少年少女色彩都市
「…最悪」
設楽叶絵(したらかなえ)は呟いた。彼女の住む彩市(いろどりし)は地方都市でありながら、芸術に富んでいることで世界でも有名な都市だった。しかし、それも昔の話。今は、『エベルソル』という怪物が、暴れてはこの都市から芸術を奪っていく。叶絵を容赦なく叩き起こした轟音は、エベルソルが暴れて出している音だ。
「どうしよう…」
エベルソルというのは、芸術という概念を壊すだけではなく、建物も壊すらしい。幸い叶絵と妹の湖恵(うみえ)は被害を受けたことはない。叶絵が震える手でカーテンを開けると、凄い勢いで何かが叶絵の部屋の窓に向かってきているのが目に入った。
「きゃあっ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげて仰け反った叶絵の目の前で、薄紫色のふわふわした豪華な装飾付きのワンピースを身に付けた少女が窓を割って入ってきた。
「ああっ、もう!!」
少女は舌打ちをして、ポケットからガラスペンを取り出した。小さくひびが入ってしまっているのを見て、少女はもう一度舌打ちすると、ようやく叶絵に気付いたようだった。
「…あ、ごめんね?」
「あっ…あなた…誰ですかぁ!!」