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遅い。【検閲編】2

ナイフを武器と呼ぶか道具と呼ぶかは、その使う人次第です。言葉はそういうものだと思ってます。そして、切ってしまったものは、大抵の場合もとに戻りません。言葉とは、そういうものなのです。だから慎重に扱わなければいけない。かといって自らの言葉に怯えてはなにも言えない。それゆえに文章は口語とは違った独自の進化を遂げ、口をつく言葉を抑制するものになりました。その事が、言葉をさらに鋭利にしたのです。
片刃のナイフは諸刃の剣よりも安全です。それゆえに、ナイフを持つ人はその危険さを忘れてしまいやすい。
そして、検閲というものが生まれました。言葉を制御するため、秩序を保つため、そういって検閲が行われた歴史は、どの文化にだってあります。しかし、言葉を発し、表すのが人なら、それを検閲するのも人。僕は人に人は裁けないと思っています。そのために多くの言葉が失われました。思想の違うものは弾圧されました。日本にだってヒソヒソ声の歴史があるのです。
今でこそ憲法によって思想の自由は保証されています。しかし『検閲』というのは、公的な場所よりも私的な場所でこそ多く行われます。世の中にいじめや私刑が絶えないのは、僕はそういう言葉のせいだと思っています。
だからこそ、詩人であるみなさんには自分の言葉を強く持っていただきたいのです。今回皆さんの手によって自らの詩を検閲していただくなかで、「どうしてこれが検閲対象なのか」という定義は各各の中にあったと思います。しかしそういう言葉こそが、己の本当の気持ちを表していたりするのです。

決して忘れないでください。誰にも理解できない言葉こそが、想いこそが、あなたの本当の姿なのです。

言いたいことは全部言い切りました。本当は███を皆にも使ってみてほしかっただけなんですけどね。まあそういうことで。
今回は多数の参加者さん、本当にありがとうございましたm(_ _)m

長文失敬

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遅い。【検閲編】1

【検閲編】のまとめです。
こんな感じで作品を募集しました。

《以下の条件を満たして作品を作りなさい。
・詩であること。散文、韻文、定型、不定形は問わない。
・自らの手によって検閲を入れること。███のようにすること。
・タグを「新言語秩序」にすること。》

さあさらにめんどくさい条件を出しました。ある人に喧嘩売りすぎて作ってくれませんでした(笑)実際詩に限らなかった方が良かったのかもしれません。しかしやはり(すごい接続詞)、今回も面白い投稿が多々見られました。
実は今回の条件には裏課題がありまして。それは、
《自分の過去の作品を検閲して投稿すること。》
気づいてくれたのはお一人だけでしたが、気づいてもらえて嬉しかったです(。-∀-)

このテーマの着想は、僕の大好きなバンドのamazarashiの武道館公演『朗読演奏実験空間・新言語秩序』から来ています。詳しくはいろんなとこがライブレポート出してるので是非。
そういう話じゃない。検閲の話です。この掲示板にも検閲システムは存在します。あまりにも不適切な投稿に関しては、一部が削除されたり、時には掲載されないことだってあります。それをやめろといっているのでは決してありません。いや、ほんとに。誤解しないでくださいね。ただ、この掲示板外でも、我々は『検閲』を怖れていないでしょうか。
空気の読めない発言、知らず知らずの内に誰かを傷つけている言葉、そういうものを怖れて日々生きてはいないでしょうか。それについては僕が最たる例です。ですからここからの文章には全くもって説得力はありませんが、まあ聞いて(読んで)やってください。

(そして続く(長すぎた))

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遅い。【造語編】

「造語」のタグでは、こんな感じで作品を募集しました。

《以下の条件を満たして作品を作りなさい。
・一度の投稿に収まるように詩ないしは物語を書くこと。
・必ず造語を一つ以上使い、その意味をレス欄に書き込むこと。
・タグを「造語」もしくは「memento mori」にすること。》

結構限定しすぎな条件だと思ったんです。でも流石常連の皆さんですね。固有名詞を活用したもの、実際の言い回しを発展させたもの、はたまた完全自作のもの、いろいろなものがありました。それもその言葉達に適した前後を伴って。ほんとに楽しませていただきました。ご参加ありがとうございました。

