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放課後の第二面談室[1]

遅刻した言い訳?聞いてくださるんですか。いつもなら、言い訳するんじゃないーって一喝なさるのに。え、いや、あの、いえいえいえ。是非聞いていただきたいです。
今朝は本当に不思議な朝でした。

いつもと同じ時間に起きました。何の変哲もない、同じように目覚ましのアラームを止め、トーストを焼いて、コーヒーで流し込んで家を出ました。駅までも同じ道を通り、いつも乗る電車に乗りました。そう、いつもと同じ。ただ、その電車は、なぜかいつもと何かが違っている気がしたんです。
異様な雰囲気でした。乗車してしばらくは何も感じなかったのですが、ふと気がつきました。乗客皆の視線が、ある一人の男に注がれていました。それは適度に込み合った車内で、すごく自然なことのようでした。
その男の相貌は、確かに目を惹くものでした。ざんばらな前髪の奥には、鋭い眼光が何もない虚空を睨み付け、浅黒い肌には、無精髭がまだらに生えていました。真っ黒なTシャツの肩にはフケが乗り、ボロボロのジーパンは所々黒く染まっていました。聞いているぶんにはそう目を惹くものでもないかもしれませんが、何故か不思議な雰囲気を漂わしていたのです、彼は。

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LOST MEMORIES ⅢCⅧⅩⅤ

「どうして私が怒っているかお分かりですか。」
たぶん、長いお説教後だと思う。
瑛瑠が顔を上げ、向かいにいる付き人の顔を見る。呆れたような表情になっていることから、そうだと思ったのだけれど。
たぶん、なんて言うのは、それまでの記憶がないからで。
あまりに恐かったということだけは、なんとなく覚えているのだが、本能的に記憶から抹消したものとみられる。
ひとつ大きなため息をついたチャールズは、不安げにその瞳を揺らした。
「心配、しました。」
こういうとき、ずるいと思う。そんな顔、そんな声で言われたら、謝るしかないだろうになんて、瑛瑠が頭の片隅で思っていると、自嘲ぎみに微笑まれる。
「自分でも、少し過保護かなと思っているんですよ。
でもね、そしたら、他に誰が過保護になるんですか。」
たったひとりのお嬢さまなんですから。
「ごめんなさい……。」
頭ごなしに怒られるより数倍もの威力にやられた瑛瑠は、素直に謝るしかなくて。
すると今度はチャールズが困ったように笑い、
「まあ、大丈夫じゃなければそもそも行かせないんですけどね。」
なんてさらっと言い放つ。
「帰りが遅くなるであろうことも知っていましたけど。」
なぜ知っている?むしろ、ではなぜ怒られた?
軽く混乱してしまった瑛瑠が絞り出した言葉は、
「わ、私の記憶返して……。」

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No music No life #6 フィクサー

結月視点



数日後、僕の裁判が行われた。3人が証人になって、面会の日に僕に言ったことを証言してくれた。
だが、美月は僕にも言ってなかったことがあったらしい。それは、「橘副司令、あなたは、ライフルの名手、川上春樹なのではないですか?」
美月が言った瞬間に、辺りがざわめき始めた。
春樹は笑いながら、「よく知っているね。さすが、俺の妹だ。」そう、言い放った。
「私は、もうあなたなんかの妹じゃない。」
美月と春樹の口論になってきている。
そして、美月が
「あなたでしょう?涼香さんを殺したのは。」
と言うと
「ああ。そうだよ。悪い?」
春樹が返した。
「お前!」
美月が言うと同時に、時雨ちゃんが美月を止めた。そして時雨ちゃんは、
「裁判長、これで分かりましたよね?
高嶺涼香を殺したのは、川上春樹です。
これで、御影結月の無罪が証明されましたよね?」と言った。
そして、裁判長は、
「これより、判決を言い渡す。
被告人御影結月は、無罪である。」
この言葉により、僕は釈放、関係者の人に、めっちゃ謝罪された。人が、自分にヘコヘコ謝ってるのってなんか、こっちにも、罪悪感が芽生えてくる。
けれど、僕は、体調不良で、涼香が殺されたショックで精神疾患になりかけていたため、入院した。


【続く】
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私、イカとにゃんこは、志望校に合格できました!なので、これからもガンガン書き込んでいきます。
これからもよろしくお願いします!

