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Trans Far East Travelogue67

嫁に長岡のイメージを訊いてみると「河井継之助しか知らん」と返ってきたので「残した言葉はカッコいいけど歴史に残る数々の行動で今でも賛否両論あることで有名な海軍の人も長岡出身だけど知らんの?」と念の為訊いてみると「東郷さんは…薩摩やし,従道さんも薩摩やろ…貫太郎とか?」と返って来たので「山本五十六なんだけど」と正解を出すと「五十六って…あの『やって見せ言って聞かせてさせてみせ褒めてやらねば人は動かじ』の人よね?あの人長岡だったの?」と返って来たので「だから映画で五十六役の役者さんが水饅頭という長岡の甘味を周りの人がその作り方に驚いているのを横目にこれぞお袋の味と言わんばかりに美味しそうにバクバク食べてたんだ。」と教えてやると「地方の食べ物についても知識あるの普通に凄い」と返って来たので「海外の鉄道ファンに日本の鉄道を紹介する動画と東日本の観光地の紹介動画の撮影でJR東日本と北海道の範囲は全て回ったからな。でも,九州は君の方が知ってる筈さ。」と返すと嫁が「任せといて」と言って笑ってる。
すると,仙台支社に移った同期から「今都庁の展望台にいるけど,東京土産はどうする?東京ばな奈で良いか?」とメッセージが来たので「せっかくだから、都庁のお菓子にしよう」と返事をすると知らぬ間に越後湯沢のホームに入線していた。
この列車は浦佐を通過する為、次の停車駅は目的地の長岡だ。
そして,嫁が「私,凄い人と結ばれたんだなぁ」と言っているので「まぁ,新宿のプリンスと呼ばれる位のイケメンだからな。赤坂とか麹町の人には敵わんけど」と冗談めかすと嫁が「貴方って見た目は史実のナポレオンと変わらんけど、中身はチャキチャキの江戸っ子で,しかも私のこと大切にしてくれるから大好き」と言って寄ってくるので軽く小突いてやり、すぐに荷物を纏めて下車し、駅を出ると福島江のせせらぎが聞こえ、見事に出口を間違えたことに気付き苦笑いを浮かべ,嫁は着いてすぐに箱買いした越後名物で俺の大好物の笹団子を呑気に頬張っていて気付いたら一箱が空になっている。
「俺の好物、四公六民の年貢でも半分こでも無ければ嫁に独り占めされてるよ」というため息混じりの呟きが駅のアナウンスと嫁の笑い声でかき消され、箱には団子を包んでいた笹の葉だけが残っている。

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Trans Far East Travelogue56

ここ、新宿駅から日帰りで行くことのできる伊豆や関東甲信越には俺の思い出に残る場所が数多く、締めに何処へ行くか決めかねて嫁にリクエスト求めると,殆ど行った事のない甲信越が良いとのことだ。
そして,嫁のリクエストを一通り聞いたら新潟県西部の妙高か糸魚川といった上越地方へ行くことが理想なのだが,新幹線の接続時間を考慮して,兄貴と一緒に度々訪れたことのある街,上越新幹線も停まる長岡に行くことが決定した。
一旦大江戸線で港の最寄駅の大門に行って既に入港している船に着替え等の重い荷物を予め積み込み、返す刀で東京駅に行くと5分の乗り継ぎでとき号に乗り換えて長岡に行き、北陸経由で東京に向かっている別働隊が運転する車に乗っけてもらえれば搭乗には間に合うことが判明したので,急いで別働隊のメンバーに連絡して長岡駅に寄ってもらうことになり、予定通り荷物も積み込めて東京駅に着いた。
ようやく落ち着けて新幹線の車内で一息ついていると,嫁の財布から一枚のカードのようなものが落ちたので拾い上げて見てみると入籍して苗字が俺のと同じになった嫁の運転免許証だった。
それに気付いた嫁が「私だけ持ってたら当てつけになると思って隠してたけど見ちゃったよね?」と訊くので頷き「でも,君が運転する時は助手席で俺が道案内するから気にしとらんよ」と返すと嫁が口に指を当てて秘密だと示すので俺も黙っていることにした。
後にこのやり取りが役に立つことになる。

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Trans Far East Travelogue65

いよいよ朝日が昇り、門出の日となった。
荷造りを済ませ、この先をどうするか嫁と話し合い、俺の思い出の場所を2箇所巡って乗船までの時間を過ごすことにした。
新宿のサザンテラスに着くなり嫁が突然両耳を押さえたので「どうした?」と訊くと「地元ではこんなに電車の近くを歩ける所がそんなに多くないからここまで走行音が大きいなんて思ってなくて」と答えるので「そっか」と返すが先の言葉が続かず黙ってしまい、下を行く電車を見ながら今よりも多くの車両が走っていて楽しかった幼少期を思い出してため息をつくと嫁が「ごめんなさい…私のせいで怒ってる…よね?」と落ち込んだ様子で訊いてくるので「怒ってるわけじゃないよ。ただ、今よりも車両のバリエーションが多かった幼稚園の頃が懐かしくなってさ…当時はオレンジの中央線も,緑の埼京線も今走ってる当時デビューしたばかりの車両とその前の古い車両が混ざってて,それから新宿駅に乗り入れる特急も車両の種類が複数あって目で見なくても音を聞いただけでどんな車両が走ってるのか分かって、それを当てると大人からは褒められたんだよな…それが偶々世代交代の若手が出たばかりみたいな時期でまず通勤電車、特に中央線、次に特急NEX、埼京線の通勤車両、それから性能と乗客の需要が合わなくて車庫に引き篭もっていた土休日の臨時列車用の車両も消えて千葉方面からの特急もほとんど来なくなって今はもう無くなったし、中央線から更に特急専用車両が二種類消えて一方は解体、もう一方のは伊豆に飛ばされたし、伊豆と池袋方面を結んでたSVOも消えた。当時は今よりも音が大きな車両が多くて車両当てやすかったのに今は路線ごとに塗装を変えただけの同じ車両ばかりで判別しにくくてさ…昔は鉄道の音に敏感で確実に車両が分かるってことで音鉄の神童って呼ばれてたのにその称号は高性能な録音機を持った子供達に渡ったからなぁ…でも、新幹線が無い分新宿に乗り入れる列車の変化は東京駅や上野に比べると大したことないんだけど,1番愛着がある駅なだけにね…」と言って思い出に耽るも過去にあった一悶着も思い出して苦笑いを浮かべると「誤解が解けて良かった」とは言ったものの嫁もその先の言葉が続かず苦笑いだ。