さてさて、「造語」の話でもしておきましょうか。
詩人の皆さんなら、『言葉の限界』というものを感じることが多いのではないでしょうか?そもそも語彙が少なかったり、あっても適切な言葉を見つけられなかったり。時には国語辞典をひきながら何かを書いたことのある方もいるかもしれません(現に僕がそうです)。
現在我々が『既存の』言葉で会話できているのは、ひとえに先人たちの努力のお陰です。しかし人の気持ちほど具体的でないものはありません。『既存の』言葉では表しきれない感情、想い、記憶、そういったものを無理矢理にでも言葉で表そうとするのが詩人というものです。
何が言いたいか。僕は詩人の皆さんにこそ、『造語』というものを造って、使っていただきたいのです。肉を焼く火がないのなら自分でおこせば良い。表す言葉がないのなら自分で作れば良い。そういう言葉があってはじめて伝わるものだってあるのです。
もちろん万能などではありません。その言葉の意味がわからなければ伝わるものも伝わらないのですから。しかし、そういったひとつのツールを、是非持っていただきたい。そういうことです。

長くなりました。本来のきっかけは『歴史秘話ヒストリア』のテーマの影響なんですが(笑)
ではでは最後に、投稿してくださった方、本当にありがとうございましたm(_ _)m

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なぞなぞリスペクト

「遅くなりました!!」
 観音寺隼人は、車から慌てて降りると、先に待っていた先輩刑事に頭を下げた。五十嵐剛。規律にはめっぽう厳しいので有名だ。
「遅い!もう七分も遅刻だぞ!」
「すっ、すいません!」
「…まあいい。事情聴取だ。いくぞ」
 凄まじく早い五十嵐の徒歩に、観音寺は必死でついていく。
 今回のガイシャは、上殿敬子、四二歳主婦。場所は自宅のリビングで、何者かによって後頭部を殴られた後に失血死。争った形跡はなく、現場からは犯人を特定できるものは何も見つからなかった。死亡推定時刻は、昨日一月一三日午後7時頃。目撃証言もなく、捜査は非常に難航していた。
 今回事情聴取を取るのは、ガイシャの夫である上殿凛太郎、四五歳会社員。近隣の住民によると、最近あまり中は良さそうには見えなかった、とのこと。

 以下が事情聴取の様子だ。
「上殿さん。あなたは昨日の午後七時頃、どこにいらっしゃいましたか」
「刑事さん、まさか私を疑っているんですか?!」
「いえ、あの、この質問は皆さんにお答えいただいているものでして…」
「…ふん。まあ、良いですけどね。じゃあお答えしますよ。私は確か、まだその時空の上でした」
「…空の上、ですか」
「ええ。私はここ二週間休暇をとってオーストラリアに旅行に行っておりまして、昨日の夜十時にやっと帰国したんですよ。そしたら、まさか妻が、あんな目にあっているなんて…」
「そうでしたか。それはお気の毒に。ところで、オーストラリアでは何をなさっていたんですか?」
「別に、観光ですよ。色んな所を見て回りました」
「良いですねー、オーストラリア。僕もいつか行ってみたいものです。何が一番良かったですか?」
「やっぱり海ですかね。一月なんでちょっと寒かったですけど、夕日の沈んでいく様は圧巻でしたよ」
「そうでしたか。それでは一応確認を取らせていただきます。ご利用になられた旅行会社はどちらでしたか」……

 その後、旅行会社などに問い合わせてみたが、上殿氏がオーストラリアに行っていたことは確からしい。これは難しい事件になるぞ…。そんな話を五十嵐刑事にすると、
「おい、何をぼさっとしているんだ。どう考えてもその凛太郎ってやつが怪しいじゃないか」

