ! 跪くべきは…………っ、そっちだろうが!」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑫

武者霊の振り下ろした刀を大きく沈み込むように回避しながら前進し、更に伸びてくる女性霊の腕を跳躍して躱し、少女との距離を詰めて青葉は杖を相手の顔面に向けて突き出す。女性霊が少女の首の後ろを掴んで後方へ引くことで、少女はそれを回避し、反撃に伸びてきた無数の腕は、平坂の鳴らした鈴に消し飛ばされる。
一連の攻防を終え、2人の間に一瞬の静寂が流れる。
(……あのお兄ィさんの鈴、鬱陶しかったけど大分性質が分かってきた。あいつからの『距離』と悪霊の『格』で威力が変化するっぽいな。まあ“草分”はたしかに数だけ揃ったやつだけどさァ……っと)
青葉が振り下ろした杖の打撃を、女性霊の左腕で受け止める。青葉の小さく貧弱な身体から放たれたにもかかわらず、その威力は女性霊の腕を折るのには十分だった。
「クソ……鬱陶しい!」
ウエストポーチから取り出した個包装のキャンディ数粒をまとめて口に放り込み、少女が右手を頬に当て、小指でこめかみを叩く。それによるものか、青紫色の炎が少女の右眼から燃え上がった。
「……ん?」
「無能のくせに生意気なンだよ……! アタシの全力ブチ込んで、テメエは絶対殺す!」
後退すると同時に女性霊を前進させ、武者霊と同時に青葉に差し向ける。青葉はそれを後退りしながら回避するが、それを読んだように、斬撃から刺突に攻撃を切り替える。
「っ……!」
身を捩りながらその刃を辛うじて回避したところに、女性霊の拳が突き刺さる。
(…………動きが変わった? さっきより受けにくい……というより)
杖で拳を防いだものの地面に組み伏せられた青葉に、武者霊の斬撃が迫る。転がるようにしてそれを躱した青葉の首が一瞬前まであった場所を、刃が通り抜けた。
(……カオル)
(うん、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉で当たって力の減衰しない悪霊なんて在り得ないのに……奴らの格からして、あそこまで押されるわけ無いのに)
再び距離を取り、青葉は平坂のいる場所まで下がった。
「おい、押されているようだが……手を貸すか?」
「いえ、そこまででは。突破口探すので、引き続きあの腕たちの牽制だけしていただければ」
「ふむ……だいぶ疲れてきているようだが」
「大丈夫……です、はい」
自分に言い聞かせるように言い、青葉は再び悪霊たちに向かって行った。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑪

「クッソ……あの雑魚、いっちょ前にアタシの愛しいエイト・フィートを……!」
吐き捨てながら、少女は女性霊の腕に突き刺さった短刀を引き抜き、地面に投げ捨て踏みつけた。
「こうなったら、全リソーステメエにぶち込んで……!」
右手の中指を立てながら少女が言おうとしたその時、少女の足下に武者の霊が転がってきた。
「む……どうやら貴様の『最高戦力』は、貴様の言う『本物の雑魚』に負けたようだな」
そう言う平坂の隣に、やや息を切らした青葉が並ぶ。
「潜龍さん、すみません。仕留め損ねました」
「……何?」
青葉の言葉に、平坂は彼女に視線を向けた。
「あいつ、押し勝てないと見てすぐさまあの子の元に引き返しやがりました」
「それはつまり……奴の元に全戦力が集結した状況、というわけか」
「そう、なりますね……」
少女が傍に膝をつくと、武者の霊はすぐに立ち上がり、刀を構え直した。
「キッヒヒヒヒ……形勢逆転だな」
立ち上がりながら、少女が口を開いた。それに対して、青葉が一歩前に出て睨みつける。
「……何? アンタ如きに何ができるわけ?」
「さぁ? 少なくともついさっきまで、私はその武者を圧倒してた」
「『私は』ァ? 『私の武器は』の間違いでしょ?」
「……たしかに。あ、潜龍さん、あいつは私がどうにかするので、邪魔が入らないようにだけ補助、お願いできますか?」
突然話しかけられ、平坂は僅かに動揺を見せつつも頷いた。
「さて……」
青葉と、悪霊たちを引き連れた少女が1歩、また1歩と互いの距離を詰めていく。それがおよそ2mにまで縮んだところで2人はぴたりと動きを止め、互いに睨み合った。そして。
「…………」
「…………」
「「…………ブッ殺す!」」
2人の少女は同時に吠え、己が武器を振るった。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑩

青葉が武者の霊と戦っている間、平坂は少女との距離を詰めようとしていた。無数の腕の霊“草分”が進路を阻もうとするたびに、平坂の手の中の鈴の音色がそれらを消し飛ばす。その様子を見ていた少女は、苛ついた様子で咥えていたロリ・ポップを噛み砕いた。
「ねェお兄ィさんさぁ……人の可愛がってるモノ苛めといて許されると思ってんの?」
「こちらは身内が貴様の悪霊にかなり痛めつけられたのだがな……。先日遂に3人衰弱死した」
「何、お兄ィさんは人食いヒグマにも人道を説くタイプのひと?」
「…………」
その問いには答えず、平坂が投げた鉄製の掌大の円盤は、またしても空中で叩き落とされる。
(ふむ……。一瞬だったが見えた。奴を守るように背後から伸びてきた青白い腕。あの武者とも周囲の腕たちとも異なる、『3体目の悪霊』か)
平坂は懐に手を入れ、しばらく探ってから1本の短刀を取り出した。
「わァ怖ぁーい。そんなものでアタシを殺すつもり? それこそ殺人だよ?」
けらけらと笑いながら少女が煽る。
「なに、殺しはしない。ただ元凶を斬るだけだ。それに多少の無法はもみ消せる」
「へェ……」
少女は吊り上がっていた口角を下げ、2本目のロリ・ポップを咥えた。
「……やってみろクソ雑魚」
少女の挑発と同時に、平坂はすり足のように歩き少女に接近した。
「はン、バカ正直に真っ直ぐ突っ込んで来やがって……“アタシの愛しいエイト・フィート”」
左手を目の前に突き出しながら、少女が呟く。すると、彼女の背後から白いワンピースと長い黒髪が特徴的な、異常に長身の女性霊が出現し、少女を守るように左腕で抱き寄せた。
1mほどにまで接近して平坂が突き出した短刀を、女性霊は空いた右腕で振り払うように防ごうとする。と、刃は弾かれる事無く女性霊の腕に深々と突き立てられた。
「ッ、テメエ! アタシのモンを何傷つけてやがる!」
少女の叫びと共に、女性霊が無事な左腕を振り回す。平坂は刺さった短刀から手を放し、距離を取るようにしてそれを躱した。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑨

平坂と背中合わせに立ち、青葉は彼に呼びかける。
「潜龍さん、あの武者は私が何とかします。腕の方をお願いできますか?」
「お前にどうにかできるのか?」
「ええまあ、恐らくは」
「……こちらでも見てはおくからな。対処しきれないと思ったらすぐに言え」
「了解です」
再び武者の霊に接近し、杖を用いて打ち合う。
(……何かこの落ち武者、見た目よりパワーが無いな?)
小柄で華奢な青葉の倍近い体格の武者の霊だったが、多少力を要するものの、青葉でも十分に攻撃を防げていることに疑問を覚えつつ、隙を見て胴体に打撃を叩き込み、大きく後退させる。
(……やっぱり弱過ぎる。カオル、何か知ってる? カオルに言われて持ち出したものなんだけど)
(んー? ワタシの可愛い青葉、その子は私の妹だよ。銘を〈煌炎〉。私と違って、『怪異を殺す刀』なんだ)
(へぇ……ん?)
「刀ぁ⁉」
武者の霊から距離を取りながら、青葉の口から叫ぶような声が飛び出す。
(そうだよ、ワタシの可愛い青葉。〈煌炎〉はワタシ〈薫風〉と同じ刀匠の打った仕込み杖なんだ)
「そ、そうなんだ……?」
(まあ……抜くのはおすすめしないけど。ちょっぴり危ない子だからさ)
「ふむ……殴り倒す分には大丈夫なんだ」
(だいじょうぶー)
「分かった。取り敢えずこのまま戦おうか」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 キャラクター紹介

・カリステジア
モチーフ:Calystegia soldanella(ハマヒルガオ)
身長:137㎝  紋様の位置:右手首の裏側  紋様の意匠:昼顔の葉
白いノースリーブのワンピースと麦わら帽子を身に付けた、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌は青白く、目の下には濃い隈ができており、ちょっと心配になるレベルで薄くて細い。開始時点では誰とも契約しておらず、毎日波止場で釣りをしたりコンクリを這うフナムシを眺めたりしていた。
固有武器はサバイバルナイフ。全長約20㎝。使わない。
得意とする魔法は結界術。直方体の結界を張り、結界の境界面に触れたものは反対側の面から出てくる。その特性のお陰で絶対不壊。ちなみにこの効果は内側と外側どちらにも付与できるし付与しないこともできる。結界そのものの強度はジュラルミンくらい。
ビーストにボコボコにされる人間文明を見続けてちょっとヘラってるところがあるので、そんな中で「日常」を諦めない人間を見ると、脳を焼かれて自分を押し売りしてくる。
ちなみにマスターが「日常」を捨てた瞬間、自分とマスターの2人がギリギリ収まる程度の極小結界に2人で閉じこもり、マスターが窒息するまで抱き着いて寄り添っていてくれる。過去の被害者は1人。契約直後、マスターになったからって変に気負った瞬間やられた。理想は契約しても「ドーリィ・マスター」という使命感を意に介さず普段通り生活できる人間。

・砂原さん(サハラ=サン)
年齢:16歳  性別:男  身長:169㎝
とある港町で1人暮らしをしている少年。ビースト出現騒ぎが増えて次々住民が余所に疎開する中、頑なに故郷に居続ける狂人。ちなみに他の家族は全員内陸部に住む親戚の家に避難しました。1人で居残った理由は単に面倒だったから。学校教育は遠隔で課題をやってるので大丈夫。
基本的に毎日無人の漁港で釣りをしながら、海に現れるビーストやそれと戦うドーリィの様子を眺めている。釣果は1日平均0.04匹。
下の名前はちゃんとあるけど、カリステジアにバレるのは何か嫌なので、頑なに言わない。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑧

