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ハルク帝国建国神話 2

旧帝国の誕生よりおよそ200年。
帝国は最西の最強として名を馳せる。
しかしその実情は、独裁体制が敷かれ、言論の統制などの悪政が横行していた。

そんな中、少年ミツクは教会で獅子王の啓示を受ける。
「皇帝は龍に乗っ取られておる。儂の力を貸してやろう。お主の先祖、サヌオスの様に龍を打ち破り、再びこの地に平穏をもたらすのだ。」と。
ミツクは、例え獅子王のご加護があったとしても、子供一人では無理だと考え、再び五人の聖騎士を集めることにした。
幸いにも、五人の聖騎士の子孫は居場所が知れていた。
一人一人の家を訪ね、事情を説明し、丁寧に頭を下げてまわった。
その結果、全員の協力を得る事に成功した。
ミツクは王宮へ忍び込み、塔に幽閉されている本物の皇帝と皇太子を救出した。
皇帝と皇太子を仲間に託すと、ミツクは玉座の間へと進んだ。
玉座には偽物の皇帝が座っており、いびきをかいていた。
ミツクはここぞとばかりに、サヌオス将軍の槍を突き立てた。
偽物の皇帝に成りすましていた邪龍は、大きく一声鳴き、再び姿を消した。
助け出された皇帝と皇太子はミツクと五人の仲間に感謝した。
その後、自身の不甲斐なさを恥じた皇帝がミツクへと皇位を継承した。
かくして、「新ハルク帝国」が誕生したのである。

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我流造物茶会:邪魔者と痩せ雀 その①

「せんせぇー、アルベド先生ぇー。ワカバが来ましたよー」
研究室に続く階段を下りながら、ワカバは室内にいるであろう“アルベド”に声を掛けた。
(……返事ないな。いつもみたいに術式構築の最中かな? それなら静かにしなくっちゃ)
そう考えながら、防音加工された扉を静かに開き、隙間から顔を覗かせる。
研究室の中央では、“アルベド”と呼ばれる魔術師の青年が、見知らぬ少女に組み伏せられていた。薄汚れた簡素な衣服を身に纏った痩身の少女は、両脚の膝より下が猛禽のそれを思わせる鱗に覆われ鋭い爪を具えたものに置き換わっており、背中ではところどころ羽根の抜け落ちた、痩せた茶色の小さな翼が生えていることから、人外存在であることは明白だった。
「あれ、先生。新しい娘さんですか? かわいいですねー」
言いながら、ワカバはデスクの上に荷物を下ろした。
「あぁっ⁉ ンなわけ無ェだろうが見て察せ!」
アルベドの言葉は無視して、ワカバは壁際の薬品棚を見上げ、その上に丸まっていた猫の特徴を表出した子供に声を掛ける。
「こんにちは、おネコちゃん」
「……んゃぁ…………」
“おネコ”と呼ばれたその使い魔は、小さく鳴き尾を軽く振って応えた。
「おーい向田ワカバァ、挨拶が済んだら助けてくれ頼む!」
「ん、どうしました先生?」
「見て分かんねーかなぁ⁉ 現在絶賛暗殺されかけてる真っ最中なんだよ!」
猛禽風の使い魔は鋭く伸びた足の爪をアルベドの喉元に突き刺さんと踏みつけを試みており、対するアルベドはその足を下から押し返し、残り数㎝のところで持ち堪えている。
「アルベド先生、結構恨み買ってますもんねぇ……」
「それは否定できねェけどさァ……」
「うーん……ちょっと待っててくださいね」
ワカバは格闘する二人の傍にしゃがみ込み、使い魔の顔を覗き込んだ。

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造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その4