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Trans Far East Travelogue64

嫁が俺と同じくらいのペースで呑みまくり、暫くして眠り始めたことでお開きになり、色々考えた末に嫁を背負って帰ることになった。
「ウグッ…流石にしんどいなぁ…でも、日本男児ならこんくらいはやってやんねえと」そう呟くと嫁が眼を覚まして「え?今どういう状況?」と訊いてきたので「君が酔っ払ってお店が閉まるギリギリになっても眠って起きなかったからこうやって運んでるんだ…俺さ、お酒に強い人が比較的多い韓国で働いて飲み会行きまくった経験からお酒に関しては量は飲めるんだけど,体質的に翌日じゃなくて飲み終わった数十分後に刺激が来て数時間後に消えるんだよ。でも、いきなり立ち上がったからこのタイミングで頭に酔いが回ってきた」と俯きながら語りかけると嫁が「ごめんなさい…私,貴方と結ばれてからロンドンで呑んだのが初めてだったから加減がわからなくて」と謝るので「俺も初めて呑んだ時はグラス2杯分だけでその次からガチで呑んでたから気持ちはよく分かるよ。まぁ,俺は君と違って初めてが氷割りのビールで度数が低かったからその次以降がガチでキツかったけど」と笑って返すと「本当に大丈夫なの?」と心配してくれるので「セブで悪酔いした時よりは少なかったからな。この位ならなんとかなるさ」と答えると「そう言えば,セブの話で皆が言ってたフェラスリーって何のこと?」と訊かれたので「fellaは俺達が通ってた語学学校の名前ね。寮とセットになってるキャンパスが2つあってそれぞれの数字で呼び分けるんだけど,学校の近くのバーに休みにはその学校の生徒が集まって店が学生で埋まるからそれぞれfella3,fella4って呼んでたんだけど、俺は休みが少なくて新しくできた4には行けなくて3しか行ったこと無いけどね」と返す。
「まぁ,そこも色んな思い出があって、予定通りならセブにも寄港して三日ほどいるし、その次の寄港地からも飛行機なら1時間以内だそうだから行こうと思えば行けるんだけどな」と言って笑い、その後も暫く2人でお互いの思い出を語り合いながら歩き、普段の2倍の時間をかけて帰宅し、家でも紅茶を飲みつつ色々語り合った。
近い時期に近い地域男4人が皆同じ週に帰るため修了証書を受け取った金曜に皆で集まって呑み、日付が変わってすぐの便で帰る3人を見送った、寮で過ごした最後の夜の再現と言っても過言では無い。

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Trans Far East Travelogue63

店に着いて皆でエールを飲み始めたは良いが、俺達を見て絶句している。
暫くして,俺と同じ日に学校に着いたが羽を伸ばし過ぎて怒られて急遽先に帰国したAが口を開いて「お前から『嫁を連れて来る』って聞いてたけど、お相手が予想と違った」と爆弾発言をする。
それを聞いた嫁は困惑した様子なので「実は、セブにいた時はとある台湾の女性に恋してたんだ。そこまではこの3人も知っててその先は俺と兄貴達以外は誰も知らないんだけど,台湾までその人に会いに行っていざ告白したら翌日その人の地元,台南で行われるイベントの時に返事を告げるって言われたので高雄の兄貴達と現地で合流ということで台南まで行ったんよ。そしたらさ、それがその人の結婚式で、兄貴が通訳してくれたことでフラれたことが確定した挙句プロ野球もサヨナラ負けしたから所持金全額つぎ込んで皆でヤケ酒飲んで,兄貴が台湾で興した新興財閥で働くことを条件に出して貰った金で帰国したんだ。それが奇しくも去年の11月、俺が21になった誕生日のことさ。そして,俺のことを色々知ってた兄貴に気遣って貰って観光を通じた国際交流促進目的の子会社の『韓国にもルーツを持つ日本人スタッフ』としてソウル支社で働くことになって暫くは韓国と日本を行き来していて、ある日台湾の本社から呼ばれて,ビザを取れなくて経由他のロシアに入国できなくなった紀行文や他の国の紹介記事執筆担当者の代理としてシンガポールから鉄道旅をしてたら高3当時の恋心が再燃して君と結ばれたので作品は急遽恋愛要素を加えた物に変更になって売れてさ…今までまで隠しててごめん」と言って説明も交えつつ謝ると「でも、それ以降はもう私一筋なんでしょ?」と嫁が訊くので「当然さ。あの鉄道旅で時間を共有するうちに再燃した恋心が愛情と独占欲に気持ちが変わっていったからな」と頷いて即答すると嫁は俺に口付けして「これからもずっと一緒にいようね」と笑い、今まで空気になってた3人が「早く呑もうぜ」と促すので「そうだな。よーし、飲んべ!」と言うと嫁が更新されてゆく野球速報を見せて「巨人サヨナラ勝ち!」と言うのでガッツポーズすると、唯一入学から卒業までずっとクラスメイトだった奴から「なんか送別会思い出すなぁ」と笑われた。
嫁も一緒になって飲む酒は,かつてセブで飲んだ物より甘味が入っている。

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Trans Far East Travelogue62

セブ時代のクラスメイトで一緒に出かける機会が最も多くて出かける時は常に奢り合う仲であったKからの電話が届き,イギリスのパブを意識した店を見つけてそこで呑むことにしたので店の前で集合とのことだ。
嫁が飯田橋の駅前にかかる牛込橋を見て「行きは意識してなかったけど,ここの橋って電車好きな子供には良さそう」と言っているので「俺なんか高校生になってもここ来て電車見てたからなぁ…中学の先輩,めちゃくちゃ気さくでさ,しかも鉄道ファンだから話が通じるのなんので中一の頃は楽しかったなぁ…俺が中2でその先輩が高1になったら、中学の鉄道ファン仲間全員で連絡取り合ってそこの神楽坂の阿波踊り見るついでにここで特急列車見て、そこの青森県のアンテナショップでリンゴジュース買って開けてから中央線で東京駅行って赤羽と池袋で乗り換えて新大久保から走って帰ったんだ」と言って思い出に浸りながら坂下の信号を渡って神楽坂を登って歩いていると幼少期からの散歩コースだったこの街に詰まった思い出が映画のシーンのように繋がって一つのストーリーとして走馬灯のように蘇り、様々な思いが込み上げてきた。
およそ徒歩5分の道のりがここまで長く感じられたのは後にも先にも無い。

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Trans Far East Travelogue61

市ヶ谷の駅舎と俺の地元は対岸にあるとは言え我が母校の校歌にもあるように「古いゆかりの濠に沿う風爽やかな丘の上」にある。
改札口は入り口が吹き抜けになっている為、いつものように吹き込むそよ風に髪を靡かせながら嫁が一言「せっかくだし、貴方の地元歩きたいなぁ」と呟くのを聴いて「任せときな。って言うか、コースどうする?ここから歩くなら四谷か神楽坂のどちらかがオススメだよ。どちらも車の通りが多い道から一歩入った路地に建ち並ぶ飲食店の風景が良いんだ。まぁ,この時間じゃ呑み屋しか空いてないけど」と言うと嫁からの返事が来る前にセブ時代の親友から電話が来たので話を聞いてみると。神楽坂の本多横丁で、かつてセブの学校にいた同学年の関東男子4人のうち俺以外の3人が偶然同じ店で鉢合わせて呑んでいるので,俺も呑みに来ないかとの誘いだ。
そして,俺達2人も合流して見番横丁近くの店で5人で呑むことになった。
2人で飯田橋に向けて歩いていると「見番横丁ってどの辺?」と嫁が訊いてくるので「地元じゃ昭和の空気を色濃く残すことで有名な銭湯の熱海湯がある辺りさ。神楽坂は谷状になってるけど、お堀にかかる橋を渡って坂を上りきる手前で左に入るよ。そう言えば,アイツら昔は俺より先にダウンしてたから多分酒弱いと思うけど、もしかしたら強くなったかも知れないな。でも,俺たちに遠慮して合わせなくて良いから無理はするなよ」と返すと「やっぱり優しいね。外見はともかくこんなに良い旦那さんと一緒になれて幸せ」と嫁が囁く。
「俺もこんなに良い嫁さんと一緒になれて幸せだなぁ…でも,ここの公園で昔家族でやったみたいに今度は2人でできたらもっと楽しかっただろうに」と呟くと嫁が「何かできなくなったの?」と訊いてきたので「ここ、お濠の対岸の建物の夜景が水面越しに輝くだろ?それを見ながら昔は線香花火ができたんだけど今は禁止になったんだよ。中2の夏休みにここで家族で手持ち花火やってたのが懐かしい。でも,もうできねえんだよなぁ」と返す。
「この公園,昼間は観光客多そう」と言って嫁が呟くので「観光客は多いぞ。特に春先は桜が綺麗なんだ。そこの新見附橋から両側に咲き誇る満開の桜と電車がセットで写る写真で有名だね」と返すともう飯田橋の西口駅舎が見えてきた。
光輝く現代的な駅舎はさながら八重洲のようだ。

