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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑪

「クッソ……あの雑魚、いっちょ前にアタシの愛しいエイト・フィートを……!」
吐き捨てながら、少女は女性霊の腕に突き刺さった短刀を引き抜き、地面に投げ捨て踏みつけた。
「こうなったら、全リソーステメエにぶち込んで……!」
右手の中指を立てながら少女が言おうとしたその時、少女の足下に武者の霊が転がってきた。
「む……どうやら貴様の『最高戦力』は、貴様の言う『本物の雑魚』に負けたようだな」
そう言う平坂の隣に、やや息を切らした青葉が並ぶ。
「潜龍さん、すみません。仕留め損ねました」
「……何?」
青葉の言葉に、平坂は彼女に視線を向けた。
「あいつ、押し勝てないと見てすぐさまあの子の元に引き返しやがりました」
「それはつまり……奴の元に全戦力が集結した状況、というわけか」
「そう、なりますね……」
少女が傍に膝をつくと、武者の霊はすぐに立ち上がり、刀を構え直した。
「キッヒヒヒヒ……形勢逆転だな」
立ち上がりながら、少女が口を開いた。それに対して、青葉が一歩前に出て睨みつける。
「……何? アンタ如きに何ができるわけ?」
「さぁ? 少なくともついさっきまで、私はその武者を圧倒してた」
「『私は』ァ? 『私の武器は』の間違いでしょ?」
「……たしかに。あ、潜龍さん、あいつは私がどうにかするので、邪魔が入らないようにだけ補助、お願いできますか?」
突然話しかけられ、平坂は僅かに動揺を見せつつも頷いた。
「さて……」
青葉と、悪霊たちを引き連れた少女が1歩、また1歩と互いの距離を詰めていく。それがおよそ2mにまで縮んだところで2人はぴたりと動きを止め、互いに睨み合った。そして。
「…………」
「…………」
「「…………ブッ殺す!」」
2人の少女は同時に吠え、己が武器を振るった。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 キャラクター紹介

・カリステジア
モチーフ:Calystegia soldanella(ハマヒルガオ)
身長:137㎝  紋様の位置:右手首の裏側  紋様の意匠:昼顔の葉
白いノースリーブのワンピースと麦わら帽子を身に付けた、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌は青白く、目の下には濃い隈ができており、ちょっと心配になるレベルで薄くて細い。開始時点では誰とも契約しておらず、毎日波止場で釣りをしたりコンクリを這うフナムシを眺めたりしていた。
固有武器はサバイバルナイフ。全長約20㎝。使わない。
得意とする魔法は結界術。直方体の結界を張り、結界の境界面に触れたものは反対側の面から出てくる。その特性のお陰で絶対不壊。ちなみにこの効果は内側と外側どちらにも付与できるし付与しないこともできる。結界そのものの強度はジュラルミンくらい。
ビーストにボコボコにされる人間文明を見続けてちょっとヘラってるところがあるので、そんな中で「日常」を諦めない人間を見ると、脳を焼かれて自分を押し売りしてくる。
ちなみにマスターが「日常」を捨てた瞬間、自分とマスターの2人がギリギリ収まる程度の極小結界に2人で閉じこもり、マスターが窒息するまで抱き着いて寄り添っていてくれる。過去の被害者は1人。契約直後、マスターになったからって変に気負った瞬間やられた。理想は契約しても「ドーリィ・マスター」という使命感を意に介さず普段通り生活できる人間。

・砂原さん(サハラ=サン)
年齢:16歳  性別:男  身長:169㎝
とある港町で1人暮らしをしている少年。ビースト出現騒ぎが増えて次々住民が余所に疎開する中、頑なに故郷に居続ける狂人。ちなみに他の家族は全員内陸部に住む親戚の家に避難しました。1人で居残った理由は単に面倒だったから。学校教育は遠隔で課題をやってるので大丈夫。
基本的に毎日無人の漁港で釣りをしながら、海に現れるビーストやそれと戦うドーリィの様子を眺めている。釣果は1日平均0.04匹。
下の名前はちゃんとあるけど、カリステジアにバレるのは何か嫌なので、頑なに言わない。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑩

結局、空間は広げてもらえないままバリア内部にて待つこと数分。ようやくいつものドーリィが来て、巨大ウミヘビを海の方まで押し返してくれた。
「ようやく安全になったか……。おいカリステジア、もうバリア解除して良いぞ」
「えー」
「何が『えー』だよ」
「せっかくだし、もう少しだけこのままじゃ駄目ですか?」
「駄目」
「むぅ…………まあ、お兄さんが言うなら……」
ようやく解放され、バリアの壁にもたれていたものだからそのまま倒れる。軽く頭を打った。
「痛って……」
「お兄さん、大丈夫ですか? 治しましょうか?」
「いや大丈、夫……あん?」
ふと、自分の右手首を見る。カリステジアのと同じ場所に、同じ紋様が刻まれていた。
「……あーお前と契約したからか…………これ、銭湯とか入れるのかな……」
「えっ可愛いドーリィと契約した証を見て最初に思うのが刺青判定されるかどうかなんですか?」
「そりゃまあ、そもそも押し売られたものだし。思い入れも何も無ェ」
「そんなぁ」
釣り道具を片付け、立ち上がる。
「あれ、今日はもう帰っちゃうんですか?」
「いや、場所変える。流石にあのウミヘビに粉砕された堤防で釣りは居心地悪いし」
「あっ釣りはやめないんですね」
「まーな。ドーリィが守ってくれるんだろ?」
「っ……! はい! 全身全霊を以て!」
この場所も気に入ってたんだが、壊された以上は仕方がない。新しいポイントの開拓といこうか。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑨

ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑧

………………そろそろウミヘビに食い殺されていてもおかしくないと思うんだが、何も起きない。
周囲の様子を確認してみる。周囲の深く抉れたコンクリート、頭上を通る巨大ウミヘビの胴体。俺の胴体に抱き着いて密着してくるカリステジア。座った姿勢のままで曲がっていた膝をとりえず伸ばしてみると、空中で何かに引っかかる。手探りしてみると、どうやら俺達はかなり狭い空間に閉じ込められているらしい。
「んぇへへ…………」
カリステジアがこちらを見上げてくる。奴が徐に持ち上げてみせた右の手首には、朝顔か昼顔の葉っぱみたいな紋様が刻まれている。
「契約完了、です」
「………………カリステジア」
「はい」
「正座」
「はい……」
俺達を閉じ込める空間が少し広がった。カリステジアは俺から少し離れた場所に正座する。
「あのさぁ……契約って双方合意の上で成立するものじゃん」
「そうですねぇ……」
「別に契約すること自体は俺だって全く嫌ってわけじゃねーよ? けどさぁ……こういうのはちゃんと順序踏もうな?」
「お兄さん……! 私のこと、受け入れてくれるんですね……!」
「はいそこ喜ばない。お前今説教されてんの。オーケイ?」
「はーい」
にっこにこしやがって……。何かもうどうでも良くなってきた。一応俺達は安全っぽいし。
「なぁ、このバリア? って割られたりしねーの?」
「あ、それは平気です。通り抜けますから」
「は?」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑦

「……ごめん俺契約の押し売りは断れって死んだ婆ちゃんに言われたから……」
「そんなぁ、どうして」
つい勢いで断ってしまった。実際、ドーリィがいれば安心ってのは事実だ。最近はビースト事件の報道も増えてきているわけで、マスター付のドーリィが身近にいれば安全性は一気に向上する。けどなぁ……。
「いやだってお前……なんか、あれじゃん……」
こいつがドーリィだってのが事実だったとして、こいつ個人と契約するのはなぁ……。
「でも私、お兄さんのこと命に代えてもお守りしますよ?」
「お前なのがなぁ……そもそも互いに名前すら知らねえじゃん。信頼も何も無ぇ」
「あ、私お兄さんの苗字知ってます。スナハラさん!」
「サハラな。砂に原でサハラ」
「砂漠?」
「違げえよ。いや字面的にはそれっぽいけど」
「そういえば砂砂漠って『砂』の字が2個連続してて面白いですよね」
「おっそうだな」
「あ、私の名前でしたよね。私、カリステジアっていいます。ハマヒルガオのCalystegia soldanella」
「長げぇな」
「短く縮めて愛称で呼んでくれても良いんですよ?」
「えっやだそんなのお前と仲良いみたいじゃん……」
「最高じゃないですかぁ」
少女カリステジアと言い合っていると、俺達の上に影が覆い被さってきた。
「ありゃ……これは、マズいですかね?」
カリステジアの言葉に見上げると、あの巨大ウミヘビが俺達を見下ろしていた。
ウミヘビが口を開けて突っ込んでくる。同時に、カリステジアが俺を押し倒した。悪いが地面にへばりついただけでどうこうなる話じゃないと思うんだが……。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑥

ここのところ、1週間くらい連続で釣り場にあの少女がいた。何度やっても逃げ切れないので、奴から逃げるのは早々に諦めた。
「えへへ、お兄さんが私を受け入れてくれて、私は嬉しいですよ」
「受け入れたんじゃねえ、諦めたんだよ」
「こんなにぴっとり寄り添っても許してくれるんだから、どちらでもさして問題ではありません」
俺の左腕にひっついたまま、奴が言う。
「うるせえ離れろ暑苦しい!」
「あれ、おかしいですねぇ。私、体温の低さには自信あったんですけど……」
「………………」
奴はきょとんとした顔で答えた。実際、こいつの肌はひんやりとしていて、正直に言うとかなり快適だが、それを言ったら負けな気がするので言わない。
海面に目を戻したちょうどその時、いつもより近くであの巨大ウミヘビが顔を出した。
「うわぁ、かなり近いですねぇ。50mくらいでしょうか」
少女はやけにのんびりとした口調で言う。
「こっちに注意を向けたら、一瞬でぱくっといかれちゃいそうな距離ですね」
「あ、ああ……これ流石に逃げた方が良いんじゃ」
「いつものドーリィちゃんがきっとすぐ来てくれますよ。ところでお兄さん?」
「何だよ」
呼びかけられて奴の方を見ると、いつの間にか顔をぐい、と寄せてきていた。
「離れろ」
「はーい」
元の姿勢に戻り、奴が口を開いた。
「やっぱり、ビーストの出る海で釣りともなると、いくら向こうが海から出ないと言っても不安ですよねぇ」
「何だ急に」
「そんな時、強くてお兄さんに忠実な護衛の子がいると安心ですよね?」
「何が言いたい」
「やっぱり、ドーリィと契約してると、こういう時も安心して日常が送れますよね?」
「ええい結論だけ言え結論を」
「むぅ、分かりました」
奴は俺の腕から自発的に離れ、その場で立ち上がって両手を大きく広げてみせた。
「ここにフリーのドーリィちゃんがいます。しかもお兄さんと相性バッチリ! 契約のチャンスですよ、お兄さん」

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Flowering Dolly:ビースト辞典①

・アーテラリィ
大きさ:体長12m(完全体)
『魂震わす作り物の音』に登場したビースト。凡そ人型の外見をしているが、腕部が異常発達しており、逆に脚部は著しく退化している。移動時は両手を用いて這うように動く。
顎を巨大化させ、材質に関係なく摂食し養分に変える咬合力と消化能力に加え、腕部の体組織をミサイルのように発射する特殊能力がある。発射されたミサイルは、対象物に対してある程度の追尾性能を有する。
また、生命力に優れ、首と心臓が無事であればしばらくの間は生存できる。顎も残っていれば摂食によって急速に回復が可能。

・ニュートロイド
大きさ:身長2.2m、尾長2.5m
『Bamboo Surprise』に登場したビースト。外見は二足歩行する大型有尾両生類のようだが、両足は2本指で、頭部はどちらかといえばワニのような大型爬虫類のものに近い。眼球は無く、代わりに皮膚全体が受けた光を視覚情報として取り入れている。知能が高く、人語を理解し、高速並列思考が可能。本気で脳を回転させていると、周囲の動きがゆっくりに見える。今回は腕を捥がれて動揺していたため、それが起きなかった。
戦闘時には手足や尾を用いた格闘を行う。
体表からは粘液を分泌しており、これにはニホンアマガエルの粘液と同等程度の毒性がある。

・キマイラ
大きさ:体長8m、肩高3.5m
『猛獣狩りに行こう』に登場したビースト。外見は体毛の黒い巨大な獅子の肩から、ヤギの頭と竜の頭が生えたもの。
獅子頭は口から炎を吐き、竜頭には鋭い角と牙があり、山羊頭は声が怖い。冗談抜きに吠え声を聞くとまともな生物なら萎縮して動けなくなるか恐怖で失神するレベルで声が恐ろしい。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その④

午後3時頃、釣果0で帰ってくると、ちょうどのタイミングで親から電話がかかってきた。テレビ通話をオンにして通話を始める。
「もしもし母さん?」
『あぁ出た出た。いつもの生存確認』
「もうそんな時期か。こっちは見ての通り無事だよ。怪我も病気もしてないし、ちゃんと飯も食ってる」
『そう、それなら良かった。でも、何かあったらすぐに他人に助けを求めなさい。こっちに来たって良いんだから。大体なんでそんな危険な場所に残ったんだか……』
「別に良いだろー。郷土愛だよ郷土愛。強いドーリィだっていんのに、むしろみんながビビり過ぎなんだって」
『はいはい。…………ところで』
向こうの視線が何だかおかしい。やけに画面端を気にしているような……。
『その子、誰?』
「あー?」
母の言葉に横を向くと、いつもの釣り場で出会ったあの少女が満面の笑みでこちらを見返していた。
「……………………」
何か言おうとした奴の口にブロック・ミール(保存食)をぶち込み、下手なことを言わないようにしてからスマートフォンに向き直る。
「最近できた友達。ちょっと用事があって来てもらってんだよ」
『へえ……?』
「っつーわけで忙しいから切るぞ。じゃ」
いやににやついている母親に手短に挨拶して通話を切り、少女の方に向き直る。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル キャラクター紹介

・ヴィスクム
モチーフ:Viscum album(ヤドリギ)
身長:139㎝  紋様の位置:左の掌  紋様の意匠:絡み合う蔦草の輪
紅白のもこもことした防寒衣装に身を包んだ、深緑色のショートヘアのドーリィ。
得意とする魔法は、対象と自身の肉体のスワップ。紋様の浮かぶ左手で触れた相手の肉体の一部を、自身の同じ部位と入れ替えるというもの。他人の身体の一部を借りた状態でその部位に触れれば発動する。
①魔法発動のトリガー(左掌の接触)②魔法発動の意思(ヴィスの脳で決定)③スワップ対象範囲の選択(ヴィスの脳で決定)の3要素が魔法行使に必要なのでたいへん厄介。
固有武器は全長1.2m程度の全く同じ形状の直剣7振り。7本全部合わせて1つの武器。
戦闘時に動かしやすいように、マスターのキリの成長に合わせて身長を変えている。なお契約してからの約6年、彼女の成長量は合計1㎜にも満たない模様。
キリに身体強化を施した自身の腕や脚をスワップすることで彼女も戦えるようにしたり、キリの負傷部位を自身の無傷のパーツと入れ替えつつ自身が受け持った負傷部位は回復魔法で治癒するなど、マスターのサポートに魔法を使う傾向にある。ちなみに最強なのは右腕だけをスワップした状態。手を叩く度にスワップの魔法で全身をスワップし、位置の入れ替えを行いながら大量の剣で斬りかかるコンビ戦術が鉄板。
Q,なんでキリちゃんの肌の傷痕は治してあげないの?
A,「傷だらけのちょっとワイルドなキリちゃん素敵♡」だそうです。ふざけてるよね。