〈主要登場人物〉
・ナハツェーラー Nachzehrer
通称ナツィ。
二つ名は「黒い蝶」。
一人称は「俺」。
この物語の一応の主役にしてアイコン。
髪は短く癖のある黒髪と黒目で背丈はそんなに低くも高くもなく(156cm)、少年とも少女ともつかない容姿をしている。
服装は基本ゴスファッション(スカートは履かない)で、足元は黒タイツと厚底のショートブーツかメリージェーン(ストラップ付きパンプス)、手にはいつも黒手袋をはめている。
性格は面倒くさがりだけどツンデレ。
でもその強さは折り紙つきで、もしもの時は仲間をちゃんと守ってくれる。
数百年前、高名な魔術師“ヴンダーリッヒ”によって作り出された最高傑作の人工精霊にして使い魔。
人間嫌いだが、「緋い魔女」「緋い魔女と黒い蝶」では相方のグレートヒェンにデレてたりするのでものすごく嫌いって訳ではなさそう。
好きなものは紅茶と甘いもの(甘いものに関しては隠したがってる)。
ジークリンデと名付けた白いウサギのぬいぐるみを大事にしている。
右手に仕込まれた術式によって蝶が象られた黒鉄色の大鎌を生成したり、背中にコウモリのような黒い翼を生やして飛んだりできる。
普段はかすみやキヲン、ピスケス、露夏と共にかすみの主人の喫茶店の2階の物置に溜まってお茶をしていることが多い。
キヲンには好かれているし、隠したがってるけどかすみのことは好き。
ピスケスを通して“学会”から監視されている。
露夏のことはなんとなく気に食わない。
現在の主人は背の高い老紳士で、微妙な関係性。

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造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その3

こちらは「造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その2」の続きです。

・使い魔 Familiar
“人工精霊”に物質の身体を与えたもの。
様々な姿形のモノがいるが、この物語では人型が多く登場する。
一般的に自身を生み出した“魔術師”を“親”、自身の魔力の供給源となる魔術師やアイテムを持つ者を“マスター”として認識する。
元は人工精霊なので魔術師からは“生命“として見なされず、むしろ魔術師の“道具”“武器”として扱われ、当人たちもそう認識することが多い(だが現代においてはそう認識する魔術師も使い魔もあまりいない)。
性別はない(だから“そういう器官”はない)が、その人格には男性寄り・女性寄りといった違いがあったりする。
(以下未公開設定)魔力供給が尽きないか術式や頭部を破壊されない限り死なない(それ故に精神年齢が子どもっぽい見た目より老けていることもある)。
人型個体に関しては“人間との識別のため”学会による生成や使い方に関する制限が厳しく、人外的身体特徴を与えなければいけないとか感情や感覚の一部を欠けさせたり薄れさせた状態にしなければいけないとかなど学会によって色々決まっている(でも感情や感覚に関しては結構ガバガバで人間との違いがあまりない個体も少なくない)。
人型の場合子ども(第二次性徴前後くらい)のような容姿をしていることが多いのは、“魔術師への反抗などもしもの時に大人の魔術師の力で簡単に押さえつけられるように”するためだという。
身体能力は個体にもよるが一般の人間より高いことが多い。
その身体に術式を組み込むことで何もない所から武器を生成したりできるし、当人の意思で人外要素を隠すこともできる(少し面倒だけど)。

用語はここまで。
次はキャラクターについてですよ〜

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ジョブグランス 二章 不屈の闘志

俺は何かを決めて走り出した山野いや結を救うために、そして木刀を取り結の元へ!その時には男は結を連れて行こうとしていた。「おい!まて!結を返せ!」だが男は笑って流した。「お前気づいてんのか?こっちはジョブ、殺人鬼なんだぜ?。」ジョブと言う言葉を聞いて俺は問いかける。「お前は何を言っているんだ?ジョブ何て無いんだよ。」そう言ったがその次の瞬間男の拳がみぞおちに刺さった。これにはたまらず声を出す。「うぐっ。」そして俺は倒れる。男は笑う「何だよ弱すぎるじゃねぇか。」だが俺は諦めない。「俺はな諦めないことだけが取り柄なんだよ。」そして走り出す。「ごめん…勇兎…私が君に告白させるために学級で一番の美女になったから。」男が逃げようとした時、俺の目が赤くなり目の前に何かが現れた、謎のモニターに文字が現れたのだ。﹁不屈の志を確認しました、ジョブルーレットを開始、孤高の剣王が当たりました、ジョブを孤高の剣王に変更します、スキル不屈の闘志、ジョブマスターを獲得しました。﹂その言葉が現れて俺は固まった。そして不屈の闘志に触れると説明が現れた。
不屈の闘志
残りHPが15%なら攻撃、防御、俊敏、威力などが上がる。そして俺はジョブマスターを選ぶ。
それをみた俺は固まり声が出なくなってしまった。

