表示件数
1

第一部のあとがきみたいな追記みたいなもん

 みなさんこんにちは! もし今回の小説をここまで読んでくださった方がいたなら、こんなに長いのにどうもありがとうございました。とっても重くて湿っぽかったのに、本当にお疲れ様でした。

 今回は自分の今ハマっている要素を詰め込んだ結果になります。おおよそ書き終わったのが1カ月とか2カ月前なので、読み返してみると、甘々すぎて胃もたれ起こすような部分もあり、当時の自分の精神状態が心配になるところもあり、という感じでたくさんびっくりしました。
 特に、戦闘後のギスギス(どころの話じゃないデートDV)シーンは、このシーン書きたいがために戦闘シーン入れたというレベルで書きたい部分でしたが、読み返すとアッドが擁護できないくらい酷いし、ファナがあまりに可哀想だし、そもそも反映されるかどうかわからなかったので自主規制してあんな感じになりました。本当はアッドくんがファナちゃんの手にトバルカインを思いっきりぶっ刺して地面に固定されたファナちゃんがばたばたする、というシーンでした。

 他のシーンで追記すると、謎に始まった最後のカウンセリングは、2人がちょっとマトモに見えるように書いた部分なのでとっても不自然でしたね。あとは、私がオリジナルながらファナちゃん好きすぎてその可哀想な思考回路をお見せしたかったというのと、アッド君が今のところただのクズヤロウになってたのでちょっと擁護してあげたかったという意味もあります。私は2人とも大好きです。好きじゃないキャラなんか作りようがありません。

 第二部に関してですが、第一部だけでも話はひと段落しているし、第二部は予定では多少社会派になってしまって余計読んでもらう意識が薄いものになってしまうので、ここまででも十分かなとも思っています。ただ、いろいろと伏線を張ったり、そもそも「彼らが処分されるまでの物語」なのに処分されてないという問題も残ったりなのでぷんやりと書き続けようとは思います。

 書き溜めが尽きているのと、ナニガシさんの企画のも書きたいのでいったんここで区切りという感じになります。

 この度は早く更新したいがために多少雑な仕上がりになってしまったことは、申し訳なく思っています。でも、すてきな企画を用意してくださったテトモンさん、本当にありがとうございました!

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.21

 閑話休題、職員に水を差された若い二人は、明らかに不満げな顔をした。ファナはそのあと、アッドの首にとりついて、片方の手で切断された腕の断面を撫でて、艶笑する。

「分かったわ、ファナがやってあげる。いいでしょ?」

 許可を求める目は愛する少年の目の奥をのぞき込む。本来職員の方に許可を取らないといけないのにも関わらず、だ。

「そうだなあ、一番俺のことよく分かってんのはファナだもんなあ」

 アッドも、彼女の制御を買って出ているなら、勝手なことを言い出すべきではないが……聡明でいい子のアッド君はいったいどこに行ってしまったのだろうか。

「ちょっとなんでそうなるのよ!」案の定職員も制止しようとするが、一度決めると2人とも止められない。

「ちょ、待ちなさいって!」
「手術寝台借りるわよ」
「すいません、すぐなんで入ってこないでくださいね」
 職員の命令も愛の前では無力であるようだ、2人はさっさと手術室に入っていった。
「……なーにが『すぐなんで』よ」

 職員は呆れて独りごちる。

 ……純粋に愛し合う2人は本当に微笑ましい。その幼く、同時に成熟した、否、熟れきって腐りかけた愛が、彼らを、ラボとこの世に繋ぎとめる数少ない手段であるのだと思うと、それが果たして純粋であるかは疑わざるを得ないが、最終的にはどうでもいいことだ。どんなに互いが傷つき、地獄の底でもがき苦しんでいたとしても、かわいそうに、とは思っても、大した問題ではない。

 それがリニアーワルツの背負わされた無常さと、世の中の冷酷さなのだった。


【第一部 終】

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.20

「あなたたち、今回ちょっと大きい怪我しちゃったわけだし、他のペアたちもいる部隊で戦わない? 今回も本来分隊で相手する規模だったわけだし……」
「絶対やだ!」「絶対嫌です」

 2人の声がそろって、職員はつい失笑した。

「他のヤツは目障りです。邪魔」
「ファナが『間違えて』そいつらのこと殺してもいいなら勝手にして」

 アッドはつまらなそうな態度で肘をつき、ファナも何か追い払うように手を払いながら言う。反応が本当にそっくりだ。

「……なんか、もう、ほんと仲良しね……」

 職員が呆れて零すと、ファナが一気に喜色満面になり、饒舌になった。

「そうよ、世界一ね! ファナにはアディくんだけいればいいの。アディくんもファナだけいればそれでいい。ね、そうでしょアディく……あ」

 ファナは途中で言うのをやめて、また俯いてしまった。アッドはその様子に気まずそうに首の後ろを掻く。

「あー、えっと、そう。そうだよ。ファナ」

 優しい口調に、ファナの目に盲目的な輝きが戻った。

「アディくん……!」
「わっ!」

 途端、ファナはアッドの胸に飛び込んだ。背もたれもない椅子に座っていたわけだから、隻腕のアッドが彼女の身体を支えられるわけもなく、バランスを崩して床に倒れた。

「ちょっとファナ、気をつけなさいよ」
「やっぱりファナの大好きなアディくんね!」
「あっはは、俺の可愛いファナ、俺も愛してるよ。……さっきはひどいことしてごめんな?」
「いいのよ、怒ってるアディくんもかっこいいわ」
「俺も泣いてるファナも可愛くて好きだけど、こうやって幸せそうにしてるファナはもっと好きだよ」
「……お二人さん、それ、腕治してから『部屋で』やってくれる?」

 職員は見てられないとばかりに額に手をやって眼を逸らした。

 正直この2人は放置して次の仕事に移りたかったが……そんなことをしたら一晩医務室を貸し切りにしなくてはいけなくなるだろうから、ムードをぶち壊してやるしかなかった。
 床に押し倒される少年とそこに跨る少女が、キスでもするのかという距離で見つめあうという状況は罷り通っていいものではない。だから一話冒頭でも邪魔が入ったのだ。これは世の摂理である。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.19

「……ファナ、自分に価値ないとか言ってるけど、それこそ俺だって、ファナには必要ない存在ですよ。ファナにはチヤホヤしてくれる奴がたくさんいる。俺なんかよりいい相手がいくらでもいる」
「ファナはアッドから離れたくて出てってるわけじゃない。むしろ逆だって分かってるでしょ?」

