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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑥ Side:玉桜楼

ヒトエがカミラと交戦している間、エイリは少し離れた場所で瞑目し、意識を集中させていた。
「ふぅー……よし」
深呼吸し、目を開く。
「奥義、〈新形三十六怪撰〉。第十一怪、“清姫”」
エイリの魔法【玉桜楼】は本来、九字を切ることにより『5体』の使役存在を召喚するものであり、使役存在の強度は九字切りの完成度に比例する。
対して奥義〈新形三十六怪撰〉は、従来の数のアドバンテージを捨てることと引き換えに、36種の強力な使役存在のうち任意の1体を選択し、召喚できる。
当然ながら九字切りの完成度は術の行使に影響し、一つは使役存在の強度。そしてもう一つは、『実際に召喚される使役存在の種別』。印の完成度が下がるほど、実際に召喚しようとしたものからかけ離れた使役存在が出現する性質を有しているのだ。
「臨」 独鈷印。
「兵」 大金剛輪印。
「闘」 外獅子印。
「者」 内獅子印。
「皆」 外縛印。
「陣」 内縛印。
「列」 智拳印。
「在」 日輪印。
「前」 宝瓶印。
その後、詠唱と同時に、一字毎に右手の刀印で横に、縦に、軌跡を織り重ねるように重ね、最後に右手を左手の中に収める。
これまでの戦いの中で何十、何百と重ねてきた動作であり、それ故にエイリは、その完成度を直感的に掴むことができるようになっていた。
(この感じ…………来た、“クリティカル”!)
戦闘の中での動作を要求される以上、完全な九字切りを成功させることはほぼ不可能に近い。ただ、今この瞬間、敵の注意は完全に前衛のヒトエ一人に集中しており、それ故に叩き出すことのできた『100点満点』。
彼女自身、仲間の庇護を受けた上で、数度しか実現できたことの無い最大威力で、使役存在が召喚される。
下半身を巨大な蛇のそれに置き換えた、和装の鬼女のような怪異“清姫”。エイリを囲うようにとぐろを巻き、鋭い牙の並ぶ口からは、深い淀を思わせる濃い水の香りと、香木が焼ける煙の香りが混ざったような息吹を吐き出している。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑥ Side:閑々子

双剣を手に、ヒトエはカミラと交戦する。
(カミラも私と一緒に結構な高さから落ちたんだし、ダメージはあるはず……!)
しかし、その予想に反してカミラの動作は極めて軽やかで、爪が頬や首筋の僅かな露出を掠めながら、魔力を奪っていく。
「うぅ……」
「あはは! ヒトエぇ、もっとヒトエたべる!」
(……そういえば、さっきのエイリさんの使い魔、鎧みたいな姿だったよね……)
一度距離を取る。しかし、足首をカミラの尾に絡め取られ、その場に転倒してしまう。
「ヒトエ? かんがえごと?」
「うぅ、痛たた……」
「だめだよ? ヒトエはわたしとたたかってるんだから! わたしだけみて?」
「か、カミラ……」
(……私の魔法、【閑々子】。鎧を生み出す能力……鎧が現れるのは、本当に『私の身体の上だけ』?)
「あー、ヒトエまたわたしいがいのことかんがえてる! だめなんだよ?」
ヒトエの爪がチェストプレートに触れ、魔力を分解し吸収しながら、少しずつ沈み込んでいく。
(……仮に、鎧を生み出せたとして……『空っぽの鎧』に何か意味がある?)
「あ、とどいたぁ」
カミラがにんまりと笑い。ヒトエの胸元を爪の先端でなぞる。その微かな感触に、ヒトエは身震いした。
「ヒトエぇ、わたしのかちなの?」
カミラが首を傾げたその時、ヒトエの頭にケリがべちゃりと落下してきた。
『やぁ、君にアドバイスだ』
「え……ケリ、さん……?」
『私が君達に授けた力は、極めて不安定だ。それ故に、些細なきっかけで“爆発”する』
「爆発……?」
『君の場合、【玉桜楼】のあの子の魔法がその“きっかけ”なんだね。爆発とは、出力或いは特異性の異常な発露。それがどのような形で出力されるかは、君次第だ』
ケリは言い残すと、再びどこかへ消えてしまった。
「……スライムきえた?」
カミラが首を傾げてヒトエの顔を覗き込む。
「……奥義」
半ば無意識に、口と魔力が動く。
「〈自賛・髑髏〉」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その⑤

