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Flowering Dolly:ビースト辞典①

・アーテラリィ
大きさ:体長12m(完全体)
『魂震わす作り物の音』に登場したビースト。凡そ人型の外見をしているが、腕部が異常発達しており、逆に脚部は著しく退化している。移動時は両手を用いて這うように動く。
顎を巨大化させ、材質に関係なく摂食し養分に変える咬合力と消化能力に加え、腕部の体組織をミサイルのように発射する特殊能力がある。発射されたミサイルは、対象物に対してある程度の追尾性能を有する。
また、生命力に優れ、首と心臓が無事であればしばらくの間は生存できる。顎も残っていれば摂食によって急速に回復が可能。

・ニュートロイド
大きさ:身長2.2m、尾長2.5m
『Bamboo Surprise』に登場したビースト。外見は二足歩行する大型有尾両生類のようだが、両足は2本指で、頭部はどちらかといえばワニのような大型爬虫類のものに近い。眼球は無く、代わりに皮膚全体が受けた光を視覚情報として取り入れている。知能が高く、人語を理解し、高速並列思考が可能。本気で脳を回転させていると、周囲の動きがゆっくりに見える。今回は腕を捥がれて動揺していたため、それが起きなかった。
戦闘時には手足や尾を用いた格闘を行う。
体表からは粘液を分泌しており、これにはニホンアマガエルの粘液と同等程度の毒性がある。

・キマイラ
大きさ:体長8m、肩高3.5m
『猛獣狩りに行こう』に登場したビースト。外見は体毛の黒い巨大な獅子の肩から、ヤギの頭と竜の頭が生えたもの。
獅子頭は口から炎を吐き、竜頭には鋭い角と牙があり、山羊頭は声が怖い。冗談抜きに吠え声を聞くとまともな生物なら萎縮して動けなくなるか恐怖で失神するレベルで声が恐ろしい。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その②

翌朝、青葉が目覚めて居間にやって来ると、長女と平坂が話し合っていた。
「あれ、潜龍さん。あ、姉さまおはようございます」
「あらおはよう青葉ちゃん」
姉に頭を下げ、青葉は平坂に近付いて行った。
「やっぱり頼るんですね」
「ああ、人手は多かった方が良い」
「正しい判断だと思いますよ」
親しげに話す二人に、青葉の姉は首を傾げた。
「青葉ちゃん、いつの間に仲良くなったの?」
「まあ、少し縁がありまして。姉さま、頑張ってくださいね」
「ええ」
青葉は居間を後にして、母屋から出た。
(ねえ、ワタシの可愛い青葉?)
「……なに、カオル?」
青葉に憑依した愛刀の半身が、脳内に直接響く声をかける。
(『力』、欲しくない?)
「……力?」
(そう。今この街に現れている何かに立ち向かうための力)
「……”潜龍神社”が動いてて、姉さまも出るのに、無力な私なんかいらないでしょ」
(ねえ、ワタシの可愛い青葉? ワタシは『欲しいか』って訊いたんだよ。『必要か』じゃなく、ね)
どこへ行くでも無く庭を歩いていた青葉は、カオルの言葉に足を止めた。
(客観的な要不要じゃなく、ワタシの可愛い青葉の素直で正直な願望を聞きたいな)
「…………どうすれば手に入るの?」
(そう来なくっちゃ。この家には大きな土蔵があったよね? そこに行って)

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その①

早朝から釣りをしていたが、4時間経って周囲が明るくなっても、雑魚の1匹も釣れなかった。
まあ、釣りは成果ばかりが全てじゃ無し。この辺りは頻繁にビーストが現れるということで誰も寄り付かないから、1人でのんびり過ごすことができる。まあ実際には海上に現れるだけで上陸してこないからあまり問題無いんだが。
「………………」
不意に、背後から軽い足音が聞こえてきた。足音の主は自分から少し離れたところで立ち止ったようだ。そちらに目を向けると、病的な白い肌をして目の下に濃いクマを作った、貧相な体つきの少女がこちらをじっと見つめていた。バケツと釣り竿を携えているところを見るに、彼女も釣りにやって来たようだ。
「……お隣、よろしいです?」
「…………いやまあ良いッスけど……」
しぶしぶ了承すると、2mほど離れたところに腰を下ろして釣り糸を垂らし始めた。
「…………」
「…………」
たいへん気まずい。取り敢えず、2mほど追加で距離を取る。
「?」
横から何かが動く気配を感じ、彼女の方を見ると、こちらに少し近付いて来ていた。再び離れる。彼女の方を見ていると、こちらを見もせずに再び距離を詰めてきた。
「………………」
「………………」
離れる。近付かれる。それを何度か繰り返しているうちに、いつの間にか彼我の距離は1m程度にまで縮んでいた。
「何なんだお前ぇっ!」
「……うひひ」
「笑って誤魔化すな!」
その時、沖の方で何かが海面から勢い良く飛び出した。そちらに目をやると、巨大なウミヘビのようなビーストが暴れている。
「……またビースト。最近特に多いですねぇ」
目を離した隙に至近距離まで接近していたあの少女が話しかけてくる。
「お陰で、最近じゃ余所に引っ越す人たちも増えちゃって……」
「まあ仕方ないんじゃないか? あと近付くな」

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑫

私と彼の右手の甲が一瞬光り、太陽に似た放射状のとげとげした紋様が焼き付いた。
「契約完了っと」
「これで、あいつ倒せるんだよな?」
「もっちろん」
ビーストが私たちに追いつき、前足を叩きつける。その直前、彼を瞬間移動で逃がし、私の方は再生した右手で受け止める。
「っひひ。何これすごい、手応えが全然違う。身体強化も、肉体の治癒も、契約が無かった頃とは比べ物にならないレベルじゃん」
私のボロボロの身体は、ケーパとの契約を済ませた瞬間、ほぼ完全な状態にまで急速に回復していた。おまけに、これだけの威力を受け止めたにもかかわらず、骨や筋繊維の1本すら、軋みもしない。
「そいやっ」
軽く押し返し、ついでにヤツを蹴り飛ばす。
「それじゃ、本気出させてもらいますか! ……そうだ、けーちゃん?」
大丈夫とは思うけど、念のため。
「ん? 何だよアリー」
「んー……フィスタでも良いよ。けーちゃん限定で許可したげる。マスター様だしね」
「ああ、で何だよ」
「あぁそうそう。1個だけお願いがあるの。私の音楽、変わらず愛していてね?」
「言うまでも無え」
こういうところは即答してくれるところ、私は好きだよ相棒。
「……というわけでっ!」
右手の中に、私だけの『武器』を生成する。長さ60㎝程度の片手杖。軽く振るうとひゅうっ、と空気の通る音がする。中が空洞になってるんだ。全体は白く、Y字の二股に分かれた先端はグラデーションで緑色に変わっていっている。良いデザインだ。
「 “Allium Fistulosum”! ただ今よりお前をぶっ殺しまぁーっす!」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑥

ソレの目の前の女性、右手の武器から推測するに“ドーリィ”であろう彼女は、ビーストの拳を回避することも無く胸部を貫かれた。
腕は彼女の肉体を貫通し、背後にまで抜ける。しかし、手応えがおかしい。肉や骨を砕き押し退けた感触が無い。彼女の背中から突き出る腕の長さも、本来想定されるより僅かに長く見える。その差、ちょうど彼女の胴体の厚みに等しい程度。
「っはは、どうだ驚いただろ。お前が言葉を理解できるかは知らないが、勝手に自慢させてもらうよ。私の魔法、『肉体を“門”とした空間歪曲』。ざっくりいうと、『私の身体に触れたものが、私の身体の別の場所から出てくる』。要するに……」
フィロの刺突と同時に、ビーストは飛び退いて回避する。
「お前の攻撃は全て、私を『すり抜ける』」
ビーストが尾で薙ぎ払う。フィロはそれを跳躍して回避し、地面に突き立てた短槍を軸に蹴りを仕掛ける。
「ところで化け物。私の魔法、一見防御にしか使えなさそうに見えるだろ? ところがどっこい、面白い特性があってさ。“門”にするのに必要な『身体の一部』って、切り離されていても適用範囲内でさぁ」
フィロが懐から、小さな骨片を取り出す。
「これ何だと思う? 正解は『私の左腕の尺骨の欠片』」
フィロは骨片をビーストに向けて放り投げ、『自分の足』に槍を突き立てた。その刃は空間歪曲によって骨片から現れ、通常ならば在り得ない角度から刺突が放たれる。身体を折り曲げるようにして回避したビーストは、逃げるようにその場を離脱した。
「む……私にダメージを与える手段が無いからって逃げるのかい。まあ……あとはあの2人に任せるとするかね」

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皇帝の目_4

「チトニア、頼らせてもらう」
「うん!指示ぷりーず!」
いつの間にかチトニアは梓の腕にべったりくっついていて、はしゃぎながら斧を渡した。
「じゃあ早速だけど。ゴルフの要領であの看護師を飛ばしてほしい」
短い指示だが、チトニアはその意味を正確に理解した。梓は常に片手を塞がないと目が見えない。更に、貧弱な梓は片手で斧を振るうことはできないため任されたのだ、と。チトニアは斧を振りかぶり、平らな面を看護師の腰に当てた。
「きゃっ!」
うまい角度で飛ばされ、看護師は病室の外へ。すかさずチトニアはベッドをひっくり返して病室の入口を塞いだ。幸いこの病室には梓しかいなかったのでベッドは有り余っていた。
「…強いな」
「パワー型だからね!」
梓が戦うのを宣言してからこの会話まで、およそ30秒。ビーストは蛇口から出切った。それは細長いおびただしい量の人間の腕の塊に、頭や胴体と呼べるものはなく、魚の尾びれのようなものが大きく一つついている姿をしていた。
「ビーストってなんか能力使う?」
「使う子もいるよ?ビーストって皆大型だけどこいつ小型だから、こいつには『大きさを変える』みたいな能力があるかも」
「なるほど…」
ビーストは、悲鳴ともつかない雄叫びをあげた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑨

「おいビースト来てんぞ。どうする?」
「どうするって言われても、私がこの状態じゃ応戦は無理だし……」
「じゃあ駄目じゃねーか」
「私のプランじゃあんたが増援呼んでくれるはずだったのー」
「それはごめん……」
「あ、そういえば、けーちゃんの家、かなり喰われたよ。守れなくてごめん」
「初撃で既にぶっ壊されてたから問題ない」
「さて……どうしよっかなー」
さっき吹き飛んだ右手を見る。まだ4分の1も再生していない。
「けーちゃん、私重い? 物理的に」
「いや、半分くらいになってるから結構軽い」
「それは良かった。じゃ、私のこと抱えてしばらく逃げ回ってくれる?」
「了解」
彼は私のことを小脇に抱えて駆け出した。直後、さっきまで私たちがいた場所にビーストの踏み付けが突き刺さる。
そんなことより、今は回復に努めよう。あんまり重くなってもケーパの逃げる邪魔になるから、足や頭、お腹の傷は放置して、右手の治癒だけに集中する。今欲しいのはここだけだから。
「……あ、やべっ」
突然ケーパが私を放り投げた。
「むぐっ……どしたの、けーちゃ……」
あいつはすぐに私を抱え直して、逃走を再開する。
「あっぶな……踏み潰されるところだった」
「大変だったじゃん。怪我とかしてない?」
「してない。ギリセーフ」
「それは良かった」
右手の治癒は掌全体の再生にまで至った。これだけあれば、大丈夫かな。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その④

ハルパが走って約1時間。目的の都市は既に戦火に包まれていた。
「………………」
ハルパは転移魔法でその中心地にまで移動し、ビーストを探した。それはすぐに発見される。
体長約20mの巨大な猛獣。その口の端からは炎が漏れ、背中から生えた山羊と竜の頭部は不吉な咆哮をあげている。
ニタリ、と口角を吊り上げ、ハルパがそちらに突撃しようとしたその時、鋭い破裂音と共に銃弾がビーストの胴体に直撃した。
「…………?」
ビースト、ハルパ共に、銃弾の飛んできた方向に目をやる。
『おいビースト、こっちだ! これ以上好き勝手させてなるものか!』
拡声器を通した男声が、辺りに響き渡る。
ビーストがそちらに向かおうとするより速く、ハルパは飛び出していた。身体強化による超加速でその声の主の元まで駆け、勢いのままに飛びつく。
「えっうわあ!」
彼を押し倒し馬乗りになったハルパに、声の主は一瞬動揺を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「なんだ……ハルパじゃないか。久しぶりだね。もう5年……6年くらい会っていなかったかな?」
その男がワイシャツの左袖をまくり上げると、ハルパの左前腕にあるのと同じ位置に、獣の咢を模した紋様が刻まれていた。
「それより、一度退いてもらえるかな。ビーストが来ているから……」
そう言うその男の目には、間近にまで迫っているビーストの姿が映っていた。
「…………」
ハルパは黒槍を取り出し、形状変化によってドーム状の防壁を作り出す。
「いや、僕らだけ守られていても駄目なんだけど…………、1回下りてくれる?」
再び頼まれ、ハルパはしぶしぶ男を解放した。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その④

少女が固く抱きしめるテディベアの右腕が、ビーストを捕捉する。それと同時に、ビーストは少女から距離を取るように跳躍した。高速で伸長したテディベアの腕が、いち早く回避行動を取っていたビーストの脇を通り過ぎ、元の長さに縮んでいく。
そして、テディベアの腕が完全に縮み切ったと同時に、ビーストの背後にもう1人、ビーストの正面でテディベアを抱えているのと『全く同じ外見の』少女が、虚空から出現した。
突然の事態に対応する前に、その少女は身体強化を乗せた拳を直撃させ、ビーストを遥か下方の地面に叩きつけた。
少女は短距離転移によって尖塔の上に移動し、自身と同じ姿の少女に抱き着く。
「ササ、クマ座さん貸してくれてありがとう」
抱き着かれた側が、テディベアを抱き着いた側、“ドーリィ”ササに差し出す。
「ありがと、サヤ。私もこれ、返すね」
ササも腰にリボンで結い留めていた『クマ座さん』に瓜二つのテディベアを“マスター”サヤに差し出した。
テディベアの交換を終えた2人は、屋根の端から顔を覗かせビーストの様子を見ることにした。地面に叩きつけられ、相当のダメージを受けたはずの怪物は、しかして大したダメージを受けた様子は無く、起き上がって上方の2人を眼の無い顔で睨みつけている。
「ササぁ……あんまり効いてないよ……」
「だ、大丈夫だよサヤ……クマ座さんの攻撃は1回当たって腕を片方切れたし、私のパンチもちゃんと命中したし……」
顔を見合わせて話す2人の耳に、石材を突き砕く激しく断続的な音が入ってくる。
「「?」」
再び見下ろすと、ビーストが壁面を駆け上ってきている。
「ぴゃあぁっ!?」
「に、にげ、にげようサヤ!」
ササはサヤを抱き締め、そのままビーストの向かってくるのと反対側に屋根を転げ落ちる。端に転がっていた何者かの指に触れると同時に、2人の身体は空間歪曲に飲み込まれ、そこから数十m離れた廃墟の陰に転がり出た。

