表示件数
2
0

うちの七不思議:完全に機能する音楽室の防音壁

とある学校に勤める用務員氏の話。
その学校の音楽室は学校裏手の駐車場に面しており、そこを掃除している時に生徒たちの音楽の授業と時間が重なると、子ども達の元気な歌声や楽器の演奏の音が聞こえてきて、用務員氏はその場所の清掃作業が特に気に入っていたという。
ある日の事、その日も駐車場の清掃作業に従事していた用務員氏。今日は静かだ、ということは今日この時間は音楽の授業は無かったか、などと考えながら作業を進め、ふと顔を上げた時、自然と目に入った音楽室の窓を見て彼は驚いた。
音楽室の中には何人もの子どもの姿が見え、その動きから彼らが合唱の練習をしているということが見て取れたのだ。
よくよく思い出してみれば、確かに普段その曜日のその時間帯はどこかのクラスの音楽の授業があったはずだ。それなのに何も聞こえないということは、いつの間に防音壁の補強でもしたのだろうか。
そんなことを考え、これからは子ども達の歌声を聞きながらの作業もできなくなるのだろうかと寂しくなりながら、用務員氏は作業を終えた。
しかし翌日、彼が同じ場所で作業をしていると、音楽室からは別の子供たちの元気な歌声が。ならば昨日の無音は何だったのだろうか。
その後、用務員氏は同じ現象に数度遭遇したものの、ついにその原因は掴めなかったという。

1

企画思いついたんで協力してください。

どうもナニガシです。そろそろ入学式やら新学期の季節ですね。私の身内も明日から学校だとはしゃいでおりました。
学校生活が始まるとは言いますが、学校といえばやっぱり怪談ですよね。
そういうわけで、今回は「学校の怪談・七不思議」をテーマにした企画を催します。架空の怪談や学校の七不思議を自作するなり、本当に自分の学校に伝わっているお話を持ってくるなり、実体験を素知らぬ顔で書き留めるなりして、作品を投稿してください。
作品の形式は自由。怪談のエピソードを淡々と並べるも良し、七不思議に巻き込まれた登場人物たち視点のホラー小説でも良し、気付いたらバトルアクションになっているも良し、怪異になぞらえた連続殺人事件が起きるミステリなんかもアリです。皆さんの創造力次第でいくらでもぶっ飛んだものを書いて大丈夫です。
参加しても良いよーって方は、タグの2つ目か3つ目に「うちの七不思議」と書いて作品を投稿してください。別に1つ目に書いても問題は無いですが。
期間は4月いっぱい。作品数の上限はもちろん無いので、思いついたら思いついただけ投稿していただければ幸いです。みんなで最強の七不思議作ろうぜってことで、皆さんの参加お待ちしております。

0

てぶくろ異説・冬を越す雪下の2匹

「ただいま、カエル君」
この手袋の拠点の中に声をかけながら、我が相棒ネズミ君が拠点に帰ってきた。これ幸いとすっかり冷めきっていた寝床から這い出す。
「やァ、危うく凍え死ぬところだったんだ」
「馬鹿言え。せっかく僕が作った防寒着を着ておきながら、凍え死ぬってことは無いだろうさ」
ネズミ君は笑いながら、自慢の毛皮についた雪を払って拠点の外に蹴り捨てた。
たしかに彼の手先は器用だ。外で拾ってきたという何かの毛皮の欠片を、これまた外で拾ってきたという植物を解した繊維で縫い合わせたこの防寒着を着ていれば、ただ寝床で丸まっているよりは随分とマシな気分になる。しかし、我がカエルの身体はひんやりと湿っていて、防寒着の内側に溜め込む熱を生み出すには向いていないのだ。ネズミ君の体温は我が生命維持にきわめて重要なのである。
「ネズミ君、今回の収穫はどうだったい?」
「ああ、いくらか毛皮と植物片を拾ってきたよ。これから肉を削いで、もう少し頑丈な防寒着を作ろうかと思ってね。そうすれば、君も雪掘りに出てこられるだろう?」
「ああ、2匹がかりなら多少は危険も避けられような。我が足技が唸るぜ」
「ははは、期待しているぜ。それじゃあ、僕は防寒着づくりに取り掛かるよ」
ネズミ君はそう言って手袋の奥へ引っ込んでいった。手袋の四指の側は彼の休息と製作作業のための空間になっている。彼は毛皮を作業台の上に伸ばし、石の欠片のナイフを用いて毛皮を洗い始めた。
さて、彼がああして疲れた体に鞭打って働いてくれるわけだし、彼を労うために疲労回復の膏薬でも作り溜めておくとしようか。植物片を拾ってきたと言っていたし、我が観察眼を以てすれば有用な薬草の1つや2つは見つかるだろう。

