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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑨

ウミヘビの方を見る。何度か攻撃を繰り返しているようだけど、本当にこっちには何の影響も無いみたいだ。
「あー……カリステジア」
「はい」
「詳しく説明してくれ」
「はい。私のバリア、6面の直方体の形なんですけど、えっと……」
カリステジアは俺の釣竿に付いていた浮きを外して掌の中で転がしてみせる。
「これを……こう」
奴がそれを真横に向けて投げた。浮きは奴が投げたのと反対方向から、俺達の間に転がって来た。
「こんな感じで、私のバリアの境界面に触れたものは、反対側から出てくるんです。外側と内側、どっちにも適用できるし、通り抜けを起こさないのもできますよ。……と、いうわけで」
奴がまた抱き着いてきた。周りのバリアが狭まったのが触覚で分かる。
「いつものドーリィちゃんが何とかしてくれるまで、私達はこうしてのんびり待っていましょうね」
「それは良いけどまずは離れろや」
「お兄さん……当然ですけど、バリアは広げるほど消耗が激しくなるんですよ? できるだけ狭い空間で密着してた方がお得じゃないですか」
「…………ちなみに、あとどれくらい持つ?」
「お兄さんが寿命を迎えるまでくらいの時間は余裕で」
「ならもう少し広げようなー」
「そんなぁ……」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑥

また数分、屋根の上を走り続け、交差点に差し掛かったところで立ち止まり、一瞬の逡巡の後、再び路上に飛び降りる。
その時、一瞬視界にカーブミラーの鏡面が入り、即座にそこに映っていた道に駆け込んだ。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(見つけた! 『何かを探していない様子の人間』!)
青葉の見つけた人影は、すぐに細い路地に入ってしまったようで、青葉も10秒ほど遅れ、後を追ってその路地に飛び込んだ。
「わっ」
「む……またお前か」
そして、その路地から出てこようとしていた平坂と正面からぶつかってしまった。
「お前……何故ここにいる?」
「じっとしていられなくて……それより、ここに誰かが入って来ませんでしたか?」
「『誰か』……? いや見ていないが……どんな奴だった?」
屈んで目線の高さを合わせながら、平坂が尋ねてくる。
「おそらく私と同年代の子どもです。特に目的も無い徘徊といった感じで歩いていました。『犯人』の可能性が高いです」
「……犯人、だと?」
「はい、『悪霊を操っている』、その犯人です」
平坂は再び立ち上がり、見下ろす形で青葉に相対した。
「おい。お前、あの姉からどこまで聞いた?」
「姉さまからは何も。ただ、不自然に統率の取れた悪霊たちのことは、ついさっき確認しました」
「……そうか。情報提供には感謝する。しかしとにかくお前は帰れ。具体的な危険性も分かっているんだろうが」
「むぅ……」
青葉は頬を膨らませ、帰途につくために振り返った、ように見せかけ、素早く振り向き平坂の真横をすり抜け、路地の奥へと駆けて行った。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑧

………………そろそろウミヘビに食い殺されていてもおかしくないと思うんだが、何も起きない。
周囲の様子を確認してみる。周囲の深く抉れたコンクリート、頭上を通る巨大ウミヘビの胴体。俺の胴体に抱き着いて密着してくるカリステジア。座った姿勢のままで曲がっていた膝をとりえず伸ばしてみると、空中で何かに引っかかる。手探りしてみると、どうやら俺達はかなり狭い空間に閉じ込められているらしい。
「んぇへへ…………」
カリステジアがこちらを見上げてくる。奴が徐に持ち上げてみせた右の手首には、朝顔か昼顔の葉っぱみたいな紋様が刻まれている。
「契約完了、です」
「………………カリステジア」
「はい」
「正座」
「はい……」
俺達を閉じ込める空間が少し広がった。カリステジアは俺から少し離れた場所に正座する。
「あのさぁ……契約って双方合意の上で成立するものじゃん」
「そうですねぇ……」
「別に契約すること自体は俺だって全く嫌ってわけじゃねーよ? けどさぁ……こういうのはちゃんと順序踏もうな?」
「お兄さん……! 私のこと、受け入れてくれるんですね……!」
「はいそこ喜ばない。お前今説教されてんの。オーケイ?」
「はーい」
にっこにこしやがって……。何かもうどうでも良くなってきた。一応俺達は安全っぽいし。
「なぁ、このバリア? って割られたりしねーの?」
「あ、それは平気です。通り抜けますから」
「は?」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑦

「……ごめん俺契約の押し売りは断れって死んだ婆ちゃんに言われたから……」
「そんなぁ、どうして」
つい勢いで断ってしまった。実際、ドーリィがいれば安心ってのは事実だ。最近はビースト事件の報道も増えてきているわけで、マスター付のドーリィが身近にいれば安全性は一気に向上する。けどなぁ……。
「いやだってお前……なんか、あれじゃん……」
こいつがドーリィだってのが事実だったとして、こいつ個人と契約するのはなぁ……。
「でも私、お兄さんのこと命に代えてもお守りしますよ?」
「お前なのがなぁ……そもそも互いに名前すら知らねえじゃん。信頼も何も無ぇ」
「あ、私お兄さんの苗字知ってます。スナハラさん!」
「サハラな。砂に原でサハラ」
「砂漠?」
「違げえよ。いや字面的にはそれっぽいけど」
「そういえば砂砂漠って『砂』の字が2個連続してて面白いですよね」
「おっそうだな」
「あ、私の名前でしたよね。私、カリステジアっていいます。ハマヒルガオのCalystegia soldanella」
「長げぇな」
「短く縮めて愛称で呼んでくれても良いんですよ?」
「えっやだそんなのお前と仲良いみたいじゃん……」
「最高じゃないですかぁ」
少女カリステジアと言い合っていると、俺達の上に影が覆い被さってきた。
「ありゃ……これは、マズいですかね?」
カリステジアの言葉に見上げると、あの巨大ウミヘビが俺達を見下ろしていた。
ウミヘビが口を開けて突っ込んでくる。同時に、カリステジアが俺を押し倒した。悪いが地面にへばりついただけでどうこうなる話じゃないと思うんだが……。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑤

(あの霊たちの動き……不自然だった。あまりにも統率が取れていた)
屋根の上を走りながら、青葉は考える。無数の手の霊が注意を引き、武者の霊が背後を取る。あたかも協力して人間を狩ろうとしているかのようなその様子。ただの悪霊が共生関係を取ることは、基本的にあり得ない。
「……つまり」
(つまり?)
立ち止まり、夜の街を眺める。
「『霊を操る何か』がいる。悪霊退治だけじゃ、駄目なんだ」
(なるほどねぇ……もしかしたらその予想、なかなか鋭いんじゃない? ワタシの可愛い青葉)
カオルの声に頷き、再び駆け出そうとして急ブレーキをかけ、その場にしゃがみ込む。
(ワタシの可愛い青葉、どうしたの?)
(いや……下を姉さまが通るのが見えて……)
(抜け出したのが見つかったら、怒られちゃうかな?)
(どうだろう……どっちにしても、心配はかけちゃうからな……それは避けたい)
(じゃあ、少し待ってから行こうね)
(うん。流石に走り疲れてきてたから、休憩できるのはむしろ助かるよ)
しばし屋根の上に伏せて待機し、物音が聞こえなくなるのを待ってから再び立ち上がる。
「取り敢えず、人の少ない場所を探そう」
(目標は?)
「人間。『何も探していない』人間」

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その⑥

ここのところ、1週間くらい連続で釣り場にあの少女がいた。何度やっても逃げ切れないので、奴から逃げるのは早々に諦めた。
「えへへ、お兄さんが私を受け入れてくれて、私は嬉しいですよ」
「受け入れたんじゃねえ、諦めたんだよ」
「こんなにぴっとり寄り添っても許してくれるんだから、どちらでもさして問題ではありません」
俺の左腕にひっついたまま、奴が言う。
「うるせえ離れろ暑苦しい!」
「あれ、おかしいですねぇ。私、体温の低さには自信あったんですけど……」
「………………」
奴はきょとんとした顔で答えた。実際、こいつの肌はひんやりとしていて、正直に言うとかなり快適だが、それを言ったら負けな気がするので言わない。
海面に目を戻したちょうどその時、いつもより近くであの巨大ウミヘビが顔を出した。
「うわぁ、かなり近いですねぇ。50mくらいでしょうか」
少女はやけにのんびりとした口調で言う。
「こっちに注意を向けたら、一瞬でぱくっといかれちゃいそうな距離ですね」
「あ、ああ……これ流石に逃げた方が良いんじゃ」
「いつものドーリィちゃんがきっとすぐ来てくれますよ。ところでお兄さん?」
「何だよ」
呼びかけられて奴の方を見ると、いつの間にか顔をぐい、と寄せてきていた。
「離れろ」
「はーい」
元の姿勢に戻り、奴が口を開いた。
「やっぱり、ビーストの出る海で釣りともなると、いくら向こうが海から出ないと言っても不安ですよねぇ」
「何だ急に」
「そんな時、強くてお兄さんに忠実な護衛の子がいると安心ですよね?」
「何が言いたい」
「やっぱり、ドーリィと契約してると、こういう時も安心して日常が送れますよね?」
「ええい結論だけ言え結論を」
「むぅ、分かりました」
奴は俺の腕から自発的に離れ、その場で立ち上がって両手を大きく広げてみせた。
「ここにフリーのドーリィちゃんがいます。しかもお兄さんと相性バッチリ! 契約のチャンスですよ、お兄さん」

