表示件数
0

Tell us terrible Terrors:あけて その①

「これは、俺が生まれ故郷にいた頃の話なんだけどさぁ」
放課後の教室に、一人の男子生徒の囁くような声が響く。彼の周囲には、クラスメイトの男子生徒が数名。
「俺、県外出身で、山の中のド田舎の村で生まれたんだよね。小学校まではそこで育ってさ。中学上がるタイミングで親の転勤でこっち引っ越してきたのよ。で、村での話なんだけど、村に『めっちゃ背の高いお姉さん』がいたの」
「へぇー、どんくらい? 175? 180?」
クラスメイトの野次に、少年はニタリと笑う。
「推定2m以上」
「マジで!?」「やっば!」「それもう半分妖怪だろ!」「いやそれは2m級の女性に失礼やろ」
口々に盛り上がるクラスメイトたちを制止し、少年は話を続ける。
「で、そのお姉さん、俺が出かけるといつもいつの間にか付き纏ってたんだよね。身体がデカい分、とんでもない大股でさ、俺がどんだけ走っても引き離せねえの。で、そのお姉さん、『あけて、あけて』って言いながら俺のこと追いかけてきてたんだよね」
「何を開けるんだよ……」
「それが俺にも謎でさぁ。いろいろ試したよ? 目、口、ペットボトル、ノート、虫かご、ジッパー……でも、お姉さんが反応することは無かったんだよなぁ……」
「普通扉とかじゃねえの?」
「……その手があったか」
「え嘘本気で気付いてなかったん?」
「それでな。そのお姉さんの不思議なところが、お姉さんいつも、途中で追いかけるの止めちゃうんだよな。突然ぴたっと止まって、そこからじっと俺のこと見送ってくれんの」
「……ってのが、お前の『イマジナリー・フレンド』かー」
先ほどまでの怪談大会のような空気から一転、空気が一気に和らぐ。
「へぇ~、でも人型なの良いなー。俺のIF(イマジナリー・フレンド)なんかパンタグラフだぜパンタグラフ」
「電車の上に付いてるアレとお友達やってたお前の神経が信じられねえよ俺ァ」
「俺は黒猫だったからまだ普通だな」
能力者養成校の教室の一室で繰り広げられていたそれは、どうやら『自分のイマジナリー・フレンドについて語る会』だったようだ。
「やっべ、俺この後用事あるんだった。じゃあなみんな、楽しかったよ」
最後に語り役になった少年、永江吉継は鞄を手に取ると、急ぎ足で教室を後にした。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介④

燿子の能力
【コックリさん】
・略霊:『儀式』による占術。儀式は「共に儀式を行う1名以上の参加者」「外部と接続されていない任意の文字出力手段」「火のついた蝋燭」を必要とする。まず、参加者以外から観測されていない状態で火のついた蝋燭を立てる。次に、参加者全員が文字出力手段に指を置く。この状態で「コックリさん、コックリさん」と文頭に加えて口頭で質問を行うことで、文字出力で回答が返ってくる。『コックリさん』は未来について回答することはできないが、現在以前に由来するあらゆる情報にアクセスすることができる。また、1度質問した参加者は、他の参加者全員が1度ずつ質問するまで再度質問することはできない。
文字出力手段は必ずしも”10円玉と紙”である必要は無く、文字さえ出力できるなら鉛筆を握るだけでも良いしタイプライターでも構わない。ちなみにインターネットに接続された機器では儀式に必須の『閉塞状態』に穴が開くため、儀式を実施できない。
・異聞:対象1名以上と自身を、黒い霧を練り固めたような球状結界に幽閉する。結界内で1度攻撃行動を行った者は、自分以外の全員が1度ずつ攻撃行動を行うまで再度の攻撃行動を取ることができなくなる。また、結界内でこの”語部”は、『コックリさん』と同様現在以前のあらゆる情報を獲得することができる。『こっくりさん』の儀式を、戦闘に適した形式に昇華したような形態。
・剰霊:『自分以外の参加者』を用意せずに略霊儀式を行うことで発動する。動物霊に憑依されることで、獣の如き敏捷性と高い知覚能力を得る。憑依されている間も自我は残ったままだが、動物霊の気分次第では肉体の主導権を乗っ取られることもある。また、剰霊能力発動中は、狐耳と尻尾が肉体に現れる。動物霊と”語部”双方の合意が取れなければ解除はされず、動物霊が許さない限り出ていってもらえないのは勿論、逆に動物霊が飽きても”語部”が引き留めるなら憑依は終わらない。
『こっくりさんの禁忌』を自らの手で引き起こす形態。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介③

清嘉の能力
【メリーさん】
・略霊:召喚体の使役。召喚体は身長60㎝程度の、ロリータ衣装の少女のような姿をしている。また、本質的に”人形”であるため、破壊されても駆動可能な関節が繋がっている限り、バラバラになった部位の一つ一つが独立して動き続けることができる。最大召喚数は1体。
召喚体は”語部”が直接的(肉眼で見る、声を聞く等)または間接的(映像や録画録音越しに認識する等)に認識したことのある相手を対象として、その背後に瞬間移動することができる。対象が移動した場合、召喚体は徒歩で追跡する。
召喚体は対象の位置を常に把握できる。
”語部”は召喚体の位置を常に把握できる。
・異聞:召喚体の使役。召喚体は身長1m程度の、ロリータ衣装の少女のような姿をしている。
召喚体は両手の指を鉤爪に変化させることが可能で、高いパワーとスピードを発揮することができる。
また、召喚体が放つ『私メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』というメッセージを対象に聞かせることで、対象の背後に瞬間移動することができる。この時、メッセージは直接声にするのでも、電話や録音による間接的なものでも効果を発動できる。
対象の背後に障害物がある場合、対象の背後で出現に十分な空間がある最も近い位置に出現した上で、物理攻撃によって障害物を破壊しながら対象に接近する。
・浄霊:召喚体の使役。召喚体は身長160㎝程度の、ロリータ衣装の女性のような姿をしている。手足の関節は人形のような球体関節であり、体表は木材のような硬質性を具えている。
召喚体は”語部”の背中から生えるように負ぶさって現れ、その背から決して離れようとはしない。両手の指を鉤爪のように変化させることが可能で、高いパワーとスピードを発揮できる。この高い能力は攻撃に用いても勿論高い効果をもたらすが、真価は『防御』の際にこそ発揮される。
召喚体は自律行動し、”語部”への攻撃を防ぐために振るわれる破壊力と速度は通常時の数倍に至る。
『捨てられた人形の恨み』である”メリーさん”の望みであった「所有され、所有者に愛されること」を叶え、その愛にメリーさんが応えた形態。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介②