1

理外の理に触れる者:だいぶ遅れてご挨拶

先月いっぱいを目安として「理外の理に触れる者」という企画を立ち上げたナニガシです。だいぶ遅れてしまいましたが、終わりの挨拶くらいはしておこうと思いまして書き込もうというわけでして。
今回は未完成の全知全能さん、赤い思想さん、テトモンよ永遠に!さんの3名に参加していただけました。
登場人物を「時の異能者」のみに絞り、戦闘シーンを重点的に描写してくれた未完成の全知全能さん。ナニガシは男の子なのでバチバチの戦闘シーンとか大好きなので助かりました。
怪奇・ホラー的要素の中に異能者の設定を混ぜ込んだ赤石奏さん。ナニガシは少し前からホラーやら怪談やらにお熱なので好みの世界観で楽しかったです。
そして、よく長編小説を投稿していらっしゃるテトモンよ永遠に!さん。人外の異能者の存在は最初の設定でほんのちらっと示唆していたんですが、どうやら拾っていただけたようでたいへん嬉しかったです。
また良さげなもの思いついたら何か企画しますし、他の人が何か企画してくれたら参加させていただきたいと思っております。
そういうわけで今回はこれっきりです。参加してくださった皆さんありがとうございました。

2

理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫 おまけ 壱

「理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫」のおまけ…と言うか解説編です。

・黒羽(くろは)
異能:死の指揮者
一応この物語の主人公。
作中ではあまり描いてないが長い黒髪で黒地に柄の入った和服を着ている。
明言し忘れたが、一応男。
元々は街で有名な地主の子どもだったが、妾の子だったために家族から疎まれていた。
そのため実母の元で幼少期を過ごしていたが、母親が亡くなったことで父親の家に引き取られることになった。
しかし幼い頃から異能を持っていたために、無自覚の内に小動物や植物を殺すことを繰り返していたため、家族から恐れられ、最終的に実家から追い出されてしまった。
実家から追い出された後も実家の人間から命を狙われることは多く、一度死にかけたこともある。
その時にカラスに出会い、カラスの異能によって傷の治りが早くなる“性質”を与えられたことによって生き永らえている。
現在は街外れの古民家に住んでいる。
なお、カラスに出会うまで異能と言う概念は知らなかった模様。
異能“死の指揮者”は触れた生物を死なせることができる異能。
ただ、人間に使おうとすると抵抗されることが多い。
黒羽自身はあまり制御できてないようだ。

・カラス
異能:カタチの支配者
黒羽の友達(?)。
ただの気まぐれで黒羽を助けた結果、黒羽と連むようになった。
カラスの姿をしているが、喋ったりするようにその正体はカラスではない。
真の正体は物質の身体を持たない神霊のような存在。
遠い昔から存在し、その異能で長い時を過ごしてきた。
カラスの姿をしているのは、今はそういう気分だから。
異能“カタチの支配者”はありとあらゆる生物・非生物に様々な性質を与えることで、性質や見た目を変えることができる異能。
回想では黒羽に“傷の治りが早くなる”性質を与えることで死の危機から救ったりした。
カラス自身には“不死身”とか“発話”とかの性質を与えることで現在の姿を保っている。
ちなみにカラス自身に“名前”は存在しない。
“カラス”という名前自体は通称みたいなものである。

0

理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター④

・来実(くるみ)
異能:雨雪の干渉者
二つ名:白雪姫
桜の同級生にして一番の親友。異能者仲間でもあるので割とずぶずぶ。過去に『夜の指揮者』から攻撃を受けた際、日和に助けられ後見された。二つ名は桜からもらった。
異能の性質は大気中の水分や既に発生している雲に干渉し、雨を降らせる、雨を止ませる、雪を降らせる、雪を止ませる、雨を雪にする、雪を雨にするの6通り。射程距離はかなり長く、数㎞程度の範囲は余裕でカバーできる。

・湊音(みなと)
異能:時間の干渉者
二つ名:付き人
日和とは同い年でいとこの関係。そっくりでまるで双子。苗字も同じなせいで学校では双子だと思われているし、本人たちも特に否定はしていない。
異能の性質として特に得意なのは過去への干渉。過去視をしたり、過去の自身の動作に干渉して間接的に現在を改変したり、触れたものの過去の状態を現在に持ってきて固定したりといったことが可能。それ以外のこともある程度はできる。
異能者としても生物に対しては無力な日和の弱点を補う存在であり、異能者を取りまとめる『女王』の補佐役としていろいろと動き回っている。ひぃちゃんが後見した異能者に実際に指導を行うのも彼の仕事。

0

理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター③

・桜(さくら)
異能:狼の干渉者
二つ名:白狼侍
日和の1個下くらいの年齢。過去に『夜の指揮者』から攻撃を受けた際、日和に助けてもらい後見された。二つ名は日和から賜ったもので「はくろうじ」と読み、由来は後述する“白雪姫”に仕える狼の侍従ということから。
異能の性質は、「狼」という生物の定義に干渉してその条件の中に自分を割り込ませることで、自身の肉体に狼の特徴を発現させるというもの。最近、後述する”付き人”との修行の末に完全な狼化もできるようになった。