 アッドは頭をこくっと前に倒すが、すぐに震えた声で続ける。

「今は冗談めかしてますけど、いつか本当に俺に愛想つかすんじゃねえかって、いつも不安で、余計頭ぐちゃぐちゃになって、冷静になれなくて、で、結局暴力振るって……」

 職員はその独白を聞き、軽く溜息を吐く。

「言うまでもないことだけど、暴力も暴言も絶対に駄目よ。あなた、ちょっと前にファナのことディソーダーのサンプル保管用の冷凍庫にファナを監禁して殺しかけたことあったでしょ」
「……」
「2人の間だけで完結するならいいけど、あなたたちには戦うって役目があるのよ。しかもカナンの主戦力なの。それが1週間2週間と使い物にならないのは本当に困るの。ファナはそういうのに思い至らないかもしれないけど、アッドは賢いんだから、分かるでしょ?」
「……はい」
「あなたの加害癖は治るようなものじゃない。ファナの依存もなくならない。でも離れることもできないの」
「……そう、すよね」
「あなたは賢くて優しい子だから、ファナにとって一番いい選択ができるはずよ」
「優しい奴は女殴りませんけどね」
「性格と性質は別だから。さ、全部終わったから、服を着て、あっちに戻りましょう。あんまりのんびりしてると、あの子が拗ねちゃうから」

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.18

「聞こえてたでしょ」

 アッドは無言で力なく首を縦に振った。主な外傷を視診し、腕の具合を診る。

 傷口は内側だけ体液にコールタールのような粘性の高い液体が混ざって蠢いている。その粘液はディソーダーの体液に酷似している。大きな傷の出血を止め、組織の再生を速めているものこそがこの粘液である。
 一方ケロイド部は溶け固まってしまってなかなか再生が始まらないようだった。赤茶色の断面から黄色っぽい半透明の液体が滲み出ているだけであった。なお、四肢の欠損となると、完全な再生を待つより、すでに再生が始まってしまった部分やそれを阻害している部分を取り除いて、元の腕の接着を待つ方が早い。

 傷の様子をカルテに書き込んでいると、アッドが独り言のようにぼそぼそと話し出した。

「……なんでファナは、あんなに俺のこと好いてくれるんですかね」
「そんなのあなたが一番分かってるんじゃないの」
「分かんねっすよ。俺はすぐファナに怒鳴るし、手ェ上げるし」
「ファナがそれを狙っていろいろやってるんでしょ」
「でも俺は、ファナに怖い思いさせたくない。ファナ、俺が殴ると、すごい嬉しそうな顔するんすよね。でも、同じくらい怯えた顔する。その、嫌がってんのに無理やり俺のこと受け入れようとしてるんだって、なんか無性に腹立って、余計に止まらなくなる」

 アッドは拳を強く握りしめた。

 ――ファナに腹が立つのではない。ファナが受け入れてくれることにあぐらを掻いて、彼女が深層心理で最も恐れていることを繰り返し、洗脳してしまっているのを理解しているのにやめられない自分に腹が立って仕方ないのだ。自分に対する怒りを外部に向けてしまうことに腹が立って仕方ないのだ。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.17

 初めこそ驚いたものの、今は何でもないことだ。
 職員は他のリニアーワルツ同様診察する。
 その最中、いつも如何に自分とアッドの仲がいいかを語る役割しかない口から、不安そうな音色が漏れた。

「……ファナ、アディくんに嫌な思いさせたくないの。アディくん怒るとき、なんか泣きそうな顔する」
「ファナ、ちゃんと分かってるじゃないの」
「でもいっつもひどいこと言っちゃうし、アディくんがやめてって言うことばっかりしちゃう」
「どうして?」
「構ってほしい……ううん、ずっとファナのこと考えててほしいの。アディくんは優秀で、ちゃんとしてて、ラボの人たちもアディくんのことは気に入ってる。それにアディくんはファナがいなくたって平気なの」
「なんでそう思うのよ」
「あんた、アディくんがいつも何してるか知ってる? 本読んでんのよ。毎日何冊も。ファナは本読まないから話合わないし、アディくんは1人でも平気」
「アッドは1人じゃ戦えないわ」
「ほら。そういうことよ。ファナは、持ってるジェミニにしか価値ない、から、アディくんがそれに気づかないように、どんな気持ちもファナにだけ向けててくれるように、嫉妬させたり怒らせたり困らせたりするの」
「ファナはそういう負の感情を向けられたいの?」
「そんなわけないわ! ……でも、ファナのために感情が動くなら、もう何でもいい。ファナはバカで性格悪くて戦闘も弱いから、アディくんのこと喜ばせられないもん。ただ、ファナのことどうでもよくなって、アディくんがどっか行っちゃうのが怖い」
「本当に健気な子ね」
「どう見たらこんな汚れた女が健気に見えるのよ」
「まあ、自分でそう思えるようになるのは難しいわよね。……全部診終わったから服着ていいわよ」

 ファナはまた黙ってしまった。
 職員がアッドの検診のために立ち上がって、隣の診察室のカーテンに手をかけたとき、振り返らないままでファナに言った。

「そういうの、アッドには言ってるの?」
「……」
「折角いつも一緒にいるんだから、ちゃんと自分の気持ちは言いなさい。愛する人とは、本音で語り合うものよ」

 ファナは黙ったままだった。

 診察室に入ると、アッドがうなだれていた。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.16

 初めてその傷を目にした際、もちろん職員は戸惑って尋ねた。

「ちょ、ちょっと、この傷何なの? 治ってないし……新しいものではなさそうだけど」
「んえ? あーこれ? 分かんなぁい」
「分かんないってどういうことよ」
「どーもこーも、気づいたときにはあったのよ」
「そんないい加減な……」
「確かに見た目は悪いけど、でもこの傷ね、アディくんとお揃いなの!」

 ファナは嬉々として語った。確かにファナの後に検診したところ、アッドのチョーカーの下にも同じ傷があった。だからといってリニアーワルツ全員が持つものでもない。むしろ他にこのような例は見たことがない。職員はこの事実を知ったとき、酷い悪寒がした。何かしらの彼女らの意思が働いているのかもしれなかった。

 しかし彼女らは兵器としては善戦してくれているわけだから、どうでもいいところである。職員はとりあえずは当り障りのない、検診の一環としての質問に徹する。

「随分深いようだけど、痛くないの?」
「全然。でもここね、触るとくすぐったくてね、だからアディくん寝るとき」
「はいはい無駄話はおしまい。アッドの方行ってくるから大人しく待ってなさいね」
「えー、もっとアディくんとのノロケ話聞いてほしかったのにぃー」
「こらファナ! あんまり職員の人困らせちゃだめだろ」
「はぁーい」

