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魔法をあなたに その⑨

僅かに遅れてヤツに追いつくと、【フォーリーヴス】は怪物の目の前に立ち止まり、目を見開いて何かを凝視していた。怪物を、じゃねェな、どっちかってーと、その足下、の……。
(オイオイマジかよ!)
最高だ。怪物が今にも踏み潰そうとしていたのは、【フォーリーヴス】、いや、千代田ツバメを普段イジメてた主犯のガキじゃねえか!
『なァツバメちゃんよォ』
魂への囁きを、【フォーリーヴス】に差し向ける。直接ヤツの魂に触れることで、その「欲望」を剥き出しにさせる、生物学的標準技術だ。
『コイツはどうしたことか、最高のシチュエーションじゃねェか。目の前にはテメエを虐めてるクソガキが、化け物の手で殺されそうになっていやがる。喜べ、テメエの願いは叶うぜェ? しかも、テメエが手を汚す必要も無ェ』
「っ…………」
【フォーリーヴス】が硬直していると、ヤツが、あのイジメッ子がこっちに気付いた。
「なっ、千代田……!」
イジメッ子の目は如何にも「助けて><!」って言いたげだ。
『キヒヒ、テメエの願いを言えよ。イヤ、言う必要も無ェ。ただ願え。心の底に眠る願いを。己を取り巻く悪環境の終結を。何たってテメエの名は【フォーリーヴス】』
“幸運の四葉”? いいや違うね。 テメエのその名に与えた意味は、“復讐の白詰草”。
『名は体を表す』、テメエらの諺だ。体を表せよ。
復讐に堕ち、人道を外れたその瞬間! 昏く鈍く擦り減り切った魂は、最ッ高に上質の“魔力源”となる。
さあ。
さァ!
『サアァッ!』
ヤツが徐に歩き出した。それに応じて、手の中のブローチも輝きを放ち始める。
学校制服はやや和風の衣装に、学校鞄は刀身を持たない日本刀の柄に、陰気な黒髪は若草色のツインテールに、ヤツの姿が魔法少女のソレに変身する。
「………………ごめん」
ヤツがそう呟き、柄を握る手に力を込めると、そこに光の刀身が現れた。何だ、マサカ自らの手でヤるつもりか? 思ったヨカやるじゃねーの。
「色々、話したいけど……全部終わって、2人とも生きて帰って、その後」
『……ァン?』

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Flowering Dolly:魂震わす作り物の音 その①

「フィスタぁー! どこだー!」
私を呼ぶ声が、正確には『あいつが私を呼ぶときの名前』が聞こえる。
「………………」
寝ていたハンモックから身を起こし、あいつの姿を遠くに確認してから自分の身体を隠すようにぬいぐるみの山を崩し、だんまりを決め込む。
「フィスタぁー? おいフィスタ!」
声がだいぶ近付いてきた。多分もう何mも無い。
「やっぱりここにいたか……おいフィスタ、いるなら返事しろよな」
ぬいぐるみバリアが崩されて、光が差し込んできた。
「フィス……」
「だっかぁらあっ! そう呼ぶなっつってんでしょうがぁっ!」
不用心に覗き込んできたあいつの顎に蹴りを食らわせてやる。
「痛っ…………てえなぁフィスタてめえ!」
「私のことは『アリー』って呼べっつってんだろクソガキ!」
「てめえも外見はクソガキだろうが!」
いつものやり取りを済ませ、渋々ハンモックから抜け出す。
「それで? どうしたのさ」
「あぁ、ビーストが出たんだよ。“ドーリィ”の出番なんだろ?」
「そんなのお役所に任せとけば良いじゃん……」
「おま、せっかく“ドーリィ”の力があって、見ないふりするってのかよ」
「『力』っていってもねぇ……」
再びハンモックに仰向けに倒れ込み、掌を太陽に向ける。ちょうど私の方に向いた手の甲には、契約済みの紋様が…………。
「浮かんでれば、考えたんだけどねぇ……」

