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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 サマーエンカウンター ⑮

そんなこんなで、自分は急遽ネロと耀平と遊ぶことになってしまった。
そのままネロに引っ張られてショッピングモールへ行き、息つく間もなく3階のゲームセンターへ連れ込まれる。
そしてネロはゲームセンター内をうろうろした後、可愛らしい鳥のぬいぐるみのクレーンゲームの前で立ち止まり、小銭の投入口に小銭を入れ始めた。
「よーし、今日こそ取るぞ~」
ネロはそう言いつつクレーンゲームのコントローラーを操作し始める。
耀平はその隣でもう少し右じゃね?とか色々とネロと話し合っていたが、ふと後ろを見やる。
彼はクレーンゲーム台に寄りかかってい2人の様子を見ている自分に気付いて、こちらに近付いてきた。
「ごめんなー、ネロの急な思いつきに付き合ってもらっちゃって」
ちゃんとおれが止められれば良かったんだけど…と耀平は頭をかく。
「アイツ、時々突拍子のない事をするからさ」
正直どうしようもないんだ、と耀平は苦笑いした。
自分はふーんとうなずく。
…とここでネロがあーダメだ~と声を上げた。
彼女の方を見ると、ネロはクレーンゲーム台の透明な板張りの部分に額をつけて駄々をこねている。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 サマーエンカウンター ⑫

それから数日。
ネロに傘を返して以降、自分は普段と変わらない夏休みを過ごしていた。
友達はいないから他人と遊ぶことほとんどなく、ただ夏休みの宿題をやったり塾の夏期講習に出かけたりする日々。
変わり映えはしないけれど、前々からこうだから別に気にする事はない。
…それでも、ふとした瞬間にこの前ネロに名前を呼んでもらった事を思い出しては、何か変な気分になっていた。
普段家族以外に自分の名前を、それも下の名前を呼んでもらうのが珍しいのかもしれない。
だけどそれだけじゃないような気がしてもやもやする。
…結局この、何とも言えない感覚を抱えたまま、自分は夏休みを過ごしていた。
「あ、おーい!」
午前中で塾の夏期講習が終わって家へ向かって歩いている帰り道、不意に自分の後ろから人を呼ぶ声が聞こえた。
何気なく振り向くと、先程自分が渡った横断歩道の向こうから黒いパーカーを着てそのフードを被った小柄な少女が駆け寄ってきている。
自分は驚いて硬直する。
「えへへ~、数日ぶりだね~」
その少女…ネロはそう言って笑みを浮かべる。
自分は相変わらず驚いていたが、そこへおいネローと明るい茶髪の少年もやって来た。

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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 番外編 サマーエンカウンター ①

外は雨が降っている。
玄関口では他の小中学生たちも雨…しかも土砂降りの雨が降っている事に驚いて、立ち尽くしている。
もちろん、こういう時のために折り畳み傘を持ち歩いているような人もいて、そういった人たちはさっさと傘をさして建物から出ていっていたし、傘を持っている者の傘に入れてもらって帰る者もいた。
それでも自分含め多くの子ども達は、傘を持っていないので何もできずにいた。
「…」
暫くの間、雨がやまないか待ってみたが止む気配がない。
そしてパーカーのポケットに入っているスマホを取り出して時刻を確認した。
午後6時過ぎ、そろそろ帰って来ないと親が色々言い出す時間だ。
かと言って、親に連絡して迎えに来てもらうのは少し嫌だった。
…こうなったら、雨の中を突っ切って帰るしかない。
そういう訳で、自分は豪雨の中を傘なしに帰宅することにした。
愛用のパーカーのフードを被り直し、建物の出入り口を飛び出す。
ゲリラ豪雨のただ中という事で辺りはかなり暗く、外は生暖かく気持ち悪い感じだったが気にせず歩き始める。
しかし雨に濡れてカゼを引いては困るので、早歩きで寿々谷公園を突っ切るルートを選ぶ事にした。