・黒崎孝太郎(くろさき・こうたろう)
異能:砂漠の干渉者
二つ名:海殺し
今作で町一つ砂漠化させたやべー奴。異能者になってから日が浅いどころじゃないので、異能の扱いには慣れていない。亮晟に後見され、どうにか異能の制御が可能になった模様。
異能の性質は、自身を中心とした半径5㎞程度の空間における環境条件に干渉し、その一帯を砂砂漠または岩石砂漠にランダムに変えるというもの。今回は砂砂漠になった。移動すれば勿論砂漠の範囲も動き、また自身から離れた位置程、元の環境の性質が重なり合ったようになる。異能を使うと世界がバグるやべー奴。

0

理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター②

・水呼(みこ)
異能:水の観測者
二つ名:水先案内人
道連れ。多分亮晟と同い年くらい。
異能の性質は、水源や水の多く集まっている場所までの距離と方向が分かるというもの。汗や涙、血液など自分の体液を水の集まった方向に引き付けさせる力もあり、もうしばらく能力を使い続ければ干渉者への昇格もあり得ない話じゃない。

・日和(ひより)
異能:無生物の支配者
二つ名:無命女王
ここら一帯の異能者を統括しているボス的存在。中学2年かそこらだと思う。異能の扱いに長け、支配者としての自覚もあり、とても偉そうで実際偉い。支配者としてとても強いので、シハイシャ・スゴイツヨイ・プレッシャーとシハイシャ・スゴイサトイ・シックスセンスが使える。

※シハイシャ・スゴイツヨイ・プレッシャー:支配者級の異能者が自分の異能の強さとそれゆえに発生する王としての責任を強く自覚していると使える、自分の強さに基づいた威圧。生物としての根源的恐怖を刺激するので、どんなに強い異能者でもビビッて動けなくなる。実際は能力でも何でもないただのハッタリ。
※シハイシャ・スゴイサトイ・シックスセンス:異能の扱いに長け、対象に慣れ親しんだ支配者級の異能者にだけ使える第六感。他の異能者が異能を使っていると、その人の位階が何となく分かる。干渉者と指揮者の違いを判別する時などに便利。

0

理外の理に触れる者:海殺しのキャラクター①

・八街亮晟(やちまた・りょうせい)
異能:怪獣の指揮者
二つ名:モンスター
本作の主人公的人物。高校2年か3年くらい。他の異能者との関わりはそんなに無い(皆無ではない)。
異能の性質は怪獣への変化と怪獣の召喚・使役。身体の大きさや形状が本来のものと外れるほど変化した際に身体が動かしにくくなるが、修練によってある程度は補える。
彼が異能によって操る怪獣とは夢と浪漫と破壊力の合成であり、似非科学を含めた科学的論理によって説明可能な範囲で特殊な形状と能力を具えた物質的に実在する生物である。月の操る鬼神と異なり、霊感など無関係に観測が可能。

作中に出た手持ちの怪獣一覧
・石竜:体長約3m。4本の脚の先には長い3本の指を具え、身体と比較して異常に長い両腕から続く手は4本指であり、対向拇指の形を取っている。背中の翼はそこまで大きくはなく、飛行には使えない。放熱用のものと思われる。皮膚の熱遮断性も高く、高温環境での生息に適応している。ワニのような頭部には眼球が無いものの、何故か人間と同程度の視覚能力がある。
・人狼:体長2.5m、尾長2.3mの2本足で立つ狼のような姿の小型怪獣。尾は鱗に覆われている。厚い毛皮と体毛の色などから、寒冷地での活動に特化していると思われる。
・砂鯨:体長80m程度の白いマッコウクジラから手足が生えたような形状の怪獣。牙が長い。砂の中を水中と同じように泳ぐことができる。脂肪が厚いため、衝撃に対する耐久力も高い。
・駿竜:体長4m程度、尾長3m程度の4本脚で歩くドラゴンのような怪獣。最高時速500㎞以上で走ることが可能でありながら、鱗や体毛の性質、細長い体形などが影響し、騒音も衝撃波も発生させずに高速行動をとることができる。
・病霞:体長5m、尾長5m。巨大な黒蛇の胴体から手足が生えたような姿の怪獣。口内に並ぶ牙は鉱石のような性質をしており、それらを打ち合わせて発生させた火花に、揮発性の高い可燃性の毒液を舌下の器官から霧状にして噴き出すことで引火させ、火炎放射が可能。手持ちの中で唯一火を吹ける怪獣。毒霧を利用して有毒空間を作り出すことも可能。