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魔法をあなたに その⑧

フヨフヨ移動で【フォーリーヴス】を先導する。爆心地はアイツの通う学校から徒歩15分ほどの大型ショッピングモール。建物の前に広がる駐車場で、体高5mほどのクマとトカゲとチョウチンアンコウをまぜこぜにしたような化け物が暴れている。
手近な自動車を片手で持ち上げ……逃げ惑う市民に向けて……いや特に目標は定まってねェな、テキトーに投擲。壁に衝突した車両が爆発し、金属片やガラス片が市民に降り注ぐ。オイラには痛覚とか無いから分からんが、多分痛そう。【フォーリーヴス】の方を見ると、ヤツもこの光景にショックを受けているようだ。
『ウカカ、最近怪物の出る頻度も増えてきてるからなァ……“魔法少女”の需要と供給はトントンだぜ』
「……? さっきも言ってた『それ』って……」
『ンー? アー……まァ……雑にいうと…………テメエら人間が言うところの……正義の味方?』
テキトーに答えたが、ヤツは聞いちゃいなかった。オイラの「ンー」の辺りでヤツは既に歩き出していた。
『…………オイオイ、マジかよ……』
ウソだろ? 人間ってのァもうちょい弱くて臆病で自分がカワイイ生き物のハズだろ。
たしかにアイツには“力”をくれてやった。だが、「使い方」までは知らねェはずだ。
慌ててヤツの後について行く。

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魔法をあなたに その⑦

予想外。突拍子も無ェ。まさかの即断即決。その間約1秒。流石にビビった。これイジメ問題がどうこうとか言う感じじゃなさそうだな?
『おまっ、なん……いや』
何故とか野暮は聞かぬがアレよ。双方合意が取れたところで、イヨイヨ待望のご対面といこうじゃねェか。
空中をフヨフヨと進み、ヤツの眼前へ進み出る。
『ハァロォー、ツバメ=チャンよォ』
「は、はじめ、まして……」
リアルのオイラを見て、ヤツはそれなりにビビッているようだった。ま、見慣れない生き物に警戒すンのは正しいぜ。
『このタビは、ご契約いただき感謝感謝だゼ。そいじゃァ早速、テメエにプレゼントだ、千代田ツバメ』
ヤツにブローチを1つ、投げて渡す。危うげながらも無事に受け止めたところで、説明を開始する。
『ドーダ、なかなか洒落た意匠だろ?モノホンの翠玉と白金を使った、四ツ葉のクローバーさ』
「へぇ……あ、ちゃんと葉っぱがハートじゃなくて丸い……」
細かく気付くなこの女郎。
『キシシシシ、四つ葉はラッキーのお守りだからなァ。テメエの“魔法少女”としての名だって既にあンだぜ? 名付けて【フォーリーヴス】』
「はぇ……ありがとうござ……ん、魔法少女?」
ヤツが疑問を浮かべたところで、遠くから爆発音が届いてきた。
『キキッ、コイツは間が良いというベキか悪いというベキか……ついて来い、【フォーリーヴス】』

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Flowering Dolly 〈設定〉 その2

この書き込みは企画「Flowering Dolly」の〈設定〉書き込みです。
それでは設定です。

・魔法 Magic
この世界における、ドーリィたちが使う物理法則や常識を無視した現象を起こす術。
空間中の“魔力”と呼ばれるエネルギーを消費することで使うことができる。
種類は身体能力強化、瞬間移動、ケガの治療、テレパシー、マインドコントロール、固有武器の召喚など。
ドーリィは適正のある人間との契約なしでもある程度の魔法を使うことができるが、マスターを持つことでより高位の魔法を使うことが可能になる。
しかし魔法自体万能ではなく、死者蘇生や時間操作などはできない。
元々は超古代の魔法文明で使われていたロストテクノロジー。
本来は詠唱や術式による下準備が必要らしいが、ドーリィは念じるだけで使うことができるとか。

・ビースト Beast
この世界の人類の敵。
大型で禍々しい見た目をしており、執拗なまでに人間を狙う。
これに唯一対抗できるのがドーリィである。
ドーリィが“魔法”を使った時と同じような現象を起こすため、ビーストも“魔法”を使えるのではないかと言われている。
その正体は、この世界の古代魔法文明と交流のあった異界から差し向けられたいわゆる生体兵器。
元はこの世界と友好関係にあったが諸々の事情で関係が悪化し、やがてこの世界にビーストを差し向け滅ぼそうとするようになった。
この世界の古代魔法文明がドーリィによって対抗したものの激しい戦闘で文明が崩壊したことでビーストを差し向けなくなった。
しかしこの世界で新たな文明が勃興してきたことでまたビーストはこの世界を襲うようになった。
ちなみにドーリィはビーストを元に作られたそうだ。