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五行怪異世巡『きさらぎ駅』 その⑤

白神が足元を照らしながら、2人は街灯すら無い暗闇の中を進む。道に沿って歩くと、小さな商店、廃業したコンビニエンスストア、人の住んでいる気配が無い何軒かの民家が見られた。
「すっごいド田舎だぁ」
軽い口調で言う白神の袖を握りしめたまま、青葉も答える。
「何か、不気味ですね」
「このまま奥へ進むほど、なんだか引き返せなくなりそうな気がしない?」
「……怖いこと言わないでください」
2人は一度立ち止まり、駅の方へ振り返った。駅舎は暗闇の中に沈み、輪郭もぼんやりとしか見えない。
「……1度戻ろっか?」
「そうしてもらえると助かります」
「その前に……もしかしたら一瞬痛い思いするかもだけど、ごめんね?」
白神がそう言ってスマートフォンを、青葉が掴まっている左手に持ち替えてから右手を掲げた。その周りにパチパチと音を立てながら電光が走り、その手を前方に向けると、駅の方に向けて雷のように電撃が走っていった。その光に、来た道が一瞬照らされる。
「うん、道はまだちゃんとある。少し急ごっか」
2人は駆け足で駅舎の方へ戻り、無事に辿り着いた。
「さて……どうしようね。振り出しに戻っちゃった」
「状況が悪化するよりはマシだと思いましょう」
「そうだね。……ところでアオバちゃん?」
白神が、青葉の背後を指しながら尋ねた。
「その子、誰?」

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その①

ビーストの出現に市民が逃げ惑う中、少女はただ1人、怪物に向けて迷い無く突き進んでいた。
「……チッ、『あれ』じゃないのか。まあ良いや」
少女は肩に担いでいた片手剣を、九頭竜のような外見のビーストに突き付けた。
「どうせビーストには変わりないんだ。人類の敵が。ブチ殺してやる!」
手の中の小さな球体を地面に叩きつける。すると、そこから白煙が広がり、辺りを覆い隠した。その中に紛れて、少女はビーストの背後に回り、斬りつけようとする。その横合いから、ビーストの首の一つが彼女を轢き飛ばした。少女はそれを剣で受け、辛うじて受け身を取る。
「くそっ……重い。流石に全方位警戒してるか……」
肩掛け鞄から手榴弾を取り出し、離れた場所に投擲する。ビーストがそちらに注意を向ける気配を感じながら、それとは反対側に回り込み、再び斬りつける。その攻撃は見事、ビーストの胴体に命中したものの、厚く硬い鱗に阻まれ、有効打とはならなかった。
「クソ、硬った……あっまずっ」
脇腹にビーストの尾が叩きつけられ、弾き飛ばされる。直接的なダメージに加え、建物の壁に全身を強く打ち付け、衝撃で呼吸が止まる。
(っ…………クソッ、身体が動かない…………痛覚が邪魔だな……)
ビーストがにじり寄ってくるのを、流血で潰れかけた目で睨み返しながら、少女は力の入らない腕を地面につき、立ち上がろうと苦心する。
ビーストの首の1つが少女に向けて伸びてきたその時、彼女の背中を何者かが軽く叩いた。ビーストの攻撃が命中する直前、少女の身体は数m離れた地点に瞬間移動していた。
「…………やっ……と、来たか……遅いんだよ……」
「あなたがせっかち過ぎるだけですぅー。まったく、勝手に私の武器持っていったでしょ」
言い返しながら少女を助け起こしたのは、彼女とおおよそ同じ体格の、紅白の防寒着に身を包んだ緑髪のドーリィだった。
「まあ良いや……ビーストだ。私追い求めていたヤツとは違うけど、せっかくだから」
少女の差し出した右手に、ドーリィが左手を叩き合わせる。
「手ぇ貸せ、相棒」
「手といわず、いくらでも。キリちゃん」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その③

そのビーストは、崩れかけの尖塔に狙いを定め、更に加速する。素早く駆け上がり、頂上で全周に注意を払う。ソレは眼球を持たない代わりに、皮膚全体が視覚に相当する情報を取り入れている。『皮膚全体』が目であるに等しいその感覚能力と、その情報量に耐え得る処理能力を最大限活用し、僅かな不信の動作も見逃すまいと注意を払う。更に並行して、ソレの脳の一部は敵対存在の分析を続けていた。
少女がこれまで、ソレに攻撃を放ったのは初撃含めて3回。アプローチの総数が32度であるのに対して1割にも満たない、極めて低い頻度である。
それら1つ1つの事例を鮮明に想起しながら、パターンを探す。
出現場所、出現位置、脅かす言い回し、構え。決して多くは無いサンプル数を反芻しながら約1分。不意に、彼の取り込む視覚情報に動きが確認された。
自身の立つ尖塔の下を見ると、件の少女がとぼとぼとした足取りで入り口をくぐるところだった。ビーストの全身に、緊張が走る。右手の拳を強く握り、尾は脱力しながらも鞭のように俊敏にしならせ、攻撃の準備を整える。
視覚を研ぎ澄ませ、引き続き周囲を監視していると、ソレの背後、尖塔の屋根の端に、幼い手の指がかかるのが見えた。
瞬間、刺突とも呼べるほどの速度で尾による『点』の打撃を放ち、手の周囲の建材ごと吹き飛ばす。破片が飛び散り、手は支えを失い落下していく。
その時、そのビーストの視覚能力は、飛ぶ破片の中に不自然な物体を発見した。
『指』。人間の手のそれに近い形状ではあるものの、先程交戦していた少女のものとするにはやや長すぎるそれ。この場に存在するにはやや不自然すぎるそれ。その理由を解き明かそうとするソレの『視界』に、空間の僅かな歪みが映った。その起点は、例の『指』。そしてそこから、桃色のテディベアを抱えた少女が現れた。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その①