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青い夏

誰もいないはずのプールサイド。今年初めて水を張った今日。僕はふらっとプールに向かった。

ぴちゃん、ぱちゃん、ぱしゃん。プールから音が聞こえた。不思議に思いながらプールサイドに出る。まず、目に飛び込んできたのは、青い硝子玉のように美しい空を反射する真新しい水。そして一人の少女。
「西城さん…。何やってるの…?」
なに聞いてんだ…。一人でため息をつく。見たら分かる。水に足を浸けてる。西城さんと話すことは今までほとんどなかった。感じた違和感は夏の空に似合わない白い肌だった。黒い長髪を揺らして振り返る。
「何って…。死のうと思って。」
冗談とも本気ともとれない表情で言い放った。
「死ぬ…?」
「冗談だよ。こんなとこで死のうと思って死ねないでしょう?本気にしちゃって、君、面白いね」
「西城さんって…変な人…?」
「ふははっ。そうかもね。梢でいいよ。西城さんって固い。この際仲良くなろうよ。」
「梢…は本当は死にたいと思う?」
「誰だって思うんじゃないかな。君もあるでしょう?意味もなく死にたくなるとき。」
「あるかも…しれない。」
「一回死んでみようか。」
「え。」
梢がプールに飛び込む。
「はっ?何して…。」
「ぷはぁー!!気持ちいいよ!!」
僕の手を梢が引っ張る。
「うわぁ⁉」
顔を上げると濡れた髪が気持ちいい。馬鹿だと思った。青すぎて笑っちゃいそうだった。というか実際笑ってた。
「どこが死んでるんだよ。」
「うじうじ考えてても仕方ないからそういう考えを殺した。」
「そっか」
梢がプールサイドに上がって鞄からバスタオルわ出す。
「何で持ってるんだよ…」
「え、逆に君は持ってないの?」
「当たり前だろ…。」
「貸すから、拗ねないの。」
「拗ねてない。」
梢はバスタオルを被ってフェンスの外を見て呟いた。
「私、生きるよ。君の生きる世界で、生きてみる。もー…君のせいだよ?私が死ねなかったのは。」
なぜか声が震えていた。

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ファイルA

 人は想像力があるゆえに絶望する。希望はどうだろうか、希望もやはり、想像力の産物だろう。だが絶望を凌駕する希望を持つには、想像力だけでは足りない気がする。一時期、宗教にすがるということも考えたことがあるが、宗教をまるごと受け入れる純粋さはもはやないとあきらめた。情報社会に生きる現代人は想像力が多岐にわたっているため、宗教を受け入れる単純な想像力を失ってしまっているのだ。だがしかし████████████████████████████。
 受動意識仮説というのがある。すべては記憶が作り出した無意識が処理をしていて、意識はその結果を受け取っているにすぎないという説だ。では意識は何のためにあるのか。意識は記憶の補助装置なのだという。それならば意識が無意識の暴走を抑制することができるのではないか。意識化され、まとめられた情報を無意識に送ることで無意識も変わる。意識と無意識は相互に作用することによって成立しているのだ。自己欺瞞することなく、██████████████████████████████████████████████████████ていれば素晴らしい人生を送ることができるだろう。

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This is the way.[Ahnest]15

「美味しそうなミートパイね...。ひどい飯テロだわ」
岩屋に立ち込める芳醇な香りに鼻をひくつかせ、シェキナが言った。
「...飯テロってなんだい?」
「そんなことも知らないの、飯テロって言うのは.........何だったかしら?」
時たま現代語が混じるのは、作者の欲求不満と自己主張と個人的な趣味である。気にしてはいけない。
ともあれ、二人の話である。
「これも今日までだ。そんなに長く持たないからな。明日からは、運が良くて鹿肉だな」
そう言うとアーネストは、焚き火の端にあった燃えさしを拾い上げ、壁に何か書き始めた。シェキナはそれを不思議そうに眺めている。暫くガリガリと言う音が岩屋に響いた。
「よし、書けた」
出来上がったのは、なんだかミミズがのたくったような(よくある表現なんて言わない)よくわからない、絵?シェキナは眉をひそめた。
「何を書いたの?」
「ん、これは、ケンティライムまでの概略図だ」
...そう言われてみれば、三本の山脈を一本の道がくねくねと跨いでいるようにも見えるが......絶望的に下手だ。シェキナはさらに眉間にシワを寄せて言った。
「それで?」
「うん、ちょっと今後の話をね」
そう言うとアーネストは、さっきまで背を向けていたシェキナに向き直ると、(彼によると)地図を指しながら話し始めた。

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コーナー化してみる

(なんかポエム掲示板に書き込むのは場違いな気がするが…まぁいいか)

突然がすぎますがこの間ここに書き出しと終わりが決められた中で物語を書くって言うのをやってみて、やっぱり楽しかったのでいっその事コーナー化してみます
コーナー名は「始まりと終わりで紡ぐ物語」…なんの捻りもないですwww題名とか考えるの苦手なんで…多分今後書いていくやつも(前回もしかり)題名が内容どストレートなものになると思いますwww