「いたたたた……」
カミラに覆い被さっていたヒトエは、落下の衝撃で痛む身体を起こした。
(たしかに痛いけど……3階から落ちた割に、怪我はしてない。魔法少女だから?)
自分の下に倒れているカミラに目を向けようとした時、彼女の腕が素早くヒトエの首に巻き付いた。
「っ⁉」
「ヒトエぇ、たべていーい?」
耳元で甘く響くカミラの囁きに、ヒトエは全身に鳥肌が立つ。
「だ、駄目……!」
「でも、ヒトエにげられないよ?」
カミラはヒトエに頬を寄せ、舌なめずりする。現に、ヒトエは接触によって魔力を吸収され、身体の動きが重くなり始めていた。
(た、助けて……エイリさん……!)
「いただきまーす」
カミラがヒトエの首筋に唇を寄せ、甘噛みする。
「や、やめてー……」
じたばたと藻掻いていると、ようやくエイリが屋外に出てきた。
「ごめん後輩ちゃん! 怪人め……後輩ちゃんから、離れろ!」
甲冑たちが襲い掛かり、体当たりでカミラは弾き飛ばされる。
「いたい! なにするの!」
「そっちこそ後輩ちゃんに何すんの!」
「ヒトエたべるの!」
「させるかぁ!」
2人が言い合っている隙に、ヒトエはカミラの腕から抜け出し、エイリの背中に隠れた。
「助かりました……」
「うん、大丈夫? まったく……ちょっと怒っちゃった。本気出す。30秒くらい耐えてくれる?」
「了解です」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その④

「うわぁ……すごいのが召喚された……」
ヒトエの感嘆に、エイリはどや顔を決める。
「どうだ、すごいだろう。これが私の【玉桜楼】の力だよ。使い魔召喚の術。これでもっとしっかりサポートできるよ」
甲冑たちはぞろぞろと前進し、2人を守るように立つ。
「んー……? このこたちはぁ……」
カミラが甲冑の1体の胸元に手を当てるが、甲冑は吸収される事無くその手を振り払った。
「むー…………すえない」
「お前が後輩ちゃんと戯れている隙に、じっくり余裕をもって印を組めたからね。お前の弱点は聞いてる。私と後輩ちゃんの敵じゃないよ!」
エイリの指揮で、甲冑たちがカミラに襲い掛かる。カミラは鬱陶しそうに宙を泳ぎ、甲冑たちの攻撃を回避しながら、ヒトエに突進した。
「ヒトエぇー、やろ?」
ヒトエの目の前で停止し、顔を突き合わせてニタリと笑う。
「は、離れて!」
ヒトエの振るった双剣を回避し、カミラは空中で腹を抱えてけらけらと笑った。再び宙を泳ぎ、ヒトエの背中に隠れて甲冑たちをやり過ごそうとする。
「そうはさせないよ!」
エイリは叫びながらカミラに飛び掛かり、回し蹴りを放った。その足を手で受け止めようとしたカミラの前に、ヒトエが手を伸ばして手甲で掌を受け止める。
「エイリさん、触られないように気を付けなきゃ駄目ですよ!」
「うへぇ、怒られちった」
「……けど、やっぱり狭い……!」
ヒトエが窓の外に目を向ける。それに気付いたエイリは、甲冑の1体を操り、窓の一つを勢い良く開いた。
「助かります!」
ヒトエがカミラの腕を取り、勢い良く窓の外へ投げる。空中で態勢を整えようとしたカミラに、更に飛び掛かり、空中で馬乗りになりながら二人は約6m下方の地面に向けて落下していった。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その③