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Trans Far East Travelogue85

俺達を乗せた船が九州沖を離れた頃、夫婦揃って船室の布団に入って早々,嫁が「済州で思い出したけど,日本におる韓国にルーツがある人達のうち多数派が済州島にルーツば持つ話ば聞いたことあるばってん貴方も済州にルーツはあると?」と訊いてきた。「まず,日本にいる韓国系の人の多数が済州にルーツを持つのは本当だけど、韓国の南部地域一帯にルーツを持つ人自体が多く日本にいて,そのうち済州の人も多いってことかな…理由はいくつかあるけど、かつての朝鮮半島は北が資源が豊富で比較的栄えていて,南側は九州に近付けば近づくほど平野から農業が厳しい山あいの土地になる。済州に至っては当時の技術では開発が難しい孤島で火山もあるから,経済的に本土の中部や北部ほど栄えておらず、しかも日本の中でも当時栄えていた北九州に近くて九州へ出稼ぎに行く人がいた。でも、時代が変わって韓国が独立した頃に半島全体の情勢は一気にきな臭くなって、他の地域と違う成り立ちを持つ済州は韓国の敵とみなされて多くの人が亡くなった悲しい時代が過ぎても暫くは貧しくて,日本に船で逃れた人もいて結果的に済州にルーツを持つ人が増えたんだ。俺の親戚は100%本土の人の子孫だから済州出身者はいないんだけど、俺は済州にもルーツあるよ」と返す。すると嫁が「貴方んことばり好きやけんもっと教えて」と言うので種明かしをする。「実は、母さんのお腹の中に俺の命を宿してもらった時に2人は新婚旅行先の済州にいた。でも、俺は日韓関係が冷え込んで日韓両国で差別やイジメと戦った小中の頃、野球を支えに生き延びたのと日本の血も引く東京生まれだから野球が好きな日本人として扱ってくれると嬉しいな♪」と返すと嫁は「貴方は東京ん誇りばい…カッコよかね〜」と言っているが俺はどう反応していいか分からず苦笑する。嫁は泣きそうな表情で「何か変なこと言うた?」と続けるので「東京の誇りって言ってくれるの嬉しいんだけど,カッコ悪いって言われた気が…」と返すと嫁は「ごめん…忘れとった…嫌われてしもたかな…」と泣き出すので「先祖の仇として憎んでいたはずの九州の人に恋して、その人の夫として幸せにしてもらっているから嫌いにはなれないし、君こそ福岡の誇りだよ。生まれてきてくれてありがとう。お陰で幸せ者さ」と本音を伝えて抱きしめながら口付けをすると嫁は泣き疲れたのか俺の腕でスヤスヤと寝息を立てて眠っている。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その④

青葉が疑問に思いながら戦闘の様子を見ていると、少し離れた場所から金属が擦れるような音が聞こえてきた。
そちらに目をやると、具足を身に纏った武者のような悪霊が、刀を引きずりながら霊能者たちの背後に忍び寄っている。霊能者たちは腕の悪霊に集中していて気付いていない。
「っ、危ない!」
叫びながら、青葉は屋根から飛び降り、武者の幽霊に持っていた杖で殴りつけた。
(……あっ、流石に出てきたらマズかったかな……さっさとここから離れよう)
武者の霊の構えた刀に杖を合わせ、押し返しながらその場を離れ、素早く横道に入り込んだ。
「あの落ち武者は……あれ?」
追ってくるであろう武者の霊を警戒して振り向いた青葉だったが、武者は道の前で立ち止まり、先ほどの霊能者たちがいた方をじっと見ていた。
「……来ない?」
霊能者らに向かっていく武者の霊を呆然として見送り、青葉はその場を離れた。
(ワタシの可愛い青葉。あの人たち、助けに行かないの?)
(うーん……私と違って本職の人たちだし、もう不意打ちにもならないだろうし……。それよりもちょっと気になることがあってさ)
(ほう? 気になること?)
再び屋根の上に登り、青葉は夜の街を駆け始めた。