名前:清瀬愛弥(きよせ・まなみ)
性別:女 年齢:15歳(高校1年生) 身長:163㎝
説明:能力者養成校への転入を固辞したことで“妖記廊”の目から外れている、野良の“語部”の少女。自分の能力の強さから全能感に支配されており、日頃から気に入らない相手は略霊能力を悪用して正面からボコボコにしたり、異聞能力で破壊行為を働いたりしていた。要するに不良。
イマジナリーフレンドである「なぜか顔を思い出せないお姉さん」は今も健在で、よく虚空に視線を投げたり何か独り言をしている姿が目撃されている。

能力:【ジャック・ザ・リッパー女性説】
・略霊:自身の人相を他者に認識させない幻惑効果を纏う。略霊能力使用中の”語部”は、他者から認識されこそすれど、その容貌が印象に残ることは無く、『そこに人がいた』という記憶は残っても『どんな人だったか』はまったく思い出せなくなる。
『切り裂きジャック』の正体不明性を現出したような能力。
・異聞:空間上に直線軌道で不可視の斬撃を走らせる。発動前に自身を起点として斬撃の向かう方向を指定することで、その上を斬撃が通過する。斬撃の移動速度は最大で約300㎞/h。最大射程は約40m。一度に出せる本数に限度は無いが、軌道をイメージするための”語部”側の思考力には限界があるため、基本的には数本ずつ用いる。
また、斬撃は軌道上の物体に接触するまでは『存在しない』ため、実体をぶつける以外の手段では干渉できない。
『切り裂きジャック』の殺傷性を現出したような能力。

備考:『切り裂きジャック』自体は歴史上の実在する未解決事件であって、厳密には『都市伝説』ではない。しかし『切り裂きジャック女性説』という派生説の物語性を借りたことで、『都市伝説の怪異』の領域に上ることが可能となり、能力として昇華されたのである。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい キャラクター紹介①

名前:足立清嘉(あだち・すみよし)
性別:男 年齢:16歳(高校1年生) 身長:170㎝
説明:東京の能力者養成校の1つに通う少年。能力の覚醒自体は13歳とかなり遅かったが、元となったイマジナリーフレンドとの付き合いはかなり長く、3歳の頃から『自分にしか見えないお人形の“ハナちゃん”』が一番の友達だった。名前の由来は、『お洋服にたくさんついてるヒラヒラ(フリル)がお花みたいだったから』。
能力覚醒後、進学による多忙などもあり長らくハナちゃんのことは存在すら忘れていたが、“メリーさん”と交流することで、小さい頃の一番の友達を思い出し“浄霊”の才能を開花させた。

名前:野火止燿子(のびどめ・ようこ)
性別:女 年齢:13歳(中学2年生) 身長:150㎝
説明:東京の能力者養成校の1つに通う少女。通っているのは清嘉とは別の学校。
能力に目覚めたのは5歳の頃。幼稚園で平仮名を覚えてすぐ、当時既に覚醒しかけていた“コックリさん”の使い方を理解した。イマジナリーフレンド時代の“コックリさん”は、よく分からないひょろ長い獣の姿をしていた。今思えばイタチ系の動物だったかもしれない。
“語部”としての経験値は同年代と比べてもかなり高く、将来有望なルーキーとして“妖記廊”からも注目されている。
よその学校の生徒と協力して依頼に臨むと聞き、最初は「えーなんでー。同じ学校の子どうしでやれば良いじゃん」と思っていたが、別に嫌ってわけではないので素直に推薦に応じた。

2

【再掲】Tell us terrible Terrors:設定 能力者の組織

・”妖記廊”
日本の”語部”支援機構。公的文書に名前が挙がることは無いが、政府や皇室にも存在を認可されている公的秘密組織。日本各地への能力者養成校設置、組合運営、国家規模での対怪異防衛戦略などを一手に担う、日本の”語部”のトップ。ちなみに日本の能力者支援の手厚さは世界トップクラス。2位が中国で3位がイギリスらしい。

・能力者養成校
各都道府県に最低1つ以上設置されている私立学校。ほとんどの都道府県には1校設置されており、例外として人口の多い東京と歴史のある京都には3校、面積のある北海道と妖怪伝承が多い岩手には4校、出雲大社のある島根と伊勢神宮のある三重には2校設置されている。日本全国で合計59か所。
いずれも幼稚園から大学までのエスカレーター式。中途編入や進学時に学園外に出ることは可能だし、一応“語部”と無関係の外部生も入学できる。最大の特徴として、文部科学省が定める通常の学習課程に加えて、『怪異学』と『能力制御』のカリキュラムが組み込まれていることがある。通常教育でカモフラージュされているため、一般人からは普通の私立校として見られている。
日本国内で新たに誕生した”語部”は”妖記廊”所属のある”語部”の能力によって即座に存在を把握され、進路を養成校に誘導される。
”語部”を取り逃さないために、入学者及び家族には手厚い支援が為される。

能力設定
【チェンジリング】
略霊:『赤子の誕生』を感知する能力。『赤子』の定義を『特定概念に新規に該当するようになった存在』と再解釈することで、日本国内における新たな”語部”の出現を察知することができるようになった。
備考:”妖記廊”所属のとある”語部”の能力。この力によって国内における能力者の誕生を感知し、即座に保護工作を講じることができる。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい 補記&テキスト外設定

・実は『召喚系能力』は語部全体で見ても比較的レアな能力です。特殊能力は本来、『怪異の性質を独自に昇華して武器とする』ものなので、怪異そのものの存在性を保ったまま実体として使役する召喚能力は、結構レアなのです。その中でも、清嘉の”メリーさん”はかなり自我が強く、召喚体自身の意思で形態を変えたりもするため、本当に異質な存在です。

・本来、怪異存在とイマジナリー・フレンドは別存在です。何故か清嘉の”メリーさん”はイマジナリー・フレンドとしての自認がかなり強いようですが、原因は不明です。いろいろな要素が噛み合った結果の奇跡の産物としか言いようがない。

・燿子の”コックリさん”も語部の能力としては珍しく、『異聞形態でも殺傷能力がほぼ皆無である』という性質をもっています。剰霊形態でようやくまともな戦闘能力(それですら攻撃力は燿子のフィジカルに依存してかなり低い)を獲得するという、あまりにひ弱な語部が燿子。

・実は一番ベーシックな語部は、3人の中だと愛弥(攻撃能力の無い補助用の略霊・攻撃能力の高い異聞・剰霊/浄霊未到達)。その愛弥ですら、一般的な怪異が元となった語部ではない。全員が全員特殊事例。