 その際管理部に訊きに行ったことがあったが、管理部すら知らない情報だったので、恐らくは機密情報にあたるのだろう、性能に問題はなさそうなので、それ以上追及することはなかった。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.15

 職員ははっと息を吐いた。

「話す気になったら話しなさい。とりあえず順番に損傷の記録をしないといけないから、アッドはあっちの診察室で待ってなさい。腕は……」

 ファナは腕を離す気はなさそうである。「まあいいわ」職員は諦めて、アッドに移動するよう促した。アッドは軽く会釈をして、黙って立ち上がった。去り際、ファナの頭を、怯えるような手つきで撫でて、目線を合わせないようにすぐ踵を返した。ファナは抵抗しなかった。

 アッドが去った後、職員はカルテを用意しながら「仲良しね」と微笑んだ。

「……べつに。アディくんのこと怒らせちゃったもん」
「アッドは頭に血が上りやすいだけよ。少なくとも今は怒ってないでしょ」
「きっともう嫌いになっちゃったわ」
「バカ言わないで。嫌いな人の頭撫でないじゃない」
「でもファナは嫌いなヤツとでも遊び行くわよ」
「それはお金貰ってるからでしょ」
「でも……ファナのせいでアディくん痛い思いさせちゃった」
「お互い様なんじゃないの」
「アディくんは痛いの好きじゃないもん」
「ファナは好きなの?」
「嫌い。でもアディくんはファナへの想いが強すぎて手ぇ上げちゃうだけなの。だからアディくんのは好き」
「……そう」

 ファナの話を聞きながら、身体に傷がないか視診触診する。
 会話が途切れたところでアッドの腕を置いて服を脱ぐように促し、ファナはいつもの診察の流れに沿ってそれに従う。

「これは?」
「それも」

 職員の言うようにチョーカーを外すと、隠れていた傷が露になった。

 首筋――耳の下あたりに、抉れた部分がある。リニアーワルツには高い回復能力がある。戦闘時の通り擦過傷程度なら数分もしないで跡すらなくなる。抉れたくらいの傷なら基地に帰ってくる頃には殆ど完治する。その中で戦闘中にできたものではない傷がある。
 医師免許を持つ医務室の職員はその傷が何によるものなのかはすぐに分かったが、経緯は一向に分からない。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.14

三話 医務室にて

 ファナは腕を抱えていた。頭とかではなく、腕。比喩ではなく、まさに腕そのものを。筋肉質な男の腕で、二の腕の切り口部分が部分的に焼けただれてケロイド状に固まっているが、一部分は無造作に引きちぎられたようで、血が滲み出ている。よく見てみると細い血管が張り巡らされているのが見えた。

 そして、ファナは非常に居心地の悪そうな顔で下を向いて、椅子にちんまりと座っている。隣には腕の本来の持ち主、左腕が袖ごとなくなってしまっているアッド。こちらもまた居づらそうな表情。先ほどの癇癪と比べるとしおらしい態度だ。

 医務室の職員は、喧嘩の仲裁を受けている小学生のような彼らを交互に見て鼻で笑う。まさに小さな子供の相手をしているときのような目だ。

「……あんたたち、次はどうしたの。また痴話喧嘩?」
「……」「……」

 二人は黙りこくっている。ファナは腕を抱きしめる力を強めた。切り口から少し血が滲んだ。

「なんかやましいことでもあるの?」
「別にない、すけど」

 アッドが口の中で呟く。先ほどの出来事はアッドの中では『やましいこと』に入らないらしい。

 相変わらずファナの方も職員の方も見ないで、ファナが座っている方の逆側にあるキャスターの上の消毒液の蓋辺りに視線を固定していた。

「喧嘩?」
「喧嘩じゃないわ」

 ファナがすぐさま訂正した。ところであれを喧嘩と言わないなら、殺し合いでもしない限り喧嘩にカウントされないのではないだろうか。喧嘩ではないと言いつつも、こちらも誰とも目を合わせないで、隣の壁の掲示物の画鋲を惰性で見つめている。
 確かに、ファナがアッドの腕を大事そうに抱きしめて、顔や服が汚れるのも気にしないで頬にぴったりとくっつけている様子を見ると、二人の仲に亀裂が入ったわけではなさそうだった。実際これまでに、戦闘後にこのようにして医務室を訪れることは何度かあったが、彼らの歪んだ愛情が、一時のトラブルか何かで変質することはあり得ないのだ。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.13

 ファナは、アッドが腕を振りほどくとよろけて倒れた。

「ちょっと何すっ……!」

 反論しようとしてアッドの顔を睨んだが、その瞬間声を失った。彼が冷たい目で見降ろしていた。――静かに眺めているしかなかったのだ。
 ファナはその、少しの関心もないような、虚空を見るような目に、反射的に言葉を並べ立てた。

「ごめんなさい! ごめんなさい! 許して、ごめんなさい!」

 しかしアッドの『関心』は戻ってこない。彼はかがんで、低くつぶやいた。

「なんでこんなことになってるか分るよな」

 ファナが必死に頷く。しかしその一挙手一投足に気が立って仕方がないのだ。質問の形をとってはいるが、今は、何の反応もいらなかった。むしろ、何もしてほしくなかった。
 アッドはファナの髪を掴んで顔を近づける。またファナが短く悲鳴を上げる。

「俺、ファナのこと傷つけたくないの。分かる?」
「分かってる、から、ごめ、なさ」
「ぁああクッソ! ちげえんだよ!」

 ファナの口から漏れ出た謝罪に、余計に腹が立った。謝らせたい訳じゃない。むしろ自分の方が謝らないといけないのに。自分への怒りが全て外部へのものに変換されていく。

 低く唸るように息を吐く。感情的な力をすべて吐き出そうとする。それと同時にファナの髪を掴んでいた手からも力を抜く。
 地面に這いつくばって耳を塞ぐ少女を一瞥すると、俯いたその表情に明らかに苦痛とは違う、異物が交ざっていることに気付いた。

 「あ、ご、ごめん、なさ、ぁ、や、やくに、やくに、立たなくて、が、あ、……なさぃ」何か決められた呪文のように文字を絞り出す口元が、三日月形に歪んでいる。アッドを見上げる瞳は異質な光を帯び、涙が妖艶なその表情の上を伝う。

