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Trans Far East Travelogue79

九州を訪れるのが初めてと言うこともあって位置関係を誤認しており,博多も港町で福岡の中心地から近いのだから,ハンブルクや横浜のように中心駅から歩けると思っていて港から博多駅まで徒歩で行こうと提案したら「地下鉄の中洲川端,百歩譲って天神まで歩くならまだ理解できるけど,博多駅って結構離れとるよ。そがん所まで歩くなんて何考えとるの」と初っ端からツッコまれる羽目になった。
すると暫くして嫁が誰かに電話し始め,それからすぐに行き先が決まった。
最初に目指すのは港から徒歩で行ける距離にある呉服町というエリアで,嫁が予約した「あるもの」を受け取りに行くとのことだ。
そして,現地に着いてその「もの」の正体が一台のレンタカーであったことに気付く。
まず車で向かったのは嫁の実家で,そこで初めて義両親と対面することになった。
幸いにも,義父は俺と同じ東京出身で巨人ファンらしく,プロ野球は観るかと訊かれて自分は巨人ファンだと伝えると,笑顔で昔を懐かしんで現役時代の江川は負け知らずで云々,ONの2人や藤田さんが監督の頃は面白かったが当時主力だった原が監督になってからは今までと打って変わって云々と,とにかく巨人を中心に昭和から平成初期という俺が産まれる前の頃の話を聴かせてもらえたのでかなり充実した時間となった。
そして嫁が好きな町,糸島へ行き海を見て一句詠んだら嫁が「もう時間や。車返さんと」と言うので引き揚げ,義父が勧めてきた場所であり個人的に1番行きたいと思っていた場所へ行くことになった。
元々身長が低くて童顔なのもあって普段は子供っぽくて可愛らしい雰囲気だが,ハンドルを握らせると実はクールな大人の女性になるという嫁のギャップに惚れてしまい,嫁と結ばれたのがどれほど幸せなことか実感することになった.

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Trans Far East Travelogue78

まだ日が昇る少し前,興奮して眠れなかったのか嫁がカーテンを開けて外の景色を眺めている。
その時に入って来た街明かりに起こされる形で俺も目覚め,徐に嫁の隣に座ると嫁が指さしで「あの前に街,見えるでしょ」と言うのでその方向に目を向けると確かに街が見え,しかも高速道路のようなものが海に突き出る様子まで見えている。
今度は俺が一言「これが平安貴族の左遷とか、幕末の西洋列強の軍艦からの砲撃と言った歴史の悲劇の舞台,関門海峡か…俺も都落ちしたのか」と自嘲気味に呟くと何かを察したのか嫁は苦笑いだ。
それから暫くすると船内放送が流れ,博多にはあと1時間ほどで到着すること、出港時間は予定より遅れて明日の朝8時,その次の港は韓国の為出国審査の関係上その1時間前には港に戻るようにといったアナウンスがあった。
その放送が流れ終わるまでに嫁は着替えて荷物を持ち,俺を促してデッキに向かって駆け出すので俺も後を追い、俺が甲板に着くと同時に空が白金になり始め,博多湾の入り口に当たる志賀島・海の中道が黄金色に照らされているのを見た嫁はハッキリと「ただいま」と呟き,俺が「長旅お疲れ様。漸くそっちも帰郷したんだよな」と声をかけると嫁が笑顔で「今度はウチがリードするけん,信じてついて来てや」と言うので「分かった。ど真ん中ストレートで行くからな」と言って俺も笑い,揃って手を繋いで下船した。
ここからは嫁が考案した秘密のルートに沿うことになる。

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Trans Far East Travelogue77

この船は日本で生活している人の為に作られている関係で,大浴場のサウナ室や食堂を含めた全ての部屋には国外にいても日本のテレビやラジオが利用できるようになっており,当然ながらプロ野球中継も視聴できる仕組みになっている。
今中継で出ている場面は現在進行形で行われているホークス対巨人の対戦カード第二試合で先発はホークスが東浜投手,巨人は赤星投手だそうだ。
巨人ベンチには今日トレードされてきたばかりの元オリックス森捕手と元ロッテの山口選手,小林捕手と松原選手との2;2トレードで1週間前に才木投手と共に入団した大山選手が,ブルペンには中川,高梨,田中の3人の投手に加え,助っ人外国人のバルドナード投手,更にはヤクルトから金銭トレードで古巣に復帰した田口投手,無償トレードで獲得した元日ハムの伊藤投手もいる。
その様子を中継で見ている他球団のファンは「選手が移籍するのは勝手だけど,主力選手だけ引き抜くのはアカンやろ」とドン引きし,俺は巨人ファンなので巨人を応援,嫁も巨人応援で他は傍観という具合で船内の雰囲気は綺麗に分かれた。
試合が動いたのは船が淡路島を過ぎたのとほぼ同時の5回表ノーアウト三塁,田口選手と共にトレードされて来て、前年にアメリカへ飛び立った岡本選手に成り代わった元侍JAPAN村上選手の打席でフルカウントからのツーランホームランで巨人が先制、その裏に連打を浴びた後に甲斐捕手の3点タイムリーで逆転,その後は両者無得点でホークス有利の展開の展開が続いたが,9回の表に連打で巨人有利になると坂本選手のスリーランホームランで逆転すると,その裏に中川投手が三者凡退に打ち取り、そのまま巨人一点リードで試合終了。
そして,俺達は船内に2ヶ所ある飲酒可能なラウンジのうち西洋酒専門の方へ行きスミノフという度数の強いウオッカベースの割には飲み易いお酒をロックにして乾杯すると,嫁が「勝利の美酒って美味しい」と言って呑みまくり、2人で計7本のボトルを空けた。
2人ともデッキで海風に当たって酔いが覚めた頃,頭上の橋の向こうに尾道の街が見えている。
その後は同期達とデッキの喫煙ブースで少しメンソール系の煙草を吸いながら男3人で談笑していると進行方向左に宮島の,右奥に岩国市街の夜景が見えて来たので明日に備えて就寝とのことで散会する。
憧れの地,九州はもう少しだ。

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Trans Far East Travelogue76

結局撮影が終わった後は疲れて爆睡し,午後1時頃に来たネットニュースのプロ野球トレード速報を見て驚き,知らぬ間に眠気も吹き飛んだ。
嫁は既に起きていて、俺が起きたのに気付いて「昨日はお疲れ様。疲れてない?」と気遣ってくれたので「この位平気さ。色々あったけど、生涯バッテリーなんだから支え合わないとな。そっちこそ昨日はお疲れ様。そっちこそ体は大丈夫か?」と返すと「博多着くまで船で休んでれば大丈夫よ。明日は期待してや」と言って笑う。
すると,暫くして誰かが部屋の戸をノックする音が聞こえる。
廊下に出てみると北海道唯一の支社がある釧路に転勤した筈の同期が菓子折を持って立っていたので訳を聞くと,彼の弟さんも日本海周りの別働隊の予備の運転手として件の車に乗っていたが,同期が松江で皆と会った後皆境港から船に乗ると勘違いして,仮眠していた長岡まで運転してくれたあの運転手以外の全員で大酒飲んでしまった挙句自身は1人で先に北海道へ帰ってしまい,皆は東京まで行かなくてはならないのに代行が米子までで米子から新潟県まで1人で運転させてしまった上に,長岡から土地勘のない俺の嫁に運転させてしまったことに対する謝罪と,その嫁のサポートに回った俺への感謝とのことだった。
そこで,戒律で飲酒ができない代わりに喫煙を嗜好として好む人が多いムスリムが多数派を占めるクウェート在住経験の長い彼なら喜ぶと思い,場所を喫煙ブースのある2階デッキに移して男2人色々話し込み,結局部屋に戻ったのは日没ごろとなった。
船は瀬戸内海へと入った為,韓国勤務経験者の多くは西海(黄海)や釜山周辺を思い出し,この後寄港する韓国での思い出話に花を咲かせている。