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Flowering Dolly:ビースト辞典①

・アーテラリィ
大きさ:体長12m(完全体)
『魂震わす作り物の音』に登場したビースト。凡そ人型の外見をしているが、腕部が異常発達しており、逆に脚部は著しく退化している。移動時は両手を用いて這うように動く。
顎を巨大化させ、材質に関係なく摂食し養分に変える咬合力と消化能力に加え、腕部の体組織をミサイルのように発射する特殊能力がある。発射されたミサイルは、対象物に対してある程度の追尾性能を有する。
また、生命力に優れ、首と心臓が無事であればしばらくの間は生存できる。顎も残っていれば摂食によって急速に回復が可能。

・ニュートロイド
大きさ:身長2.2m、尾長2.5m
『Bamboo Surprise』に登場したビースト。外見は二足歩行する大型有尾両生類のようだが、両足は2本指で、頭部はどちらかといえばワニのような大型爬虫類のものに近い。眼球は無く、代わりに皮膚全体が受けた光を視覚情報として取り入れている。知能が高く、人語を理解し、高速並列思考が可能。本気で脳を回転させていると、周囲の動きがゆっくりに見える。今回は腕を捥がれて動揺していたため、それが起きなかった。
戦闘時には手足や尾を用いた格闘を行う。
体表からは粘液を分泌しており、これにはニホンアマガエルの粘液と同等程度の毒性がある。

・キマイラ
大きさ:体長8m、肩高3.5m
『猛獣狩りに行こう』に登場したビースト。外見は体毛の黒い巨大な獅子の肩から、ヤギの頭と竜の頭が生えたもの。
獅子頭は口から炎を吐き、竜頭には鋭い角と牙があり、山羊頭は声が怖い。冗談抜きに吠え声を聞くとまともな生物なら萎縮して動けなくなるか恐怖で失神するレベルで声が恐ろしい。

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Flowering Dolly;STRONGYLODON 解説編 1

企画参加作品「Flowering Dolly;STRONGYLODON」の解説編その1です。

・ストロンギロドン Strongylodon
モチーフ:Strongylodon macrobotrys(ヒスイカズラ)
身長:167cm 一人称:僕 紋様の位置:左手の甲 固有武器:翡翠色の長剣
翡翠色のジャケットとスラックスに白いブラウスで青緑色の髪のドーリィ。
飄々としており、掴みどころがない。
過去にマスターを失ったことで戦意を失い、ドーリィとしての本能が次のマスターの元へ自らを引き寄せようとも適合者と契約しないようにしていた。
物語の中で強かったのは覚醒による補正みたいなものかもしれない。

・幣島 祢望(少年) Heijima Nemo(The boy)
身長:153cm 一人称:ぼく
ストロンギロドンに何かと遭遇していた少年。
学年は小5。
平凡な感じの子だが芯はある。
ストロンギロドンの正体と自分に近付く理由、そしてその過去を知って、彼女のマスターになることを選んだ。
ちなみにフルネームは本編内で出そうとしたけど上手くいかず、ここで出すことになってしまった。
ちなみにリコリスのマスター・喰田 麗暖は同級生である。

・ストロンギロドンの前のマスター The former master of Strongylodon
ストロンギロドンの前のマスターだった少女。
年齢は中学生くらい。
ドーリィ・マスターとしてその責務を全うしようとした健気な子。
住んでいた街がビーストの襲撃にあった際、ストロンギロドンを置いて避難できなかったのか彼女の元に戻ろうとして亡くなってしまう。
彼女の死はストロンギロドンの心に影を落とすことになった。
実は名前が一応あるけど出さなくていいかなってことで出さない。

その2へ続く。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その③

その夜遅く、青葉は長女が家を出る気配を自室で感じ取り、布団から抜け出した。
窓から部屋を抜け出し、蔵から持ち出した木製の杖を利用して敷地の塀を跳び越え、真夜中の街に繰り出す。
この日、街の至る所には霊能者と思しき人影があり、見つからないように青葉は屋根の上を移動することに決めた。
(……そういえばカオル)
心の中で、愛刀の半身に呼びかける。
(どうしたの、ワタシの可愛い青葉?)
(『力』って、この杖のことなんだよね?)
(まあね。なんでか今は眠っているみたいだけど……ワタシの可愛い青葉の愛刀〈薫風〉と同じように怪異に対して有効だから、役に立ってくれるよ。それに、〈薫風〉と違って持ち歩いても怪しまれない!)
(……たしかにね)
外見上完全に日本刀である〈薫風〉と比べて、全長1m程度のやや古風なただの杖にしか見えないそれは、普段携行するにはよほど適切に見えた。
「……っとっとっと」
民家から民家へ飛び移り、バランスを崩して屋根の上を転がりながら態勢を整える。立ち上がって服についた埃を払っていると、彼女のいた屋根の下、住宅街を貫く通りから人の騒ぐ声が聞こえてきた。
(……?)
屋根の端から、静かに顔を出して見下ろす。3人の霊能者が、無数の青白い腕の姿をした悪霊と交戦していた。
(……あれが、大量の霊能者を駆り出すほどの怪異? にしては大して強くもなさそうな……)