・キリ
年齢:16歳  性別:女  身長:139㎝
ヴィスクムのマスター。ヴィスクムのことは「ヴィス」「サンタクロース」「相棒」などと呼んでいる。生育不良の肢体と全身小麦色に日焼けした傷だらけの肌が特徴的な黒髪ショートヘアの少女。
元は片親の家庭だったが、幼い頃に、あるドーリィのマスターだった父親がビーストの被害に巻き込まれてドーリィ諸共死亡し、それ以来ビーストたちへの復讐のために生きてきた。ある時遭遇したビーストから致命傷を受け、死にかけていたところをヴィスクムにマスターにされる形で命を救われた。
自分の肉体に対する執着心が乏しく、負傷にあまり気を払わない。これはヴィスクムの魔法も悪いところある。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その⑥

ヴィスクムはその場でクラウチングスタートの構えを取り、全身に身体強化の魔法を高威力で巡らせた。
(キリちゃんをあの有毒空間の中にあまり長い時間いさせるわけにはいかないからね。『一瞬』で、突き抜ける!)
超高速で射出されるように、ヴィスクムは毒霧の中に飛び込んだ。そしてキリとスワップした右手と自身の左手を打ち、勢いそのままにキリと全身をスワップする。
キリはちょうど両手の位置に生成されていた2本の剣を握り、ビーストの心臓部を狙う。
それを迎撃しようとした8本の首には、転移術によって出現したヴィスクムが対応する。半数の4本は剣の投擲によって地面に縫い留められ、残り4本は剣1本で捌かれ、そのうち1本は切断された。
「そのまま……突っ込め!」
完全に防御の空いた胴体に到達したキリは、速度の乗った1撃目で鱗の装甲を破壊し、勢いの減衰しないままの2撃目で肉を貫き、骨を打ち砕き、心臓を破壊しながらすれ違った。そのまま廃墟の壁に衝突しそうになるキリを、転移したヴィスクムが抱き留める。
「やったよキリちゃん。君が倒したんだ」
「うん……ヴィスもありがと。私だけじゃまず無理だった」
「そりゃキリちゃん、ただの発育不良の人間だし……。ほら、帰ろう? こんなに大きなビースト倒したんだから、きっと手当もたっぷり付くよ。美味しいもの食べてゆっくり休もうね」
「ん」
2人は並んで、SSABへの道を歩き出した。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その②

「全然釣れないのも、ビーストの影響ですかねぇ?」
少女の方を見ると、ニタニタと意地の悪そうな表情でこちらを見上げている。
「何だお前」
「釣り人です」
「なら釣りしてろ」
「でも魚いないし……」
「それはそうだけども……」
取り敢えずウミヘビの方には注意を向けつつも、釣りを再開した。30分ほど、隣にすり寄ろうとしてくる少女を片手で牽制しながら釣り糸を垂らしていると、沖合の巨大ウミヘビが急に仰け反った。
「お、ようやくドーリィが来たな……」
「来ましたねぇ。今回も追い払うだけになるんですかねぇ」
「あのウミヘビ、無駄にタフだからな……。頑張ってほしいけどなぁ……」
「あの子のお陰で上陸してまで大暴れしたりはしないですから、それだけでも十分助かりますよね。まあアレのせいでこの町の漁業関係者は大体職を失っちゃいましたけど。海に出たら沈められちゃう」
「こうして堤防釣りしてる分には平気だから良いんだけど……いや全然良くねーか」
「んひひ…………あっ」
少女の声に海面を見ると、彼女の竿から伸びる糸が引かれている。
「かかったけど……雑魚ですねぇ……」
そう言いながら、少女はしばらく釣竿を上下させていたが、急に糸が引かれなくなった。
「逃げられちゃいました」
「そうか」
ウミヘビの方から爆発音が響いてきた。
「やったか?」
「やってないんじゃないですかね」
そっちを見てみると、巨大ウミヘビはまだ生きているようだった。
「ほらぁ」
「マジか……」

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その⑤

「相棒ぉっ!」
体外に続く穴に向けて、キリが呼びかける。
「はいはーい……っと!」
ヴィスクムは体外からビーストに接続された左腕に転移術で接近し、その掌を『キリの左手で』叩く。
「スワップ」
魔法が発動し、『ヴィスクムの左腕』と『キリの左腕』の位置が入れ替わる。
(よし、これで私の腕は取り戻せた)
そのまま己の下に戻ってきた左腕で、ビーストの胴体に軽く触れる。『ヴィスクムの左腕』と『ビーストの左前腕』が入れ替わり、竜の腕がヴィスクムに移動する。
「っはは、でっかいだけあって腕も重いね! これで……そおりゃっ!」
そのまま、竜の腕でビーストの頭部の1つを殴り潰した。残り8つの頭部は同時に咆哮をあげ、一斉にヴィスクムに襲い掛かる。その1本は、彼女のかざした竜の腕を噛みちぎった。
「あぁららー、自爆だね?」
挑発的に笑ったのと同時に、ヴィスクムの身体はビーストの体内に転移した。キリが自身に移動していたヴィスクムの左腕で、2人の位置を入れ替えたのだ。
「そしてぇ……ぽいっと」
短距離転移術で体外に移動し、毒霧の範囲外に出現してからキリと入れ替わる。
「キリちゃん、身体は大丈夫? 毒霧はまだ収まってないけど……」
隣に転移してきたヴィスクムに、キリは親指を立ててみせた。
「息止めてたから大丈夫」
「それなら良かった。……さぁて。お腹に大穴、片腕欠損、頭も1つ取った。一気に決めちゃおうか!」
「うん。手ぇ貸してもらうぞ、相棒」
キリは立ち上がり、左隣のヴィスクムと手を叩き合わせた。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう キャラクター紹介

・ハルパ
モチーフ:Harpagophytum procumbens(ライオンゴロシ)
身長:160㎝  紋様の位置:左前腕  紋様の意匠:猛獣の横顔
民族風の露出の多い衣装を身に纏った、茶髪のドーリィ。髪の毛はボブヘアだが、一部が垂れた獣の耳のように跳ねている。歯は全体的に長く鋭く尖っている。
固有武器は黒い槍。標準の長さは2m弱だが、その質量は明らかに槍の体積と不釣り合いなほど異様に大きい。推定適正サイズは全体が鋼鉄でできていると仮定した場合、全長約85m。
得意とする魔法は、固有武器の変形。槍の全体を自由に変形させ、主に投擲によって攻撃する。敵に突き刺せば穂先が無数の棘として分裂し、投げれば分裂した棘が無数の散弾のごとく広範囲を埋め尽くすように飛んでいく。それ以外にもマジックハンド代わりに使ったりもする。
野良ネコのような生き方をしており、マスターはいるが、それがどこの誰なのかを知っている人間はかなり少ない。
人語を解するらしいのだが、彼女が言葉を発しているところをみたことがある者はあまりいない。

・リク
年齢:37歳  性別:男  身長:180㎝
ハルパの“マスター”。ハルパを置いて離れた土地でビーストから人々を守るために活動している。ちなみに契約は10年ほど前。離別は契約の約3年後。せっかく契約してくれた唯一無二の相棒を捨てて(語弊)遠い土地に逃げた(語弊)人間のクズ(語弊)。いや実際はかなりの聖人なんですよ? ほんとほんと。
Q,何故ハルパを置いていった。
A,契約さえしておけばハルパは強いので1人でもやっていけるから。町には彼女の強さが必要だった。
ハルパの長く鋭い牙で頸動脈スレスレを噛まれても「寂しかったんだねよしよし」で済ませる胆力の持ち主。あの時はハルパに血管の表面を牙の側面でぷにぷにされていました。少しでも回避しようとしていた場合、出血多量で死んでいた。
ハルパの「ハルパ」呼びを始めたのは彼だし、ハルパが今住んでいる町で馴染めているのも3割くらい彼のおかげだったりする。残り1割はSSABの尽力、あとの6割はハルパちゃん自身の愛嬌と人望と人徳。