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Trans Far East Travelogue60

信濃町〜四谷間には,高架やかつての城の外濠を埋め立てた場所に敷かれた線路の上を走る中央・総武線にしては珍しく本格的に掘られたトンネルがあり、その先の情景は東西どちらの方面の風景であっても、俺にとってみればとあるアイドルグループが歌った今はなき新幹線の名前を冠した楽曲の歌詞と重なる部分がある。
しかも,嫁と2人でこの区間を通るなら尚更歌詞の描写と情景が重なる部分は多くなる。
そのことを知っている俺は、電車が信濃町のホームを出る寸前にイヤホンを取り出してスマホを操作し,再生の準備をした。
すると,案の定嫁が私も聞きたいと言わんばかりに指で背中を突いてきたので背の低い嫁と顔の高さを合わせ進行方向左側を見る状態でイヤホンの片方を差し出し、嫁が装着したタイミングで曲を流す。
そしたら、前奏が流れ終わるタイミングで件のトンネルを抜けたので,見事にドンピシャで出だしの「最後のトンネルを抜ければ近付く美しいあの街」という部分が流れてきたのだが、この後の1番の歌詞が嫁に向けたメッセージを代弁しているので続きを聴いた嫁がこの辺りの高層建築物の屋上にあるネオンランプの如く顔を真っ赤にしている。
それもそのはずで、その先の歌詞は「希望が住むと信じて来た私が生まれ育った全てを知って欲しい。一番大切な人を連れて帰ること出逢ったあの夜約束した。未来はいつも思ったよりも優しくて風景が不意に馴染んでくる。夢が叶うとその想いが溢れ出して瞳から伝えたくなる。貴女と一緒に歩きたい」というものだ。
乗っている号車が悪くホームの中でも新宿通りの橋の真下で停車した関係で肝心の美しいあの街は見えなかったが、意外とすぐに発車した為その美しい街並みが見えて来た。
見方によっては嫁にそっぽを向くような格好になっているのに敢えて俺が進行方向の左を向いた意図が漸く嫁に伝わった。
東京の郷土史に詳しい一部の界隈では小学生でも知っているくらい基本的な常識と言えることなのだが,この中央線の路線の四ツ谷〜飯田橋間は外濠の一部を埋め立てた場所に敷設された線路を走っているのおり、このお堀を境に北、つまり今のこの電車から見た進行方向左側は我が街新宿区、右は宮城のある千代田区という具合に分かれている。
そしてすぐ窓の外やや後ろに靖国通りと外堀通りの分岐点と防衛省のアンテナ塔が見えたので目的地・市ヶ谷の駅に到着だ。

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Trans Far East Travelogue59

山手線で2番目に古い西日暮里,撮り鉄必見の車両基地最寄りの田端,ソメイヨシノ発祥の地駒込,とげ抜き地蔵や「お婆ちゃんの原宿」の異名を持つ巣鴨,荒川線は乗り換えの大塚を過ぎていよいよ池袋に着いた。
嫁が袖をクイっと引っ張って上目遣いになりながら「確か,池袋って『東西武で西東武』って呼ばれてたよね?でも,アレってなんでなの?」と訊いてきたので「東武の東上線は元々東京と上州,つまり群馬県を結ぶ前提で作られたんだ。でも,群馬県方面に行くなら方向は北西が便利だから西側,途中の埼玉県の区間で計画が立ち消え,その後その路線の鉄道会社が東武鉄道と合併して消え、一方の武蔵野鉄道は起点駅を需要が高そうな市街地のある巣鴨にするつもりが頓挫して何も無い池袋に駅を設置することになった。そしたら,路線の方向的に東口に線路を敷いた方が良くてそのまま線路を敷いたらその後運営してた会社が西武鉄道と合併して結果的に東口に西武が来て西が東武になっただけのことさ」と説明すると「やっぱり,東京って複雑やね。分からないことだらけや」と言って嫁が笑うので「まぁ,難しいよなぁ…地元の俺でもたまに分かんなくなることあっから」と返して深呼吸する。
そして一言,「楽しい時間ってのはあっという間だな」と呟く。
それもそのはずで,もう地元で5本の指に入る目抜き通りの一つ,大久保通りを跨ぐ橋を渡り,左には新大久保のコリアタウンが見えている。
更に2本ある大通りをそれぞれ跨ぐ橋を渡る度に幼い日の思い出がハッキリと浮かび上がり、新宿駅に着いた瞬間地元に帰って来た実感が湧いてホッとして「兎追いしかの山小鮒釣りしかの川」と口ずさむと嫁も何か察したのか「帰ってきたね」と言ってくれた。
それに俺も反応して「そうさ。愛しのふるさと,新宿区の玄関口にやっと帰って来たんだ。」
それからは中央・総武線に乗り換えて地元,市ヶ谷を目指す。
幼少期や高校1年の頃によく電車を見に来た踏切の最寄駅の代々木,夏休みによく利用したプールのあるアリーナ併設の元五輪会場・東京体育館のある千駄ヶ谷,生まれて初めて自転車に乗り、その後もよくサイクリングで訪れた神宮外苑の最寄駅の一つであり実家の近くを貫く通りと交差する場所でもある信濃町まで来た。
もうあと5分ほどでこの鉄道旅も終了だ。

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Trans Far East Travelogue58

南千住,三河島と来てついに日暮里に着いた。
「ここ,降り立ったのは何年振りだっけなぁ」そう呟くと嫁が目を丸くして「えっ?東京23区の人でもそんなに長いこと来てないの?」と訊いて来た。
「そうなんだよなぁ…幼い頃はそこの出口横のファミレスで母さんと昼食べながら京成や常磐・東北線の電車,それから神田の先あたりから伸びてる新幹線の地下区間が終わって地上に出てくる場面も見えるから連れて来て貰ってたけど,小2くらいから来ることは無かったね。まぁ,海外行く時にスカイライナーで通ったことはその後も何度かあるけど」と返すと嫁は「でも,どこへでも簡単に行って思い出作れるから東京23区の人って羨ましい」と言ったので「でもまぁ,東京って山手線の駅と私鉄のターミナルが繋がってて,その私鉄もほとんどが地下鉄と直通してるから最寄りの地下鉄や山手線の駅の立地によって特定の方向にある場所や路線に行く機会が必然的に増えるんだ。俺の場合は大江戸線と新宿線が最寄りだから上野が近いので京成スカイライナーで一気に成田空港へ、新宿も近いから多摩・横浜・湘南・箱根方面にも結構行く。また三田線に乗り換えれば羽田空港にも気軽に行けるよ。でも,浅草に出るのは言う程便利ではないし新宿発の特急も少ないから日光は行ったことない」と返すと「だから,都内でも一部地域は空白で子供の頃は行ったけどけどそれ以来は行ってない場所もあるってこと?」と嫁が訊いてきたので「正解さ」と答えて入線して来た『走るレンジ』ことE235系に乗り込み、内回りで世界一の大ターミナル・新宿を目指すことにした。
いつぞやの阿波踊りの日以来となる夜の山手線から青春の音がする。