 アッドはそのあまりに悲惨な表情に、我に返って腕を力なく下した。

「あ……」

 アッドの目から殺意が消えると、ファナの顔から笑みが消え、不安そうに口角を下げた。

「あ、あでぃくん……?」

 アッドは返事をせずに、逃げるようにカナンに向かって歩き出した。

「アディくん? ねえ、なんで、見捨てないで、ごめんなさい、お願い、いい子にするから! 見捨てないで!」

 ファナの悲痛な叫びを聞かないふりをして、アッドはその場を後にした。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.12

 今日も戦闘が終わった。
 ファナは先ほどの感覚に困惑して、立ち尽くしていた。

 先の不思議な孤独感。あそこまでの恐怖は今まで感じたことがなかった。急に真っ暗な世界にひとりで閉じ込められる、あの感覚。そして、同時に襲った気味の悪い違和感。自分は、アッド以外の誰かの名前を呼ぼうとしていた。それはいったい何故、誰を……。

「……ナ、ファナ!」
「あ……」

 肩を揺さぶられて、やっと意識が現実に帰ってきた。目の前には不安に切迫した表情で少女の大きな瞳をのぞき込むアッドの顔。

「アディくん大丈夫っ」
「見たら分かるだろ、ファナのおかげでこのザマだ」

 ファナはアッドの負傷を思い出し、心配する言葉をかけるが、アッドにも思うところがあるらしかった。声を荒げないように喉の奥で感情を押し殺そうとするが、いささかばかり、嫌味になって出てきてしまった。
 もとはといえばファナの不注意で片腕を失う結果になってしまったのだから、殊に短気なアッドが冷静さを多少欠いてしまうのは、彼の性格上仕方のないことではあった。

「何それ、なんでいちいちそういう言い方するのよ!」
「それはファナがっ……!」

 アッドはそこまで言って、口をつぐんだ。下唇を噛んで、ファナから眼を逸らす。全ての言いたいことを飲み込んで、「行くぞ」とだけ唸った。

 今ファナの顔を見たら、何か言ったら、ブレーキが利かなくなる気がした。全身の血が沸騰するような、その熱を発散してしまいたい衝動がアッドを襲い、傷の痛みよりも惨たらしく彼を苦しめた。
 その心中を、ファナが察せるわけがないのだ。

「ねえなんで怒ってるの! ファナのこと嫌いになったの!」

 アッドはその声を必死に無視しながら、トバルカインを拾いに行く。暴力的な感情を抑えている代わりに、トバルカインを持つ手が震える。
 ファナはその腕を強く掴んだ。

「無視しないでよ!」

 アッドの中で何かが切れた。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.11

 発散されるはずだった光が砲塔内部で爆ぜた。

『ギィィイィイィィイィイ!』
「ぎゃっ」

 ディソーダーが叫び声を上げ、頭部にあたる部分が爆散する。爆風でファナも吹き飛ばされるが、今度はうまく着地する。辺りが砂埃に包まれ視界から色が消える。
 ただ、気分の悪い空気を、脳が拒絶するような音波が揺らしている。


 ファナは、急に独りになった気がした。停滞した空気が、彼女の肺の中にまで入り込んで、その思考を停止させてしまった。

 恐怖が五感を支配して、何も聞こえなくなった。

 助けを求めなきゃ。

 いつものように名前を呼ぼうとした。

 アディくん。

「あ、ね、あれ」

 しかしそれしか出てこなかった。呼ぶべき人の名前が分からなくなって、頭では分かっているのに、なぜか、呼ぶべき名前はそんなものではないような気がしたのだ。
 真っ暗な孤独を貫いたのは――

「ファナっ!」

 その瞬間、世界が音を取り戻した。
 反射的に声の方を見ると、砂埃の中からトバルカインがとんできた。アッドが投げたのだ。

 ファナはトバルカインを掴んだ。リニアーワルツとしての本能的な反応だった。
 ファナはもう一度、目に鋭い光を宿し、災禍を睨んだ。

 砂埃が晴れる。

 ディソーダーの砲塔は完全に吹き飛んで、外皮は溶け、内組織の毒性のある体液と反応してぐずぐずと気泡を発している。生命力を失った赤い光が、時々思い出したように強まって、すぐに消え入るを繰り返していた。

 それが対峙する小さなリニアーワルツの両手には、ナアマとトバルカインではなく、対物ライフル並みの巨大な火器型の合体形態のジェミニ。

 それを片腕で、涼しい顔をして構える。そして引き金を引く。

 直後、冷酷な白い光が、ディソーダーの動力部を完全に破壊した。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.10

 すぐに起き上がって周りを見渡すと、ナアマが自分の左の方……ディソーダーの脚のすぐ下にあるのを見た。時折アッドの攻撃を受けてよろけたディソーダーの脚が掠めて位置が移動した。

「おい大丈夫かっ」
「へ、へーきよ! 構わないで早く動き止めてよ!」

 ファナは強がって叫んだ。アッドが舌打ちで返したのは気付いていないことにした。

 ファナはナアマに駆け寄る。視界がふさがれたディソーダーは明後日の方向に熱線を放ち、脚はでたらめなステップを踏む。アッドは片方しかない腕でトバルカインを握り、敵の脚を1本ずつ、確実に突き刺し、切り落としていく。切り口からはディソーダーの体液が噴き出て、周囲は既にどす黒い水たまりができている。時折粘性の高い液体に足を取られてよろける。しかも全身にディソーダーの毒性のある体液を浴び、身体は重く体力もかなり削られている。

 ――正直、今の満身創痍の状態のアッドにとどめを刺すのを任せることはできない。自分がナアマを取りに行って、トバルカインを受け取り、とどめを刺さなければ。
 ファナは考えた。
 ファナは意を決し、ナアマを手にした。

「キモいの! こっちよ!」

 ファナはディソーダーの後頭部……アッドがいるのと反対側に回って、ナアマで切りつけた。アッドから注意をそらすためなのであまりダメージにはなっていない。
 しかしディソーダーはアッドから攻撃の対象をファナに変えた。ファナは強張った表情で空笑いをする。

「アディくん!」

 ファナは名前を呼んで、アッドに目配せした。彼もそれで目的が分かった。相方の無茶に目を丸くしたのもつかの間、すぐにディソーダーの近くから離れて、その視界の外から都合のいい地点に移動する。

 ディソーダーの砲塔部の内部が赤く発光する。可聴域ギリギリの音波が脳を貫く。それを無理やり無視するためにファナは目をかっと見開いて、大きく跳びあがりナアマを振り被った。焼けただれたような熱い空気を薙ぎ払い、ナアマが砲塔部の付け根に直撃した。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.9