廃墟群の中を、1つの影が走っていた。
背の丈は大柄な成人男性程度。やや筋肉質な体つきをしたソレは、しかしてたとえ遠目から見ようとも人間では無いと分かるような特長を有していた。
最も明確な特徴は、長く太く平たい、ある種のサンショウウオが具えているような尾である。その他にも、頭部は大型爬虫類のような顎以外のパーツを持たず、皮膚全体は粘液に覆われてぬらぬらと光っている。
付け根から切断された左腕の傷口を水かきのついた右手で押さえながら、尾でバランスを取りつつ器用に全力疾走を続けるその影、“ビースト”は、どす黒い血痕を足跡のように垂らしながら、一心不乱に駆け続けていた。
“逃走”のためではない。生体「兵器」とはいえ、ビーストは1つの生命体である。1つの明確な意志を持って、ソレは駆け続けている。
“追跡”のためではない。ソレはたしかに戦闘の只中にあるが、敵対存在を追っているわけでは無い。敵はソレから逃げているわけでは無く、追っているでも無く、敢えて表現するのであれば、“隠れて”いる。しかし、発見しようという意志も無い。
そのビーストが求めていたのは、“状況の打開”。現在地はソレにとってあまりにも不利で、敵にとってあまりにも有利な環境だった。
がらり、と左前方から瓦礫の崩れるような音が聞こえてくる。反射的に、音から離れるように後方に跳躍し、右腕を戦闘のために構える。その時だった。
「わっ」
近くの物陰から現れた少女が、脅かすように声を上げ飛び出してきた。そちらに尾を叩きつけるが、少女は既に身を伏せ、その場から消えている。
ビーストがよろめくように少女の現れた物陰から離れると、ソレの頭部ほどの高さを通っていた剥き出しの配管にぶら下がった先程の少女が、テディベアを抱えた両手をソレに向けて突き出した。
「ばぁっ」
ビーストは咄嗟に大きく跳躍し、手近な廃墟の2階、その割れた窓から屋内に飛び込んだ。少女は配管からぼとり、と落下し、その後を追って1階から建物に侵入する。

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「円環魔術師録」達による他作品所見 2

リンネ「で、『人工精霊は魔力の塊』ってところなんだけど...すごいねぇこれ。魔力の実体化でしょ?
錬成者は未来人か何か?」
ミル「魔力の実体化...魔力は目に見えないし、魔力単体で出すことはできないから、そもそも無いんじゃないか、なんて言う学者さんも居ましたね。」
リンネ「一応、魔力によって魔術や魔法を行使してる、というのが現段階での有力説だね。あと、この地名だけど...なんて読むんだろうこれ。東方の国かな?ミル君、君の出身この辺でしょ読んで。」
ミル「無理ですよ!そもそも混血だし、物心ついたときには帝国の孤児院ですよ!そんな無茶苦茶な!」
リンネ「そっかぁ、じゃあやたろう、読んで。」
ミル「もう帰りました!」
リンネ「酷いなぁもう。まぁ良いや。あと、『異能』と言うのは魔術や魔法とは別物なのかな?」
ミル「字面だけ見たらそうでしょうけど...。」
リンネ「コレも後でやたろうに聞こうか。話しを戻すけど、魔力の実体化が可能なら、何もない所から何かを出す事も可能なんじゃない?だとしたら革命だね。騎士団の荷物持ちが要らなくなる。」
ミル「規模ちっさ!」
リンネ「ま、こんなところかな。最後まであの小娘は来なかったね。」
ミル「小娘って...。まぁそうですね。異世界の魔術も面白かったです。」
猫町「ではお二人ともお疲れ様でした。また呼び出すので覚悟しやがれください。」
リンネ「なんでキレてるの?」
ミル「確実にアンタのせいだよ!」

以上、「『円環魔術師録』達による他作品所見」でした。リクエストをくださった「テトモンよ永遠に!」さん、ありがとうございます。
リクエストはまだ受け付けていますので、是非ご参加下さい。

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魔法をあなたに その③

サテサテ待つこと時計の長針1周分。
よーやっと好みの人材が出てきやがった。見るからに陰気臭せェ女生徒が1人、周囲を気にしながらそそくさと出て敷地外目掛けて一直線ってなワケですよ。
『……当ォー然、声かけるよなァ、えェ?』
ヤツの背後をついて行きながら、ひとっ気の無い場所に入るのを待つ。
辛抱強く待つこと10分チョイ、遂にチャンスが訪れた。ヤツが団地の中に入っていった。
そのまま不気味なほど静かな細い道に入り込んでいったタイミングで、声を掛ける。
『よォ、そこの陰気なお嬢ちゃん』
たしかに魂が足りてねェせいで大それたマネはできねェが、人間の頭に直接声を届けるくらいはオイラ達の生物学的標準機能だ。
オイラの声に気付いたあの娘は、仰天したみてーに足を止め、キョロキョロし始めた。
『今はテメェの頭ン中に直接語り掛けてるンだよ』
「だ、誰⁉ 誰なの⁉」
『えェイ落ち着け! テメェ今、周りから見りゃ完全にヤベェ奴だゼ』
「ぅっ……」
『よォし良い子だ落ち着け落ち着け。深呼吸しろシンコキュー』
ヤツがそれなりにリラックスするのを待ってから、会話を再開。
『安心しろヨ、今テメェに語り掛けるこの声は幻聴でもイマジナリー・フレンドでも何でも無ェ、純然たるマジモンだぜ。まずはソコを受け止めてもろて』
ヤツはおずおずとって感じで頷いた。これで先に進める。

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ただの魔女:キャラクター②

・中山サツキ
年齢:15歳  身長:155㎝
魔法少女の1人。使用武器は長さ130㎝程度の短槍。得意とする魔法は2種類の空間転移能力。
1つは「自身を対象とした最大射程3mのショートワープ」。
もう1つが少し複雑。「①対象を『3つ』選択する(それぞれ対象A、対象B、対象Cとする)②対象Bを中心として、対象Aと対象Cが点対称の位置にいる時のみ発動できる③対象Aと対象Cの位置を入れ替える」というもの。かなり使いにくい。
基本的に悪いことをした人にもそれなりの事情があるはずだから、寄り添って理解して、更生してもらおうというスタンス。こいつに「殺すしか無ェ!」と思わせる奴がもし現れたら、そいつは誇って良い。そして死ね。ヒカリは寄り添った結果本気で殺し合うのが最適解だっただけだから例外ね。
ちなみに魔法少女としての通り名は【アイオライト】。名付け当時、ヌイさんは天然石にはまっていたらしい。

・中山ヤヨイ
年齢:13歳  身長:150㎝
魔法少女の1人。サツキの実妹。姉のことは普段は「姉さん」呼びだが気の抜けているときや動揺した際には昔からの「お姉ちゃん」呼びが飛び出す。
使用武器はライトメイス。得意とする魔法は対象の外傷治癒。その外傷に負傷者の意思が干渉しているほど、治癒の際の痛みは強く鋭く重くなる。たとえば極めて浅いリスカの治癒と事故によって起きた複雑骨折の治癒では、前者の方が圧倒的に痛い。
身の回りの誰にも傷ついてほしくないし誰にも死んでほしくないという善良で無邪気な望みが反映された魔法。でも勝手に傷つこうとする馬鹿にはお仕置きが必要だよね。気絶してたから良かったものの、ヒカリの腕と背中の傷は治す時滅茶苦茶痛かったと思います。
ちなみに魔法少女としての通り名は【フロウライト】。