再びカミラが突進してくる。ヒトエは双剣を床に突き刺し、素手による格闘戦で応戦した。爪による刺突を、相手の手首を払って回避し、そのまま飛びついてくるのを、脇をくぐるように躱し、そのまま後ろから髪を掴んで壁に向けて投げつける。
カミラは空中で姿勢を整え、足から壁に着地し、密かに掠め取っていたヒトエの双剣の片割れを掲げてみせた。
「みてみてー。ヒトエの」
にんまりと笑ってみせるカミラに、ヒトエは思わず自分が剣を突き立てた場所を振り向く。剣の片方が無くなっているのを確認してからカミラに視線を戻すと、奪った剣をヒトエに向けて振り下ろしていた。咄嗟に腕を盾にしたヒトエに刃が直撃する瞬間、マスコットたちが間に割って入り、柔らかい身体で刃を受け止める。
「えっ柔らかっ」
「うさちゃんすごーい!」
カミラは剣を放り捨て、2体を素早く捕まえる。残ったマスコットたちも一瞬で吸収されてしまった。
「ぜんぶたべちゃったぁ」
(やっぱり、カミラのこの力、怖いなぁ……私の鎧は吸えないみたいだけど)
ヒトエはちらりと背後を見やり、エイリの様子を確認する。彼女は臍の前で左手を緩く握り、右手で包み込むような手印を結んでいた。
「……60点ってところかな。おいで」
エイリが呟くと、彼女の周囲に5体の使役存在が現れた。おおよそ彼女と同程度の背丈をした人型のそれらは、体表を日本風甲冑のような装甲に覆われている。

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その②

2人が教室中央に意識を向けていると、空気中の微細な塵が渦を形成し、中央から突発的なエネルギーの奔流が溢れ出した。咄嗟に、エイリはヒトエの背中に隠れる。
「あぁー、いたー!」
渦の中央から、明るい声が投げかけられる。ヒトエが目を開くと、カミラがふよふよと浮いていた。
「こんにちはぁ、ヒトエぇ」
「こ、こんにちは、カミラ」
「そのひとだぁれ? おともだち?」
「えっと……先輩です」
「はぇ。まぁいいや。やるよ、ヒトエ」
カミラが爪を伸ばす。
「は、はいっ!」
双剣を構えたヒトエに向けて、カミラが突進する。それを迎え撃とうとヒトエが構えたその時、彼女の背後からウサギを模したマスコットのような生命体が5体飛び出し、カミラに飛び掛かった。
「にぃっ!?」
カミラはその生命体のうち2体を爪で引き裂き、1体を鷲掴みにしてそのまま吸収する。
「びっくりした……なにこれ? おともだちの?」
ヒトエの背中に隠れたまま、エイリがピースサインを示した。
「むぅ、一番弱い形態とはいえ、あっさり吸われるなぁ……。チヒロ先輩が言ってた通りだ」
残ったマスコットたちは弾むようにエイリのもとへ引き返してくる。
「後輩ちゃん。こんな狭い教室の中で大丈夫?」
「あっはい。どうにか」
「じゃ、こっちも折を見てサポートするから、頑張ってね」
「えっあっはい」

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Modern ARTists:威霊遣彩能媛 その①

カミラの襲撃から一週間後の放課後、ヒトエは教室に居残ってそわそわと待ち構えていた。
(あのハイジャックって女の人は、1週間後にカミラを寄越すって言ってた。つまり今日だ。まだ来ないみたいだけど……一体いつ来るんだろう……)
落ち着きなく教室内を歩き回っていると、教室の扉が静かに開いた。
「っ、カミラ!?」
咄嗟に振り返ったが、そこに立っていたのは制服姿の少女だった。
「ざんねん、カミラではない。あなたが、エリカ先輩たちが言ってた新入りの子?」
「えっと……あ、もしかして、2年生の?」
「そうだよー。私は望月エイリ。好きに呼んで良いよ」
「はい、よろしくお願いします、エイリさん。私は亀戸ヒトエです」
ヒトエが頭を下げると、エイリも軽く会釈して応えた。
「それで、たしか後輩ちゃんの魔法って……カカシ?」
『【閑々子】、だよ』
突然二人の中間に出現した黒い流体のような生物、ケリが訂正した。
「ふーん? 私の魔法は【玉桜楼】っていってね、すっごい強いんだよ。後輩ちゃんが今日、怪人と戦うらしいからね。私が手伝ってあげる」
「やったぁ、ありがとうございます」
2人が握手を交わす。時刻はちょうど16時を過ぎたところだった。
『……二人とも、変身した方が良い』
不意に、ケリが口を開いた。
『魔力が膨らんでいる感覚……間も無く、この部屋の中央に出現するよ』
「分かった、ケリちゃん!」
エイリの周囲に旋風が巻き起こり、彼女の衣装は制服の上から羽織とマフラーを纏ったようなものに変わっていた。一瞬遅れて、ヒトエも急いで赤備えのアーマーに変身する。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 キャラクター②