 ファナが叫んだときには、口論に気を取られている間に体勢を立て直したディソーダーの熱線攻撃が、アッドの右腕に直撃した。勢いで後方に吹き飛んで、地面に身体中を打ち付ける。そのたびに、肺の空気が圧し出される音が口から洩れた。かろうじて地面にトバルカインを突き立てて勢いを相殺する。

 しかしアッドの右腕はもうダメそうだ。当に皮一枚で繋がっている状態。右腕は力なくぶら下がっているだけである。熱線によって切断された部分はすぐに溶けて固まって、血は出なかった。代わりに治癒は遅くなる。

「ああああクッソいってえなあぁ」

 アッドは痛みというよりもいらつきで低く唸った。役に立たなくなった邪魔な腕は無理やり引きちぎって、いらつきを発散するように投げ捨てた。

「ちょっとアディくんっ、大丈夫なのっ」
「心配してる暇ねえだろーが!」
「そんな言い方ないじゃない!」
「無駄口叩くなよ、またぶん殴られてえのかっ」
「それはっ」ファナがひるんだので、彼女の様子を無視して指示する。

「ファナは目玉狙え、俺はこっちで動き止める」

 アッドはそのままディソーダーの脚元に滑り込んでいった。上半身を狙うと熱線攻撃が危ないが、それも砲塔のような機関が1つあるだけなので、8本もある脚の攻撃を捌きながら無力化するよりは安全なものである。
 ファナもそれは分かっていた。

 黙って足を伝って上半身に登って、砲塔を振り回すのを避けながら、ナアマを充血した目玉に振り下ろした。

『ンンンギイィアアアアアア!』

 ディソーダーが耳をつんざくような悲鳴を上げて頭部を振った。ナアマは目玉に刺さったままで、ファナはそのまま振り回される。飛ばされないようにナアマを強く握るも、華奢な少女はすぐに振り落とされてしまった。

「やっ」短く悲鳴を上げたファナの手からナアマが離れる。ファナは受け身を取りながら、少し遠くで愛機が固い地面にぶつかる音を聞いた。

「やばっ」

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.8

 しかし敵が全滅したわけではない。大型個体が残っている。
 鋭いものが風を切る音に気付いて振り向いたときにはもう遅かった。大型ディソーダーの脚が目前まで迫っている。今から避けても腕の1本はダメになることは確実だった。

「やっ」

 ファナが短い叫び声を上げたとき、禍々しいものが、避けられなかったか弱い女の子の白い肌を裂き、肉を抉り、臓腑を貫き、骨を砕き、身体が真っ二つに――ならなかった。
 痛みの感覚の代わりに、少女は何かが金属にぶつかる音を聞いた。

「え」

 顔を上げると、そこには、あとはファナの身体を貫くだけだった真っ黒い凶器と、それに飛び蹴りをかます少年。少女の親愛なる――

「アディくん! おっそい! ファナあとちょっとで死んじゃうところだったじゃない!」

 助けてくれた相手へのものとは思えない言葉である。それに対してアッドの方はというと、

「ファナの取り逃がした奴を片付けてたんだよ! ほんっとにファナは役立たずだなこんなことも1人でできねえのか!」

 こちらもまた愛する人に向ける言葉ではない。先ほど優しいキスをしたその口で罵詈雑言を浴びせる。彼は車の運転をするとき性格が変わるタイプのようだ。

 アッドは怒鳴りながらも三叉槍型ジェミニをディソーダー脚の付け根に突き立て、体勢を崩させた。

 ――アッドのジェミニの名は『トバルカイン』。ハニーサックルピンクの体躯は1.7メートルはある。2本の棒が絡み合っているような、いささか不気味な見た目のジェミニである――。

「はあ? ひっどい! ファナだって大変だったのよ、いっぱいケガもしたし! アディくんだって1人じゃどうもできなかったでしょ!」
「俺はファナみたいなヘマしねえ」
「じゃあアディくんがこっちやれば良かったじゃない!」
「ファナに避難誘導ができるわけねえだろっ! べちゃくちゃ喋ってるだけで使えねえなあっ……てぅがっ!」
「アディくんっ」

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.7

「おいキモいの! ファナが相手してやるわよ!」

 ファナはディソーダー群に近づくと叫んだ。空気の振動に彼らは足を止め、ファナの方を真っ赤な目玉でぎろりと睨んだ。そして耳を塞ぎたくなるような共鳴音を上げて、たった1人の華奢な女の子に一斉に向かってくる。

 ファナは臆せず群れに飛び込み、ナアマを振り回す。熱線攻撃と鋭い脚での攻撃を軽々と避けつつ、足元に回りナアマをひと振り。ディソーダーの体躯に対して細い脚は簡単に切断されて、がじゃんがじゃんと音を立てながら体勢を崩す。崩れ落ちたときに外皮の破片が四肢を掠めて、いくらか傷ができた。浅いものはすぐに治癒したが、深く肉が抉れた傷はそう簡単には治らず、生温い鮮血がどくどくと流れ出た。

「いやぁだぁ! アディくん以外がファナを傷つけるなんてっ」

 なんだか狂気的なことをほざきつつ攻撃を避ける。その間に血は止まってきた。
 何はともあれ、こういう戦い方ができるのは、小型ディソーダーと比べても小さい人間型のリニアーワルツたちの、数少ないながらもかなりのアドバンテージである。攻撃を受けたディソーダーは、人間の叫び声と鯨の鳴き声を混ぜたような鳴き声を上げて、最後の抵抗とばかりに熱線攻撃を浴びせる。しかしほとんど動くことのできない彼らの攻撃が当たるはずもない。目玉から脚の付け根まで伸びた赤く鼓動する溝にナアマを突き立てて、一気に引き下ろすと、ディソーダーはグロテスクな叫び声をあげ、粘性の高い黒い液体を噴き出して動かなくなる。

 ファナ1人ではどうすることもできない大型個体はとりあえず放置し、小型個体の殲滅を図る。ファナは先ほどのような戦闘を何度か繰り返し、最後の小型個体を倒した。

 ふと自分の身体に目をやると、どろりとした体液が白い肌の上を流れている。ディソーダーの体液と自分の血液という質感の違う液体が混ざって気持ち悪い感覚がした。

「うぇーっ、まじサイアク!」

弾かれたように手足をばたつかせて悪態を吐いた。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.6

「……な、なに? 早く行きな?」

 アッドは不思議に思って優しく諭す。するとファナが、不満そうな顔で自分の口を指さす。

「ちょっとアディくん忘れてる」
「……ああ、急いでんのに……」

 言われてやっと気づいたアッドは、観念したというように、ファナの桃色の唇の端に口づけをした。互いの唇のピアスが当たって、2人にしか聞こえないくらいの小さな金属音を発した。