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魔法をあなたに その①

オイラin魔界。
今日は随分久しく会わなかった奴の姿があった。コイツぁ珍しい。せっかくだから絡んでやろう。
『ヨォー、テメェ珍しいじゃねェか。最近ずゥーっと出ずっぱりでよォ。何だァ? 里帰りかァ?』
『ム? おや、旧友。帰って早々知った顔に出会えるとは嬉しいねェ。……まァ、大した用事は無いヨ。たしかに里帰りと言って良いかもしれない』
『ウカカ、そーかィ。ところでテメエ、最近の調子はどうだァね』
『頗る良いヨ』
『バァカ言ってンじゃねェ。“回収状況”だよ』
『あァ……』
オイラ達は人間のガキ共とある種の共生関係にある。オイラ達はアイツらに超自然的パワー、所謂“魔法”をくれてやる。魔法はアイツらが自分たちの世界を守ったり、アイツら自身の人生をちょろっと彩るのに使われる。代わりに運悪くアイツらが若くして……そうだな、アイツらで言う“成人年齢”って頃より先に死んじまったら、その“魂”はコッチで回収してオイラ達自身のエネルギーとして活用させてもらう。“戦うための力”を与えてるんだからそりゃ死にやすいだろッテ? 双方合意の上だしセーフセーフ。化け物だらけの世の中だからしゃーないネ。
『先日、7番目に“魔法少女”にした子が無事に天命を全うしてくれてね。嬉しいことだ』
『ナァニ言ってダ、もう70年は早く逝ってもらわにゃ意味無ェだろーが』
『君は相変わらず口が悪いねェ……君の方こそどうなんだイ?』
『ッ…………お、オイラのことァどうでも良いだろうヨィ! 「オメガネにカナウ」良い魂の持ち主が少ねェンだよ今の時代はァ!』
『自白していくねェ……』
『ウッセバーカ! んじゃ、オイラぁもう出るからナ! ジャーナこの……あン? お前今、何て呼ばれてる? それで呼んでやるヨ』
『……そうさねェ、今はこの見た目から「ヌイグルミ」と呼んでくれる子が多いねェ』
『ホムホム了解、ジャーナおヌイ』

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ただの魔女 その⑦

ようやく気付けた……けど、こんなこと普通あり得る?
振り下ろされた槍の穂先が、身を捩った私の肩を掠める。
「っ……! 人間でも修行すればできるようになるとは聞いたことあるけどさぁ……!」
暗闇を飛ぶコウモリや海中を行くイルカをはじめとした、種々の動物に確認される生態。何らかの音を発し、それが周囲の物体に反射して戻ってくる時間差と角度から、目に見えない世界を、音を使って『視る』技術。
「”反響定位”……!」
また、短槍がコンクリートを叩く。片腕しか使えない上に、既に毒気が回り切っているはずなのに、彼女の攻撃は回数を重ねるごとに鋭さと精度を増している。これじゃまるっきり、向こうの方が化け物じゃないか。
薙ぎ払いを咄嗟に片腕で受け止める。みしり、と骨が軋む感覚。直後、全身を衝撃が駆け、弾き飛ばされた。
「っ……っあ、はぁっ……はぁっ…………! くそ……! 私、なんだよ……! 殺すのは……! 私の方、だってのに……!」
頬の皮膚が削れて熱い。槍を受けた左腕も動かない。もしかして折れた?
「っ……でも、これで……『お揃い』だ…………!」
今、私と彼女は鏡合わせに同じ腕を潰している。両眼を潰すのは気が早かったかな……まあ良いや。
「一つ、呪ってみようか」
また、彼女が短槍で足元を打つ。転移する気か。
「させるかっ!」
ダガーを投げる。この風切り音は聞こえてるはずだ。そして、この状況。『前例』はただの1度きり。使うかどうかは彼女次第。それでも、信じてる。彼女が本気で、私と渡り合おうとしてくれることを。
一瞬の浮遊感と共に、視界が変化する。来た、『位置を入れ替える魔法』!
来たる衝撃に備え、身体を硬直させる。それと同時に、背中の一点にダガーが突き刺さった。

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ただの魔女 その⑥

片目が辛うじて生きてる分、感覚能力では私に分がある。大型ゴーレムが来るまでの推定約3分、持ち堪えれば良い。
「……そんなわけ無いじゃん」
『今』『ここ』で、『私が』殺さなきゃ。
今のダメージを考えると、〈邪視〉はあと1回しか使えない。けど向こうにはどうせ見えてないわけだし、タイミングがあったら積極的に使って行こう。
懐から乾燥させた薬草の粉末を取り出し、地面に投げて火をつける。紫色の煙といやに甘ったるい匂いが辺りに立ち込める。普段から嗅ぎ慣れた、気持ち悪くて安心する匂い。慣れないうちは神経を侵し動作を鈍らせるだけだけど、毒性にさえ慣れてしまえば、高揚感と痛覚麻痺が良い具合に働いてくれる。
「うぅっ……何、この匂い…………」
彼女はやはり、この『毒』には慣れていないらしい。全身の神経が少しずつ麻痺し出して、身体に力が入らなくなってきて、ほら見ろ、どんどんふらついてきてる。
(これなら、殺せる!)
ダガーを取り出し、突撃する。腰だめに構え、全体重をかけて腹を狙い……。
カンッ、と彼女の短槍が足元のコンクリートを打った。かと思うと彼女の姿が消え、背後から風切り音が近付いてきた。咄嗟に倒れ込み、突きを回避する。
足音で気付かれた? にしたって、あの潰れた両目で、『瞬間移動の直後に』、ここまで正確な攻撃ができるわけ……。
カンッ、とまた、短槍がコンクリートを叩く。
「……そういうことか……!」

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五行怪異世巡『竜』 その④

「我らが祭神、爽厨龍神大神でありましたか。ここまでの無礼、こちらの娘の分も含め、深くお詫びしたい」
「えっ、あ、お、おお我が忠臣よ、ようやく理解したか大馬鹿者め」
「面目次第も無く……」
子どもは武器を下ろし、元の和装の普段着の姿に戻った。
「いやしかし、強かったねェ祭神サマ。何つったっけ?」
2人に近付いてきた種枚が、どちらにとも無く話しかけてくる。
「爽厨龍神大神。人の子は我をそう呼ぶのだ」
子どもの答えに、種枚は複雑な表情をした。
「長いな。もっと縮めた愛称とか無いのか?」
「貴様、仮にも神格を『愛称』で呼ぼうって言うのか⁉」
「殺せば死ぬ奴ァ何でも人間と同格だろ?」
「な、お、貴様ぁ⁉ 最早清々しい奴め!」
「で、どう呼べば良い? 『さっちゃん』とでも呼んでやろうか?」
「やめいやめい! そのような我の威光の欠片も感じられぬ渾名を使うのは!」
「チィ……なら『リュウ』で。龍神だから『リュウ』。強そうだしこれで良いか?」
「むぅ……まあ、良かろう。では、我はもう帰るからな! まったく、せっかく顕現してやったのに、こんな手荒な真似をするとは……」
ぼやきながら、リュウは姿を消した。
「……しかしよォ、潜龍の」
「何だ」
「ここの祭神って、龍神だったんだな。“潜龍神社”の名前は祭神とは無関係だと思ってたよ」
「無関係だぞ。祭神が龍なのは単なる偶然だ。そもそもこの街の北にそこそこの川が流れているだろう。龍神信仰が興ること自体は自然な地形なんだよ」
「あー……たしかに」