それと、めちゃめちゃ不定期に書いていきます。なんでかって?受験生だから。こんなことしてていいのか?ってなる気もするが楽しいからいいんだ!息抜きの一環じゃ!
大学受かったら週1か週2で書きたいけど今の所は不定期になりますm(_ _)m

ちなみに今書いたやつがあるのでそれを後ほどあげますね!今回はめちゃめちゃ無理やり繋げたからなんか変な感じかもしれないwww

それと最後に、皆さんから書き出しと終わりを募集したいと思います!それが難しいならテーマだけでもどんな話を読みたいとかふわーっとした感じでもいいです!とにかくお題が欲しい!なのでレスで待ってます!(今後リクエストはわざわざこれじゃなくても文章の書き込みにレスして頂いて結構です!)

(本当はお題募集するから金曜の夜書き込もうと思うんだが毎回忘れるんだわwww)

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羅刹と夜叉

『私はあなたを殺しに来たの。』

秀麗な顏を歪めながらも低く落ち着いた声で彼女は言う。晩秋の冷たいアスファルトにはその言葉尻が抜け殻のように転がった。僕は彼女の口から発せられた言葉に大きな言雷を受けた。言いたいことはたくさんあるのに出てこない焦燥感にため息をつく。

「誰なんだ……?お前は……。」
怖かった。彼女はなんだと答えるのだろうか。しかしここにいるのはきっと、彼女じゃない。彼女の皮を被った化け物だ。そう思いたかった。
ふたりの間に木枯らしが吹く。それは僕と彼女を引き裂いていくようだった。しかし目を開けても、彼女はそこにいた。
『私は、羅刹にも成りきれない羅切。』
「羅切……?」
『そう、あなたを殺しに来たの。』
彼女の長い髪が風に煽られて宙に踊る。

どうして僕が殺されるのか。誰が一体そんなことを仕組んだのか。全く意味が分からない。
僕の心を読んだように彼女が言った。
『私は知らない。こんなことをするのは夜叉だから……。』
夜叉……?羅刹……?彼女は一体何を言っているんだ。夜叉……羅刹……

『人を惑わし、また食うという悪魔。』
それは彼女の声に誰かの声が重なったものだった。直接脳内に語りかけてくるようで、とてもおぞましい。眩暈がした。

「来い!!早く逃げるぞ!!」
……え?今のは、僕の声……?
そう思ったときにはもう、彼女の手首を掴んで走っていた。思考は全くもって追い付いていない。
大体、逃げる……?早く……?どこへ……?
馬鹿だ。意味もなく、宛もなく逃げるなんて。
しかし彼女の手首は温かかった。

「はぁ、はぁ……」
気付いたときにはだいぶ遠くまで来ていた。車でもたまに行くか行かないかという郊外だ。

悪夢はいつでも突然に訪れるものだ。

彼女が無事か振り返ろうとしたそのときだった。
『逃がさ……ないよ……?』

嗚呼、もう終わりだ。
逃げられない。
一瞬にして悟った。
馬鹿だった。

それは聞き慣れた彼女の声と、僕の声が重なったものだったのだから……。

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エドヴァルド・ムンクにささぐ

 ムンキーな気分だったので会社を休んだ。嫌味を言われたが平気だ。なぜなら上司は社会制度、社会的慣習に従順な権威に弱い自分の頭でものを考えられない他者の心を想像することができないモンキーだから。
 わたしはモンキーではない。人間には好きに休みを取る権利がある。このところ、疲労により、脳の一部しかはたらかなくなっていたのだ。脳の一部しかはたらかないとどうなるか、視野狭窄になる。
 人間は脳の機能低下により神経が過敏になったり、感受性が鋭くなったりする。情動脳の抑制がゆるくなるため、情動脳にたくわえられた記憶にアクセスしやすくなる。遠いむかしのことをくよくよしたり。いつまでも嫌味を言われたことを気に病んだり。
 すべての精神疾患は脳の一部だけが活性化することによって生じる。脳全体が活性化しなければ精神疾患は治らない。仕事とは常に距離をとっていたい。でないと本格的に頭がおかしくなってしまう。そろそろスーパーが開く時間。ビールと、韓国海苔と、チーズとキムチを買おう。今日は一日、動画を見るのだ。
 スーパー行ってついでに日用品買って帰ってタブレット、テーブルに立ててとりあえず旅番組チョイスしてソファーに座って韓国海苔でカマンベールチーズ巻いて食べてたら悪魔が現れた。わたしの母の姿で。
「お母さんだよ〜」
「さっさと消えてください。わたしは動画を見るのです」
「そんなだから彼氏ができないのよ。同僚の男の子とLINEの交換とかしてるのかしら。してるわよね。ほらあなたにしつこく言い寄ってきてるあの人、何ていう人だったかしら。とりあえずチャットでもしてみたら?」
「……わたしは暇つぶしに好きでもない男の人とチャットするような志の低い人間ではないので。ではさよなうなら」
「あなた会社休みすぎなんじゃないの〜」
「わたしは奴隷ではありません。日本人は先進国の住民であるにもかかわらず、主体性がないのです。わたしはわたし。わたしのことはわたしが決めます。そもそもあなたはわたしにアドバイスできるような就労経験などないでしょう」 
 つい本当の母には言えないことを言ってしまう。  
 わたしの母は幸せである。なぜなら向上心がないからである。向上心がないのは足りないからである。
 向上心があるから人は病む。母は病まない。