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その④

午後3時頃、釣果0で帰ってくると、ちょうどのタイミングで親から電話がかかってきた。テレビ通話をオンにして通話を始める。
「もしもし母さん?」
『あぁ出た出た。いつもの生存確認』
「もうそんな時期か。こっちは見ての通り無事だよ。怪我も病気もしてないし、ちゃんと飯も食ってる」
『そう、それなら良かった。でも、何かあったらすぐに他人に助けを求めなさい。こっちに来たって良いんだから。大体なんでそんな危険な場所に残ったんだか……』
「別に良いだろー。郷土愛だよ郷土愛。強いドーリィだっていんのに、むしろみんながビビり過ぎなんだって」
『はいはい。…………ところで』
向こうの視線が何だかおかしい。やけに画面端を気にしているような……。
『その子、誰?』
「あー?」
母の言葉に横を向くと、いつもの釣り場で出会ったあの少女が満面の笑みでこちらを見返していた。
「……………………」
何か言おうとした奴の口にブロック・ミール(保存食)をぶち込み、下手なことを言わないようにしてからスマートフォンに向き直る。
「最近できた友達。ちょっと用事があって来てもらってんだよ」
『へえ……?』
「っつーわけで忙しいから切るぞ。じゃ」
いやににやついている母親に手短に挨拶して通話を切り、少女の方に向き直る。

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Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 11

「…」
青緑色の髪の少女は地面に着地すると、静かに後ろを振り向く。呆然と少女の戦いを見ていたドーリィたちはハッと我に返った。
「貴女…」
リコリスはそう言いかけるが、青緑色の髪の少女は前を向いて歩き出す。リコリスはあ、ちょっと⁈と彼女を追いかけ始めた。ゼフィランサスとアガパンサスもリコリスに続く。
「どこへ行くんですの⁈」
「どこって少年たちが避難している所だよ」
「それは分かっていますけれど…」
貴女、どうして急に戦う気になったんですの?とリコリスが尋ねると、青緑色の髪の少女はぴたと足を止める。
「やっぱり、アテクシたちを…」
「別に、君たちを助けたいからとかじゃないよ」
リコリスが言い終える前に青緑色の髪の少女は返す。
「僕はまた戦う理由ができた、それだけさ」
少女がそう言っていると、あ!と聞き覚えのある声が聞こえた。
ドーリィたちが見ると裏通りから避難所に逃げていた少年の姿が見えた。その傍にはドーリィ・マスターたちもいる。
「さて、マスターたちの所に戻ろうかね」
青緑色の髪の少女はそう呟くと、少年たちの方へ歩き出す。リコリスたちはその様子を後ろから黙って見ていたが、不意にリコリスはねぇ!と呼び止める。
「貴女、そう言えば名前を聞いてなかったけれど」
名前は?とリコリスは青緑色の髪の少女に尋ねる。少女は振り向かずに答える。
「…ストロンギロドン」
それが僕の名前さ、と少女はまた歩き出す。
リコリスたちはその様子を静かに見送った。

〈おわり〉

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その③

次の日、朝早くいつもの釣り場に行ってみると、昨日の少女が既に釣りを始めていた。何となくその場から離れようとすると、突然こっちに振り向いてきた。
「あっお兄さん。んへひひ、おはようございます」
「………………」
1歩後退る。少女が立ち上がった。もう1歩後退る。こちらににじり寄って来た。後ろを向いて走り出す。一瞬で追いつかれて背中に貼り付かれた。
「だああ離れろ! 昨日から何なんだよお前はぁっ!」
「うひひひひ……」
「だっかぁらあっ! 笑って誤魔化してんじゃあねえ!」
体感数分の格闘の末、ようやく少女を少し引き剥がしたのとほぼ同時に、遠くでウミヘビが顔を出した。思わずそちらに視線が向く。
「あれ……今日はいつもより近くに出てきましたね?」
「あ? そうか?」
「そうですよぉ……いつもより3倍近いです。今、大体ここから100mくらいの距離ですかね?」
「そういや何かデカいとは思ったけど……」
「まあ……こっちには来ないでしょうし。それよりお兄さん、今日は釣りしないんですか?」
「いやビーストが近くにいてできるわけ無いだろ。あと離れろ」
ウミヘビに気を取られた隙に再び身体をすり寄せてきた少女の頭を掴んで引き剥がそうとする。何故か奴はすごい力で引っ付き続けていた。
「んへへ、こわいのでもう少しくっつかせてください」
「駄目に決まってんだろ離れろ」
「こんな美少女に抱き着かれてるのに、何が嫌なんですか?」
「もう3倍血色良くなってから出直せ阿呆」
「体型はこのくらいが好み……と」
「馬鹿なの?」
再び引き剥がそうとしていると、上空を何かが物凄いスピードで通り過ぎて行った。
「うおっ」
「おやいつものドーリィちゃん。朝早くから大変ですねぇ」
「あれが来たなら、もう大丈夫か」
「少なくとも陸地は安心安全でしょうねぇ」
「なら離れろ」
「腰が抜けててむりそうでーす」
「ナメてんじゃねえぞ」