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ジョブグランス 一章 文化祭で

ここは、2502年の大阪の大阪府立天橋立中学校であるその天橋立中学校で今日文化祭が行われていた、舞台の名前は美女と野獣である。その美女と野獣では、俺は音響係をしていた。あ〜俺の名前?俺の名前は織田勇兎。ゆうとと呼ばれている。そして俺には秘密がある、俺は刀の武道を極めた達人、武神とか言うのかな?まあ弱いけど、そしてベル役は学級1の美人と言われている山野であるそして野獣役は工藤と言う面白い奴だ、そしてその終わりが近いときあのことが起こった、なんと変な男が入ってきてやまに話しかけたのだ「君かい?この学級で一番の美女とは。」そして体育科の安倍先生が前に出た「ちょっと貴方なんなんですか今は舞台の途中ですよ?」だが次の瞬間安倍先生は消えていた、いや、ずたずたに切り刻まれたといったほうがいいのかもしれない。そしてどんどん友達などが切られていく。最後に残ったのは俺、工藤、山野だけだった、そして工藤は前に出たがやつに切られてしまい倒れ込んだ、そして男の魔の手が山野に伸びていき彼女をつかんだ、言うのを忘れてた、彼女に俺は昔、告白されたことがあるんだ。まあ断ったけど。そしたら学級1の美女になってしまった。そして男がこちらを向いた。「何だ生き残りがいんじゃねーか。」といったが無視された。
そして俺は何かを心に決めて走り出した。

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造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その2

こちらは「造物茶会シリーズ現行公開設定まとめ! その1」の続きです。

・学会 Magic Association
この世界における“魔術師“たちが自分たちの派閥争いに一般人を巻き込まないために作った組織。
日本では”玄龍大学“という大学を拠点としている。
この世界の魔術師の大半は学会に所属しているが、未だに所属せず独自の派閥や集団で活動する魔術師もそれなりに存在し、そういった人たちと学会は度々衝突している。
(以下未公開設定)現代においては魔術師のなり手が不足した結果魔術という技術が失われることを防ぐため、新たな世代の魔術師を養成することも使命の1つとしている。
「魔術師同士の派閥争いに一般人を巻き込まない」ために作られたが、内部抗争はそこそこある。
正称・魔術学会。

・玄龍大学 Genryu University
“学会”が日本での拠点としている大学。
レンガ造りの建物が特徴的だが、地下など一般学生が入らないような場所には学会が押収したアイテムなどが保管されている。
附属校(小学校など)が近所に所在する。
(以下未公開設定)元ネタは東京のI駅の近所にある大学。
物語の舞台ももっぱらあの辺りをイメージしている(つもり)。

・人工精霊 Artificial Spirit
“魔術師”たちが特殊な“術式”を用いて生成する人工の精霊。
物質の材料をある程度用意した上で術式に魔力を通し、魔術師の肉体や魔石に刻み込んだ術式を発動させて魔力によるリンクをさせると“使い魔”になる。
あくまで世界に元々存在する魔力が寄り集まってできた存在である精霊を人工的に模したモノなので、魔術師たちはそれを“生命”とは見なさない(未公開設定)