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Trans Far East Travelogue57

紬の和服で有名な結城、交通の要衝・下館を過ぎると乗り換え駅の友部が近付いてくるが、途中単線区間のため行き違いの電車が遅れている影響でこちらも友部に5分遅れで到着した。
特急券を購入し,上りホームにやって来た勝田発の特急ときわ80号品川行きに乗り込む。
「暗くて何も見えんね」という嫁の一言に「昼間なら,綺麗な景色が見えんだけどな…実はこの区間ってのどかな田園風景の中に映る四季折々の姿が綺麗だからクセになるんだ。」と言って過去の大回りの車窓の写真を見せると「関東って滅多に来る機会ないけど、何度も来ればここまで綺麗な風景見れるのね」と返す嫁に呆れながらも「まぁ、大回りの制度を利用して四季折々の景色を堪能できるのは事実上近畿と関東しかないけど,こんな綺麗な風景は関東出身のイケメン男子に与えられた特権ってヤツかな。でもまあ,いつぞやの大災害の後に家族でとった行動が原因で地元じゃ村八分みたいになったから,それ以前から付き合いのあった相手か俺の過去を知らない人以外友達がいなかったし、まともな恋愛もしたことなくて,鉄道が幼馴染であり恋人であり,相思相愛の仲みたいなもんだがな」と言って笑うと「私は?」と寂しげに呟く嫁に「前世からの縁なんだから良いだろ」と返すと嫁は無言のまま頬をすり寄せてくる。
窓の外を見ると歩き慣れた我孫子駅のホームが見えている。「そろそろ降りないといけないから支度するぞ?続きは家でやろうな」と言って嫁を納得させて柏で下車してすぐに来た快速上野行きに乗り換える。
松戸を過ぎると江戸川を渡って東京都に入り、そこから先は中川、荒川と渡って北千住の3番線ホームに滑り込む。
10代になって初めて知った後に虜になり,青春の象徴となっている思い出の駅メロと言っても過言では無い常磐3-1番は国鉄車両の代から始まって平成を越えて令和の今もなお走り続ける北関東のエーススプリンター,E531系一強の代になった今でも鉄道ファンを喜ばせる下町の象徴となって鳴り続けている。

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Trans Far East Travelogue56

小山の駅に着いてドアが開いたら、俺が嫁の前に出てコンコースに繋がる階段を駆け上がる。
なぜなら、大回りでは基本的にお世話になる駅であり俺は両毛線前橋方面、宇都宮線大宮方面,水戸線友部方面と大回りで行くことのできる全方向に向かうルートで利用したことがあるため、必然的に駅構内の構造は分かっているためだ。
俺は栃木名物レモン牛乳の中毒性を知っているため,何を血迷ったか売り場にある分はパックの大小を問わず全て買い占めることにした。
金額は見事に5桁を突破したが嫁と割り勘にしたことでなんとか特急券代は2人分確保できたので水戸線勝田行きに乗り換える。
お馴染みE531系の運用で,帰宅ラッシュになりそうなタイミングでボックスシートが1区画だけ空いていたのでそこに座って友部まで乗ることにした。
九州では栃木名物は中々売られていないため馴染みがないのか,嫁は「これ,本当においしいの?」と疑っていたが,一口飲んだ瞬間「どこか懐かしい味がするんだけど。どうしよう,いくらでも飲めるよ」と言ってかつての俺と同様すぐにレモン牛乳の虜になってしまい,それを見て自然と出てきた「飲み過ぎじゃねえのか?やべえよ」という俺の独り言に反応してストローから口を離して「私,そんな食い意地張ってないもん」と言い頬を膨らませているが,まだ電車は最初の停車駅に着いていないのにもう大きなパックが三つ分空になっているので説得力が無い。
何を隠そう,これはかつてセブで俺の送別会をやってもらっている時に日本で同じ時間に行われていた試合でとある控え選手が順位が上で試合で中々勝てない苦手チームを相手に延長10回にサヨナラホームランを打ってくれたことに興奮して一気に酒を飲みまくった時よりもこの嫁のレモン牛乳大飲みの方がハイペースなのに気付いて「おいおい…これ,セブの時の俺よりペース早いぞ」と言って苦笑いを浮かべると「どうしたの?なんでそんなに驚いてるの?」と嫁が訊いてくるので「流石の俺でもそんなにハイペースでは飲めないよ。というか、1分で300ミリって頭おかしいでしょwまだ発車してから五分も経ってないのに500ミリパック3つも空けるのは流石に凄いよ」と言って笑ってると
漸く最初の停車駅,小田林に着いた。
「俺の分、残ってるといいなぁ」という悲壮感漂うつぶやきを乗せたローカル線の電車は夕暮れの茨城県を駆け抜ける。

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Trans Far East Travelogue55

倉賀野で待つことおよそ1時間,湘南新宿ライン東海道線直通の特別快速小田原行きが入線して来た。
手元の腕時計を見ながら思わず「定刻の30分遅れか…まぁなんとかなるかなぁ」と呟きながら乗り込むと嫁が「まさか、これで直接帰るわけじゃないでしょう?」と言って確認を取るので「そうだね。大宮までは行くつまりだよ。でも、大宮での接続次第だけどね。下手すると湘南新宿ラインか埼京線で直帰かもしれないし、小山に出れても友部から特急で帰らないといけなくなるかもしれないね」と返す。
そしたら、嫁が「友部から特急だと、どこで降りるの?」と訊いてきたので「時間とルート的に、柏しか選択肢は無いね。そしたら、2分の1の確率で3-1聴けるからいいかなぁ…でも、そうなると後は日暮里の接続次第さ」と答える。
それから暫くはお互いの思い出話をすることになり、気付いたら深谷、熊谷、鴻巣といった埼玉の県北有数の街を過ぎてかつて社会問題と化したかの悪名高き順法闘争で有名になってしまった上尾の駅も出て次の停車駅は大宮となった。
「アプリの列車走行位置によると、宇都宮線も遅延してて今赤羽〜浦和間を走ってるみたいよ」と嫁が言ったので「なら、大宮で乗り換えられるけど、問題は小山だな」と返す。
籠原での増結や運転間隔の関係で運転見合わせ区間に先行列車が1本も無かったおかげで30分あった遅れは10分遅れまで回復し,大宮に着いた。
それから約2分の乗り換えで5分遅れの宇都宮線快速小金井行きに乗り込み,小山を目指す。
東武伊勢崎線が隣に見える久喜、栗橋を過ぎて左側に東北新幹線の高架が見えてきたら、まもなく栃木県有数の大ターミナル,小山に到着だ。

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Trans Far East Travelogue54

例のデュッセルドルフの映像を2人で見て談笑していると、俺達の乗る気動車は荒川,神流川,烏川と比較的大きな川をいくつも渡ってついに群馬県有数の大都会,高崎市の玄関口である倉賀野に着いた。
ところがなんと、両毛線が運転を見合わせているとの情報が入ったためこの倉賀野で降りることになった。
しかも、運の悪いことに究極乗ることになった高崎線上り大宮方面は遅延していて、少なくともあと30分は列車が来ないとのことだ。
仕方ないので、先程映像を送りつけて来た幼馴染に電話をかけることにして、彼のヨーロッパ周遊について気になってたことを質問することにした。
「久しぶりだな。一つ訊きたいことがあるんだが、時間大丈夫そうか?」そう彼に尋ねると「別に構わないよ。」と返って来たのでさっそく本題に入る。
「あの行程だと、最後はスイスのチューリヒ国際空港で旅が終わってるんだけど、どうやってそこからデュッセルドルフ行ったんだ?」と訊くと「な〜んだ。そのこと?ヒントは、歴史に残る出来事の聖地経由だよ」と返ってきたので「ダッハウからボンに出て、そこからライン川下ってデュッセルドルフかな?」と問いかけると「違うよ。空路でロンドンにまず戻ったんだ」と返ってきた。
そして、一つの答えが導き出された。
「まさか,ロンドンシティー空港からエディンバラ経由じゃないよな?」と訊くと「すごいな。その通りだよ。しかも、BA。でも、どうして分かったの?もしかして、あのニュース君も見てたの?」と返ってきた。
「アレだろ?航空会社がフライトプランの作成を民間に委託したは良いが、その会社の人がうっかりしてて、前日夜の最終便のフライトが翌日の朝の便だと勘違いしてスコットランドのエディンバラ行きにしてて,本来はドイツのデュッセルドルフに行くはずがクルーもそのミスに気付かず、スコットランドに着いてから初めて乗客にデュッセルドルフ行きではないかと指摘され、挙げ句の果てには、乗客に『エディンバラではなく,デュッセルドルフへ行く人は手をあげてください』と声をかけたら乗客全員が挙手したから急遽燃料積み直してドイツへ行ったっていう漫画みたいな実話だろ?」と笑いながら言うと向こうも笑いながら「そうそう!ほんと、思い出しただけで笑っちゃうよね。」と言うので2人電話越しに笑い合う。
そろそろ高崎線の電車も来る筈だ。