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皇帝の目_6

チトニアは焦った。突然梓が目の前からいなくなったために軽くパニックになっているのである。ビーストは床を這い回り、チトニアの周りをぐるぐると回っている。
「わ、私…ご主人様守れなかった…」
と、チトニアがめそめそしだしたとき
「ち!と!に!あ!」
「!?」
声が聞こえた。
「下!ちょ、早く拾って!!」
「下…」
チトニアが下を見ると小さな梓が走っていた。…ビーストに追われて。
「きゃあああ!!梓!ちっちゃい!!」
慌てて拾うとビーストも追随して飛び上がる。
「チトニア、こいつと目合わせちゃだめだぞ」
ビーストは小型で素早く、面倒とは思っていたがここまでとは思っていなかった。チトニアは両手が塞がっているので、目が合う前にと慌てて噛みついてみたが、当然の如く逃げられた。
「あ、梓…ごめんねぇ、私がいたのに」
「どんまいどんまい、気にすんな。それより、私、思ったことがあるんだけど」
「なに?」
「あいつ、目の周りに腕生えてんじゃん?あの生え方、絶対視界の邪魔だと思うわけ。でもわざわざああいう生やし方してるってことは、目、守んなきゃいけないとこなんじゃないかなって」
「弱点…てこと?」
「そう。攻撃手段かつ弱点なんだと思う」
「だったら…」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise キャラクター紹介①

・ササ
モチーフ:Sasa veitchii(クマザサ)
身長:130㎝  紋様の位置:左の鎖骨近く  紋様の意匠:クマの掌
ロリータ風の衣装に身を包んだ、黒髪ショートヘアのドーリィ。肌はかなり白い。
固有武器はピンク色のテディベア「クマ座さん」。常日頃から抱えており、他人とのコミュニケーションには、腹話術人形のように使う。戦闘時には牙や腕・爪など一部が瞬間的に巨大化し、敵をボコボコにしてくれる。極度の人見知りで、マスターのサヤ以外とは腹話術でしか話せない。フィロさんとは共闘したからセーフ。
得意とする魔法は、対象の外見変化。見た目だけを変えるある種の幻覚魔法であり、対象と異なる大きさの外見を貼り付けても当たり判定は対象の元々のものを参照する。ちなみにこの幻覚はあらゆる感覚器や観測設備・手段によってその外見と認識されるため、看破は不可能。赤外線とかX線とか透視とか正体看破の魔法でも貼り付けた外見の方でしか認識できない。質量で違和感に気付くくらいしか方法が無い。

・サヤ
年齢:11歳  性別:女  身長:130㎝
ササのマスター。幼い頃(大体5歳になる少し前くらい)に自分以外の家族全員をビーストに殺されており、それ以来かつての生家があった廃墟群を拠点にストリート・チャイルドのような生活をしている。対策課に行けば助けてもらえるはずなのだが、そんなこと幼子が知っているわけは無いので。
ササとは完全な鏡映しレベルで瓜二つで、全く同じ外見の衣装を作ってもらい身に付けている。さながら双子。テディベアももらった。戦闘時は自身も前線に出て、ササと同じ外見を利用して敵を翻弄する。幼少期に十分な愛情を受ける前に両親が亡くなったために自分の身体に大して執着が無いので、怪物が目の前に居ても怖くない。だから囮役も平気でこなせる。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その①

早朝から釣りをしていたが、4時間経って周囲が明るくなっても、雑魚の1匹も釣れなかった。
まあ、釣りは成果ばかりが全てじゃ無し。この辺りは頻繁にビーストが現れるということで誰も寄り付かないから、1人でのんびり過ごすことができる。まあ実際には海上に現れるだけで上陸してこないからあまり問題無いんだが。
「………………」
不意に、背後から軽い足音が聞こえてきた。足音の主は自分から少し離れたところで立ち止ったようだ。そちらに目を向けると、病的な白い肌をして目の下に濃いクマを作った、貧相な体つきの少女がこちらをじっと見つめていた。バケツと釣り竿を携えているところを見るに、彼女も釣りにやって来たようだ。
「……お隣、よろしいです?」
「…………いやまあ良いッスけど……」
しぶしぶ了承すると、2mほど離れたところに腰を下ろして釣り糸を垂らし始めた。
「…………」
「…………」
たいへん気まずい。取り敢えず、2mほど追加で距離を取る。
「?」
横から何かが動く気配を感じ、彼女の方を見ると、こちらに少し近付いて来ていた。再び離れる。彼女の方を見ていると、こちらを見もせずに再び距離を詰めてきた。
「………………」
「………………」
離れる。近付かれる。それを何度か繰り返しているうちに、いつの間にか彼我の距離は1m程度にまで縮んでいた。
「何なんだお前ぇっ!」
「……うひひ」
「笑って誤魔化すな!」
その時、沖の方で何かが海面から勢い良く飛び出した。そちらに目をやると、巨大なウミヘビのようなビーストが暴れている。
「……またビースト。最近特に多いですねぇ」
目を離した隙に至近距離まで接近していたあの少女が話しかけてくる。
「お陰で、最近じゃ余所に引っ越す人たちも増えちゃって……」
「まあ仕方ないんじゃないか? あと近付くな」

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 キャラクター紹介

・アリー
モチーフ:Allium fistulosum(ナガネギ)
身長:149㎝  紋様の位置:右の手の甲  紋様の意匠:ネギ坊主
ブロンドヘアをツインテールにまとめた、やや幼い外見のドーリィ。本作開始時点では誰とも契約していなかった。
固有武器はフィスタロッサム(先端が二股に分かれた片手杖。中が空洞になっており、振ることで音を鳴らすことができる管楽器としても使える)。フィスタロッサムの演奏によって万物の「魂」を震わせ、曲目に応じた変化を発生させる。音色の届く範囲であればすべて射程圏内でありすべて対象内。回避方法は音楽に『ノる』こと。好みに合わなかった場合は防御不可の攻撃を食らうことになる。対象に音楽を解する知能が無かった場合(たとえば無生物には魂はあっても知能がないので確定で命中)は必中です。
ちなみに自称が「アリウム」じゃないのは名前感が薄くて可愛くないから。縮めたことでより人名っぽく、可愛らしくなったので気に入っている。


・ケーパ
年齢:18歳  性別:男  身長:170㎝
アリーの飼い主というか何というかなあれ。本作開始時点では約8か月も半同棲状態にあったにも拘わらず別にアリーと契約していたりしているわけでは無かった。好きなものは料理と音楽。DEXが低いのでクオリティは何とも言えない(悪いわけでは無い)。アリーの音楽性と奇跡的なレベルで高い親和性を持っており、如何なる状況でどのジャンルが奏でられようと問題無くノれる。ただの節操無しともいう。
ちなみに住所は辛うじて街の外。今は亡き両親が建てた家だけど今回ビーストに壊されてしまった。父親はビーストと無関係の事故死、母親は病死というちょっとコメントしにくい過去を抱えてはいるけれど、今日も元気に生きています。
Q,なんで頑なに「フィスタ」呼びしてたの?
A,『ソード・ワールド2.0』ってゲームがあってぇ…
 〈フィスタロッサム〉っていう武器としても使える楽器があってぇ…
 見た目が完全にネギでぇ…
 魔動機文明時代(SFな時代)のとある女性吟遊詩人が使った楽器の模造品でぇ…
 要するにTRPG楽しいよって話です。
 けーちゃん視点でいうと多分最初に「Allium fistulosum」って名乗られたんだと思う。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その③