その3にまだ続く。

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五行怪異世巡『肝試し』 その⑥

「クソが……あの悪霊……おい青葉、犬神。悪霊の専門家として、アタシから言っておくぞ」
「うん?」
「なになに?」
「悪霊の及ぼす『霊障』には、いくつか種類がある。直接の影響力だけじゃない、障る『条件』もだ。……奴は『触れるだけで』霊障を発生させる。しかも、物理干渉ができるレベルの格だ」
千ユリが左手を軽く持ち上げると、虚空に”エイト・フィート”の片腕が出現した。その腕は無残にも複雑に捻じ曲がり、ところどころ体内から骨が突き出ている。
「アイツに触るなよ? 死ぬから。多分、青葉の霊障耐性があってもシンプルに殴り殺される」
その言葉に、青葉は息を飲む。
不意に、悪霊の姿が揺らいだ。ふらふらと覚束ない足取りではあるが、ある程度の速度で3人に向かってきている。
「来る……ッ、いや、違う!」
そう叫び、青葉が前に出る。それと同時に、悪霊の足取りも速まる。
「コイツ……『逃げたみんなを追おうとしている』!」
言いながら杖で殴りつけるのを、悪霊は身体を大きく折り曲げるように回避し、すれ違いざま青葉の顔面に掴み掛かろうとする。その攻撃は武者霊“野武士”が地面に突き立てた刀に阻まれ、悪霊本体の突進は突如せり上がった土の壁に激突して停止した。
悪霊が緩慢な動作で身体を起こし、3人に顔を向ける。穴だけの鼻。耳まで裂けた口とそこからこぼれる長い舌。白目の無い薄汚れた黄色の眼と縦長の瞳孔。その顔は、人間のものとはまるで異なり、むしろ蛇や蜥蜴のような爬虫類のようだった。
「……ヒヒ、コイツぅ…………最初思ってたよかよっぽど異形のバケモノじゃん?」
ごきりごきりと音を立てながら悪霊の首と腕が捻じれ伸びていく、その様子を見ながら、千ユリが溢す。
「こんなのが何、外に出ようとしてるの? キノコちゃんの縄張りからも離れてるし……」
自然と崩れていく土壁と悪霊を交互に見ながら、犬神が言う。
「それだけは絶対に許しちゃいけない。……放置することだってできない。だから……」
3人の思いは一つだった。
「「「今ここで…………殺すしか無い!」」」

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Flowering Dolly あとがき

どうも、テトモンよ永遠に!です。
終了から一応1ヶ月くらい経ちましたが、企画「Flowering Dolly」のあとがきです。
よかったらお付き合いください。

今回の企画は5月に開催した企画「鉄路の魔女」の開催中に思いついた世界観になります。
元々中学時代に、“魔法”を使う人造の不老の少女“ドール”たちが適正ある人間を“マスター”として戦う世界観の物語が自分の中にあったんです。
でもやがてその物語は忙しくなったことによりストーリーを考えたり絵を描いたりすることはなくなってしまいました。
だけど(変な話ですが)今年の5月のある日曜日に、ふと脳裏に“ドーリィ”という言葉が閃いたんです。
最初は自分の造語のように感じられたけど調べてみると実在する言葉だということが分かり、そこからかつて自分の中で思い描いていた“ドール”たちの物語をベースに作り上げたのが「Flowering Dolly」の世界観でした。
ちなみにドーリィたちが花の名前を名乗っているのは前に作ったけどボツになった物語で鳥の名前をキャラ名として使っていたため、「今度は花の名前で行こう!」と思ったからですね。

そういう訳で、企画の裏話でした。
ちなみにこの企画の要項を出した時に「自分の企画開催は今度こそこれで最後」とか言ってましたが、また新しいアイデアが生まれたのでまだ続きます(笑)
ただ前に「今度はSFにしようかな」とか言ってたけどやっぱファンタジー系にします。
今度は(企画者的には)ブ◯ーアーカイブ風っぽい感じかもしれません(?)。
まぁ興味がある方は「蝶の学名」でも調べながら気長に待っててくださいな(ちなみに開催時期は未定、希望があればレスからどうぞ)。