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その②

翌朝、青葉が目覚めて居間にやって来ると、長女と平坂が話し合っていた。
「あれ、潜龍さん。あ、姉さまおはようございます」
「あらおはよう青葉ちゃん」
姉に頭を下げ、青葉は平坂に近付いて行った。
「やっぱり頼るんですね」
「ああ、人手は多かった方が良い」
「正しい判断だと思いますよ」
親しげに話す二人に、青葉の姉は首を傾げた。
「青葉ちゃん、いつの間に仲良くなったの?」
「まあ、少し縁がありまして。姉さま、頑張ってくださいね」
「ええ」
青葉は居間を後にして、母屋から出た。
(ねえ、ワタシの可愛い青葉?)
「……なに、カオル?」
青葉に憑依した愛刀の半身が、脳内に直接響く声をかける。
(『力』、欲しくない?)
「……力?」
(そう。今この街に現れている何かに立ち向かうための力)
「……”潜龍神社”が動いてて、姉さまも出るのに、無力な私なんかいらないでしょ」
(ねえ、ワタシの可愛い青葉? ワタシは『欲しいか』って訊いたんだよ。『必要か』じゃなく、ね)
どこへ行くでも無く庭を歩いていた青葉は、カオルの言葉に足を止めた。
(客観的な要不要じゃなく、ワタシの可愛い青葉の素直で正直な願望を聞きたいな)
「…………どうすれば手に入るの?」
(そう来なくっちゃ。この家には大きな土蔵があったよね? そこに行って)

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル キャラクター紹介

・ヴィスクム
モチーフ:Viscum album(ヤドリギ)
身長:139㎝  紋様の位置:左の掌  紋様の意匠:絡み合う蔦草の輪
紅白のもこもことした防寒衣装に身を包んだ、深緑色のショートヘアのドーリィ。
得意とする魔法は、対象と自身の肉体のスワップ。紋様の浮かぶ左手で触れた相手の肉体の一部を、自身の同じ部位と入れ替えるというもの。他人の身体の一部を借りた状態でその部位に触れれば発動する。
①魔法発動のトリガー(左掌の接触)②魔法発動の意思(ヴィスの脳で決定)③スワップ対象範囲の選択(ヴィスの脳で決定)の3要素が魔法行使に必要なのでたいへん厄介。
固有武器は全長1.2m程度の全く同じ形状の直剣7振り。7本全部合わせて1つの武器。
戦闘時に動かしやすいように、マスターのキリの成長に合わせて身長を変えている。なお契約してからの約6年、彼女の成長量は合計1㎜にも満たない模様。
キリに身体強化を施した自身の腕や脚をスワップすることで彼女も戦えるようにしたり、キリの負傷部位を自身の無傷のパーツと入れ替えつつ自身が受け持った負傷部位は回復魔法で治癒するなど、マスターのサポートに魔法を使う傾向にある。ちなみに最強なのは右腕だけをスワップした状態。手を叩く度にスワップの魔法で全身をスワップし、位置の入れ替えを行いながら大量の剣で斬りかかるコンビ戦術が鉄板。
Q,なんでキリちゃんの肌の傷痕は治してあげないの?
A,「傷だらけのちょっとワイルドなキリちゃん素敵♡」だそうです。ふざけてるよね。

・キリ
年齢:16歳  性別:女  身長:139㎝
ヴィスクムのマスター。ヴィスクムのことは「ヴィス」「サンタクロース」「相棒」などと呼んでいる。生育不良の肢体と全身小麦色に日焼けした傷だらけの肌が特徴的な黒髪ショートヘアの少女。
元は片親の家庭だったが、幼い頃に、あるドーリィのマスターだった父親がビーストの被害に巻き込まれてドーリィ諸共死亡し、それ以来ビーストたちへの復讐のために生きてきた。ある時遭遇したビーストから致命傷を受け、死にかけていたところをヴィスクムにマスターにされる形で命を救われた。
自分の肉体に対する執着心が乏しく、負傷にあまり気を払わない。これはヴィスクムの魔法も悪いところある。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その⑥