・ケリ
魔法少女を生み出す力を持った異界の存在。手のひらサイズの黒いスライム球みたいな外見。名前の由来は「テケリ・リ」。
ケリさんが生み出した魔法少女たちは《慈雲》というユニットを結成して協力し合っている。
この世界では魔法少女たちは何らかの共通点とか(基本的には自分たちを魔法少女にしてくれた異界の存在が同じ者どうし)でユニットを組んでおり、協力して怪人から世界を守っているのです。

・カミラ
怪人結社【ロスト・ファンタジア】に所属する上位怪人。身長1.6m程度の夢魔型の怪人で、紫色の皮膚と黒いロングヘア、腰から生えた蝙蝠の翼が特徴。細長い尻尾も生えている。瞳は金色で、白目の部分が黒い。
触れた魔力エネルギーを吸収してしまう能力がある。その魔力の形態が「エネルギー体」に近いほど吸収効率は高く、安定して物質化したものに対しては上手く吸収できない。魔法少女に直に触れると直接ドレイン可能。一気に吸い尽くせる。ヒトエはアーマーのおかげで助かった。
その他、エネルギーを放出したり、翼でふよふよと飛んだり(最高時速30㎞程度)、両手両足の爪を長く鋭く伸ばして攻撃に利用することが可能。
生後数週間なためか、情緒が幼い。

・“戦妃”ハイ・ジャック
外見性別:女  外見年齢:20歳  身長:170㎝
【ロスト・ファンタジア】の上級幹部の1人。武闘家風の衣装を身に付けた女性。異空間に武器をストックし、自由に収納・展開が可能。シンプルに高い身体能力を有しており、圧倒的な『強さ』によって怪人たちを制御し、戦闘技能訓練を担当している。

※怪人結社【ロスト・ファンタジア】
6年前から突如出現し始めた怪人集団。力こそ弱いが数が多く連携能力に秀でた「下位怪人」、大柄で身体能力の高い「上位怪人」、特異な能力を有する人型の怪人(怪人なのか人間なのかは不明。便宜上、「怪人」と呼ぶ)である「上級幹部」から構成されている。その全てを統べる「魔王」の存在が噂されているが、真偽は定かでは無い。活動目的は『怪人たちに相応の”最期”を与え、物語を閉じること』らしい。早い話が彼らは敗北を求めている。

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Modern ARTists:魔法少女彩能媛 キャラクター①

・亀戸ヒトエ
年齢:12  身長:148㎝
魔法名:【閑々子】
甲羅あるモノを模したアーマーを装備する。
奥義名:〈自賛・髑髏〉
自律稼働する、骸骨を模した鎧を召喚し、同時に行動する。
説明:カミラに気に入られてしまった中1の少女。まだ誕生日が来ていない。何故気に入られてしまったのかは不明。変なフェロモンでも出てるんじゃないだろうか。衣装はアーマーの下に着ている黒いアンダーウェア部分のみで、鎧は魔法で生成しているもの。アーマーはいせえび、かにさん、かめさんの3種類。

・那珂川チヒロ
年齢:14  身長:157㎝
魔法名:【雪城】
白銀色の流体を操る。
奥義名:〈菱湖流・静嘉〉
雪の降る結界に対象を閉じ込める。自身及び対象は、雪中で他の者に認識されない。
説明:中3の魔法少女。エリカとは同級生。エリカが魔法少女にされそうになった時、ケリさんに無理を言って自分も魔法少女になった。多分マブなんだと思う。衣装は真っ白な和装風。髪も白くなる。書道パフォーマンスで使われるようなあの両手持ちの特大筆で雪のような粒子状の流体をズァッて描く。

・小金井エリカ
年齢:15  身長:150㎝
魔法名:【恋川春町】
幻影を描く。
奥義名:〈栄花夢〉
幻影が与える影響を現出させる。
説明:中3の魔法少女。チヒロとは同級生。異界の存在ケリさんから力を授かった魔法少女たちで構成された魔法少女ユニット《慈雲》のリーダー役を担っている。衣装は桜色と水色の和装風。髪も桜色になる。桜の髪飾りも附属する。薙刀も持ってる。

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