・能力の各形態(略霊/異聞/剰霊/浄霊)の併用可否は、各人によって異なります。たとえば清嘉の場合、1体の召喚体が段階ごとに形態変化しているため、同時使用はできません。清嘉のようなパターン以外だと、『略霊能力の使用をトリガーとして異聞能力以上が発動する』ものや『一形態の使用に集中しなければならないほど負担の大きい』といったパターンの能力がこれに当たります。燿子や愛弥は、各形態の効果が競合していないため、同時使用も可能です。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑱

清瀬愛弥の捕縛成功から数日後。清嘉のスマートフォンにビデオ通話が着信した。
「もしもし?」
『もしもーし、足立センパイ。お疲れ様です燿子ですー』
「野火止さん……あ、腕は繋がったんだ……良かった」
『いやぁ、友人にすごい“語部”がおりまして』
何事も無く繋がっている左手をひらひらと振りながら、燿子はカメラ越しに笑顔を見せた。
『センパイ、お給金は振り込まれましたか?』
「うん……何か、すごい額だった……」
『中高生がいきなり6桁のお金もらったら、金銭感覚壊れちゃいますよね~』
けらけらと笑う燿子に、清嘉も苦笑して頷く。
『そういやマナミちゃんってどうなったんですっけ? そっちの校長に引き渡してからのこと、私知らないんですよねぇ』
「何か、うちに転入することになったらしいよ」
『ふーん。周りに強い能力者がたくさんいる環境で鼻っ柱へし折られちゃえば、マナミちゃんも大人しくなりますかね?』
「だと良いなぁ……」
『あ、センパイセンパイ。私、“メリーさん”にご挨拶したいですー』
「えー……まぁ良いけど……」
略霊形態の召喚体を呼び出すと、“メリーさん”は物珍しそうに画面に顔を寄せた。その様子に、燿子は黄色い声を上げる。
『きゃーメリーさん画面越しでももちもち可愛い~! メリーさんこんにちはぁ』
『こんにちはぁ?』
『ご挨拶出来て良い子ですねぇ……』
「……もう良い?」
『あっはい、ありがとうございました』
“メリーさん”を膝の上に乗せ、清嘉は会話を再開する。
「それで、用事はそれだけ?」
『んー……腕が治ったのは見せたし……』
「あ、やっぱりそれも目的だったんだ……」
『ま、私相当な深手負ってたらしいですからねー。“コックリさん”から解放してもらったの、あれから三日後だったんですよ? あとそれから、マナミちゃんのその後も聞いたし……あっそうだセンパイ。打ち上げしましょう打ち上げ。祝勝会ですよ。私がそっちにお出かけするんで、一緒に遊びましょう』
「えー…………まぁ良いけど……」
『なんで女の子が遊びのお誘いしてるのにそんな微妙な反応してるんですか。まあ了承してくれるならそれで構いません。日程決めちゃいましょう。スケジュールは私が組みますから』
燿子の勢いに押されながらも、清嘉は休日の予定を確認し始めた。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑰

「ふむ……小僧、成長したのう……その呪い人形もな」
清嘉の背中に負ぶさるように抱き着いた“メリーさん”は、その背丈が160㎝ほどにまで伸びており、体つきも幼い少女のそれから成人女性と同等の頭身にまで成長している。
「うん……って“コックリさん”腕ぇ!? そ、もげ、取れてる!?」
「案ずるな、接ぐ宛てはある」
「そ、そうなんだ……?」
「燿子の自我は沈めておるから、あの娘がこの痛みを感じることも無いぞ」
「あ、やっぱ痛いんすね……」
「そんなことよりもほれ、敵前じゃぞ」
“コックリさん”の言葉に、清嘉は改めて愛弥に向き直る。
「ふーん……何か強くなったっぽいけど……木偶人形如き、私の斬撃の敵じゃないんだよッ!」
愛弥は同時に十数本の斬撃軌道を展開した。一斉に迫り来るそれらを、“メリーさん”は背負われた態勢のまま身を乗り出し、材木質を思わせる両腕を振り回して次々と捌いていく。斬撃がその両腕に触れる度に硬質な衝撃音が響くが、それらの一つとして召喚体表面に傷をつけることは無く、受け流されたり弾かれて周囲の地面や壁を切り刻むに終わってしまう。
「あー……“メリーさん”曰く……」
斬撃の弾幕に冷や汗を流しながらも、清嘉は不敵に笑って言い返す。
「『クソガキの刃物遊び如き、メリーさんの敵じゃない』ってさ」
(煽りでめっちゃ脚色したけど……)
その言葉に、愛弥の殺気が更に燃え上がる。
「ブッ殺す!」
激情のままに無数の斬撃を雪崩の如く撃ち出し続けるが、“メリーさん”の両腕がそれらを全て叩き落とすため、清嘉たちより後方にその破壊が及ぶことは無い。
「あと……“メリーさん”、滅茶苦茶硬いってだけでさ……」
次の瞬間、清嘉と“メリーさん”は5m近く開いていた愛弥との距離を一瞬にして詰め切り、愛弥の顔面を人形の掌で掴むように捉えた。
「パワーも割と、あるんだわ!」
そのまま渾身の力で振り下ろしたことで、愛弥は押し倒され後頭部を地面に衝突させた。
「がッ……っ……」
愛弥の身体から力が抜け、動かなくなる。
「……一瞬、じゃったのぅ。流石じゃな、小僧」
「“メリーさん”がすごいんだよ。それに、野火止さんと“コックリさん”も足止めしてくれてありがとう」
「うむ。燿子には妾から伝えておいてやろう」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑯

【コックリさん】の異聞能力によって張られた結界の中、燿子は少しずつ押され出していた。
「せやっ!」
獣の速度を乗せた、鋭い前蹴りを躱される。カウンターで放たれた愛弥の拳をどうにか腕を盾に受け止め、反動を利用して距離を取る。
「クカッ……お主、能力頼りかと思うたが、案外と空手もイケるクチじゃのう?」
「はッ、こちとら喧嘩慣れしてんのよ。雑魚がケモ耳生えた程度でイキんなよ?」
(ふむ……腹立たしいが事実。燿子の肉体は決して殴り合いに適した体格ではない。妾が速度と感覚を補ったところで、小さく、短く、軽い肉体は如何ともし難い……が!)
「それがどうしたァ!」
再び弾丸のように飛び出し、跳び蹴りを放つ。しかし――
「馬鹿じゃないの? 素手でカウンター取れるってことは……」
回避しながら愛弥の放った斬撃に身を捩るも、宙に置かれた身では行動能力に限界があった。斬撃を躱しきれずに左腕が飛ぶ。
「能力でも同じことができるってことなのよ」
「……クカカッ。面白くなってきよった」
(この損傷……身を裂かれる激痛如き、妾は慣れ腐っておるが、ただの人の身たる燿子には耐えられんじゃろう。悪いが眠っていてもらう他あるまいて……)
傷口を押さえながら、燿子――否、“コックリさん”は呼吸を整える。現在は彼女の手番であり、少なくとも自ら攻めない限り相手からの攻撃を受けることも無い。
(……それにしても『切り札』が『過去』になるのはいつじゃ! 随分と遅いではないか!)
“コックリさん”は愛弥との殴り合いの最中も、常に思考の隅で『再検索』を繰り返していた。求めていた情報が彼女の収集可能な『過去』となる瞬間を待っていたのである。そして、遂にその時が訪れる。
「ッ…………! ク、ククッ、クカカッ……!」
「……あ? 何がおかしいの? 痛みで気でも触れた?」
「クククッ……案ずるな小童よ。貴様を狩る『鬼札』が、最高速度でこの場へ迫っておる。最早この結界も不要じゃろて」
(小僧……! 出来るとは信じとったが……やはり“浄霊”を身に付けて戻ってきおった!)
結界をかき消すと同時、“コックリさん”の隣に一つの――正確には『一つに見えるほど密着した二つの』影が着地した。
「ごめん“コックリさん”! 遅くなった!」
『私メリーさん……今、所有者(あなた)の後ろにいるの!』