0

理外の理に触れる者:海殺し その⑪

後見。そんなものがあるらしいってことは人伝に聞いたことがある。たしかあれは、支配者級の異能者の特権じゃ無かったのか。
「指揮者の中でも、お前ほど異能を制御し切れている奴は見たことが無いぞ。純粋な力で言えば支配者級にも匹敵するあの“総大将”でさえ、既に半分ほど人間を辞めているというのに。『能力を制御する』という観点において、指揮者以下の位階の異能者じゃお前は間違いなく最高の実力者だよ。……ああ、評判を気にかけているなら心配は無用だ。お前の実力は私が保証するし、異を唱える阿呆は『説得』してやる」
「そもそもお前が後見してやれば済む話じゃねえのか」
「嫌だよ。私は可愛い女の子だけに囲まれて生きてたい」
「こいつ……」
とりあえず駿竜を消し、砂漠の異能者の胸倉を捕まえて立ち上がらせる。
「おいお前。名前は」
「え⁉ あ、ああ、えっと、あー、あの、俺は黒崎。黒崎孝太郎」
「長えな。略してクロコって呼ぶぞ」
「あっはい」
「異能『怪獣の指揮者』、二つ名“モンスター”、八街亮晟。クロコ、お前を『後見』する。お前は今から俺の弟子な。俺のことは師匠とでも何とでも好きに呼べ。1時間以内にこの砂漠、消すぞ」
「えっあっ了解」
了承を取ったところで、あの女王さまがけらけらと笑い出した。
「何なんだよお前はァ!」
「いやぁーはっはっはっはっ、悪いね、楽しくて楽しくて。おいクロコ」
女王さまがクロコの方に向き直る。
「お前に二つ名をくれてやろう」
「え、あ、はいどうも」
クロコの方も素直に応じる。
「”海殺し”。あらゆる環境条件に干渉し、土壌の養分と水分を完全に奪い取る、げに恐ろしき世界の破壊者。『砂漠の干渉者』として、これからはその名を使って良いぞ? お前と怪獣のことは、私の異能に乗せてここらの異能者たちに広めてやる」
「う、ウス」
盛り上がっているところ悪いが、今は砂漠を元通りにするのが先だ。女王さまからクロコを引き離し、騒がしいだけのこいつらから離れてクロコに指導する場所を探すために歩き出す。
「行くぞクロコ。お前に異能の使い方を教える。まあ、身に付くかどうかはお前次第だけどな」
「あ、ウス、よろしくお願いします」
何故か無言で俺たちのあとをついて来るその他大勢を何度も追い返すことになったのは、大変腹立たしかった。

0

理外の理に触れる者:海殺し その⑩

「よう、砂漠の。とりあえずこの状況どうにかしてくれ」
そいつに話しかけると、ようやく覚醒したようで急に慌て出した。
「え、ああ、ああッ⁉ 何だこの状況!」
「こっちが言いてえよ」
「とにかくその化け物どっかやってくれ!」
「ああうん」
駿竜を消し、砂漠の異能者の胸倉をつかむ。
「さあ、この砂漠をどうにかしろ。ここは温暖湿潤気候帯で今は真冬なんだよ」
言ってやると、そいつは目を泳がせながら答えた。
「い、いやな、実を言うと俺もよく分かってねえんだよ。この滅茶苦茶な力に目覚めたのが多分今日の朝、自覚したのはこの砂漠の中でも全く暑いなーとか日差し強っとか思わないなって思ったあたりからだから、今日の正午くらい。とりあえず家を出てみたら突然自分の周りに砂嵐が起きてさ、どうしようも無かったんだよ……」
「……なるほど、理解はできた。で、この状況、直せるのか、直せないのか」
「実を言うと……ちょっと厳しいかなって……」
「駿竜、来ませい」
あの怪獣を再び召喚し、砂漠の奴の首から上を口の中に収めさせる。別に噛みちぎらせようってわけじゃ無い。ただの脅しだ。
「……なあ怪獣。そいつ、もしかして異能の使い方に慣れていないんじゃあないのか?」
女王さまが話しかけてきた。
「ほら、今日発現したばっかりだって言っていたろう」
……そういえば。
「つーことはこの砂漠、このままになるのか」
「ああ……最悪なことに。本当に申し訳無いんだけど」
怪獣の口の中でそんな言い訳をするあたり、こいつ結構胆力あるな。
「……なァ怪獣。良い方法があるぞ?」
女王さまがいたずらっぽく後ろから声をかけてきた。
「何だ」
「怪獣、お前そいつを後見しろ」
「……はぁ?」