「やったあ、じゃあ行ってくるわね」

 ファナは満足そうに目を細めて地上20メートルはあろうかという城壁を飛び降り、城壁に足を滑らせて勢いを相殺しつつ地上に降りた。ディソーダーの方に走っていったのを確認すると、アッドは第3鉱山に向かった。



2話 戦闘開始

 ディソーダー群は地響きを轟かせながら第3鉱山に近づいていた。時折異界の地中のエネルギーと共鳴してモスキート音とも重低音とも聞こえるような、気味の悪い音を発した。

 今回のディソーダーの見た目は、おおよそ黒くぎらつく蜘蛛型ロボットの様相で、ところどころ赤く爛れているように見える。生き物の外皮を剥いで人工外皮を張り付けたようで、何か生物の尊厳を侵害しているようで見ていて心地よいものではない。それだけならまだしも、理由の如何も不明だが、人間やその社会の破壊を図るのだから厄介なものだ。

 ファナにとって、それ自体は大した問題ではないし、そもそも興味もないからできることなら放置しておきたいのだが、「アッドに言われるから」ということでサイレンが鳴る度に立ち向かっていくわけである。

 ファナはディソーダーに向かって荒野を駆け抜けながら、ジェミニを起動する。
 ファナの持つのは鉈型ジェミニ。ショッキングピンクを基調として、ハートやリボンのモチーフが散りばめられた、武器としての禍々しさに対して相応しくない可愛らしいデザインのジェミニだ。名前は『ナアマ』である。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.5

 前線都市カナンは異界開発機構の基地を中心とした環状都市である。研究施設と軍事施設を囲むのは、そこに務める人々が使う飲食店や日用品店。その周りに住居群があり、異界鉱石で造られた高い城壁が、不愛想なカナンの街並みを睨みつけている。ラボに隣接した街のインフラを担う動力供給部や城壁は、変換しきれなかったエネルギーが冷たい可視光線となって、時折幽霊のように瞬いた。この街は、資本主義によって死んだ、異界資源と理性の未練によって動かされているのだ。

 この街が活動的になるのは、心臓を抉るサイレンが鳴り響くときだけである。

「アディくーん、様子どー?」
「まあ大したことねえな。デカいのが1体と、あとちょろちょろいるだけ。でもまずいな」
「何よ」
「あっちは第3鉱山の方だ。働いてる人がたくさんいる。ファナは先に行って戦っててくれ」
「ええー、アディくんも一緒に行こうよ。ファナあんなのキモくて相手してらんなあーい」
「キモいのの相手なんかいつもしてんだろ……」
「アディくんと遊ぶためだから我慢してるの」
「じゃあ今回も我慢してくれ、ちゃんとできなきゃ処分だぞ」
「んぇー」

 ファナが頬を膨らませてごねると、アッドは苦笑して頭を撫でてやった。

「ファナは良い子なんだから、できるよな? 俺もすぐ行くし」
「んー、仕方ないなあ」
「じゃあ行ってきなさい」
「はーい」

 返事はしたものの、ファナはアッドの方をじいっと見つめるだけで動こうとしない。アッドがジェミニを起動して第3鉱山に向かおうとしたところ、まだ隣に可愛らしい顔でこちらを覗く少女がいた。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.3

「へー、俺には飽きたって言いたいの?」

 アッドが不満げに言いながら、先ほど自ら崩してしまった髪を優しくなでる。そしてそのまま、耳、頬、首筋、鎖骨と手を滑らせる。もう一方の手はファナの腰に回している。

「そんなこと言ってないじゃないっ」

 ファナが目を見開いて反論すると、アッドはいたずらっぽく笑って、にわかに彼女の身体をぐいっと引き寄せた。

「きゃっ」

 何が起こったのかよく分からないうちに、アッドはそのままベッドに仰向けになって、ファナがその上に抱きかかえられる形になる。

「この浮気性の不良娘! 悪い子にはこうしてやるっ」
「きゃっ、ちょっ、やめてよっ、あっ、あっははは!」

 ファナの抵抗も虚しく、アッドはキャミソールから出た白い肌をくすぐる。
 通りすがりの研究員2人組が、扉の小窓からリニアーワルツたちの様子を一瞥し、呆れた溜息を吐く。

「……今日も懇ろにやってるみたいで結構なことですね……オレなんか彼女いたことすらないのに……」
「それは頑張れとしか言いようがないが……」

 先輩研究員が苦笑いする。しかし直後、眉をひそめて不快感をあらわにした。

「気持ち悪いヤツらだ」
「確かに、リニアーワルツが色恋だなんて」
「あー、お前は開発部じゃないから知らんのか」
「まあぼくはFラン大学卒の下っ端すからね」

 後輩研究員が口を尖らせた。先輩研究員は「学歴厨だなあ」と苦笑した。
 しかし直後に「……旧帝卒でも就職難しいのに? お前実はすげえのでは……」とこぼした。

 そのときである。ラボに不穏なサイレンが鳴り響いた。

0

第一部【FANATICALとADDICTED】p.2

「あ、でもほんとはね、20万の予定だったのよ? でも負けてくれっていうの。信じらんないでしょ、リニアーワルツと遊べることなんて滅多にないのに。だから途中で帰ってきちゃった。早くアディくんに会いたかったしー」とファナが呑気に話す姿を見て、アッドは、はぁーっと大きな溜息を吐いた。

「ファナぁ……またそんなことやってたの? カネなんかなくても生活できるでしょ?」
「でもファナ、アディくんと遊び行きたいんだもん。ラボの連中遊びに行くカネくれないじゃん」
「そりゃ外出禁止なんだから」
「じゃあいいの? アディくんはファナとデートできなくても」
「それは嫌だろ」
「じゃあちょっとくらい許してよ」
「……そんなことしてるとさ、俺が女に遊ぶカネ稼がせてるみたいでしょ?」
「大丈夫よ。だってご飯食べておしゃべりするだけよ?」
「……ほんとにそれだけ?」
「ぅやっ……それだけ」
「……嘘だな」

 アッドの刺すような眼差しに、ファナは後ろめたそうに顔を背ける。自分に隠し事をしようとする態度に些か気が立ったアッドは、先ほどの大切なものを包むような手つきから一変、乱雑に彼女の髪を掴んで、その不安定な光を放つ瞳をのぞき込む。