ヴィスクムはその場でクラウチングスタートの構えを取り、全身に身体強化の魔法を高威力で巡らせた。
(キリちゃんをあの有毒空間の中にあまり長い時間いさせるわけにはいかないからね。『一瞬』で、突き抜ける!)
超高速で射出されるように、ヴィスクムは毒霧の中に飛び込んだ。そしてキリとスワップした右手と自身の左手を打ち、勢いそのままにキリと全身をスワップする。
キリはちょうど両手の位置に生成されていた2本の剣を握り、ビーストの心臓部を狙う。
それを迎撃しようとした8本の首には、転移術によって出現したヴィスクムが対応する。半数の4本は剣の投擲によって地面に縫い留められ、残り4本は剣1本で捌かれ、そのうち1本は切断された。
「そのまま……突っ込め!」
完全に防御の空いた胴体に到達したキリは、速度の乗った1撃目で鱗の装甲を破壊し、勢いの減衰しないままの2撃目で肉を貫き、骨を打ち砕き、心臓を破壊しながらすれ違った。そのまま廃墟の壁に衝突しそうになるキリを、転移したヴィスクムが抱き留める。
「やったよキリちゃん。君が倒したんだ」
「うん……ヴィスもありがと。私だけじゃまず無理だった」
「そりゃキリちゃん、ただの発育不良の人間だし……。ほら、帰ろう? こんなに大きなビースト倒したんだから、きっと手当もたっぷり付くよ。美味しいもの食べてゆっくり休もうね」
「ん」
2人は並んで、SSABへの道を歩き出した。

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Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 10

「ご機嫌はいかがかい」
僕はまぁまぁなんだけど、と少女は首を傾げる。ビーストは唸り声を上げるが、少女はこう言った。
「…残念だけど君にはここで退場してもらおうか」
青緑色の髪の少女はそう言うと、ビーストの目の前から消えた。ビーストは目の前の少女がどこへ行ったのか困惑するが、突然背後に気配を感じた。ビーストが身をよじって後ろを見ると、翡翠色の長剣を持った少女が斬りかかってきていた。
「“{”{$‼︎」
ビーストは咄嗟に光壁を張って少女の攻撃を弾く。しかし少女は即座に姿を消して今度はビーストの頭部の右側に現れた。
ビーストはそちらに顔を向けて火球を吐くが相手は手に持つ長剣で火球を弾く。そしてまた瞬間移動してビーストの右目に長剣を突き立てた。
「€|${‘|*$]$\>\^]$\‼︎」
ビーストの右目からはドス黒い血が溢れ、ビーストは悲鳴を上げた。そのまま少女は瞬間移動し今度は左目に長剣を突き立てる。先程以上にビーストは絶叫し、その場でじたばたと暴れた。
「君には街を破壊したお仕置きが必要だね」
不意にビーストの目の前で少女の声が聞こえる。ビーストは火球を吐こうとするが、青緑色の髪の少女はすぐに高く飛び上がった。
そして少女は数十メートルの高所から長剣を構え、ビーストの目の前に来た所で長剣を振り下ろした。
ビーストの脳天は斬り裂かれ、ビーストはその場に崩れ落ちた。

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Flowering Dolly:釣り人の日常 その②

「全然釣れないのも、ビーストの影響ですかねぇ?」
少女の方を見ると、ニタニタと意地の悪そうな表情でこちらを見上げている。
「何だお前」
「釣り人です」
「なら釣りしてろ」
「でも魚いないし……」
「それはそうだけども……」
取り敢えずウミヘビの方には注意を向けつつも、釣りを再開した。30分ほど、隣にすり寄ろうとしてくる少女を片手で牽制しながら釣り糸を垂らしていると、沖合の巨大ウミヘビが急に仰け反った。
「お、ようやくドーリィが来たな……」
「来ましたねぇ。今回も追い払うだけになるんですかねぇ」
「あのウミヘビ、無駄にタフだからな……。頑張ってほしいけどなぁ……」
「あの子のお陰で上陸してまで大暴れしたりはしないですから、それだけでも十分助かりますよね。まあアレのせいでこの町の漁業関係者は大体職を失っちゃいましたけど。海に出たら沈められちゃう」
「こうして堤防釣りしてる分には平気だから良いんだけど……いや全然良くねーか」
「んひひ…………あっ」
少女の声に海面を見ると、彼女の竿から伸びる糸が引かれている。
「かかったけど……雑魚ですねぇ……」
そう言いながら、少女はしばらく釣竿を上下させていたが、急に糸が引かれなくなった。
「逃げられちゃいました」
「そうか」
ウミヘビの方から爆発音が響いてきた。
「やったか?」
「やってないんじゃないですかね」
そっちを見てみると、巨大ウミヘビはまだ生きているようだった。
「ほらぁ」
「マジか……」