0

理外の理に触れる者:海殺し その⑨

思うように動かせない身体をどうにか少しずつ捻って背後に目をやると、女王さまと似た見た目の中性的な少年が俺の背中に手を置いていた。
「彼女を攻撃しようって言うなら、ぼくは止めなくっちゃならない」
「な……何をした…………」
「わぁいミナト。紹介するよ、怪獣」
答えたのは女王さまの方だった。
「そいつが私の用事、っていうか探し人」
「へぇ……」
「私の恋人さ」
「そうかい……」
「まあ冗談なんだけど」
「ハッ倒すぞテメエ」
「ちょっとみっちゃーん? そいつ普通に動いてんだけどぉー?」
普通には動けてない。憎まれ口をたたくのが精いっぱいだ。
「しょうがないよ、ぼくは飽くまで干渉者だ。あらゆる時間は自然に流れたがる権利がある」
ミナトとやらの発言からして、こいつは『時間の干渉者』か。しかし、ただの干渉者に人ひとりの動きを止めるほどの力があるのか?
「ほら、喧嘩は良くないよ。今はその砂漠の異能者をどうにかしなきゃってところでしょう?」
ミナトの異能について考えていると、奴がそう言って俺から手を放した。身体の自由が急に戻り、反動でバランスを崩しそうになったところを駿竜の首にどうにか寄りかかる。
「ああクソ、そうだった……。駿竜」
指示を出し、まだ駿竜が咥えていた異能者を地面に落とした。その衝撃で意識を取り戻したようだ。

0

理外の理に触れる者:海殺し その⑦

矢印を数十個辿りつつ歩いて1時間も経った頃だろうか。ようやく奴らを見つけた。あの女王さまに道連れ、その他知らない顔が何人か。その場の異様な雰囲気に馴染んでいる様子から、全員異能者なんだろう。
「ん、お前か怪獣。ご苦労だったな。良いもの乗ってるじゃないか」
砂が固まってできたパラソルの下で、水の塊をクッション代わりにして寝そべった女王さまがこっちに手を振ってきた。
「このや……この女郎……」
殴ってやろうかと拳を握りしめると、別方向からも話しかけられた。
「あ、おかえりー。何か頑張ってくれたみたいじゃない」
道連れも砂でできたデッキチェアに腰掛け、素足を地面からわき出す水に浸しながらこっちを見ている。とりあえず片手を挙げて応える。
「わん」
また別の声。こっちは聞き覚えがある。
「……その声、狼か」
「うん」
女王さまと同じか少し下くらいの年齢の、狼の耳と尻尾を生やした少女が、別の少女に捕まっている。
「さすがにあの竜巻は私じゃ破れなかったから助かった」
「そうかい」
「こっちはうちのお姫様。雪を降らせてた異能者」
そいつも会釈してきたのでこっちからも会釈で返す。
「何だよぅ、私にだけ邪険じゃないかぁ?」
女王さまがわざとらしくすねたように口をとがらせる。
「うるせえ。パシってきた奴に振り撒く愛想なんざ持ち合わせてねンだ」
ビビらせてやろうと火を吹こうと口から肺にかけて部分的に怪獣化し、牙を打ち合わせた時だった。
「駄目だよ、きみ」
誰かの手が背中に触れ、身体の動きが突然に止まった。

2

理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫 壱

ぱち、と目を覚ますと見慣れた天井が見える。
暫くの間そのままでいたが、やがて誰かの気配を感じて窓の方を見た。
「よぉ」
そこにはカラスが留まっていた。
「随分と寝てたみたいじゃないか」
そう言って、カラスはケタケタと笑う。
「…」
畳の上に寝転んでいる黒髪の人物は、静かに起き上がった。
部屋のゼンマイ時計を見ると、午後2時を指している。
「どうだいお前、よく眠れたかい?」
夢でも見てたのか?とカラスは笑いながら言う。
「…別に」
見てたとしても忘れてるよ、と黒髪の人物は素っ気なく答える。
「そうかね?」
お前がそう言う時は大体…とカラスが言いかけた所で、黒髪の人物は立ち上がった。
「…おっと、どこへ行くんだい?」
部屋の出入り口へ向かおうとする黒髪の人物を、カラスが引き留める。
「ちょっと散歩」
あんまりいい寝覚めじゃないから…と黒髪の人物は部屋から出ようとする。
「じゃあオレ様も連れてってくれよ、黒羽(くろは)」
お前1人じゃ心もとないだろ?とカラスが言うと、黒羽と呼ばれた人物は窓に一瞥もせずこう言った。
「好きにしたら」
カラスはその答えを聞くと、バササッと黒羽の肩に飛び乗った。
「へっへっへ」
やっぱりこの場所は落ち着くなぁとカラスは笑う。
黒羽はカラスがちゃんと肩の上に乗ったのを確認してから歩き出した。

0

理外の理に触れる者:海殺し その⑦

歩き出そうとして、身体に力が入らなくなっていることに気付いた。流石に2度も怪獣化した後にあれを呼んだのはやり過ぎだったか。とりあえずその場に尻もちをつくように座り、体力の回復に専念することにする。それはそれとして、犯人も捕まえておかなくっちゃならない。
「『駿竜』、来ませい」
4本足で立つ、体長4mほどの翼の無いドラゴンが俺の前に駆けてきた。
「連れて来い」
さっきまで砂嵐があった場所を指して命ずると、駿竜は目にも留まらぬスピードでそっちに向かって駆けて行き、僅か数十秒で戻ってきた。口には異能者らしき俺と同世代くらいの少年を咥えている。どうやら気絶しているらしい。砂鯨の直撃でも受けたか? 生きてるってことはそれは無いか。
「よくやった」
駿竜に手招きして身を伏せさせ、背中の上に這い上がる。
「俺の足跡を辿れ。急がなくて良い。あの偉そうな女王さまに達成報告でもしてやろうじゃねえか」
俺の命令に頷き、駿竜が駆け出す。急がなくて良いと言ったのにその速度はなかなかのもので1回背中から転げ落ちたが、それで反省したようで、無事にのんびりと引き返すことができた。