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑮

『ん~……じゃぁ所有者ぁ、昔話して?』
「えっ何突然。さ、猿蟹合戦とか?」
『ん~んっ。メリーさん、所有者ぁのむかしのはなし、ききたいの』
「……俺の昔話? 俺が小さい頃のことを話せと?」
『うん。10ねんくらいまえの、むかしばなし』
「覚えてねえよ……ギリ小学校上がるかどうかの頃合いだろ?」
『……じゃぁもっとまえ?』
「余計覚えてねえよ…………」
『所有者ぁ、ちっちゃいとき、おにんぎょうあそび、したでしょ?』
「え……」
抱かれたまま清嘉を見上げる“メリーさん”を、まじまじと見つめる。彼の召喚体はただ、感情の読めない曖昧な微笑みを浮かべているばかりである。
「…………これは“メリーさん”の話じゃないんだけどさ」
『うん。きかせて?』
「俺、三人兄弟の真ん中っ子なんだよ。兄貴一人、弟が一人いてさ、そういうわけで家で遊ぶにも玩具の取り合いになるわけよ……そんな中、唯一俺以外の誰も持ってかない玩具があったんだ」
『……うん。どんなの?』
「女の子の人形。そう……“メリーさん”みたいに赤いフリルがたくさん付いたドレスを着てて……長い金髪で……」
『うん……うん』
「幼稚園時代は、比喩抜きに毎日それで遊んでたと思う。別に、可動部があるとか光るとか鳴るとか、そういう機能は一個も無かったんだけどさ……お喋りしたり、ごっこ遊びに使ったり……」
『それから?』
「小学校上がってからは勉強とかあってさ。毎日遊ぶって感じではなくなったんだけど……たまに偶然見つけた時には抱っこしたり眺めたりしたっけな」
『うん。そうだね』
「そういや、中学で【メリーさん】の力を使えるようになって、能力者養成校に転入した辺りかな……転校とか、勉強や部活で忙しくなって、あの人形で遊ぶことも無くなったなぁ……なんで今まで忘れてたんだろ。俺、あだ名も付けてたんだぜ?」
『うん……どんなの?』
清嘉は“メリーさん”を抱き上げると、目の高さを合わせて見つめ合った。
「……今思えば、あの人形は俺の頭の中にしか無かったから、俺だけの人形だったんだろうな……。……“メリーさん”、あれは“メリーさん”じゃない。それは承知の上で……」
『うん、メリーさん、またそうよんでほしいの』
「――“ハナちゃん”。ドレスのヒラヒラ……あの沢山のフリルが花みたいだって思ったんだ」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑭

燿子が愛弥との戦闘を開始したその頃、清嘉は両脚片腕を失った“メリーさん”を抱えて、ビル街を離れて住宅街を走っていた。
(デートっつったって……何しろってんだよ……?)
『うぅ~……私メリーさん……もうダメかも……』
「ごめんって、一回仕切り直そう」
『やだ~』
「なんでぇ?」
清嘉は道中に倉庫を見つけ、裏手に回りブロック塀との隙間に潜り込んだ。その場に腰を下ろして息を整え、膝の上に召喚体を乗せる。その姿は、『略霊』形態の最も小さなものに変化していた。
『私メリーさん……いっぱいがんばったから、所有者ぁからごほうびほしいの』
「ご褒美?」
『ぎゅーってしてほしいの……メリーさん今、片手がないから、その分ぎゅーってつよく……おねがい?』
「はいはい……」
“メリーさん”の姿勢を調整して、抱きしめる。“メリーさん”はくるくると喉を鳴らして、頬擦りをした。
『メリーさん、頭もなでてほしいの……わしゃわしゃー、ってしてほしいの……』
「なんでそんなに甘えんぼさんなの……」
苦言を呈しながらも、言われた通りに頭を撫でる清嘉。
『んゃ~……メリーさん、今よわってるからあまえたさんなの……』
「そっかぁ……」
『あとあとぉ……えらいねーってほめてほしいの』
「あぁうん、よく頑張ってくれたな、“メリーさん”。ありがとう、マジで助かった」
(庇ってもらわなきゃ俺らが真っ二つになってたし)
しかし、“メリーさん”は清嘉の腕の中でいやいやと首を横に振る。
『そっちの名前じゃなくて、所有者ぁのつけてくれた名前でよんで?』
「……俺のつけた名前?」
『私メリーさん……“メリーさん”じゃなくて、所有者ぁが私のためだけにつけてくれた、あっちの名前でよんでほしいの……おねがい?』
「どっちのことだよ……?」
(俺、“メリーさん”のこと『メリーさん』としか読んだこと無いよな……?)
『……むぅ……所有者ぁがにぶちん……』
「えぇ……?」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑬

(……“野火止さんの身体は”、か……。お主、なかなか悪くない男と組んだものじゃのぅ。のう、燿子や?)
(ちょっと頼りない人ですけどねー)
精神下で燿子の魂と話しながら、彼女の身体を奪った“コックリさん”は愛弥と相対する。愛弥は雰囲気の変わった燿子に怪訝な目を向けた。
「何だお前、そのケモ耳……それがアンタの力?」
「えぇまぁ、そんなところで……あれ」
(コックリさん、身体返してくれたんですか?)
(動物霊は気紛れなのじゃよ。ほれ、敵前でぼさっとするでない)
(はいはいありがとうございます)
「さて……マナミちゃん」
「誰がマナミちゃんだコラ。気安く呼ぶな」
「まぁまぁ。あなたに勝てる人が戻ってくるまで、私に足止めされといてくださいよ。あなたの力じゃ今の私は殺せないので」
「あー?」
愛弥が1本の斬撃を飛ばす。燿子は膝の力を抜き地面にへばりつくようにして、その攻撃を回避した。
(ククッ、素人め。殺意が丸見えじゃ。これでは力を使うまでも無く狙いが見えるぞ)
(コックリさんの知覚能力とスピードが無かったら普通に私食らってたと思いますけど……)
(ええい煩い! 今はそれらが揃っておるのじゃから良いのじゃ! ぐちぐち言う童には仕置きじゃ!)
(あっ)
燿子の目が一瞬据わり、直後怪しげな金色の輝きを湛えて見開かれる。
「クカカッ! では始めようかの……“コックリさん”をなァ!」
燿子の『異聞』能力が発動する。両者を取り巻くように黒煙の渦が現れ、やがてそれは半球状の結界へと変化した。
「……何よこれ。こんなもので閉じ込めたつもり?」
「『つもり』も何も、もう貴様には抜け出せんよ」
燿子は滑るような動きで距離を詰め、愛弥の頬に裏拳を当てながら駆け抜けた。
「ぐッ……クソガキがァッ!」
愛弥の放った斬撃の軌道を、燿子は軽く身を捩るだけで回避する。
「クカカッ、鈍い鈍い!」
「クソッ、ならもう一発……!」
愛弥は再び能力を使おうとした。しかし、斬撃は発生しない。
「は? なんで……」
「決まっておろうが」
再び燿子が詰め寄り、跳び回し蹴りを放ちながら反動でそのまま飛び退いた。
「“コックリさん”は『順繰り回し』じゃぞ?」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑫

(マジかよ!? いや近くに適当に逃げ込んだわけだし、偶然か探してきたのかまた来る可能性は十分あったと思うけどさぁ!?)
咄嗟に燿子が隠れている黒布に目をやると、それは地面にくしゃりと落ちていた。燿子がいなくなっていることに動揺しながら周囲を見回すと、彼女の姿は清嘉の背後にあった。
「いた……何かイメチェンした?」
清嘉の視線は、彼女の頭に生えた1対の狐耳に注がれている。
「気にするな小僧。禁を犯した者への当然の制裁じゃ」
燿子の返答は、先ほどまでの軽いながらも敬語を使おうとする態度とはまるで異なる、尊大で古風な口調だった。
「えっ、あっ、はい、何、コックリさん?」
「ま、そんなところじゃの。それよりも……」
燿子が愛弥の方を指差す。彼女も二人に気付いたようで、殺意が立ち上る。
「あー? さっきの奴らじゃんか。ちょうど不完全燃焼でイラついてたとこなんだよ……ブチ転がしてやる……!」
「ッ……“メリーさん”!」
『異聞』形態の“メリーさん”を呼び出し、構えさせる。しかし次の瞬間、飛来した斬撃がその右腕を刎ね飛ばした。
「くははッ、先手必勝ォーッ!」
『ぬム……』
その時、冷や汗を流す清嘉の肩に、燿子が手を置いた。
「おい小僧。コックリさんからありがたーいお言葉じゃ。確と聞け」
「え、何すか」
「この場は妾に任せて“でーと”してこい」
「……は? なんで? 誰と?」
「決まっておろうが」
燿子が指差したのは、残った左腕で二人を庇おうと立ち塞がっている“メリーさん”だった。
「…………マジでなんで?」
「えぇい煩い煩い! 妾の宣託に逆らうか小童風情が!」
「ひぇっ、すんません……め、“メリーさん”! 俺らは一回退くよ!」
『! メリーさん逃げるのっ』
「逃がすかァッ!」
振り返った“メリーさん”の両脚が飛んできた斬撃に叩き斬られ、小さな身体が地面に転がる。
「ええい鈍間共め! さっさと行かんか!」
燿子が素早く前に出て、倒れ伏した“メリーさん”を片手で清嘉に投げつける。それを何とか抱き留めると、清嘉は躊躇いながらも逃走の態勢に入った。
「ごめんコックリさん! この場と野火止さんの身体は任せた!」
「……おう任せい!」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑪

考え込んでいる清嘉をしばらく見つめていた燿子は、不意にリュックサックから蝋燭を1本取り出し、ライターで火をつけた。
「……ん? どしたの野火止さん」
「いえ別に……試してみますか? “コックリさん”が何か教えてくれないか」
「未来の情報は掴めないんだろ?」
「はい、なので“過去”に“フラグ”が無いかなって。向こうの弱みでも、こっちの強みでも……何かヒントくらいはもらえないかなと」
「良いけど……またタイプライター出すの?」
「いえ、流石にもうちょっとコンパクトにやりますよ」
そう言って、燿子はリュックサックから黒い布を引っ張り出した。
「ちょうど良い閉鎖空間が無いんで、これで代用します」
「……どうやって?」
「頭から被ります」
「暑そうだなぁ……」
「大丈夫ですよ、私一人でやるんで」
「えっ」
『“コックリさん”を一人で行ってはいけない』。有名な禁忌である。当然それを知っている清嘉は、疑問の声を上げた。しかし、燿子はにんまりと口角を上げ、親指を立ててみせる。
「大丈夫ですよ、私の力なんですから。それじゃ、ちょっと聞いてきますね」
燿子は黒布をばさりと持ち上げ、その下に素早く潜り込んだ。清嘉は所在なくその近くに立ち尽くしていたが、暇を持て余して地面に崩れ落ちている召喚体を呼び戻す。召喚体は“略霊”形態の小さな姿に変化しており、切り離された上半身と下半身が別々に地面の上でごろごろと転げ回っている。
『私メリーさん~……もう戦えないかも~』
「でも今の面子的に無理してもらわないとならないからなぁ……」
『んぇ~……』
「一回消してから再召喚すればまた元気になるからさ。我慢してくれよ」
『やぁ~……やる~……』
清嘉は消失・再召喚を行い、損傷の無い“メリーさん”を出現させた。
『私メリーさん。もっかいがんばる~』
「うん頑張って」
『……あ』
「どしたの“メリーさん”」
『所有者ぁ、たーげっと』
「えっ」
召喚体が指差した先を清嘉が見ると、ちょうどその路地に入ってくる愛弥の姿があった。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑩

数ブロック先のビル陰に駆け込み、2人は息をついた。
「マジかぁ……あの人平気で殺しに来るじゃん……」
その場に座り込み、ため息交じりに清嘉が吐き出す。
「いやはや……とんだお転婆でしたねぇ……」
燿子も膝に手を付いて咳き込み、苦笑しながら言う。
「っつーかなんでさっきいきなりエアガン撃ったんだよ……そりゃ向こうも怒るって」
「え? あれ、センパイ知らないんですか、これ?」
燿子は再び、ホルスターからエアガンを取り出す。
「対怪異汎用射撃装備“霊火”。学校で貸し出してる武器ですよ。講習受けなかったんですか?」
「受けてないけど……武器? ただのエアガンが?」
「何でも、怪異相手には普通にダメージ出るらしいですよ?」
「そりゃ人間相手じゃ普通にキレさせるだけになるよなぁ……」
「新たな発見です……」
2人が“霊火”を見ながら話していると、何かを引きずるような音と軽い足音が近づいてきた。
「ん、戻ってきた」
2人が顔を上げると、そこには左肩から腰に抜けるように両断された状態の“メリーさん”が立っていた。下半身側に残った左手と上半身側に残った右手を繋ぎ、切断されたパーツをその場に残すことなく足を回して離脱し、2人との合流に成功したのである。
『私メリーさん。真っ二つになったけど逃げてきたの~』
「よく頑張った、“メリーさん”。…………しかしまぁ……どうすっかなぁ…………」
「どうしますかねぇ…………」
「コックリさんに聞いたら何か教えてくんねーの?」
「無理ですよぅ。“コックリさん”が教えてくれるのは『過去の情報』だけです。霊たちに文字通り『持ってきてもらう』のが“コックリさん”なので、まだ存在しない未来の話は教えてくれないっていうかできません」
「……そう都合よくはいかないかぁ……」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑨

(いやぁ……実際に見てみると結構ヤバい火力してますね? 人間くらい余裕で真っ二つになっちゃいそう)
(そんな威力を平気で人に向けてんのあの人!?)
(こーれヤバい感じですよぅセンパーイ)
二人は不可視の斬撃を捌き続ける“メリーさん”の陰に隠れつつ、声を潜めて話し合う。
(で。『これ』が効き目薄なのは分かったんで、火力レートでこっちの不利が確定しちゃったんですけど……どうします?)
エアガンを軽く掲げながら、燿子が尋ねる。
(……一度仕切り直して良い?)
(モーマンタイでっす)
「それじゃ……頼むよ、“メリーさん”」
『ん~。すぅ……』
召喚体が何かしようとしている気配に、愛弥は一旦攻撃の手を緩める。
(何かする気だな? ま、何してこようが斬り払ってやるけど)
『……もしもーし! 私ぃ、メリーさーん!』
召喚体は口の前で手をメガホン代わりにし、大声で愛弥に呼びかけ始めた。
『今ぁ、あなたの後ろにいるのー!』
次の瞬間、愛弥の視界から召喚体の姿が消え、同時に背後から羽交い絞めにされる。
(ッ……『背後への瞬間移動』、ってな感じか!?)
「この程度ッ!」
背後に向けて放った斬撃が、“メリーさん”を袈裟斬りの要領で両断する。拘束を逃れて愛弥が正面に視界を戻したその時、清嘉と燿子は既に路地から姿を消していた。
「何だったのよアイツら……」
そう毒づきながら、愛弥は振り返り己の背後に転がっているはずの“メリーさん”の残骸に向き直ろうとする。しかし、そこには端切れの一片すら無く、交戦の痕跡は彼女自身が刻んだ斬撃痕の他に何も残っていなかった。
「だからなんッで消えてんだよ真っ二つに叩ッ斬ったろうがよォッ!」
苛立ちに満ちた怒鳴り声とゴミバケツを蹴り倒す音が、路地裏に響き渡った。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑧

「こーんにーちはぁ~。お姉さんがキヨセ・マナミちゃんですかぁ?」
最初に口を開いたのは、燿子だった。
「あ? 誰アンタら。人の邪魔しやがってよォ……」
「「…………」」
(ガラわっる!)
(逃げて良いかなこれェ)
二人を射貫く敵意に満ちた視線に、思わず沈黙する清嘉と燿子。
「せっかく人が気持ち良くストレス発散してたのによォー……!」
(やっば近づいて来てるー)
(笑い事じゃねえんだけどぉっ!?)
彼我の距離が5mを切ったその時、燿子が腰の後ろのホルスターから白とオレンジに塗装されたエアガンを抜き、相手に向けて1発撃ち込んだ。
「あたっ」
「…………」
「…………」
「テメこのガキいたっ、あたっ」
燿子は躊躇うことなく2発、3発と続けざまに撃ち込んでいく。あまりにも唐突で理解不能な状況に、清嘉は呆然と見ていることしかできない。
「いたっ、ちょ、やめ、おい、こらっ」
パスッ、パスッ、パスッ、と気の抜けた発射音が鳴り続け、遂に弾倉内のBB弾が撃ち尽くされる。燿子は表情を変えないままグリップのボタンを押してエアガンを軽く振り、弾倉を地面に落として替えの弾倉を再装填する。
「いたっ、ちょ、おい、やめ、ろっ、て、言ってんだろがァッ!」
「わぁキレたぁ!」
「そりゃいきなり無言でエアガン連射されたらキレるよ!?」
「クソガキが舐めやがって……! どうせ3秒後には忘れてんだ、こうなりゃ全力で叩き潰してやらァ……!」
元来『殺傷力の具現』である怪異の力を宿す“語部”たる二人には、その少女、愛弥の変化が直感的に理解できた。『殺意』が膨れ上がり形を成すような感覚――“語部”が『異聞』の力を発現する際の気配である。
それを感じ取れたからこそ、清嘉は咄嗟に動くことができた。
「っ、“メリーさん”!」
彼もまた、自身の異聞能力を発動した。身長1mほどの少女型の召喚体が二人を庇うように現れ、右手の鉤爪を構える。それと同時に、召喚体の爪に鋭い衝撃が叩き込まれる。
『ぬ、ヌヌヌ……りゃぁっ!』
打ち上げるようにその破壊力を受け流し、“メリーさん”は防御に成功した。直後、その余波がビルの壁に流れ、深い斬撃痕を残す。
「何だァソイツ……」
「いやぁ、へへっ……どうも同類ッス……仲良くしようぜ?」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑦

「お疲れ、“メリーさん”。一旦仕切り直そうか」
清嘉は召喚体に駆け寄り、能力を一度解除した。ばらばらになった召喚体は煙のように消失し、再発動によって無傷の“メリーさん”が再び現れる。
『わたしメリーさん、からだ直ったの~』
「“メリーさん”、今、ターゲットはどこにいる?」
『今ね~……3本となりのほそい道にいるの』
「了解。ありがとうね」
『ん~』
召喚体は清嘉に頭を撫でられ、満足げに喉をころころと鳴らした。
「……それで? どうやってマナミちゃんに接近するんですか?」
“メリーさん”を抱き上げながら、燿子が尋ねる。
「まぁ……何とかするしか無いよなぁ……野火止さん、占いした時の紙ってある?」
「ありますよー、ほい」
燿子がポケットから引っ張り出した、タイプライターで出力された用紙を差し出す。折り畳まれたそれを開き、清嘉は目当ての事項に目を留める。
「……よし、備え万全」
「何見てたんですか?」
「スマホの番号。一応ね」
「“メリーさん”といえば電話ですもんねぇ」
電話帳にその番号を保存し、清嘉は路地から顔を出した。
「そんじゃ……行くかぁ……」
「すんなり仲良くなれると良いですねー」
「だと良いんだけどねぇ……」
清嘉が先を歩き、その後ろに“メリーさん”を抱えた燿子が続く。二人が薄暗い路地の奥を覗き込むと、物陰に人影が動いているのが目に入った。
人影は足元に転がる塊を、苛立たし気な様子で繰り返し蹴りつけている。否、それはただの塊ではなかった。生きた人間が身を守ろうと身体を丸めて、暴行を受けているのだ。
「…………どっちですかね?」
「多分…………加害者側? 蹴られてるの男子っぽいし……」
「仲良くなれそうですかね?」
「厳しい……かなぁ……」
「止めた方が、良いですよね?」
「喧嘩とか怖えんだけど……」
「超能力者が何をビビることがありますか。ほら行きますよー」
「はいはい」
2人が近付く足音に、暴力を振るっていた人影は動きを止めた。その隙に、足元の被害者は這いずるようにして逃げ出す。

0
2

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その⑤

「世の中知らないことだらけですねぇ……えっと、略霊能力の効果は……あぁー!」
「ん、どうした?」
「だからあの写真の顔、全然印象に残らないんだぁ! 目ぇ外した瞬間に何か記憶が朧ろげになると思ってたんですよねぇ~」
燿子の言葉に、清嘉も出力された記述を確認する。
「……はー、なるほどなぁ……むしろよく写真残せたよなぁ。っつーか写真でも効果発揮すんのかすげぇ能力だな……」
「わー、異聞能力もシンプルに攻撃力高いですねー。ま、情報はゲットできたんで。作戦立てていきましょっか」
燿子はタイプライターから手を離し、自身の略霊能力を終了させた。
「それで、どうしますかセンパイ? 現状唯一の手掛かりなこの写真、目を離した瞬間証拠能力失いますよ。私の能力で何とかします? あのタイプライター、キーすっごい重いからあんま使いたくないんですけど……センパイが言うなら無理しますよ?」
(なら別の道具使えば良いのに……)
清嘉はその指摘を飲み込んで答えた。
「いや、写真1枚あれば、位置掴むだけなら俺ができるよ」
「へぇ~、そういやセンパイの能力知らないですねぇ。何なんです?」
「あぁ、【メリーさん】だよ。おいで、“メリーさん”」
清嘉が虚空に呼びかけると、何も無かったはずの空間に突如、背丈60㎝程度の赤と黒を基調としたロリータ衣装の少女が現れた。
「わぁ可愛い~。ほっぺたモチモチしてる~」
燿子はその召喚体を抱き上げ、両頬をもちもちと弄り始めた。
「やめたげて……“メリーさん”、この写真の子のところに行ってくれるか?」
召喚体は清嘉を見上げて頷くと、燿子の腕の中から一瞬で姿を消した。
「あー……もっと愛でたかったです……」
「後でね? あと、もう見つけたよ」
「はっや。足立センパイってもしかして天才?」
「“メリーさん”がすごいんだよ……あ」
「どしたの」
「いや……ターゲットが移動してるっぽい……とりあえず追いかけようか」
「りょーかぃ」
二人は空き教室の状態を入室前と同等に片付けてから、学校を後にした。

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その④

タイプライターのキーボードに両手の十指を置き、燿子は一度瞑目して息を吐き出し、再び目を開く。
「それじゃ、始めるんで……」
「うん」
「…………」
「…………」
「何してるんですか先輩。早く手ぇ出してください。10円玉には参加者全員が指を置かなきゃならないんですよ? 今回はタイプライターですけど……ほら、早く私の手に」
「え、お、おう」
清嘉は燿子の背後に回り、彼女の両手に自身のものを重ねた。
「離さないでくださいね? 危ないんで」
「りょ、了解」
「それじゃぁ……『コックリさんコックリさん、今回のターゲットである娘のプロフィールを教えてください』」
数秒の沈黙の後、蝋燭の火が小さく揺れ、燿子の十指がゆっくりと打鍵を始めた。
その運指は少しずつ速度を増していき、流れるように数行の文章を打ち出してから唐突に停止した。
「……出力完了っぽいですね」
「これ何語だ……? n,a,m,a,e……あ、これローマ字だ読みにくっ!」
「しょうがないですよぅ、ブツが英語のやつなんですから」
「うえー……これ素直に10円玉使ってた方が楽だったんじゃ……」
「文字として残ってくれた方がじっくり読めますからねぇ。どれどれ……名前はキヨセ・マナミちゃん。高校1年生の女の子。……ふーん、センパイ、この『よくいる場所』のこの地名ってどこでしょ? 私田舎者なんで、こっちの土地勘とか無いですよ」
「んー、電車で15分くらいかな」
「はぇー。んじゃ、センパイも何か質問してくださいよ」
「え、なんで?」
「当然でしょう。私はもう1回質問しちゃったんですから、次はセンパイの番ですよ。何か適当に質問してください。『コックリさん、コックリさん』って頭につけるんですよ」
「おう、えっと、じゃあ……あー……こ、『コックリさんコックリさん、キヨセさんの能力について教えてください』」
再び燿子の指がキーボード上を動く。
「どれどれ……じゃっく、ざ……」
「じょせ…………『ジャック・ザ・リッパー女性説』……? なんで『切り裂きジャック』じゃなく『女性説』……?」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その③