そういう訳で、長くなりましたがこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした〜

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五行怪異世巡『肝試し』 その③

3人が追い付いた頃には、他の面々は既に石段を上り切り、朽ちかけた鳥居の前でやや緊張した様子で立ち尽くしていたところだった。
「うっわぁ夜なのもあって不気味じゃん?」
千ユリがけらけらと笑いながら言う。彼女の口調は緊張を和らげ、彼女の言葉は彼らの足を重くした。
「……な、なあ、入らないのかよ?」
先頭の少年に、一人が声を掛ける。
「い、言われなくたって……!」
少年が、深呼吸の後、1歩を踏み出す。瞬間、空気が更に張り詰める。1人「きっかけ」が動いたことで、また一人、更に一人と境内へ踏み入っていく。
不意に、一人の少女がポケットからスマートフォンを取り出し、カメラのシャッターを切った。
「わっ、何だよびっくりした……」
「あはは、心霊写真でも、撮れない、かな……って…………」
撮影した画像を確認しようと画面に目をやった少女の表情が青ざめる。その時、素早く千ユリがスマートフォンをひったくり、わざとらしく口を開いた。
「んぁー? 何これ滅茶苦茶ブレてんじゃーん写真撮るのヘタクソかぁ? 良い? 写真ってのは……こう撮るの」
1枚写真を撮り、画像を表示した状態でスマートフォンを返却する。画面には、何の異常も無く境内の様子を写した画像が表示されていた。
「え、あれ? あ、うん……」
その少女から離れた千ユリに、青葉と犬神が近付く。
「千ユリ? 何が写ってた?」
声を潜めて尋ねる青葉に、千ユリは呆れたように頭を掻きながら小声で答える。
「アイツが撮ったのは消したけど……まあヤバいやつ。平たく言えば……悪霊?」

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Trans Far East Travelogue89

嫁と2人,昼下がりの済州島西部の砂浜を歩いていると嫁がポツリ「あんたはうちんことどう思うと?本音ば教えてや〜うち、あんたん理想ん妻になれとるかなぁ」と切り出すので嫁と目線を合わせながら「正直言って,君と結ばれて幸せだよ。元カノと比べるようでアレだが,アイツは口では『大好き』とは言ってくれたけど行動では全く俺のこと大切にしてくれなくて2度目のデートの時点で別れる覚悟をしていた。でも,君は積極的に愛情表現してくれるだけかと思いきや,ほぼ毎日試合があるプロ野球のその日の試合次第でメンタルがブレまくる俺に君はずっと寄り添ってくれるでしょ?その対応が嬉しいし、おかげで君のこともっと好きになるし、もっと大切にしたいと思うんだ」と笑って返すと、嫁は堰を切ったように泣きはじめ,俺は反射的に嫁を抱きしめる。そして,暫くして落ち着いた嫁が「うち、元カレと付き合うとった頃に散々酷かこと言われてキツから頑張って彼ん好みに合わせようと色々頑張ったと。ただ,結局短期間でん努力では彼ん期待に応えきらんで見限られてフラれちゃったけん、次ん彼氏は優しか人が良かて思うとった矢先、傷心旅行んつもりん旅であんたに出会うたと。そしたら,今はほんなこつ幸せやけん、どげん大変な時も自殺なんかしぇず生きとってくれてありがとう」と言うので流石に照れるが,「俺、1人でアレを乗り越えることなんかできなかった。でも,最初の希望をくれたのがプロ野球の巨人なんよ。『今年も日本一になれなかった。でも,来年こそは勝つからその時までは信じて生きていよう』の繰り返しでずっと足掻いてきて,10年目に例のオープンチャットで君と知り合って恋に落ちた。そしたら,その時から辛い出来事をを乗り越える大義名分が『巨人の日本一を見届けるため』というのと『九州の想い人に会うため』の2つになったんだよね。それから2年後に入った大学では上手くいかなかったけど巨人は12年越しの悲願を叶えたし,そこから更に2年後に君と結ばれたからな。こんな俺を選んでくれて本当にありがとう。これからもよろしくな、俺だけの女神様」と伝えると嫁が「生涯バッテリー宣言したけん,支え合うのは当たり前や」と笑い、その後真面目な顔で向き直り,「改めて,こちらこそ不束者ですが末永くよろしくお願いします」と言ってお辞儀している。
そして,気付いたら巨人交流戦優勝のニュースが入っていた。