ビーストに向けて突撃しながら、キリは自身の左腕をちらと見る。己の小麦色に焼けた傷だらけの肌とは明らかに異なる白く滑らかな皮膚と、掌に色濃く刻まれた、蔦草の絡み合った輪のような紋様。
「…………」
ビーストに視線を戻す。首の内の1本が、彼女の頭部目掛けて大口を開けて迫っていた。
「……ヴィス!」
そう言い、右手の剣を捨てて手を叩く。直後、鼻から上をビーストの顎が噛みちぎっていった。
「……………………ざぁんねぇんでぇしたぁ」
下半分だけ残った頭部をじわじわと再生させながら、口から挑発的な言葉を漏らす。完全に再生したその顔は、ヴィスクムのものだった。
「もうスワップ済み」
にぃ、と笑い、ヴィスクムは短距離転移によってビーストの上空に移動する。手を叩き、地上のキリと入れ替わって地面に突き立てていたままの剣のうち2本を、上空に移動したキリに向けて投擲した。それらをキャッチしたキリが首の1本を、ヴィスクムが別の剣2本を手に心臓を狙い斬りかかる。
2人の攻撃が届く直前、ビーストの頸の1つが口から黒紫色の霧を吐き出した。
(っ!)
それを見たヴィスクムは転移魔法によって距離を取り、スワップでキリと入れ替わる。
「ふぅ……毒吐くなんてズルいじゃん。キリちゃんはただの人間なんだから死んじゃうよ」
先程生成していた固有武器を1度消し、再び手元に生成する。
「それじゃ、ここからは私だけでお相手するね」
ビーストの頭部の1つが口を開けてヴィスクムを飲み込もうと迫る。ヴィスクムはそこに剣の1本を投げ、軟口蓋に深く突き立てた。その首は滅茶苦茶に振り回され、喉からは苦痛の咆哮があがる。続いて2本の頸が叩きつけられたが、それは跳躍によって回避し、ヴィスクムは頭部の一つに着地した。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑪

「ただいまァー、おタケちゃーん」
SSABに帰還したフィロは、真っ先に机上の籠の中で眠る赤子に駆け寄った。赤子タケはそれに気付き、彼女に両手を伸ばす。
「無事に帰って来たよぉおタケ、お前がいてくれたお陰さ。お前は生きているだけで偉いし可愛いねぇ。人間の子どもってのは本当に素敵な生き物だ……」
タケを抱き上げるフィロの背後で、ササとサヤは興味津々の様子で2人の様子を眺めていた。
「ああそうだ、サヤちゃんとササちゃんにも紹介してやろうね。この赤子が私の“マスター”可愛い可愛いおタケちゃんさ」
「ふおぉ……」
「あかちゃん……」
「赤ん坊ってマスターになれるんだ?」
「なってるってことはなれるんだねぇ」
2人が赤子をつついていると、SSABの入口扉が開き、事務員が入ってきた。
「ぴひゃあ⁉」
裏返った悲鳴をあげ、ササはサヤの背中に隠れる。
「あ、フィロスタチスさん。お疲れ様です……その双子は?」
「ん。今日拾ったドーリィとそのマスターだよ。どうも孤児の宿無しらしくってさ、私のところで引き取るが構わないね?」
「え、ええまあ、はい……それじゃあ色々と手続きするから君達もちょっと協力してくれるかな?」
事務員に手招きされ、サヤは臆さず、ササはその背中に貼り付いてびくびくとしながら、それに応じた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑮

結局、SSABに相談したらケーパは仮住居を支給してもらえたので、あいつと二人してその住居に入り、私はベッドで休憩、あいつは台所の確認を始めた。
「けーちゃんどーぉー?」
「んー、結構良い感じだな。地味にコンロが3口だ。すげぇ」
「へー……3口だとどうすごいのさ」
「数は力だぞ。無限に料理作れる」
「なにそれ最高じゃん!」
「……しっかしさぁ」
あいつが私の方に振り向いた。
「お前、めっちゃ怒られてたな」
「あー……うん……」
SSABの破片回収のために近隣住民はしばらく町の外に出ていたから、私の魔法で人間が捻じ曲がることは無かったけど、流石に町一つねじねじ前衛アートの瓦礫山に変えてしまったのはやり過ぎだって偉い人に怒られたんだよね。地面もボコボコぐちゃぐちゃのクレーターまみれにしちゃったから……。やってることだけで言えば私も十分人類の敵といえるかもしれない。
「まぁ、代わりにSSAB就職すれば許してくれるってんだからねぇ……破格破格」
「ついでに給金も出るんだから助かるよなぁ……」
「ねー。けーちゃん何もしないのに」
「お? 俺が契約したからそのパワーに目覚めた奴が何か言ってんな?」
「うひひ、大丈夫大丈夫。感謝はしっかりしてるから……」
「それは知ってる」
言いながら、ケーパが台所から出てきた。
「どしたのけーちゃん」
「あん? 設備の確認は終わったからな。買い物行くんだよ。1曲分の対価をまだ出せてないからなー」
「ぃよっしゃぁ、引っ越し祝いも兼ねて派手にやろうよ。私もサービスで何曲かつけてあげる」
「やったぜ」
ぐいっ、と身体を起こし、早足で出て行こうとするあいつの隣に並び立つ。
互いの手の甲を打ち合わせ、2人して晩ご飯の買い出しに出かけた。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑩

歪みの中から現れたのは、ピンク色のテディベアの頭部。数十倍の大きさに膨張し、鋭い牙の並んだ口が大きく開かれている。
ソレがこの奇襲的攻撃に対応できたのは、殆ど奇跡といって良かった。
テディベアの顎が高速で噛み合わされる直前、そのビーストは反射的に身体を丸め、尾で地面を打つことで僅かに加速する。結果として尾の先端を僅かに噛み切られたものの、その全身は口腔内にすっぽりと収まった。
「よし、成功!」
テディベア越しに、くぐもって少女の声が聞こえてくる。ビーストの『捕食』に成功したと確信しているらしい。口内で姿勢を整え、テディベアの舌を足場に強く踏み切り、口蓋を蹴り破る。
「⁉」
生物的な体組織が突き破られる感覚とは異なる、綿と布地を突き破る感触と共に、ビーストの身体はテディベアの外に解放される。その瞬間、ビーストの頭部をフィロの短槍が貫いた。
「完璧な誘導だったよ、サヤちゃん。ササちゃんもよくヤツをこっちに引きずり込んでくれた」
「うん。クマ座さんはやられちゃったけど……」
ササは頭部の弾け飛んだテディベアの手足を、小さな手でぴこぴこと弄り回す。
「……よし、ギリギリ使える」
「オーケイ。そォら!」
フィロが槍を引き抜き、支えを失って倒れ始めたビーストの身体に、“クマ座さん”の両手の爪が迫り、無抵抗の肉体を細切れに引き裂いた。
「しょーりっ」
「よくやった」
空間歪曲を通って、サヤも2人のドーリィに合流する。
「サヤ! 勝ったよ」
「ほんとぉ? やったぁ」
「ん、これで全員集合かい。じゃ、治すからね」
フィロはそう言い、魔法の仕込みで細切れにしていた左腕を瞬時に再生させた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑭

「さて……それじゃ、もう終わらせよっか」
“フィスタロッサム”を軽く持ち上げ、音楽を1回止める。
「2曲目行くよー! 〈S21g〉!」
続いてこの管楽器から放たれますは、荒々しいドラムセットのリズム。
「それ、打楽器も行けんのかよ。万能じゃん」
「そうだねぇ」
そこから始まるハード・ロックが、捻じれた家屋群に到達するのと同時に、それらに深い亀裂が走り破裂するように崩壊していく。
「そして当然お前も……『破砕』する!」
ヤツの全身に罅が入り、主旋律が一層激しくなったのに合わせて吹き飛んだ。その破片もまた、1拍ごとに細かく砕け続け、最後には塵とすら呼べないほどの微粒子にまで細分しきってしまった。
「討伐完了っ!」
「……いやすげえな。マジであっという間じゃん」
「へへん、凄かろう。褒めてくれても良いんだよぉ?」
わざとらしく胸を張ると、彼は私の頭をぐしぐしと撫でてくれた。
「手つきが乱暴ぉー。DEXクソ雑魚めー」
「悪かったな……ところでお前の魔法」
「ん?」
頭を撫でていたあいつの手が、髪の表面を滑って持ち上げ、私の眼前に持ってくる。彼の手の中にあったのは、ツインテールにまとめられた、私の「鮮やかな緑色のロングヘア」。
「……何これ? アリーちゃんブロンドなんだけど? 長さもこの3分の1が標準だし」
「魔法で変わったんじゃねーの? ついでに服も」
その言葉に視線を下に移すと、着ているものが普段の簡単な衣装とは全く違う、ごてごてしたパンクなファッションに変わっていた。
「え、何これ⁉ やだ見ないで恥ずい!」
「いや恥ずかしいこと無くねーか? 似合ってるし」
「いやだってぇ……いつもと違う格好ってちょっと恥ずかしいじゃん……取り敢えず元の格好にもーどれっ」
魔法で髪と服を普段通りに戻し、あいつに背中を向ける。
「ほら、行こ? 帰ってご飯にしようよ」
「帰る家も台所も食材も残らず食われたけどな。さーて、これからどう生活すっかなー……SSABに相談したら何とかなっかなー」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑨

長身のドーリィの空間歪曲を攻略する手段は無いため、ビーストは彼女から逃げるように方向転換しようとして、立ち止まった。
何故、彼女が現れたのか。先ほどまで目の前にいたはず、というのは考慮に入らない。ドーリィには短距離転移能力があるためだ。彼女からソレが逃げることは、彼女自身がよく知っているはずなのだから、とどめを刺すためというわけでは無いだろう。むしろ、逃げさせて望みの場所に追い込むためか。となれば、逃走はむしろ愚策。
そこまで思考を進めたところで、1つの可能性が浮上した。
彼女が現れた理由が、『誘導』だった場合、彼女が『長身のドーリィ』自身である必要は無い。ソレに逃走の判断を下させるためには、『外見』だけあれば良いのだから。
つまり、あの『長身のドーリィ』は、『少女のドーリィ』またはそのマスター、あるいはまだ見ぬ長身のドーリィのマスターである可能性もあるのだ。仮にそうだった場合、彼女に攻撃すれば、ダメージを与えられる。
加速した思考が一瞬の葛藤の末に選んだ答えは、『攻撃』だった。その正体が少女のドーリィだった場合に備え、ジグザグとした軌道で接近して照準が定まらないようにし、少女の肉体構造を想起して、首の高さを狙い蹴りを放つ。
「……うん、正しい」
少女の声。長身のドーリィの幻影が掻き消え、少女の姿が現れる。ビーストの蹴りは、その首の高さを正確に捉えていた。
「んべっ」
少女が気の抜けた声を漏らしながら舌を出した。その口内に、人の指の欠片が覗く。
それが『長身のドーリィ』のものであるとビーストが気付くのとほぼ同時に、そこを起点に空間の歪曲が発生した。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑬

片手杖“フィスタロッサム”を指揮棒よろしく掲げ、勢い良く振り下ろす。
空気の通り抜けた管楽器の音ではなく、強いエフェクトのかかったエレキギターのような音色が先端から飛び出てきた。
「ヒュウッ、その……何、楽器か? どういう造りなんだ? イカす音出すじゃん」
「でしょー」
いつの間にか隣にやって来ていた、私の最高の観客兼相棒兼マスター様にウインクで返す。
「それじゃあ最初のコード、お聞きください!」
もう一度振り上げ、迫りくるヤツをビシっと指す。
「〈D21g〉」
音楽の開始と同時に、周囲の地面や住居、そしてあのビーストも、まるで粘土細工のようにぐにゃりと捻じ曲がり伸び上がった。
当然、私達の足下の地面もぐにゃっと変形して大穴になってしまったので、さっきまでとは逆に私がケーパを抱えて安全に着地する。
「な、何だこれ」
「ふふふ、けーちゃんめっちゃ面食らってる。魔法は初めて?」
「そりゃまあ、お前これまで契約してなかったわけだからな」
「けーちゃんには感謝してるよ……ん」
ぐにゃぐにゃのバキバキになった身体で、ビーストが突っ込んできた。けど、まだ続いているサイバーパンク・ミュージックを受けて、ヤツは再び捻じ曲がり倒れる。
「この音は、届く限りあらゆる物質の魂に触れ、歪め捻じ曲げる。お前じゃ私には勝てないよ」
「え待って。なんで俺は無事なんだ?」
「ん? だってけーちゃん、私の音楽好きでしょ?」
「そりゃまあ」
「私の音楽にノれるなら、それはただ魂を高揚させるだけだからね」
「な、なるほど……?」

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑦

「……マスター」
「ん? どうしたハルパ」
「ちょっと、移動するね」
「ああ、うん」
ハルパは男を担いだまま短距離転移でビーストの背中の上に腰を下ろした姿勢で移動した。唯一無傷だった竜頭が2人の方を向いて牙を剥くが、ハルパは片足で鼻面を押さえる。
「このまま死ぬまで待ってよ」
「ああうん……せっかくだから下ろしてほしいな」
「ん」
男はハルパの隣に腰を下ろし、転落防止にハルパを抱き寄せた。
「ちょっと掴まらせてね……っと」
「んー……」
男を押しのけるようにハルパが頭を押し付ける。
「待って押さないで」
「にゃーお」
「『にゃーお』じゃなく……」
2人が背中で騒いでいるにも拘らず、ビーストが動く気配はない。竜頭を除くすべての部位が、隙間ない〈ガエ=ブルガ〉の侵食を受けて完全に固定されていたためである。
「……そろそろ…………かなぁ……」
ふと、ハルパが呟いた。
「ん、そうかい」
ハルパが男を抱え、瞬間移動でビーストから離れた直後、その全身から黒い棘が突き出し、唯一無事だった竜頭ごと肉体をズタズタに引き裂き殺した。
「かった」
「よくやった」
ハルパから解放された男は、彼女とハイタッチを交わした。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑫

私と彼の右手の甲が一瞬光り、太陽に似た放射状のとげとげした紋様が焼き付いた。
「契約完了っと」
「これで、あいつ倒せるんだよな?」
「もっちろん」
ビーストが私たちに追いつき、前足を叩きつける。その直前、彼を瞬間移動で逃がし、私の方は再生した右手で受け止める。
「っひひ。何これすごい、手応えが全然違う。身体強化も、肉体の治癒も、契約が無かった頃とは比べ物にならないレベルじゃん」
私のボロボロの身体は、ケーパとの契約を済ませた瞬間、ほぼ完全な状態にまで急速に回復していた。おまけに、これだけの威力を受け止めたにもかかわらず、骨や筋繊維の1本すら、軋みもしない。
「そいやっ」
軽く押し返し、ついでにヤツを蹴り飛ばす。
「それじゃ、本気出させてもらいますか! ……そうだ、けーちゃん?」
大丈夫とは思うけど、念のため。
「ん? 何だよアリー」
「んー……フィスタでも良いよ。けーちゃん限定で許可したげる。マスター様だしね」
「ああ、で何だよ」
「あぁそうそう。1個だけお願いがあるの。私の音楽、変わらず愛していてね?」
「言うまでも無え」
こういうところは即答してくれるところ、私は好きだよ相棒。
「……というわけでっ!」
右手の中に、私だけの『武器』を生成する。長さ60㎝程度の片手杖。軽く振るうとひゅうっ、と空気の通る音がする。中が空洞になってるんだ。全体は白く、Y字の二股に分かれた先端はグラデーションで緑色に変わっていっている。良いデザインだ。
「 “Allium Fistulosum”! ただ今よりお前をぶっ殺しまぁーっす!」