・対ビースト支援課 the Supporting Section of Anti Beast(SSAB)
この世界の各自治体に設置されるドーリィとマスター支援の部署。
ドーリィは本来マスターが管理するものだが、諸事情でそれができないマスターのために設立された。
現在では対ビースト支援だけでなくドーリィやマスター同士の交流支援など様々な業務を担っている。
ちなみにこの部署には一定数マスターが所属していることが多い。

何か質問などあればレスからどうぞ。

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Flowering Dolly 〈設定〉 その1

この書き込みは企画「Flowering Dolly」の〈設定〉書き込みです。
企画の概要は〈企画要項〉を参照すること。
それでは設定です!

・ドーリィ Dolly
異界から来たる敵“ビースト”によって存亡の危機に立たされた人類の前に現れた、少女の姿をした“何か”。
人間と未契約でも身体能力強化や狭い範囲での瞬間移動、軽いケガの治癒、ドーリィ間でのテレパシーなどの魔法を使うことができるが、適正のある人間と契約することで固有武器の召喚などより高度な魔法の使用が可能になる。
適正のある人間がドーリィに対し契約を承認すると、マスターと同じ身体の部位(手・腕・脚が多くそれ以外はまずない)に固有の紋様が現れる。
花の学名の属名部分(詳細は長くなるので割愛)を名乗っており、その名にちなんだ華やかな容姿・服装を持つ。
空間中の魔力を取り込むことでその身体を維持しているため、基本食事はいらない上不老。
しかし首と心臓が弱点のためこのどちらかを破壊されると死ぬ。
最近は古代遺跡から発見されることも多く、古代文明との関係性が指摘されている。
その正体は、超古代の魔法文明でビーストと戦っていたいわゆる生体兵器。
契約しないとロクに戦えないのは不用意に人間を傷つけないためである。
だが彼女たちとビーストの激しい戦いによって魔法文明は崩壊、ドーリィたちは来たる次の脅威に備えて長い眠りについていた。

・マスター Master
“ドーリィ”と契約した人間のこと。
正称はドーリィ・マスター。
特定のドーリィに適正のある人間のみが契約することでなることができる。
ドーリィに対し契約を承認すると契約したドーリィの身体の同じ部分(手・腕・脚が多くそれ以外はほぼない)に固有の紋様が現れる。
契約したドーリィの(一応の)管理者であり主人…なのだが、ドーリィの尻に敷かれるマスターも少なくない。
ドーリィと違って無力な存在なので戦闘に巻き込まれて命を落とすこともある。
でも基本的にドーリィはマスターを守ろうとしてくれるのでそう簡単には死なない(はず)。
地域にもよるが英雄視されることが多い。

その2に続く。

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魔法をあなたに その④

『よしオーケイ、そんじゃァ早速本題に入らせてもらうぜェ』
「あ、あの、一つ良いですか?」
『ア? 何でェあと周りに人の姿が無い場所で大声で話すのはオススメしないぜ』
「え、あ、はい……」
ヤツが声を潜める。よしよしと頷き、話を再開しようとして、ヤツの方からこっちに問いかけてきやがった。
「それで、さっきの質問なんですけど。あの、あなたは一体……?」
『アァン? ンなこたァどうでも良いんだけどよォ……まーいーや。オイラのこたァ小悪魔とでも呼びやがれィ』
「あ、はい……え、あ、悪魔?」
『ソソ、悪魔タン。オイラのビジュアルがテメエらでいうところの如何にも悪魔でヨ。まァテメエらが想像するほど恐ろしい代物でもねーから、気楽に付き合おうぜ?』
「は、はい……」
『そんじゃ、自己紹介が終わったところで本題に入るか。あァ、ソッチの名乗りは要らねーゼ? オイラは小悪魔だからナ、情報ツウなんだヨ』
「そ、そうなんですね……」
ヤツの戸惑っているサマは少し愉快だったが、いい加減本題に入らねェとオイラの身体にも悪い。ここは敢えて、使い古された伝統的文句で攻めさせてもらおうか。
『なァ嬢、お前さん、“力”が欲しくないか?』