少女はウエストポーチからロリ・ポップを取り出し、包装紙を剥いて歯で挟むように咥える。
「そっちの雑魚のお兄ィさんが雑魚なのはまァ、前提として……そっちのガキは何なの? 見た感じ、霊感すら無いマジモンの雑魚じゃん」
少女から明らかな侮蔑を受けながらも、青葉は努めて冷静に彼女を睨み返していた。
「ところでお兄ィさん。さっき投げたの何? アタシの愛しい悪霊が痛い思いしたんだけど?」
「その言い方……近頃騒がれていた『操られた悪霊』の元凶は貴様か」
「まぁねぇー」
答えながら、少女は屋根から飛び降りた。膝と腰を大きく曲げて衝撃を殺し、ゆっくりと立ち上がる。
「……殺れ、“草分”」
言いながら、少女は右手の親指を下に向けるハンドサインをしてみせた。瞬間、青葉と平坂の周囲の地面から土気色の無数の腕が現れ、2人に掴み掛かる。
しかし、平坂が懐から取り出した鈴を1度鳴らすと、二人の一定以内の距離まで近付いていた腕は一斉に消し飛んだ。
「……は? おいテメー今何をした?」
少女の放つ殺気が一段と濃くなる。
「悪霊に寄られたから追い払っただけだが」
平坂は平然と言い返す。その態度に、少女は苛立たし気に頭を掻きむしり、不意に脱力した。
「そっかー……まァ、ほんのチョピっと削れただけだから良いんだけどさァ……」
少女が右手の中指を立てる。
「やっぱお兄ィさん、アンタ死ぬべきだ」
平坂と青葉に、重く鈍い足音が近付いてきた。
(ん、さっきのか……)
青葉はすぐに音の方に振り向き、今にも刀を振り下ろそうとしていた武者の悪霊の喉元を杖で突いて押し返した。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑩

結局、空間は広げてもらえないままバリア内部にて待つこと数分。ようやくいつものドーリィが来て、巨大ウミヘビを海の方まで押し返してくれた。
「ようやく安全になったか……。おいカリステジア、もうバリア解除して良いぞ」
「えー」
「何が『えー』だよ」
「せっかくだし、もう少しだけこのままじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「むぅ…………まあ、お兄さんが言うなら……」
ようやく解放され、バリアの壁にもたれていたものだからそのまま倒れる。軽く頭を打った。
「痛って……」
「お兄さん、大丈夫ですか? 治しましょうか?」
「いや大丈、夫……あん?」
ふと、自分の右手首を見る。カリステジアのと同じ場所に、同じ紋様が刻まれていた。
「……あーお前と契約したからか…………これ、銭湯とか入れるのかな……」
「えっ可愛いドーリィと契約した証を見て最初に思うのが刺青判定されるかどうかなんですか?」
「そりゃまあ、そもそも押し売られたものだし。思い入れも何も無ェ」
「そんなぁ」
釣り道具を片付け、立ち上がる。
「あれ、今日はもう帰っちゃうんですか?」
「いや、場所変える。流石にあのウミヘビに粉砕された堤防で釣りは居心地悪いし」
「あっ釣りはやめないんですね」
「まーな。ドーリィが守ってくれるんだろ?」
「っ……! はい! 全身全霊を以て!」
この場所も気に入ってたんだが、壊された以上は仕方がない。新しいポイントの開拓といこうか。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑦

「なッ、貴様、待て! 何をする気だ!」
平坂は慌てて後を追うが、青葉の敏捷性には追いつけず、その差は少しずつ開いていく。
やがて二人はその路地の最奥、数軒の民家に囲まれた行き止まりに辿り着き、そこで一度立ち止まった。
「何故逃げた……岩戸の……」
息を切らしながら、平坂は青葉に近付いた。
「私は容疑者の姿を遠巻きとはいえ実際に見ています。協力できるはずです」
「貴様…………分かった。協力はしてもらうが、俺の監視下に置くからな。勝手はさせんぞ」
「はい。それで良いです」
2人が話を付け、表の通りに戻ろうとしたその時、突然、平坂が振り返った。
「? 潜龍さん?」
「……お前、ここに子供が入ってきたと言っていたな」
「はい、言いましたけど……」
「俺は姿こそ見なかったが…………どうやったんだ?」
「何がです?」
青葉の疑問には答えず、平坂はある民家の屋根の上に何かを投げつけた。ほぼ直線の軌道で飛んでいったそれは、硬い金属音と共に弾かれ、地面に落下する。
「……危ないなァー。体力少ない雑魚のくせに投擲力だけは無駄にあるんだから」
屋根の上から、柄の悪いやや幼めの女声が降ってきた。
青葉がそちらに目を凝らす。星明りの下、注意して見ると、屋根の縁に一人の少女が足を組んで腰掛け、2人を見下ろしていた。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑨

ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」