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Trans Far East Travelogue75

乗船時間になり,今回乗る船を見た嫁は「豪華客船ね。でも,海外行くのにパスポートチェックしないの?」と訊いてくるのだが,「俺はあくまでも鉄道を活用した観光PRに特化した部署で働いているのであって船の担当ではないのでよく分からないけど,博多でやるんじゃ無いか?」と返して乗り込むと新潟支社所属で航海士の資格を持った同期が俺の肩に手を回して「おいおい…奥さんは知らないにしても、お前は俺達のグループ会社に勤務してるんだから知らなくてどうするんだよ。ウチのグループ会社の船は全て日本だろ」と言うので嫁は疑問符を浮かべるが、俺は船に関する国際法を思い出して「そうか!船籍,つまり人に国籍があるように船にも国籍はあるけど,この船は日本の船だから法的にもここは日本なんだよ。だから,博多までは国内線扱い」と嫁に伝えると今度はソウルの同期が「荷物置いたら、会社の宣伝動画と,ライブ配信撮るから屋上デッキに来てくれ」と告げるので,了解とだけ返して頷き,嫁が「私も出演して良い?」と訊くので我が社は『社員は皆家族』というコンセプトで,社員が結婚したらそのパートナーも1人の社員とみなす方針の為許可は下りると思っていたが,案の定簡単にOKが出た。
ところが、今回の撮影は韓国にいくつかある支社群の合同撮影で韓国向けの放送らしく、台本は勿論撮影は韓国語オンリーになりそうだ。
そこで、俺がその場で内容を全て和訳して嫁に伝え,撮影班には嫁が韓国語を喋れない関係から通訳を挟んだ方が良いので、役者としての出番を減らして嫁が出るパートの通訳として参加するのはどうかと提案すると,通訳として参加するのは認めるが,役者の数に限りがあるし,今回は世界中の支社から人が来てるので韓国語を解する人が俺と同期の2人以外は全員撮影する側にまわっている関係から俺の出番を減らすことは出来ず,増やす一方になるという返事が来た。
仕方ないので俺が1人二役で撮影に参加する羽目になり,撮影が終わった頃には出航するどころか横浜みなとみらいの夜景が真横に来ていて,ベイスターズがサヨナラ勝ちしたのか海からでもハッキリ見えるほどの高さの花火が横浜スタジアムの辺りから上がり、浦賀水道に出る頃には日付が変わった。
そして,部屋に戻る途中で操縦士も交代の時間になったらしく,同期の航海士曰く博多入港は日付が変わった翌日の午前5時だそうだ。

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Trans Far East Travelogue74

小仏のトンネルも,八王子も、高井戸も過ぎて地元・新宿の高層ビル群が見えて来たと思ったら,家族でドライブした時に必ず利用した外苑のランプも越えて三宅坂のJCTまで来た。
一度深呼吸をして「いよいよだな…」と呟くと嫁が「どう?私の地元来るの楽しみ?」と訊くので「仕事柄北海道や東北、関東甲信ばかり行ってて九州には一度も行ったことないから楽しみだけど,大好きな東京とお別れするのは寂しいかな」と返すとソウル時代の同僚が「お前の場合はそうだろうな。モデル級の美人が多く参加する合コンに誘ってもお前は断固拒否してたもんな」と言うので嫁が「それって、私がいたから?」と訊くので「当時の俺は独身だったし、プライドが高くて,な?」と答えると今度は助手席にいた同期が「元カノとの失敗や台湾での失恋で心荒んで、『東京の言葉が分からない女とだけは絶対に付き合わない。東京の外の女性,特に西日本の人や見た目だけ綺麗な外国の人と付き合うくらいなら、自ら命を絶ってしまう方が一億倍マジだ』って宣言したお前に気を遣って日本の現場へ出張させる時は必ず東日本に派遣してたのに変わったよなぁ…マレーで彼女できたって連絡受けた時は悪い冗談かと思ったよ」と懐かしさに浸って笑いながら暴露するのでそれに合わせて「まぁ,そんな俺でも嫁の新撰組が好きで新撰組にゆかりのある多摩や東京のこと知ろうとしてくれた所に惚れて,今までの方針忘れるくらいまで首っ丈で結ばれたんだから,嫁が特別なだけだがな」と言って俺も笑うと嫁は「貴方が西日本のこと語ろうとしなかったのって…」と言うので「そう。地元も好きだったけど,それファンとして巨人戦観てて,10年以上日本一はお預けで,大体全部に西日本が関わってるからね」と返すと嫁が何か言う前に同期が「確かに,阪神と3位争いしてた時に打った選手は確か山陰の出身だったし,燕の監督は広島,既に亡くなられたけど楽天の星野監督は確か瀬戸内の出身だったよな」と答えるので頷き,嫁が「結果論やけど,元カレいなかったら野球のこと知らなくて,大好きな貴方を傷付けてしまってたかもね」と冗談めかすので「そうかもな。俺も元カノのこと無かったらオープンチャット使わなかったから,君とは会わなかったかもしれないな」と言って笑い話にしている間に他の定期船の針路の関係で移された港に着いた。
乗船手続きは済んでいるので出航を待つ。

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よっしゃー!

夢ならば醒めないで!夢ならば醒めないで!
巨人勝った!
ついに勝った!
昨日は山﨑伊織投手が頑張ってたのに救援失敗で涙の敗戦…
でも,今日は赤星投手が8回まで無失点!
生憎地元・兵庫県出身の守護神大勢投手は打たれて9回の表でアウト一つも取れずに降板したけど,大勢がコンディション不良で2軍にいた時のクローザーの代役だった中川皓太投手がその後無失点で救援成功し、勝った!

高校は違うけれど自分と同じ東京出身の赤星先輩,無失点で抑えてくださり,ありがとうございます。
本当にありがとうございます!
いつぞやの大舞台で東京出身の某選手が代打で出てきて空振り三振して1人の巨人ファンの男の子を悲しみのどん底に叩き落としてから10年,今度は東京出身の貴方が無失点ピッチングで勝ち投手の権利を得て,チームの勝ちに貢献してくれました!

ヤバい
これで横浜とゲーム差1じゃないか?
目が潤んでよく見えない
もうそんなに多くのこと書けないから,今日ホームランを打った大城選手の登場曲としても有名になった『あとひとつ』の一節を今の気持ちに載せようか

熱くなっても無駄なんて言葉聞き飽きたよ(ここ数年)
もしもそうだとしても,抑えきれないこの気持ちを希望と呼ぶなら一体誰が止められると言うのだろう
あと一粒の涙が、ひと言の勇気が明日を変えるその時を見たんだ(まさに今日の試合)
無くしかけた光(2013シリーズでの仙台,2019,2020での福岡,2021のCS,2022での横浜,今年の甲子園のアレ)
キミが(赤星投手が)思い出させてくれた
あの日の景色(2012年の銀座優勝パレード)忘れない!
あと一粒の涙で,一言の勇気で願い(11年ぶりの日本一)が叶う
その時が来るって
僕は信じてるからキミ(全国の巨人ファンや原監督,それから読売ジャイアンツの選手全員へ)も諦めないでいて
何度でもこの両手をあの空(晩秋の晴れた銀座の空)へのばして
あの空(歓喜に沸き立つ東京の、いや日本全国の大空)へ