足跡をたどってあの女王さまと出会った場所に向かうと、そこには誰もいなかった。あいつが呼んだ水の跡すら残っていない。
軽く周囲を探してみると、水でできた矢印が等間隔に浮いている。
「あンのチビ…………こっちから出向けってのか。駿竜、悪いがもう少し歩いてもらうぞ」
指示を出すと、駿竜は短く喉を鳴らし、矢印を辿って歩き出した。

5

籠蝶造物茶会 あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
こちらは「籠蝶造物茶会」のあとがき…と言うかおまけです。
よかったらお付き合いください。

「造物茶会シリーズ」はぼくの高1の時の空想から生まれました。
ただ、元々は魔術が出てくるようなお話ではなく、人外達がいちゃいちゃ(笑)するようなお話でしたし、キャラクターもナツィとキヲンしかいませんでした(しかも当時は明確な名前がなかった)。
ただ空想の内容が少々えげつなく(お察しください)、空想している自分が辛くなってしまったために全然違うお話にしました。
それが「造物茶会シリーズ」の始まりです。
でも最初の内はキャラ名やそれぞれの設定がかなり違ったり、ナツィとセットなのはきーちゃんだったりしました。
この辺りは空想を続けている内に自分にとってよりしっくりくる方…現在の形へと変わっていきました。
ちなみにきーちゃんがナツィにくっ付いたりしているのは初期の名残りです(笑)

今回はこれくらいにしておきましょう。
いつになるか分からないけど、「造物茶会シリーズ」第3弾もお楽しみに。
また「ハブ ア ウィル」の新エピソードも絶賛制作中で、3月中の投稿を予定しております。
こちらもお楽しみに。

あと最後ですが、ぼくから質問です。
ポエム掲示板を出入りしているとここで自分以外にも小説を書いている人を度々目撃するのですが、皆さんどういうキッカケで小説を書いているのでしょうか?
ぼくはある人がここで長い長い小説を書いているのを見て、真似したくなって始めたのですが…
みんなはどうなのでしょうか?
よかったらレスから教えてください。

ではこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした〜

0

理外の理に触れる者:海殺し その⑥

(……さて。どうしたもんか)
一応、指の先を砂嵐に突っ込んでみたが、一瞬でひき肉にされてしまった。指一本しか入れなくて本当に良かった。人型に戻ればどうせ治るからまあ問題無い。
「…………まあ破れるけどさァ……やりたくねえなァ……」
溜め息を吐いて怪獣化を一度解く。そう、この程度の障害なら、俺の異能で呼び出す怪獣であれば簡単にブチ破れる。しかし、あのレベルの怪獣は自分で化けるにはデカすぎるから、わざわざ召喚しなけりゃならない。勿論、体力の消費も結構なものになるわけで。
「……でもまあ、やらねえとだよなー…………よし、やるか」
十分に距離を取ってから、左腕を砂嵐に向け、意識を手の先に集中させる。
「……『砂鯨』、来ませい」
その言葉で、俺と砂嵐の中間の地面から『そいつ』が飛び出した。数十mはある背丈、先端が二つに分かれた幅広の尾、水かきのある手足、白色のゴムのようにたるんだ皮膚、ハクジラのような形状の頭部と口からはみ出した異様に長い牙。俺の持つ怪獣たちの中で最も巨大で、重厚で、強力な化け物だ。
「ああクソ……手っ取り早く行こう。倒れ込め」
砂鯨の皮膚は高速で回転する砂粒を軽く弾き返し、質量で押し潰すようにして、砂の壁を容易に突き破った。そして地響きを立てながら砂鯨が倒れ込んだ数秒後、あれだけ大規模だった砂の竜巻もきれいさっぱり消えてしまった。
「ご苦労、砂鯨」
声をかけてやると、砂鯨はまた砂の中へと消えていった。さて、この町を砂漠にした犯人の顔でも見に行ってやろうか。

2
0

理外の理に触れる者:海殺し その⑤

「そうそう、せっかくだからこれも言っておこうか。お前が探すべきは『雪』と『竜巻』だ」
別れる直前、あの女王さまは俺に向けてそう言ってきたんだ。
『竜巻』というのはまだ分かる。砂嵐みたいなやつが発生してるってんなら極めて自然だ。しかし、『雪』ってのはどういうことだ? こんな暑さの中じゃ、降って来る間に溶けて、せいぜいが雨になっちまうだけだろうに。
考えながら歩いていると、不意に鼻先に何かが落ちてきた。指でそれを触ってみると、小さな結晶のようだ。
(……まさか、このクソ暑い砂漠の中で、本当に雪が降るとは……)
一度変化を解き、人間の身体で雪の冷たさを楽しむ。石竜の皮膚で防いでいたとはいえこれまでひたすらに暑いだけだったから助かる。