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Trans Far East Travelogue53

件の映像を見せると、嫁が「これって本当にドイツの映像なのよね?映像に映り込んでしまってる現地の人があげている歓声は英語に似ているけど英語じゃない他の言語なんだけど、背景の花火は日本のものそのままで合成っぽいんだけど…特に、スタートのヒューって音,海外の花火では鳴らないイメージなんだけど…でも、何か変ね。もし本当ならどうしてドイツで日本の花火が上がってるの?」と訊いてきたので「それは、世界的に見ても有名な日本人街のあるDüsseldorf (デュッセルドルフ)で行われているJapan Tag(ヤーパンターク)だね。
名前の意味は『日本の日』で、日本とドイツの文化交流で大きな役割を果たしているお祭りで,その中でも1番人気がこの花火なんだ。俺達はすぐ船で海外行くし,向こうに着いたら日本は夏で花火シーズンだけど現地のを見るには早すぎて見らんないはずだから今年は花火諦めてたんだけど、まさかこれが数時間前にあったとはな」と返すと嫁が「花火っていつ見ても綺麗やね」と言っているので「普通に見れば綺麗かもしれないけど…俺からすれば愛しの嫁の方がもっと綺麗だから、ドイツにいる人には申し訳ないけどこの花火の魅力、俺にはわかんないや」と正直にコメントする。
そしたら、嫁が照れ隠しのためかアッパーで俺を小突いてきた。
かつては女性や老人もいるこの街に容赦なく降り注いだ炎の花は,平和の証として敵味方の区別なく,またかつての同盟国であり技術や文化も共有しあった国とは2度と途絶えることのない友好の証として年に一度、その姿を見せて今も世界中を虜にしている。
そして、その花火を見ている若者2人を乗せた気動車は,武蔵野台地を駆け抜ける。

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Trans Far East Travelogue52

俺達を乗せた高崎行き気動車が高麗川を出てすぐ、スマホに一件の通知が届く。
その通知はあのロンドンの幼馴染からの動画付きのメッセージで「おはよう。まだ僕はヨーロッパにいるよ。日本はもう午後かな。実は、君が何年も前にイギリスまで来てくれた後ヨーロッパを旅行した当時の行程全て再現できてその後個人的にヨーロッパを周遊しているんだけど、昨夜ドイツのとある街で年に一度のお祭りがあって,そのクライマックスのイベントの映像が撮れたので送るね」と書いてあった。
まず俺がその動画を確認すると、「日本の夏の風物詩であるが,夏には南太平洋のどこかを船で航行しておりいて見られないもので,海外と日本では文化が異なり、国によっては安全上の観点から法律で市販や使用そのものが禁止されていたり,夏では無くて何かのお祭りか国の独立記念日,あるいは年の瀬のクライマックスにしか見られないのだが渡航先では時期が合わなくて今年は見られないはずのもの」が映っていた。
それを見て、俺は思わず頬を緩めており、次の瞬間嫁が「何があったの?」と訊いてきたので「ロンドン行ったのは覚えてるだろ?その時に一緒だった俺の幼馴染がドイツで昨夜、まぁ向こうの時間だから数時間前に撮ったという映像なんだ。
にしても、もうこんな時期なのか」と言ってその映像を見せると嫁が「これ、日本じゃないのに日本みたい」と言って笑っている。

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Trans Far East Travelogue51

遅延して品川止まりになっているサンライズエクスプレスを横目に六郷川を渡り,川崎に着いて乗り換えのために東海道線から降りた。
「この電車だと…東神奈川で乗れるのは横浜線快速か。そして、町田で乗り換えれば淵野辺は何とかなるな」そう呟きながら俺は後続の京浜東北線普通磯子行きに乗り込んだ。
一方その頃、嫁を乗せた東海道線普通電車は京浜急行快特と両者一歩も譲らぬ並走バトルをしていて間もなく新子安を通過する頃だろう。
その後、嫁は桜木町,関内,茅ヶ崎の順に俺たち夫婦の両方に課された発車メロディ録音のタスクをこなしてゆきもう海老名に着いたそうだが一方の俺はというと,そのタスクをこなすために既に淵野辺に着いていたが、こちらが録音できないほど短く切られる為ここで合計30分も時間を無駄にしてしまい、ようやくまともに録音できて各駅停車に乗り換えて橋本に着いたら向かい側のホームの相模線から降りて来たという嫁が合流して来た。
そして、八王子で嫁にも件のうどんを奢り2人で八高線出発の5分前に出る中央線快速で立川に行き,かなりギリギリのタイミングで青梅行きの各駅停車に乗り換えて拝島で降り、乗り換えた八高線の電車が箱根ヶ崎のあたりに差し掛かったから在日アメリカ軍の心臓部とも言える横田飛行場から練習機が連続で離陸するのが見えた。
そして、高麗川に着いた。
高崎までの気動車の旅が間もなくスタートするが、まさか時期外れの花火の映像が見られるとはこの時はまだ予想もしていなかった。

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Trans Far East Travelogue50

横須賀・総武快速線の列車が発着する地下ホームに下りたは良いものの東京湾周辺の強風により京葉線と内房線がどちらも運転見合わせになり,また佐倉での安全確認の影響で成田方面にも抜けられず、更に8時1分発君津行きも途中の千葉止まりになるという旨のアナウンスを聞き頭を抱えるが、時間がもったいないのでひとまずコンコースに戻ってプランを練り直す。
今の所行ける選択肢は2つで,まずは上野東京ライン常磐線直通の電車で一気に友部まで行き,そこから小山,高崎と出て八王子に抜けるルート,もう一つは東海道線で川崎・東神奈川経由の横浜線ルートないし茅ヶ崎経由の相模線に乗り換えて橋本、八王子経由で高崎から小山に出て小山から湘南新宿ラインに乗り換えるルートだ。
嫁も同じ考えだったのか、上野東京ラインへの乗り換えに便利な新幹線乗り換え改札の前に立っている俺を見つけるなり駆け寄って来て「あなたも知ってる通り選択肢2つあるけど、一緒に行こ?」と提案してきた。
「そうだな…でも、この必須のチェックポイントどうするよ…この調整は厳しいぞ」と呟き返すしか無く暫く考えているとどうやらもう京葉ホームとの往復の間に調べてくれていたのか「それなら、私は桜木町と関内のチェックポイント通って茅ヶ崎経由ね。あなたは淵野辺行ってチェック受けた後八王子でマストイートって書いてあるうどん食べたら豊田でも録って立川経由で拝島行ってくれる?私は八王子に着いたらすぐに出る八高線に乗ると八高線の本数は少ないから私のヤツと拝島で合流できるよ」と嫁が言ってくれたので「つまり、その先は高崎,小山,友部、我孫子、北千住、日暮里、赤羽、新宿というルートかな」と確認すると嫁が無言で頷く。
「そうだ!念の為駅弁2食分買い込んだけど食べるか?」と訊くと「それなら、グリーンで食べればちょうど良いかも」と返ってきたので思わず「そうだな。でも、時間の関係でたまたま目の前に出てた人気の高いヤツしか買えなかったから俺は自腹チャージせんと帰りしんどくなるべ」と自虐的に笑うと「グリーンは私が出すから安心して」と返ってきたが「Suicaで2人分は物理的に無理な筈や」と笑って返し、東海道線ホームの上の券売機で即行チャージしてすぐにやってきた熱海行きに乗り込むと偶然にも平屋で並びの座席が空いていたので天井にICカードをかざして座るとすぐに発車して一路、西に向かう。

