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五行怪異世巡『竜』 その④

「我らが祭神、爽厨龍神大神でありましたか。ここまでの無礼、こちらの娘の分も含め、深くお詫びしたい」
「えっ、あ、お、おお我が忠臣よ、ようやく理解したか大馬鹿者め」
「面目次第も無く……」
子どもは武器を下ろし、元の和装の普段着の姿に戻った。
「いやしかし、強かったねェ祭神サマ。何つったっけ?」
2人に近付いてきた種枚が、どちらにとも無く話しかけてくる。
「爽厨龍神大神。人の子は我をそう呼ぶのだ」
子どもの答えに、種枚は複雑な表情をした。
「長いな。もっと縮めた愛称とか無いのか?」
「貴様、仮にも神格を『愛称』で呼ぼうって言うのか⁉」
「殺せば死ぬ奴ァ何でも人間と同格だろ?」
「な、お、貴様ぁ⁉ 最早清々しい奴め!」
「で、どう呼べば良い? 『さっちゃん』とでも呼んでやろうか?」
「やめいやめい! そのような我の威光の欠片も感じられぬ渾名を使うのは!」
「チィ……なら『リュウ』で。龍神だから『リュウ』。強そうだしこれで良いか?」
「むぅ……まあ、良かろう。では、我はもう帰るからな! まったく、せっかく顕現してやったのに、こんな手荒な真似をするとは……」
ぼやきながら、リュウは姿を消した。
「……しかしよォ、潜龍の」
「何だ」
「ここの祭神って、龍神だったんだな。“潜龍神社”の名前は祭神とは無関係だと思ってたよ」
「無関係だぞ。祭神が龍なのは単なる偶然だ。そもそもこの街の北にそこそこの川が流れているだろう。龍神信仰が興ること自体は自然な地形なんだよ」
「あー……たしかに」

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ただの魔女 その⑤

背後に気配と足音。咄嗟に振り向きざま、〈指差し〉を放つ。けど、奴は既にそこにはいなかった。
「……うん。何となく分かってきた」
また背後から声がする。きっと次振り向いても、あの転移の術で消えるんだろう。
「あなたは、私達のこと心配してくれてたんだね」
「はあぁあっ!?」
奴のふざけた言葉に思わずそちらを向き、〈邪視〉を使おうとした。けど無理だった。それより早く、あいつの短槍が、私のこめかみの辺りに直撃した。
視界に火花が散り、そのままコンクリートに叩きつけられる。この鈍痛と熱、きっと頭が割れたな。
「あなたは、『仲間』のことが心配だったんだ。同じ“魔女”である私達が。きっと“魔女”って存在にも思い入れがあるんだろうね」
頭上から声が掛けられる。私が倒れてるんだから当然だけど、気に食わない。睨み返そうとしたけど駄目だ。血が目に入るのと殴られた衝撃とで視界が定まらない。
「…………私があなたの心にどこまで寄り添えるかは分からないけど」
あいつの短槍の石突が、私の顎を持ち上げる。
「今から私は1人の“魔女”として、友人を傷つけるあなたを何としても止めるから」
「…………あぁ、畜生」
頭が痛くて熱い。目も見えない。何より大嫌いな『魔法少女』に見下されているこの状況が腹立たしい。
それなのに。
「何だよ…………嬉しいじゃんか」
震える両腕をどうにか踏ん張って、身体を起こす。
「ねぇ。名前、教えてよ」
「…………? えっと、サツキ。中山サツキ」
「そっか……オーケイ、サツキ」
右目に溜まった血を拭い、ありったけの敬意と殺意を込めて彼女を睨み返す。
「私の愛しい同志! 憎むべき敵! 私の全力を以て、呪い殺してやる!」

