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『愛憎劇の幕、その名はカーテン。』#1

 空いている窓から風が吹き抜ける。カーテンが揺れた。窓の外は快晴、奥に広がるは昼下がりの森林。どこからともなく狼の遠吠えのようなものが、風に運ばれてくるようでさえあった。
 扉を軽く叩く音がする。
「失礼いたします。お茶を持って参りました。少し、休憩なさってはいかがですか」
 メイドである。
「そうしよう」
 ほっと息をつき、応えたのは王。名を、ライオネルという。
 香るは果実、透き通った赤い色が、白い陶器に注がれた。
「今日はローズヒップか」
「はい」
 そう微笑むメイドの手は、心なしか震えて見えた。
 ライオネルは、眉を顰める。
「……具合が悪いのか?給仕などいい。休め」
再びカーテンが揺れた。椅子から立ち上がりかけたライオネルは、これ以上ないというほど、顔を顰めた。
「……お前は何をしている、リアム」
「何って、それはこっちのセリフだよ、おうさま」
 注ぎ終えたカップを持つメイドの手は、完全に震えていた。カップの中に生まれていく波紋が痛々しい。
 リアムと呼ばれた青年は、どこから現れたのかメイドの背後に立ち、メイドの喉元にナイフをあてがっている。
「キミ、何してるの?」
「お、お茶を……」
震えた声で応えるメイドに、リアムは口角を上げた。ぞっとするほど優しい微笑みだった。
「へぇ……苦しみながらそのお茶飲むのと、一瞬で喉かっ裂かれるの、どっちがいい?選ばせてあげるよ」

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とっても頭の軽いお話です。

「なんでこんなに散らかっているの!勝手に部屋に入られるのが嫌ならちゃんと掃除してよね!
……なにこれ…30点のテスト⁉どうしたらこんな点数が取れるの⁉どうしてこんなことになった⁉さすがにこれは言わなきゃ……せめて問1は答えようよ……問1.春は[    ]なんて、小学生だってわかるよ……むしろ何が合っていたの…」

「ただいまーおなかすいたー」
「おかえりなさい。おやつの前にそこに座って」
「? 何かした?」
「ベッドの下にあったあれは何ですか」
「んー……?(なんかあったっけ…?あ、昨日もらったラブレターかな。そういえば昨日読んで、広げたまんま寝ちゃったっけ。ベッドの下に落ちてたのかー)あーあれね」
「どうしてあんなことになったの……」
「え……おれがカッコいいからじゃん?」
「すごい開き直り方!!!先生が嫉妬して点数下げたってこと……?そんなことあるの……?」(ぶつぶつ)
「母さん?」
「……そうだとしてもよ…、問1くらいは答えてほしかったな……」
「問1?(1行目ってことか?なんて書いてあったっけ。『めっちゃかっこよくてまじあげぽよ~ってカンジ』……?)ああ、あげぽよ?」
「随分と現代的!むしろ書かなくてよかった!!!」

 問1.春は [ あげぽよ ] 。

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憧れと独白と傾聴とその先 #15

 私は少しだけ笑って、話を再開する。
「それからも私たちは、先輩と後輩だった。それ以上でもそれ以下でもない。色々思うことはあったと思うんだ、中学生だったしね。でも、今はもう覚えていないくらいには閉じ込めすぎていた」
 涼花は何も言わない。
「あれは、先輩が引退するときだったかな。私、泣いちゃったんだよね。涼花もよく知っていると思うけど、私はとても涙もろいから」
「そうですね、知っています。思い浮かびますよ、先輩が泣いているところ」
 優しく微笑むなあなんて、ふと思った。
「恥ずかしいなあ……そう、そのときにね、先輩が、腕を広げて、おいでって」
 そう、おいでって言ってくれた。
 涼花は目を見開いた。
「……先輩、腕に飛び込んだんですか……?」
 飛び込めたら、何か変わっていたのかな。今でもそう考えることがある。
 私はゆるく首を振った。
「できなかった。最後まで私は後輩だったし、先輩は先輩だった。私たちはずっと、先輩と後輩だった」
 飛び込めたなら、きっとそれは少女マンガだ。
「先輩に憧れていた。それは、憧憬であって思慕であって聖域だった。それをある人は恋というのかもしれないけれど」