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Trans Far East Travelogue73

幸いにも車がキャンピングカーであったため,後部座席の構造が向かい合わせのソファーになっており、背もたれにクッションを立てかけた座椅子を二脚通路との間に挟んで出来上がった簡易ベッドができた。
座椅子の1番運転席よりの部分に俺が座り,嫁を膝枕する格好で寝かせて後ろの2段ベッドから毛布を何枚か拝借し,嫁にかけてそのまま無意識のうちに手を握っていると,暫くして嫁が目を覚ました。
「これ,全部貴方がやってくれたの?」と訊くので「まぁな。でも,姉妹いたこと無いからどうやれば良いか分からなくて取り敢えずできることやっただけさ。素人対応だったし無理させてしまってすまない」と謝ると「謝るのはウチの方や。KLからタイ方面抜けた時の列車で貴方が言ってたの、ウチ覚えてるもん。『俺の憧れのドライブデートというのは,俺は免許無いけど大体の地図は頭に入ってるからパートナーが運転して俺が助手席でサポートすることさ』ってね。それなのに,貴方が大好きな地元離れることになりそうで寂しそうにしてたから,せめて船に乗るまではって思ってたんやけど,港に着く前にこんなことなって憧れの舞台を潰してしもて…でも,こんな時でもそばにいてくれる素敵な人と結ばれてウチ,本当に幸せや」と嫁が泣きながら返すので「お前ってヤツは…ペテルブルグで俺が何て言ったか忘れたのかよ」と言って頭を抱える。
すると嫁が「およそ一千日続いた飢餓地獄ではあったが最後まで陥落しなかったレニングラードの攻防戦になぞらえて『俺はどれだけ大変な状況でも,千日経とうと何万日経とうと,一生添い遂げるだけさ』って言ってたの,本気やったの?」と訊くので「当たり前だろ?そうでなくちゃ君と結婚してないし,俺の大好物も絶対あげないから」と真面目な顔して返すと嫁も本気な表情になり「新高山より高く,駿河湾より深いもの何か知ってる?」と訊くので「答えは簡単。君への愛だな。でも,それを上回るのは俺のカッコよさ」と返してその場を和ませると「今までやったら『鏡見ろ』とか『寝言は寝て言え』って思ってたけど、見直しちゃった」と笑いながら返す。
すると,他に後ろの方の仲間達から「よくもまぁ,年頃の男の子が恥ずかしいと思う身体のコンプレックスになりそうなものを全て兼ね備えた人に嫁が来たよな。大切にしてやれよ」とヤジが来てまた賑やかになる。

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Trans Far East Travelogue72

諏訪を離れ,周囲は木ばかりのエリアを抜けると一気に視界が開ける。
そうなると,小淵沢や長坂と言った八ヶ岳周辺のリゾート地を通過することになる。
嫁が「八王子入ったら起こすから,眠かったら寝て良いよ」と言ってくれたが,俺は窓の外を眺めてふうっとため息を吐き,「懐かしいな」と一言呟く。
すると,嫁が「懐かしいってこの辺にも思い出あるの?」と訊いてくれたので「そりゃ,思い出はあるよ。この辺は山梨と長野の県境に跨る形で八ヶ岳という山があり,その麓は別荘や保養所として有名なんだ。俺の地元,新宿区の保養所もこの近くの長坂っていう所とさっきいた諏訪から少し北に行った蓼科の女神湖にあってさ。小学生の頃はよく家族で長坂の方に泊まりに行ったし、学校の宿泊行事では女神湖行くのがデフォルトでさ。君も知っての通りイギリスで話になってた英語キャンプの宿泊地も女神湖だった。親父が山中湖に別荘買った頃には高校生で区の施設利用する機会は減ったし感染症の流行も重なってそのどちらにも行かなくなったけど…アレから5、6年経ってるんだもんなぁ…今どうなってんだろ」と返すと嫁は「福岡は広いから,車使っても県内のどこにいるかでどの県に行けるかが決まるの…だから,あちこち行ける東京都心が羨ましい」と言う。
そんな具合に雑談していると,笹子トンネルを抜けたあたりから突然嫁が痛みに耐えているように見えたので「標識が出てる初狩じゃ無くて,その次の談合坂ならかなり休憩所の規模が大きいからそこで一旦休憩取ろう」と声をかけると嫁の「本当に良いの?これから先何度も起きるよ?」という返事で理由を確信して「女性特有のアレ来たんだろ?」と訊くと嫁が黙って頷くので「なら、尚更談合坂で停まらないと。初狩の設備では昼ならまだしもこの時間では対応が難しいけど、次の休憩所なら対応できることの選択肢が増えるんだ。だから,申し訳無いけどあともう20分位我慢してくれないか?」と問いかけ,嫁が頷くのを見て社内公用語の一つであるロシア語で今起きてることを説明し,後ろにいた先輩が妹さんの為に買っていた生理用品を嫁の為に渡してくれた。
そして,無事に休憩所に着き嫁の対応も済んだので、長岡まで運転してくれた仲間に再度引き継ぎ、嫁と俺が後部座席に下がることになった。
もう間も無く、東京都に入る。

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Trans Far East Travelogue 71

嫁が「さっき渡してくれたもの食べてみたら味噌味で美味しかったんやけど、アレ何ていう名前なん?」と訊いて来たので「五平餅だよ。ほら,俺の大好物で信州名物の」と返すと「アレは私もハマる」と返ってきた。
「俺達,食の好みが似てるんだろうな」と結論付けると「だったら,明太子とかも好きなの?」と嫁が訊くので「前言撤回。申し訳ないけどもつ系と魚卵はマジで苦手。高菜は好きだけど」と答えると「高菜も良いけど,福岡の食べ物で私が1番好きなとり皮はどう?」と返ってくるので「とり皮?大好物やんけ」と返すと「なら,福岡で貴方と絶対行こうって言う場所あって,その隣の施設に入ってるお店のがオススメやけん、そこにしよ」と嫁が言うので「分かった。君に任せっぺ」と答えると「地元で知り合いいたら訛っても許してや」と返ってくるので「別に方言使いてえ時は使っても構わんよ」と返すと真面目な顔して「たとえ高速でも夜ん山はえずか」と言うので「俺,福岡着いたらえずがりな天然で美しか嫁が俺ん滞在中にかかる金は全額払ってくれるって聞いたばい」と冗談めかして返すと「ウチが破産せん程度にしんしゃい。唐人町のアレ,料金高かけん」と笑うので「唐人町?中華系の人の街ってことか?でも,中華街は…長崎だろ?何があるんだ?」と自問すると「唐人町は福岡ドームや」と言う。「交流戦で明日巨人ソフバンじゃねえか…応援セット忘れたなぁ」と呟くと「パスポートも忘れてたやろ。私ショルダーバッグに貴方のパスポート入れとるけん,心配せんといて。応援セットは一式船に積んだばい。代わりに,地元は美人多かばってん、浮気せんでな」と返って来たので「する訳ねえだろ。見た目だけ美人な女性はいくらでもいっけど,君は見た目も性格も,全部東京の夜景より綺麗だぁら,浮気なんて馬鹿なこと心配すんな」と返し、続けて「さ,行くべ」と言って嫁を促し,もう一度車に乗り込む。
渋滞は無く、予定より早く港に着きそうだ。

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Trans Far East Travelogue70

休憩を終えて走り出すと、嫁が一言「信州って雰囲気良かね」と言うので「だろ?俺も信州好きで昔から何度も来てる。ただ、親父と違って俺は上田や松代といった北信よりも諏訪や高遠と言った東信・伊那地域が好き。特に、高遠城址公園の桜はとても綺麗だし、伊那名物のローメンは勿論,大好物の五平餅と言った旨いものも沢山ある。小6の移動教室で伊那の農家さんの所で稲刈りさせて貰った時から信州の食べ物は好きなんだよ。まぁ,ざざ虫やイナゴは今でも苦手だけどね」と返すとタイミング悪く会社の人事課長から電話が来る。
地方への異動の打診だったので少し落ち込んでいたが,温泉の諏訪,郷里の東京・新宿,桜が綺麗な高遠という俺が好きな3つの街にアクセスしやすい茅野へ異動ということで二つ返事でこのオファーを受けることにした。
その後嫁が何か歌って欲しいと言うので,折角だから皆も歌えるヤツにしようと暫く考え込んでいると後部座席の皆が信州を代表する名曲『信濃の国』の音源を流して合唱を始め,嫁もつられて口パクで歌い始める。
今度は嫁が『いざ行け若鷹軍団』を歌うので、各々が応援するプロ野球チームの球団歌を歌うことになって完全にカラオケムードになり,見事に休憩予定地で夜景と月が綺麗な姨捨も山葵で有名な安曇野もすっ飛ばして気付いたら松本まであと1キロの標識が出るまで南下していた。
そして,夕食を摂る為に松本で一度高速を降りて駅ビルの店で山賊焼きを堪能し,もう一度高速に戻って諏訪湖SAの温泉に入った。
風呂上がりにテラスに出て諏訪に程近い山梨の銘菓信玄餅をアレンジしたクレープアイスを食べながら眼下の夜景を見ていると,来た時とは打って変わって雲一つない夜空に北斗七星と月が湖と湖畔の街を照らしていることに気付く。
嫁がそばに来て「なんか,2人でパリに行った時思い出す…あの時も空から見た街の夜景こんな感じやったよね」と言うので「でも,あの時と今日とでは決定的に違うことがある。あの時は移動日で試合が無かったのに対し,今日の試合は言葉にしたく無いくらい酷い負け。」と言うと「もう,貴方ったら。プロ野球か旅か私のことしか頭に無いんでしょう」と嫁が言うので「当たり前だろ?これからの俺を支える、どれか一つが欠けてはいけない三要素なんだから」と言って笑って紙に包まれた木の棒を差し出す。
あと3時間弱で港に着き,すぐに船出する。