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑦

「皆さん、終わりました。もう目を開けても良いですよ」
4人の生徒は、平坂の言葉に恐る恐る目を開けた。霊感の無い4人には、目に見えた変化は確認できない。
「お疲れ様でした。これで脅威は去ったと思いますが……念のためにこれを持っていてください」
そう言って、平坂は4人に1つずつ、真鍮製の小さな鈴飾りを渡した。
「あの、これは?」
女子生徒の1人が尋ねる。
「お守り代わりの品と思っていただければ。常に肌身離さず……とまでは言いませんが、しばらくの間、可能な限り身近に置いておくことをお勧めします」
「はーい……神主さん、今日はありがとうございました」
その生徒の言葉に、あとの3人も感謝の言葉を続けた。
「リホちゃんも、呼んできてくれてありがとうね」
「良いの良いの。私は今回のことについてこの人と少し話さなきゃだから、みんな帰って良いよ」
犬神が追い返すように手を振りながら言うと、4人の生徒は頭を下げながら教室を出て行った。
「……お疲れ、『神主さん』」
「とどめを刺したのはお前だろう」
2人だけ取り残され、平坂と犬神は軽く拳を突き合わせ互いを労った。
「あ、砂返すね」
「要らん。持っていろ。あって困るモノじゃ無いだろ」
「うーい」
犬神が能力で砂を操作し、巾着袋の中に一粒残らず納め、口を締める。
「そういえば『アレ』、何だったんだろうね? こっくりさんってキツネじゃないの?」
「分からん。凡そ四足動物のようではあったが……あの生徒ら、何を呼び出したんだ?」
「分かんない。やってるところ実際に見てたけど、大体普通の『こっくりさん』のやり方だったよ?」
「……そうか。俺はもう帰るから、結界の片付けを手伝え」
「ほいほい」

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑥

それからも数度、短刀による刺突を放ったが、影はその尽くを回避する。
ゆらゆらと蠢く影を、跪いた姿勢のまま睨み続けていた平坂の背中を、不意に犬神が軽く叩いた。
平坂が振り向くと、犬神は既に巾着袋の口を開け、中の砂を掌に空けている。それを見て、平坂は数秒逡巡してから、結界の中の4人に声を掛けた。
「……そのまま目を閉じて、決して見ないように」
そして、犬神に手でゴーサインを出す。犬神は小さく頷き、手の中の砂を宙に向けてばら撒いた。砂は落下することなく空中に留まり、犬神の手の動きに合わせて波打つように動き、刃の形状に固まった。
犬神が影を指差すと、砂の刃は高速で射出され、影の胴体を切断する直前で回避され、床に衝突した。それによって粉砕された刃は、6本の棘に再形成され、うち4本が影に向けて再び発射され、そのうちの2本が命中し、影の身体を空中に持ち上げた。
(ふー、ちょろちょろとよく動いたけど、やっぱり『数』は『強さ』だよ)
口の中で呟き、外した2発、撃たずにいた2発の棘を構成していた砂を、1つの弾丸の形状に変形させ、空中で回転させながら照準を定める。
(吹っ飛べ)
砂の弾丸が発射され、影の胴体に命中し、その全身を衝撃によって破裂させた。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その⑤

瞑目して集中していた平坂は、開始の宣言と共に目を開いた。
4人を囲う結界の周りを、一つの小さな影が蠢いている。
生徒の方に注意を向けると、4人とも恐怖からか目を固く閉じているようだった。
平坂が隣に立つ犬神に目をやる。犬神は、先程平坂から受け取った砂の入った小袋を持ち上げ、小首を傾げて見返していた。
(使おうか?)
目だけでそう問う犬神に、平坂はまだだ、という意味を込めて首を横に振る。
再び影の方に視線を戻すと、その影は四足にて結界の周囲を歩き回りながら、蝋燭や盛り塩に触れては身体を仰け反らせていた。
平坂はその様子をしばらく眺め、徐に1枚の御札を床に落とした。
影は歩き回る軌道をそのままにそれを踏み、何事も無く通り過ぎる。
「…………」
黒く変色した御札を拾い上げて鞄に放り込み、代わりに取り出した金属製の円盤を床に置く。影はそれも問題無く踏みつけて通り、金属板は中央から真っ二つに割れてしまった。
(……奇妙な霊だ。結界を破る力は無いにも拘らず、いざ殺そうとすると高い耐性で抗ってくる。力が強いのか弱いのか……)
続いて短刀を鞄から取り出し、ゆっくりと影に突き立てようとする。影は急に動きを止め、身を捩り短刀を回避した。