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Trans Far East Travelogue49

俺達2人を乗せた西船橋行きの総武線各駅停車が御茶ノ水駅3番線に入線して発車メロディが鳴る寸前までの約30秒の間に偶々路線図を見ていて衝撃の事実が発覚し、急遽この電車を降りることになった。
その事実というのは、同じ駅を2度通過しない一筆書きのルートでかつ途中下車しないという条件付きであればJRが定めた特定の大都市近郊区間の範囲内完結の切符に限り始発から終電まで好きなルートで鉄道を利用できるという制度を利用するこの旅で、まさか言い出しっぺのはずの俺が利用予定の常磐快速線で一度通過した駅を数時間後にその駅に接続する武蔵野線で通ることになり、それもJRの会社が定めた特例区間では無いため不正乗車扱いになるのだ。
流石に焦って作戦を練り直そうとしたが、ターミナルの東京駅の方が選択肢が多いため発車メロディが鳴り響く中慌てて飛び降りて来た俺の異変に気付いた嫁が声をかけてくれたのだが、ここでもとんでもないやらかしが露呈した。
なんと、定期的にあるダイヤ改正の存在を忘れていて最新の時刻表を見ておらず一世代前のダイヤで旅程を考えており、蘇我方面の京葉線快速はホームが離れている東京駅の乗り換え時間を除いても1時間ほど待たされる8時53分の上総一ノ宮行きまで無いのだ。
しかも、この電車も停車駅の都合で乗り通すことができない。
言い出しっぺの俺の行程がほぼ壊滅したことを受けて絶望していると嫁がありがたいことを言ってくれた。
「私は長旅でも大丈夫。あなたも覚えてるでしょ?それより、前にあなたが言ってたの覚えてるよ。房総行きたいって。だから、房総行きなよ。私もさっきJRの公式アプリで最新の時刻表見たけど総武線で君津って所まで行く電車が8時1分にあるからそれ乗って行けば?私なら大丈夫やから。」とのことだ。
そして、嫁に礼を言って一緒に東京行きの中央線快速に乗り込み俺も最新の時刻表を見ると君津から先少々乗り換えの間隔は空くが高崎迄は予定通りの路線を確実に使えることになった。
ところが、高崎でも八王子でも新宿まで行く終電が終わっている時間に着くため高崎には行けず、小山で宇都宮線に乗り換えて新宿に向かって引き揚げるのが賢明だと悟った。
暫くして東北線の高架が下りて来てこちらの目線が高くなってゆき東京駅に到着し、駅弁の確保にも成功して準備が整った。
さあ、気を取り直して再出発だ!

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Trans Far East Travelogue48

朝7時過ぎで睡眠時間2時間弱にも関わらず嫁がICカードをチャージしてくれている間に予定が全て決まり、出発する旨を連絡する。
そして、嫁と合流してJRの飯田橋駅まで移動する間に他の旅仲間からも連絡が入り、修学旅行の要領でチェックポイントを設けたとのことだ。
そのリストを見て暫く考え込んだが、嫁の提案のおかげで途中二手に分かれて市ヶ谷で、もし一方が遅くなったら我が家で合流することが決まった。
俺たちの大回りのルートは以下の通りだ。
使用する切符は飯田橋〜市ヶ谷の片道乗車券で、同じ駅を2度通らない一筆書きルートになる。
中央・総武線で東を目指す所までは嫁と一緒だが、俺は御茶ノ水で乗り換えずに秋葉原経由で上野に行き常磐線系統の上野東京ラインで我孫子へゆき唐揚げを食べる。
その先は常磐線で友部、水戸線で小山、昼食の後レモン牛乳買って両毛線で高崎、八高線で八王子、7分の待ち時間で名物のうどんを堪能した後橋本経由で相模線に乗り換え茅ヶ崎、東海道線横浜経由で東京、京葉線の通勤快速に乗り込み蘇我経由で千葉、千葉から武蔵野線で武蔵浦和、埼京線で新宿経由で中央線に乗るというものだ。
嫁は東京駅から先は京葉線快速で駅メロを録音しつつ蘇我まで行き、蘇我で総武本線に乗り換えて佐倉経由で一足遅れて成田を目指し、成田から我孫子、我孫子で唐揚げ休憩の後常磐線で友部、水戸線で小山、嫁もレモン牛乳買って八高線で八王子、すぐに出る横浜線確定で淵野辺、そこで駅メロ録音してそのまま東神奈川、川崎、立川経由で中央線で市ヶ谷に戻ってくる。
ルート説明の間に、高校時代に流行った感染症で外出できず知らぬ間に建っていた飯田橋の新西口駅舎が見えてきた。
「過酷な道のりになりそうだけど、お互い頑張ろうな」
そう嫁に声をかけるが、1分1秒のタイムロスや電車一本の接続ミスが命取りとなり行程が全て崩壊しかねない旅なので嫁に現在時刻を確認しながら急いでマルスを叩いて発券し、改札に入る。
幸い、乗る予定の1本前の電車が来たのでホームで見送ってる間にICカードグリーン券の使い方を説明し、説明が終わると乗る予定の電車が来たので乗り込む。
およそ5分後、ついに分岐点・御茶ノ水に着いた。ここからは二手に分かれて関東を股にかけた壮大な旅が始まるのだ。

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Trans Far East Travelogue47

荷物をまとめ、仮眠を取った後いきなり嫁が「竹芝ってどこ?寄港地が博多だから本州らしいことは分かるんだけど」と言うので「東京の海の玄関口だね。有明は瀬戸内海方面,竹芝は東京の離島への出口なんだ」と返す。
「話変わるけど出航明日でしょ?じゃあ、今日はどうする?」と今度は嫁が訊くので「希望があるならそれに沿うよ」と返すと「確か、韓国にはバナナ味の、栃木にはレモン味の牛乳売ってるんでしょ?それ飲んでみたいし、タピオカも飲みたい。あと、グリーン車っていうのにも乗ってみたい。でも、貴方には無理して欲しくないからなるべく安い方法で良いよ」と返ってきた。
念の為「なら、今日は電車ガッツリ乗るし昼食とか駅弁駅そばで済ませるけど大丈夫?」と訊くと「大丈夫よ」と返ってきた。
そして、おもむろにスマホを手に取り「これだと接続悪いなぁ…待てよ?ショートカットするか」と呟くと嫁が「何か調べてるの?」と尋ねるので「君の要望に沿える方法で合法的に長時間電車に乗れる方法を知ってるんだけど,列車の本数が極端に少ない地域も経由するから極力待ち時間を減らせるルートで探してるんだ。」と答えると「その間にそこの地下鉄でパスモの残高チャージしてくるね。FTずつで良い?」と頼もしい返事が来た。「助かるよ。確認だけどFTって5000円ってこと?」と訊き返すと「そうよ。なんぼか分かんないから」と返ってきたので頷きながら「万が一に備えて、そのまま電車乗れるような格好にしといて。結果出たら電話するから」と返すと向こうも無言で頷く。
今度は慣れ親しんだ関東大回りの旅が始まる。