イカとにゃんこ

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或る青年の幽霊噺

青年「霊能者さん霊能者さん、どうやら霊に取り憑かれたようなのです。祓ってください」
霊能者「ああ、貴方のすぐ後ろにくっついて来てるその男ですね。それに取り憑かれて何か実害はありましたか?」
青年「そうですね。特に実害は無いのですが、僕から10cm以上離れようとしないのです。それが寝るときも例外ではなくて、狭苦しくて少し不快です」
霊能者「それなら問題ないですね」
青年「ええ…」

青年「霊能者さん霊能者さん、また違う霊が憑いてきたのですが」
霊能者「またですか。この間のもまだいますね。で、今回のは…ああ、その幼子ですか。何か凄いもの持ってますが」
青年「ええ。この霊、何故か巨大な鉈なんて持ってるんですよ」
霊能者「その子に取り憑かれてから、何か実害はありましたか?」
青年「いえ、実害は無いのですが、物騒な刃物持って周りをうろうろされると、精神衛生上よろしくありません。前の奴もろとも祓ってください」
霊能者「実害無いなら別に必要無いでしょう」
青年「おいこら待てエセ霊能者」
霊能者「エセとは失礼な。ちゃんとその二人も見えてたでしょう?」
青年「とっとと祓えっつってんだよ」
霊能者「嫌です!」
青年「何故だ⁉金ならいくらでも出すぞ。予算内で」
霊能者「それでも嫌です!」
青年「だから何故⁉」
霊能者「だって面倒なんだもの!」
青年「いっそくたばれえェッ!!!」

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This is the way.[Nero]2

ピタン。ピタン。
既に何の音もしなくなった惡獄層に、雨垂れの音が響く。規則性があるようでない、淡々としたリズムに、ネロは耳を澄ませながら、物思いに耽っていた。と、そこへ遠くから軍靴の音。
カツーン。カツーン。カツーン。
暫くして音が近づいたかと思うと、ネロの独房の扉の前で止まった。
ガンガンガンガン。ガンガンガンガン。
「No.2。起きてるか」
「............」
「開けるぞ」
甲高い音をたてて軋みながら、扉が開いた。看守の、この男は確か、オヴィアスと言ったか。その手には1枚のトレーが乗っていた。
「ボスはようやくお前さんの飯のことを思い出したようだ。さっき許可が出た。あまりがっつくと良くないからゆっくり食べろ」
「...............」
トレーの上に乗っていたのは、二つの乾いた細長いパンと、卵が1つ、水が一瓶だった。カタン、とトレーを床に置くと、オヴィアスはこちらに目を向け、暫く見つめた後、扉を閉めて去っていった。
看守が去ると、ネロはムクリと体を起こし、トレーに手を伸ばした。前回の食事の時よりパンが小さい気がするが、小さなソーセージから卵1つに変わっているのは正直嬉しかった。ネロはパンに手を伸ばすと、先程の看守の忠告など無かったかのように、あっという間に食べてしまった。卵を殻も剥かずに噛み砕き、一息に水を飲み乾した。小さくおくびをすると、ネロは再び体を横たえた。
もう三ヶ月もこんな日々が続いている。一日一度食事があれば良い方で、運が悪いと五日間飲まず食わずなんてあり得ない話ではない。その度に看守は、忘れていると言っているが、この間隔が計画的であることに、ネロは薄々気づいていた。まばらな間隔のせいで、空腹感が増したり、食事を抜く苦痛が酷くなったりするのだった。
それゆえに、下手に空腹にならないため、ネロは必然的に活動をしなくなっていった。常に寝てばかりいると、当然体は衰える。しかし食べないものだから体力を維持する力さえも得られなくなっていた。

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もののけがたり

夜とも朝ともつかぬ淡い色をいっぱいに湛えた明け六つ、まだ微かに寝息が聞こえる長屋に面した細い路地に若い女の絶叫がこだまする。
女はへたりと地べたに尻もちをつき、片手で口を押さえながら震える体を辛うじてもう片方の手で支えながら後退りしているところだった。
「ひっ、人が…人が死んでっ……!」
女が指差す方には、仰向けに倒れている男がいた。目をかっと見開いているが、ぴくりとも動かない。気付けば背後にはわらわらと人が集まっていた。
「死人か?」「誰か死んだのか?」
「待て、こいつ、息をしている。」
男の鼻に掌をあてると、ゆっくりと呼吸をしていた。瀕死の呼吸、というよりは寝息のようなものだった。
野次馬がざわめく。ひとりの野次馬が言った。
「おい、こいつ、なんだか酒臭くねぇか……?」
そう言ったのはなかでも異常に鼻が良いことで有名な男だった。言われてみれば今更だが、酒臭いような気がする。一瞬の静寂が落ち、次の瞬間には大きな笑いが巻き起こっていた。
「ひっ、ひひっ、なんだぁ酒飲みが酔っ払って寝てただけじゃあねぇか大袈裟な!」
「いやぁーそれにしても、目を開けて寝る輩がいたとは。」
確かにそうである。目を開けて寝る奴なんてそうそういるものではないだろう。しかしこのまま寝かせておくわけにもいかない。
「ほらお前さん、起きな。」
男の脇腹をぽんぽんと叩く。男は余程酔っているのだろう、全くもって起きる気配がない。
しかしその瞬間、不意に男の眼球がにゅるりと一回転した。全員が息を飲む音が聞こえた。
この世のものとは思えない不気味さに空気が震える。

しかしそれ以前にひとつ、気付いてしまったことがある。左目の下の泣きぼくろ。その斜め下の頬についた小さな古傷。
見れば見るほど、その姿形は自分自身ではないか……。

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