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五行怪異世巡『肝試し』 その②

集団の最後尾を歩いていた青葉は、背後から肩を叩かれ、立ち止まって持っていた杖を強く握りしめながら振り返った。
「…………あれ」
「や。青葉ちゃん、だっけ?」
「どうも、こんばんはです、犬神さん」
彼女の背後には、犬神が笑顔で立っていた。
「花火大会に来たら偶然見かけちゃったもんだから、ついて来ちゃった」
「そうですか」
「どしたの?」
「……クラスの馬鹿な連中が肝試しするって話してたんで。ここがガチのスポットってことは知ってたので、〈五行会〉として護衛につこうと同行している次第です。……あ」
青葉は不意に思い出したように声を上げ、同じくほぼ最後尾を歩いていた少女を呼んだ。
「犬神さん、ちょうど良い機会なので紹介します。彼女は最近〈五行会〉に入った……」
「特別幹部《陰相》。“霊障遣”の榛名千ユリ。あんたは?」
自ら名乗った千ユリに、犬神は握手を求めるように右手を差し出しながら答えた。
「や、私は《土行》の犬神だよ。キノコちゃんが言ってたのはあなただったんだね」
「キノコ?」
「あれ、会ってないの?」
「……千ユリ。多分種枚さんのことだと思う」
青葉に言われ、千ユリはしばし考え込んでから手を打った。
「あぁ、アイツか」
「ところで2人とも、ここで話してて良いの? 他の子たち、かなり上まで行っちゃったけど」
「あっしまった」
すぐに振り返り、急ぎ足で上り出す青葉を、千ユリと犬神は焦ることも無く悠々と追った。

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五行怪異世巡『肝試し』 その①

8月某日。世間の子供たちが夏休みの只中にあるとある日の夕方ごろ。
数人の中学生の男女が連れ立って、河原への道を歩いていた。
その河原は、この日19時から始まる花火大会を眺めるには絶好のスポットであり、夜店なども多く出店し、ある種の祭りのような様相を呈していた。
しかし、彼らの主目的はそこには無い。出店の隙間を埋める人ごみの中を彼らは迷い無く通り抜け、上流の方向へ、ひと気の少ない方へ只管歩き続ける。
土手を上がり、まばらな街灯の下を進み、深い木々の中に埋もれた石段の前に辿り着き、そこで一度立ち止まる。
先頭に立っていた少年が腕時計を確認し、残りの面々に向き直る。
「現在午後6時40分、花火大会が終わるまでは1時間以上余裕である…………それじゃ、行くぞ! 肝試し!」
少年の言葉に歓声を上げ、子供たちは石段を上り始めた。

“廃神社”と呼ばれるその心霊スポットは、その呼称の通り数十年前に放棄された廃神社である。
周辺をオフィス街や住宅地、幹線道路などに囲まれている中、不自然に小高く盛り上がった丘の上に建っており、丘陵全体は雑多な木や雑草に覆われ、辛うじて名残を見せる石段と境内も、処々に荒廃や劣化が現れ、不気味な雰囲気を演出している。

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Trans Far East Travelogue 88