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ロジカル・シンキング その⑪

「〈Parameters〉」
炎の中を駆けるアリストテレスの手の上に、魔力塊とウィンドウが再び展開される。
(威力を光と音に振って、射程を削る。代わりに硬度に振って安定化……射撃じゃなく、投擲を主体としたプリセット)
「〈Preset : Stan Grenade〉」
炎の向こうにいるであろう怪物に向けて、手の中に生成された拳大の楕円球を投げつけた。
強烈な光と甲高い音が炸裂し、怪物の注意はそちらに向かう。しかし命中したのは怪物の位置からは僅かに外れた瓦礫の山であり、怪物はすぐにアリストテレスを探し始めた。
それを物陰から観察していたフレイムコードは、ニタリと口角を上げた。
(…………あー、なぁるほどぉ。ヒオ先輩が言いたかったこと、なーんとなく分かっちゃった。『火炎』を使う私だからこそ、この場でできる事。普段は周りを焼きかねないから、簡単には使えない私の『魔法』。けど……今は周囲が炎で埋め尽くされている。他人が生み出した炎を操るのは流石に私にも無理だよ? けど!)
「同じ炎なら『飲み込める』! なんてったって私は、炎を自在に奏でる魔法少女【フレイムコード】なんだから!」
フレイムコードがスタッフを振り回し、炎の帯を数本展開する。それらは渦を巻きながら周囲の火の海に突っ込んでいき、その勢いで巻き込むように取り込み、その勢いを増しながら変形していった。
周囲の火炎の挙動の不自然さに気付いたのか、怪物はフレイムコードに意識を向ける。しかし、その姿は炎のうねりに目隠しされて目視できず、滅多矢鱈と振り回した尾も直撃には至らない。
「ひひ、こっちに気を取られてて良いの? 私はただ、『火を揺らしている』だけなんだよ。お前が私達の姿を見られないように。『先輩がお前を狙う邪魔になる壁』を剥がせるように!」
怪物の頭の周囲を取り巻いていた炎が一瞬揺らぎ、その隙間から魔力性の閃光弾が投げ込まれ、怪物のまさに眼前で炸裂した。周囲の炎を更に上回る光量を瞬間的に浴びた視覚は瞬間的に麻痺し、それによる動揺か、怪物は一層激しくその場で暴れ狂う。

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ロジカル・シンキング その⑧

「あ、ヒオちゃんやっほ。……可愛い衣装だね?」
「ん、フウリ」
ヘイローは自身の魔法によって頭上の光輪を操作し、崩落する建物から逃げ遅れた一般人を守っていた。
「突然で悪いんだけど、ヒオちゃん。助けて? ちょっと今動けそうに無いんだけど……私の魔法、火力あり過ぎて巻き込んじゃいそうだし……」
「分かった。こっちは任せてフウリは怪物の方を片付けて」
「うん。いくら私でもヘイロー無しで怪物とは戦えなかったから……じゃ、まず避難路を作ってくれる? そしたら攻撃用に使えるようになるから」
「了解」
ヒオ、もといアリストテレスが手を翳すと、その手の中に魔力の塊が光球となって出現した。
光球を、退路を阻む炎に投げ込み、続いてもう一つ光球を生成する。そちらの光球はゆっくりと彼女自身と一般市民たちを飲み込むように膨張し、彼らが完全に取り込まれたタイミングで、事前に火の中に投げられていた光球が炸裂し、炎の中に道ができた。
「はい皆さん、あの『避難路』が消えないうちに早く逃げてください。大丈夫、全員通り抜けるのにかかる3倍くらいは維持できるので」
一般市民はよろよろと順番にその通路を通って火の外へ逃げ出していった。完全に避難が完了するのを確認してから、指を鳴らして避難路を形成していた力場を消滅させる。
(……よし。今のところきちんと使えてる。そうだ、早くフウリの手伝いに行かなきゃ)
再び光球を生成する。
「〈Parameters〉」
アリストテレスの目の前に、光のウィンドウが出現する。
(『魔法』とは、『魔力』というエネルギーを別のエネルギーに変換する技術。熱と音は……別にいらないかな。射程も少し削って……下げた分を威力と貫通力に乗せる)
各パラメータを操作し終えたところで、光球は小さな塊となってアリストテレスの掌の上に落ちた。
先端のすぼまったおおよそ円筒形のそれを、腰のホルスターから取り出したリボルバー・ハンドガンの回転弾倉に込める。
「〈Preset : Crush Bullet〉」

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ロジカル・シンキング その⑦

頭上に乗ったヌイグルミの案内で街の上空を高速飛行するヘイローの腕の中で、ヒオはフウリから得た答えを反芻していた。
『どうだいヘイロー、見えてきただろう。あの火事の中心に敵がいる。君の魔法は今回、鍵になるはずだ』
「そっかー。あ、ヒオちゃん、どこで下ろせばいい? 今回は火が危ないからあんまり近付かない方が……」
「いや、大丈夫」
ほぼ反射的に答えたヒオに、ヘイローは目を丸くした。
「……じゃ、じゃあギリギリまで寄せるよ? 気を付けてね?」
炎の壁の目の前に到達し、ヘイローは地面にヒオを下ろしてから火の中に飛び込んでいった。取り残されたヒオの頭上に、ヌイグルミが現れる。
『ヘイローは行ってしまったヨ。魔法の使えない君では、仮にこの火に一般人が巻かれていたとして、君ではいつものように助けに行けない』
ヌイグルミの言葉には答えず、ヒオは炎を見つめていた。
「……魔法のことが、今までは分からなかった。みんなと違って、私には理解できない力を使うなんてできなかった」
『ン?』
「けど……今日フウリに話を聞いて、ようやく理屈が分かってきた。少なくとも、納得できた」
『……ホゥ』
「理解できるなら、大丈夫。私なら、十分使える」
炎に向けて、ヒオが一歩踏み出す。
『……ホゥ!』
ヒオの着ていた服が、錬金術士風の衣装の上から白衣を羽織ったものに変化する。
『遂に君も目覚めたか! なら、お祝いに君にも“名”を贈らなくっちゃァならない!』
ヒオが炎の中に飛び込む。しかし、それはヒオの身体を焼くことは無く、彼女から一定距離を置いて掻き消える。
『この“魔法”という超自然現象に対して、最後まで「理」を諦めなかったその姿勢に敬意を表し! 君に贈る“名”は!』
ヒオが両腕を真横に広げると、その動きに合わせて周囲の炎が外側へ押し出されるように吹き飛んだ。
『“万学の祖”【アリストテレス】』

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五行怪異世巡『天狗』 その⑩

「……ようやく手が届いた」
そう呟いて青葉は倒木の下から飛び出し、天狗に斬りかかった。天狗は仰向けに倒れ込むようにしてそれを回避する。
「な、なんで⁉ なんで生きてる⁉ お前はただの人間のガキだろ⁉」
動揺してまくし立てる天狗に構わず、青葉は天狗が立ち上がる前に左肩を片足で踏みつけ、喉元に〈薫風〉の切っ先を突き付ける。
「捕まえた」
「ッ……! ば、馬鹿にするなよ! ボクは『天狗』だぞ!」
天狗がそう叫ぶと、青葉の足元の土が風で舞い上がった。土煙の目潰しに思わず身を捩り、足が天狗から離れてしまう。
(離れた! このまま姿を消して仕切り直す!)
“隠れ蓑”を使い、起き上がろうとする。しかし、それは叶わず再び地面に倒れ込んでしまった。何者かに足首を強く掴まれ、片脚が使えなくなっていたのだ。
「なっ……⁉ お前ら、2人しかいなかっただろ! 一人は離れた場所に誘導しておいた! これ以上どこに人手があるっていうんだ! 誰だよ⁉」
「あぁ……それは私も気になってたんだ。さっきは助けてくれてありがとう。名前くらいは聞いておきたいんだけど?」
喚く天狗に便乗するように、青葉は倒木の方に向けて問いかけた。それに応じるように、倒木が粉砕され、身長に対して異様に細身で華奢な印象の和装の少女が現れた。
「ああ、ワタシの可愛い青葉。勿論その質問には答えさせてもらうよ! ワタシの可愛い青葉にワタシを呼んでもらえるなんて、何て素敵なんだ!」