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ロジカル・シンキング その⑪

「〈Parameters〉」
炎の中を駆けるアリストテレスの手の上に、魔力塊とウィンドウが再び展開される。
(威力を光と音に振って、射程を削る。代わりに硬度に振って安定化……射撃じゃなく、投擲を主体としたプリセット)
「〈Preset : Stan Grenade〉」
炎の向こうにいるであろう怪物に向けて、手の中に生成された拳大の楕円球を投げつけた。
強烈な光と甲高い音が炸裂し、怪物の注意はそちらに向かう。しかし命中したのは怪物の位置からは僅かに外れた瓦礫の山であり、怪物はすぐにアリストテレスを探し始めた。
それを物陰から観察していたフレイムコードは、ニタリと口角を上げた。
(…………あー、なぁるほどぉ。ヒオ先輩が言いたかったこと、なーんとなく分かっちゃった。『火炎』を使う私だからこそ、この場でできる事。普段は周りを焼きかねないから、簡単には使えない私の『魔法』。けど……今は周囲が炎で埋め尽くされている。他人が生み出した炎を操るのは流石に私にも無理だよ? けど!)
「同じ炎なら『飲み込める』! なんてったって私は、炎を自在に奏でる魔法少女【フレイムコード】なんだから!」
フレイムコードがスタッフを振り回し、炎の帯を数本展開する。それらは渦を巻きながら周囲の火の海に突っ込んでいき、その勢いで巻き込むように取り込み、その勢いを増しながら変形していった。
周囲の火炎の挙動の不自然さに気付いたのか、怪物はフレイムコードに意識を向ける。しかし、その姿は炎のうねりに目隠しされて目視できず、滅多矢鱈と振り回した尾も直撃には至らない。
「ひひ、こっちに気を取られてて良いの? 私はただ、『火を揺らしている』だけなんだよ。お前が私達の姿を見られないように。『先輩がお前を狙う邪魔になる壁』を剥がせるように!」
怪物の頭の周囲を取り巻いていた炎が一瞬揺らぎ、その隙間から魔力性の閃光弾が投げ込まれ、怪物のまさに眼前で炸裂した。周囲の炎を更に上回る光量を瞬間的に浴びた視覚は瞬間的に麻痺し、それによる動揺か、怪物は一層激しくその場で暴れ狂う。

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ロジカル・シンキング その⑩

「先輩助けに来まなぁーんかヒオ先輩も変身してるぅ⁉」
炎を破って現れたのはフレイムコードだった。
「あ、ホタちゃぁん……フウリ先輩負傷中……たすけて…………」
フレイムコードに気付いたフウリが、蚊の鳴くような声で呼びかける。
「りょ、了解です! けど、不謹慎だけど火事が起きてたのは都合が良かった。私の『魔法』でも心配せずに使える。はーちゃん!」
フレイムコードに呼ばれ、炎の隙間をドゥレッツァが駆け込んできた。
「うぅ、足裏熱い……」
「はーちゃん、フウリ先輩をお願い」
「分かりましたっ。それじゃ」
ヘイローを背負い、ドゥレッツァは素早く火の中から離脱した。
「それじゃ、あの化け物片付けますか、ヒオ先輩」
「うん。早速来るよ」
怪物が口から火炎を吐き出した。それに対し、フレイムコードはスタッフを振るって炎の渦を生成し相殺する。
続いて放たれる尾の一撃をアリストテレスの障壁で一瞬防ぎ、破壊されるより早く後退して回避する。
「ぅあ……これ、マズいかもですヒオ先輩…………」
「何が?」
「いやぁ……だって考えてもみてくださいよ。好き好んで周囲火の海にする火炎放射機能搭載モンスターが、私の『火』で倒せると思います?」
「大丈夫、そっちは私の仕事だから。ホタはホタの『魔法』でできることをやって」
「私にできることぉ……?」