しばらく身体を冷やして、再び怪獣化する。今度の変化はさっきより獣寄りに、やや小柄な2m半程度の背丈に薄灰色の毛皮と狼のような頭部、体長とほぼ同じ程度に長い尾を具えた、自分の中で『人狼』と呼んでいる姿だ。
その姿で雪の降る中をしばらく歩いていると、すぐに『竜巻』の方も見つかった。空高くまで伸びる、轟音を立てる砂の柱。これは紛うこと無き砂の竜巻だ。
「わん」
不意に足下に犬の鳴き声が聞こえた。そっちを見てみると、なかなかワイルドな雰囲気の大型犬がこっちを見上げていた。
「……いや待て犬は普通あんな露骨に『わん』とは言わねえな? お前異能者だろ」
犬を指差して言ってやる。犬は頷いて応えた。
「あと、おおかみ」
犬もとい狼が普通に話しかけてきた。
「そうかい」
「あれ、どうにかして」
「あの砂嵐をか」
「そう。あの中に砂漠の異能者がいる」
「そうかい。まあこっちも一応頼まれてここまで来てるからな」
「ん。それじゃ」
それだけ言うと、狼はどこかへ走り去ってしまった。

0

理外の理に触れる者:海殺し その④

水のコンパスを眼球の無い顔で見ながら、ひたすら砂の上を歩き続ける。あいつが話さなくなったせいで、実に退屈な作業と化している。鬱陶しいだけだと思っていたあいつも、結構大きな働きをしていたわけだ。
「おい怪獣」
不意に声をかけられた。声のした方に目をやるが、砂しか見えない。
「こっちだって」
そっちを見てるんだが。
「…………ああ、そういえばそうか」
目の前の砂の塊が突然崩れ、その下に偉そうに膝を組んで座る少女が現れた。
「やあ、良い天気だな?」
少女が話しかけてきた。とりあえず何も言わず睨み返しておく。
「……何だよぅ、返事くらいしてくれても良いんじゃあないの? 私、女王さまぞ?」
「ハァ?」
「お、喋った。ただの怪獣じゃないみたいだな?」
「誰だお前。女王だァ?」
「うん。異能は『無生物の支配者』、人呼んで“無命女王”。それが私だよ」
「へえ、知らない名前だ」
「怪獣よー……もっと周りの異能者に興味持て? 私、ここら一帯のボスみたいなものぞ?」
「へえ、そいつは知らなかった」
「……まあ良いや。私は用事があって忙しいんだ。その代わりに、ほれ」
周囲の砂が浮き上がり、矢印の形をとる。コンパスが指すのとはちょうど90度ほど進路がズレていやがる。
「この砂漠は、異能者が創り出したものだ」
「ンなこたァ分かってんだ」
「お前、行って止めてこい。日差しと乾燥は身体に悪いからな」
「悪いが、こちらも用事があってな」
「そっかー……」
無命女王とやらがこっちに指を差してくる。直後、手の中の水のコンパスが弾け飛んだ。
「あッ! おま、何しやがった!」
「水源なら連れて来てやる。そいつ置いてさっさと行かんか」
奴が地面を指差すと、砂の地面に小さな穴が開き、結構な勢いで水が噴き出した。地下水だったとしても透明すぎる気がしないでも無いが、まあ異能の影響だろう。
「これでそいつも平気だろう。早く行って来い」

0

理外の理に触れる者:海殺し その③

あいつを腕で拾い上げて首の後ろに乗せ、翼を日陰にしてやる。
「わあ快適。最初からこうしてくれれば良かったのに」
「図々しいなお前。捨ててくぞこの野郎」
「女郎なんだよなぁー……あ、やめて日差しが痛い」
ちょっと翼を開いて懲らしめてやった。すぐに閉じたが。
「まあ大人しく方向をを教えてあげることにしよう。とりあえずそのまま12時方向へー」
「了解」
奴の指示に従って歩き出す。俺の異能『怪獣の指揮者』によって変化したこの身体は、皮膚が熱を遮断するおかげで、サイズの割に暑さに対して快適なんだ。
「……あ、マズい」
「ん、道を外れていたか」
「いや……私の方に問題が」
「どうした」
「この暑さは良くないね。体力がもう……。手、出して」
首の高さまで手を持っていくと、あいつがそこに手を重ねて、また離した。
「あとは……それ見て……」
手の中を見ると、透明な液体が針状に固まっている。
「何だこれ。水か?」
「私の汗」
「気持ち悪ッ」
「失礼だなぁ……。私の異能で、それは……コンパスの役目を果たす、から……」
「……おいどうした」
「体力温存のために、寝ます……」
「寝るなー、寝たら死ぬぞー」
雪山じゃあるまいし、くらいは言い返してくると思ったが、何も返事が無いあたりマジで寝たのか。どうやら相当参っていたらしい。