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ただの魔女 その①

粘土・土塊・石ころ・木の根・砕けた舗装のアスファルト。
混ぜてくっつけ捻くれさせて、出来上がりますは自慢のゴーレム。
“emeth”なんて弱点つけて自動化せずに、都度都度指揮るマニュアル操作。
跳んで走って暴れ回って、殴って壊して傷つけて。
こうして“悪事”を働いていれば……。
「…………そら来た」
この猛然たる風切り音。“悪者”を打ち倒さんとする正義の味方。華美な衣装に身を包み、派手な魔法で平和を守る、みんなの憧れ。
「“魔法少女”……!」
街の危機に颯爽と駆け付けた魔法少女は、私の創ったゴーレムを、光を纏った剣で一閃。
たった一撃でやっつけてしまった。周囲の一般市民からも歓声が上がり、彼女も笑顔で手を振って応える。
まさにスター。ヒーロー……ヒロイン? 街のアイドル。みんなが彼女に憧れて、みんながあの子を好いている。
「…………気に食わないなぁ」
ゴーレムに魔力を送り込む。崩れた身体は再び歪に引っ付いて立ち上がる。
ほらほら頑張れ正義の味方。街の脅威がまた立ち上がった。
彼女の剣がまた閃いて、今度は綺麗に3等分。
「その程度?」
再び修復されるゴーレム。どうせ私がいる限り、何回だって再生されるんだから。そろそろ気付かないものかね?

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五行怪異世巡『天狗』 その⑦

その場に取り残された青葉はしばらく呆然としていたが、突然吹いてきた強風に身を震わせ、すぐに刀を構え、周囲に注意を払い始めた。
「わぁ、あの化け物だけがいなくなった、好都合だね」
周囲に天狗の声が響き渡る。
「お前はどうもただの人間みたいだな。その程度なら軽いもんだ!」
天狗がそう言うのと同時に、地鳴りのような音が青葉に迫る。
(何だ……? また『天狗倒し』か? いや……)
音源の方向を探し、青葉は周囲を見回す。そして、背後から迫っているものに気付いた。
それは、彼女の背丈ほどの直径はあろうかという巨大な火球。山肌を転がり落ちてくるそれを、青葉は転げるようにしてどうにか回避する。火球はそのまま転がり続け、倒木に衝突して消えた。
(たしか…………『天狗火』!)
続けて転がってくるもう一つの火球を回避しながら、青葉は背負っていたリュックを素早く地面に投げ捨てた。
更に自分に向かってくる天狗火を冷静に回避し、天狗の姿が無いか、周囲を見回す。
不意に、視界の隅で何かが動いた。すばやくそちらに納刀状態のままの刀を向ける。
その正体は、天狗火の直撃によって根元を破壊され、青葉に向けて倒れ込んでくる枯木だった。

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不機嫌なドミネイトレス

百貨店の外壁に突き刺さり暴れる怪物の姿を向かいのビルの屋上に腰掛けて眺めながら、魔法少女は溜め息を吐いていた。
「…………あーあー、また怪物が出たからってパニックになって。そのデパート、4か所しか出入口無いんだからさぁ? もっと冷静に順番守って逃げなきゃ、転んで怪我しちゃうでしょ……あ、ほら見ろ。1人転んだ。ああなると後ろも連鎖しちゃうんだからさぁ…………え、何? 私あんな馬鹿どもを助けなきゃならないの? 警察の皆さんも自衛隊の皆さんも分かってる? 普通の兵器効かないんだよ? 現状私の魔法しか対抗手段無いんだよ? この街一つ分の命を私が握ってるんだよ? 私のモチベがこの街の命運左右してるんだよ? あんな馬鹿ばっか……もっと真面目に生き延びようとしてよ。このままじゃ私、アイツらを助けたくなくなっちゃうよ……」
怪物の身体が完全に百貨店の中に潜り込むのを見届けてから、ようやく少女は重い腰を持ち上げた。
「…………まぁ、まあね。別に死んでほしいわけじゃないしさ。やらなきゃならないことはちゃんとやるよ。けど……」
軽く1歩跳躍して10m以上先の百貨店の外壁に着地し、そのまま怪物が開けた穴から屋内に侵入する。そのフロアにはまだ、逃げ遅れた一般市民が残っており、一部は侵入してきた怪物にスマートフォンを向けている。
「馬鹿と阿呆と無能には、ひとまず退場してもらおうか」
少女が指を鳴らすと、周囲にいた人間や両生類のような外見の怪物の動きがぴたりと止まった。
更に少女が指を軽く振るのに合わせて、人間たちは自動人形のような硬い動きでぐるりと振り向き、階段やエスカレーターに向けて列を乱すこと無く歩いて行き、1人ずつ順番に地上階に向けて避難を進めていった。
「……やっと消えたか。何百人いたんだか…………あー疲れた。もうこれで帰っちゃおっかなー……」
少女の魔法が解けて自由になった怪物が、最後に手近に残っていた彼女の方に顔を向ける。
「ウソウソ。ちゃんと最後までやるからさ。秒でお前片付けて、さっさと帰ろっと」

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マホウショウジョ・リアリティショック キャラクター

・福居路香(フクイ・ミチカ)
性別:女  年齢:まだ12歳  身長:144㎝
中学校に進学したばかりの少女。誕生日は2学期中盤。
部活動は決めていないが、何となく音楽部に入ろうと思っている。良い感じの管楽器をやってみたいが自分と周囲の適性的にドラムセットを叩く未来が確定している。
友人も多く、多趣味で、勉強も決して際立って得意では無いながらも毎日努力してそこそこの成績を維持している、ばちぼこのリア充。
家族や周囲からは愛され適切に褒められて育ってきたので自己肯定感も自己効力感もMAXで、自分の人生を滅茶苦茶価値が高いものとして認識している。子供なんてそれくらいで良いんだよ。

・使い魔
女子中高生を狙って魔法少女にさせようとしてくる謎の生き物。外見は四足歩行の哺乳類をモチーフにしたと思われるぬいぐるみのよう。全高約15㎝。ちっちゃい。色々と適当な甘言を述べて言いくるめまくり、これまでに数十人ほど戦いの道に引きずり込んだ実績がある。その大義はただ、化け物達から世界の平和を守るという一点にのみある。我が行いに一点の曇りなし。全てが正義だ。ちなみに歴代魔法少女たちは4割ほどが無事に成人し、1割が存命かつ未成年です。
ミチカちゃんにプレゼントした髪飾りは、本物の宝石とプラチナが使われている地味にすごいやつ。ミチカちゃんはよくある子供向けの安価な作り物だと思ってる。