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今の気持ち

今日の試合,ファンとして見ていて思うところはいくらでもあった。
今日の試合中継を観ていて僅か3時間ほどの間に思わず感情的になり「そりゃないだろ」,「勘弁してくれよ」,「やりやがった」などと怒鳴ったことは何度もあった。
受験に失敗し,セブでの留学でも成果を出せずくすぶっていて帰国後心も荒みかけた俺を導いてくれたのは,俺と同学年で高卒ルーキーのドラフト一位で俺が好きなプロ野球チーム,読売ジャイアンツに入団し,二軍で腐らずに頑張り、一軍に上がってプロ初ホームランも打って俺も負けられないという気持ちに気付かせてくれた浅野翔吾選手だ。
ジャイアンツが俺のハートの導火線に火を付けてくれた。
だから,もしかしたら一位の阪神タイガースの優勝が決まる試合が俺達巨人ファンとの罵倒合戦になりかねない巨人阪神戦,俗に言う伝統の一戦になるかもしれないと言われた時,俺はビビったし,その一方でかつてない程の炎が闘争心に宿った。
「槙原さんや堀内さんの二の舞になってはいけない」と言って固唾を飲んで見守った今日の試合,蓋を開けてみれば野手のファンブルや全球見逃せば四球になりツーアウト1・2塁と同点のチャンスがに見えそうだったのに無理に打ちに行って空振り三振した,と言う具合に思うところが多々ある試合となった。
そして,俺達は負けた。
阪神の岡田監督の胴上げだ,アレが決まった。
現役の時に受験に失敗した時よりも悔しくて,部屋で少し遅めの夕飯食べながら泣いたよ。
やっと気持ちの整理がついた。

悔しいけど,阪神ファンの皆,18年ぶりの優勝おめでとう!

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Trans Far East Travelogue69

給油を済ませて関越道に入るまでの道中,ラジオから流れて来た交通情報に耳を傾けると,運の悪いことに必ず通る筈の関越トンネルとその前後で連鎖的に起きた事故処理の関係で湯沢から沼田まで通行止めになっている。
土地勘が無く方角も分からず完全に憔悴しきっている嫁に「落ち着いて。絶対隣にいるし俺の言うこと信じれば東京に帰れるから大丈夫。俺を信じて。まずは高速の逆方向で長岡ジャンクションに行こう。」と声をかけて暫く嫁が落ち着くまで待つ。
そして、かつてソウルでの同僚で台湾に栄転した人が後ろに座っていることに気付き嫁を不安にさせない為に彼に韓国語で声をかけて出港を遅らせてもらうよう交渉させて夜11時出港との答えが来た頃、遂に嫁が覚悟を決めた様子で「案内お願いね」と言ってハンドルを握るので俺も「任せとけ」と返す。
そこからの展開は早く、長岡インターから高速に入り,長岡JCTで北陸道に入り西欧の某国から今は亡き女王が訪日した時に乗った新幹線の運転士さながらの運転で上信越道との分岐点である上越JCTを目指して長岡を出てから凡そ1時間で上信越道に入り、その後更に30分程で着いた信州小布施のPAで最初の休憩を挟み,名物の栗を使ったソフトクリームを買って嫁を励まし,俺は腹が減っていたので信州を中心とした地域では一般的なソウルフードのソースカツ丼を食べても足りないので信州蕎麦も追加で注文しどちらも感触するのを見て嫁から「東京の男…恐るべし」と笑われたので「地物や名物を食うのが江戸っ子よ」と笑って返す。
その後のルートについて嫁が相談するので、このまま群馬の藤岡で関越に合流して帰宅ラッシュで混雑する都内の下道をひたすら走って時間をかけるよりも少し遠回りにはなるが更埴JCTから長野道に入り昔は水田に映る月,今は眼下の善光寺平の夜景で有名な姨捨のSAで2度目の休憩を取り、岡谷を経由して中央道に入り温泉施設のある諏訪湖のSAで入浴して最後の休憩を取って首都高経由で港に直行することを提案するが,嫁が念の為もう1ヶ所休憩場所があると良いと言うので万が一のイレギュラーに備えてでも休憩を取る前提で動くことにした。
遠くには先程まで長岡で見ていた信濃川の上流,千曲川の水面が薄暮の空を写して白みがかった金と紫の色を混ぜて光り、それを見る嫁の横顔が並行して走る新幹線の列車の名前にもあるように輝き出していた。

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Trans Far East Travelogue68

河井継之助記念館を見た後,昼食をどうしようか色々悩んだが越後名物のへぎそばに決定した。
その後,山本五十六記念館に行き彼が戦死した時に乗っていたとされる飛行機の翼の一部も見て長岡の名物で新潟県の代名詞とも言える甘味の水饅頭を食べることにした。
嫁が「そう言えばさっき、『映画の作中では五十六役の人は周りの人が驚くのを横目にバクバク食べてた』って言ってたよね?そんなに水饅頭って珍しいの?」と訊くので「まぁ,見てれば分かるよ。君も俺と負けないくらい甘党なんだからすぐに虜になるさ」と返して近くの甘味処に入り、注文した実物を見て嫁は驚いて無言になり、俺は「久しぶりに食うけどやっぱ甘くてうめぇなぁ…やっぱこれ食わねぇと長岡に来た実感湧かねぇや」と言って夢中で食べている俺を見て嫁も食べてみると完全に虜になった様子だ。
迎えが来るまでの間に名物・川西屋の酒饅頭と嫁が一つ残らず食べ尽くした俺の大好物,笹団子を買って今後の船旅で食べることにした。
そして,迎えの車が来てわざわざ運転していた松山の仲間が降りて来てくれたのだが,様子がおかしいので別働隊の他のメンバーに事情を訊くと,様々なハプニングが連続して乗船地の博多に向かう途中の松江から東京に引き返し東京から乗船することになり、免許を持っているのが1人しかいない関係で米子から休憩を挟みつつも1人でずっと運転してくれたとのことだ。
そこで,俺が嫁に「コンディションさえ良ければ,秘密兵器,見せてやりなよ」と伝えると「運転するのは良いけど,私,道分かんないよ」と言うので「大丈夫。高速乗ったら後は家族でドライブしたルートで覚えてるから俺が案内する」と返すと嫁が頷いてくれた。
他のメンバーも賛成してくれたので、ここからは運転席と助手席のメンバーを変えてドライブすることになる。
まだ沈むには早い西陽が信濃川の水面に反射して煌めいている。