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五行怪異世巡『竜』 その③

「なッ⁉」
慌てて子供を捕まえようと、平坂が前に出るが、子どもはそれを機敏に躱し、屋外へ出て行く。しかし数m走ったところで、上から降ってきた種枚に組み伏せられた。
「ぐああー! 放せ無礼な人の子めがー!」
「お、この子見る目あるねェ。潜龍のなんかよか、よッぽど私のことが良く見えてる」
「うるさい! 我を神格と知っての狼藉かー⁉」
「神だろうが今死んでねェなら殺せば死ぬだろ」
無感情で平坦な種枚の返事に、子どもが息を呑む。瞬間、種枚の身体が弾かれるように子どもの上から転げ落ちた。
「おい、どうした! 無事か!」
駆け寄ってきた平坂に、種枚は片手を挙げて応える。
「ぅぁー……1回食らったことあるから慣れてはいるがよォー……こいつ、シラカミメイよか出力がデケぇや」
「何?」
よろよろと立ち上がりながら、種枚は言葉を続ける。
「このチビ、『雷』を使いやがる」
2人が子どもに目を戻すと、そこには小さな身体に合った大鎧を身に纏い、七支刀を構えた件の子どもの姿があった。
「あらら……可愛い剣士さんもいたもんだ。なァ潜龍の?」
「……何だ」
「あれだけの真似ができるモノが、本気で『神を騙る物怪』だと思うかね?」
「……武具の生成、雷の発生、それにあの構え、ほんの1桁歳の人間に身に付く練度じゃあない。これだけの多才性……」
「……つまりィ?」
平坂はそれには答えず、無警戒に子どもに向けて歩いて行く。
「ぬ?」
そして半ば呆然としている子供の目の前に跪いた。

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五行怪異世巡『竜』 その②

「へェ、それならなんであんな失礼な真似してるんだ?」
「お前なら、神を名乗る子どもを信用するか?」
「それはお前が一番信じてやらなきゃならないことなんじゃないのか?」
「相手が祭神を名乗り悪さを企む物の怪だったりしてみろ。それこそ顔向けできないだろう」
2人の話し声に気付いてか、項垂れていたその和装の子供が2人に顔を向けた。
「ああっ、貴様あ! おい無礼な跡継ぎよ! さっさとこの縄を解け! そっちの娘でも良いぞ。せっかく我が顕現してやったというのに、有難がる気配の一つも見せないとは! 恥を知れ恥を!」
喚く子どもを放置して、種枚は平坂に話しかける。
「あんなこと言ってるぜー? 放してやったらどうだ? お前がやらないなら私がやるぞ」
「誰が許すか」
「お前にゃ私は止められねーだろうがよ」
2人が言い争っている間、子どもは何も言わず縄の拘束の中で藻掻いていた。ふと、そちらに目をやった種枚が、急に口を噤む。
「……どうした、鬼子」
「ん、いやァー……ちとヤバいかもしれんなァー……って」
種枚の視線を追って、平坂が子どもに目をやるのと、子どもが自身を拘束している縄を切断して逃げ出すのは、ほぼ同時だった。

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ロジカル・シンキング その⑨

引き金を引くと、目の前で燃えている建物に向かって魔法弾が発射された。その弾丸が建材に触れた瞬間、広く亀裂が入り、その場に音を立てて崩壊する。
壁の向こうでは、怪獣風の外見の怪物とヘイローが交戦していた。
「あ、ヒオちゃん! 助きゅぅっ」
怪物の振るった尾がヘイローに直撃し、ヘイローは燃える瓦礫の上に叩きつけられた。
「フウリ!」
ヘイローを踏み潰そうと足を持ち上げた怪物の前に、半ば反射的に飛び出したアリストテレスは、リボルバー・ハンドガンでその脚に射撃を放った。その威力に弾かれ、踏みつける攻撃は大きく逸れる。
「フウリ、大丈夫⁉」
「……ちょっと…………無理、かも……」
弱々しいながらも返事があったことに安堵し、アリストテレスは再びパラメータ・ウィンドウを展開した。
(射程は無くて良い。音、熱、光、威力もギリギリまで削って、硬度に全部ぶち込む!)
「〈Preset : Solid Shield〉!」
怪物の振るった尾に向けて引き金を引くと、アリストテレスから1mほどの地点にエネルギー製の障壁が生成され、怪物の攻撃を阻んだ。
(む……思ったより威力あったな。あとで耐久もうちょい上げないと)
ひび割れた障壁を見ながらヘイローに駆け寄る。
「ヒオちゃん……私に構ってちゃダメだよ……あいつ、結構強いし、それに……」
怪物の踏み付けを、アリストテレスは斜めに展開した障壁で受け流す。
「……うん、ヒオちゃんはあの怪物に集中して」
「フウリ、なんで……あぁ、うん。分かった」
アリストテレスがヘイローを再び地面に横たえ、怪物の前に立ちはだかったのとほぼ同時に、背後の炎の壁が切り裂かれるように分断された。