2人が校長室を出て最初に向かったのは、空き教室の一つだった。
「あーだちセンパーイ、あの写真もっかい見せてくださいよー」
「ん」
道中、清嘉に強請った燿子は差し出された写真を奪うように受け取ると、まじまじと眺めながら口を開く。
「……性格キツそうな面してますねー」
「そうかぁ?」
写真を返してもらい、清嘉も写真を再確認する。角度と被写体の様子からして隠し撮りされたものであろうそれに写る少女は、確かに敵対心を剥き出しにしたような鋭い目つきをしていた。
「……そうかも……?」
「もっかい写真見せてくださーい」
「また?」
「良いじゃないですかぁ」
「はいはい……」
やり取りをしながら、2人は校舎端の空き教室に入った。燿子がそのまま奥に進んで窓の鍵とカーテンを閉め切り、清嘉は入り口扉を施錠する。
「これで良いのか?」
「はいはいありがとございますセンパイ。んじゃ、こっち来てください」
「おう。で、何すんの?」
「決まってるじゃないですかー、情報収集ですよぅ」
そう言って燿子がリュックサックから取り出したのは、一台の手動式タイプライターだった。
「……パソコンですら無く?」
「やだなぁ、ググって出るものじゃないんですから……私の『能力』を使うんですよ」
「……タイプライターを使う怪異なんていたっけ……」
「元ネタだとちょっぴり違いますけどねー。ま、うちの子は結構融通利かせてくれるんで……」
燿子は使われていない机にタイプライターを起き、その奥に蝋燭を1本立てて火をつけた。
「さ、始めますよセンパイ。協力者いないとできないんですから」
「な、何を?」
「決まってるでしょ? “コックリさん”ですよ」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい その②

「彼女は“八王子昆明学園”中等部から来てくださった……せっかくだから自己紹介してもらえるかな?」
「はーい」
校長の言葉に、少女は気の抜けた声で答えて立ち上がった。
「んぇー、初めましてー。“ダイサン”の中学2年生、野火止燿子でーすよろしくお願いしゃっす」
「あ、ども。俺は足立清嘉」
「足立センパイね、りょーかぃ」
燿子は軽く会釈を返し、清嘉の隣まで移動してきて校長のデスクに向き直った。
「さて……メンバーが揃ったところで、今回の事案について説明させてもらおう」
校長がデスクの上に滑らせるように置いた1枚のポラロイド写真を、2人は並んで覗き込む。そこに写っていたのは、清嘉と同年代程度であろう少女だった。
「その子が、今回のターゲットだ」
「……普通に人間っすね?」
「何、“語部”退治?」
「『退治』、という言い方は少し語弊があるな。強いていえば……『監視』といったところだろうか。彼女を発見し、動向を観察してほしい。そして、能力による危険行動を取っているようであれば、捕獲してほしい」
「捕獲て、そんな野生動物みたいな……」
「えーなんでですかー。このお姉さんどこの学校の人? “ダイニ”? 埼玉? そこに任せちゃえば良いのに……」
燿子の言葉に、校長はこめかみを押さえて溜め息を吐いた。
「彼女は養成校への入学を固辞したのだよ。そのせいで、野放しのような状態になっていてね……能力も厄介だから、できれば目の届く範囲に置いておきたいのだが……」
(養成校に編入するのって断れたんだ……)
清嘉はその言葉を飲み込んで、再び写真を確認する。
「まぁとにかく、この人見つけて勧誘しちゃえばいい感じですか?」
「それができれば一番いいが、具体的な方針は君たちに一任するよ。大人が出向くのが一番良いのだろうが……不用意に近づいて怪しまれても困るからな。初めての任務で不慣れだろうが、頑張ってほしい」
「「了解」」
燿子は一度ソファの方へ戻り、足元に置いていたリュックサックを拾って戻ってくる。
「んじゃ、行きましょセンパイ」
「ああ、うん」

0

Tell us terrible Terrors:のろい、まじない、きりはらい

『生徒の呼び出しです。1年4組、足立清嘉さん。至急、校長室までお越しください』
放送スピーカーから流れた指示を、清嘉は忠実に実行した。放課後、未だ往来の激しい時間帯の廊下をやや急ぎ足で進み、校長室の扉をノックする。
「失礼しまーす、1年4組足立でーす」
『どうぞ』
引き戸を開けると、高等部校長は自席に着いて入室してきた清嘉を射貫くような眼で見返していた。
「それで、呼ばれたんで来たんすけど……」
「ああ、すまないね。この後部活や用事は無かったかな?」
「それは大丈夫ですけど……俺何かしちゃいましたっけ」
「いやいや、お説教の類じゃないんだよ。ただ、頼みごとがあってね」
「頼み?」
「ああ。“実習”に出てくれる気は無いかい?」
依頼実践演習――通称“実習”。高等部以上の生徒が受注可能な、人外存在や“語部”への対処依頼だ。『基本的には』、提示された依頼の中から希望者が選択して受注する段取りとなっている。
「やりますけど、実践演習って指名制あったんですね」
清嘉の言葉に、校長は渋い顔をしてみせた。
「基本的には生徒の自主性を尊重したいところなのだがねぇ……本事案に関してだけは、君たちが適任だと判断したのだよ」
「はぁ……え、“たち”? 俺以外に誰かいるんです?」
校長が応接スペースを指差す。清嘉が釣られてそちらに目をやると、3人掛けのソファの左隅に、セーラー服姿の小柄な少女が掛けていた。
(セーラー服……ってことは“ダイサン”の子か)
清嘉の通う能力者養成校は、東京都23区某所に建っている。東京に存在する3か所の能力者養成校のうち最古のものであり、学生間では俗に“ダイイチ”と呼ばれているものだ。それに対して少女の制服は、八王子市某所に位置する通称“ダイサン”のものだった。

0

小説企画:Tell us terrible Terrors 設定⑦ サポート武具設定

・対怪異汎用武装
”語部”の戦闘を補助するための汎用装備。常に精神消耗と制御失敗による暴走のリスクがついて回る怪異の力を使わないため低リスクで、合法的に所持できる物品を模しているために携帯していても怪しまれにくいという強みがある。近接武装”霊凛”と、射程武装”霊火”の2種類がある。
本来は未成熟な10代以下の”語部”の戦闘時リスクを最小化するというコンセプトで開発されたものであり、能力者養成校で特別講習を受講し単位を取得した、中等部以上の生徒のみが必要に応じて貸与される。講習の受講は申請による希望制で、座学と実技の両方で構成される。
効果の発揮には装備者の生命エネルギーを消費するため、使い続けていると疲労感や倦怠感、空腹感を覚えることがある。単発ごとの消費量は軽微であり、即座に命に拘るような消耗にはならない。
これは”語部”のための汎用武装を作成するという初期コンセプトに対して、『各”語部”の扱う力は、異なる怪異存在に由来する別性質の霊的エネルギーであるため、共通機構で霊的攻撃を可能にすることが困難である』という問題に直面したためである。制作陣はこの問題を、『「すべての”語部”が共通して保有するエネルギー=人間の生物としての生命力」を原動力にする』というアプローチで解決した。

”霊凛”:競技用竹刀を模した武器。生命エネルギーによって竹刀の刀身部の強化が可能で、高い打撃力と耐久力を発揮する。
”霊火”:ビビッドカラーにペイントされた拳銃型BB弾用トイガンを模した武器。最大装弾数は12発。最大射程は20m程度。発射されたBB弾には怪異存在に対する特攻性が付与される。