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Trans Far East Travelogue67

嫁に長岡のイメージを訊いてみると「河井継之助しか知らん」と返ってきたので「残した言葉はカッコいいけど歴史に残る数々の行動で今でも賛否両論あることで有名な海軍の人も長岡出身だけど知らんの?」と念の為訊いてみると「東郷さんは…薩摩やし,従道さんも薩摩やろ…貫太郎とか?」と返って来たので「山本五十六なんだけど」と正解を出すと「五十六って…あの『やって見せ言って聞かせてさせてみせ褒めてやらねば人は動かじ』の人よね?あの人長岡だったの?」と返って来たので「だから映画で五十六役の役者さんが水饅頭という長岡の甘味を周りの人がその作り方に驚いているのを横目にこれぞお袋の味と言わんばかりに美味しそうにバクバク食べてたんだ。」と教えてやると「地方の食べ物についても知識あるの普通に凄い」と返って来たので「海外の鉄道ファンに日本の鉄道を紹介する動画と東日本の観光地の紹介動画の撮影でJR東日本と北海道の範囲は全て回ったからな。でも,九州は君の方が知ってる筈さ。」と返すと嫁が「任せといて」と言って笑ってる。
すると,仙台支社に移った同期から「今都庁の展望台にいるけど,東京土産はどうする?東京ばな奈で良いか?」とメッセージが来たので「せっかくだから、都庁のお菓子にしよう」と返事をすると知らぬ間に越後湯沢のホームに入線していた。
この列車は浦佐を通過する為、次の停車駅は目的地の長岡だ。
そして,嫁が「私,凄い人と結ばれたんだなぁ」と言っているので「まぁ,新宿のプリンスと呼ばれる位のイケメンだからな。赤坂とか麹町の人には敵わんけど」と冗談めかすと嫁が「貴方って見た目は史実のナポレオンと変わらんけど、中身はチャキチャキの江戸っ子で,しかも私のこと大切にしてくれるから大好き」と言って寄ってくるので軽く小突いてやり、すぐに荷物を纏めて下車し、駅を出ると福島江のせせらぎが聞こえ、見事に出口を間違えたことに気付き苦笑いを浮かべ,嫁は着いてすぐに箱買いした越後名物で俺の大好物の笹団子を呑気に頬張っていて気付いたら一箱が空になっている。
「俺の好物、四公六民の年貢でも半分こでも無ければ嫁に独り占めされてるよ」というため息混じりの呟きが駅のアナウンスと嫁の笑い声でかき消され、箱には団子を包んでいた笹の葉だけが残っている。

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Trans Far East Travelogue56

ここ、新宿駅から日帰りで行くことのできる伊豆や関東甲信越には俺の思い出に残る場所が数多く、締めに何処へ行くか決めかねて嫁にリクエスト求めると,殆ど行った事のない甲信越が良いとのことだ。
そして,嫁のリクエストを一通り聞いたら新潟県西部の妙高か糸魚川といった上越地方へ行くことが理想なのだが,新幹線の接続時間を考慮して,兄貴と一緒に度々訪れたことのある街,上越新幹線も停まる長岡に行くことが決定した。
一旦大江戸線で港の最寄駅の大門に行って既に入港している船に着替え等の重い荷物を予め積み込み、返す刀で東京駅に行くと5分の乗り継ぎでとき号に乗り換えて長岡に行き、北陸経由で東京に向かっている別働隊が運転する車に乗っけてもらえれば搭乗には間に合うことが判明したので,急いで別働隊のメンバーに連絡して長岡駅に寄ってもらうことになり、予定通り荷物も積み込めて東京駅に着いた。
ようやく落ち着けて新幹線の車内で一息ついていると,嫁の財布から一枚のカードのようなものが落ちたので拾い上げて見てみると入籍して苗字が俺のと同じになった嫁の運転免許証だった。
それに気付いた嫁が「私だけ持ってたら当てつけになると思って隠してたけど見ちゃったよね?」と訊くので頷き「でも,君が運転する時は助手席で俺が道案内するから気にしとらんよ」と返すと嫁が口に指を当てて秘密だと示すので俺も黙っていることにした。
後にこのやり取りが役に立つことになる。

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Trans Far East Travelogue65

いよいよ朝日が昇り、門出の日となった。
荷造りを済ませ、この先をどうするか嫁と話し合い、俺の思い出の場所を2箇所巡って乗船までの時間を過ごすことにした。
新宿のサザンテラスに着くなり嫁が突然両耳を押さえたので「どうした?」と訊くと「地元ではこんなに電車の近くを歩ける所がそんなに多くないからここまで走行音が大きいなんて思ってなくて」と答えるので「そっか」と返すが先の言葉が続かず黙ってしまい、下を行く電車を見ながら今よりも多くの車両が走っていて楽しかった幼少期を思い出してため息をつくと嫁が「ごめんなさい…私のせいで怒ってる…よね?」と落ち込んだ様子で訊いてくるので「怒ってるわけじゃないよ。ただ、今よりも車両のバリエーションが多かった幼稚園の頃が懐かしくなってさ…当時はオレンジの中央線も,緑の埼京線も今走ってる当時デビューしたばかりの車両とその前の古い車両が混ざってて,それから新宿駅に乗り入れる特急も車両の種類が複数あって目で見なくても音を聞いただけでどんな車両が走ってるのか分かって、それを当てると大人からは褒められたんだよな…それが偶々世代交代の若手が出たばかりみたいな時期でまず通勤電車、特に中央線、次に特急NEX、埼京線の通勤車両、それから性能と乗客の需要が合わなくて車庫に引き篭もっていた土休日の臨時列車用の車両も消えて千葉方面からの特急もほとんど来なくなって今はもう無くなったし、中央線から更に特急専用車両が二種類消えて一方は解体、もう一方のは伊豆に飛ばされたし、伊豆と池袋方面を結んでたSVOも消えた。当時は今よりも音が大きな車両が多くて車両当てやすかったのに今は路線ごとに塗装を変えただけの同じ車両ばかりで判別しにくくてさ…昔は鉄道の音に敏感で確実に車両が分かるってことで音鉄の神童って呼ばれてたのにその称号は高性能な録音機を持った子供達に渡ったからなぁ…でも、新幹線が無い分新宿に乗り入れる列車の変化は東京駅や上野に比べると大したことないんだけど,1番愛着がある駅なだけにね…」と言って思い出に耽るも過去にあった一悶着も思い出して苦笑いを浮かべると「誤解が解けて良かった」とは言ったものの嫁もその先の言葉が続かず苦笑いだ。

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Trans Far East Travelogue64

嫁が俺と同じくらいのペースで呑みまくり、暫くして眠り始めたことでお開きになり、色々考えた末に嫁を背負って帰ることになった。
「ウグッ…流石にしんどいなぁ…でも、日本男児ならこんくらいはやってやんねえと」そう呟くと嫁が眼を覚まして「え?今どういう状況?」と訊いてきたので「君が酔っ払ってお店が閉まるギリギリになっても眠って起きなかったからこうやって運んでるんだ…俺さ、お酒に強い人が比較的多い韓国で働いて飲み会行きまくった経験からお酒に関しては量は飲めるんだけど,体質的に翌日じゃなくて飲み終わった数十分後に刺激が来て数時間後に消えるんだよ。でも、いきなり立ち上がったからこのタイミングで頭に酔いが回ってきた」と俯きながら語りかけると嫁が「ごめんなさい…私,貴方と結ばれてからロンドンで呑んだのが初めてだったから加減がわからなくて」と謝るので「俺も初めて呑んだ時はグラス2杯分だけでその次からガチで呑んでたから気持ちはよく分かるよ。まぁ,俺は君と違って初めてが氷割りのビールで度数が低かったからその次以降がガチでキツかったけど」と笑って返すと「本当に大丈夫なの?」と心配してくれるので「セブで悪酔いした時よりは少なかったからな。この位ならなんとかなるさ」と答えると「そう言えば,セブの話で皆が言ってたフェラスリーって何のこと?」と訊かれたので「fellaは俺達が通ってた語学学校の名前ね。寮とセットになってるキャンパスが2つあってそれぞれの数字で呼び分けるんだけど,学校の近くのバーに休みにはその学校の生徒が集まって店が学生で埋まるからそれぞれfella3,fella4って呼んでたんだけど、俺は休みが少なくて新しくできた4には行けなくて3しか行ったこと無いけどね」と返す。
「まぁ,そこも色んな思い出があって、予定通りならセブにも寄港して三日ほどいるし、その次の寄港地からも飛行機なら1時間以内だそうだから行こうと思えば行けるんだけどな」と言って笑い、その後も暫く2人でお互いの思い出を語り合いながら歩き、普段の2倍の時間をかけて帰宅し、家でも紅茶を飲みつつ色々語り合った。
近い時期に近い地域男4人が皆同じ週に帰るため修了証書を受け取った金曜に皆で集まって呑み、日付が変わってすぐの便で帰る3人を見送った、寮で過ごした最後の夜の再現と言っても過言では無い。