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This is the way.[Ahnest]14

「そう言えば、」
まるで他人行儀を通したような二人はいっこうに会話を交わさず、気づけばテ・エストの中腹に差し掛かっていた。いつしか黄昏も近づき、気温が下がりだした頃。出し抜けに、アーネストが切り出す。
「僕、シェキナのこと全然知らないんだけど」
「ん、そうなの?私はよく知っているわよ、アーネスト・アレフさん」
「イナイグム・アレフ」
「あら、ミドルネームじゃなかったのね」
「アレフは民族名だよ。てか、そんなことはどうだっていいんだ。一緒に旅する仲だ、もう少し君のことを知りたいんだけど」
「あら、大胆なのね」
「そういう意味じゃない」
辺りは次第に暗くなり、月明かりが目立ち始めた。登山道に積もる雪が白く光る。
「先にこの辺りで夜営できる場所を探さない?暗くなってくると夜行性の獣が活発になるわ」
「そうだな、今日中に頂上まで辿り着くのは厳しいかもしれないな。ほら、あそこに岩屋みたいなところがある。行ってみよう」
二人は確かな足取りで、道を外れて小さな洞窟に向かった。人が二人入る分には十分な大きさだ。
「ここならいいだろう、十分。どう、シェキナ」
「そうね、こんなところがあるなんて知らなかった。...にしても寒いわね」
「そうだな。まず火を熾さなくっちゃ」

アイネ・マウアの夜は暗い。町の灯りが全く届かない高さまで来ると、月のない日はそれこそ目と鼻の先でさえ全く見えなくなる。幸運なことに今日は満月だが、暗いことに変わりはない。そんな闇に、パチパチと焚き火のはぜる音が響く。
アーネストは、燠になった部分を掻き出して、エナのミートパイを温め始めた。

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LOST MEMORIES ⅡCⅣⅩⅥ

結局、喫茶店にはひとりで行き、帰りに見かけたのだという説明をする。
「断られた理由がその女の子だと思ったら、少し落ち込んでしまって。私たちの方が、距離が近いと思っていたから。」
肩をすくめると、歌名は深い深いため息をつく。
「瑛瑠は可愛いなあ……ほんと、これでその彼女がお付き合いしてる相手とかだったら許せないな。」
あれだけOTかましておいて,なんてぶつぶつと話す。
お付き合いしている子でなければ、それはそれで複雑だと思うのは私だけだろうかと瑛瑠は苦笑する。
でもね,と神妙な顔をする歌名。
「そういうことする人じゃないと思うんだけどな。」
そういうこと、とは。
「英人くんイケメンだから、女の子に誘われることはあるかもしれないけど、正直私との約束を優先してもらえる自信あるもん。」
瑛瑠も、たぶんその自信があったのだ。だからこそ、一方通行を自覚しての落ち込み。
瑛瑠は、ふぅと息をつく。
「全部知らなくてもいいんです。
でも、ね?妬いちゃうでしょう?」
笑いかけると、素直な歌名は不満げにも頷く。
「さぁさぁ、プレゼントくれるんでしょ。行きましょう。」
歌名の手を引くも、行く手を阻まれる。
目の前に立ちはだかる御仁を、瑛瑠は軽く睨む。
「……どいてください。」
「なぜ今朝から僕を避けてる?」