俺たちを乗せた船が先程着いたソグィポ(西帰浦)の港は韓国で最も高い山,ハルラ(漢挐)の南麓に位置しており,また韓国で2箇所しかない火山島のチェジュ(済州)島南部の観光拠点だ。
入国審査を済ませ,わざわざフェリーで韓国本土から8人乗りの大型車を運んで迎えに来てくれた従兄と4年越しの再会を果たして色々話し込み、車に乗って目的地の海岸に着いてもなお話は弾んでいた。
この様子を遠目から微笑ましく見ていたのは,韓国に留学した経験があり,ソウルに着いてすぐのまだ韓国語に慣れていなかった時期に偶然通りかかった人(当時中学生だった俺)に英語を交えて手助けしてもらった縁からその人と交際に至ったという経歴の持ち主であり、俺達夫婦,特に嫁と船上で会話し野球で直接対戦したこともあった元カノだ。
一方,それを見ていた嫁は自身は韓国語が分からないだけに俺と従兄の韓国語の会話が長すぎて待ちくたびれたのか、それとも俺達の会話を微笑ましく見守る元カノに対する嫉妬からか「世界で熱く光る♪都育ちの主役♪自慢の旦那と♪デートへ♪GO now」となぜか往年の横浜の選手の応援歌を替え歌しているので,俺以外の野球が好きな日本人メンバーもつられてプロ野球の応援歌を替え歌し始め、俺もつられて「さあ行こうかチュンナム♪우리 어머니의ふるさと♪恋実り幸せだ♪니 옆이 최고야♪」と韓国語も交えて即興で替え歌すると,一気にスイッチが入ったのか各々の応援歌替え歌の原曲は誰のものかを当て始め、気付いたら嫁の手を握って歩いていた。
「福岡育ちの♪自慢の嫁さん♪なぜこの美人が♪今,そばにいる」とか「光り輝き♪歴史も長い♪あゝ不滅なり♪嫁のふるさと♪九州・福岡県」と続けて替え歌すると,嫁が「夢が〜溢れる♪韓国滞在♪круто ♪мой муж ♪都の〜宝♪行くぞ行くぞどこでも世界中♪愛しの旦那の側にいて♪一緒がいいな♪貴方が大好きです♪」と替え歌で返すので俺も「福岡目指し駆け抜けた♪恋の思いは届き♪僕らの笑顔が今♪すぐそこにある♪」と返す。
済州名産の柑橘の花と磯の香りが天然の香水としてお互いをより一層魅了しあっていることや一連の替え歌メドレーの映像がSNSで流出し日本の野球ファンを盛り上げていたことに俺たちはまだ,気付いていない。

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五行怪異世巡『霊障遣い』 その⑯

「ふゥーん……? 大分おイタを働いたようじゃあないか。ンで、青葉ちゃんに負けたと」
「何か悪い?」
「いやァ? ……で」
少女千ユリから離れ、種枚は青葉の顔を覗き込んだ。
「そんな危険人物連れて私の前に現れて、どうしたいのさね」
「彼女を〈五行会〉に引き入れます。彼女の『悪霊を封じ、使役する』異能は、必ず人類のためになりますから」
「…………へェ。青葉ちゃんや、随分と強くなったねェ?」
「……そうですかね?」
「いや、元からタフなところはあったっけか……。あー、ユリちゃんだっけ?」
「千ユリだバカ野郎」
「女郎だよ。千ユリちゃんね。じゃ、青葉ちゃんの下で面倒見てもらうとするかね……」
「はぁ⁉」
種枚の言葉に、千ユリが食い気味に反応する。
「誰が誰の下だって⁉」
「いや実際負けたんじゃあねェのかィ?」
「こんな霊感の1つも無しに外付けの武器だけでどうこうしてる奴の下とかあり得ないんだけど⁉」
「えー……面倒な娘だなァ…………」
種枚はしばし瞑目しながら思案し、不意に指を鳴らした。
「じゃ、いっそ新しく役職作っちまうかィ。面白い異能持ってるようだし、たしかに誰かの下につけとくべきタマじゃねェやな」
「ようやく理解したか……」
半ば呆れたように溜め息を吐く千ユリにからからと笑い、種枚は天を仰ぎながら考え始めた。

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