「やぁ痛あい!」
「あっ、すまん……」

 強気に出ていたアッドが、痛がるのを聞くとすぐに手を引っ込めた。彼の眼には不安と、何かに対する恐怖のようなものがちらついている。ファナは崩れた髪を手櫛で直しながら、観念したというように、口を尖らせた。

「そーよ。でも別にいいでしょ? 気分転換よ気分転換」

1

【第一部 FANATICALとADDICTED】p.1

1話 狂信的で依存的な


「ただいまアディくーん、愛しのハニーが帰ってきたわよー」

 07号室の扉が開き、派手な服装の少女がにこにこしながら闖入してきた。

「おー、おかえりー。ファナ、遅かったな」

 アディくんと呼ばれた少年――アッドは簡易ベッドに横になって、本を読んでいた。その隣には文庫や新書など五冊が積まれている。
 アッドは少女をファナと呼んで、一度振り返っただけで読書を再開する。

 時刻は午前0時。子供が出歩くには遅すぎる時間に帰ってきた相棒を心配する素振りを見せないアッドに、ファナは不満そうな顔をした。

「ねーちょっと! 親愛なる女の子がこんな遅い時間に帰ってきたのよ。心配してよ!」
「別に心配することないだろ。襲われても倒せるんだし」
「そーうーだーけーど! 何、ファナには興味ないんだ?」

 ファナは拗ねた顔でベッドに寝そべるアッドの上に跨って座った。アッドは苦笑して本を閉じた。

「なんか飛躍したなあ」

 アッドは起き上がって、左手でファナの頬を優しく撫でた。その左の薬指にはめた指輪はファナとお揃いだ。

「じゃあどこ行ってたの」
「えー、どこだと思う?」
「自分で言わせといて……」

 不平を漏らしつつもアッドの表情は愛しい者を見るときの微笑みを浮かべている。ファナはその手を優しく包んで、満足げな表情を呈している。

「それよりね、ファナ、今日10万も貰っちゃった」

 ファナはそう言って剥き身の10枚の紙幣を鞄から取り出し、無邪気に少年の目の前に突きつける。アッドは複雑な心境で眉をひそめた。

0

【プロローグ】p.3

 私はFANATICAlの質問に「そうだね」と答えた。FANATICAlは「じゃあ最期もお揃いってことね」と満足そうに言った。そして続ける。

「天国で会えるかしら」
「そういう死後の世界があるとしたら、きみたちは少なくとも天国には行けないだろうね」
「アディくんのこと悪く言うなんてサイッテー」
「天国に行けるような生き方をしていたなら、二人揃って処分されることなんてなかったんじゃないのかね」
「んむー」

 先の妖艶な笑みとは打って変わって、FANATICALは小さな子供のように頬を膨らませた。表情どころか、その身にまとう雰囲気までもころころ変えるのは、些か気味が悪かった。多かれ少なかれ、リニアーワルツにはそういう傾向がある。人間の子供の形をしながら、確実に人間ではない……彼らの魂は、人工物としての歪さを孕んでいた。

 私はその違和感から眼を逸らすように話題を変えた。ずっと気になっていたことだ。

「きみ、どうしてADDICTEDは処分されたんだい。きみらはカナンでも屈指の実力だったみたいじゃないか。確かにADDICTEDは精神的に危ういところがあったが……リニアーワルツの中では基本安定していたし、指示もよく聞いてくれた。なのにどうして」

 私が尋ねると、FANATICAlはおかしそうに笑って、ベッドの隅に置かれていた小さな箱を手に取った。それを開け、中に入っていたFANATICAlが身につけているものと色違いの指輪を手に取り、部屋の明かりにかざした。色を失った石がちらと輝く。FANATICAlはその指輪に優しくキスを落とした。唇の端のピアスが指輪に触れて、小さく金属音を発した。

「アディくんはいない。それだけ。理由とか興味ない」
「知られたくないのか」
「別に。知りたいなら調べればいいわ」
「そうか。分かった。時間を取らせて申し訳なかった」
「いいのよ」
「……じゃあ、処分のときに来る」
「待ってるわ」

 私は07号室を後にした。

 午前中、ディソーダー討伐から戻った他のリニアーワルツの検診をして、午後は半休であったので、資料庫にFANATICAlとADDICTEDの件を調べに行った。

0

【プロローグ】p.2

「そうかい。訊きたいことは」
「んー、何かしらね。そうだ。処分って、ファナ死んじゃうってことでしょ?」
「その表現はかなり近いと思うよ」
「どうやるの?」
「君のことを眠らせて、身体の中の動力を取り除く。万が一生きていると良くないから、その後一酸化炭素を吸わせて半日放置する。苦しむことはないから安心したまえ」
「思ったより長いのね」
「ずっと2時間でやってたんだが、焼却のときにまだ生きていたことがあって、それ以来大事を取って半日放置することになったんだ」
「ふーん」

 FANATICAlはつまらなそうに相槌を打った。左手の薬指の指輪をしばらく見つめて、鼻で笑った。

「アディくんのこともそうやって処分したの?」

 ――アディくん。

 3年前まで彼女の相棒だったリニアーワルツ『ADDICTED』の、彼女だけが呼ぶ愛称である。ADDICTEDは3年前に問題を起こして処分された。私は彼の処分には立ち会ったものの、ことの終始は何も知らなかった。私は基本的に研究所から出ることはないし、検診と処分だけが仕事である職員が知る必要のないことだったからだ。

 彼女はADDICTEDが処分されて以来、リニアーワルツとしての役目を完全に放棄してしまった。ペアを当てがうとすぐそのリニアーワルツに身体的、精神的な危害を加えるので、ペアで利用することなど到底不可能だった。だからといって単独で派遣すると毎回ボイコットして役に立たないので、ここ3ヶ月はこの07号室に幽閉している状態だった。1人部屋に移動するように掛け合ったこともあったが、ADDICTEDと過ごした07号室から出る気は一向にないようだった。

 また、ジェミニに関しては、適合するリニアーワルツがなかなか見つからないので、まだ彼女が持っているのである。FANATICALとADDICTEDのジェミニは非常に強力であるが、代わりに使いこなせるペアを見つけるのは難しかった。