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Trans Far East Travelogue63

店に着いて皆でエールを飲み始めたは良いが、俺達を見て絶句している。
暫くして,俺と同じ日に学校に着いたが羽を伸ばし過ぎて怒られて急遽先に帰国したAが口を開いて「お前から『嫁を連れて来る』って聞いてたけど、お相手が予想と違った」と爆弾発言をする。
それを聞いた嫁は困惑した様子なので「実は、セブにいた時はとある台湾の女性に恋してたんだ。そこまではこの3人も知っててその先は俺と兄貴達以外は誰も知らないんだけど,台湾までその人に会いに行っていざ告白したら翌日その人の地元,台南で行われるイベントの時に返事を告げるって言われたので高雄の兄貴達と現地で合流ということで台南まで行ったんよ。そしたらさ、それがその人の結婚式で、兄貴が通訳してくれたことでフラれたことが確定した挙句プロ野球もサヨナラ負けしたから所持金全額つぎ込んで皆でヤケ酒飲んで,兄貴が台湾で興した新興財閥で働くことを条件に出して貰った金で帰国したんだ。それが奇しくも去年の11月、俺が21になった誕生日のことさ。そして,俺のことを色々知ってた兄貴に気遣って貰って観光を通じた国際交流促進目的の子会社の『韓国にもルーツを持つ日本人スタッフ』としてソウル支社で働くことになって暫くは韓国と日本を行き来していて、ある日台湾の本社から呼ばれて,ビザを取れなくて経由他のロシアに入国できなくなった紀行文や他の国の紹介記事執筆担当者の代理としてシンガポールから鉄道旅をしてたら高3当時の恋心が再燃して君と結ばれたので作品は急遽恋愛要素を加えた物に変更になって売れてさ…今までまで隠しててごめん」と言って説明も交えつつ謝ると「でも、それ以降はもう私一筋なんでしょ?」と嫁が訊くので「当然さ。あの鉄道旅で時間を共有するうちに再燃した恋心が愛情と独占欲に気持ちが変わっていったからな」と頷いて即答すると嫁は俺に口付けして「これからもずっと一緒にいようね」と笑い、今まで空気になってた3人が「早く呑もうぜ」と促すので「そうだな。よーし、飲んべ!」と言うと嫁が更新されてゆく野球速報を見せて「巨人サヨナラ勝ち!」と言うのでガッツポーズすると、唯一入学から卒業までずっとクラスメイトだった奴から「なんか送別会思い出すなぁ」と笑われた。
嫁も一緒になって飲む酒は,かつてセブで飲んだ物より甘味が入っている。

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Trans Far East Travelogue62

セブ時代のクラスメイトで一緒に出かける機会が最も多くて出かける時は常に奢り合う仲であったKからの電話が届き,イギリスのパブを意識した店を見つけてそこで呑むことにしたので店の前で集合とのことだ。
嫁が飯田橋の駅前にかかる牛込橋を見て「行きは意識してなかったけど,ここの橋って電車好きな子供には良さそう」と言っているので「俺なんか高校生になってもここ来て電車見てたからなぁ…中学の先輩,めちゃくちゃ気さくでさ,しかも鉄道ファンだから話が通じるのなんので中一の頃は楽しかったなぁ…俺が中2でその先輩が高1になったら、中学の鉄道ファン仲間全員で連絡取り合ってそこの神楽坂の阿波踊り見るついでにここで特急列車見て、そこの青森県のアンテナショップでリンゴジュース買って開けてから中央線で東京駅行って赤羽と池袋で乗り換えて新大久保から走って帰ったんだ」と言って思い出に浸りながら坂下の信号を渡って神楽坂を登って歩いていると幼少期からの散歩コースだったこの街に詰まった思い出が映画のシーンのように繋がって一つのストーリーとして走馬灯のように蘇り、様々な思いが込み上げてきた。
およそ徒歩5分の道のりがここまで長く感じられたのは後にも先にも無い。

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Trans Far East Travelogue61

市ヶ谷の駅舎と俺の地元は対岸にあるとは言え我が母校の校歌にもあるように「古いゆかりの濠に沿う風爽やかな丘の上」にある。
改札口は入り口が吹き抜けになっている為、いつものように吹き込むそよ風に髪を靡かせながら嫁が一言「せっかくだし、貴方の地元歩きたいなぁ」と呟くのを聴いて「任せときな。って言うか、コースどうする?ここから歩くなら四谷か神楽坂のどちらかがオススメだよ。どちらも車の通りが多い道から一歩入った路地に建ち並ぶ飲食店の風景が良いんだ。まぁ,この時間じゃ呑み屋しか空いてないけど」と言うと嫁からの返事が来る前にセブ時代の親友から電話が来たので話を聞いてみると。神楽坂の本多横丁で、かつてセブの学校にいた同学年の関東男子4人のうち俺以外の3人が偶然同じ店で鉢合わせて呑んでいるので,俺も呑みに来ないかとの誘いだ。
そして,俺達2人も合流して見番横丁近くの店で5人で呑むことになった。
2人で飯田橋に向けて歩いていると「見番横丁ってどの辺?」と嫁が訊いてくるので「地元じゃ昭和の空気を色濃く残すことで有名な銭湯の熱海湯がある辺りさ。神楽坂は谷状になってるけど、お堀にかかる橋を渡って坂を上りきる手前で左に入るよ。そう言えば,アイツら昔は俺より先にダウンしてたから多分酒弱いと思うけど、もしかしたら強くなったかも知れないな。でも,俺たちに遠慮して合わせなくて良いから無理はするなよ」と返すと「やっぱり優しいね。外見はともかくこんなに良い旦那さんと一緒になれて幸せ」と嫁が囁く。
「俺もこんなに良い嫁さんと一緒になれて幸せだなぁ…でも,ここの公園で昔家族でやったみたいに今度は2人でできたらもっと楽しかっただろうに」と呟くと嫁が「何かできなくなったの?」と訊いてきたので「ここ、お濠の対岸の建物の夜景が水面越しに輝くだろ?それを見ながら昔は線香花火ができたんだけど今は禁止になったんだよ。中2の夏休みにここで家族で手持ち花火やってたのが懐かしい。でも,もうできねえんだよなぁ」と返す。
「この公園,昼間は観光客多そう」と言って嫁が呟くので「観光客は多いぞ。特に春先は桜が綺麗なんだ。そこの新見附橋から両側に咲き誇る満開の桜と電車がセットで写る写真で有名だね」と返すともう飯田橋の西口駅舎が見えてきた。
光輝く現代的な駅舎はさながら八重洲のようだ。

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Trans Far East Travelogue60

信濃町〜四谷間には,高架やかつての城の外濠を埋め立てた場所に敷かれた線路の上を走る中央・総武線にしては珍しく本格的に掘られたトンネルがあり、その先の情景は東西どちらの方面の風景であっても、俺にとってみればとあるアイドルグループが歌った今はなき新幹線の名前を冠した楽曲の歌詞と重なる部分がある。
しかも,嫁と2人でこの区間を通るなら尚更歌詞の描写と情景が重なる部分は多くなる。
そのことを知っている俺は、電車が信濃町のホームを出る寸前にイヤホンを取り出してスマホを操作し,再生の準備をした。
すると,案の定嫁が私も聞きたいと言わんばかりに指で背中を突いてきたので背の低い嫁と顔の高さを合わせ進行方向左側を見る状態でイヤホンの片方を差し出し、嫁が装着したタイミングで曲を流す。
そしたら、前奏が流れ終わるタイミングで件のトンネルを抜けたので,見事にドンピシャで出だしの「最後のトンネルを抜ければ近付く美しいあの街」という部分が流れてきたのだが、この後の1番の歌詞が嫁に向けたメッセージを代弁しているので続きを聴いた嫁がこの辺りの高層建築物の屋上にあるネオンランプの如く顔を真っ赤にしている。
それもそのはずで、その先の歌詞は「希望が住むと信じて来た私が生まれ育った全てを知って欲しい。一番大切な人を連れて帰ること出逢ったあの夜約束した。未来はいつも思ったよりも優しくて風景が不意に馴染んでくる。夢が叶うとその想いが溢れ出して瞳から伝えたくなる。貴女と一緒に歩きたい」というものだ。
乗っている号車が悪くホームの中でも新宿通りの橋の真下で停車した関係で肝心の美しいあの街は見えなかったが、意外とすぐに発車した為その美しい街並みが見えて来た。
見方によっては嫁にそっぽを向くような格好になっているのに敢えて俺が進行方向の左を向いた意図が漸く嫁に伝わった。
東京の郷土史に詳しい一部の界隈では小学生でも知っているくらい基本的な常識と言えることなのだが,この中央線の路線の四ツ谷〜飯田橋間は外濠の一部を埋め立てた場所に敷設された線路を走っているのおり、このお堀を境に北、つまり今のこの電車から見た進行方向左側は我が街新宿区、右は宮城のある千代田区という具合に分かれている。
そしてすぐ窓の外やや後ろに靖国通りと外堀通りの分岐点と防衛省のアンテナ塔が見えたので目的地・市ヶ谷の駅に到着だ。