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Trans Far East Travelogue46

荷造りの途中で月見をしていたことに気付き荷造りを再開するとすぐ、今度はスマホに着信が鳴り響き思わず「今度は何だよ!荷造りしてる時に勘弁してくれ」と呟くと船に乗っているはずの兄貴からの連絡であることに気付きすぐに応答する。
「すまない。定期航路のフェリーやクルーズ船を使うはずがフェリーの会社が不景気で倒産したり国際情勢の変化で営業停止したり高速船が導入されて車が積み込めなくなってしまい、皆の行程の線が切れて到着の目処が立たなくなった。だから、船はチャーターしないといけなくて寄港地増えるけど大丈夫か?」と焦ったような声で言われ、それを聞いていた嫁は大丈夫と耳打ちするので「俺達は構わないが、具体的にどの辺がダメなん?」と訊くと「まず、君達の場合はソヘが情勢悪化で運航休止、それから高砂両岸も同様の理由でバツ、ルソンからサンボアンガ経由でヒェネサンまでは港周辺の情勢悪化で寄港できないことに伴う需要が急降下で運航停止、サンボアンガから先はボルネオまでの船で車が積めず、その次が繋がってても進めない。」と言われて思わず絶句する。
そして、「チャーターするなら起点はどこ?鹿児島か?」と訊くと「博多発の予定で会社と交渉してたが、港湾管理局と折り合いが付かず結局竹芝発で国内の寄港地は博多だけになった。竹芝出航は明後日で寄港時間は8時間の予定だ。」と返ってきたので「嫁には悪いけど、それなら仕方ないな。じゃあ、JRとフェリーの払い戻し受けてできることやるよ。」と返して電話を切る。
すると、すぐに寄港地のリストとかつてのセブ留学生仲間からのメッセージが送られてきたので両方に目を通して一言,「懐かしい街に行ける上にみんなに会えそうなのか。こりゃ楽しみだな」と呟く。
知らぬ間に雲一つない東の空が藍色がかった紫からオレンジに変わった色にライトアップしていた。

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Trans Far East Travelogue45

慣れ親しんだ都を離れ南に向かう前夜、荷造りをしているとスマホに写真が届く。
思わず「いや〜懐かしいなぁ」と笑うと嫁が「何?昔のお友達?」と訊いてきたので「そうだね。君に恋してすぐ,受験に失敗してフィリピンへ留学行ったことがあるんだ。その時の日本人の同級生からね。皆俺と同じで当時は18、19の年でしかも皆首都圏出身でさらに着いた日が1番早い奴が1人,その1週間後に俺ともう1人,そして俺達の翌週に色々あって他の学校に途中で移った奴が着いた。俺と先に来てた奴が同じコースでクラスメイトになりその後2人も合流して歳の近い男4人仲良くなった。一番最後に着いた奴が相性良くて休みの日はいつも一緒だったんだ。ソイツが初めての休み、向こうじゃもう酒呑める歳ってことで近所のバーに連れて行ってもらう筈の先輩に置いて行かれて俺と2人翌日呑み行ったのから始まり、2人でサンセットクルーズツアーに行き引率のスタッフで日韓両語に堪能な人が主催者含めほとんど韓国人ということで韓国語で説明したのをハーフでどちらも分かる俺が同時通訳して通訳いらなくしたり、3タテ不幸4連発事件を目撃させちゃったこともあったな。先生の異動で俺達のキャンパスに集まっていた先生がもう一つの方に行ってしまって枠が残ってなかったソイツは他の学校に行ったんだ。でも,関東4人組の帰国のタイミングが同じことを知って送別会に誘ってその思い出のバーで集合したんだ。そしたら、同じタイミングで帰る日本人が大勢いてみんなで飲みながらその日のナイターの経過を話し合っていたんだ。すると、遅れて合流してきたその別の学校にいた奴が着いた瞬間、巨人はサヨナラホームランで試合終了となり興奮して追加のボトル5本1人で空けてサービスで出た強めのカクテルも飲み干したんだ。その寮で過ごす最後の夜だったし俺以外の3人は皆日付変わってすぐの便で帰国だったから俺が校門前でみんなを見送り、中東の学生と紅茶飲んでデーツ食べて月を見ながら語り明かした。コース違いで接点がなかった日本のJDもその話に交じってたんだけどその人が撮ったその晩の写真が他の3人に来て俺に回ったらしいな」と答えると「思い出話、明日の夜聞かせてよ」と返ってきたので無言で頷く。
そしてベランダへ行き当時と同様に唱歌『ふるさと』の一節を口ずさむ。
当時の晩と同じ、十三夜の朧月が濡れて滲んで見えていた。

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Trans Far-East Travelogue㊹

兄貴達の姿が見えなくなってすぐ,嫁に「君,また勘違いしてるよ。まぁ,九州の人なら有明海があるから海と有明で有明海をイメージしちゃうか〜」と声をかける。
すると,嫁が「海で有明って有明海以外に何があるの?」と訊いてきたので「有明って東京だとお台場の近くのエリアの地名だよ。西日本に向かうフェリーの定期便の出発地さ」と返す。
すると「つまり,私が勝手に勘違いして怒ってたってこと?」と返ってきたので「そういうことになるな」と言って笑い返す。
すると嫁が恥ずかしそうな顔をしていたのでちょっと笑わせようとして謎かけを出してみる。
「両片想いだけど,お互いに意識して緊張しちゃってなかなか話を切り出せない10代の男女とかけて,有明から船で博多を目指す旅人と解く。その心は?」と切り出すと「バカな私には分からない」と返ってきたので「どちらも,こくらない(告らないと小倉をかけた)と遠回りになるでしょう」と言って正解を出すと嫁が一呼吸置いて「今の貴方とかけて,故・星野監督と解く。その心は?」と切り返してきたので「これほどまでにファンに愛されて幸せな男は俺以外にいないと自負しています」と少し照れながら返すと嫁がゲラゲラ笑いながら「次は、巨人軍とかけて,何と解く?」と訊いてきた。
そこで,「君への愛と解く。その心はどちらも,永久に不滅であります。」と返すと今度は嫁が照れながら「今の貴方とかけて,私と解く。その心は?」と返してきたので「大切なパートナーから浮気されずに愛され続け,それでいて自分のことを知ろうとして貰えるので本当の幸せ者です」と返すと「それは私のセリフ」と言って嫁が拗ねてしまった。
「可愛いヤツめ。これだから俺は君に首っ丈なんだぜ。さあ,帰ろうか」と声をかけると嫁も「私も貴方に首っ丈なんだからね」と言って笑いながら2人で寄り添って歩き出す。
明日,ついに俺は生まれ育った東京と暫し野別れを告げ、サンライズ号に乗り込んで四国・高松と徳島を経由して嫁の地元,福岡を目指してまた旅立つのだ。