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ただの魔女 その④

「……なんで…………どうして、こんなことを?」
彼女が尋ねてきた。
「『こんなこと』って?」
「私達、仲間じゃないですか……なんで、同じ“魔法少女”に」
ありったけの殺意と敵意、呪詛を込めて奴を睨みつける。肩の辺りを重点的に見つめ続け、右の鎖骨を粉砕する。
「っ……⁉」
「ぎっ……ふ、ざ……けるなよ…………!」
『実害』を与える程の呪術となるとこっちの負担も大きい。両の眼球が焼けるように痛むけど、そんなの関係無い。今はこの舐め腐った“魔法少女”をブチ殺すのが先だ。
「うぅ、なんで……」
取り落とした短槍を拾い上げようと膝をついた奴に接近し、その顎を蹴り上げる。
仰向けに倒れ込んだ奴の身体の上に腰を下ろし、喉に手をかける。これで命は握った。
「やっぱりそうだ……」
奴が何か言い始めた。
「あなたは私達を『殺したい』わけじゃない」
再び睨む。奴の左眼が弾け飛んだ。こちらの両目からも生温い液体が溢れ出してきているけど構わない。けどこいつを殺す前に、これだけは言っておかなくちゃならない。
「良いか! 私もお前も、所詮は悪魔に魂売り渡した“魔女”でしかないんだよ! 飽くまで本質は『邪悪』だ!」
「なっ……! 違う! ヌイさんは、魔法少女は……!」
「黙れェッ!」
奴のもう片目も潰す。こっちも左眼が見えなくなったけど問題無い。
「ただの子供に甘言吐いて死地に送り込む人外が、悪魔じゃなくて何だってんだ! ……そのくせお前ら、何を名乗って……『魔法少女』、だと……? 正義の味方にでもなったつもりか⁉」
奴の首を掴む力が自然と強まる。
「私は自分の意思で悪魔と繋がった。その『悪性』を誇りにもしている! 自ら選んだ道への『責任』であり『義務』だからだ! それをお前ら……“魔女”の身で自分の邪悪に目を背けてんじゃあないぞ!」
奴の首を捩じ切る勢いで手に力を込めた。けど、その瞬間、奴は姿を消した。また転移の術だ。

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ロジカル・シンキング その⑧

「あ、ヒオちゃんやっほ。……可愛い衣装だね?」
「ん、フウリ」
ヘイローは自身の魔法によって頭上の光輪を操作し、崩落する建物から逃げ遅れた一般人を守っていた。
「突然で悪いんだけど、ヒオちゃん。助けて? ちょっと今動けそうに無いんだけど……私の魔法、火力あり過ぎて巻き込んじゃいそうだし……」
「分かった。こっちは任せてフウリは怪物の方を片付けて」
「うん。いくら私でもヘイロー無しで怪物とは戦えなかったから……じゃ、まず避難路を作ってくれる? そしたら攻撃用に使えるようになるから」
「了解」
ヒオ、もといアリストテレスが手を翳すと、その手の中に魔力の塊が光球となって出現した。
光球を、退路を阻む炎に投げ込み、続いてもう一つ光球を生成する。そちらの光球はゆっくりと彼女自身と一般市民たちを飲み込むように膨張し、彼らが完全に取り込まれたタイミングで、事前に火の中に投げられていた光球が炸裂し、炎の中に道ができた。
「はい皆さん、あの『避難路』が消えないうちに早く逃げてください。大丈夫、全員通り抜けるのにかかる3倍くらいは維持できるので」
一般市民はよろよろと順番にその通路を通って火の外へ逃げ出していった。完全に避難が完了するのを確認してから、指を鳴らして避難路を形成していた力場を消滅させる。
(……よし。今のところきちんと使えてる。そうだ、早くフウリの手伝いに行かなきゃ)
再び光球を生成する。
「〈Parameters〉」
アリストテレスの目の前に、光のウィンドウが出現する。
(『魔法』とは、『魔力』というエネルギーを別のエネルギーに変換する技術。熱と音は……別にいらないかな。射程も少し削って……下げた分を威力と貫通力に乗せる)
各パラメータを操作し終えたところで、光球は小さな塊となってアリストテレスの掌の上に落ちた。
先端のすぼまったおおよそ円筒形のそれを、腰のホルスターから取り出したリボルバー・ハンドガンの回転弾倉に込める。
「〈Preset : Crush Bullet〉」