1

理外の理に触れる者:海殺し その②

「あ」
道連れが短く声をあげ、足音が一つ減った。俺はまだ歩き続けてるってことは、あいつが立ち止まったのか。あいつのいた方を見ると、砂に足を取られて躓いたのか、うつ伏せに転んでいた。
「……何やってんだ」
「…………」
あいつは顔を砂にうずめたまま答えない。何かヤバい気配がする。
「……これは、良くないね」
喋った。生きてはいるらしい。
「喋り過ぎた。体力がもう無いや」
「無駄話してるからだろ」
「何も言わないでいると、精神的に良くない気がして……」
あいつは立ち上がろうと手を砂に付いてはいるが、全く身体が持ち上がる様子が無い。
「……私はもう駄目みたいだから、構わず先に行って……」
冗談を吐く余裕はあるようだな。
「馬鹿言え。お前の異能無しにこんな場所歩けってのか」
「でも私、20㎏入りのお米より重いよ?」
「それより軽い奴がいたらビビるわ」
異能を使い、自分の姿を変える。爬虫類と猛獣を混ぜたような、体長3m近い胴体。砂に沈みにくい、長い指を具えた脚が4本。4本指に長い爪、鱗の生えた腕が2本と、飛ぶのには使えない、ただの飾りの皮膜翼が1対。便宜的に、自分の中で『石竜』と呼んでいる姿だ。
「足になってやる。お前が鼻になれ」
「そこは目じゃ無いん……わぁっ」
あいつが顔を上げ、眼球の無いワニみたいな顔面に驚き、変な声をあげた。

0

理外の理に触れる者:海殺し その②

「あ」
道連れが短く声をあげ、足音が一つ減った。俺はまだ歩き続けてるってことは、あいつが立ち止まったのか。あいつのいた方を見ると、砂に足を取られて躓いたのか、うつ伏せに転んでいた。
「……何やってんだ」
「…………」
あいつは顔を砂にうずめたまま答えない。何かヤバい気配がする。
「……これは、良くないね」
喋った。生きてはいるらしい。
「喋り過ぎた。体力がもう無いや」
「無駄話してるからだろ」
「何も言わないでいると、精神的に良くない気がして……」
あいつは立ち上がろうと手を砂に付いてはいるが、全く身体が持ち上がる様子が無い。
「……私はもう駄目みたいだから、構わず先に行って……」
冗談を吐く余裕はあるようだな。
「馬鹿言え。お前の異能無しにこんな場所歩けってのか」
「でも私、20㎏入りのお米より重いよ?」
「それより軽い奴がいたらビビるわ」
異能を使い、自分の姿を変える。爬虫類と猛獣を混ぜたような、体長3m近い胴体。砂に沈みにくい、長い指を具えた脚が4本。4本指に長い爪、鱗の生えた腕が2本と、飛ぶのには使えない、ただの飾りの皮膜翼が1対。便宜的に、自分の中で『石竜』と呼んでいる姿だ。
「足になってやる。お前が鼻になれ」
「そこは目じゃ無いん……わぁっ」
あいつが顔を上げ、眼球の無いワニみたいな顔面に驚き、変な声をあげた。

0

理外の理に触れる者:海殺し その①

「……暑いね」
偶然そこらで遭遇してから道連れになった異能者が呟く。多分俺に話しかけているんだろう。小さく頷いて応える。声に出して応じる余裕なんぞ残っていない。
その理由は何と言ってもこの環境だ。確かこの辺りは、人口10万人弱のそれなりの規模の町だったはずじゃないのか。なんだって建物一つ見えない砂漠と化していやがる。
「今2月だよ? 冬将軍はどこでサボってるのやら……日陰、無いかなぁ……」
見りゃ分かるだろうよ。地平線の向こうまで、砂でできた平面と丘しか無い。
「…………ああそっちじゃないそっちじゃない」
道連れが俺の腕を引いて、数度進路を変える。
「何すんだ」
「いやぁ、水源に向かうのは良い。それはあり。でも、離れる方向に行くのは良くないよ」
「…………?」
何を言っているのか分からん。
「あれ、言ってなかったっけ? 私の異能、『水の観測者』。水源までの距離と方角が分かる」
そういや会った時に何か言ってたような気もする。
「砂漠で遭難した時ぐらいしか役に立たないと思ってたけど、まさか日本で砂漠で遭難する機会に恵まれるとはねぇ……鳥取以外で」
「鳥取に砂漠は無い。ありゃ砂丘だ」
「あれ、そうだっけ」
「ちなみに日本一デカい砂丘は青森にある」
「何で知ってるの?」
「高校で地理取ってるから」
「へぇ」
畜生、無駄に喋ったせいで体力削れた。