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑧

少女への攻撃は頭部に命中し、そしてそのまま『すり抜けた』。
その感覚を、ソレは知っている。たった1度経験した、長身のドーリィの『肉体を門とした空間歪曲』の魔法。何故この少女がその魔法を使えるのか。少なくとも長身のドーリィがあれだけ自慢げに話していたということは、誰しもが易々と使えるような代物では無いということ。
思考で脳が圧迫されたその刹那、壁の穴の脇、陰になった場所から、長身のドーリィの武器であるはずの短槍が突き出された。一瞬の出遅れのために回避行動を取れず、槍の穂先はビーストの脇腹に突き刺さる。
「成功。私の魔法でヒロさんに私の見た目を貼り付けて囮にした」
槍を持っていた少女のドーリィが、呟くように口にした。その言葉を聞き、そのビーストは思考を加速させる。
今の言葉からして、少女のドーリィの魔法はおそらく『外見を変える幻影』。それに加えて、長身のドーリィの空間歪曲による転移術。長身のドーリィの左腕は、細分化されて転移のために随所に仕込まれているだろう。それによって、ドーリィと違って超自然的現象を起こせないマスターにも、限定的な転移術が使えるようになっている。敵は長身のドーリィの転移術を利用し、数的有利を更に多角化させ、自分を追い込んでいる。敵の頭数は、少女のドーリィ・それと同じ外見――あるいは幻影によって姿を変えたマスター・長身のドーリィの最低3名。長身のドーリィも固有武器を扱っていることから、マスターが存在することは確実。未だに1名以上の戦力を隠している可能性すらある。
とすれば、敵の数を減らすことは至急の課題。長身のドーリィを倒す手段が自身に存在しない以上、殺すべきは少女のドーリィだ。
飛び退くようにして突き刺さった槍から脱出し、屋外へと逃走する。
その時、通りの奥から長身のドーリィが駆けてきているのが視界に入った。

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Flowering Dolly:Bamboo Surprise その⑦

ビーストはできるだけ大きな通りを選んで駆け、やがて荒廃した広場に辿り着いた。
そして周囲に気を払う。探すのは、少女の“ドーリィ”だけではなく、長身の“ドーリィ”の肉体の破片。物陰に僅かな骨片や肉片の1つも転がっていないか。『不意打ち』の条件がこの場には無いか。全身の神経を張り詰め、情報を取り入れ続ける。
その時、右後方から物音が聞こえた。何かの動く気配に、攻撃は堪えて物音を立てた存在の正体を確認する。瓦礫の陰に隠れて全体像は見えないが、少女のドーリィの頭を飾っていたリボンと同じものがはみ出ている。
この時点で、ビーストの思考において、対象の正体は2択にまで絞られる。『少女のドーリィ』または『少女のドーリィと同じ外見の少女』。『長身のドーリィ』と異なり、完全回避の手段がない彼女らであれば、ソレにも勝機がある。
そう判断し、ビーストはそちらに向けて跳躍した。空中で回転し、ソレの背丈より長い尾を真上から叩きつける。手応えは無い。“ドーリィ”には短距離を瞬間移動する力があるため、長身のドーリィの魔法が無くとも警戒は怠れない。
「……おーい」
背後から、少女のドーリィの声がする。そちらに注意を向けると、廃墟の窓から彼女が顔を出していた。存在を主張するように手の中のピンク色のテディベアを高々と掲げて振っている。
その様子を確認した瞬間、そのビーストは確信を持って少女に突進した。
少女の主なダメージソースである、テディベアの爪や牙による攻撃は、照準を定めるために手元に抱えた上で微調整を行う必要がある。それにも拘わらず、頭上に持ち上げているということは、翻弄のためのブラフということ。つまり、彼女はドーリィではなく、ただの人間でしか無い“マスター”である。
マスターを失えば、ドーリィの戦闘能力は著しく低下する。その程度のことは、ソレの脳にも標準的知識として備わっている。そして、ただの人間には、ソレが出力する最高速度に対応できる感覚能力は無い。
その自信と共に、ソレは廃墟の壁を蹴り破り、勢いのままに飛び蹴りを少女に命中させた。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑪

「何立ち止まってるの。ビースト来てるよ」
私が言うと、すぐに彼はまた逃げ始めた。
「え、あ、お、おう。おいフィス……アリー、お前今何て言った?」
「『何立ち止ってるの。ビースト来てるよ』」
「その前だ馬鹿」
「むぅ。そんなに言ってほしいの?」
「いや、そうじゃなく……いやまあそうなのか……?」
ちょっと揶揄い過ぎたかな。少し混乱してるみたい。楽しいけど流石に申し訳無いか。
「あはは、ごめんごめん冗談だって。私のマスターになれる人間ってどんなのかなって考えてさぁ、私、1つの結論に到達したわけよ。大体2か月くらい前に」
「俺らが出会って半年くらいの時期かぁ」
「あー……そうだねぇ……あの時作ってもらったチーズケーキ、美味しかったなぁ。また作ってよ」
「嫌だよ製菓ってクソ面倒くせえんだぞ? 二度とやりたくねえ」
「ちぇっ。それで閑話休題。私のマスターになってくれるのは、私の音楽を好きでいてくれる人だって」
「そんなのいくらでもいるだろ。お前、演奏も歌も上手いじゃん」
ケーパめ、微妙に分かってないな。説明面倒なんだけど……。
「私が何を奏でても、いついかなる時でも、私の音楽に心の底からノってくれる。そんな人でしか私の相棒は務まらないの」
「つまり……節操無しをご所望か」
「言い方ぁ」
再び瞬間移動で彼の腕から抜け出す。
「だからさ。右手出して?」
ほぼ治癒した右手の甲を、彼に向けて差し出す。
「……クソ、分かったよ」
彼が右手を握り拳にして、手の甲を軽く私の手に打ち合わせた。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑥

ハルパ達を追跡しようとしたビーストが、勢い良くその場に倒れ込む。
「よし、着実に『根』が伸びてる」
「うぃ」
ビーストが数秒の苦心の末に右前脚を持ち上げると、その足裏から黒色の枝分かれした長い棘が突き出している。
「……ある伝説に登場する英雄の扱ったとされる、『必殺』と謳われた槍の名だ」
ハルパに担がれたまま、男は誰にともなく呟く。
「その由来は何てことはない。貫いた瞬間、穂先は無数に枝分かれした棘に変形し、敵を体内から破壊する。どんな生き物も、内臓は柔らかいからねぇ」
「はぇー…………」
「あれ、ハルパ知らないでこの技名使ってくれてたのかい」
「マスターが、くれた名前だから……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか」
「んひひぃ」
距離を取ろうと走り続けるハルパの背後で、湿った破壊音が響く。2人が振り向くと、棘の増殖によってビーストの前脚が千切れて落下する瞬間だった。棘は更に長く、数を増やしながら伸長を続け、そのうちの1本はビーストの肉体を突き破って山羊頭の脳幹を正確に撃ち抜く。
「おやラッキー」
「んー」
ビーストの獣頭が炎を吐き出そうと口を開くが、伸びてきた棘に縫い合わされ、口腔内で暴発する。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その②