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ただの魔女 その③

再び戦地へ視線を戻す。ゴーレムはまだ手探りを続けていたので、やめさせる。
さぁ、俯瞰できているこの状況を活かして探さなきゃ。『さっき倒した魔法少女』と、『それを逃がした奴』。
ゴーレムは適当に暴れさせながら、辺りに注意を払う。
ふと、首筋に嫌な寒気みたいなものが走った。反射的に身を伏せると、頭上を何かが高速で通り過ぎた。
「……誰?」
振り向いて、私に攻撃してきた奴を見る。さっき倒した魔法少女とどことなく似た感じの衣装を着た女の子が、短槍を構えていた。
「あぁ……また“魔法少女”か。アレの仲間かな。よく私が犯人って分かったね。あのヌイグルミにチクられたかな」
小型ゴーレムを私と魔法少女の間に移動させ、棘状に変形させて攻撃する。
彼女は回避するでも無く、後退するでも無く、『突撃』してきた。そしてゴーレムの棘が命中する直前、彼女の姿が消えて目の前の景色が僅かに変化した。
「……いや違う!」
ゴーレムの棘が私の背中に直撃する。セーフティが作用してすぐに崩れたけど、これで私の武器は無くなった。
背後から放たれた槍の刺突を身を捩って躱し、彼女の方を見る。
「私とあんたの位置を入れ替えたんだ。これも魔法なの? 不思議な術使うねぇ……ん?」
突き出された槍をよく見てみると、穂先じゃなく石突の方がこちらに向いていた。つまり、こいつは私を殺す気が無いってこと?
……彼女が短槍を下ろした。

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五行怪異世巡『天狗』 その⑬

数分して、青葉と天狗のもとに種枚も合流してきた。
「うぁー……? おや青葉ちゃんよ、捕まえたのかい?」
「あ、はい。どうにか」
「そりゃめでてぇや。そこ、代わってくれるかい?」
「はい、どうぞ」
天狗から離れた青葉に代わり、種枚が天狗の身体の上に腰を下ろし、〈薫風〉の柄に踵を乗せた。
「そんじゃ、オイ天狗」
「な、何だよ……?」
やや怯えた表情の天狗の眼前に鋭い爪を具えた指を突き付け、種枚は顔を寄せた。
「現状、貴様の命は我々が握っているわけだが……ここは上位者らしく貴様に死なずに済む可能性を提示してやる」
「なっ、『上位者』だと……⁉」
反抗しようとした天狗の顔を片手で掴み、僅かに握力を込める。
「馬鹿め、話は最後まで聞け雑魚妖怪が」
「…………!」
「良いか? おい天狗、私たちの仲間になれ」
「ナ、ナカマ……?」
「ああ。本来なら人間相手に悪さする阿呆は容赦なくブチ転がす所存なんだが……。安心しろよ、同類なら身内にいる。悪いようにはしないさ」
「……何をすれば良い?」
既に抵抗を諦めて脱力していた天狗に問われ、種枚はニタリと笑った。
「良い子だ。人間相手に悪さする阿呆を懲らしめてくれりゃあ良い。貴様はあの子……青葉ちゃんの下につけ。貴様の生死は単に、貴様があの子の機嫌を損ねないかにかかっている。ふざけた真似はするなよ?」
天狗の額に、出血が起きる程度に爪を強く押し付け、肩の〈薫風〉を抜いた。

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