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憧れと独白と傾聴とその先 #7

「そうそう、あれはありがたかったな。先生と交渉してくれたんだ。この子はうちに欲しいなんて、花いちもんめでもやらない限り、後にも先にもないと思う」
 懐かしいですねと返してくれる後輩に微笑む。
 そんな後輩は、なぜだか自信満々に、こんなことを聞いてきた。
「先輩、そのことについて同級生の方々から何も言われなかったでしょう?」
 突拍子のない質問に思わず固まる。
「うん……?まあ、そうね」
「先輩、1年生でソロやったって聞いたことありますよ。そっちの方面もできる子だったんですね」
「そんな情報どこから仕入れてくるの、何年も前の話じゃない。しかもそれは代打であって__」
「実力があったから何にも言われなかったんですよ。そうじゃなきゃ、先輩も依怙贔屓に見えるような引き抜きしません。頭良かったんですよね?その先輩」
 先輩を出すなんで、そんなのずるいじゃないか。
 仕方がないから苦笑する。
「でもね、何にも言われなかったわけじゃないよ。先輩からは比較的好かれていた方だとは思うけれど、一部の同級生が陰で何か言っていることは知っていたし。全員に好かれたいなんて思っていたわけじゃないけどさ、やっぱり、みんなに好かれることって難しいなとは思ったね。先輩より同級生のほうが一緒に過ごす時間は長いわけだし。ただ、そんなことがあっても嫌な思いをしなかったのは、友人にも恵まれていただけ」

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憧れと独白と傾聴とその先 #6

「まあ、こんな風に話しているけど、たくさん努力しての結果だっただろうからね。やっぱり今でもその先輩のことは尊敬している」
「先輩も同様ですよ」
 まったく、この子はこういう子だ。
「さっき、先輩に目をかけてもらえたって話したけど、別に依怙贔屓だったわけじゃない。厳しいことを言われたこともあるし、私のことで頭を悩ませてしまったこともある。でも、そういうことをしてもらえていたってことは、やっぱり目をかけてもらえていたのだと思うんだ」
 はい、と一言だけ相槌をうってくれた。ちゃんとわかっていますよ、そんな風に聞こえた。
 少しだけほっとした気持ちで続ける。
「部活では、その先輩と同じ楽器だった。本来であれば、私はその楽器じゃなかったかもしれないんだけどね」
「それはなぜ?」
「ありがたいことに、先生が直々に別の楽器やってくれないかってお願いに来たんだ」
「先輩、やっぱりできる子だったんですね」
「元々、ちょっと音楽かじってただけだよ。でも、私ははじめからずっとやりたい楽器決まっていたから、どうしても渋ってしまってね」
 察しのいい後輩は、目をきらりと光らせる。
「そこで、例の先輩の登場ですね」

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憧れと独白と傾聴とその先 #4

 やりたい楽器が決まっていた。そして、敬語がちゃんと使えた。関連性のないことのようだけれど、その二つのおかげで上手く流れに乗れたのだと思っている。
「中学生になると、なんだかいきなり上下関係みたいなものが生まれるじゃない?私は敬語が使えた。普段使わなかった子よりも自然に使えた。そして、可愛い後輩を演じるのが上手だったのかなって、今だから思う。もちろん、あの頃はそんな下心を持って先輩と関わっていたわけでは決してないのだけれど」
 目の前の後輩がくすくすと笑う。
「わかります。私もそういうタイプでした」
「そうだね、私も涼花のことは可愛い後輩だと思ってる」
 ありがとうございますと笑った。
「そう、それでね、私にはやりたい楽器があった。一貫していたんだよね。そのおかげで迷いもなかったし、意思表示がしっかりできた。そして、先輩に目をかけてもらえるようになったんだな」
 だからやはり、やりたい楽器が決まっていたことと、敬語が使えたことで、うまく流れに乗れたのだと思う。
 涼花の澄んだ目とぶつかる。
「部活において何の問題もなかったのは、その先輩の存在が大きかった、ということですか」

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