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Trans Far-East Travelogue㊸

「兄さん,皆はどうなってる?」そう俺が口を開くと兄貴は「俺たちが風呂入ってる間にエルサレムに着いて別働隊とも合流したそうだ。アイツらはおそらく群山で泊まるんだろうな」と言うので頷くと,嫁が「皆まだ日本にいるのよね?エルサレムと群山って日本だとどこ?」と口を挟む。
そこで,俺が「平和はエルサレムのあるイスラエルの言葉,所謂ヘブライ語ではシャロームと言う。エルは確か冠詞だけど都という意味もあったはずだから,エルシャロームは平和の都,つまり平安京と言い換えられる。もう分かると思うけど,京都市のことなんだ。群山は韓国の都市なんだけど,西に向かって流れる大きな川が海に注ぐ所にあり,また日本が占領した時代には米の積出港として朝鮮半島全域から米が集まり,日本全国に出荷された歴史があり、今でもその地方では有数の港街さ。またその街の海,厳密には河口部には、更に前の時代からある古戦場もあるんだ」とまで解説していると嫁が「まるで大阪みたいな街ね。大阪も江戸時代には天下の台所で米が集まり,また淀川という西に向かって流れる川の河口がある。更にその前の時代は石山本願寺との合戦があったり織田信長が水軍と戦った古戦場もあるのって大阪みたい」と言うので「よく気付いたね。流石は俺の妻だ。君の言うとおり,群山と大阪市は似ている。だから,日本の群山=大阪市なんだよ」と言って締める。
すると,腕時計を見ていた兄貴が「海に,有明に行かないと厳しいのでもう行くわ」と言い、俺は兄貴の言わんとすることを察して頷き,彼女さんも兄貴に続くのでここで分かれることになった。
一方,嫁は1人,「私は玄界灘の方出身なのに,なんで有明海なの?」と言って不服そうに頬を膨らませていた。

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Trans Far-East Travelogue㊷

兄貴達は無事に仲直りして手を繋ぎ、俺達を呼びに来て「調印式しようか」と耳打ちするので「白の二の舞は踏むなよ」と返して兄貴について行くと嫁は「白の二の舞ってどういうこと?」と訊いてきたので,「旧ソ連圏で一時期対立が深刻化した地域が多いことは知ってるか?」と返すと「ナゴルノ=カラバフ・アルツァフ紛争とかグルジア・ジョージア紛争のこと?」と返ってきたので「それも旧ソ連圏で起きた歴史の悲劇だけど,俺が言いたいのはロシアとウクライナの争い,いわゆるドンバス戦争のことさ」と返すと「一度ミンスク合意で停戦してたよね?あの後数年で反故にされて色々あったけど」と返ってきた。
そこで,「そのミンスクの街があるのは何ていう名前の国?」と訊き返すと「ベラルーシよね?ルーシは確かロシアって意味で…ベラは白ね。もしかして,白の二の舞って…」と返ってきたので「その通り。白の二の舞はミンスク合意の二の舞,つまり一度仲直りしたのにそのことを反故にしてもう一度いがみ合うことさ」と返すと兄貴が「ブラウヴォルフ,早く来い」と怒鳴るので「卒アルで俺のクラスが世界史選択でなぜかモンゴルの紙幣にあるチンギスハンの肖像画を差し替えられて俺がチンギスハン扱いになったからって,チンギスハンをはじめとするモンゴル遊牧民の伝説にある蒼い狼呼ばわりかよ…しかも,ドイツ語だし」と笑っていると兄貴が4人分冊子とペンを用意し出してそれぞれの冊子にサインした後お互いに冊子を回し合うので本当に国際会議のようになった。
「卒アルの寄せ書き交換会かよ!」と言う俺のツッコミの声と多摩川のせせらぎだけが田園調布の街に響いていた。

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Trans Far-East Travelogue㊶

午後5時,多摩川の駅に着いて女性陣と合流した
その後は兄貴が提案したように河原に行くと兄貴の言う通り,ちょうど沈みゆく太陽が輝いている
それを見て思わず「昔っから代々木のドコモタワーとかその他新宿の高層ビル群をバックに沈む夕陽を毎日のように観て来たけど,コイツは凄え。今までとは格が違う」と呟くと嫁が「そろそろ2人きりにしてあげない?」と訊いてくるので「そうだな。新幹線の写真でも撮るか」と返して歩き橋を潜り始めてすぐに頭上から轟音が響き,早く鳴り止んだ
橋の下を抜けて見上げると新幹線が新横浜方面に抜けているのを見て嫁が「あの新幹線,幕が黄色なのは見えたけど、行先表示は2文字でもよく見えないね」と言うので時刻から逆算してその列車が「のぞみ51号博多行き」だと気付き咄嗟にその新幹線に向けて「昔の俺みたいに関門海峡越えて離れた場所にいる人に恋した若者の夢を乗せてくれ!俺の希望は叶ったから次は他の人の望み叶えてくれ」と叫ぶと嫁が「あの列車,博多行きなのね」と言うので「君に会えなくて辛かったあの頃のように応援歌替え歌するか」と返して「想〜い届け!海越え君想う〜(実れ!)関門〜越えて想いは博多の君へ〜続く行け〜Mein liebe!あの娘に届いた〜♪」と歌うと嫁は「海越え〜貴方の為にやって来た〜♪」と外国人選手汎用応援歌の替え歌を歌っているので俺が「We are」とコールし2人で「married」と叫び,次に嫁が「I love」とコールしお互いの名前を呼び合い、そっと唇が触れ合った後に笑い出す
もう一組のカップルがそんな俺達を土手の上から見守っていた

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Trans Far-East Travelogue㊵

俺達を乗せたエアポート急行は定刻通りの16:25 横浜に着いた
そして,長い行列に合わせて行進する要領で階段を下りて改札を通り,もう一度長い階段で地下へと下りると目の前に東急線の改札口が見える
更に地下深くの東横線ホームに下りると16時32分発の通勤急行・和光市行きの電車が入線して来た
天下の大ターミナルであり世界有数の乗降客数を誇る駅,横浜では乗客は勿論降りるお客さんも多く,まだ帰宅ラッシュが始まっていないのに早くも混雑の影響で遅延が発生している
そんな中、嫁に「これから東急線に乗る。電車は通勤急行だから集合場所は多摩川でも田園調布でも自由が丘でも構わない」という1通のメッセージを送ると返事が来た
「多摩川駅集合でお願い。4人で話し合いたいから,河川敷が良いかも」とのことだ
その旨を兄貴にも伝えると「丸子橋の近くの河原が丁度いいな。夕陽が綺麗な筈だ」と返って来たので「了解。多摩川駅には5時頃着くよ」と返信してスマホを閉じると知らぬ間に電車は地下区間を抜けて白楽の駅を通過している
そして,その勢いのままに妙蓮寺の駅も通過して定刻通りに菊名のホームに滑り込んだ
菊名に着いておよそ5分後,大倉山を通過して綱島,日吉の順に止まり,元住吉を通過して早くも武蔵小杉の駅に到着した
次の新丸子を通過すると,待ち合わせ場所の多摩川駅はもうすぐだ

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Trans Far-East Travelogue㊴

「やっぱり,伊豆もいいけど温泉は関東の黒湯に限るな」「そらそうよ。俺の時は烏来がダメで代わりに行った北投が散々だったからなぁ…草津も合わなかったけど、黒湯との相性は抜群よ」
そう言って男2人,風呂から上がり談笑して帰り道,「俺は川向こうで嫁と合流するけど,兄さんはどうする?彼女さんと和解するもよし,昔の俺みたいに復縁拒否して新しい恋を探すも良し。そちらに任せるよ」と切り出すと兄貴は暫く黙っていたが「俺,アイツと話し合うよ。アイツがやったことは確かに許されないけど,中正の息子さんや岩里さんがなさった政策のように、和解に近づきたい」と言ったので俺は「台湾のことを引き合いに出すのも兄さんらしいな」と返す間に駅が見えた
「信号トラブルのため,八丁畷から京急川崎の間で京浜急行は運転を見合わせています」と言うアナウンスが聞こえる
切符の特性,もとい制約上逆方向に行くことはできないので,嫁は一駅隣の川崎でJRに乗り換えることができない
そのため,「蒲田で少し歩くけどそこから東急が出るので、多摩川か自由が丘で合流しよう」と一言送り,兄貴には「横浜で乗り換えて迂回するぞ。東横線乗れば多摩川か自由が丘で会える」と囁く

京急お得意の逝っとけダイヤが発動したな