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LOST MEMORIES CⅤ

無意識に手をのばしていた白桃烏龍は、もう半分もない。
ここまで誘導されてわからないチャールズではないし、そもそも話を聞いてはじめから察していたようにさえ感じる。
「いつになっても色恋というのは面倒なものですねえ。」
「俯瞰しているのね、チャールズさん。」
渦中にいる瑛瑠は笑えない。冷ややかな目を向けると、微笑みが返ってくる。
「でも、得るものは多いんですよ。」
優しく微笑んだまま言葉を紡ぎ出す。
「そこでしか得られないものもあります。お嬢さまは縛られた立場ではありますが、否定されていいものではありません。
学校生活では、何があるかわかりませんから。」
ね?とウインクするチャールズ。これはどのように受け取ったらいいのだろう。
「チャールズも何かあったっていう解釈でいいのかな?」
ちょっと口角を上げて尋ねると、カップを置きソファに身を沈め腕を組み、
「おませさんですね。そんなにオトナの恋愛を訊きたいですか?」
なんていうから堪らない。
「お、オトナって……高校のときの話をしてるの!
そんな色気撒き散らして変なこと言わないでバカ!」
顔を紅くして横のクッションを投げつけて出ていく瑛瑠は、チャールズがしばらく笑いが止まらなかったことなど知る由もない。

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LOST MEMORIES CⅢ

魔力には3つのタイプがある。攻撃型と防御型、そして特殊型だ。
ワーウルフやゴーレム、レオといった種族は攻撃型。血気盛んで、争いになると力で押すタイプだ。名の通り、攻撃的な力が強い。
「血気盛んを体現しているような者はたしかにいますが、攻撃型でも冷静沈着で聡明な者もいますからね。性格は種族じゃわけられませんよ。」
きっと、友人を思い描いているのだろう。瑛瑠は改めて、いかに自分が狭い範囲でしかものを知らないのかと思ってしまう。
防御型に当てられるのはエアヒューマンなど。チャールズに諫められてしまうだろうから、性格については割愛。こちらは、防御的な力が強い。
そして、瑛瑠たちウィッチ,ウィザードは特殊型に当てられる。ヴァンパイアやヴァンピールもここに当てはまる。攻撃と防御のどちらも兼ね備え、しかしどちらかに突出した種族よりは魔力が弱い。そのため、魔力を補うための知能に長けているのも彼ら。
そんな種族には、争い時のみの力関係がある。攻撃型に特殊型は弱く、特殊型に防御型は弱い。そして、防御型に攻撃型は弱いという力関係。逆もまたしかり。
しかし、これはそれぞれの魔力が同じ水準だったときの話。魔力が強ければ強い方に軍配は上がる。そして、権力者に近いほど生まれ持つ力は強い。

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LOST MEMORIES ⅨⅩⅧ

帰りは、多少の頭痛のために大事をもって早く帰ることにした。できるだけ、人に会わないようにすぐに教室を出たはずなのだが。
「あれ、今日は図書室に行かないんだね。」
「……はい。」
なぜ今日はここにいるのだろう。
「もう帰るんだよね?送っていくよ。」
「いえ、今日は大丈夫です。」
望は目を丸くした。どうして,と言いたかったのだろうが、それは明るい声に阻まれた。
「いんちょー!あ、瑛瑠ちゃんだ!ふたりとも帰るの?
なら途中まで一緒に帰ろー。」
瑛瑠が口を開く前に望が口を開く。
「ごめんね、歌名。瑛瑠さんと一緒に帰るんだ。」
「え?」
一緒に帰るなんて言っていない。歌名がいることに言及なんてしていない。
「だから、一緒に帰れないんだ。」
歌名は悲しそうな顔をする。
「そっか……。」
慌てて望の腕を掴む。
「待って、長谷川さん。私、あなたと一緒に帰るなんて一言も言ってないです。」
望は望で顔をしかめる。
「いつも一緒に帰ってるよね?」
どうしてそんなこと言うの?まるでそんなことを言いそうな顔である。
頭痛が増していく。
「一緒に帰ろう。」
掴んでいた腕と反対の手で瑛瑠の手が掴まれる。
思わず振り払ってしまった。
「ひとりがいいんです……ひとりにさせてくださいっ……!」

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LOST MEMORIES ⅨⅩⅥ

正直、何を基準しているのかわからないが、ここで下手に出てはいけないだろう。そして、彼に仮面の笑顔は通じない。だからこそ、にっこり微笑んでみる。この精一杯の嫌味が伝わるだろうか。ここまでの思考およそコンマ5秒。
「あなたと同じか、それ以上です。」
一瞬の驚きを見せたが、ふっと嘲笑った。
「やっぱり賢いのか。ただ現時点では、君の体調不良の原因に気付いている僕の方が上手。」
体調不良の原因。わざわざ口に出すほどでもない疲れやストレスといったことではないと英人は言いたいのだろうか。
「霧さん。」
「英人でいい。」
「……英人さん、あなたはどこまで掴んでいるのですか。」
何でもないといったように言う。
「まだ1週間だし、特には。」
優秀者の余裕、だろうか。先の自分の言動を省みて恥ずかしく思う。
「祝。」
「瑛瑠でいいです。」
せめて、対等に立ちたいと思った。
既視感ある状況に、横を歩いていた英人が少し顔をこちらへ向けた。
「……瑛瑠、まだ君は1番気付くべきことに気付いていない。」
前のような嫌味の色は抜けていた。
違うな,そう小さく呟いたのを瑛瑠の耳はキャッチした。
教室の扉の前で立ち止まり、瑛瑠を向いた。
「気付こうとしていない。君のその頭があって、なぜ気付けない?」
英人は視線と語意を強くして言う。
「君が欲しがっているものは目の前にある。
最優先事項を見謝るな。」

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LOST MEMORIES ⅧⅩⅧ

鳩が豆鉄砲を食らったような顔。
「は……?お嬢さまは恋をしたんですか?」
「もう、また質問に質問で返す。」
ぷうっと頬を膨らませる瑛瑠と、動揺を隠せないチャールズ。
「あの、お分かりかと思いますが、」
「私が自由に恋愛できないことくらいわかっています。」
私じゃなくて,と切り返す。
「何かっていうと、すごく気にかけてくれる人がいるの。最近、帰りは途中まで送ってくれる人。
一昨日、クラスの女の子にその彼と付き合っているのか聞かれて。私はこの生活をしたことがなくてわからないのだけれど、周りからはそんな風に見られているのかと思ってね。
もしも彼が想ってくれているなら、私のこの態度は思わせ振り?相手に失礼な態度だったのかな。そもそも、彼のこの態度はそういうことでいいの?自惚れであるならそうであってほしいのだけれど。」
一気に話す。
仮にも一国の姫。そして、パプリエールには存在を知るだけのフィアンセがいた。自由に恋愛をできるはずがないのは、幼いときから言い聞かせられてきたことでもある。だから、経験がない。
もしもチャールズにそのような経験があるのなら、望の行動の真意がわかるのではないか、そう思っての言葉だった。
一瞬、チャールズは目を光らせた。

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