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Trans Far East Travelogue59

山手線で2番目に古い西日暮里,撮り鉄必見の車両基地最寄りの田端,ソメイヨシノ発祥の地駒込,とげ抜き地蔵や「お婆ちゃんの原宿」の異名を持つ巣鴨,荒川線は乗り換えの大塚を過ぎていよいよ池袋に着いた。
嫁が袖をクイっと引っ張って上目遣いになりながら「確か,池袋って『東西武で西東武』って呼ばれてたよね?でも,アレってなんでなの?」と訊いてきたので「東武の東上線は元々東京と上州,つまり群馬県を結ぶ前提で作られたんだ。でも,群馬県方面に行くなら方向は北西が便利だから西側,途中の埼玉県の区間で計画が立ち消え,その後その路線の鉄道会社が東武鉄道と合併して消え、一方の武蔵野鉄道は起点駅を需要が高そうな市街地のある巣鴨にするつもりが頓挫して何も無い池袋に駅を設置することになった。そしたら,路線の方向的に東口に線路を敷いた方が良くてそのまま線路を敷いたらその後運営してた会社が西武鉄道と合併して結果的に東口に西武が来て西が東武になっただけのことさ」と説明すると「やっぱり,東京って複雑やね。分からないことだらけや」と言って嫁が笑うので「まぁ,難しいよなぁ…地元の俺でもたまに分かんなくなることあっから」と返して深呼吸する。
そして一言,「楽しい時間ってのはあっという間だな」と呟く。
それもそのはずで,もう地元で5本の指に入る目抜き通りの一つ,大久保通りを跨ぐ橋を渡り,左には新大久保のコリアタウンが見えている。
更に2本ある大通りをそれぞれ跨ぐ橋を渡る度に幼い日の思い出がハッキリと浮かび上がり、新宿駅に着いた瞬間地元に帰って来た実感が湧いてホッとして「兎追いしかの山小鮒釣りしかの川」と口ずさむと嫁も何か察したのか「帰ってきたね」と言ってくれた。
それに俺も反応して「そうさ。愛しのふるさと,新宿区の玄関口にやっと帰って来たんだ。」
それからは中央・総武線に乗り換えて地元,市ヶ谷を目指す。
幼少期や高校1年の頃によく電車を見に来た踏切の最寄駅の代々木,夏休みによく利用したプールのあるアリーナ併設の元五輪会場・東京体育館のある千駄ヶ谷,生まれて初めて自転車に乗り、その後もよくサイクリングで訪れた神宮外苑の最寄駅の一つであり実家の近くを貫く通りと交差する場所でもある信濃町まで来た。
もうあと5分ほどでこの鉄道旅も終了だ。

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Trans Far East Travelogue58

南千住,三河島と来てついに日暮里に着いた。
「ここ,降り立ったのは何年振りだっけなぁ」そう呟くと嫁が目を丸くして「えっ?東京23区の人でもそんなに長いこと来てないの?」と訊いて来た。
「そうなんだよなぁ…幼い頃はそこの出口横のファミレスで母さんと昼食べながら京成や常磐・東北線の電車,それから神田の先あたりから伸びてる新幹線の地下区間が終わって地上に出てくる場面も見えるから連れて来て貰ってたけど,小2くらいから来ることは無かったね。まぁ,海外行く時にスカイライナーで通ったことはその後も何度かあるけど」と返すと嫁は「でも,どこへでも簡単に行って思い出作れるから東京23区の人って羨ましい」と言ったので「でもまぁ,東京って山手線の駅と私鉄のターミナルが繋がってて,その私鉄もほとんどが地下鉄と直通してるから最寄りの地下鉄や山手線の駅の立地によって特定の方向にある場所や路線に行く機会が必然的に増えるんだ。俺の場合は大江戸線と新宿線が最寄りだから上野が近いので京成スカイライナーで一気に成田空港へ、新宿も近いから多摩・横浜・湘南・箱根方面にも結構行く。また三田線に乗り換えれば羽田空港にも気軽に行けるよ。でも,浅草に出るのは言う程便利ではないし新宿発の特急も少ないから日光は行ったことない」と返すと「だから,都内でも一部地域は空白で子供の頃は行ったけどけどそれ以来は行ってない場所もあるってこと?」と嫁が訊いてきたので「正解さ」と答えて入線して来た『走るレンジ』ことE235系に乗り込み、内回りで世界一の大ターミナル・新宿を目指すことにした。
いつぞやの阿波踊りの日以来となる夜の山手線から青春の音がする。

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Trans Far East Travelogue57

紬の和服で有名な結城、交通の要衝・下館を過ぎると乗り換え駅の友部が近付いてくるが、途中単線区間のため行き違いの電車が遅れている影響でこちらも友部に5分遅れで到着した。
特急券を購入し,上りホームにやって来た勝田発の特急ときわ80号品川行きに乗り込む。
「暗くて何も見えんね」という嫁の一言に「昼間なら,綺麗な景色が見えんだけどな…実はこの区間ってのどかな田園風景の中に映る四季折々の姿が綺麗だからクセになるんだ。」と言って過去の大回りの車窓の写真を見せると「関東って滅多に来る機会ないけど、何度も来ればここまで綺麗な風景見れるのね」と返す嫁に呆れながらも「まぁ、大回りの制度を利用して四季折々の景色を堪能できるのは事実上近畿と関東しかないけど,こんな綺麗な風景は関東出身のイケメン男子に与えられた特権ってヤツかな。でもまあ,いつぞやの大災害の後に家族でとった行動が原因で地元じゃ村八分みたいになったから,それ以前から付き合いのあった相手か俺の過去を知らない人以外友達がいなかったし、まともな恋愛もしたことなくて,鉄道が幼馴染であり恋人であり,相思相愛の仲みたいなもんだがな」と言って笑うと「私は?」と寂しげに呟く嫁に「前世からの縁なんだから良いだろ」と返すと嫁は無言のまま頬をすり寄せてくる。
窓の外を見ると歩き慣れた我孫子駅のホームが見えている。「そろそろ降りないといけないから支度するぞ?続きは家でやろうな」と言って嫁を納得させて柏で下車してすぐに来た快速上野行きに乗り換える。
松戸を過ぎると江戸川を渡って東京都に入り、そこから先は中川、荒川と渡って北千住の3番線ホームに滑り込む。
10代になって初めて知った後に虜になり,青春の象徴となっている思い出の駅メロと言っても過言では無い常磐3-1番は国鉄車両の代から始まって平成を越えて令和の今もなお走り続ける北関東のエーススプリンター,E531系一強の代になった今でも鉄道ファンを喜ばせる下町の象徴となって鳴り続けている。