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マホウショウジョ・リアリティショック 後編

ぬいぐるみが鬱陶しかったので、再び向き直り、目の前にしゃがみ込む。
「良い? ぬいさん」
「え、何……」
「私はね、今がすっごく楽しいんだよ。友達もたくさんいて、趣味も充実してて、勉強も頑張ってるし。これから多分部活にも入るから、もっと楽しく忙しくなる。そんな私の青春の時間と、仮に『魔法少女』とやらになったとして私が懸けなきゃならない命を、何の対価も無しにあげるわけが無いよね?」
「えっ……と……いや、そう、願い! 魔法少女になれば、何でも1つ願い事が叶うんだ! 君にもあるd」
「たった1つ? 私、自分の命と時間にはもうちょっと価値があるって自負してるんだけどなぁ」
「そ、それじゃあ……」
「ねぇぬいさん。1個だけアドバイスしてあげるね」
立ち上がりながら言う。
「そんなに無償の少年兵が欲しいなら、もっとコンプレックス丸出しの自己肯定感なんか欠片も無いネガティブな子を当たると良いよ。適当に甘い言葉並べて誘いたいならさ」
「うっ…………分かったよ」
思ったよりもあっさり引き下がってくれた。ちょっと意外で思わず振り返る。
「ためになるアドバイスをありがとう、ミチカちゃん。お礼にこれをあげよう」
ぬいぐるみは私に何かを差し出してきた。見たところ、髪飾りみたいだ。
「魔法少女に興味が出たら、それを使って。もちろん、ただのアクセサリとして使ってくれてもきっと君に似合うだろうし」
使って、と言われても……そこまで言うなら使い方まで教えてくれれば良いのに。まあ使うつもりは1ミリも無いけど。
ぬいぐるみは徐に立ち上がり、四足歩行でゆったりとした歩調でどこかへ歩き去っていった。それを見送ってから、もらった髪飾りをポケットにしまって私も帰途についた。

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五行怪異世巡『天狗』 その③

青葉は背負っていたリュックを地面に下ろし、杖代わりにしていた刀だけを抱くようにして種枚の隣に腰を下ろした。
「しかしまあ、よくついて来るじゃあないか。その貧弱な身体でさァ」
揶揄うように言いながら、種枚は青葉の腕をつついた。上着の下に隠れて目立たなかった、骨と皮しか無いかのような細腕の感触が、種枚の指に伝わってくる。
「ははは……まあ、軽いので。同じ力でも人より大きく動けるんです」
「なるほどなァ。私も結構細いんだぜ? 筋繊維が人より丈夫な分、量が要らないんだ」
笑いながら、種枚は腕まくりをしてみせた。彼女の骨ばった手首から前腕までが露出する。
青葉は曖昧な笑いを返し、リュックから水入りのペットボトルを取り出し、栓を捻った。
「……しッかし、居ねえなァ……天狗」
青葉が水を飲んでいると、不意に種枚が呟いた。
「いませんねぇ……」
登山道を離れているため、当然周囲に人の気配は無く、風に木々がざわめく音や鳥の鳴き声だけが聞こえてくる。
自然音に和んでいると、2人のもとに強風が吹きつけてきた。それに煽られ、青葉が被っていたキャップ帽が地面に落ちる。
「ン……鎌鼬じゃあねエな。まあ山ン中だし風くらい吹くか」
一度伸びをして、種枚は立ち上がった。それに釣られて、青葉もペットボトルをリュックにしまい、刀を杖に立ち上がる。
「疲れは取れたかい、青葉ちゃん?」
「まあ、少しは」
帽子を拾い、リュックを背負いながら答える。
「オーケイ、それじゃあ行こうか」
そう言って、種枚は更に山奥を目指して歩き始めた。

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鉄路の魔女:あんぐら・アングラー その④

超高速で飛び込むように大鯰に追いつき、ギンはシックル・クロウをその頭部に突き立てる。
(こいつのパワー相手じゃ、私ごと引きずり込まれるだけだ。私如きの力じゃブレーキにもならない)
「……だから」
踵落としの要領で、突き刺した足を勢い良く振り下ろす。彼女自身の落下速度と蹴りの威力もあり、大鯰の下降は更に『加速』される。
「もいっぱあああぁぁぁあッつ!」
まだ自由な状態にあった方の足もシックル・クロウを起動して突き刺し、下方向への勢いを更につける。
「まだまだぁあ!」
真上から地面を透過して、キンの放った矢弾が大鯰に直撃し、爆発してその勢いで更に下方へと押し出す。大鯰とギンが地下を通る線路をすり抜けた直後、地下鉄の車両が轟音を立てながら通り抜けていった。
「……ふゥー、間に合った。そして、このまま殺す」
地上からキンの放った徹甲矢弾が、大鯰の片目を正確に射貫く。ダメージで暴れ狂う大鯰の銃創を、ギンの精密な蹴りが更に貫いた。事前の射撃によって砕かれていた頭骨はそれを止めることはできず、柔らかい脳漿に足首まで深々と沈み込む。
「どんな動物でも、脳味噌をブチ抜かれれば死ぬんだ」
一度格納されていたシックル・クロウが、再び起動する。その威力と衝撃は大鯰の内部から破壊を引き起こし、一度大きくびくりと身を震わせてからその幻影は動きを止め、少しずつぐずぐずと消滅していった。

「おかえり。勝てたんだ?」
出迎えたキンに、地上へ這いあがって来たばかりのギンは無言でサムズ・アップを示した。その手を引いてギンを完全に地上に引き上げ、衣服についた汚れを払ってやってから、2人は車道を出て手近な商店の屋根によじ登った。
「お疲れ」
「いえい」
拳を突き合わせ、互いを讃え合う。
「助かったよキンちゃん。っていうかよく私の意図が分かったね」
「まぁ、付き合いそこそこ長いからねぇ」
「あと、地面挟んで見えないはずの相手によくあんなに正確に当てられるよね……毎度のことながらちょっと怖いよ」
「いやぁははは。慣れてまして」

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鉄路の魔女:あんぐら・アングラー その②

「オーケイそのまま、向こうのデカい交差点まで追おう」
「了解おギンちゃん。タイミングそっちで調整してね」
「はいはーい」
ギンと呼ばれた魔女は速度を上げ、先回りしてみせた。
「キンちゃん一瞬止めてー」
「はいはい了解」
大鯰の進む先にギンの放った矢弾が直撃し、粘性の高い液体がまき散らされ、大鯰の移動速度が一瞬遅れる。
「これで良い?」
「おっけぇーい!」
移動の勢いのまま、大鯰が空中に飛び出す。その巨体は、大型道路の交差点に落下しようとしている。
(奴にこのまま突っ込まれると、車に乗ってる人たちがイマジネーションを吸われちゃうかもしれない。だから)
足首に仕込まれた固有武器であるシックル・クロウを起動しながら、ギンは大鯰に飛び蹴りを食らわせた。
発条機構の弾性力とギン自身の威力と質量、速度の乗った攻撃が、大鯰を一瞬押し留めるが、体格差ゆえにすぐ弾き飛ばされてしまう。
「うぅ……流石に重さが違うや…………けど」
大鯰はそのまま落下していく。交差点の中央、信号の切り替わる瞬間の、『車が1台も通っていない』ど真ん中に。
「これで十分。お前に食わせるイマジネーションは無いよ」