0

【プロローグ】p.1

 ラボの5階にはリニアーワルツのための部屋が15室ほど並んでおり、環状の建物の中庭側に廊下がある。中庭はガラスの屋根がついていて、地球から持ち込んだ常緑樹や草本が植えてある。しかしどこからか異界の植物の種子が混入してしまったらしく、常緑樹には白い花の咲く蔦が絡まり、ガラスにも張り付いた跡がある。その上にまた新しい蔦が這っている。庭師が週に2回整えに来るが、どう見ても追いついていなかった。

 毎日リニアーワルツの問診でこの場所にはやってくるので、最初こそ感じていた情緒など今はない。それに関して思うこともなくなってしまった。

 今日はいつもの問診とは違う目的でやってきた。
 3年間も使い物にならないで、ラボの荷物になっていたリニアーワルツの処分を明日に控えているので、様子を見にきたのである。

 07号室の前で私は足を止め、白衣のポケットからカードキーを取り出す。パスワードを入れてカードキーを機械にかざすと、小気味良い解錠音がした。扉を開けて向かって右を見ると、2段ベッドの上段に膝を抱えて座る少女の姿が確認できた。処分のことは昨日か一昨日に通告済みだが、特に変わった様子はなかった。少女はこちらを一瞥もしない。絹の天蓋のような色素の薄い髪の間から除く瞳は、どこか、明後日の方を見据えている。そして左の薬指には、リニアーワルツとしての役割を放棄したにも関わらず指輪を嵌めている。

「明日が処分の日だけど、話しておきたいことはあるかね」

 私が話しかけると、少女はゆっくりと顔を上げた。そしてその大きな瞳を細めて微笑む。やつれたような雰囲気を纏うその微笑みは、見た目年齢のわりに妖艶に見えた。

「別にないわ」

1

ガチでガチな、ガチのガチ。

こんにちは、もう片方のメインキャラも見た目情報書けたので再掲。
今回は気軽な感じに書きたいのと、しばらく書き終わりそうにないけど早く投稿したいのとで、メインキャラのリニアーワルツ二人の容姿はキャラクター説明として事前に書いてしまいたいと思います。
レス欄により詳細な服装などの情報を書きます。今調べたファッション用語を容赦なく使っているので、自分にも何が書いてあるのかあまりよく分かりません。ただ、折角詳細な見た目の情報があるので書こうと思った次第です。もしよければ見ていってください。

【名前】FANATICAL/ファナティカル
【通称】ファナ
【ジェミニ】ナアマ
 鉈型のジェミニ。峰の部分には赤やピンクのハートがプリントしてあり、柄にはピンク色のリボンが巻いてある。全長一メートルくらい、刃渡り七十センチメートルくらい。
【指輪の色】ショッキングピンク(#ff1eff)
【服装】
トップスはピンクのレース地のキャミソール。ボトムスはホットパンツ。黒のローライズデニム。ソックスはグレーとピンクのボーダーのオーバーニーハイソックス。その上にひざ下までの黒のレッグカバー。靴は黒の厚底スニーカー。身体のいたるところにピアス、レザー調の黒いチョーカー、左の薬指にジェミニ起動用の指輪。
【身体的特徴】
身長一五三センチメートル瘦せ型。十代半ばくらいの見た目。髪は後ろは肩につくくらいの長さで明るめのピンク。色白、垂れ目垂れ眉、瞳の色はショッキングピンク。

3

悪女と呼ばれた令嬢は皇太子殿下に愛される

感想ください!

「ん〜!いい朝。」
私の名前はティアラローズ・ルナ・アフネル。エルザカール王国の上級貴族、セフィロス・リリック・アフネルの娘です。
「お嬢様、失礼いたします。」
「どうぞ。」
入ってきたのは私の侍女、マリー。
「おはよう、マリー。」
「おはようございます、ティアラお嬢様。お髪を整えてますね。」
エルゼカール王国は、北にフィルクガイラ帝国、南にリィニ法国、西にヴィロ妖精国、東にルウェン公国と、四つの大国と隣接しています。エルゼカール王国はそのうちの二つ、フィルクガイラ帝国とヴィロ妖精国と同盟を結んでいます。フィルクガイラ帝国の皇帝はアレカシウス・クィ・フィルクガイラ様、ヴィロ妖精国の王はミハエル・ディ・ヴィロ様です。お二方ともお会いしたことがありますが、アレクシウス様は豪快で勇敢な方、ミハエル様は知的でお優しい方でした。リィニ法国とルウェン公国とは宗教上の違いから敵対していますが、今は休戦しています。ちなみに、この国の王様はセシル・バイエ・エルゼカール様、次期国王である皇太子様はフランシス・バイエ・エルゼカール様です。
「ティアラ様、どうなさいました?お支度終わりましたよ?」
「あら、ごめんなさい。少し考え事をしていたのよ。さあ、広間へ行きましょう。」

毎週投稿します!続きも読んでください!

1

【企画参加!】LINkerWorld LINearWaltz メインキャラ①

こんにちは、新しく書いた小説を掲示板に載せるのは久しぶりな赤石です。
今回は気軽な感じに書きたいのと、しばらく書き終わりそうにないけど早く投稿したいのとで、メインキャラのリニアーワルツ二人の容姿はキャラクター説明として事前に書いてしまいたいと思います。
縦書きで書いたので漢数字なのは許してください。
レス欄により詳細な服装などの情報を書きます。今調べたファッション用語を容赦なく使っているので、自分にも何が書いてあるのかあまりよく分かりません。ただ、折角詳細な見た目の情報があるので書こうと思った次第です。もしよければ見ていってください。

【名前】FANATICAL/ファナティカル
【通称】ファナ
【ジェミニ】ナアマ
 鉈型のジェミニ。峰の部分には赤やピンクのハートがプリントしてあり、柄にはピンク色のリボンが巻いてある。全長一メートルくらい、刃渡り七十センチメートルくらい。
【指輪の色】ショッキングピンク
【服装】
トップスはピンクのレース地のキャミソール。ボトムスはホットパンツ。黒のローライズデニム。ソックスはグレーとピンクのボーダーのニーハイソックス。その上にひざ下までの黒のレッグカバー。靴は黒の厚底スニーカー。身体のいたるところにピアス、レザー調の黒いチョーカー、左の薬指にジェミニ起動用の指輪。
【身体的特徴】
身長一五三センチメートル瘦せ型。十代半ばくらいの見た目。髪は後ろは肩につくくらいの長さで明るめのピンク。色白、垂れ目垂れ眉、瞳の色はショッキングピンク。


追記・もう片方は明日にでも投稿します。ファッション用語、解説なしで並べれば楽かなと思ってやってみましたが、思ったよりも全然大変でした。創作において楽をしようなどという浅はかな考えは捨てなさいということですね……。