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魔法をあなたに その③

サテサテ待つこと時計の長針1周分。
よーやっと好みの人材が出てきやがった。見るからに陰気臭せェ女生徒が1人、周囲を気にしながらそそくさと出て敷地外目掛けて一直線ってなワケですよ。
『……当ォー然、声かけるよなァ、えェ?』
ヤツの背後をついて行きながら、ひとっ気の無い場所に入るのを待つ。
辛抱強く待つこと10分チョイ、遂にチャンスが訪れた。ヤツが団地の中に入っていった。
そのまま不気味なほど静かな細い道に入り込んでいったタイミングで、声を掛ける。
『よォ、そこの陰気なお嬢ちゃん』
たしかに魂が足りてねェせいで大それたマネはできねェが、人間の頭に直接声を届けるくらいはオイラ達の生物学的標準機能だ。
オイラの声に気付いたあの娘は、仰天したみてーに足を止め、キョロキョロし始めた。
『今はテメェの頭ン中に直接語り掛けてるンだよ』
「だ、誰⁉ 誰なの⁉」
『えェイ落ち着け! テメェ今、周りから見りゃ完全にヤベェ奴だゼ』
「ぅっ……」
『よォし良い子だ落ち着け落ち着け。深呼吸しろシンコキュー』
ヤツがそれなりにリラックスするのを待ってから、会話を再開。
『安心しろヨ、今テメェに語り掛けるこの声は幻聴でもイマジナリー・フレンドでも何でも無ェ、純然たるマジモンだぜ。まずはソコを受け止めてもろて』
ヤツはおずおずとって感じで頷いた。これで先に進める。

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五行怪異世巡『こっくりさん』 その④

「みんなお待たせー、神社の人連れてきたよー」
犬神が力強い足取りで入っていくその教室の中には、男子生徒2人、女子生徒2人が既に待機していた。
「皆様初めまして。私、隣町の爽厨神社にて神職を務めております、平坂と申します」
平坂が4人に恭しく頭を下げ名乗る様子を、犬神は横目で笑いを堪えながら眺めていた。
「さて……この度はどうやら、厄介な霊障に巻き込まれたようで」
4人の生徒が何か言う前に、訳知り顔で言葉を続ける平坂に、生徒たちは息を呑んだ。
「そ、そうなんです! 俺達、終業式の日に、こっくりさんやって……それからずっと、誰のところでも変なことが起きてて……!」
男子生徒の1人がまくし立てるのを、平坂が片手で制止する。
「ええ、皆さんに憑いているモノについては視えておりますが……あまり『ソレ』について話さないように。『縁』が強まってはいけませんから」
「う、は、はい……」
平坂は説明を続けながら、携えていた鞄を床に下ろし、中の道具を取り出し始める。
「皆さんに憑いたモノは……言ってしまえば決して強い存在ではない。しかし、ある種の『儀式』の形で呼び出してしまったことで、存在が強まり皆さんとの縁で完全に現世に固定されてしまった」
平坂は話しながら、4人の生徒の周囲に糸と蝋燭で方形の結界を作成した。蝋燭に1本ずつライターで火を点け、結界の四隅に並ぶ蝋燭同士のちょうど中間の位置に円形の鏡を1枚ずつ、計4枚置き、更に四隅に盛り塩を施した。
「ね、ねえ神主さん、リホちゃんは入らなくて良いんですか……?」
女子生徒の1人が、犬神を指しながら恐る恐る平坂に尋ねた。
「別に私は何にも来てないもーん」
「……実際、彼女に『良からぬモノ』が近付こうとしている様子はありませんから。優先すべきはあなた方4人です。ここからは、私が良いというまで一言も話さないように」
生徒4人が頷いた。
「……では、始めます」