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Trans Far East Travelogue56

小山の駅に着いてドアが開いたら、俺が嫁の前に出てコンコースに繋がる階段を駆け上がる。
なぜなら、大回りでは基本的にお世話になる駅であり俺は両毛線前橋方面、宇都宮線大宮方面,水戸線友部方面と大回りで行くことのできる全方向に向かうルートで利用したことがあるため、必然的に駅構内の構造は分かっているためだ。
俺は栃木名物レモン牛乳の中毒性を知っているため,何を血迷ったか売り場にある分はパックの大小を問わず全て買い占めることにした。
金額は見事に5桁を突破したが嫁と割り勘にしたことでなんとか特急券代は2人分確保できたので水戸線勝田行きに乗り換える。
お馴染みE531系の運用で,帰宅ラッシュになりそうなタイミングでボックスシートが1区画だけ空いていたのでそこに座って友部まで乗ることにした。
九州では栃木名物は中々売られていないため馴染みがないのか,嫁は「これ,本当においしいの?」と疑っていたが,一口飲んだ瞬間「どこか懐かしい味がするんだけど。どうしよう,いくらでも飲めるよ」と言ってかつての俺と同様すぐにレモン牛乳の虜になってしまい,それを見て自然と出てきた「飲み過ぎじゃねえのか?やべえよ」という俺の独り言に反応してストローから口を離して「私,そんな食い意地張ってないもん」と言い頬を膨らませているが,まだ電車は最初の停車駅に着いていないのにもう大きなパックが三つ分空になっているので説得力が無い。
何を隠そう,これはかつてセブで俺の送別会をやってもらっている時に日本で同じ時間に行われていた試合でとある控え選手が順位が上で試合で中々勝てない苦手チームを相手に延長10回にサヨナラホームランを打ってくれたことに興奮して一気に酒を飲みまくった時よりもこの嫁のレモン牛乳大飲みの方がハイペースなのに気付いて「おいおい…これ,セブの時の俺よりペース早いぞ」と言って苦笑いを浮かべると「どうしたの?なんでそんなに驚いてるの?」と嫁が訊いてくるので「流石の俺でもそんなにハイペースでは飲めないよ。というか、1分で300ミリって頭おかしいでしょwまだ発車してから五分も経ってないのに500ミリパック3つも空けるのは流石に凄いよ」と言って笑ってると
漸く最初の停車駅,小田林に着いた。
「俺の分、残ってるといいなぁ」という悲壮感漂うつぶやきを乗せたローカル線の電車は夕暮れの茨城県を駆け抜ける。

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Trans Far East Travelogue55

倉賀野で待つことおよそ1時間,湘南新宿ライン東海道線直通の特別快速小田原行きが入線して来た。
手元の腕時計を見ながら思わず「定刻の30分遅れか…まぁなんとかなるかなぁ」と呟きながら乗り込むと嫁が「まさか、これで直接帰るわけじゃないでしょう?」と言って確認を取るので「そうだね。大宮までは行くつまりだよ。でも、大宮での接続次第だけどね。下手すると湘南新宿ラインか埼京線で直帰かもしれないし、小山に出れても友部から特急で帰らないといけなくなるかもしれないね」と返す。
そしたら、嫁が「友部から特急だと、どこで降りるの?」と訊いてきたので「時間とルート的に、柏しか選択肢は無いね。そしたら、2分の1の確率で3-1聴けるからいいかなぁ…でも、そうなると後は日暮里の接続次第さ」と答える。
それから暫くはお互いの思い出話をすることになり、気付いたら深谷、熊谷、鴻巣といった埼玉の県北有数の街を過ぎてかつて社会問題と化したかの悪名高き順法闘争で有名になってしまった上尾の駅も出て次の停車駅は大宮となった。
「アプリの列車走行位置によると、宇都宮線も遅延してて今赤羽〜浦和間を走ってるみたいよ」と嫁が言ったので「なら、大宮で乗り換えられるけど、問題は小山だな」と返す。
籠原での増結や運転間隔の関係で運転見合わせ区間に先行列車が1本も無かったおかげで30分あった遅れは10分遅れまで回復し,大宮に着いた。
それから約2分の乗り換えで5分遅れの宇都宮線快速小金井行きに乗り込み,小山を目指す。
東武伊勢崎線が隣に見える久喜、栗橋を過ぎて左側に東北新幹線の高架が見えてきたら、まもなく栃木県有数の大ターミナル,小山に到着だ。

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Trans Far East Travelogue54

例のデュッセルドルフの映像を2人で見て談笑していると、俺達の乗る気動車は荒川,神流川,烏川と比較的大きな川をいくつも渡ってついに群馬県有数の大都会,高崎市の玄関口である倉賀野に着いた。
ところがなんと、両毛線が運転を見合わせているとの情報が入ったためこの倉賀野で降りることになった。
しかも、運の悪いことに究極乗ることになった高崎線上り大宮方面は遅延していて、少なくともあと30分は列車が来ないとのことだ。
仕方ないので、先程映像を送りつけて来た幼馴染に電話をかけることにして、彼のヨーロッパ周遊について気になってたことを質問することにした。
「久しぶりだな。一つ訊きたいことがあるんだが、時間大丈夫そうか?」そう彼に尋ねると「別に構わないよ。」と返って来たのでさっそく本題に入る。
「あの行程だと、最後はスイスのチューリヒ国際空港で旅が終わってるんだけど、どうやってそこからデュッセルドルフ行ったんだ?」と訊くと「な〜んだ。そのこと?ヒントは、歴史に残る出来事の聖地経由だよ」と返ってきたので「ダッハウからボンに出て、そこからライン川下ってデュッセルドルフかな?」と問いかけると「違うよ。空路でロンドンにまず戻ったんだ」と返ってきた。
そして、一つの答えが導き出された。
「まさか,ロンドンシティー空港からエディンバラ経由じゃないよな?」と訊くと「すごいな。その通りだよ。しかも、BA。でも、どうして分かったの?もしかして、あのニュース君も見てたの?」と返ってきた。
「アレだろ?航空会社がフライトプランの作成を民間に委託したは良いが、その会社の人がうっかりしてて、前日夜の最終便のフライトが翌日の朝の便だと勘違いしてスコットランドのエディンバラ行きにしてて,本来はドイツのデュッセルドルフに行くはずがクルーもそのミスに気付かず、スコットランドに着いてから初めて乗客にデュッセルドルフ行きではないかと指摘され、挙げ句の果てには、乗客に『エディンバラではなく,デュッセルドルフへ行く人は手をあげてください』と声をかけたら乗客全員が挙手したから急遽燃料積み直してドイツへ行ったっていう漫画みたいな実話だろ?」と笑いながら言うと向こうも笑いながら「そうそう!ほんと、思い出しただけで笑っちゃうよね。」と言うので2人電話越しに笑い合う。
そろそろ高崎線の電車も来る筈だ。

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Trans Far East Travelogue53

件の映像を見せると、嫁が「これって本当にドイツの映像なのよね?映像に映り込んでしまってる現地の人があげている歓声は英語に似ているけど英語じゃない他の言語なんだけど、背景の花火は日本のものそのままで合成っぽいんだけど…特に、スタートのヒューって音,海外の花火では鳴らないイメージなんだけど…でも、何か変ね。もし本当ならどうしてドイツで日本の花火が上がってるの?」と訊いてきたので「それは、世界的に見ても有名な日本人街のあるDüsseldorf (デュッセルドルフ)で行われているJapan Tag(ヤーパンターク)だね。
名前の意味は『日本の日』で、日本とドイツの文化交流で大きな役割を果たしているお祭りで,その中でも1番人気がこの花火なんだ。俺達はすぐ船で海外行くし,向こうに着いたら日本は夏で花火シーズンだけど現地のを見るには早すぎて見らんないはずだから今年は花火諦めてたんだけど、まさかこれが数時間前にあったとはな」と返すと嫁が「花火っていつ見ても綺麗やね」と言っているので「普通に見れば綺麗かもしれないけど…俺からすれば愛しの嫁の方がもっと綺麗だから、ドイツにいる人には申し訳ないけどこの花火の魅力、俺にはわかんないや」と正直にコメントする。
そしたら、嫁が照れ隠しのためかアッパーで俺を小突いてきた。
かつては女性や老人もいるこの街に容赦なく降り注いだ炎の花は,平和の証として敵味方の区別なく,またかつての同盟国であり技術や文化も共有しあった国とは2度と途絶えることのない友好の証として年に一度、その姿を見せて今も世界中を虜にしている。
そして、その花火を見ている若者2人を乗せた気動車は,武蔵野台地を駆け抜ける。