煙幕の薄れつつある中、少女キリは片手剣を右手に握り直し、再びビーストに突撃する。閃光手榴弾を投擲しながらビーストと衝突する直前で直角に曲がり、そのまま背後に回り込む。閃光弾の光と音に一瞬気を取られたビーストの隙を突いて振り下ろされた斬撃は、鱗に深い亀裂を走らせた。
「チィッ! まだ軽い、ヴィス!」
「了解!」
“ヴィス”と呼ばれたドーリィは頷いて指を鳴らした。瞬間、キリの手の中に“ドーリィ”ヴィスクムの固有武器、7本の片手剣のうちの1本が現れる。
左手の剣による刺突は、鱗の亀裂を正確に捉え、砕き、その奥の肉に深々と突き刺さった。
想定外の痛覚反応に、ビーストは9つの頭部で咆哮をあげながら、全ての頸で牙を剥き、一斉に頭突きを放つ。
「スワップ!」
ヴィスクムが叫ぶように言い、手を叩く。
瞬間、2人の位置が入れ替わり、ヴィスクムは両手に握っていた剣で敵の攻撃を受け流しきった。
「ぎりぎりセぇーフ……」
短距離転移によって“マスター”キリの隣に移動し、そちらに向き直ったビーストと睨み合う。
「身体の調子は大丈夫、キリちゃん?」
「いや全く。多分内臓駄目になってる。骨と筋肉も」
「全部駄目じゃん」
「ただの人間なんで」
「んー……とりあえず、順番にスワップしていこう。お腹の中から順番に。脚は動く?」
「……動く」
「それじゃ……ゴー!」
ヴィスクムが手を叩くのと同時に、キリはビーストに向けて駆け出した。

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皇帝の目_4

「チトニア、頼らせてもらう」
「うん!指示ぷりーず!」
いつの間にかチトニアは梓の腕にべったりくっついていて、はしゃぎながら斧を渡した。
「じゃあ早速だけど。ゴルフの要領であの看護師を飛ばしてほしい」
短い指示だが、チトニアはその意味を正確に理解した。梓は常に片手を塞がないと目が見えない。更に、貧弱な梓は片手で斧を振るうことはできないため任されたのだ、と。チトニアは斧を振りかぶり、平らな面を看護師の腰に当てた。
「きゃっ!」
うまい角度で飛ばされ、看護師は病室の外へ。すかさずチトニアはベッドをひっくり返して病室の入口を塞いだ。幸いこの病室には梓しかいなかったのでベッドは有り余っていた。
「…強いな」
「パワー型だからね!」
梓が戦うのを宣言してからこの会話まで、およそ30秒。ビーストは蛇口から出切った。それは細長いおびただしい量の人間の腕の塊に、頭や胴体と呼べるものはなく、魚の尾びれのようなものが大きく一つついている姿をしていた。
「ビーストってなんか能力使う?」
「使う子もいるよ?ビーストって皆大型だけどこいつ小型だから、こいつには『大きさを変える』みたいな能力があるかも」
「なるほど…」
ビーストは、悲鳴ともつかない雄叫びをあげた。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その⑤

「ありがとうね……。さて、積もる話は色々あるけれど……まずはごめんね。長いこと君を1人にしてしまって。寂しくなかったかい?」
男の言葉に、ハルパは首を傾げた。全く理解できなかったためだ。彼女の左前腕に色濃く刻まれた紋様は、マスターたるその男との明確にして絶対的な繋がりの証であり、ハルパが寂しさを覚えたことなど1度として、また一瞬たりとも無かった。
男の奇妙な謝罪に、純粋な疑問と共にうずうずと湧き上がる言語化できない感情を抱いたハルパは、彼の首筋に噛みつき、鋭い牙を出血するほど深く突き立てた。
「いたたた……何だ、やっぱり寂しかったのかい。ごめんね。この街を離れられない事情があってさ……でも安心しておくれ、もうすぐ帰れると思うから。あと少しだけ辛抱してくれるかい?」
男の言葉にようやく口を放したハルパは、男が右手に握っていた突撃銃に目をやった。
「ん、これかい? ビーストは文明の利器に強い敵意を示すみたいでね……銃や爆弾で攻撃すると、ダメージは与えられないまでも意識は向けられるんだよ」
黒槍のドームが大きく震えた。外からビーストに攻撃されているのだ。
「む、来たね。それじゃあハルパ、久々に君の戦い、見せてもらおうかな」
男の言葉に顔を輝かせ、ハルパは何度も頷いて跳ぶように立ち上がった。ドームを解除すると、ビーストが3つの頭部で覗き込んでいる。
「……〈ガエ=ブルガ〉」
ハルパの口から、掠れた声が漏れる。黒槍を長さ1m強のジャベリンに再形成し、石突を蹴り飛ばした。
彼女の『射出』した槍は、至近距離にいたビーストの右前脚に突き刺さる。
「よし、勝った。逃げよう、ハルパ」
「ぇあ」
ハルパは男を肩に担ぎ、身体強化を利用した高い脚力でその場を離脱した。

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その⑨

「おいビースト来てんぞ。どうする?」
「どうするって言われても、私がこの状態じゃ応戦は無理だし……」
「じゃあ駄目じゃねーか」
「私のプランじゃあんたが増援呼んでくれるはずだったのー」
「それはごめん……」
「あ、そういえば、けーちゃんの家、かなり喰われたよ。守れなくてごめん」
「初撃で既にぶっ壊されてたから問題ない」
「さて……どうしよっかなー」
さっき吹き飛んだ右手を見る。まだ4分の1も再生していない。
「けーちゃん、私重い? 物理的に」
「いや、半分くらいになってるから結構軽い」
「それは良かった。じゃ、私のこと抱えてしばらく逃げ回ってくれる?」
「了解」
彼は私のことを小脇に抱えて駆け出した。直後、さっきまで私たちがいた場所にビーストの踏み付けが突き刺さる。
そんなことより、今は回復に努めよう。あんまり重くなってもケーパの逃げる邪魔になるから、足や頭、お腹の傷は放置して、右手の治癒だけに集中する。今欲しいのはここだけだから。
「……あ、やべっ」
突然ケーパが私を放り投げた。
「むぐっ……どしたの、けーちゃ……」
あいつはすぐに私を抱え直して、逃走を再開する。
「あっぶな……踏み潰されるところだった」
「大変だったじゃん。怪我とかしてない?」
「してない。ギリセーフ」
「それは良かった」
右手の治癒は掌全体の再生にまで至った。これだけあれば、大丈夫かな。

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Flowering Dolly:猛獣狩りに行こう その④

ハルパが走って約1時間。目的の都市は既に戦火に包まれていた。
「………………」
ハルパは転移魔法でその中心地にまで移動し、ビーストを探した。それはすぐに発見される。
体長約20mの巨大な猛獣。その口の端からは炎が漏れ、背中から生えた山羊と竜の頭部は不吉な咆哮をあげている。
ニタリ、と口角を吊り上げ、ハルパがそちらに突撃しようとしたその時、鋭い破裂音と共に銃弾がビーストの胴体に直撃した。
「…………?」
ビースト、ハルパ共に、銃弾の飛んできた方向に目をやる。
『おいビースト、こっちだ! これ以上好き勝手させてなるものか!』
拡声器を通した男声が、辺りに響き渡る。
ビーストがそちらに向かおうとするより速く、ハルパは飛び出していた。身体強化による超加速でその声の主の元まで駆け、勢いのままに飛びつく。
「えっうわあ!」
彼を押し倒し馬乗りになったハルパに、声の主は一瞬動揺を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「なんだ……ハルパじゃないか。久しぶりだね。もう5年……6年くらい会っていなかったかな?」
その男がワイシャツの左袖をまくり上げると、ハルパの左前腕にあるのと同じ位置に、獣の咢を模した紋様が刻まれていた。
「それより、一度退いてもらえるかな。ビーストが来ているから……」
そう言うその男の目には、間近にまで迫っているビーストの姿が映っていた。
「…………」
ハルパは黒槍を取り出し、形状変化によってドーム状の防壁を作り出す。
「いや、僕らだけ守られていても駄目なんだけど…………、1回下りてくれる?」
再び頼まれ、ハルパはしぶしぶ男を解放した。