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Flowering Dolly;STRONGYLODON Act 9

しかし逆に頭部分の皮膚はあまり硬くないため頭部を狙えば勝ち目がありそうだったが、このビーストは火球を口から吐くため簡単には攻略できなかった。
「アガパンサス」
不意にリコリスが名前を呼んだので、アガパンサスはどうしたのリコリス?と彼女の方を見る。
「貴女…ビーストを囲うようにバリアを張ることってできるかしら⁇」
急に聞かれてアガパンサスはえっと…と少し考える。
「多分できるわ」
「ならお願い!」
そう言うとリコリスはゼフィランサス!と声をかける。ゼフィランサスははいっ!と返した。
「貴女はアテクシと共にアガパンサスからビーストの気を逸らすわよ!」
「あ、はい!」
リコリスはビーストの後ろへ回り込むように走り出す。ゼフィランサスもそれに続く。
ビーストは2人を追いかけ始めたが、突然目の前の何かにぶつかった。アガパンサスがビーストの周りに光壁を張ったのだ。
「$~€|+{£|>|*{£_€_>‼︎」
ビーストは光壁を破壊しようと体当たりするが、光壁はびくともしない。
「今よ!」
2人共‼︎とアガパンサスが叫ぶと、リコリスは高く飛び上がって赤い2振りの刀を構える。そしてビーストがいる光壁の中に飛び込んでいった。
ビーストは口から火球を吐いて応戦するが、リコリスは火球を刀で弾く。そのまま彼女はビーストの脳天目がけて斬りかかった。
しかしリコリスはビーストの目の前で見えない壁のようなものに弾かれた。
「⁈」
何が起きているか分からないままリコリスは地面に落下する。ビーストがバリアを張った、そのことに彼女が気付いた頃には、ビーストが自らが生成した光壁でアガパンサスの光壁を破壊していた。
「…嘘でしょ」
ゼフィランサスが慌ててキャッチしたことでリコリスは無事地上に着地できたが、ビーストは逃げ出してしまった。
リコリスは思わず呆然とするが、不意にビーストは通りの真ん中で立ち止まった。ドーリィたちが見ると、ビーストの目の前には青緑色の髪で翡翠色のジャケットとスラックス、白いブラウスの少女が立っていた。その左手には青緑色の花の紋様が浮かび上がっている。
「貴女…まさか‼︎」
あの少年と!とリコリスは驚く。ゼフィランサスとアガパンサスも目を丸くした。
青緑色の髪の少女はビーストを見上げてやぁと微笑む。

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Flowering Dolly:アダウチシャッフル その⑤

「相棒ぉっ!」
体外に続く穴に向けて、キリが呼びかける。
「はいはーい……っと!」
ヴィスクムは体外からビーストに接続された左腕に転移術で接近し、その掌を『キリの左手で』叩く。
「スワップ」
魔法が発動し、『ヴィスクムの左腕』と『キリの左腕』の位置が入れ替わる。
(よし、これで私の腕は取り戻せた)
そのまま己の下に戻ってきた左腕で、ビーストの胴体に軽く触れる。『ヴィスクムの左腕』と『ビーストの左前腕』が入れ替わり、竜の腕がヴィスクムに移動する。
「っはは、でっかいだけあって腕も重いね! これで……そおりゃっ!」
そのまま、竜の腕でビーストの頭部の1つを殴り潰した。残り8つの頭部は同時に咆哮をあげ、一斉にヴィスクムに襲い掛かる。その1本は、彼女のかざした竜の腕を噛みちぎった。
「あぁららー、自爆だね?」
挑発的に笑ったのと同時に、ヴィスクムの身体はビーストの体内に転移した。キリが自身に移動していたヴィスクムの左腕で、2人の位置を入れ替えたのだ。
「そしてぇ……ぽいっと」
短距離転移術で体外に移動し、毒霧の範囲外に出現してからキリと入れ替わる。
「キリちゃん、身体は大丈夫? 毒霧はまだ収まってないけど……」
隣に転移してきたヴィスクムに、キリは親指を立ててみせた。
「息止めてたから大丈夫」
「それなら良かった。……さぁて。お腹に大穴、片腕欠損、頭も1つ取った。一気に決めちゃおうか!」
「うん。手ぇ貸してもらうぞ、相棒」
キリは立ち上がり、左隣のヴィスクムと手を叩き合わせた。